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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【夏草の行路 -Walks to the Future-】


 1/

 私のクロノス時間は、とてつもなくゆっくりとした速度で流れている。
 それを認識するのは、決まって仕事をしている時だった。
 少し肌寒く感じるオフィスの中から汚れた窓の向こうに視線を向けると、規則的に並ぶビル郡の隙間を埋めるように白く濁った露の空が広がるのが見える。
 繊維のような細い雲が、空の隙間を縫うようにしてゆっくりと流れるさまを見ていると、この場所に在る私が酷く小さく単純な記号で構成されていることを思い知らされる。
 淡々と変化する世界の中に残留する、藤井・百合枝(ふじい・ゆりえ)という名前の記号。
 それは、世界という情報から比較すれば、原子に喩えられるほど小さくて短命な生命体ではあるが、その中には拳大ほどの大きな世界が存在している。
 意識と感情を内包したその世界は、未だに人類の英知を集約しても解明出来ない情報で満たされている。
 情報の支配を行う人格という主ですら理解することの出来ない、混沌とした小さな世界。
 それは外の世界、宇宙と呼ばれる記号のミニチュアであると比喩される。
 外の世界と中の世界。
 その二つの世界の間に挟まれた私は、世界からどんな風に映りどんな形をしているのだろうか。
「……はぁ」
 溜息を吐いて、思考を遮断する。
 デスクの上に置いた小さな時計は、後数分で一時を指そうとしていた。
「……はぁ」
 デスクチェアに体を預け、背中の筋を伸ばすように天井を見上げる。
 白い天井は、トップライトの逆光から淡いオレンジ色を含んでいた。
 いつもならば絶対に気になどしない天井の染みに目が泊まり、数秒それを凝視する。
「……はぁ」
 視線を外し三度目の溜息を吐くと、私は上体を戻してマウスへ手を掛けた。
 つまらないことで時間を潰し過ぎているなと自覚をして、再度時計に視線を向けた。
 時刻は、まだ一時を示してはいなかった。

 六月某日、場所は事務所件オフィスの一角。
 私は、専用にあてられた端末機の前で、昼休憩までの無駄な時間を淡々と過ごしていた。
 いつものこの時間ならば、ユーザーからの問い合わせや電話対応などに追われ昼食がとれないほどに忙しいのだが、月に一度か二度、まるでそれが嘘だったかのようにぶつりと仕事が途絶えてしまう時があった。
 要するに、突然暇になるということだ。
 普段がガムを噛む暇すらないほどに慌しい所為か、こんな日のように突然仕事がなくなってしまうと、手持ち無沙汰になりつまらないことを考えてしまう。
 それも決まって、人の起源や思考、認識される人のイメージなど抽象的なイメージばかりだ。
 私は詩的な思考を持ち合わせてはいないが、唐突にやってくる暇な瞬間が私をそうさせるのか、私は時々考を現実から遠くに切り離すことはあった。
 いつからそんなことを考えるようになったのかは、私にも思い出すことは出来ない。
 ただ、慌しく仕事をしていても、無駄な思考に意識を巡らせても、私の時間は何も変わらないということだけは確かな現実なのだと理解していた。
「藤井くん。藤井くん」
「あっ。あ、あぁ。……何か?」
 背後から聞こえた突然の声に、私の意識は一瞬にして現実へと引き戻された。
 間の悪い返事を返しながら、後ろへ振り返る。
 そこには、一つ上の先輩ににあたる男性スタッフが立っていた。
 彼は、だらしなく結んだネクタイの結び目を緩めながら、下がり気味の眉をさらに下げながら私に笑いかけた。
「時間も時間だから、休憩入っていいよ?」
「あっ。もうそんな時間ですか?」
 彼の言葉につられるように、デスクの上の時計へと視線を向ける。
 時刻は既に、一時を十五分ほど過ぎた頃だった。
 つまらない思考に救われたのか、私は暇になってしまった時間をどうにか潰すことが出来たらしい。
 ようやく訪れた休息の時間に、私の体は少しの食欲と多くの睡眠を欲しいと訴えていた。
「解りました。お昼頂きます」
 デスクチェアから立ち上がると、壁際に置かれたタイムスタンプのあるテーブルへと向かい、出勤表にチェックをする。
「あぁ、そうそう。思い出した。ゴーストネットの最新スレ、チェックした?」
 ロッカーへ向かおうとした私の背中に、彼の声が投げかけられた。
 私は訝しげな表情で振り返ると、彼の能天気な口調に対し大げさな溜息を吐いて返した。
「先輩。私はさっきまで仕事をしていたんです。最新のスレッドがチェック出来るはずないじゃありませんか」
 数秒のブランクの後、私の返答の意味が理解出来たのか、彼は大げさに手を打つと笑い声をあげた。
「あっはっは。そうだったごめんごめん。いや、また面白そうなネタが書かれてたんで、てっきり藤井くんもチェック済みなのかと思ってたよ」
 彼は自称オカルトオタクで、暇が出来ればゴーストネットOFFをチェックしていた。
 内容を観覧することも楽しいらしいが、何よりもその怪奇現象のメカニズム(あるいは種明かし)をディスカッションすることを趣味としていた。
 ある日、私もゴーストネットOFFを見ることがあるという話したことから、彼は私に(一方的な)同士意識を芽生えさせ、ことあるごとに私は彼に話題を振られるようになっていた。
 単純にスレッドの話題について話をする程度なら構わないのだが、彼のディスカッション(という名前の一方的な理論語り)に付き合わされると、的を射ない憶測や知識を延々と聞かされることになるのだ。
 話をする当人は気分は良いだろうが、付き合わされる私にとってはたまったものではない。
 私の短い休憩時間を、一方的な理論語りで潰されるわけにはいかない。
「いやぁ、凄いよ。今回も凄いよ。マジモンらしいからね」
 根拠のない言葉に思わず苦笑いを浮かべそうになる顔の筋肉を、寸でのところで堪えて押しとどめる。
 サイトの情報は信頼しているが、彼が言うと酷く安っぽく聞こえるところは彼の個性だと言うべき箇所だろうか。
「そうですね。私も読んでみます」
 私は引きつった作り笑いを彼に向けながら、愛想の無い相槌をうつことを心に決めた。

「あー。増えてる増えてる。やっぱり夏になると、こういうサイトのアクセス数はバカみたいに増えるなぁ」
 オフィスの応接室の一角に置かれた、スタッフ共用のノート端末を前に、私と彼は肩を並べるようにしてソファに座った。
 ブラウザにはもちろんゴーストネットOFFのページが開かれ、彼は水を得た魚のように生き生きと外付けマウスを動かしている。
 かくいう私はその隣で、ベーカリーショップで買ったトマトサンドを食べながらブラウザに表示されるスレッドの文字を眺めていた。
 浮幽霊、自縛霊、妖怪、呪い、都市伝説。
 二桁近いスレッドに目を通すが、どれも似たようなものばかりで興味を惹かれるものはない。
「どう? 面白そうなスレ立ってるだろ?」
 彼はまるで、自分のものを扱うかのような得意げな素振りでページを開いていく。
「えぇ、そうですね。」
 ペットボトルの紅茶に口をつけながら、私は素っ気ない相槌を返した。
 彼にとっては、これぐらいの話題で好奇心は満たされてしまうのだろう。
 画面は二ページ目を表示し、スレッドの文字がブラウザの上から下へと流れていく。
 私の思考は、会話を早く切り上げて一昨日買った映画のノベルスを読もうという方向に変わっていた。
「あぁ、そうそう。思い出した。この記事を、藤井くんに見せようと思っていたんだ」
 彼はそう言うと、一つのスレッドを大きく表示させた。
「あっ」
 その内容が目に止まった瞬間、私はペットボトルに口を付けたまま短く声をあげた。
「どう? 面白そうだろ?」
 隣に座る彼が、口の端を僅かに上げて不適な笑みを浮かべる。
 悔しいが、私の興味はスレッドの内容へと奪われ、休憩時間は内容の真意をディスカッションをすることに費やされてしまった。


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DATE:2004/06/XX AM 03:24
TITLE:さ迷う少女・・・?
NEME:真夏の幽霊観察者

 はじめまして。
 こちらのBBSには初めて書き込みをします。
 今回、少し前に私の従兄弟から聞いた奇妙な話について投稿させて頂きます。

 原発で有名なN県K郡のY村に、『Sヶ原渓谷鉄道』という単線の鉄道が存在しています。
 その鉄道は昭和四十年代に開通し、隣接する四つの村同士の交通の中心となっていましたが、どの村も過疎化が進んだことと相次いで国道が建設されたことが原因となり、今年の八月で廃線になることが決まりました。
 今では三時間に一本、上りと下り合わせて一日に四回のみの運行となっているらしいです。
 ここからが本題ですが、その鉄道には地元の人しか知らない『ある噂』が存在しているらしいです。
 その噂とは、『昼の十二時台の電車の二両目の一番後ろの席に座ると隣に制服を来た女の子の幽霊が座り、その姿が見えてしまうと死んでしまう』というものらしいのです。
 ですが従兄弟の話では、不思議なことにその鉄道には『十二時台の電車がなく』『電車に二両目がない』という話なんです。
 補足すると、一時台の電車はあるらしいのですが、十二時の時間帯に駅に入る(これは、線路上の全ての駅という意味で)電車はないらしいのです。
 車両も運転手のいる一両目だけで、二両目が連結されることはないとの話らしいんです。
 それでも、地元の人には凄く有名な話らしく、その路線の駅員ですらその話を知っているらしいのです。
 実際、何度かオカルト系の雑誌の記者も取材に訪れ、テレビの取材も訪れ、一時期は幽霊を見るために観光客が村へと訪れたのだといいます。
 私もその話を聞いた後に、インターネットを使って色々と調べましたが、それらしい話を見つけることが出来ませんでした。
 信じてもらえないかもしれませんが、どなたか真実を確かめに行って頂けないでしょうか?
 他力本願だとは承知していますが、どうぞよろしくお願いします。

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 私はそれをイメージする。
 初夏。小さな鉄道のプラットホームの隅に現れる不可視の少女の姿。
 少女は同じく不可視の車両に乗り込みどこかへと旅立つ。
 私はその少女をプラットホームから見送っている。
 その場所に残留した『イメージ』が、私の網膜の中に陽炎のような形を作り出しているのだ。
 記号、情景、言語、色彩、光彩、イメージ。
 私の目は、残された『視ることの出来ないもの』を映し出すことが出来る。
 それが、私の目に映るもう一つの『人の姿』だった。

 そして、私はそれを思考する。
 もしも『少女』が本当に『在った』としたら、なぜ少女はその場所に留まり続けているのだろう、と。
 後悔や無念、強い思いをこの世界に残して死んでしまった者達が、肉体という器を失い『幽霊』と呼ばれる記号に変化する。
 それは、進化することも退化することも出来ない、輪廻の輪から外れてしまった、弱く曖昧な存在。
 私がその少女を見つけ、その輪に還してあげることが出来るとしたら。
(……はぁ)
 内心溜息を吐き思考を振り払う。
 それではまるで、自分のエゴを満たすために少女を探すようなものではないかと、己を戒める。
 だが、そこには真実も現実も存在しない。
 あるのは、脚色されて風化していく記憶だけ。
 その少女が、そんな記憶と共に在り続けることになるのだとしたら。
 もしも、その真実に少しでも近づくことが出来るとしたら。
(そうね。余計な考えなんて必要ないわ)
 倫理を気取る便宜なんてものは必要ない。
 ただ私は真実を知りたい。
 そこに在るありのままの現実を。
 それだけで構わない。
 私は顔を上げた。
 オフィスの窓から空を見上げる。
 雨の気配が近いのか、ビルの隙間は映画館のスクリーンのような薄い砂色の空で埋められていた。
 視線を戻すと隣に座る彼は、まだ何かを喋り続けている。
 結局、私はこの男の罠にはまってしまったことに今更ながら気付いた。


 2/

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DATE:2004/06/XX PM 22:14
TITLE:初めまして
NEME:lily

 真夏の幽霊観察者さん初めまして。私はlilyといいます。
 幽霊といえば夏や夜といったイメージを連想しますが、真昼の幽霊というものに驚きながらもとても興味を惹かれ、リプライさせて頂きました。

 確かに、過去に雑誌やテレビで鉄道の話題が取り上げられたことはあるようですね(検索やサーチェンジを探したところ、数件のHPがヒットしました)。
 数年前(少なくとも三年以上前)のオカルトブームにより出版された書籍にも、内容は掲載されているとあったので(その全てが絶版になっているため、現在の入手はオークションか古書店以外での入手は不可能とのこと。書籍の内容は、ある都市伝説系のサイトで見つけました)、情報自体の認知度は若干はあるように思われました。
 情報の殆どは、真夏の幽霊観察者さんの記事と似たものばかりでしたが、異なった情報も見つけましたので箇条書きにして記載します。
(情報のソースを掲載出来れば良かったのですが、内容の無断転写が行えないために、私個人の解釈を交えて記載します)

 1:ある県の単線鉄道に女の子の幽霊が出るらしい。
 2:その幽霊が現れる時間帯は、なぜか昼。
 3:それは昔に自殺(事故死との説もあり)した女の子の幽霊らしい。
 4:女の子は、列車の中で見ることが出来るらしい(何両目の車両か、という話は見つけることが出来ませんでした)。
 5:その女の子の幽霊を見ると、あの世に連れて行かれるらしい(掲載していたサイトは一ヶ所のみ)。

 どうやら、その女の子の幽霊には『線路で自殺(あるいは事故死)をしたらしい』という噂と『昼間の車両の中に現れる』という二つの大きな噂があるようです(メディアで扱われた内容も、そのどちらかが含まれているようでしたので)。

 明日、その鉄道の走るY村まで足を運んでみようかと思います。
 真相を確かめる…というのは少し大げさかもしれませんが、地元の方に話を伺おうかと思っています。
 明日の夜にはレポート出来るかと思います。

 N県K郡といえば、小さな温泉がいくつもあると聞いたので、プチ温泉ツアーもかねてみようかと思っています(^^v)。

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 翌日は、前日の曇り空を忘れさせるほどの鮮やかなスカイブルーが空に広がっていた。
 新幹線と単線鉄道を乗り継ぎ二時間弱。
 太陽が真上へと差しかかった頃、私はK郡T町のU駅に降り立っていた。
 ここから路線バスを使い、Sヶ原渓谷鉄道で一番大きな『Y駅』へと向かう。
 直線距離にして、約十キロ弱。
 山間の道を抜けるために、実際の距離はもっと遠くに感じるだろう。
 駅からSヶ原渓谷鉄道へは、徒歩、自家用車、タクシー、路線バスというアクセス方法があるらしい。
 路線バスだと一時間弱ほどの時間がかかるため、今回はタクシーを使うことを決めた。
 駅員に渓谷鉄道のダイヤを尋ねると、今から三時間の一時四十三分着で、上りの電車が駅に入ると教えてくれた。
 Y駅の近くには飲食店もコンビニもないとの話から、私はU駅の近くの定食屋で軽い食事をとった。
 駅前に戻りタクシーを探そうとすると、意外にも直ぐに渓谷鉄道行きを了承してくれるタクシーを捕まえることが出来た。
 私と話をした駅員が、気を利かせてタクシーを停留させておいてくれたらしい。
 私は駅員とタクシーの運転手に軽く挨拶をすると、車内へと乗り込み直ぐにY駅へと向かった。
 窓の向こうを流れる近代的に見える田舎の風景が、心を和ませてくれる。
 電車の到着まで、まだ二時間以上ある。
 少し変わってはいるが、私は調査の前の短いタクシーの旅を楽しむことにした。

「お客さん珍しいですね。この時期に『渓鉄』に行くなんて。ジオラマか列車好きの方ですか」
「いいえ、雑誌の取材で少し。……あの、失礼ですが渓鉄って?」
「あぁ、すみません。Sヶ原渓谷鉄道のことですよ。地元の人間は名前を言うのを面倒臭がって、渓鉄なんて略してるんですがね。……あぁ、雑誌の人なんですね。こんな田舎にようこそいらっしゃいました。何もない場所ですけど、ゆっくりしていって下さいな」
 発車して直ぐ、私は五十台前半ほどの気さくな運転手に話しかけられた。
 驚くことに、私が言った『雑誌の取材』という肩書きを、運転手はあっさりと信じてくれた。
 話を聞いてみると、数年前は取材の名目で渓谷鉄道へ向かう者も多く、珍しいものでもなかったのだという。
 数年前といえば、丁度オカルトブームから雑誌やテレビ番組が製作された時期と符合する。
 その時期から遡った話を聞けば、噂がどんな風に変化したのかがわかるだろう。
「あの、良ければ当時の話を教えて頂けませんか?」
 肩書きを誤魔化すことは忍びないとも思ったが、話を聞きだすのには充分だと思い、私はその嘘をつき通すことを決めた。

「じゃぁ、もうご存知かもしれませんがね。渓鉄が夏で廃線になるって話、聞きました?」
「えぇ、伺っています。今回は、それも含めて取材をさせて頂こうと思って……」
「あぁ、そうでしたか。いやぁね、あそこは今まで何度も廃線になるって噂があって、地元の人間を慌てさせたもんなんですよ。もう、十五年ぐらい前からでしょうかねぇ。
 まぁ、今回はデマなんじゃないかって、地元の人間が疑っていましたけど、まさか今回はドンピシャだったなんてねぇ……」
「地元の方が?」
「あぁ、そうです。国道も県道も出来て、まぁ……何度も開拓事業やら合併統合やらって話も持ち上がったりして。その度に地元の人間がお偉いさんのリコールやら要求取り下げやらで躍起になってましたからねぇ。一応、渓鉄は地元の人間の重要な足になってましたから。後は、働いてる職員の問題もあるでしょう? 初めは上に噛み付いてた住民も、高齢化と再三の噂に疲れたのか、最近じゃ『またか』とサジを投げるようになりましたから。実際、何度かデマに踊らされたってのもありますしねぇ……」
「デマに踊らされた?」
 運転手はそこで一度言葉を切ると、空調のボタンを押した。
 少し蒸しはじめた車内に、人工的な冷たさが漂いはじめる。
 無意識のうちに首筋に触れると、少し汗が滲んでいた。
「えぇ、まぁ。ハッキリ言うと、おたくら『取材の人』が原因だったんですけどね。まぁ、当時の話なんで何かを言うつもりはありませんが」
 その瞬間、私は取材と明言したことが浅はかだったのではないかと酷く後悔した。
 だが、運転手は直ぐに人の良さそうな笑みを作ると、私に向けて言葉を続けた。
「少し長くなりますが、良ければお話しますよ。あれはそう、もう三年ほど前のことになりますけどね……」


 3/

 運転手にお礼を言い車内から出ると、焼けた古いアスファルトの熱気が肌に蒸し暑さを与えた。
 視線を上げると、薄い雲の切れ間から夏を思わせる太陽の光が地上に降り注いでいる。
 梅雨が終わったのか、それとも置き去りにされて忘れられたのかと思うほどに、空からは雨の気配が感じられない。
 タクシーでやってきた道を振り返ると、一本の道を挟んだ両側一面に農園や田んぼといった穏やかな風景が広がっている。
 僅かな草の香りが沈殿した大気と共に漂い、不思議と懐かしさを思い出させてくれる。
「今日は快晴……かな?」
 日差しを手で遮りながら空を見上げる。
 急な雨を見越して折りたたみの傘を持って来たのだが、それも無駄になってしまったようだ。
 雨傘よりも日傘を持って来れば良かったと溜息をくと、私は駅へと向けて照り返すアスファルトの上を歩き出した。

 深い緑が生い茂る山を背にして、小さなその駅は存在した。
 木で作られた尖った屋根の外観は、日本映画にでも現れそうなノスタルジックな雰囲気を漂わせている。
 屋根の近くには、風化しかけた白い看板にY駅の名前が毛筆の書体で書かれていた。
 改札と思える入り口から中を覗くと、プラットホームの向こうに線路らしき直線的な二本の先が見える。
 その線路の向こうには隔たりらしきものはなく、いくつもの木々が風に煽られて枝を揺らしていた。
「おや。こんにちは」
 突然声をかけられ、私は一瞬肩を強張らせた。
 声の聞こえた方を覗くと、丁度駅員室から駅員が顔を出す所だった。
 駅員は六十台前後の小柄な男性で、髪や髭に少し白髪の混じった強面の風貌をしている。
 色の黒い肌がそう見えさせるのか、一見すると寡黙そうな雰囲気にも見えた。
「こんにちは。この駅の方ですか?」
「えぇそうです。おたくさんは……あぁ、旅行の方ですな? 次の電車までまだ時間がありますんで、良かったらお茶でもいかがです? 外は暑かったでしょう?」
 顔をくしゃくしゃにして笑みを作る駅員に、私は一瞬驚いた表情を向けた。
 外見のイメージとは異なり、とても優しそうな言葉と声をしていたからだ。
「あっ。いえ、私はSヶ原渓谷鉄道の取材に来ました。もし良ければ、お話を聞かせて頂きたいのですが……」
 私は言葉を返しながらも、駅員のギャップにあからさまな反応をしたのではないかと、内心では少し気まずい思いをしていた。
 だが、駅員は私の反応など気にも留めていないのか、笑みを見せたまま建物の中に手招きをすると言葉を告げた。
「あぁ、そうでしたか。えぇ、どうぞどうぞ。こんな年寄りの話で良ければ」
「すみません、突然こんなお願いをしてしまって。本当にありがとうございます」
 優しい駅員の言葉に、私はあまりの気恥ずかしさからぎこちない笑みを返してしまった。

 駅員に招かれ、私は駅の中へと足を踏み入れた。
 駅の中は昭和時代を思い起こさせる木材が打ちっぱなしにされた内装で、まだらに見える木目のコントラストが外から見るよりもさらに懐かしさを感じさせた。
 天井の中心には、大きなファンベルトが鈍いきしみをたてて回りながら、生温い空気をかき混ぜていた。
 休憩室と呼ばれるその場所は、駅の窓口から少し奥に入った駅員用の小さな居間にあたる。
 駅員は長年をその場所で過ごして来たのだろう、慣れた手つきで座布団を出して私に勧めると、直ぐに居間の奥へと引っ込み麦茶の入ったグラスと水羊羹を持って戻って来た。
「いやぁ、まさかこの時期にお客さんが訪れるなんて思いもよりませんで。こんなものしかありませんが、どうぞおあがり下さい」
「いえ、本当におかまいなく。こちらこそ、突然お邪魔してしまって恐縮です」
「いやいや、ワシも随分と暇を持て余しておりましたから。なにせ、三時間に一本しか電車が来ませんで。一本遅れましたら、六時間も待っていただくことになるでしょう? あんぐり口を開けて駅で待ってもらうよりは、その間に世間話でもして時間を潰して貰えればとお茶をお出ししているだけですので。それに、こんな爺に茶を飲まれるより、おたくさんみたいなべっぴんさんに飲んでもらえた方が、茶も喜びますよって」
 初老の駅員はすこぶるご機嫌そうに言うと、音をたてながら麦茶を飲んだ。
 私も、温くならないうちにとコップに口をつける。
 少し濃いめに出された麦茶が乾いた喉を流れ、冷たさが体中に染み渡っていった。
「美味しいです、麦茶」
 笑みを浮かべ、そんな言葉を呟く。
 麦茶を美味しいと感じたのは、本当に久しぶりのことだった。
「麦茶が美味いと感じるのは、夏が近い証拠ですな」
 駅員は嬉しそうな顔をすると、コップをテーブルの上に置く。
 ガラスの乾いた音が室内に響くと、駅員は私の目を見据えるようにして顔を上げた。
「ところで、取材というのはどういった内容のもので?」
 急に核心に迫る言葉を投げかけられ、私は一瞬警戒から眉を寄せた。
 何人かの地元の人と話をしたイメージでは、酷く『取材』という目的の肩書きに警戒や過剰さを見せているように感じられた。
 無理もない。何度も廃線騒ぎが起きた曰く付きの鉄道を取材し、あまつさへ『廃線騒ぎを作り出した』者達なのだから。
 私は息を吐き出すと、言葉を選びながら口を開く。
「私がお尋ねしたかったのは、この渓谷鉄道に『昼に女の子の幽霊が出る』という噂についてです。
 噂というものは、本来根源があってこそはじめて形を持つものだと思っています。私が耳にした限りでは、酷く曖昧な情報だけが存在し、確かなものを見つけることは出来ないと判断しました。仲介された媒体では事実が脚色されたり、話題性や娯楽性を求めるために在るべきものが故意に隠蔽されてしまったりします。
 そうして出来上がった噂は、事実とは『全く異なった事実を内包した真実』に生まれ変わってしまいます」
「……つまりは、おたくさんは何を知りたいと?」
「……この場所で起こった真実を。噂の根源となる『何か』を。
 私は知りたいんです。この沿線が廃線となってしまえば、その真実を知る人はいなくなってしまう。二度と、『本当の真実』が形になることが出来なくなってしまう。そうなってしまう前に、真実を確かめたいんです」
 重い沈黙が、部屋の中に満ちた。
 初老の駅員は瞼を閉じ、腕を組んだ体制のまま動く気配はない。
 どれぐらいの時間、そうして黙り続けていたのかは解らない。
 駅員の眉が僅かに上がり、低い声が聞こえた。
「ワシはそうやって、今まで何度も何度も騙された。晒し者にもされた。だがそれでも、ワシはおたくさんら『取材』の人らに話を聞いて欲しかったんだと思う。
 どれだけ捻じ曲げられても、どれだけ形がなくなっても、『ワシの知る真実』はここにあると伝えたかったんじゃと」
 駅員は閉じていた目を開くと、私の目を覗き込むようにして見つめた。
「ワシは、おたくさんを信じとるよ」
 そう告げると、駅員はあぐらをかいていた足を組みかえ、再度目を閉じて少し低い声で話をはじめてくれた。
「あれはそう……。もう十年近く前のことになりましょうか。あの日のことは、今でもハッキリと覚えておりますよ。終戦の焼け野原とあの日のことは、忘れたくても忘れられないことでしたから……」
 その声は僅かに震えていた。


 4/

『その頃はまだ道路もそう多く作られておらず、学校や仕事に行く人達で、そこそこ駅は賑わっておったのですよ。電車の本数も今の三倍以上あり、一時間に上りと下りが入ってきておりましたから。
 丁度、あれは学生さんが夏休みに入って直ぐのころでした。久方ぶりの大雨が降った翌日のことで、暑さも和らいだ穏やかな天気だったことを覚えております。
 当時は、この駅から五つ山側に向かった方角に小さな高校があり、この駅も多くの生徒さんが通学に利用しておりました。
 それは、お日様も高く昇った昼近くのことでした。年のころは十六歳ぐらいだったでしょうか。一人の女学生が、随分と落ち込んだ様子で駅へとやって来ました。寝坊をして部活の遅れてしまったのだと、その女の子は話をしてくれました。
 ワシは、その女の子に『十二時台の電車がある』ことを話し、いつものようにお茶に誘ったわけです』
 白いプラットホームに立つと、コンクリートの照り返しが肌を焦がしているかのような感覚を覚えた。
 遠くへと続く真っ直ぐな線路は、遠くなればなるほどその形を曖昧にしながら陽炎の中でゆらめいている。
 そこには、木々がこすれ合う音以外何も存在していないように思えた。
『それから、三十分ほど話をしたころでしょうか。丁度、電車がやってくる時間になったため、ワシと女の子は駅へと出ました。
 珍しいだと思われるかもしれんが、当時は『二両の車両』で運行しておったのですよ。駅員の数が少なかったせいもあって、当時から電車には運転手しか乗っておらず、ワシら常駐の駅員が車掌の代わりをやっておったのですよ。
 その日も、いつものように点検をして、運転手に『ドアを閉める合図』を送る仕事をこなす所でした』
 破裂するような警笛の音が響くと同時に、私は右手側へと視線を向けた。
 クロムグリーンの車両が、少しずつ速度を落としながらプラットホームの中へと滑り込んでくる。
 熱を帯びた風を巻き上げながら、一両だけの電車が私の少し手前で停止した。
『駅に電車が入り、女の子は『二両目の車両』に乗ろうとしました。本来なら、ワシの合図を確かめてからドアが閉められる予定だったんですが……』
「……っ!」
 瞬間、私の視界の中に不自然な『炎』がゆらめいた。
 それは一瞬にして『制服を着た少女』の姿へと変わる。
 『制服を着た少女の形』は、本来あるはずのない『二両目』の位置へとゆっくりと歩いて行く。
『女の子がドアに足を踏み込んだ瞬間、運転手が誤ってドアの開閉ボタンを押してしまったんですよ。丁度、女の子の首と腰を挟んだ状態で扉が閉まってしまって。女の子を直ぐに病院に運ぼうとしましたが、打ち所が悪く即死の状態でした……。
 ワシは声をあげましたが、すでに遅く……。目の前で女の子が死んでしまうのを、見ているだけの大人でした……』
 そして停止線を踏み越えた直後、少女の体が不自然に曲がり、残像を残して私の視界から消滅した。
 こめかみに鈍い痛みが走り、私は思わず目を閉じた。
 そこに『視えた』ものは、まぎれもなく輪廻の輪から外れた『少女の残像だった』だった。
 その姿があまりにも鮮明に『視えた』からだろうか。
 私の手は小さく震えていた。
《貴方には『私』が『視える』のね……》
 鼓膜の内側に響いた幼い声に、私は弾かれたように意識を戻した。
 辺りを見回し、その声の主を探す。
 電車は既に駅を離れてしまっていたのか、視界の中には古びた駅と白いプラットホームと錆びた線路、そして緑の木々以外見えるものはなかった。
《貴方には『私』は『視えない』のね……》
 再度聞こえた声は、どこか寂しげな色を含んでいた。
 またこめかみに痛みが走り、私は強く瞼を閉じた。
「……あんた、は?」
 乾いた喉を振り絞り、それだけの声を出す。
 蝉の声だろうか。
 酷く五月蝿い虫の声が、鼓膜を叩きつけるように響いていた。
 私は日差しに手をかざしながら、再度瞼を開けた。
 プラットホームの一番端、地上との境界を背にして、『その子』は立っていた。
「……そう、『あの子もあんた』で『あんたもあんた』なのね」
 先ほどよりもぼやけた輪郭を持った『制服を着た少女の形』が、私の方を向いていた。
 眩暈でも起こしたかのように視界の中がゆがみ、足元の感覚が失われる。
 夏の日差しで暑いはずの体は、なぜか不気味な冷たさに覆われていた。
《そう、『あれ』も私。『私』も私。……どちらも私だけど、どちらも私じゃない。電車を追いかけていた私は、私が最後に見た『記憶の私』。ここにいる私は、その記憶の私を傍観している『残された私』。どちらも、この世界にはいてはいけない私》
 声というよりも、『声のイメージ』が私の鼓膜の内側に響く。
 かろうじて、人の声というニュアンスを持った言語を持つ『音』。
 私は口を開くと、その音へと言葉を返した。
「……あの子はああして、電車が来るたびに『電車に乗ろうと』しているの?」
 形がわずかにゆらめく。
 それはまるで、女の子が私の言葉に頷いているかのようにも見えた。
《それだけが、『私』に残された記憶。『私』は電車に乗り続け、『私』はそれを見続ける》
「……あんたは、成仏する事は出来ないの?」
《そこにあるのは私の『記憶』。ここにあるのも私の『記憶』。『思い』がないから、私はどこにも行けない》
 私は、深く息を吐き出して少女の形を見据えた。
 残された二つの記憶。
 死んでしまった事を知らない記憶と、死んでしまった事を知っている記憶。
 恐らくそれは、『死ぬ前』と『死んだ後』の記憶なのだろう。
 魂は記憶を離れ、残された二つの記憶だけが、永遠とも思える時間をこの場所で繰り返している。
 何のためにその場所に在るのか。
 おそらく、二つの記憶にとって在る事に意味はないのだろう。
 ただ、記憶されたプロセスを繰り返す、それだけのもの。
「……そのためだけに、あんたは在るのね」
《それが私の『記憶』だから》
 記憶に触れることは出来ない。
 それがたとえ、どんな力を持った者だとしても。
 真実を目にした私は、ただその真実を受け入れることしか出来ない。
 私は、記憶に干渉することなど出来はしないのだから。
 そう、私には『何も出来はしない』のだから。
「いつまで……こうして繰り返すの?」
 一瞬の空白が生まれる。
 少女の形は記憶から言葉を探し出しているのだろうか、中々『声』を発しようとはしなかった。
《もう直ぐ終わる。この場所がなくなれば、私の記憶はなくなる。……『私』が電車に乗ることも、『私』が電車に乗る私を見ることも》
「……それは『幸せ』?」
 ようやく聞こえた『音』に、私は言葉を返す。
 記憶に向けて『幸せ』と問いかけることは不自然だとは解っていた。
 ただ、その言葉を問いかけたい衝動だけが、私の中には渦巻いていた。
 その記憶たちが、私の視界にはとても寂しそうに映っていたから。
《幸せ? ……私に感情があるとしたら、それを幸せだと答えるのかもしれない。……幸せ。……しあわせ》
 呟くような小さな『声』で言葉をくりかえすと、女の子の形は大きくゆらめいた。
 眩暈が遠くなりはじめ、こめかみの痛みが少しずつ治まっていく。
 それは、女の子の記憶が薄れていくことを私に教えてくれた。
「あんたの……」
 私は陽炎の中に四散しようとする女の子の形を見据え、最後の言葉を告げる。
「記憶は、心に還るべきだと思う。記憶だけでもだめ、体だけでもだめ、ましてや心だけでも。……あんたは人間なんだから、あんたの心を寂しがらせないであげて」
 世界の片隅が歪む。
 まるで霧が大気の中に溶けるように、女の子の形は消滅した。
《……ありがとう》
 そんな『言葉』を最後に残して。


 5/

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DATE:2004/06/XX PM 22:21
TITLE:Sヶ原渓谷鉄道レポート
NEME:lily

 こんばんはlilyです。
 昨日レスをしたように、今日はY村のSヶ原渓谷鉄道まで行って参りまりた。
 昨日の夕方には少し曇り空が見えたので、雨になるかと心配をしておりましたが、そんな心配もふき飛ばしてくれるぐらいのいいお天気でした。
 渓谷鉄道までは新幹線と単線鉄道を使い二時間弱、そこからタクシーに乗り換え渓谷鉄道で一番大きなY駅まで向かいました。
(バスも走っていましたが、Y駅まで一時間弱ほどかかるために今回はタクシーを使いました)
 全体にして二時間半前後、バスを利用すれば三時間前後の道のりでした。
(帰りの時刻ギリギリまで現地にいたので、今回は温泉に入ることが出来ませんでした(T_T))

 それでは、少し長くなりますがレポートにお付き合い下さい。


1:噂の発端(地元のタクシー運転手による話)
 話は、三年ほど前に訪れた、ある地方局のテレビクルーが切っ掛けとなりました。
 そのテレビクルーは、元々Sヶ原渓谷鉄道沿線のグルメツアーを取材するために訪れていましたが、取材先の旅館で『Sヶ原渓谷鉄道の駅に昼になると幽霊が出る(これについての詳しい内容は、後で追記します)』という話を聞き、『別の企画で使わせてくれ』と打診を申し出たそうです。
 初めは懸念していた地元住民でしたが、自治体が『町おこし(テレビを使った町の宣伝)になるのなら』と、取材を許可したそうです。
 怪奇スポットなどで扱われる場所がマンネリになっていたのと、偶然のオカルトブームから、Sヶ原渓谷鉄道は一瞬にして『有名な心霊スポット』となったそうです。

 追記:廃線の噂自体は十五年ほど前から何度も流れ続けていたらしいです(地元の住民の交通の足となっていたらしいのですが、相次いで建設された国道や県道の利用に伴い、地元住民の利用者数が減ったのが大きな要因となったと思われます)。
 ですが、上記の『有名な心霊スポット』となった一件から半年後、『何度も廃線になるという噂があった』という話を曲解した一部のクルーが『廃線になるらしい』と間違って配信した結果、地元住民の間で混乱が起き、同時に観光客の足も衰えてしまったらしいです。
 それ以降は、地元住民の力で何とか渓谷鉄道を支えてきたらしいですが、この夏で完全に廃線となることが決まったそうです。


2:幽霊の噂の発端
 噂の根源となる幽霊、つまり幽霊のオリジナルとされる少女は確かに存在していました。
 それは、十年近く前の話にさかのぼります。
 当時はまだ電車の本数も多く、一時間に上下線が入る本当の意味での『住民の足』としてSヶ原渓谷鉄道は存在していました。
(そのころは、まだ廃線騒ぎなどは起こってはいない時期でした)
 ある夏の日、沿線沿いにあった高校に通う少女が、その駅で事故死しました。
 その事故とは、十二時台の電車(ニ両目)に乗ろうとした女の子が、駅員の不注意でドアにの首と腰を挟まれた圧死したというものでした。
 女の子は打ち所が悪く即死だったらしいです。
(その事故が切っ掛けとなり『十二時台の電車が廃止』され、事故車両となった『ニ両目の車両は破棄される』ことになりました)
 当時の渓谷鉄道では、別の路線で使われていた型遅れの車両を塗装だけを変えて使っていたらしく、その時に使われていた車両には、現在用いられている安全装置の類は一切備わっていなかったそうです。
 事故の内容に衝撃を受けた地元の住民(特に役場関係)は、当時の運転手を懲戒免職にし、その事故の原因と事故に関連する事柄全てを隠蔽しようとしました。
 理由は、事故のショッキングさから『町の名誉に傷が付く』からというためだったらしいです。
(現在では、当時の役員は全員解雇されているそうです)
 女の子の遺族には損害賠償という名目の口止め料が支払われ、その事件の真相自体は、表向きには風化する形になりました。


3:事故後から現在まで
 事故後から直ぐ、慌しくダイヤが変えられたり車両が一両のみになってしまった事に、地元の住民からは疑問の声が上がったそうです。
 当然、駅側も事件を公にはしたくないということから事実を隠そうとしましたが、どこからか話が漏れ『Sヶ原渓谷鉄道沿線には、女の子の幽霊が出るらしい』という噂に変わり広まってしまいました。
 その結果、Sヶ原渓谷鉄道沿線は『幽霊の出る路線』として地元の住民から気味悪がれ、急激な利用客の減少から廃線騒ぎが持ち上がるようになりました。

 長くなりましたが、以上がまとめです。

 個人的な意見ですが、この話を聞いた時、私自身酷く感傷的な気持ちになりました。
 鉄道や地元の方々には申し訳ないですが、どうかこの女の子の思いが廃線と共に成仏する事を願ってやみません。

 恐らく、この話は噂という形で曲解され、話題の一つとして人々の記憶の中に留まり続けることになるのだろうと思っています。
 ですが、真実は必ず存在し続けると思っています。
 それがどんな嘘に被い尽くされても、必ず、その真実を知る人は存在しているのだと信じています。
 どうか、真夏の幽霊観測者さんがその一人になって下さいますように。

 それでは、これにて。


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DATE:2004/06/XX AM 02:07
TITLE:レポートお疲れ様でした!
NEME:真夏の幽霊観測者

 lilyさんこんばんは。
 レポートお疲れ様です&ありがとうございました。
 丁寧で解りやすい内容に、お願いをした私が恐縮してしまいそうになりました。本当にありがとうございます。
 lilyさんの記事を読み、私も少し本当の事を書かなければならないと思う気持ちになりました(本当と言うと、少しフェイクを交えていた部分もありましたので)。
 lilyさんには少し嘘を吐いてしまった形となり、本当に申し訳ありません。

 まず従兄弟という部分が嘘で、本当は私の実兄が『Y村』の方に住んでいます(婿入りをしたので)。
 そのため、私自身も何度もY村に行った事がありました。
 その時に噂の名前だけを聞き、兄を問いつめたのですが、兄は断固として話をしてくれませんでした。

 そしてもう一つの嘘が、兄から聞いた話という部分は、教えてくれない兄の話を私個人で調べた部分でした。
 女の子の幽霊の話を調べて行くうちに、その内容の不自然さに気持ちの悪さを覚え、私はゴーストネットOFFという場所を使い、どなたかに話の本当の部分を調べて貰おうと思いました。

 もしかするとこの話は、私たちが話題や遊びのネタに使うような幽霊の噂ではない、もっと深く重いものがあるのではないかと思ってしまったので……。

 まさか、そういった噂の経緯があるとは思いもよりませんでした。
 兄が話をしたがらないのも当然の事だと思いました。
 lilyさん本当にありがとうございました。
 今度兄に会ったら、直接話をして『好奇心から話を聞いてすまなかった』と謝りたいと思っております。

 それでは。今回は本当にありがとうございました。
 lilyさんに調べて頂けて、本当によかったです。
 それでは。

 追伸:またY村に来られる事がありましたら、ぜひゆっくりと温泉に入っていって下さい。

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 -----------------スレッドNO:XXXX <解決済み>


..........................Fin




■登場人物■■■■(この物語に登場した人物の一覧)
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【能力】PCが持つ能力

【1449 / 藤井・百合枝/ 女 / 25 / 派遣社員】
【能力】人の心の中を見る(覗く)事ができる。

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■ライターより■■■

<ご挨拶>
 初めまして。黒崎蒼火(クロザキソウビ)と申します。今回は、シナリオ【夏草の行路 -Walks to the Future-】に参加頂き、本当にありがとうございます。
 まだまだお見苦しい点や至らない個所が目につくかと思われますが、これからも精進して参りますのでどうぞよろしくお願いします。
 PCのイメージや口調等に相違点がありましたら、どうぞ遠慮なくお申し付け下さい。

<シナリオについて>
 今回は、一人称視点の対話形式の話になりました。
 PCの感情の動きを前面に出す、ノベルタイプのものとなっております。

<私信> 藤井百合枝PL様
 初めまして、こんにちは。
 今回は、丁度季節を意識したシナリオになりましたが、いかがだったでしょうか?
 この夏の日が、どうか藤井様にとって大切な日になりますように。

 それではまた。

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