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<東京怪談・PCゲームノベル>


ジャマイカ・ボンバー


 ――プロローグ

 嫌な予感がすると、加門は辺りを見回した。
 こういう世界にいると、そういった予感だけはよく当たるのである。
 加門はきょろりと辺りを見回した。高層ビル群、背の高いデパート、人通りの多い大来。片手にトレンチコートを引っつかんだまま、片方の手で煙草を探り出し、一本器用に抜き出して口にくわえた。
 火、火……。
 加門がライターを探してポケットをあさっていると、後ろのデパートで爆音と、轟音が響いた。
 驚いてそのままデパートを見上げる。
 もうもうと上がる黒い煙が見えた。また轟音、今度はしっかりと見ていた。火花が散っている。
「火……そんなにでかくなくても」
 いいんだがなぁ。加門はその光景を見つつ、困った顔で頭をかいた。
 まさかデパートに上がった火で煙草に火をつけるわけにはいかない。コートのポケットから百円ライターを探り出し、火をつけながらデパートの出入り口をぼんやりと見つめていた。
 遠巻きの野次馬のせいで、視界が悪い。短髪の黒人が人を掻き分けて外へ出る。そして、野次馬に混じって爆発炎上したデパートを見ていた。

 加門はのっそりと男の隣に立って、訊いた。

「放火魔は自分のつけた火ぃ見るのが好きだっていうなあ」
 そこで爆弾魔ボンバーを捕らえる算段だったのだが、いかんせん人が多すぎた。加門達の後ろにも、二重三重と人が溢れている。
「ち、賞金稼ぎか」
 ボンバーは呟いて人込みをぬった。安穏と構えていた加門も、「どけ。どけって」などと騒ぎながら野次馬をかき分ける。
「逃がさねえぜ」
 加門は煙草を道路へ吐き捨てた。
 
 ――エピソード

 CASLL・TOはピンクのママチャリを漕いでいた。
 今日はロケで近くに来ているので、有名なデパチカの弁当を買って食べようという算段だった。いつものロケ弁だって文句はないけれど、たまに気分を変えるのは清々しい。それに今日は、デパチカグルメなのだから、とっても嬉しい。
 ルンルンで自転車を漕いでいると、行きなり横から何かが突っ込んできた。ガシャン! と音がして横倒しにこける。
「いてて……」
 言ったところを、いきなり筒に線のついた爆弾のようなものを突きつけられた。
「へ?」
「俺を乗せて逃げろ」
「はい?」
「さっさとしろ!」
 言われてCASLLは慌てて自転車を立て直した。それから自転車の方向を男の言う通りに変え、後ろに男を乗せて必死で漕ぎ出す。
 後ろで男が凄んだ。
「俺はな、ボンバーっていう有名なテロリストなんだ。俺が殺すと言ったら、死ぬからな」
 言われて肝が縮み上がる。
 CASLLは精一杯漕ぎながら、あえぎあえぎ言った。
「言うことは聞きますから、殺さないでください」
「……お前、身なりは立派なのにずいぶん肝が小さいな」
 そんなこと言われても仕方がない。身なりの怖さも生まれつきなら、肝の小ささも生まれつきである。
 しばらく漕ぐと、一台の白いバンが停まっているところへ来た。そこへ自転車を停める。方向を変えて逃げようと思ったら、また爆弾を突きつけられた。CASLLは必死で、腰に挿していた拳銃型の水鉄砲を取り出した。
 するとボンバーの顔色が変わった。ボンバーは左手でライターを取り出し、真剣な顔で言った。
「どっちもオサラバかもな」
 点火線に火がつく。CASLLは慌てて水鉄砲でその火を消した。
 二人の間に、沈黙が落ちてくる。
「お前は俺の顔を見てるからな、人質だ」
 そう言ってCASLLはボンバーに拘束されることになった。
 
 
 東京ハンズの玄関口で、深町・加門は煙草に火をつけた。
 爆弾魔ボンバーを待ち伏せしているところだった。ケーナズと組んでボンバーを捕まえようとしていた加門だったが、思わぬところで黒・冥月の八つ当たりに合い、そして警察官である神宮寺・夕日に情報公開を求められ拒否し、今に至っている。
 ケーナズは嫌そうな顔で、加門の側の片手をぶんぶん振った。
「私は煙草が大嫌いなんだ。テロと同じぐらい」
「俺は賞金首と同じぐらい、煙草が好きだな」
 加門は構わず息を吸い込んだ。加門の隣には夕日が座っている。夕日は口をへの字に曲げていた。
 冥月が夕日に訊いた。
「警官なのか」
「……ええ」
「どうして一人なんだ」
 言われて、夕日は苦い顔をした。少し舌を出してみせ
「単独行動が得意なのよ」
 苦し紛れにニコリと笑う。冥月はふっと少しだけ笑って、黒い髪をかきあげて言った。
「私もだ」
 ケーナズは加門越しに夕日へ言った。
「私も単独の方が得意です」
 加門は片手で耳の穴をかいてから、ゆっくり煙草の煙を吐き出した。
「お前等気が合いそうだな」
 ケーナズは加門も同種だろうと思ったが、口には出さなかった。
 夕日はことあるごとに加門に突っかかり、加門はめんどくさそうに答えていたが、誰もが玄関を見つめていた。黒人が通るたびに加門の顔を見る。そして何度目か、加門は黙って立ち上がった。
 一番最初に駆け出したのは、夕日だった。彼女はハイヒールを履いていると言うのに他の誰よりも早かった。ケーナズと加門はボンバーの行く手を阻む為、ハンズの玄関口の前に立った。冥月がゆっくりと歩き出す。
 そしていつの間にか、ボンバーは忽然と消えた。
 夕日はボンバーの後ろにいる大きな男に掴みかかった。その男の隣にいた筈のボンバーは姿が消えている。ケーナズも加門も、一瞬夕日のいる場所に目が縫い付けられて動けなかった。
 静かに冥月笑い声がする。
「……おかしいな。こんなにおかしいのは久し振りだ」
 ボンバーの身柄は冥月が拘束していた。
 加門が冥月を呆然と見ながらぼそりと言う。
「能力者か」
 ケーナズはこくりとうなずいた。
「だろうな」
 ケーナズは夕日の方へ近付いて行った。ボンバーは単独犯だと聞いていたのに、ひどく人相の悪い男が夕日に捕まっている。
「仲間か」
「……こっちがボンバーかと思ったわ」
「さっき加門が黒人だと言っていたからな。キミは……」
 男は首をぶんぶん横に振った。
「私は爆弾で脅されてきたんです。人質なんです」
「嘘よ」
 夕日が即答する。
「本当ですったら」
 加門は冥月へ向かって行き、ボンバーを裏通りの路地へ引きずって行った。
 夕日は大きな男をケーナズに任せ、加門に絡まりついて
「早くボンバーを警察に渡しなさい」
 などと喚いている。
「足の速いお嬢ちゃん、おうちに帰るか黙ってろよ」
 後ろからついてきていたケーナズが顔をしかめる。
「そんな言い方はないだろう。換金すれば、警察に渡るのですから、神宮寺さん」
 加門へ文句を言い、夕日にフォローをする。
 冥月が訊く。
「こんなところでどうする気だ」
「……仲間の潜伏場所を吐いてもらうのさ」
 加門はボンバーの鳩尾に一撃を食らわして動けなくしてから、全身にある爆弾を全部取り出した。爆弾は片っ端から濡れている。
「誰だあ? 爆弾濡らした奴」
 加門が訊くと、大男がハイハイと挙手をした。懐からごつい銃を取り出して、加門へ向ける。一瞬緊張が走った後、男はぴゅーと拳銃の先から水を出した。
「そうしておけば、爆発しないと思って」
 全員、唖然とした。
 加門はボンバーの頬をペシペシと叩いて、気を取り戻させる。
 ケーナズは大男をつれて路地を引き返しながら言った。
「私の趣味じゃない。さっさと情報を聞き出してくれ」
 冥月はケーナズの後を追いながら
「私もだ。殺さずにいたぶるなんて真似はできない」
 結局、ボンバーが吐く頃には夜の十時を回っていた。
 
 
 大男の名前はCASLL・TOというらしい。本人は悪役俳優だと言っているか、本当かどうか定かではない。
 電話で確認したところ、前科はないようだった。
 全身ターミネーターのような格好だった。黒い皮が全身を覆っている。
 夕日は電話で応援を頼んでから、はあと溜め息をついた。
 深町・加門と他の連中はどうあっても警察に賞金首を渡すつもりはなさそうだった。だから、こうして応援を頼むことになったのだ。
 本当は応援など頼みたくはなかった。一人で解決して、涼しい顔でテロリスト達を突き出すのが一番だと思う。けれど、今目の前にある一軒家にはテロリストが六人もいるというのだ。
 加門達の制止を振り切って一人で突っ込んでいったって、結果は目に見えている。彼等にテロリストを渡さないのならば、自分の職場に応援を頼むしかない。
 癪だった。応援を頼むのも、加門に掻っ攫われるのも。
 CASLLと冥月は顔見知りだったらしく、CASLLの身元ははっきりとしていた。けれど、今夕日の手元にいるのはCASLLだけだった。
 応援が来るまでに、加門達は中に突っ込んで行くだろうか。
 きっとまた、ボンバーのときのように手早く終わらせてしまうのだろう。
 そう思ったらいても立ってもいられなくなって、夕日はマンションの植え込みの囲いに腰をかけていたが、立ち上がった。同じように、CASLLも立ち上がる。
「ここで待ってて」
「……行くんですか」
「ええ。警察ですから」
 すると、CASLLは鼻を鳴らして言った。
「私も行きます。一人じゃ行かせられません」
「なぜ?」
「男ですから!」
 加門達は表の窓の下に息を潜めている。夕日は三人の姿を見つけ、しかし無視をして正面突破玄関を蹴破った。CASLLも夕日に続いた。
「警察よ」
 滅茶苦茶である。
 中に入ると、男がサブマシンガンを夕日に向けた。CASLLが決死の覚悟で突っ込んでいく。

 加門が慌てて立ち上がると同時に、冥月が影の中に消えた。眼鏡を外していたケーナズも瞬間的にいなくなる。
 加門は一人外に残されて、夕日の蹴破ったドアから入るしかなかった。
 
 影の中に潜み、夕日にサブマシンガンの銃口を向けた男の手元から武器を飲み込む。三人ほどの武器を飲み込んだだろうか。ふと見ると、ケーナズがふいに現れて男達を一瞬にしてなぎ倒している。力技というわけではない。部屋にいた二人の男を始末したケーナズは、冥月が武器を消した三人に向かってきた。
 冥月はせっかくもらったオモチャを取られまいと、一人の男の頭に肘鉄を入れ、鳩尾を蹴り上げてから次の男のコメカミを回し蹴りで蹴り、着地と同じ瞬間にもう一人の男の懐へ入って顎を拳で突き上げた。

 ケーナズが眼鏡を取り出しながら、パチパチと拍手をする。
 夕日の後ろに立っていた加門が、夕日の肩を叩く。夕日は放心から冷めて、勢いよくこけたCASLLの元へ駆け寄った。
 加門が気配を感じて後ろを振り返ると、買い物袋を下げた男が立っていた。加門は右の拳を握って、左足を蹴り出し、思い切り男の眉間を殴りつけた。


 ――エピローグ
 
 夕日のくそ度胸に感服したケーナズと冥月が半分は警察に任せろと言うので、加門は渋々了承した。
 ケーナズが冥月を家まで送ると言ったが、彼女は冷たく断った。
 加門は換金所で賞金を手にして車まで戻って来て、自分の車の助手席に乗っている夕日を見た。
「なにやってんだ、お前」
「送ってください」
「は?」
 CASLLも何故か後部座席に納まっている。
 現場は応援を呼んで任せてきた夕日は、おそらく本当に家に帰るだけなのだろう。
 加門は一応冥月に訊いた。
「お前は?」
「結構だ」
「相変わらず、男前な奴だぜ」
 すぐに右足の蹴りが頭の位置に飛び込んできたので、加門は咄嗟に屈んだ。すると、冥月の足は加門のビートルを蹴りつけ、見事に車を凹ませていた。
「げ……はぁ。最悪だ」
「自業自得だ、バカが」
 冥月が歩き出す。
 誰もさよならを言わずに、その後姿を追っていた。
「オットコまえな女だよあ、あいつ」
 加門は凹んだ車体を優しく撫でながら、黒いカレラGTに乗っているケーナズへ言った。
「かなりな」
 ケーナズはそう同意して、冥月と同じようにさよならも言わずに車を発進させた。
 加門は観念したように半開きの口をきゅっと閉じて、運転席に乗り込んだ。
 
 ――end
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男性/25/製薬会社研究員(諜報員)】
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女性/20/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【3453/CASLL・TO(キャスル・テイオウ)/男性/36/悪役俳優】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女性/24/警視庁所属・警部補(キャリア)】

【NPC/深町・加門(ふかまち・かもん)/男性/29/賞金稼ぎ】PC登録してあります。

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■         ライター通信          ■
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「ジャマイカ・ボンバー」にご参加いただきありがとうございます。
文ふやかです。
今回は若干地味なお話に落ち着いてしまいましたが、楽しんでいただけたでしょうか。
お気に召せば幸いです。
また、お会いできることを願っております。

 CASLL・TOさま

毎度どうも! いつもよりシリアスより? なCASLLさんでお届けしたつもりなのですが、いかがでしたでしょうか。お眼鏡に適いますように!

※今回不備がありましたので、二度目の納品になります。本当に失礼いたしまいした。
 以後気をつけますので平にご容赦ください。申し訳ありませんでした。