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<東京怪談・PCゲームノベル>


 アトランティック・ブルー #3
 
 弥生との話を終え、再び客室へと戻る。
「あ、おかえり、荘さん」
 出迎えてくれたのは、何故か弧月だった。そういえば、さっきもこうやって出迎えてくれたっけ……と思ったところではっとした。
「あれ? なんで弧月さんが? 昴くんは?」
 見張りは交代制。自分が終え、弧月が終え、昴の番であるはず。しかし、室内に昴の姿はなく、トランクを持って歩いているはずの弧月が出迎える。
「夕飯がまだだろうと思って、一時、交代を」
「そうだったんだ。で、弧月さんは夕飯を……?」
 それを問うと弧月は横に首を振った。
「あ、そうなの? じゃあ、俺が見張りをしているから、弧月さん、食べてくれば?」
「夕飯はいつでも食べられるらしいし、それはあとで構わないよ……けど、昴さん、遅いな……」
 弧月は時計を見やり、呟く。
「部屋を出て行ったのは、結構、前のことなの?」
「そう……だね、トランクを持って船内をちょっと歩いて……教授に品物のことを聞いてすぐに戻ったから、結構、時間が経過しているかな」
「何かあったのかなぁ……」
 昴が見張りを交代してもらっているという状況で、長々と食事を楽しむとは思えない。軽く食べてすぐに戻って来そうな気がするのだが、弧月の口ぶりからするとかなりの時間が経過しているように思える。そうなると、自然とその身に何かが起こったのではないかと心配するようにもなる。
「昴さん、しっかりしているけど、時々……」
「そう、時々……」
 そして、ふたりで深いため息をつく。穏やかで優しいが少しばかり押しに弱いところがある。それに、時々、天然(?)とも思える行動を取る。そう、間違えて他の人についていってしまったり、肩が触れた銅像に謝ってしまったり。
 ……大丈夫だろうか。
「……」
 ふと弧月と目があった。お互いに苦笑いを浮かべ、もう一度、ため息をつく。
「昴さんが戻って来てから話そうかと思ったけど、先に話しておこうかな。教授に連絡を入れて、あの写真の品のことを調べてもらったんだ」
「……」
 写真の品……そのうちのひとつが気にかかる。荘は部屋に置いてあるトランクを見つめた。あのトランクの中身は……。
「荘さん?」
「あ、ううん、なんでもないですよ。それで、教授はなんて?」
「写真の男は南条で間違いなかった。仲買人をしているらしく、写真の品は南条が取引をして、博物館に展示されているということだった」
 それは弥生に聞いた話と一致する。荘は相槌を打ちながら弧月の話を聞いた。
「盗まれているものだと思っていたけれど、今も博物館に展示されているらしい。それは教授が博物館に確認している。それはともかくとして、少し気になることを言っていたんだ」
「気になること?」
「この鏡は、少々、いわくのある品物らしく、持ち主がよく変わっているとか。確か、関わる女性のほとんどが変死を遂げているとも言っていたかな。教授は博物館から引き上げさせるようなことは言っていたものの、この状況では博物館に展示されているものが本物だとは思えない……荘さんはどう思う?」
 弧月は意見を求めてきた。弥生から博物館の展示品が偽物とすりかえられているらしい話を聞いているから、弧月の話も疑問を覚えることなく頷ける。
「展示されているものは偽物だよ」
 推量ではなく、確定するような言い方をすると、弧月は僅かに眉を顰めた。そこで、弥生から聞いた話を話して聞かせることにした。
「俺は弥生さんに……ああ、あの女性の名前だけど……その弥生さんと話をしたんだ。弥生さんは学生で、博物館でバイトをしているそうなんだ。その博物館で展示品が本物から偽物にすりかえられる事件が起きていたらしいんだ」
「それじゃあ……」
 こくんと荘は頷き、言葉を続けた。
「それを調べるうちに浮上した名前が南条、すりかえた品物を売りさばいているらしい。けれど、証拠がないから、詰め寄れない。そんな状況のなかで、品物を沖縄へと運び、取引をするらしい情報を得て、行動に出た、と」
「なるほど……」
 弧月は軽く頷きながら何やら思案をしている。
「弥生さんの話では、手紙にもあるとおり、三つの品物はそれをそれぞれ別の手段で沖縄へと運ばれるらしく、ひとつは陸路、ひとつは、南条自身が。もうひとつは……南条の部下が誰かに依頼した……というところまではわかっているらしいんだけど……」
 荘はちらりとトランクを見やった。
「荘さん……」
 呼ばれ、弧月を見つめる。心配そうではあるが、どうしたのかと言葉に出して訊ねてはこない。このまま憂慮していることを話せば聞いてくれるだろうし、話さなければそれはそれとして何もなかったように流してくれるだろう。何かあったのだろうと心配はしていても。
「うん、実は……写真のこれなんだけど……」
 荘は写真のひとつ、桐のような箱が写っているものを指で示した。
「なんだか、見たことがあるような気がして……」
 躊躇いがちに言葉を続けると、弧月は即座に反応してトランクを見つめた。そして、荘を見つめる。荘は重たく頷いた。
「今回の依頼者の名前は、南条ではないし、まったく違う男……だけど、似ているんだよ……」
「彼女は南条の部下が誰かに依頼したと言っていた……その誰かが……荘さん?」
 弧月は複雑な表情で小首を傾げる。
「……かもしれない」
 俯き、荘はため息をつく。可能性は低くはない。いや、むしろ高いような気がする。箱には見覚えがあるし、特別に狙われているわけではない品物を運ぶという楽な任務のわりには、報酬は高い。
「確かめてみた方がいいんじゃないのかな」
 弧月の言葉に顔をあげる。
「まあ、開けてはいけないと言われたわけではないんだけど……そうだよね、確かめてみた方がいいよね」
 荘は自分に言い聞かせるように言った。確かめるかどうかを迷っていたことは、事実。依頼者から荷物を預かった者として、何度も中身を確認するのはどうかと思っていたし、それがまさに写真の品物であったなら、南条の片棒を担いだということになる。それが確定する、してしまうことにためらいとも戸惑いともつかない気持ちを抱えていた。しかし、弧月の言葉の後押しで決心した。
 トランクと向かい合い、番号をあわせ、鍵を使う。難なくトランクは開き、見覚えのある布が現れる。その布をそっと取り払い、姿を現したのは……桐の箱。
「これ……かな?」
 写真と見比べてみる。
「よく似ていますね。もし、これが写真の品であれば……」
 弧月は桐の箱に静かに手を重ねる。しばらくそうしたのち、頷いた。
「……そっか」
 荘は大きく息をついた。なんとも複雑な気持ちだが、しかし、ある意味、楽にもなった。もやもやとしていた気持ちが吹っ切れ、自分がどうするべきか、どうしたいのか、その方向性が固まってくる。
「荘さん……」
 弧月は複雑な表情で自分を見つめている。
「そんな顔しないでよ、弧月さん。俺なら大丈夫……ん?」
 扉の方で僅かな音がした。ずさっというような音に反応し、扉の方を見やる。昴が戻って来たのかと思ったが、扉は開かない。
「荘さん?」
「今、扉の方で音がしたんだけど……」
 相変わらず、扉に反応はない。荘は扉の方へと歩いてみた。すると、扉の前に二つに折られた紙が落ちていた。どうやら、通路から扉の隙間に差し込んだらしい。あの音はそのときの音に違いない。拾いあげ、広げてみる。すると、間に挟まれていたものがひらりと落ちた。
「これは……」
 文面は実に質素。
 取引をしないか、とある。そして、場所と時間。第二倉庫、二十二時。
「荘さん、この写真!」
 落下したものを弧月が拾いあげ、はっとする。それは写真だった。ロープで縛られ、どうやら気を失っているらしい昴と意識はあるが、やはりロープで縛られ身動きは取れそうにない弥生が写っている。
「ふたりとも、捕まって……」                           そのまま言葉を失う。しかし、ふと疑問をおぼえる。こちらにある取引材料とは、トランクに決まっている。相手の取引材料は、昴と弥生。だが、いったい誰が取引をしようというのだろう。今のところ、自分は南条の部下の依頼……つまりは南条の指示で荷物を運んでいるはず。南条は自分が弥生と接触を持ったことを知り、弥生にトランクを渡すのではないかと考え、先手を打ってきた……?
 考えられなくは、ない。
 実際、自分の気持ちは……荘は視線を伏せる。
「荘さん、手紙を見せてもらえるかな?」
「あ、はい」
 手にしていた紙を弧月へと手渡した。弧月は文面を見つめ、小さく唸る。
「目的と場所と時間……本当に用件のみ、か……簡潔だな」
「とりあえず……」
 行くしかないだろう。お互いに顔を見あわせ、深く頷いた。
 
 相手は目的のものを得るために、人質を取るような卑劣な輩。
 展示品を偽物にすりかえ、売り払っているという話も聞くし、とても信用できたものではない。念のため、本物は部屋へと隠してきた。
 ダミーのために用意したトランクを弧月に任せ、指定された時間に指定された場所へと赴く。指定場所である第二倉庫は一般乗客は立入禁止である船倉エリアにある。一般乗客の姿がないのは当たり前にしても、何故か乗務員の姿までもが見当たらない。……侵入には好都合ではあるのだが。
 第二倉庫の扉を見つけ、開く。室内は照明が半分ほど落とされているせいか、それほど明るくはない。いくつもの棚が並び、そこに様々な荷物が並べられている。少しひらけた場所に写真の男、南条と数人の男が待ち構えていた。
「ようこそ。品物は……持ってきたようだな」
 弧月の持つトランクに視線をやり、南条は言う。
「……ふたりは、どこです?」
 ざっと見回したところ、ふたりの姿はない。お互いの手持ちを交換してこその取引、これでは取引が成立しない……とはいえ、自分も本物のトランクを持ってきてはいないのだが。
「君らがおとなしくそれを渡してくれれば、すぐにでも解放する」
 南条はそう言いながら、近くにいる男を示す。男の手には携帯電話が握られていた。取引が成立したら、仲間に連絡を入れ、解放するというのだろう。
「取引として、それはこちらの分があまりにも悪くはないですか?」
「信用の程度はお互いさまだろう。ほとんど、初対面だ。警戒もする」
 南条は尤もらしく言う。
「それに、私はそれさえ取り返すことができればいい。ふたりの命に興味はない」
「俺が依頼を全うしないと考えたわけですか?」
 すると、南条は不可解そうな顔をした。そんな顔をされると、こっちがそんな顔をしそうになってしまう。
「何者かに奪われ、紛失してしまってね……半ば諦めていたんだよ。ところが、それを君が持っているというではないか」
「え……?」
 南条の部下が何者かに運ぶことを手配したのではなかったのだろうか。その何者かが自分であるはず。だが、話が噛みあわない。南条の部下は何者かに品物を運ぶことを手配したのではなく、奪われたのだろうか。そして、その何者かは、今回の依頼主……?
「私を出し抜き、品物を奪ったまではよかったかもしれない。だが、同じ航路を選んだことが間違いだったな……!」
「え、あ……ええ? ……あ」
 同じ航路を選んだも何も、それは依頼によってそうなっていたわけで……それに、出し抜いた覚えもなければ、奪った覚えもない。話の方向がおかしいと思っていると、隣に立つ弧月につんと肘でつつかれた。……そうだ、とにかく、ここは落ちつかなくては。
「さあ、品物を渡してもらおうか」
 南条の声に弧月が歩きだす。弧月が注目を集めるなか、周囲を素早く見やり、相手の人数を正確に把握する。……南条を含め、六人。単純に計算すれば、ひとり三人を相手にすればいいことになるが、しかし、三人。微妙な数だ。相手が特別に格闘等の訓練をしていなければさほど苦労はしないのだろうが、南条はともかく、他の男は護衛の意味で立っているのだろうから、そうもいかないだろう。
「そこに置いたら、そのまま下がれ」
 お互いの距離の中程に位置する作業台を示し、南条は言った。弧月は言われたとおりに作業台にトランクを置くと、そのまま後退する。かわりに男が進み出て、トランクに手をかける。
「ん? 鍵がかかっています」
「なに? おい、鍵はどうした」
「……ああ、すみません。ここにあります。……投げろ、と? それじゃあ……」
 荘は細い鎖のついたキーを取り出すと南条に見せる。それをぐっと握ったあと、下から天井高くに向けて放り投げる。
「……っと、すみません、手が滑っちゃいました……!」
 放物線を描くキーに視線が集中する。それと同時に荘は動いた。その瞬発力に任せて男のひとりへ走り込むとその腹に触れる直前で拳を止める。
「な……何故、打ち込まない……? ……ぐあっ?!」
 直後、男の身体が大きくのけぞり、壁へと叩きつけられる。男はそのままぐったりとして動かない。
「打ち込まなかったわけじゃないですよ」
 男の腹へと打ちつけたものは、拳ではなく、練りこんだ気。ただ拳で打ち込むよりも遙かに威力は勝る。
 さて、これでひとりは倒した。
 自分が動くと同時に弧月も動いている。お互いにノルマは三人。ひとりを倒したから、残るは、ふたり。
 すぐに次なる相手は現れた。
「面白い技を使うじゃないか……」
 拳をならしながら楽しげな表情で言う男の気配は、他の男とは少し違うものであるような気がした。態度も違う。他の男たちが慌てているというのに、微塵も慌てた様子を見せない。むしろ、この展開を楽しんでいるようにさえ感じる。
「いえ、それほど面白くはないですよ……」
 荘は答えながら、身構えた。息をつき、呼吸を整える。
「謙遜するなよ。久々に熱くなれそうだ……さあ、来いよ」
 男は手を伸ばし、かかって来いと手で招く。
「……」
「どうした? 来ないのか? ……では、こちらから行くぞ!」
 男の動きは大柄なわりに、速かった。真っ直ぐに荘へと走り込んでくると、牽制の一撃を振りおろす。見え透いてはいるが、自分よりも大柄な男の一撃。それを受け止めるよりは、退く方が得策と見て、飛びのく。すると、そこへ狙いすました蹴りが繰り出される。咄嗟に腕に気を集中させ、受け流そうと防御をするが、それでも勢いを消しさることはできなかった。踏みとどまれず、後退する。僅かだが、態勢が崩れている今が相手にとっては好機であるはずなのに、男は連続で拳なり蹴りなりを繰り出してはこなかった。
「そうだよな、避けるよな……」
 男は退き、再び、身構える。荘は態勢を立て直し、男に臨んだ。男は避けることを計算したうえで殴りかかってきたことになる。一撃目で相手の動きを牽制し、二撃目を確実にあてる……どうやら本気でかからなくてはならない相手らしい。荘は改めて身構える。
「表情が変わったな。そうだ、それでいい……それ……」
 ぐらり。男の身体が揺れたかと思うと、そのままばたんと倒れてしまう。
「ごめん、荘さん。手出しをするかどうか悩んだんだけれど……時間が……」
 弧月だった。背後からの一撃はあっさりと決まったらしい。見れば、場に立っているのは自分たちだけだった。
「いや、ありがとう。助かったよ、弧月さん」
 ちょっぴり残念のような、それでいて安心したような……なんとも複雑な気持ちで荘は笑みを浮かべた。
 
 気を失っている南条からブルーカードを奪い、その部屋へと赴く。
 そして、なんだかんだありながらも無事に救出。いわくのある鏡を回収し、弧月が教授へと届けることになった。博物館に展示されている偽物は、既に教授のもとへ回収されているので、これに関しての問題はない。
 その後、弥生の護衛につくと、南条は手を出してこなかったものの、倉庫のあの男が個人的に再戦にやって来たり、どうにか勝ったらリベンジを宣言して去って行ったりと慌ただしくはあったが、無事に沖縄へと辿り着いた。
「ありがとう、御子柴さん」
「いえ……」
「あ……また……」
「? どうかしましたか?」
 その言葉の意味を訊ねると、弥生は少し躊躇ったあとに、口を開いた。
「御子柴さん、護衛についてくれたあと、時々……ふっと哀しそうな目をするんです……それが、気になっていて……今も、その目をしてる」
 そして、真っ直ぐに荘を見つめる。
「そう……だったんですか……」
 そんなつもりはなかったのに。荘は苦笑いを浮かべ、困ったような表情でこめかみを指でかく。
「あの……私のせいで、何か……」
「違います、あなたのせいではないんです」
 荘は手で制し、即座にそう言った。そして、トランクを取り出し、中身を、桐の箱を弥生へと見せる。
「これは……!」
「俺が沖縄まで運ぶことを依頼されたものです。……知らなかったんです」
 荘は俯き、言葉を付け足す。
「けれど、知らなかったとはいえ、騙してすみませんでした。でも……」
 顔をあげ、弥生を見つめる。
「確かになんでもやりますが、人として外れたことはやりませんから」
 そして、穏やかに、優しく微笑んだつもりだった。だが、その笑みはどこか寂しげなものになってしまう。自分でそれがわかるから、身を翻した。
「さよなら、弥生さん」
 小さく告げ、歩きだす。振り向かず、このまま行こうと心に誓う。
「御子柴さん!」
 呼ばれ、思わず、足を止める。だが、振り向くことはしなかった。すると、駆けてくる靴音が響き、弥生が腕を掴んだ。
「御子柴さん……私、なんにも知らなくて……ごめんなさい……」
「謝らないでください。あなたは、悪くないのだから」
 少し苦笑い気味の笑みを返すと、弥生は耳元に手をやった。そして、荘の手に何かを握らせる。……イヤリングだった。
「次に会うときまで、預かっていてください。勝手なお願いですけど……でも……」
「……はい」
 荘はこくりと頷く。
「わかりました。お預かりしておきます」
 弥生はその言葉に微笑むとぺこりと頭を下げて、荘から離れる。遠くから弥生に呼びかけている男がいた。……三上かもしれない。
 弥生を見送り、歩きだす。ふと見れば、弧月と昴がじっと自分を見つめていた。
「さて、沖縄観光といきましょうか」
 依頼は変更、手にいれたものは、イヤリング。それと、少し苦い思い出か……荘は弧月と昴の肩を叩くと眩しそうに空を見あげた。
 
 後日。
 仕事を依頼してきた男はわかっている。その事務所もわかっている。既にもぬけの空の可能性はあれど、確かめておくことは間違いではないはず。
 扉を開く。
「……いたよ……」
 自分に依頼を持ちかけてきた男はそこにいた。思わず、呟いてしまう。
「ん? ああ、よく来たね。依頼は無事に終了。残りを払おうか」
「ちょっと待ってください。依頼は……言われた住所に品物を届けてはいませんから」
 品物は届けずに弥生に渡してしまった。依頼は破棄されている。
「そう? じゃあ、いらないなら、いい」
「え? いります、いります……ではなくて。きちんと説明してくださいよ」
「説明……いるのかな。君はわかっているのではないかな?」
 男は荘をじっと見つめ、そう言った。
「……。あなたは南条の部下から品物を奪った。そして、俺に品物を運ぶように依頼してきた。そのあとで、南条に俺が品物を運んでいることを告げた……」
 男は大きく頷きながら荘の話を聞く。
「ある男が展示品を売りさばいているのだが、本人はなかなか動かない。捕らえられるのは上には繋がらぬ下っぱばかり……どうにかしてください、との依頼。どうにかしてくれてありがとう。南条とその一派は見事に捕まったよ」
 男はにこりと笑う。荘は深いため息をついた。
「俺たちが、囮だったんですね……。ですが、事情を話しておいてくれてもよかったんじゃないですか?」
「まあ、そうなんだけどね。知らない方が真に迫っていていいかな、とか。あ、そうそう、仕事を引き受けないか?」
 男の言葉に、荘はにこりと笑う。
「……引き受けませんっ」
「残念だなー、話題沸騰間違いなしのリゾート地に営業前に滞在できるんだけどなー……」
 男は誰に言うとはなしに言ったあと、ちらりと荘を見やる。
「……話だけなら聞きましょうか」
「そうこなくては。今回の依頼は……」
 男の表情が変わる。
「……」
 荘は真剣に話し始めた男の話を聞きながら、深いため息をついた。
 
 −完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1085/御子柴・荘(みこしば・しょう)/男/21歳/錬気士】
【1582/柚品・弧月(ゆしな・こげつ)/男/22歳/大学生】
【2093/天樹・昴(あまぎ・すばる)/男/21歳/大学生&喫茶店店長】


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■         ライター通信          ■
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ご乗船、ありがとうございます(敬礼)
そして、お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

こんにちは、御子柴さま。
納品が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。
気というと、触れずに人を吹っ飛ばすイメージが……戦闘方法が間違っていたら、すみません(汗)
最後に、#1から#3までの連続参加、本当にありがとうございました。

願わくば、この旅が思い出の1ページとなりますように。