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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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鳴らないオルゴール
オープニング
「このオルゴールが気になるのかい?」
碧摩・蓮の声に視線を向けると、ふう、と煙を吐きながら楽しそうにこちらを見ていた。
「だが、このオルゴールには問題があってねぇ」
「問題?」
碧摩・蓮の言葉に疑問を感じ、聞き返すと、碧摩・蓮は答えた。
「そのオルゴールはねぇ、鳴らないオルゴールなのさ」…と。
話を聞くと、修理屋に見てもらっても問題はないと言われるらしい。
だが、問題はないのにオルゴールは鳴らない。
それは、つまり…非現実的な何かがあるのかもしれない、と碧摩・蓮は言う。
「欲しいなら持っていってもいいよ、鳴らないオルゴールじゃ売れなくてね」
デザイン的にはキレイな銀細工で問題はない。オルゴールが鳴らなくても何かを入れる小箱として売れてもよさそうなのに、と思う。
「このオルゴールを気に入って買おうとする客はいるんだよ」
だけど、みんな何かを恐れるようにして買っていかないのだという。
「何かこのオルゴールはイワクがあるのかねぇ」
まぁ、この店に並ぶ商品はみんなそんなモンばかりだけどさ、と笑いながら碧摩・蓮は言う。
あなたはそのオルゴールから伝わるナニカに感じてはいたが、買う事にした。
「料金?そんなものはいらないよ。ただ…オルゴールの事が片付いたら聞かせておくれよ」
何があったのかをさ、と楽しそうに碧摩・蓮は言った。
視点⇒来生・千万来
「このオルゴールは…」
千万来はアンティークショップ・レンに展示されていた一つのオルゴールに目をとめた。
そのオルゴールはとても悲しそうだと感じた。
「蓮さん、このオルゴール借りて帰ってもいいかな」
千万来はオルゴールを碧摩・蓮のところに持っていって尋ねた。すると煙を吐き出しながら「いいよ、鳴らないオルゴールじゃ売れなくてね」と苦笑交じりに答えた。
そして、千万来は蓮の承諾を得てオルゴールを自宅へと持ち帰ってきた。外見としてもとても綺麗な作りで音が鳴らなくても売れそうなのに、と千万来は心の中で思った。
千万来はふぅと一度大きく深呼吸をしてから能力を使う。一日に一度、しかも三分という短い時間だが物に命を与える事ができる能力、たとえそれオルゴールという無機物でも問題はない。
「こんばんは、オルゴールさん、でいいのかな…」
千万来が話しかけるとオルゴールは少し高い声で返事をした。
「キミが音を鳴らさないワケを教えてくれないかな?」
『わ、たしは―…』
そしてオルゴールは語り始める。
―私は第二次世界大戦時に生きていた少女が大切に扱ってくれていたオルゴールでした。
いつも手放すことなく、少女は私を宝物だといって他の人間たちにも自慢をしてくれていたんです。
だけど、戦場という敵から逃げて隠れる生活の中ではオルゴールを鳴らすなど自殺行為に等しい事で、少女は口癖のように私に言っていたんです。
『オルゴールさん、今はかくれんぼをしているの。だから音を鳴らしちゃいけないのよ。かくれんぼが終わればまた綺麗な音を聞かせてね』
少女はオルゴールで私に言い聞かせていたのですが、そのかくれんぼが終わることはありませんでした。少女は敵兵に連れて行かれ、私はそのまま少女と離れ離れになってしまったんです。
きっと音が鳴らないのはその時の記憶と、少女の思いが私に染み付いているからでしょう。
音を鳴らしたいのなら簡単です。
かくれんぼは終わった、そう言っていただければ前のように音は奏で始める事でしょう。
オルゴールはそれだけを言い残してもとの無機物へと戻っていった。
「とりあえず、蓮さんのところに持っていくかな」
時間はそれなりに遅いが、外出できないほどではない。千万来はバッグにオルゴールを入れてアンティークショップ・レンへと足を進めた。
「おや、随分と遅い時間に来るじゃないか」
碧摩・蓮は相変わらず煙を吐きながら千万来に話しかけた。
「うん、夜分にすみません。オルゴールのことをお知らせしたくて…」
千万来はバッグからオルゴールを取り出して机の上に置いた。
「何か分かったのかい?」
「えぇ、蓋を開けてかくれんぼは終わった、そういえば音は鳴り出すはずです」
碧摩・蓮はその言葉に「へぇ…」と短く言葉を返すだけで他には何も言うことはしなかった。
「じゃあ、言ってごらんよ。私も音色を聞いてみたいからね」
「分かりました」
千万来はカタンと小さな音をたてながらオルゴールの蓋を開けていく。
「…かくれんぼは…終わった」
千万来が小さな声で言う。だがオルゴール変化は見られない。
「ねじ巻き式だろう?ねじを巻いてみたらどうだい?」
碧摩・蓮の言う通りに千万来はねじを巻いてみた。
そこで二人は言葉を失った。
流れてきた音色は清々しい音色であると同時にどこか少し悲しげな音色にも聞こえた。悲しげな部分はかつての持ち主であった少女とどこか共感する部分があるのかもしれない。
「綺麗な音色だね」
「そうですね、でも―…どこか儚くて悲しい曲にも思えます」
千万来が言うと碧摩・蓮も「確かにね」と短い返事を返した。
「それで、このオルゴールはどうしましょうか…」
「もし、良かったらあんたが持っていきなよ」
碧摩・蓮の言葉に千万来は「え?」と間の抜けた言葉を口から漏らした。
「このオルゴールはあんたが持つべきものなのかもしれないからね」
「でも、こんな高価そうなオルゴールを買えるお金は…」
確かに18歳という若さで買えるような簡単なものではなさそうだ。銀細工が施されたオルゴール決して安い値段で売られるようなものではないのだから。
「いいんだよ。このオルゴールが鳴るようになったのは、あんたのおかげじゃないか。それに他の成金が買っていくよりはこのオルゴールも嬉しいだろうさ」
机の上に置かれたオルゴールを千万来に渡して碧摩・蓮は椅子に座る。
「じゃあ。お言葉に甘えていただいていきます」
「あいよ」
千万来は丁寧に頭を下げてアンティークショップ・レンを静かに出た。
それから自宅に帰って再度オルゴールを鳴らしてみる。目を閉じて聞くと、一層の綺麗な音色が耳に響いてくる。
机の上に肘をついてオルゴールの音色に聞き入る。
きっと、オルゴールの持ち主だった少女もきっと喜んでいる事だろう。
長い時間をかけてようやくオルゴールの音色が流れ始めたのだから…。
その日、千万来はオルゴールの音色を子守唄代わりに聞いて眠りについたとか―…。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0743/来生・千万来/男性/18歳/男子校の3年生。
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■ ライター通信 ■
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来生・千万来さん>
初めまして、今回「鳴らないオルゴール」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
「鳴らないオルゴール」はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと感じてくださったらありがたいです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^
−瀬皇緋澄
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