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<東京怪談・PCゲームノベル>


 アトランティック・ブルー #3
  
「あら、あらあら。仕方がないですね」
 べつにトラブルに巻き込まれてこいというつもりで渡したつもりはない。ただ、ふたりに仲良くしてほしかっただけ。なのに、船が出航し、旅を楽しんでいるだろうと思っている矢先に相次ぐふたりからの電話は、楽しんでいるよという報告ではなく、あれを調べてくれ、これを調べてくれというものだった。
 いったい何に首を突っ込んでいるのやら……智恵美は受話器を置いたあとに、小さなため息をつく。顔に浮かぶ穏やかな笑みが少しだけ苦笑いになってしまうのも仕方がないはず。
 さて、頼まれたことを調べなくては。
 ここまでの人生において培ってきた多方面に渡る人脈を使い、裕介と明日菜が知りたがっていること、そして、アトランティック・ブルー号の状況を調べる。
 裕介が知りたがっていたことは、アトランティック・ブルー号に潜入している企業や組織についてとプリンセス・ブルー号について。プリンセス・ブルー号については、過去に自分の記憶にも残っているような有名な事件があったため、調べるまでもなく手元に資料がある。およそ十年ほど前に、アトランティック・ブルー号と同じように世間を騒がせた豪華客船。処女航海で行方不明となり、沈没したことが気になり、当時、少し調べてみたが、事件性はなかった。
 今となっては忘れ去られているに等しいその名前を裕介がどうして気にするのかはわからないが、とりあえず当時の簡単な資料を探し出し、FAXで送っておいた。
 次に潜入している企業や組織についてを調べてみる。裕介は高木という名前を口にしていたから、リストアップされた企業や組織のなかでその名前があるものを探してみる。と、割合と簡単に絞り込むことができた。
 高木という名前が属している企業はサークル・オブ・ライフ社。COLと略される。
 COLことサークル・オブ・ライフ社は『ゆりかごから墓場まで、豊かな生活をコーディネイトする』という言葉を掲げて経営活動をしている生活用品一般を扱う企業で、生活に関わる品物で発売していないものはないだろうとまで言われている大手だが、日本での活動はそう活発ではない。
 高木は企業の裏方を担う存在であるらしく、厄介なことが起こるとそれが大事にならないように処理してきたらしい……ということは。
 つまり、そういうこと。
 あらあらあら……智恵美は苦笑いを浮かべながら、高木が処理を任されるような不祥事が起こっているのかどうかを調べてみる。すると、直接関係あるのかどうかはわからないが、子守用に開発されたという人型ロボットの試作品が姿を消しているということがわかった。そして、その開発者である進藤茜がアトランティック・ブルー号に乗船していることもわかった。
 これだけではなんなので、子守用に開発された試作品がどういったものなのかも調べてみた。試作品には取得した情報をもとに姿を変える機能や、誘拐などの事件のことも考えた護衛機能がついているとある。仕様だけを見ていると子守用ではなく、戦闘用に思えてならない。
「……。いったい、何に首を突っ込んでいるの……?」
 思わず、口にだして呟いてしまう。
 気を取り直し、明日菜から送られてきたFAXについて調べてみる。
 写真が四枚と手紙らしき文面。
 四枚の写真のうち三枚は品物で、一枚だけが人物だった。
 品物は、古そうな鏡、絵巻物でも入っていそうな細長い桐の箱、龍宮城の玉手箱を思わせるような漆の箱の三点。
 人物は恰幅がいい中年の男。
 そして、手紙だが、その内容は気になるものだった。
『ひとつは陸路、もうひとつは海路、残るひとつの経路は不明だ。私は陸路を押さえる。君は海路をよろしく頼む。乗船券はどうにか手配した。三上。追伸。あまり無茶はしないように』
 送られてきたものだけで推測をたてるなら、写真の三枚の品物は三通りの運ばれ方をしている。海路による手段は、おそらくアトランティック・ブルー号。中年の男は品物を手にしている人物なのだろう。追伸の部分を見ると、心配しているように思えるので男が手にしているものを盗むというよりは、見張る、もしくは取り返すといったところが妥当だろうか。
 推測から骨董品の類の盗難事件を探ってみる。しかし、盗難事件は起こっているものの、写真の品物ではない。そこで、方向を変えて調べてみることにした。こういったものを所有しているのは、好事家や博物館、ある程度の方向づけはできる。絞り込み、調べた結果、三つの品物はとある博物館で展示されているものだと判明した。
 早速、博物館に三つの品物と写真の人物について問い合わせをしてみる。どれも展示されており、写真の男は南条という名前であるという回答を得た。
 現在、展示されていると言っていたが、手紙の内容からすると、運ばれているらしい感は拭えない。
 明日菜が調べてくれと言ってきたのだから、それなりの事件性はあると考えていいだろう。そうなると……やはり、つまりはそういうこと。
「……。いったい、何に首を突っ込んでいるの……?」
 再び、そう突っ込まずにはいられなかった。
 
 ふたりに頼まれたことを調べたあと、アトランティック・ブルー号が寄港する港へと向かい、乗船のための手続きを行う。
 まさか自分がこの船に乗船することになろうとは。智恵美は眩しそうに白い船体を見あげたあと、乗船した。
 そのままふたりの部屋へと直行し、扉をコンコンと叩く。ややあってから、明日菜の声がして、扉が開いた。
「はーい……と。……あれ?」
 扉を開け、自分を見つめた明日菜はにこやかではあったものの、なんだか合点がいかないような顔をする。そのあと、驚きの声をあげた。
「えーっ?!」
 声をあげたことに反応したのか、次は裕介が現れた。
「どうしたんですか……ああっ?!」
「はい、こんにちは」
 驚きを隠そうとしない……いや、隠せないふたりににこやかに挨拶をする。
「こんにちは……って、どうして、ここに?!」
 異口同音、明日菜と裕介はそんな驚きの声をあげる。
「部屋には入れてもらえないのかしら?」
 智恵美はふたりの反応を楽しんだあと、僅かに小首を傾げ、そう言った。
「そんなこと! ささ、どうぞ……」
 裕介はにこやかに智恵美を招き入れる。
「ありがとう」
 穏やかな表情を浮かべ、悠然とふたりの横を通りすぎ、智恵美は部屋へと入った。部屋のなかには高校生くらいの少女がいて、智恵美に気がつくと軽く会釈をした。同じように会釈をしたあと、ついてこないふたりに気がつき、声をかける。
「どうしたの? ふたりともこちらへいらっしゃい」
 そして、少し大きめの封筒を取り出し、それぞれに渡した。
「ふたりに頼まれていたものです」
 とりあえず、これで頼まれていたことは果たした。そのあとで、ふたりが遭遇した出来事についてを訊ねてみる。
 明日菜は調べたものとはまた別の問題を抱えており、話を聞いたあとそれに関する助言を添えた。そのあとで、明日菜は茶封筒を差し出し、お願いと拝んできた。
「調べてもらったこれね、女の人が落としたものなの。返そうと思っているんだけど、なかなか探している余裕がなくて……」
 かわりに探し出し、返しておいてほしいということらしい。話を聞いていると、確かに調べた件に関することを対処する余裕はなさそうに思えるので、わかったわと頷いておいた。
「ありがとう、それともうひとつ……」
 明日菜は苦笑いのような照れ笑いのような複雑な笑みを浮かべながら人指し指をたてる。
「なんです?」
「医務室にさっき話した倒れていた直江クンの様子をみてもらえたらなーって。彼ら、これからライヴみたいだし……」
「わかったわ、医務室ね。これから行って様子をみてみましょう」
「ありがとう! じゃあ、ちょろんと事件を解決してくるから」
 それじゃ!と手をあげ、明日菜は部屋を出て行った。それを見送ったあと、裕介の話を聞き、それに対する助言を添えたあと、封筒を手に部屋をあとにした。
 
 医務室の直江の様子をみて、治療を施したあと、明日菜から頼まれたもうひとつのことを実行するために、封筒を落としたという女性を探すことにした。
 顔も知らない相手ではあるが、手掛かりは、ある。落としたという封筒を媒体として探索の魔法を発動させる。感覚が告げる方向へと足を進め、プロムナードの近くで目的の人物と思われる女性をみつけた。
「こんにちは」
「きゃあっ……あ、ああ……」
 他に集中していたものがあったらしく、二十代半ばにはなっていないだろうその女性は小さな悲鳴をあげる。
「驚かせてしまいましたね。ごめんなさい」
「い、いえ、私の方こそすみません。全然、気がついていなくて、つい……」
 胸に手を添えながら息を整え、苦笑いを浮かべる。
「間違っていたら、ごめんなさい。これ、あなたのものでよろしいのかしら?」
 智恵美は茶封筒をそっと差し出す。間違ってはいないはずだが、とりあえずそんな言葉を添えておいた。
「あ! これ……どこでなくしてしまったんだろうって思っていたんです。ありがとうございます」
「いいえ。でもね、中身を見せていただいてしまったの」
「あ、いいんです、全然、構いません」
「ごめんなさいね。……何か、困っていらっしゃるように思えるのですが、お話を聞かせていただけませんか? もしかしたら、力になれるかもしれません」
 智恵美は穏やかな表情で優しく言葉をかけた。女性は戸惑うような表情を見せたあと、智恵美をじっと見つめる。
「信じてもらえないかもしれませんが……私はある男を追っているんです」
「封筒のなかにあった写真の人ですね? ……あなたは探偵さんか何かですか?」
「いえ、学生です。ある博物館でお手伝いをしています。中身をご覧になったんですよね? あの三つの品物は、博物館で展示されているものなんです」
 その話は知っている。博物館に確認をとっているから間違いない。だが智恵美は何も言わずに話を聞いた。
「個人所有の品物でしたが、寄贈していただけることになり、展示していたのですが……南条さん……写真の人なんですが、その人は博物館と所有者さんとの間に立って、話をつける……言ってみれば、仲買人のようなことをしているわけなんですが、その人の行動がおかしいことに三上さんが気づいて……あ、三上さんというのは、博物館の人です」
 三上。手紙を書いたと思われる人物で、その手紙によれば、目の前の彼女と同じように三つの品のうちのひとつを陸路を追っているはず。智恵美は相槌を打ちながら話を聞き続けた。
「南条さんが話をつけてくれた展示品なんですが、それがどうやら本物ではないらしいんです。最初は、本物でした。でも、いつの間にか複製にすりかわっていて……もちろん、博物館に展示する際に複製を作る場合もあるんですが……今回の場合はそうではなくて……どうやら、本物であった展示品がどこかに持ち去られているみたいなんです」
 戸惑う表情で女性は続ける。
「そのすりかえられ、持ち去られた品物が南条さんに売りさばかれているらしいことがわかりました。南条さんはなかなか慎重な人で、隙を見せなかったんですが……どうにか、今回、情報を掴みました。沖縄でそういった裏側の取引が行われるらしいんです」
「南条さんという方が、写真の品物を沖縄へ運んでいるというわけですね?」
 手紙の内容からすると、南条が運んでいるものはひとつ。他のふたつは別の手段で運ばれているはず。南条が持つものはここで止めたとしても、他のふたつの品は売買されてしまうかもしれない。そうなると取り戻すことに苦労する可能性が高い。ここはひとつ……智恵美はコネを使い、取引ルートを一時的にせよふさぐことを考える。
「はい、そうなんです。でも、まだ、疑惑でしかないから、あまり騒ぎ立てるわけにもいかなくて……とにかく、証拠を押さえようと、今回、私と三上さんは動きました」
「そう、やはり盗まれた品物を取り戻そうとしているのですね。手紙の内容からそうなのではないかと思ったのですが……やはりそれで間違いはなかったようですね」
「はい。取引をされる前に、品物を取り戻すことができれば、これほど嬉しいことはありません。けれど、私にはそれはちょっと……だから、せめて証拠となるような写真だけでも撮れたらと思っています」
 女性は苦笑いを浮かべ、そう言った。自分の実力のほどというものを理解しているらしい。若い女性がひとりで裏で売買をしているような男に正面から立ち向かい、勝利することは難しい。その判断は妥当とも思えた。
「わかりました。私も協力をしましょう」
「え? でも……どうして……?」
「あなたはひとりで行動しているのでしょう? あまりにも危険です。それに、偶然とはいえ、事情を知るに至りました。これもお導き……何かの縁かもしれませんから」
 智恵美は穏やかな笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。あの、私、夏目弥生といいます」
 女性は胸に手を添えながら自らの名前を名乗った。
「私は隠岐智恵美といいます。よろしくね、弥生さん」
「はい。……本当は、ひとりですごく不安だったんです……生まれてこのかた、人のあとをつけるようなことはしたことはないし、見つかってしまったらどうしようって……」
「そうですね、ひとりでは助けも呼べませんから」
 智恵美の言葉に弥生は苦笑いを浮かべながら頷いた。そのことを不安に思っていたのだろう。唯一の仲間は陸路であるから、この船には乗船していない。何かあったとしても相談することもできなければ助けを呼ぶこともできない。慣れていない作業であれば、心細いことも当然と思われた。
「とりあえず、弥生さんはどうする予定ですか?」
「今、彼らがそこで話をしているのを聞きました。一時間後に第二倉庫で品物を見せると言っていました。だから、品物を見せている現場をカメラにおさめようかと思ったんですが……」
 どう思いますかと弥生は意見を求めてくる。
「確かに、証拠になるとは思います」
 だが、あとであれは複製だと言われてしまえばそれまでなので証拠としてはやや低いような気もする。しかし、品物を見せているその瞬間は取り返す好機でもある。状況にもよるが、場合によっては取り返すことができるかもしれない。
「それじゃあ、私は第二倉庫へ向かいます。もし、私が倉庫から帰ってこなかったら、人を呼んでいただけますか?」
「ひとりで行くというのですか?」
「ええ……危険ですから、そこまでお願いするつもりはありません」
 弥生は控えめな笑みを浮かべ、そう言った。
「弥生さん……」
 協力を申し出た親切な他人を巻き込みたくない気持ちはわからなくはない。だから、弥生の気持ちはわかる。もし、自分が……例えば裕介のように若い男であったのであれば、弥生もまた違うことを言ってきたかもしれない。が、自分は女性であり、外見上、どう見ても『強そう』には見えない。
 弥生の気遣いは嬉しくは思うが、倉庫から戻って来ない時点ですでに手遅れの感が否めないため、素直にその言葉を受け入れるわけにはいかない。
「あなたは優しい人ですね」
「え……? そ、そんな、智恵美さんの方がずっと優しい人です……」
 少し戸惑うような、恥ずかしそうな顔で弥生は言った。
「気遣いは嬉しく思います。けれど、ごめんなさいね、その言葉は聞けないわ。もし、何かあった場合、それでは手遅れになってしまうから」
「でも……!」
 それは危険だと弥生は言う。
「それは承知のうえです。……気にしないで、ね?」
「智恵美さん……ありがとうございます」
 
 船倉へと続く扉はスタッフオンリーと書かれてはいたものの、誰かが立っているということはなく、鍵がかかっているということもなかった。
「わりと簡単に行けるものなんですね」
「そうね」
 しかし、それはおそらく彼らが人払いをしているからだろう。普段は鍵もかかっているだろうし、乗務員の姿もあるはず。だが、そのことは黙っておいた。
「確か、第二倉庫……えーと」
 扉を通り抜けた先の壁に船倉の構造を示すプレートがあった。それを見つめ、第二倉庫を探す。結構な数の部屋にわかれているようだが、それのおかげで迷うこともない。第二倉庫の位置を確認し、向かった。途中、誰に出会うこともなく、第二倉庫の扉の前まで来ることができた。
「ここですね」
 やや緊張した声で弥生は言う。大丈夫よとその緊張をほぐすように肩を軽く叩き、穏やかな笑みを送る。弥生は頷き、扉に手をかけた。……思ったとおり、扉に鍵はかかっていない。
 扉を開き、なかの様子をうかがう。人の気配がするならば、また出方も変わるというものだが、時間前に来たせいか、人の気配はなかった。足を踏み入れ、倉庫内を見回す。照明はほとんど落とされていて、明るくはない。だが、真っ暗というわけではないから、倉庫内の様子はおぼろげながらわかる。そこそこ広い空間に、棚がいくつか設置され、そこに荷物が整然と並べられている。
「えーと……この辺りで品物を見せるとしたら……どこに隠れるのがいいのかしら」
 弥生は倉庫内を歩き、配置を見てまわる。品物を見せそうなひらけた場所を見つけると、身を隠すのに適した場所を探しはじめる。身を隠しつつ、写真を撮ろうというわけだから、位置はなかなかに重要だ。
「ここにある机で品物を見せると思うわ。だから、このあたりに隠れるといいのではないかしら?」
 周囲を確認したあと、隠れやすく、写真をとりやすく、また最悪の場合、逃げることを考慮した場所を選びだす。
「……そうですね、じゃあ、ここにします」
時間が近づくと、倉庫の扉が開き、写真の男である南条が数人の男を連れ、姿を現した。その手には鞄が下げられている。おそらく、あれのなかに写真の品物のひとつが入っているのだろう。
 それからしばらくが過ぎ、扉が再び、開かれた。男がひとり現れる。お互いに何か言葉を交わしたあと、南条は、連れに命じて鞄を開けさせる。あとから来た男はその中身を確認する。
 弥生はカメラを構えた。
 鞄の中身が露となったところで、シャッターを切る。
 カシャという音は僅かなものではあったものの、その閃光は相手に気づかせるためには十分な効果だった。
「あ……いけない……」
 弥生は小さく声をあげる。カメラのフラッシュに気がついた男たちは、こちらに注意を向け、足早に駆け寄ってきた。
「弥生さん、こちらへ」
 智恵美は弥生を招く。荷物の隙間を通り、扉まで辿り着けば、逃げられる。だが、追手の足の方が速く、追いつかれた。この野郎とばかりに腕がふりあげられたとき、智恵美は深い息をつく。
 身体に気が漲る。智恵美はふりおろされ、今にも自分を殴ろうとしている腕を軽く受け流し、かわりに素早く、鋭い一撃をかえした。男は何が起こったのかわからないという顔で床へと倒れこむ。
「な……?!」
 何が起こったのかわからない顔をしたのはその男だけではない。後続の男たちもどうして男が倒れたのかという顔をする。だが、それも一瞬、殴りかかってきた。智恵美はそれも冷静に対処する。気功術により身体能力を一時的に何倍にもさせているこの状態で、多少の護身術の心得がある程度の男は敵ではない。
「うっ……」
 さらに殴りかかってきた男をかわし、かわりの一撃を見舞う。男は呻き、先に倒れている男の上に倒れた。
「な、なんだ、この女……」
「女のせいじゃない、こいつらが勝手に転んだんだ!」
 そんなわけはないはずなのに、説明がつかないからかそんなことを言う。そして、逃げることなく、殴りかかってきた。おそらく、私が見るからに屈強そうであったなら、相手も逃げだしたんでしょうけど……智恵美は最後の男を床へ沈めたあと、小さくため息をつく。
「手下の皆さんはお昼寝をしていますよ。あなたも一緒に眠りますか?」
 智恵美はひとり残された南条のもとへと向かい、そう言った。品物を見に来た男の姿はすでにない。逃げたのだろう。
「お、おまえ……」
「売りさばくルートはすでにありません。自ら出向いて罪を償うことをおすすめしますが、どうしますか?」
 智恵美の言葉に南条は倒れている男たちを見やる。そして、言葉もなくがっくりと肩を落とした。
 
「智恵美さん……智恵美さんって……」
「ちょっとそういう覚えがあるだけです」
 穏やかに智恵美は言う。
「でも……すごい……」
「ふふ、品物はこれで間違いないのかしら?」
 机の上に広げられている鞄のなかには写真のうちのひとつが収められていた。
「ええ、これで間違いないです。まさか、取り戻せるなんて……ありがとうございます、智恵美さん!」
 智恵美はいいのよ、気にしないでというような笑みを浮かべただけだった。
 
「……という結末になりましたよ」
 次の日、落ちついたところでせっかく豪華客船に乗船したのだからとプールサイドで余暇を楽しみながら、明日菜に事の顛末を話してきかせた。取り戻した品物は証拠品ということで一時的に警察に押収されることになるが、そのうち博物館へと戻されるだろう。
「すごーい、自首させちゃったんだ」
 明日菜は手にしたいたジュースがなくなることに気づくと、近くで昨日、部屋で会釈をした少女と話している裕介を呼ぶ。
「裕介ーっ」
「あらあら、邪魔をしてしまっていいの?」
「いいの、いいの。まだまだ時間はあるんだし」
「……そうね」
 確かに時間はまだまだある。少しくらいこき使って(?)もいいだろう。明日菜と智恵美は目をあわせるとにこりと笑った。
「裕介ーっ、早くーっ」
「はーい、今、行きまーす……!」

 −完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2390/隠岐・智恵美(おき・ちえみ)/女/26歳/シスター】
【1098/田中・裕介(たなか・ゆうすけ)/男/18歳/孤児院のお手伝い兼何でも屋】
【2922/隠岐・明日菜(おき・あすな)/女/26歳/何でも屋】


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■         ライター通信          ■
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ご乗船、ありがとうございます(敬礼)
そして、お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

こんにちは、隠岐さま。
納品が遅れてしまい大変申し訳ありません。
同時納品ができなくてすみませんでした。イメージを壊していないことを祈るばかりです。今回はありがとうございました。

願わくば、この旅が思い出の1ページとなりますように。