コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


【幸運の指輪】
「へえ、こいつは面白いや」
 店にやってきた青年の男性が持ち込んできたそれを見て、蓮は珍しく目を輝かせた。
 いわく、『幸運の指輪』。身につけると必ず幸運に会うのだと彼は言った。普通なら眉に唾をつけるところだが、蓮はひたすら嬉しそうだ。
「あんた、どこでこんなものを手に入れたんだい」
「怪しい占い師のばあさんに一万円で売ってもらったんだよ。物珍しさにね。しかし店長さん、本当に買い取ってくれるのか? 普通怪しがって断るだろうに」
「こういうわけのわからないものこそ大歓迎だ。で、あんたはこれでどんな幸運を手に入れたのかな」
「ちょいと病気して入院したんだが、そこの美人ナースと知り合いになって、今では付き合っている」
「そいつはおめでとう。でも、こんなラッキーアイテムを手放していいのかい」
「効果は一回きりなんだそうだ。占い師のばあさんが言ってた」
「なるほどね。じゃあサービス、二万円で買い取ってやろう。これでその彼女にプレゼントでも買ってやりな」
 男性が金を受け取って店を出て行くと、蓮はカウンターのど真ん中に指輪を置いた。三万円と値札をつけて。
「さーて、誰が手にとるのやら」

 気紛れでレンに足を運んだ如月縁樹は、指輪を一目で気に入ったようだった。赤い瞳が好奇に輝いた。
「これください」
「いいのかい、大枚はたくことになるよ。それに考えてみれば効果だって眉唾だ。これを売った男は確かに幸運に会ったようだが、指輪の力なんかじゃなく、ただの偶然かもしれない」
「面白そうだから買うんですよ。信じる信じないは大体半々くらい、気持ち当れば良いかな? 程度のものです」
「わかった、売ろう。アンタも物好きだね。まあ、ここに来る人間ていうのはみんなそうだがね」
 蓮は福沢諭吉を3枚受け取って、指輪を縁樹の細い右人差し指に嵌めてやった。

 縁樹は店を出ると、ひとまずはブラブラと歩いてみることにした。
 幸運の指輪は何の装飾も付いていない銀色で、極めてシンプルなものだ。ただ、小さな文字が刻まれていてよく見ると呪文のようでもある。
「この呪文が、幸せを呼んでくれるのかな?」
 右手を空にかざしながら、縁樹はあれこれと思案する。多くを望んでいると期待外れに終わった時にショックなので、どこぞの店のサービス券でも拾えればいいか、などと考えた。
 30分も歩くと、住宅街に出た。まだ何も起きない。
「やっぱり、幸せは歩いてこないのかなぁ」
 そうひとりごちた時だった。
「え……うそ、もしかして」
 視線の先に、道端に皮製の財布が落ちている。縁樹は財布に駆け寄った。
「この中に大金とか入っていたりして? そんな漫画みたいなこと――」
 財布を開けてみると。
「……………………うわあああああああああ!」
 財布の口から覗くのは、厚さ2センチはあろうかという札の束だった。それを見た途端、やけに財布が重く感じた。
「ちょっとちょっと、本当ですか……。でもこんなもの拾ったってなあ」
 縁樹はあまり大金には興味がない人間だった。第一、これをそのまま盗ったら犯罪になってしまう。
 結局、交番に届けることにした。これほどの大金ならば、すでに持ち主が駆け込んでいるかもしれない。
 交番に着くと、
「すいませーん。財布の落し物なんですけど」
 財布を見せながら、入口に立っていた警官に見せた。
「ん! それはひょっとして……おじいさん、これじゃないのか?」
 交番の中から、芯まで白髪の老人が疲れきった顔をして現れて――
「ああ、私の財布だ!」
 瞬く間に顔に血色が戻った。縁樹から財布を渡されると、中から白いカードを取り出した。どうやら名刺らしい。警官もそれを確認して、彼が財布の持ち主だと断定された。
 老人は縁樹の手を握って涙を浮かべた。
「ありがとう! おかげで助かりました。ぜひ一割のお礼を」
「いや、別に僕はお金は」
「じゃあせめて、このお菓子の詰め合わせを貰ってください。家へのお土産のつもりだったんですが、これはまた買えばいいので」

 かくしてお菓子の詰め合わせをゲットした縁樹は、相方である喋る人形のノイとお喋りしながら再び街を歩き出した。
「それ、早く食べよーぜ。全部」
「全部って……おや?」
 縁樹は目を凝らした。20メートルほど先に、小さな犬がうずくまっている。
 腹を空かせているのか、ピクリとも動かない。
「そうだ、あの犬に食べさせちゃおう」
「えー! やだやだ! ボクに食わせろ!」
 ノイが抗議するが、すでに縁樹は犬の足元に空けた菓子箱を置いていた。
「さあ、お食べ」
 子犬は勢いよく菓子箱を漁り始めた。よほど空腹だったのだろう、実にいい食べっぷりである。
「もし、お嬢さん」
 背後から声がした。首だけで振り返ると、若い男が自分と子犬を交互に見ていた。
「その犬は……やはり私のだ! そうか、あなたが見つけて、食事まで与えてくれたのですね」
「あなたのペットだったんですか」
「ええ、1週間前から行方不明で……ああ、よかった!」
 青年は、子犬の傍らの菓子箱に目を留めた。
「どうやら、あなたのお菓子を台無しにしてしまったようですね。これでお礼とさせてください」
 青年が差し出したそれは、近場の有名ケーキ店のケーキバイキング無料券だった。
「それでは、失礼します」
 子犬を抱いた青年は、何度も振り返って頭を下げた。
 彼が見えなくなると、縁樹は万歳した。
「やったぁ。この店のケーキ、大好きなんだよね。この指輪、確かに効果があったみたい。偶然の連続だもの」
「それにしても、3万円分の幸せには届かないんじゃないか?」
 唇を尖らせるノイの額を、縁樹が突っつく。
「お金の問題じゃないよ。僕はね、こういうささやかな幸せの方が性にあっているんだから」

【了】

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1431/如月・縁樹/女性/19歳/旅人】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 担当ライターのsilfluです。ご依頼ありがとうございました。
 あまり欲のないPCさんでしたので、終始ほんわかした感じに
 なりました。いかがだったでしょうか。
 
 それではまたお会いしましょう。