コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


夏の怪談

■企画会議
 あやかし荘の裏手にある小山に寂れた神社がある。
 土地の所有者であった男性が海外に引っ越したため、管理がおろそかになりいつしか忘れ去られた場所だ。
 引っ越しの際にご神体を大きな神社へ移したせいもあるのだろう、誰も立ち寄らなくなったその神社はいつしか行き場のない霊達のたまり場へと変わっていた。
「今年もやってきましたのぉ」
「ほんに、ほんに……1年の楽しみといえばこれ位なものですわ」
 しけった灰の入ったいろりを囲み、霊達はほくそ笑みながら会話を弾ませている。
 もうすぐ夏本番。怪談話にきもだめしと彼等が活躍する季節がやってきたのだ。
「今年はどんな趣向を凝らしてみますかのぉ」
 年配姿の和装の老人がふむりと腕を組み問いかける。隣にいた武士が名案とばかりに答えた。
「驚かせるのなら……いっそここに招待してみてはどうじゃ、見た目からしてこの場所は怪談にぴったり……それに集合場所にするにも分かりやすいじゃろうて」
「うむ、それがよかろう……じゃがどうやって人を誘うんかね?」
「それはワシに任せれば大丈夫ぢゃ」
 いつの間にか輪の中にいた嬉璃(きり)がさり気なく言った。別段驚いた様子もなく、霊達は「彼女に任せれば安心」と安堵の声をもらす。
「ぢゃが、代わりにといってはどうだが……おぬし達には警備をつとめてもらうぞ。話の途中で逃げられないようがっちりと結界でもはるようにな」
「それは儂らの得意科目、おまかせあれ!」
「……ふふふ……今年も良いネタを仕入れてきておるでの……」
 恐怖におののく姿を想像し、嬉璃は喉を鳴らしながら含み笑いを浮かべた。
「さて、では早速……あやつらに話してくるとするかの……あやかし荘には怪談と聞けば、喜んで参加してくる輩が多いからの」
 どんな演出をこらそうか想像しつつ、嬉璃と霊達は互いに笑いあった。

■会場へいらっしゃい
 しゃなり……しゃなり……
 砂地を踏み鳴らす下駄の音が静かに闇に響き渡る。
 白装束に見紛う(みまがう)白い浴衣に身を包んだ巳主神・冴那(みすがみ・さえな)がゆっくりと神社の階段を上っていた。
 彼女が足を踏み出す度に、両脇にたてられた灯籠が灯をともす。風でちりちりと揺れる火の粉が地面を照らし、はかない影を映し出していた。
 久しぶりに凝った演出をしてくれるわね……
 そう思いつつもあまり興味がない、といった様子で冴那は明かりをながめながら歩いていく。今頃、主催のご老体共は驚きもしない冴那にいらついていることだろう。もう何十年の付き合いになるというのに、彼らの悪戯好きは変わらないようだ。
 境内の中へ入るとひやりとした風が頬をなでた。空調の人工的な風ではない、日本の古い家屋がもつ独特の涼風だ。
「いらっしゃい、ひと山登って疲れただろう? 肝試しが始まるまでの間、スイカでも食べて休んでおいき」
 人のよさそうな笑顔で迎えたのは山内・りく(やまうち・ー)だった。年配の女性らしい、おちついた柄の着物を着こなし、どことなく品の良い仕草が出会う人間に安らぎを与える。
 案内されるままに中庭へ行くと、スイカの乗った盆が無造作に縁側の廊下に置かれていた。招待されたらしい、あやかし荘の住民達が冴那の姿を見つけて声をかけてきた。
「冴那さんも呼ばれたんだ」
「これはきもだめしがすごく楽しみになるね」
 もともと恐い話が大好きな面々がすんでいる所だけに、あやかし荘の住民達は非常に楽しげな様子だ。これから始まるきもだめし……怪談大会に心踊らせつつ会話を弾ませていた。
 彼らを横に見つつスイカをかじりながら外を眺めていると、不意に祇堂・朔耶(しどう・さくや)が話しかけてきた。
 手に持っていた線香花火を差出し、冴那ににこりと微笑みかける。
「少し余ってるんだ、良かったらどう?」
「……懐かしいわね」
 傍にあった明かり取りのろうそくを縁の下に置き、2人は線香花火に火をつける。
 小さく可憐な火花をぱちぱちと弾けさせ、夜の闇に紅の花を咲かせる。線香花火にいち早く気付いた柚葉(ゆずは)が弾むように2人のもとへ駆けてきた。
「ボクもそれで遊ぶー!」
「残念、これで最後の1本なんだよ」
「……あたしのなら1つ余ってるわ。柚葉ちゃん、使う?」
「うん、使う使うー!」
 満面の笑顔で柚葉が両手を差し出したその時だった。パァンと派手な音が頭上で鳴り響いた。
「花火……?」
「でも煙もでてないよ?」
 何のいたずらだろうと辺りを見回す一行に、りくが声を掛ける。
「さあさ、皆さん準備が出来ましたよ。中にお入りなさい」

■怪談のはじまり
 本堂の大広間に案内された一行は車座の形で腰を下ろした。
 壁に点々と灯されたろうそくは思ったよりも暗いため、高い天井はすっかりと闇に埋もれて姿が見えない。開け放たれた窓から差し込む月の光がぼんやりと
 今日は熱帯夜だと天気予報では言っていたのだが、広間はひんやりと涼しく、床の冷たさが実に心地よかった。
「日本の夏は蒸し暑いというけど、工夫次第では……ずいぶんと涼しくなるもんだな」
 関心した様子で朔耶は窓辺のすだれや草木に目を移す。
 風通しを良くさせて、日中の熱気をこもらせないようにすれば、心地よい涼しさは充分得られるのだ。瑞々しい草木の陰から虫達の声が聞こえている。その清らかな鈴の音がいっそう涼しさを感じさせられた。
 りくから麦茶を受け取り、一番上座にいた嬉璃がようやく口を開いた。
「さて……それでは始めようとするかの……」
 その声と共に、ゆらり……とろうそくの炎が揺れ動いた。
 
■蛇の怪
「それでは……私から話させてもらうわね……」
 近くにあったろうそくを吹き消し、冴那は静かに語りはじめた。
 
ーーーーー
 この話はそうね……いまぐらいの時期の話かしら。その昔、まだ山々に人の手が殆どはいってなかった頃のことよ。
 ある日、1人の猟師が山に入って狩りをしていたの。狩りは思いのほか上手くいき、1日だけでたくさんの獲物が穫れたそうよ。そして、気付けば太陽が西へと傾いてしまうまで彼はずっと狩りをしていたらしいわ。
 狩りが一通り終わって、夕食代わりにと獲物のひとつを河原で焼いていたの。
 そうしたら……1匹の蛇がヤブからでてきてね……物欲しそうにじっと彼と焼かれている獲物を見つめてきたのよ。
 その目がぎらぎらと光っているのがどうにも恐ろしかったようね、その猟師は蛇をなんとか追い払おうと、たき火の枝で蛇の頭を突いたの。
 ところが、蛇はまったく怯むことなく、逆に暴れはじめてね。
 猟師に向かって、大きく口を開いて飛びかかってきたのよ。
 真っ赤な大きな口に飲み込まれると思った猟師はあわてて枝を突き出したわ。
 そうしたら、見事に枝が刺さって蛇は火だるまになったの。
 蛇が火と痛みにもだえているうちに、猟師は急いで山を駆け降りはじめたわ。
 半分ほど山を下りた頃、ふと……気配を感じて振り返ると……
 そこには何と、先ほどの蛇が炎をまとったままで追いかけてきていたの。もちろん、体には枝が刺さったままで、血の跡が道のように蛇の後ろにできていたわ……点々と火の粉を残しながら、ね……
 叫び声をあげて猟師は一目散に走りはじめた、それと同時に蛇が追いかけてくる早さも早くなった……ぐんぐん追い付かれ、あともう一息で彼は喰われそうになり……
 バンッ!
 と、何とか危機一髪のところで、彼は自分の小屋に飛び込むことが出来たの。
 どっと疲れがでて、よろけた足取りで座敷の方へ腰をおろすとね……入り口の方が煙たいことに彼は気付いたの……
 そう……蛇はずっと追ってきていたのよ……
 入り口の扉は蛇がまとっていた炎で燃え上がり、屋根をも焼こうとしていた。そして焼け落ちた扉の隙間から……蛇がしゅるしゅると赤い舌をだして彼のもとへと近付いてきていたの……
 あっという間に火は小屋を燃やしつくし、その晩は燃え上がる炎が昼間のような明るさで辺りを照らしていたそうよ。
 一晩たって火がおさまると、そこに残っていたものは……小屋の焼け落ちた灰とひとりの男性の遺体だったそうよ。
 その首には、体に枝がささった蛇の焼死体がものすごく強い力で巻かれていたのですって……
 部屋に入った蛇は彼に復しゅうするべく、炎が燃え上がる中、猟師の首をしめて殺してしまったの。
 蛇は執念深くとことん追いかけてくる生き物よ。彼らに標的にされたら家まで追ってくるから、充分気をつけることね……
 
ーーーーー
 
「こんなところでどうかしら」
 相変わらずのポーカーフェイスのまま、冴那はしめくくるように言った。
「う……うむ……なかなか面白かった……な」
 冴那の視線に一瞬びくりとさせながらも、嬉璃は次の語り部に視線を送る。
 その視線に気付いた柚葉はしどろもどろになりながら話を始めた。
「蛇……か、恐ろしい生き物だな……」
 冴那の隣にいた朔耶がぽつりとつぶやく。
「そんなにおびえることはないわ。ちゃんと対等な態度をとっていれば彼等は決して戦いを挑もうとしないわ。彼等にけがをさせたり、いじめたり、小突いたりしたら保障はできないけどね」
 薄く冴那はくちもとを歪ませる。赤く引かれたルージュと白い浴衣が闇夜に浮かび、まるで体のない霊が口だけ浮かびあがらせているような錯覚に陥らせた。
「そ、そうか……掃除するときには気をつけないとな。踏んでしまったら大変だ」
「そうね……毒蛇だったら命まで危ういわよ……」
 気のせいだろうか、その口調は楽しんでいるようにも思えた。
 そうだな……小さく肯定の意見を述べ、朔耶は次の語り部の話に注目することにした。
 
■おどかし隊出撃
 会話が始まって半刻もすぎた頃のこと。大広間の様子を眺めていた霊達がばたばたと忙しく動き始めた。
「あら、どうかなされましたか?」
 休憩用のおはぎを用意していたりくが不思議そうに首を傾げる。
「そろそろ大詰めにはいるから、その準備をしとるのじゃよ」
 楽しげにそう言ったのは最高齢の浮遊霊でもあり、この山の守護神(候補)の老人だった。りくにつけてもらった線香の香りを心地よく吸い込むと、それぞれ外へと飛んでいった。
 彼らを見送った後に、ちらりとりくは広間の方を見やる。
「……どっちが驚かされるのやら……」
 結果は見えているような気がしたが、祭りに口出しをするのは不粋と、りくはそのまま自分の作業を続けることにした。
 人数分のおはぎをつくり、麦茶も用意できるとひとつの盆に入れて大広間へ向かう。
 なるべく音を立てないようふすまを開けたのだが、気配を察したのか、それとも匂いを捕らえたのか。柚葉が嬉しそうに声をあげた。
「おかしだー!」
 言うが早いか柚葉は一目散にりくの前に飛び出し、両手を差し出した。
「はいはい、おかわりもたーんとあるからね」
 柚葉の分のおはぎを皿ごと手渡すりく。ゆっくりと顔をあげるとりくは全員に聞こえるように言った。
「さ、みんなも話してばかりで疲れたでしょう。少し休憩なさい」

■その後ろにいるものは
「そういえば今の時期は……ものすごく忙しいのではなかったかしら?」
 思い出したかのように冴那は朔耶に問いかけた。
 大丈夫、とあっけらかんに返事を返すと朔耶はあまっていたおはぎの山に手を伸ばした。
「うちは旦那の他にもう1人住職がいるからね、その分は他の寺より仕事が少ないんだよ。まあ……忙しくないといったら、正直なところ嘘にはなるだろうけどね」
 それでも遊ぶ暇は全くないわけではない、むしろ忙しい時にこそ遊ぶだけの余裕がなくてはならない、と朔耶は言う。確かにその通りだ。仕事におわれてずっと過ごしていては身も心も荒んできてしまう。人々に平穏と安らぎを与える聖職者が疲れて病んでいては意味がないだろう。
「だからこうして、人との触れ合いに顔を出すようにしてるのさ」
「そうね……いらいらしていては動物達だって怯えて暴れやすくなってしまうも、ね」
 ふと、背後を何かが通り抜ける感覚がして朔耶は振り返った。だが、そこに見えるものは暗い畳とろうそくが点々と灯る壁だけだ。
「どうかしたの?」
「いや、なんかいま……通っていかなかったか?」
 するり……
 今度は畳みに付いていた左手の上を生温い感触が走った。あわてて振りほどこうと手を引っ込め、その反動で朔耶は麦茶を畳みにこぼしてしまった。
「あらあら、大変……」
 近くにいたりくがすぐさま畳と朔耶の足付近を拭き取りはじめる。
「い、いま……なにかぬるっとしたのが……」
「特に何もいない感じだったわよ? たぶん汗がそう感じさせたのよ」
「そう……なのか……?」
 少々納得がいかないと朔耶はひとつ息を吐き出す。
 その時、朔耶は強い視線を感じた。顔を上げると、冴那の背後に赤い2つの目が爛々(らんらん)と輝いているのが見えた。
「なっ……う、うしろ……」
「何?」
「うしろ……、目……っ!」
「目?」
 いつの間にか気配は消え去り、朔耶を見つめていた瞳は闇の中へと消え失せていた。
 小首を傾げる朔耶に淡々と冴那は言う。
「きっと、ろうそくの炎が何かに映って瞳のように見えたのよ」
「うーん……もっと、こう生々しい感じはしたんだけど……」
「それとも、さっき蛇の話をしたから、蛇の霊でも来たのかもしれないわね」
「……噂をすれば集まってくる、という奴か?」
「怪談をしていると来るそうね。でもそれなら面白いのじゃなくて? その方が話も盛り上がるもの」
「はい、おかわりの麦茶だよ。次はこぼさないよう注意しなさいな」
 りくから受け取った麦茶を朔耶は一息に飲み干した。緊張のせいで乾いたのどに麦茶の香ばしい味が心地よく広がっていく。
「さて、それじゃ最後は俺の話で締めくくらさせてもらうとするかな」
「坊守さんの話なら、さぞや恐い話なのでしょうな」
「そう思うかどうかは……聞いてからのお楽しみってところかな」
 そう言って朔耶はにっこりと微笑んだ。
 
■談話中の訪問者
「そして……その角を曲がった先に、白い玉のようなものが浮かんでいたんだ……」
 朔耶は両手で輪をつくり、玉の大きさを示す。
 大きさはだいたいハンドボール位だろうか、自然にあるには不自然な大きさだ。
「玉はふわふわと風もないのに揺れていて……なぜかそれを見ていると何も考えられなくなってしまったそうだ」
「……あそこ……」
 朔耶の反対側に座っていた柚葉が天井を指差した。
 白く輝く玉のようなものが、ふわふわと浮いている。
「こっちに近付いてくるよ……!」
 全員、反射的に身構えて玉の様子を見守った。玉はふらふらと天井を飛び回った後、突然ぱちんと弾け飛ぶように消えてしまう。
「何だったんだ……?」
「さあ……」
 だが、それを合図に全員の背筋に寒気が走った。障子の外に灯籠に照らされた人の影がぼんやりと映っている。
 おびえる柚葉をなだめながら、朔耶はあきれた様子でため息をついて障子を眺めた。冴那をはじめ、他の面々もいたずらの主がだいたい予測できているのか余裕の表情だ。
 朔耶の足下に柔らかいものが触れる感触がした。彼女の霊獣が1匹すり寄ってきているのだ。彼はじっと主人を見つめ、しっぽを左右に振る。
「……戯れるのはいいが、食べるんじゃないぞ……」
 霊獣は一声あげ、楽しげに障子の向こうへと駆けていった。しばらくして、老人の叫び声と楽しげな犬の鳴き声が外から響いてきた。
「おどかすつもりがおどかされる方になっちゃったみたいね。それで、話の続きを聞かせてもらおうかしら」
「ああ、そうだな。じゃ続きを話すとしようか……」
 改めて腰を下ろし、朔耶は再び話はじめた。
「ーーーーその玉に引き寄せられるように、彼はゆっくりと歩を進めていったんだ……」

■帰り支度
「ずいぶんと暗くなってしまったし、足下にお気をつけてお帰りなさい」
 最後の話が終わると、夕方から始めていたにもかかわらずいつの間にか深夜近くにまでなっていた。
 子供はもう寝る時間だというりくの言葉に皆賛成し、それぞれ家路につくことになった。
 この時間ではもうバスの発着もまばらで、徒歩で帰れる近所の者以外はあやかし荘に一晩泊まることにした。
 もう船を漕ぎはじめた柚葉を背負いながら、朔耶はりくから明かり用のちょうちんを受け取った。
「すっかり眠っちゃったわね」
 孫を見るようなまなざしでりくは柚葉を寝顔を見つめた。その口調からはどこか優しさが感じられる。
「転ばないよう坂道と階段には気をつけなさい、ああ、それとあのいたずらっ子もちゃんと連れ帰っておやりなさいな」
「大丈夫、もうここにきてるよ」
 朔耶の足下に先程の霊獣がすり寄ってきていた。満足げの表情で口にくわえている白い固まりのようなものを朔耶に差し出す。
「こら、食べたら駄目だといっただろう」
 ぴしゃりと朔耶は獣の頭を叩く。
 すきをついて、獣の口からするりと逃げ出した玉はおぼつかない様子で闇へと飛んでいった。
「……で、お前達は何がしたいんだ?」
 朔耶は玉の飛んでいった方を横目でにらみ付けた。
 ざわ……と何か気配が起こるものの、それははっきりと姿を見せずに散っていった。
「いたずら好きのじい様達には飽きれたものね」
 せっかくの話が中断されたしね、と冴那がさり気なく朔耶のちょうちんを取った。
「片手じゃ柚葉ちゃん落ちちゃうでしょ。どうせ私も今日はあやかし荘に泊まるつもりだし、ついていってあげるわ」
「りくさんは……?」
「私はまだ後片付けが残ってますよ、どうぞ先にお帰りなさい」
「そうか、それじゃ……おやすみなさい」
「はいよ、おやすみなさい」
 砂を踏み締める足音が夜の神社に鳴り響く。
 それはすぐさま闇へと溶けて、夜の夏虫の音色へとかわっていった。

■夜の涼み方
「おつかれさまでした」
 子供達を寝かし付けた後は大人の時間。
 あやかし荘管理人の因幡恵美の計らいで、こっそりと冷酒がふるまわれた。
「寝ちゃった人には内緒ですよ」
 いたずらっこのように恵美はにっこりと笑った。
 透明のグラスに入れられた酒はどこまでも透き通る程透明で、一口含めば爽やかな香りが口の中に広がっていく。
「いいお酒ね……これにつまみがあれば文句なしなんだけど」
「そういうと思って、作ってきましたよ」
 そういって恵美が差し出したものは夏野菜とまぐろをあえたカルパッチョだった。さっぱりとした梅のソースが後味をさらにさわやかにしてくれる。
「暑い中、外出したかいがあるってものね」
 浴衣から扇子を取り出して冴那は静かに仰ぎはじめる。
 ふと見上げると、裏手の山から白い帯が立ち上っているのが見えた。お迎えに呼ばれてのぼっていく者達に冴那は目を細める。
「何か見えますか?」
 視線につられて空を見上げる恵美に冴那は何でもない、と答えた。
「月がきれい……と思ってね」
「そうですね、今日はすごくきれいです……」

おわり

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0376/巳主神・冴那/女性/600/ペットショップオーナー
3368/山内 ・りく/女性/ 90/管理人・駄菓子屋店主
3404/祇堂 ・朔耶/女性/ 24/グランパティシエ兼坊守

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 お待たせいたしました。
「夏の怪談」をお届けいたします。
 幽霊達はひょっこりお話の間におどかそうという魂胆だったのですが……それを見事に見透かし、かつ追い払える方の力で見事に未然に塞がれてしまいました。
 なお、本文中に朔耶さんが話していたお話の内容をここで簡単に紹介します。
 
ーーーーー

 とある小学校の裏にある小脇に、なぜか誰も通らない道がありました。
 昔は生活道路として使われていたそうですが、ある日を境に利用者がぱったりといなくなったのです。
 噂ではその道を通った人は神隠しにあうのだとか。
 ある日、一人の若者が近道にとその道を通ることにしました。
 道を半分に過ぎたときのことです。いきなり白い玉のようなものが道をとうせんぼしてきました。
 その玉になぜか引き寄せられ、ふらふらと歩み寄り。そこで意識を失ったそうです。
 気付いたら、道の反対側にでてました。時計をのぞくと道を通りはじめて4時間過ぎていたのです。
 たった5分の近道が4時間も過ぎてしまい、さんざんな目にあったそうです。
 その間の記憶は今でも思い出せない、まるで時間が抜き取られたようにぽっかりと開いているそうです。
 
ーーーーー
 
 怪談の部類に入るかどうかは……ちょっと疑問なお話、かな?
 
巳主神様:御参加ありがとうございました。蛇のお話、少しアレンジをさせていただきましたが良かったでしょうか? それにしてもあれが本当ならば……蛇に犬をけしかけたことのある私は非常に運がよかったのですね(怯/何)

 今年の夏は非常に猛暑だということで、まさに記録的な暑さの日々ですが、皆様も体調管理には十分お気をつけください。
 
 それではまた別の物語にておあいいたしましょう。
 谷口舞拝