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<東京怪談・PCゲームノベル>


【 漆黒の翼で2 - 夜想曲 - 】


 昼間に行動しようと、夜に行動しようと、メルディナにとっては何も関係のないことだった。
 一般の者からは姿は見えない。
 だから、このまま彼女を追跡し、話かけても問題はないが――逃げられる可能性が強い。
 痛手とまではいえないが、負傷を追っている少女が、果たして自分の言葉を素直に聞き入れ、立ち止まり、話をしてくれるだろうか。
 疑問だ。いや、答えは否、だろう。予想はできる。
 傷を治し、すぐにでも黒き翼を背負ったあの男を追撃したいはず。
 けれど――あの男が背負う死の影は、死を確定していない。
 このまま放っておいたのでは、死ななくてよいものを殺してしまうことになってしまう。

 死神として、断固、そのような事態は放っておけない。

 おせっかいかもしれない。
 けれど、少しでも――せめて、死の影の意味を知るぐらいは、あの男にも権利があるはずだ。
 聞き出そう。それが可能なのは、人目につかない夜。
 それまで、少女を見失わないように、一定距離を測りながら、メルディナは追跡を続ける。

 ◇  ◇  ◇

 世界が暗闇に染まり、そこに静寂が訪れるころ。
 ある一定の場所まで行くと、逃走をやめた少女にいつ声をかけようかタイミングを計っていたメルディナだったが、それは必要のないものとなった。
「……何か、用が?」
 人影が一切なくなったときを見計らい、背に位置するメルディナへ声をかけてきたのだ。
「話を、聞かせてはいただけませんか……?」
 少女の背に位置していたのでは失礼だと思い、メルディナが彼女の前まで自らを移動させる。
 正面に見つめあった二人。
「私は禁忌を犯してはいますが、死神。名はメルディナと言います。交戦目的ではありません」
「では、邪魔はしないでほしい……」
 温度の感じない声音で返ってくる少女の言葉。続いて響いたものは、それとはあまりにかけ離れた
『理由を話したらええんちゃうの? そのほうが、この嬢さんも引いてくれるやろ?』
 関西なまりの、どこか親父くさい声。他に人影がないというのに、そんなものが一体どこから響いたのか。少々不思議に思ったがすぐにピンと来る。
 鎌だ。
 少女が持っているあの鎌が、声を上げたのだろう。
「……あなたは?」
『俺はダークハンター、スノーの一部であり、最大の弱点であり、強みでもある鎌や。スノーは話すの下手やから、俺が説明したる』
 スノー。それが少女の名のようだ。
「みすみす、弱点などと口にして……危険では……?」
『交戦目的やないって、言ったやろ? だからええと思ってな』
 鎌はずいぶんプラス思考だと、メルディナは感じる。ともあれ、話が聞かせてもらえるのであれば、こちらとしては目的を果たせることになるのだから、それでかまわない。
『死神のあんたが、何を知っとるんかわからんから、どこから話したらええかちっとわからんけど……』
 何も知らない。
 それが答えだが、ほんの少し感づいている部分はある。しかし、全部聞いておいても損ではない。
 だからメルディナは――
「一番知りたいのは、なぜ、あの人が黒い翼を背負っているか。それが、全ての鍵……だと、思っています」
『だったら、全部話したほうが早いな』
 返ってきたのは、苦笑を浮かべたような台詞。

 ◇  ◇  ◇

『どこにでもある堕天使の伝説は知っとるか?』
「……私が知っているものと、それが同じならば」
『ファーはその伝説となっとる堕天使の一人だ。こことは違う異世界に天界っつーところがあって、そこで裏切りにあい、地上に堕とされ、そして――』
「人を殺すことに快楽を覚えた」
 そこまで言うと、スノーが一枚の羽根を見せた。
 小さなスノーの手のひらいっぱいに広がった羽根は、見たことのある漆黒だった。
「翼を失ったのは――完全に天使として追放されたから」
『だが、なぜか片翼を取り返した。でも、もう片翼は取り返せなかった。その片翼が、今、スノーの持っとる羽根なんや』
「この羽根にはあの男が殺戮を繰り返していた時の記憶と、感覚、感情などが全て詰め込まれている」
「……なるほど……」
 納得した。あの、黒き翼の意味を。
 本来、黒き翼は死を運ぶモノであり、死を纏いしものに与えられるモノ。
 ファーがあの翼を背負ったのは――堕天したから。殺しに快楽を覚えたから。殺戮を繰り返したから。
「全てをこれに封じ込めた。けれど、この羽根には意志があり、主人であるあの男のもとに戻ることを望んでいる」
『それが戻ってしもうたら、封じられている全てが開放されて、殺戮者に戻ってしまう』
「だからその前に狩る。必ず彼は人の害になる」
 ファーは、堕天した天使。強い憎悪だけを抱えて、人を殺すことでその憎悪を晴らして生きていくしかなかった。
「その、羽根を消してしまうことは……?」
 そんな堕天使だったときの記憶が込められた翼さえなければ、彼が再びそれを繰り返すことはない。
「一度――消された羽根。しかし、異世界からこの地へ来た彼と共に、再び羽根はこの地へ現れた」
『何枚に散ったかわからないから、羽根を消して歩くよりも、本体を狩ったほうが早いと判断したんよ』
「一枚いちまいに、全部の記憶が詰め込まれているのでしょうか……?」
「一枚消えれば、一枚現れる。記憶の全てを持って。厄介な羽根」
 羽根を全て消すことはもはや不可能。
 彼が、殺戮を繰り返した日々を思い出さないためにも、その前に殺さなければいけない。
「……他の方法は、ない……と?」
『ないな。しかもこの羽根、厄介なことに無力な者に触れると、力が解放され、殺戮者であったときのあの男が身体を乗っ取る』
「堕天使――ルシフェルとして。だから、その前に、殺さなければいけない」
 強い意志をこめた、スノー。珍しく感情を垣間見ることができた一瞬。
 メルディナは全てを理解した。ファーの死の影の意味も、黒き翼の意味も。
 けれど――全てを理解した上で、メルディナは

「……殺すことは何の解決にもなりません……」

 自らの判断をスノーへ告げる。
 それは死神として、確定されていない死への疑問であり、彼の未来への光である判断。
「彼の居場所を教えていただけますか? このことを告げ、話をします」
 スノーは自分がついていき、店の外で待機することを条件に、メルディナの申し出を承諾した。

 ◇  ◇  ◇

 からん、からん。
 突然、予想外の音が店の中に響き渡って、思わず身を跳ねさせる。あの少女がまた、自分の命を狙ってきたのではないか。そんな焦りがファーの中を駆け巡るが、そこに見えた人影に目を疑った。
「……あんたは……」
 入ってきたのは昼間、自分を助けてくれた死神の女性。闇の中で漆黒に身を包んだ彼女からは、肌の白さと、鎖や持っている鎌の銀部分が際立って見えた。
「……死の影の意味を聞いてきました。お話を、しませんか?」
 死の影の意味?
 一体なんのことか。ファーはいまいち思い当たる節がなく、首を傾げるが――ふと、一つの仮定にぶつかった。
「――まさか、あの少女と話を……?」
「はい」
 自分の危険を犯してまで、少女を追跡して、自分が殺される意味について話を聞いてきてくれた――メルディナ。
 あまりに都合のいい考えだったものだから、まさか本当だとは思わなかったが。
 力強くうなずかれて、複雑な感情が芽生える。
「……そう、か」
 どうしてそんなことしたのか。
 なぜ、自分のためなんかに、そんなことを……。
「聞いて、いただけますか?」
「……聞かせてくれ、俺の……死の影について」
 けれど。
 無駄にできない、メルディナの行為。
 全てを受け止め、理由を知るためには、彼女の言葉が必要だ。

 ファーは伏せがちだった瞳を、しっかりメルディナに向け、彼女からの言葉を待った。



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■       ○ 登場人物一覧 ○       ■
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 ‖死神・メルディナ‖整理番号:3020 │ 性別:女性 │ 年齢:999歳 │ 職業:禁忌を犯しし死神
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■       ○ ライター通信 ○       ■
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この度は、発注ありがとうございました! ライターのあすなです。
メルディナさん、またお目にかかれて光栄ですvv
「漆黒の翼で」シリーズの第ニ話目、いかがでしたでしょうか。

スノーとの対峙場面や、ファーの店を訪れるシーンなど、落ち着いた雰囲気を全
面にかもし出せるように努力しました。スノーもあまり話さないキャラですので、
静かな対峙となってしまいましたが(苦笑)

楽しんでいただけたら、大変光栄です。
また、最後までお付き合いいただければ嬉しく思います。最終話へのご参加も、
心よりお待ちしております!
それでは失礼いたします。この度は本当にありがとうございました!また、お目
にかかれることを願っております。

                           あすな 拝