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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


鍔鳴り
『ちょっとやばいのを仕入れたんだけど、来るかい?』
 突如そんな連絡が来たのは、深夜。
 連絡した主は良く知っている。いつも開いているのかいないのか良く分からない店でけだるそうに煙管を燻らせている女性――碧摩蓮。
 何を仕入れたのかと聞けば、刀だと言う。
 毎度どういったつてを使えばあからさまにいわくつきと分かる品を手に入れられるのか、謎ではあるが。
 仲介する者も嫌がるだろうに…そう聞いても、煙の向こうでくすぐったそうに笑うのみなのだから。

「これ」
 しゅるりと紫の房紐を解き、するすると滑らかな刀袋から刀を半分ほど覗かせる。
 一見した所では、普通の刀のように見える。だが、鞘にこれでもかと言う程べたべたと貼られているお札を見れば、それだけでも普通の神経の持ち主なら引くだろう。
「鍔と鞘を繋いでる札は結局破れちゃったんだよね」
 あっさりとそんな事を言い、く、と僅かに力を入れて鯉口を切った。ぎらりと店内の光を受けて刀がゆっくりとその刀身を晒して行く。
「何を好き好んで血を好むんだか」
 不穏な事を呟くと、半ばにしてかちん、と音を立てながら再び鞘に戻す。
「――で。頼みなんだけどね」
 無造作とも言える、だが的確な動作でくるくると房紐を巻いてきゅっと縛り直すと、
「妖刀じゃ無くしてくれ、とまでは言わないから。せめて人血を好むのだけはやめさせてくれないかな」
 テーブルの上にごとりと其れを置いた。
「せっかく売っても買主が1年と保たないんじゃ、世に作られた身が勿体無いしね」
 どう?
 そう聞いた蓮の目は、それでも何故か楽しげに輝いていた。

*****

 暑いのと暇なのとで夜に内緒で遊びに来ていた所、店へと電話がかかってきた。
 其れを受けにいった延虎が暫くして戻ってくるのを感じていたのだが、店の探検をするのに忙しい賈花霞は他のことに興味しんしんで背中を向けたままで。そんな彼女の背に、
「花霞、一緒に行かないか」
 延虎が声を掛けて来た。其の言葉にくるんと振り返った花霞は首を傾げ、
「どこに?」
 首を傾げたままで訊ねる。行かないかということは家に戻すつもりではなさそうだと思いながら。
 延虎が語った内容はと言うと、アンティークショップの店主から仕事らしい誘いを受けた、とのことで。
 話題が刀のこととあって、花霞も興味を持ったらしく。
「刀なの?――それじゃ、花霞が行ってあげないとね?だよね?」
 せっとくするの、と言い切った少女に、そうだな、と頷いた延虎と一緒に出かけることになった。
「おうちに電話しなくていい?」
「しなくていい」
 きっぱりと言い切る延虎。連絡をしたときの事を考えたのか一瞬嫌な顔になり、次には普通の顔に戻して花霞へと手を差し出した。

*****

「その刀――妖刀だろうと俺も構わないんだが。売り物にするつもりなのか?」
 テーブルの上に置かれた刀にじっと視線を注ぎながら霧葉が呟いて、ちらっと蓮を見つめ。その目を見返しながら軽く蓮が頷く。
「仕入れたなら当たり前だよ。…もしかして欲しいの?コレ」
 触れることに躊躇はないのか、抜いてないから平気なのか、刀袋に入れたままの其れをすぅ、と目線の高さまで持ち上げる蓮。
「ああ」
「――いくら出す?」
 細い腕でよくも支えられるものだと思うのだが、蓮は軽々とその刀を片手に持ち、腕の中に抱えた。
「今回のバイト料でどうだ?」
 霧葉の言葉に、蓮が猫のような瞳を細めて笑い。
「足りると、思う?」
 その一言に、後ろの4人の目ははっきりと言っていた。
 絶対足らない、と。
「…まあ。無事に残ったら考えてあげるよ」
 それだけ言った蓮が、皆がどう反応するのか待つようにじっと5人の顔を眺め回した。
 ――蓮の腕に抱かれた剣は、布の袋に包まれたままでいる。先程ちらと見た札も、調べてみなければ詳しい事は分からないだろう。
「そういえば。今までの持ち主の話、どうだった?」
 腕にその刀を抱えたまま、ふぅ、と宙に紫煙を吐き出し。
「あたしが知ってる限りでは全員死んでるっていうくらいしか知らないけど」
 ちら、と切れ長の目をセレスティへと向けた。その目に促され、静かに語りだす。
「同業者の方に伺って来ましたが、その方の知る限りでも皆さん亡くなられています。それも、全て刀傷で。中には鑑定人に切り殺されて持ち逃げされた方も居たようですね。――尤もその鑑定人も自殺か他殺か、畳に刀で縫い付けられていたそうですけど」
 それから、事件の証拠として保管されていても、気付けば店に流れているという話も聞いて来たとセレスティが言う。
 ああ、とその言葉に同意しながら、蓮が続ける。
「不思議なことに、そう…あたしらのような店が手に入れたときだけは、大人しいのさ。店から出たらまた近いうちに舞い戻ってくるんだろ、どっぷりと血を啜った後でさ」
 ふと眉を潜めた左京。
「ずっとその刀を売ってたわけじゃないよな」
 猜疑に満ちた声にも涼しげな顔を崩さないまま、
「言ったろ?仕入れたって。――初顔合わせだよ」
 そう言って、くすぐったそうに笑った。
「ねえねえ、その子はどうやってここに来たの?」
 大きな青年の隣にいた少女が、不思議そうに首を傾げながら訊ねて来た。
「詳しい話は企業秘密だけど。まあ…持ち主が死んだ、ってことだよ。例によってね」
「なるほどな。…それでは、見せて戴くとしようか。――この刀が作られた経緯は知らないのか?」
 延虎が手を出しながら訊ねるが、蓮は「いや」と呟き、
「源平の頃に作られたとか言う話もあるけど眉唾だね。どんなに古くても鎌倉よりは後だ。ただし、匠の名は無いよ。どちらかと言うと無名の人間が打ち込んだんじゃないかな」
 かつん、と灰吹きに煙管を叩きつけ、刀をテーブルに置いて立ち上がる。
「何かしら決着が付いたら教えて。少し寝て来る」
 夜更かしは肌に悪いしね、とこの時間に皆を呼びつけたことなどお構い無しでそう言い放つとゆらりと奥へ行きかけ、くるりと振り返り。
「店の物壊したら弁償してもらうからね」
 薄く笑みを浮かべつつ、踵を返して奥へ消えた。
「――勝手な事を」
 延虎がわしっと刀袋を掴み、するすると手馴れた手つきで袋の紐を解いて行く。その直ぐ隣ではわくわくした目で見つめている花霞の姿。
 左京と霧葉はテーブルを挟んで目の前に居て、セレスティが一番距離を取りながら刀だけでなく周囲にも目を光らせていた。

*****

 くっ、と鯉口を開く静かな音がする。――しん、とした店に一斉に緊張が走り、
 すぅ――と。
 店の灯りに白々と刀の刀身が浮かび上がった。ほぅ、と霧葉の口から小さな声が漏れる。
「見事だな」
 柄と鞘の拵えは少々古びているように見えるものの、刀身は美術品の域に十分達していた。尤も鞘も柄も今はべたべたと貼られた札で状態が良く見えなくなっているのだが。
 まるで一幅の絵のような、そんな刃文が灯りの微妙な加減に陰影を浮き立たせている。常に誰かは手入れを行っているのか、刃そのものが痛んでいる様子はまるで見られない。
「分解した方がいいんだろうな。――どんな感じだ?」
 左京が、柄を持って刃を見つめている延虎に訊ねる。軽く首を捻った延虎が、不思議そうに、
「負の気配はあるのだが…」
「…そうですね。でも、強くは無い――そうでしょう?」
 セレスティの言葉にこくりと頷く。
「フーちゃん、この子とお話していい?」
 ひょこっと顔を出した花霞が、危険性は今の所薄いと見たか目を輝かせて顔を上げる。
「――いや、まだ安全かどうか確認してからだな…」
「ええ〜」
 ぷぅっと頬を膨らませる花霞に困ったような顔をする延虎。其れを見た左京が小さく笑い、
「俺も、その説得を手伝おう。2人なら大丈夫じゃないか?」
 そう提案した。刀に興味津々な花霞が、其れを聞いてにっこりと笑い、くいくい、と延虎の袖を引く。
「わかったわかった。――何かあったら容赦なく引き離すぞ」
「うん」
「終わったら俺にも貸してくれ。じっくりと見てみたい」
「ああ、分かったよ」
 霧葉がその言葉を聞いて、暫く何もすることが無いとばかりに店の片隅で椅子を引き出してすとんと腰を降ろす。
「それでは…私は、鞘の方を見せて戴きますね」
 セレスティはそう言うと、鞘を手にして皆から少し離れ、集中し始めた。その様子をちらと見た後で、左京と花霞が延虎の監視の元、刀に近寄って行く。

*****

 おしえて――どうして、そんなことをするの?
 その質問に対し、返って来た答えは、喜びだった。
 ――え?
 まるで幼子のように、問い掛ける2人――隣で同じように語りかけている左京と花霞へ、ご挨拶とばかりにふわっと柔らかな気配が包み込む。それは、明らかに歓迎の印。
 あれぇ?
 思わず大きく首を傾げてしまうのだが、その疑問は隣にいる左京も持ったらしく何やら複雑な表情を浮かべていた。
 今まで起こしたと聞いた買主への仕打ちの数々を、覚えがあるのか聞いてみる。と、肯定の意を受けて、じゃあどうしてそういうことをしたのか?と続けて訊ねてみた。
 ――かえりたかった、から。
 散々戸惑った挙句の答えは、花霞が解釈したところではそういう言葉のイメージだった。どうやら、自分でしっかり話すところまでは成長していないらしく。最初の幼子のように、と思ったそのままの感覚で居るらしい。
 自分が『何』をしたのか。
 その把握が出来ていないのだ。
 …把握できていないのに…人を殺して来たのだろうか。その答えに「かえりたかった」と言われても、花霞自身戸惑うしかない。
 元々自身も似たような経歴を持っているが故に、武器として生まれた事を悔いた事はない。だが、この刀はまだそれがどう言う意味を持つのか、何故封印までされて閉じこめられなければならなかったのか、その辺りの感覚は持ち合わせていないようだった。――閉じこめられて怒っている様子もまるでなく、きょとんとしているようだったが。
 そう。
 『怒り』は全く感じ取れなかった。
 ――そんな簡単に切っちゃダメだよ?
 その言葉さえ、意味が通じているのか酷く怪しい。が、相手は素直に了承し、そして不安定な、柔らかな感覚を花霞に伝え続けている。

 ――ぞく。
 其処に、何か分からないが…嫌な、とても嫌な気配がした。自分よりむしろ延虎の領分だろうと思われる、負の気配にぱちりと目を開ける。
 その途端、ふっと気配が消え、そして再び大歓迎の意が花霞達を包み込んだ。
 顔を巡らせて、隣で一緒に話し掛けていた左京を見上げる。向こうも丁度話し終えた直後だったらしく、ふっと顔を上げ、そして花霞を見下ろしてくる。そんな青年ににこりと笑いかけた。――刀と同じく、『同類』の気配を感じる青年に。
「大丈夫だったみたいだな」
「うん。いい子だったよ」
 すぐ近くの延虎へも笑いかける。その、テーブルに置かれた刀に、済んだと思ったか霧葉が椅子を立って近づいてきた。
「もういいか?」
「ああ、問題ない」
 左京が答え、そして刀へ軽く手を向ける。

 霧葉がその言葉を聞いてそうか、と呟きながら、初めてその剣を手にした。――そっと、慎重に柄に手を触れ、そして刃へと視線を注ぐ。
 先程まで触れる程近くで見る事が叶わなかったせいか、今回の観察は細かかった。刃だけでなく、柄の拵えにも視線を注いで、
「ん?」
 ふと、眉を寄せた。柄に何かあったのか、視線を近づけ、そして指先で執拗に何度も触れる。
「おかしいな」
「なんだ?何かあったのか」
「何かと言うほどじゃないんだが…良く見えないな」
 柄に貼られていた札をぺりぺりと一枚剥がす。その下にも重ねるように札が貼ってあり、ちっ、と舌打ちしてもう一枚、ついでと柄に貼られていた札を全て剥がして改めて柄へ顔を近づけていった。
「これだけしっかりした作りなのに、鮫じゃないのか…」
 きちんと編まれた柄巻きの糸を軽く指で弾き、その下の皮へとまた指を滑らせる。その度、寄せられた眉が深くなり…。
 そして、ゆっくりと口を開くと。
「――鞘は…何処だ?」
 言うなり、ぐるんと周囲を見渡した。

 ――鬼気が噴出しそうな、凍りついた視線のまま。

*****

「きゃあっ」
 何処へ向かうつもりなのか、がつん、とテーブルに足がぶつかる。その勢いで直ぐ隣に居た少女が小さく悲鳴を上げてぺたんと床に座り込んだ。
「花霞、大丈夫か」
「うん…怪我はしてないよ」
 ほっと息を吐いた延虎。それ以上少女へと霧葉が近寄らないよう、左京が足を踏み出して立ち塞がる形になった。
 視線は霧葉から外さずに…周囲の状況を読み取ろうと目を僅かに細める。
 刀の切っ先が、目の前にいる左京へとぴたりと向けられた。
 直ぐ傍らの延虎が、彼愛用の瓢箪へと手を伸ばそうとしているのが見える。その服の裾をくいくいと引張って止め、大丈夫と言うように笑いかけると――今度は霧葉へと視線を向けた。左京と向き合っている霧葉…その手にある刀へと意識を向け、何か行動を起こしたら直ぐにでも止めるつもりで。
 ――抜き身を隙のない構えで構えている霧葉を困った顔で見ていた左京は、彼から目を離す訳にも行かずどうにも仕様のない姿勢でいる。
「………」
 すぅっ、と。
 感情の篭らない表情で皆の顔を1人1人見回し、それからゆっくりと――首を傾げた。無表情だった霧葉の顔に戸惑いが浮かんでいる。
 左京へと向けられた刃もゆっくりと下がり、そして思い直したように刃を自分へと向けた。
「あぶないよぅ。止めてよフーちゃん」
「そうは言われてもな。…自殺させるつもりなのか」
「何とかしてみよう。こっちに危害を加える気は無いらしいしな」
 左京がそう言いながら一歩足を踏み出す。一瞬刃先が左京を向きながらも、やはり戸惑うように揺れて再びくるりと霧葉へ向く――その瞬間、左京が踏み込みを利用してばねのように相手へと肉薄し、その腕をがしりと掴んだ。
「少し戴くぞ」
 ぶわっとその『場』の気が膨れ上がり、そして微動だにせずに居た霧葉が、くたくたと床にしゃがみこんだ。その身体を支えながら、力の無い腕から刀をもぎ取り顔を顰める。
「此れを」
 左京が鞘を差し出してきたセレスティへ刀ごと手渡し、そして自分は霧葉の身体を支えて椅子に座らせ。その背後で、
 ――ちん、と。
 小さな金属音がし、刀が嬉しそうに鞘の中へと納まっていった。
 それはまさしく、嬉しそう、という表現が似合う。
「大人しい子だったのに、どうして?」
 花霞が刀を見て呟き、延虎が知らない、と言うように首を振る。
「刀を鍛えた人間は普通だったようなんですけれどね…拵えを作らせた人間に、問題があったらしいです」
 下げ緒でしっかりと刀を固定し、鞘から外れないようにしたセレスティがやれやれと肩を竦めながら口にした。
「鞘に戻ることを望んでたような刀が問題を起こすのか?」
「――鞘が普通のものであればね」
 左京が眉を潜め、ああ、と刀を改めて調べていた延虎が納得したように声を上げる。
「そうか。だから、鞘か――気の毒にな。作らせたヤツには同情の余地もないが、この刀は可哀想だ」
「?」
 意味が良く分からないのだろう。かくん、と首を傾げた花霞に、苦笑を浮かべた延虎がぽむぽむと彼女の頭を撫で、
「鞘に塗られた漆には多量の血が混じってる。――まあ間違いなく人血だろうな。で、柄の方は…流石に糸に髪を使う事はしなかったらしいが、皮の方は人間だ」
「人の皮?」
「そういうこと。刀は単に、『鞘』の中へ戻ろうとしていただけなんだろうな。一番手近な、ヒトの身体の中へ」
 そして、今回選ばれたのは、霧葉だったと言う事なのだろう。
 ちらと霧葉を見ると意識が戻ったのかゆるゆると頭を振っている青年の姿が見え。
 そして4人はどことなく複雑な顔を見合わせ、困ったような、照れくさいような苦笑いを浮かべた。

*****

 鞘の中に収まった刀は、すっかり大人しくなってころんとテーブルの上に転がっている。
「なるほど」
 こりこりと煙管でこめかみを掻いた蓮が、さほど被害の出なかった店内を見渡し、それから改めて刀へと目を落した。
「刃には問題が無かったんだね?」
「ああ」
「うん、それは間違いないよ。ねっ?」
 花霞の言葉に、左京が応えて頷く。
「霧葉は?」
「――いい刀だが、気持ち悪かった――その後のことは良く覚えていないんだがな」
 それでも手放したのが勿体無いのだろう。何か未練ありげに刀を見つめている。
「このまま放置したらやっぱり同じことが起こるんだろうねぇ」
 刀の本来の価値はその刃に有るとは言え、この拵えだって素人の作りではない。きちんとした――性格はともかく――プロの作業で、これだって無料ではない。
「起こるでしょうね。刀にしてみれば、自分に課せられた呪縛に気付いていないのですから。…非常に素直な良い剣だという意見にもなりますけれど…すぐに拵えを作り直すことをお勧めしますよ。拵えによっては、今よりも価値が出ると思いますしね」
「それにしても悪趣味な。…鮫じゃなく牛ってのは知ってるけど、人皮の柄巻きは初めてだ」
 ふぅ、と息を吐いてしょうがないね、と呟く。
「刀剣専門店じゃあるまいし、刃だけ飾ってても商売にならないしねぇ――そうだ。欲しいって言っていたみたいだけど、買うかい?」
「安けりゃな」
「足元見ちゃってまぁ。――刀剣屋に売りさばきゃ結構な値が付く品なんだよ?それを売ってやろうってのにねぇ」
 とは言え、普段から営業しているのかどうかさえ良く分からない店のこと。ふふっ、と楽しげに笑うと、
「刃部分だけってことで割安にしてやろうかね」
 ゆらりと、起こされた時に奥から持ってきたのだろう、解体道具を手に手早く刀を分解し。
「拵えや研ぎがほしけりゃ連絡寄越しな」
 簡単に油紙を巻きつけ、その上を布で巻いてぽんと霧葉に手渡す。
「ああ、覚えておくよ」
 大事そうにその刀を受け取った霧葉が嬉しそうにそれに答え。
「良かったね」
 なでなで、と刀――布に巻かれた其れに花霞がそっと小さな手を出して触れた。少しばかり、寂しそうに。
「いい子でいてね」
 その少女の頭を延虎がぽむ、と撫でる。
「さーて。それじゃご苦労さん、あたしは寝直すよ」
 蓮がだるそうに首を回し、そしてひらひらと手を振る。
「店は大丈夫なのか?」
「あー平気平気。開けっ放しでもそう簡単に客は入って来れないし」
 左京がその言葉を聞いて苦笑し、だろうな、と呟いた。
 おやすみー、と言うだけ言った蓮がゆらゆらと揺れながら奥へ消えていく。
 その時になって、店の外が明るくなり始めていることに皆ようやく気付いたようだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1651/賈・花霞        /女性/600/小学生          】
【2349/帯刀・左京       /男性/398/付喪神          】
【2622/游・延虎        /男性/999/冥界の武官(禦侮)    】
【3448/流飛・霧葉       /男性/ 18/無職           】

NPC
碧摩蓮

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。「鍔鳴り」をお届けします。
武器として生まれた物ですから、結局は命のやりとりをせずには居られないのでしょうけれど、今度はまともな衣を着せてもらって、知性ある刀として成長を遂げて行ってもらいたいと思います。

それから、今回は人間外の方が多く集まって下さったので『鞘』としての適性を持った人物として流飛PCを選ばせてもらいましたが、もし彼の肉体も人間で無かったら少々矛盾が起こってしまいますが、その場合は申し訳ありません(汗)
それにしても年齢3桁PCがここまで揃うと圧巻ですね。

そして、今回の参加ありがとうございました。
また、別の物語でお会いできることを楽しみにしています。
間垣久実