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<東京怪談ノベル(シングル)>


真アフロ


 あの時、そう、あの時。
 法廷なる戦場にて、ダイヤモンドより砕けない真実を、世界の床に叩き付けたあの時。
 人々は生命の起源を思い出すようにそれを受け止め、アフロパラダイスが今冬から着工されて二年後の完成を目指し始める、……はずだったあの時。
 全てが、大いなるアフロの流れへと向かうのは自明であるかに見えた、あの時。
 言葉が鳴ったのだ。
 ――仏陀の髪はアフロじゃない
 パンチだ―――と、
 信じていた物が崩れ落ちる音だ、今日のご飯は湯豆腐と買った材料全て詰め込んだスーパーの袋を滑って転んで失神までは行かないがぐちゃりって感じでおや母さん今日の豆腐はなんかボロボロ黙って食いなさいこの無職親父おおおお前言うに事欠いて無職親父とは何事だ俺はお前の夫だぞうっせぇもういい私は実家に帰らせていただきますゲゲーッなんだと待ちなさい話し合おうじゃげほぉっ妻が夫にドメスティックバイオレンスだとーこうなったらわしも最終奥義で対抗ってイタイイタイ味噌汁しょっぱいしょっぱ、まとめると、心に皹が入った時のような音だった。そしてそれは事実なのだろう、皹が入る原因は言葉という名の釘、少女の心に煩わしく刺さって、這う虫の声のように疼いていた、が、
 今ぴたりと、言葉は止んだ。結果には原因がある、理由は、はっきりとしている。
「これこそ、」、「これこそアフロ神が降臨した証拠っ!!」
 そう叫ぶ、花柄の着物も可愛らしい童女の手には、一輪の銀アフロ――
 しかしそれはふさふさでは無い、もっさりでも無いしちりちりでも無い。スイカよろしくぽんと叩けば解る、硬質。それをアフロと言えるのだろうか。
 だが一つ、全て説明がつく事柄、そう冒頭にあった通り、このアフロこそ、仏陀のアフロだ。ただ硬いだけで? それだけでない、炭素測定をした所このアフロは有史以前に製造されたと見え、それどころか材質はベスト3の首にかけられるメダルの物は無論、錬金術師の目にもかかった事でないであろう未知の金属で出来ている。
 この事実を住処であるあやかし荘で発見した少女の名は、本郷源。いや今は二つ名の方で語った方が、話が解り易くなるだろうから、そうして、
 おでん屋、あるいは紫貴婦人、そしてアフロパープル。
 銀のアフロを翳す名としては、当然、最後の二つ名である。つまりはこの物語は、東京アフロストーリー。
「はっはっは! 見たか!聞いたか!たじろいだか! やはりアフロ神は仏陀にアフロを授けてたのじゃ!!」
 真実を手にした時、本郷源は完全に復活した。なんとなく、世の中が嘘で彩られている理由が解らないでも無い光景である。
 だが、偽りは弱者、結局は対極である物が台頭するのが世の習い、そう本郷源は使命感に燃えた。
「ふっふっふ、見ておれよあのテレビ局。真実を放送するのは我々なのじゃ!」
 わしをいれるなわしをと突っ込みもせず座敷童は部屋から出たので、今回は一人で行動である。


◇◆◇


 でもこれだけじゃ証拠足りないよねーという女子高生な感じで、銀アフロを発掘した地下へと大きなパンと保存用の壺を持って突入してみれば、
「これこそアフロ神が降臨した証拠っ!」
 アトランティスの神官の正装はアフロであったという古文書をゲットした。再び高笑いする源、恐れる程に事が良く運ぶのは、
 大抵、人生の罠が待ち受けているゆえである。


◇◆◇


 証拠品が二つとなれば、最早偶然で済ませられぬ。本郷源、意気揚々とこの事実を無知たる世間に発表しようと、あやかし荘から外出開始し、マスメディアへと辿り着こうとすると、
 目の前には、黒の帽子を被った黒服が三人。「む、なんじゃお主ら? 悪いがわしは急いでるんじゃが――」
 問答無用という単語を、世界が辞書で引いた。
 彼らの一人は刃をもって、彼らの一人は銃をもって、彼らの一人は拳をもって、小さな女略して少女に襲い掛かって、
 唯の少女ならやられているが、本郷源は、「エクセレントチェンジッ!」
 その一言が世界に響き渡った刹那、黒服の三人は弾け飛んだ。何事だ、何が起きたッ!
 答えは僕らの目の前に、「雅な色と人は言う、命を爆ぜて駆け抜ける」
 アフロパワー略してAPを、今、正義の力に変えて!
「アフロパープル、ここに見参じゃあっ!!」
 ビシィッと決めポーズをとるアフロパープル、なのだが、
 紫のアフロじゃなく銀のアフロである。「し、仕方無いのじゃッ! 今日はあの美容師の店は休みじゃし」誰に言ってるかは解らないが、その場しのぎに銀のアフロを被ったのだ。
「しかし流石仏陀に授けたアフロじゃな、あれだけの攻撃を無傷で返すとは!」単に頑丈なだけかと。「ともかく、そこの黒服ども、いや」
 アフロパープル改め、アフロシルバーは目を細めて言った。
「サラサラ団」
 アフロンジャーにとって最大の宿敵、弾かれた衝撃で黒い帽子が取れてびだるさすーんなサラサラヘアが靡いてる、それが、サラサラ団。構成メンバーは全てバイトで時給は920円。良く奥を見ればどこかの異界のテレビクルーがカメラを構えている、撮影か。
「どうやってわしの動きを嗅ぎ付けたかは知らぬが、アフロの心で世界を救う事を阻止しようとするなら、わしは容赦せぬッ!」
 サラサラ団怯む。所詮はバイト、そこまで入れ込んでいないので痛い目には合いたくないらしく、アフロシルバーから徐々に後退りて。シルバーも勝利を確信したが、
 なんか向こうから百人くらい黒服がやって来た。
「……わしは救世主じゃないからのう」
 サングラスと黒いコートも用意してないし、銀のアフロは頑丈であるがやけに重くて肩が凝り、やはりアフロは地毛が一番じゃーとぼやきを大音量で叫びながら、本郷源は勝利の為に逃避した。


◇◆◇


 サラサラ団の追撃から逃れたのは二時間後。正確には、奴らが走って乱れた髪を整える為、美容院に駆け込んだ為であるが。調髪で無くシャンプーのみなので、数の割りに効率の悪い客である。
 そして、逃げ惑っていたアフロシルバーこと本郷源、
 その前に、人影。
「……苦労してるようね」
「た、高峰殿」
 夏の暑さに汗一つ浮かべない、彼女。
 漆黒のドレスを美しく着る、彼女。
 黒い猫を撫でる彼女。
 にゃあ、と黒猫は鳴いた。
 重さゆえに銀のアフロを脱ぐ本郷源と、彼女、高峰とはおでんを振舞った事もある間。だが、何故目の前に居る?
 こんな場所で――ここは何も無い空き地、人も寄り付かぬ離れ。
 何故、目の前に、
「知りたいのね、」
 、
「アフロとは何かを」
 何を、言う、「何を、言うのじゃ」
 本郷源の顔に、走り回ったゆえの熱では無く、夏の日差しによる暑さでない、遠方から飛来するような汗が浮かぶ。
「アフロとは、アフロとは決まっておろうッ! アフロとは人類の希望、夢、愛、平和」
「それは人々のアフロに対する思い。人の思いは形が無くて、貴方が示したい真実からは遠い。……貴方が知りたいのは、何故人がアフロを求めるか」
 高峰沙耶は微笑んで、しゃなりと背中を見せる。「教えてあげるわ、アフロとは」
 静寂に亀裂を奔らせるような――、

「世界の欠片」

 一言。
 本郷源は自失する。そんな話は、アフロ教にも伝わってない。
 手の中の銀のアフロが鈍く揺れる。
「もしくは新たな世界、……そこに法則は無い」
「あ、新たな世界とは、異界の事かッ! 高峰殿!」
 本郷源は叫ぶに叫ぶ、高峰沙耶は答えない。今此処は異常、夏が生み出す陽炎だった。あの、そうあの、あの高峰沙耶たる高峰沙耶が、命でも無く、理でも無い、《アフロ》を語っているのです、アフロの心を胸にした少女に、アフロを語っているのです。
 だが、それすらも範疇といわんばかりに、高峰は背中越しに微笑んで。
 語る。
「だから人はアフロを夢に」
 ―――、
 何時の間にか。
 高峰沙耶は消えていた。
 焼け付く日差し、蝉の騒がしい声、風鈴の奏で、夏の全てが突然に本郷源に戻ってくる。サラサラ団の足音が聞こえないのは、バイトの時間が終わったからか。
 アフロとは、世界の欠片。
 彼女がことりと置いていった言葉が、釘のように。


◇◆◇


「という事も含めて、アフロの真実を放送してほしいのじゃが」
 すかさず却下と返されて、これだけ証拠が揃ってるのじゃぞ! と銀のアフロやアトランティスの古文書が証拠品としてとある局長に突きつけられていてるのは、とあるテレビ局で、ちなみに最初この局に対抗して真実を放送するって言ってたのに此処に居るという事は、既に何件かのマスメディアを訪ねていた事は明白で。
 ――アフロとは、世界の欠片
 高峰が残したこの謎が、解ける日が来るのか――いやぶっちゃけた話世界の欠片ってなんだよ! だが、
 これからもアフロは熱く燃え続ける!
「と、番組の最後に放送すればどのような展開でもオチが」
 つかないと思います、まる。