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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


あなたの恋人にしてください!


『あなたの恋人にしてください!』

 草間興信所宛にそんな手紙が舞い込むようになったのは最近の事だ。
 一体誰がそんな手紙を出しているのか分らないまま二週間。
「……しかしまあ、暇人もいたもんだな」
 コーヒーを片手に、男、草間武彦は呟く。
 その内容は昨今のストーカー問題もかくやという文だった。
 彼の朝起きた時間から始まってその眼鏡の奥の目が素敵だとかなんだとか。
 朝食べた食事から始まってコーヒーのおかわりの数。
 相当熱烈な文章だったが文には確かに彼の日常が書かれていた。
 それも相当正確にだ。
(監視されている? )
 ふいにそう思う。
 無論、彼だとてその手の手紙を書く輩と渡り合って来ている以上、ストーカーという行為や、その手の人間がどういう事をするかは知っている。
(理解はできないがな)。
 それが正直な感想だがメシの種である。
 できるだけ穏便な解決がいいのだが。
 今の所他人事の方が忙しく、自分の事にまで手が回らないのが現状だ。
(誰かに代わりに調べてもらおうかな)
 一旦は無視を決め込んだのだったが、重い腰を上げ、 一応、部屋に盗聴器やら何やらがつけていないことを確認したが、手紙の内容はかなり詳しく彼の生活を描写していて。
 段々とその内容がエスカレートするにつけ零も段々心配になってきたのか、その手紙を見せてもらって首をかしげた。

「どうしてこんなこと手紙に書くのかしら」

 と。
 そして、

『あなたと結婚したいんです!』

 が、

『あなたと明日結婚します』

 に変わる頃、草間武彦は犯人を捕まえることにした。
 犯人そのものはどうでもいい風だったが、やはり気味の悪さはあったからだった。


 今日は結婚当日という日である。
 もちろん、手紙の主にとっては、という事だが。

「で、これが今日届いた手紙だ」
 と、武彦は、今日来た手紙を机の上に置いた。
 その隣にはこれまで来た手紙も置いてある。
 今日の手紙は差出人もちゃんと書いてあった。
 今までの手紙に書いてあった住所と名前はずっと同じで、都内だった。確かに実在するマンションからであることは調べがついていた。
 そのマンションは空家になっていた。半年ほど前かららしい。そして、その住所に住んでいた人間とこの差し出し人の名前が同じである事は武彦が調べをつけた事だ。
 そして今回の手紙も同じ住所からだった。 
 零に言わせると、いままでの手紙には全く霊気のようなものは感じられないという。
 だが。
「今日の手紙には多少霊気があります」
 と、彼女は言った。
 でも微量です。とも付け加える。
 皿を洗い終わったシュラインが口を挟む。

「昨日までの手紙には零ちゃんが反応しないところを見ると、普通の人が作成して投函しているわけよね」
「はい」
「でも、今日のは少し違う、と」
「はい。何だか遠いところから反応が返っている感じです」

 武彦が今日の手紙の封をあけた。  
 相変わらず日常を知り過ぎた内容である。
 内部犯のいたずらにしたら手が込んでいるし、武彦にはこんな事をする知合いに心当たりは無かった。


 家事の手を止めたシュライン・エマと、たまたま遊びに来ていたカリュン・プロスペロは昨日までの手紙を覗き込む。
「『あなたと明日結婚します』・・・武彦。あたし結婚式の招待状貰ってないよ? 仲間外れにするなら呪かける準備とかも必要だから早めに言ってね。え? 誤解? ストーカー? 何だ。てっきり武彦があたしを捨てて他の女に走ったのかと思ったじゃない。で、相手は男性? 女性?」
 手紙のうちの一枚を見て騒ぐカリュンに訂正する零をよそに、武彦が軽く髪をかきあげて言う。
「ストーカーなら専門なんだが」
 と。
「自分の事となるとな、見落としがあるかも知れないからな。よろしく頼む」
 と。
 無理矢理と言った方がいいだろう、武彦が呼び出した蒼王翼に向けてそう挨拶する。朝から呼び出されているのだ。
「僕としては武彦の何処がそんなにいいのかものすごく理解に苦しむんだが・・・。まぁいいや。困ってるみたいだし協力させてもらうよ」
 と、わざわざ来てくれたらしい。
 マンションの事は半分は彼、いや彼女が調べた。
 翼は、美少年とまごうばかりの16歳の少女だ。
「私も協力します」
 シュライン・エマが言う。
 彼女も徹底的に調べたのだ。
 武彦の身の回りの世話を焼く一人として彼のあらゆる持ち物を調べて盗聴されたり盗撮されていないかも調べたがそれもなかった。
 


「でも本当の手紙の差出し人はもしかしたら……」
 蒼王はつぶやいて、首を振った。マンションの後の手がかりは彼女でも見つからなかったのだ。
 手紙の方も辿ってみた彼女は、事の真相が朧げに分かっていた。
 
「ふふ、あたしもう分かっちゃったもん」
 『目』の才を持つ魔女、カリュンはそう不敵に笑った。

 手紙には、熱烈な恋人への文で、いつものように彼の生活が書かれていた。

 そして手紙の末尾に、『今日は結婚式の日です。こちらがその会場の場所です』と書かれていた。

 
 武彦はその指定の場所を見てうーんと唸った。それは都内の墓地の名だったからだ。

「行ってみるか」
 

 かくして事務所に残った零以外の4人は、その場所に向かった。


 

 昼の日中に、4つの影が墓石に影を作る。
 墓石には、新しい花と一緒に草間武彦様と書かれた手紙が置いてあった。


「手紙だ」

 と。
 武彦が言い、その手紙に手を伸ばす。
 一緒に来た面子が頷く。
 翼が危険を確かめるために風を使ったようだ。
 彼女も頷く。
 危険はなさそうだと封をあけた。

『草間武彦様

 ここまで読んでくださってありがとうございました。
 私は見習いの占い師で、あなたには一度も会った事はありません。私は今、滅菌室の中でこれを書いています。
 この手紙があなたに届く半年前、後天性免疫不全症候群、つまりエイズだと診断された日、私は占い師の掟をやぶり、自分の事を、自分の寿命を占おうとしました。
 その時、私はあなたを間違って占って『見た』のです。
 私は直感であなたがただならぬ人だと思い、一目惚れをしました。それから夢中であなたの事を占いました。あなたの心に残りたいと思いました。それが占い師の、占い師としての恋です。同時に自分の寿命も知りました。あなたはとても人気があるから、まともにあなたに好きと言ったくらいではあなたの心に残ることはできない。と。私は思い知りました。
 あなたを占っている間中、私は自分の寿命について考えずに済みました。
 ありがとう。
 私の心残りは、私のこの手紙があなたには届かないという事です。だから私は身内への遺言として、あなたに手紙を送ってもらうことにしました。
 私のこの想いは、あなたの心に簡単には届かないと思ったからです。
 私は、自分の持てる力全てを出してでもあなたの心に残ろうと思いました。思えば莫迦な女だと自分でも思います。でも、それでも私は。私の気持ちに正直に書きました。
 長くなりましたが、私が占ったあなたの生活は殆どあたっていたと思います』

 確かにあたっていたと、武彦が呟く。

『もし、この手紙が私の指示通りにあなたに、渡っているなら、今、犯人を探していることだと思いますが、犯人は私の身内です。私としては私の夢をかなえる為にやってくれたことだから、もう探して欲しくはありません。だからお願いです。結婚するつもりはたぶんないでしょうけれど、探すのはもうやめてください。そして、さようなら。草間武彦さんとそこにいるみなさん。そしてありがとう。私はあなたが私を探す頃にはもうこの世にはいませんけれど。手紙を読んでくれてありがとうございました』

 武彦がその墓の名を見て、手紙の主の名と同じだと言う事に気付いて、しばらく唸った後。
 確かに自分の心には残ったと。武彦は呟いた。
 普通に知合っていたらどうだったろうかとも、彼は思ったが口には出さなかった。
 
「人騒がせね」

 と。シュラインが一言呟く。
 

 シュラインは、そして、やはり未来が見える人からの手紙だったのねと言い、カリュンもそうよね。と呟き、何ごとか起こるかも知れないと気を張っていた蒼王は、何はともあれ穏便には済んだと肩を竦めた。
 

 そして、

「結婚はできないが、花束くらいは買って持って来るよ」
 
 と、武彦は言ったのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2863/蒼王・翼(そうおう・つばさ)/女性/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【2863/カリュン・プロスペロ(かりゅん・ぷろすぺろ)/女性/999歳/大魔女 占い師】
公式NPC
【草間・武彦(くさま・たけひこ)/男性/30歳/草間興信所所長(私立探偵)】
【草間・零(くさま・れい)もしくは初期型霊鬼兵・零(しょきがたれいきへい・れい)/女性/57歳/大日本帝国軍決戦用心霊兵器・霊鬼兵】