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<東京怪談・PCゲームノベル>


祭りの日 〜守崎・啓斗〜

 仕上がった浴衣を手に、羽澄はそれは嬉しそうに微笑んだ。
 見てる周りも幸せになれるような、そんな笑顔で真新しい浴衣に袖を通す。
 紺地の朝顔柄のゆかたは髪の色と合わせてとてもよく似合っていた。
 羽澄をよく知るからこそここまでの物を作れたのだろう。
「ありがとう、かなちゃん」
「良かった、よく似合ってる。他はどうだって?」
「みんなも大丈夫だって」
 親しい人を誘って、出かける約束を取り付けたのは最近の話。
 切っ掛けは幾つかあった。
 毎年おこなわれている縁日がもうすぐだとか、兄のように慕っている奏でが仲のいい人に毎年新しいデザインの浴衣を作ってくれる事だとか。
 つまりは、恒例行事のようなもの。
 既に連絡は入れてあり、後は浴衣を渡して当日を待つだけだ。



 誘いを受け、一も二もなく飛びついたのは北斗である。
「凄いよな、兄貴」
 祭りと言ったら縁日や出店だ。
 かき氷に焼きトウモロコシにワタアメや林檎アメ。
 他にもまだまだある。
「そうだな、お礼も言わないと」
 それに対して啓斗は、届けられた着物がとても丁寧に作られている事に注目していた。
 二人をよく知っているから、サイズはもとより柄もとてもよく似合っている。
 葡萄鼠色の浴衣が北斗で、海松色が啓斗の物で間違いないだろう。
「あー、待ち遠しい」
「本当に楽しみだな」
 反応は本当に両極端だった。


 そして当日。
 揃ったメンバーをグルリと見渡す。
 集まった9人全員が浴衣であるだけでも人目を引くが、中でも女の子3人は特に華やかだった。
「羽澄ちゃんの浴衣大人っぽいのに可愛いね」
「ありがとう、二人もよく似合ってるわ」
「ありがとうございます」
 羽澄の紺地の朝顔柄の浴衣にアップに結われた青銀の髪はとても涼しげにまとめられ、ている。
 リリィが着ているのは赤地に白の花柄の浴衣で、二つに分けて結われた髪が動くたびに揺れたりしていた。
 メノウは白地に荻模様の浴衣を着付けて貰ったらしく嬉しそうだった。
 そして男性メンバーも全員浴衣で、加えてほぼ全員背が高いだけあって人目を引いている。
「やっぱり浴衣はいいな」
「ほんとだよな、華やかだし」
「着物、落ち着かないんだが……見るのはいいものだな」
 伊織の紺地に生成の縦縞模様の浴衣、帯の縛りかたも凝っていて実によく似合っていた。
 りょうが藍染めで灰色の絞りの入った着物。
 ナハトは濃い紫の浴衣で金の髪が目立つからとそろいの生地でバンダナを巻いている。
「そうですね、着心地も良くて」
「あー、腹減った、早くなんか食おうぜ」
 啓斗が海松色浴衣で斗の浴衣は葡萄鼠色、対になっている様ながらで、柄や帯も左右対称になっていた。
「これで全員……目立ちすぎじゃないですか」
 夜倉木が呟いたのは限りなく事実。
 ちなみに彼の浴衣は黒に裾にデザインが施されている物だった。
 このメンバー、確かに人目を引く。
 大人数で全員が着物と言う事だけが理由じゃないのは確かである。
 祭りの中で上手く人混みに紛れられたらいいと思ったのだが、甘かったようだかもしれない。
「こうしてても仕方ないし、行きましょうか」
「そうだな」
「なにくおっかなー」
「北斗っ」
 何はともあれ、あまり気にしない事にしてさっそくとばかりに祭りの人混みの中へと紛れ込む。


 目立っていたのも最初だけで、すぐに気にならなくなる。
「そんなに食べられるの?」
 北斗とりょうが両手一杯に持つ夜店で売られている食べ物の数々。
 右手にはフランクフルトに焼きそば、左手にはかき氷にクレープと大判焼き。夜店で食べ物が売られている所を見ると買い始めるのだから、無茶無理無謀を地で行くようなハイペースな買い方である。
 それらをどうやってバランスを取っているのか疑問に思うような配置で、実に絶妙なバランスで手に持ちながら食べているのだ。
「食べ過ぎよね」
「お腹壊しそう……」
 リリィとメノウの疑問は本当に同意したくなる。
「まったく……」
 軽く頭を抱える啓斗に、伊織が見つけたのは金魚釣り。
「どうだ、軽く腹ごしらえした所で勝負でも」
「いいぜ、受けて立つ!」
「何賭けるんだ?」
 伊織が持ちかけた勝負にここぞとばかりに乗っかる。
「ほんと好きよね、そう言うの」
「でも楽しそう」
 クスクスと笑う羽澄にリリィも同意する。
 ここまで楽しそうだと、見てる側も楽しめると言うものだ。
「頑張れよ、啓斗」
「なに言ってんだよ、みんなでやろうぜ。ほら、兄貴も」
「ほ、北斗」
 傍観を決め込もうとしていた啓斗の背を押し、金魚釣りの前へと連れて行く。
「一番多かった奴が勝ちな」
「ルールはどうする?」
「特殊能力禁止って事で」
「えっ」
「使う気だったのか……」
 流石に人目がある上にそれぐらいの方が楽しいからと言う事だったのだが、一部は使う気満々だったらしい。
 言うまでもないと思って冗談で言ったのだが、言って置いて良かった。
 みんなで移動してそして勝負開始。
「これで……薄いですね」
「そうよ、そっと優しくすくうの。コツもいるけど何度かやってみるといいわ」
「がんばってね」
「はい」
 紙が張られた金魚すくいの網を手にしたメノウに、羽澄とメノウが色々と教える形になる。
 その横で白熱した……様な勝負をしている男性メンバー。
「意外に難しいな……最近のはこうなのか?」
 開始した直後が良くなかったのか、既に半分以上破れている伊織。
「紙が弱かったんじゃねぇの?」
「うーん……」
 まれな事だが、偶にこういう事があったりするのだ。
「3匹目ゲーット! って、兄貴……」
 ゲーム系は得意なだけあってなにげに上手いのが北斗だったが、更に上手いのが啓斗であったりする。
「意外に楽しいな……」
 流石運動神経がいいだけの事はあると言うべきか。
「多すぎないか……」
 そんな事を言うナハトに、既に金魚が7匹ほど詰まった袋を手に持っていたりする夜倉木が一言。
「後でこいつにやればいいだろう」
「………おい」
 現時点で金魚合計18匹。
 流石に全部はなんだか怖い……まあ、何とかなるだろう。
 多分。
 そして結果の方はと言うと……。
 結局言いだした伊織が、不幸にも全員にたこ焼きを奢る事になった訳である。


 その後も色々な出店を見て回りながら、暴走しそうになる北斗を止めたりしていた。
 いつもの事だ考えかけ……ふと気付く。
「次は輪投げか射的で勝負な!」
「どっちでもいいぜ、俺が勝つ!」
 前者が実の弟で、後者が大人であるはずなのだが……。
 気のせいだろうか?
 子供のようだとか……。
 二人が一緒にいる事で、余計に騒がしくなっているような気がすると思うのは。
「大人げない……」
「えーーー!」
 聞こえていたらしく、ショックを受ける北斗とりょう。
「まるで同レベルだな」
「同レベル!?」
 完膚無きまでに止めを刺したのは夜倉木。
 シュンとした二人。
 それは確かに事実だ、なにせ二人のハシャギッぷりと言ったら今時の子供でも見れないようなレベルである。
「えーーー」
 不満そうな声に苦笑する啓斗達。
 そこはまあ、楽しんだ方が良いに決まっていると林檎アメでとりあえず納得して貰った。
「美味いんだよなー、これ」
「まったく、しょうがないな」
 上機嫌な顔の北斗を見ていた啓斗のすぐ近くで、夜倉木が誰に言うともないと言った口調で呟く。
「……ずいぶんと甘やかしてるな」
「―――っ!」
 宿敵の言葉に、反応しない方が良いと思っていてもつい振り返ってしまう。
「本当の事でしょう」
 意地の悪い言葉に、流石にここでがなり立てる訳には行かないとグッと言葉を飲み込み……違う言葉を探して切り返す。
「……蝙蝠」
 ぼそり呟いた単語に、一拍とおかずに帰ってくる言葉。
「子供」
「サディスト」
「若年寄」
「吸血鬼」
「朴念仁」
「人でなし」
 ポンポンと交わされる言葉のやりとりが暫く続いた後。
 これ以上は不毛だと距離を置いて、頭を冷やすために涼しげな音色を奏でる方へと視線を向ける。
 風鈴の売られている店を覗き、思いついたように財布を取りだし風鈴を二つ購入する。
「すいません、これ下さい」
「誰かに買ったのか」
 一つの家に二つは買うのはあまり考えられない、その事から考えれば簡単に考えられる行動だったが……。
「関係ない」
 いつものように怒った表情ではなく、無表情に近い。
「どうやらよっぽど触れられたくない相手らしいですね」
「………」
 大分距離が明いてしまったと歩き出すと聞こえるか聞こえないかの声が、確かに耳に届く。
「お前は、大切な人が居なくなったらどうする?」
 浮かんだのは、いやな光景。
「――――っ!」
 鋭い視線で振り返る啓斗が見たのは、空をを扇いでいる夜倉木の姿。
 どうしてだか思ってしまったのだ。あの、意地の悪い表情で笑っているに違いなと。
「どうして、そんな事を……」
「あの仕事をしてると、時折考える。壊れる瞬間は、とても簡単だから……楽しい時こそ、最悪を考える」
 どんな気持ちで言ったかは解らない、只。
 だからこそ……。
「お前は、どうするんだ?」
 聞き返した啓斗に、夜倉木はほんの少しだけ笑って返す。
「言う訳無いでしょう」
「………」
 やっぱり、嫌な相手だ。



 にわかに騒がしいのは射的の屋台。
 また北斗が何かしていたようだ。
「羽澄!」
「何やってるのよ」
 驚いて振り返る。
 本当に夢中になっていたようだ。
「射的……」
 目線を逸らす北斗。
「っと、リリは? ………あ」
 話題を変えようとしたりょうが辺りを見た途端半眼で呻く。
「どうしたんだ?」
 声をかけた啓斗に、伊織が答える。
「まあ……些細な事だな」
 ほんの一瞬目を離した間に、リリィとメノウに声をかけた男が二人ばかりいたようなのだ。
 現在その二人は、りょうに射的の銃をそのまま突きつけられている。
「さっさと散れ!」
 おもちゃの筈なのだが……りょうがもつとなんだか妙にリアルに思える上に、あの強面に睨まれたら退散しない方がおかしいだろう。
 知らないで声をかけたのだろうが、何とも不幸な事である。
「大人げないわよね」
「まったくだよな」
 クスクスと笑う羽澄に同意する北斗。
「そんな事言って、自分の立場だったら違う反応するくせに」
 ビシリと指を突きつけられた先にいた北斗と伊織は、確かに気持ちは解ると苦笑したり照れたような顔見せる。
 ほんの些細な出来事だったが、こういう事なら楽しいものだ。
 祭りの夜は、まだまだ続く。


 帰り道。
 そろそろ遅くなるからと一旦解散する事になった。
 祭りの賑やかさから大分離れた頃。
 二つの風鈴が澄んだ音を立てる。
「最悪を考える……か」
「どうした、兄貴?」
 振り返る北斗に笑って返す。
「何でもない。帰ろう、北斗」
 楽しさの後に残ったのは小さな不安。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1779/葛城・伊織/男性/22歳/針師】

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■         ライター通信          ■
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縁日へのお誘い、ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。

色々と起きててそれはもう楽しかったです。
ギャグに甘い話にダーク系と。
考えてみれば凄いです。

それでは、発注ありがとうございました。