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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


恋火〜Pure love fire〜

Opening

「不審火、ですか」
「はい……」
項垂れる中年女性にお茶を勧めながら、草間・武彦は話を進める。
「それはあれですか、娘さんのストーカーが嫌がらせをしているとか」
「いえ、そんな事は無いです」
つまりは、原因不明。客の前なので溜息をつく訳にもいかず、少し笑顔が引きつった。
「何の原因も無いのに、娘の周りで炎が出るんです」
「そうですか……それで、何故ここに?」
「オカルト探偵さんなんでしょう?」
中年女性の言葉に、今度こそ溜息をつく草間。せめて怪奇探偵と言われた方がましである。
「高峰さんという方から、紹介してもらって」
「なるほど」
高峰・沙耶経由なら、正真正銘の怪奇事件だと思っていい。つくづく怪奇事件に縁があるな、と内心で苦笑を浮かべる。
「それで、高峰は何と?」
「えぇ……パイロキネシス、だと」
パイロキネシス、念力発火能力。何も無い所から炎を起こすという超能力ならば、不審火が起こっても不思議ではないだろう。
「詳しい事は、高峰さんから聞きましたが……ちょうど、娘の年頃が危ない、と」
パイロキネシスは、ポルターガイストなどの現象と同じように、思春期の子女の不安定な思いから発生するとも言われている。
「そうですか」
頷く草間。しかし、それならば。
「何故、パイロキネシスを?」
能力の制御が出来ているのなら、発火現象は起こらない。それが出来ていないという事は、何らかの不安定な思いがあるのだろう。
「実は……娘が恋をしていまして」
「恋……ですか」
正に、恋の炎が燃え上がった、という訳だ。
「今、家にホームステイに来ているイギリス人の子に、どうやら恋をしてしまっているようで……でも」
「でも?」
「あと一週間で、ホームステイが終わってしまうんです」
つまり、一週間の間にパイロキネシスの娘が告白するなり恋を諦めるなりしなければ、不安定な思いが更に強くなる可能性がある。
「私ではどうにもできないんです、草間さん、助けてください!」
苦しげに叫ぶ女性を見て、頷く草間だった。

MAIN

殺風景な部屋の中で、少女は机に向かっていた。
白に罫線の引かれた簡素な便箋に、ペンで文字を書き綴っていく。
内容は、天気の話や料理の話など、他愛の無い内容。まるで、何か書きたいことがあるのにそれが書けない、とでもいうように文字数だけが増えていく。
「……私、何書いてるんだろ」
ポツリ、少女が呟いた。今まで書いた文章に×線を付けて、便箋の端に小さく言葉を書き記す。
『ウィリアム=リスム様、私は、あなたのことが』
そこまで書いて、少女はペンを放り出した。便箋をぐしゃぐしゃに丸めると、ゴミ箱に放る。
「どうせ、私なんか……」
少女の瞳が揺れ、表情が険しくなった。
「あ、手紙……」
他人にはあまり見られたくない。読めないようにしよう、と思った瞬間。
ボウッ!
「きゃっ?!」
驚く少女の視線の先に、炎を噴出すゴミ箱。
「ま、また……」
最近、自分の身の回りでこんな事が何度も起こっている。しかし、今回の炎は大きい。このままでは部屋が焼けてしまう。
「み、水」
「水ですっ!」
少女が呟いた直後、部屋の扉が開き、バケツを持った海原・みなもが飛び出してきた。
「えいっ」
バケツの水をゴミ箱にかける。勢い良かった炎が、一瞬で消えた。
「大丈夫ですか、綾さん」
みなもの声に、ぎこちなく肯く少女―綾。
「ほら、やっぱりあたしが付いてた方が良かったじゃないですか」
少し怒り気味のみなも。発火現象で綾に被害が出ないようにと、綾の傍を離れないようにしていたのだが、さすがの綾も、同性ではあるが昨日会ったばかりの人間を部屋には入れたくないらしく、部屋の外で待機していた。
「すいません……」
年下のみなもに丁寧語で謝る綾。みなもが回りを付いて行った時も、始終丁寧語を崩さなかった。礼儀正しいというよりは、強く出れない性格なのだろう。
「無事だったかい?」
みなもの後ろから顔を出すのは、ケーナズ・ルクセンブルク。
「ぁ、はい……」
綾の口から出た言葉に肯くと、みなもに目配せをする。
「……んと、じゃああたしはちょっと休憩するので、後はケーナズさんに任せます」
綾の返答も聞かずに、さっさと部屋を出て行くみなも。
「ぁ……」
それを目で追った綾の目が、ケーナズと合う。
「少し、話をしないか」
「ぇ、あ、はい……」
肯く綾を見て取って、部屋の中に入って来るケーナズ。椅子代わりにベッドに腰掛けた。
「キミの身に起こっている事が何か、解っているか?」
「……パイロキネシス、とか、聞きましたけど」
「その話を信じているかな?」
ケーナズの問いに、否定も肯定もせず俯く綾。
「人と違う力を持つ事がそんなに嫌かな?」
「……わかりません」
椅子を回して、ケーナズに背を向ける綾。それを見て、ケーナズが微笑を浮べる。
「世の中には色んな人間が居るものだ、例えば」
パチン
ケーナズが指を鳴らした瞬間、綾の座る椅子が反転した。
「えっ?!」
「PK(サイコキネシス)というやつだ」
どこか怯えたような視線を向ける綾に、あくまで微笑を崩さないケーナズ。
「という事で、能力自体は特に不思議なものでもない。問題は、その原因」
「ぇ……」
「思春期の不安定な心……分っているんだろう?」
無言の綾。その代りに、部屋の温度が上がった。
「……まあ、いいさ。仲間が下調べに行っている。その間に色々考えれば良いだろう」
「下調べ?」
聞き返す綾に、ぴっ、っと指を立てるケーナズ。
「恋なんて当たって砕けろ、だ。だが、情報があるに越した事はないからな」
ケーナズの口から出た、恋、という言葉に顔を赤くする綾だった。


「へぇ、ウィリアムさんって日本語も出来るんですね」
「まア、少しでスが」
犀刃・リノックの問いに、肯くウィリアム。
ここは、下町の一角ひひっそりと立つ駄菓子屋。ウィリアムがそこに通っている、という情報を得たリノックは、ある事を確認しようとそこへ向かった。
そこにいたウィリアムという青年は、確かに綾が惚れる程美人だった。しかし、美人だという事は、女性に放って置かれるわけが無い、という事でもある。
「所で、ウィリアムさんって恋人とか居るんですか?」
リノックの問いに、首を横に振るウィリアム。
「恋人を作っていル暇は無いデス」
「どういう事です?」
リノックの問いに、嬉しいような、困ったような、微妙な表情を浮べるウィリアム。
「実ハ、ベンチャー企業に就職ガ決まりまして、これからハ、仕事で忙殺されそうなのデス」
「へぇ、じゃあ、このホームステイが最後の楽しみですか?」
「ハイ、そのつもリで来ましタ」
「楽しいですか、ホームステイ」
「エエ」
にこやかに肯くウィリアム。
「ステイファミリーの皆さんモ優しくしてくれますシ」
「綾さんとかですか?」
リノックが綾の名を出した途端、ウィリアムの表情が変わった。
「アヤは……良い人デス」
「お、もしかしてちょっと気になったりしてません?」
軽い口調で尋ねたリノックに、困ったような笑顔を向けるウィリアム。
「あと数日デ、二度と会えなくなル人デスから」
「まあ、そうですよね」
ウィリアムに合わせて微笑を浮べつつ、脈あり、と内心で呟くリノック。


「……という事で、これは当たっても砕けない可能性大ですよ」
リノックの説明に、俯いてしまう綾。
再び綾の部屋で、みなも、ケーナズ、リノック、の三人が揃っていた。
ウィリアムは、一階の食卓で夕飯を食べている。二階のこの部屋からの声は聞こえない。
「どうしたんですか?」
首を傾げるリノックをコツンと叩いてから、みなもが笑う。
「いつまでも想いを隠したままでは駄目ですよ、言うべき事はちゃんと言わなきゃ」
「でも……」
ボッ!
綾の迷心を現すように、フローリングの床の一角が燃え出した。慌ててみなもが消火した。
「このまま迷っていれば、あと数日でウィリアム君は帰ってしまう」
「はぃ……」
ケーナズの言葉に耐えるように、ぎゅ、っと拳を握り締める綾。同時に、部屋の温度が上がっていく。
「当たってみるだけ当たってみるのも手だと思います。絶対に、このままじゃいけないです」
みなもが綾を強く見つめながら言う。その言葉には僅かな怒りが篭っていた。
「炎が燃え上がる程想ってるのに、何で何もしようとしないんですかっ!」
ボウッ!
一瞬、綾の周囲の物が一斉に燃え上がる。が、すぐに収まった。
「そう……ですよね」
何かを決心したような綾の声。
「私……想いを伝えます」
肯く綾に、笑顔を向けるみなもだった。


「で、何で夜の公園?」
「ほら、デートスポットだと綾さん緊張するでしょ?」
「まあ、これも定番といえば定番だからね」
不安げに立ち尽くす綾を遠めで見つつ、茂みの中に隠れた三人が話す。
三人の行動も、ある意味定番のような気がする。
やがて、ウィリアムが公園に姿を現した。綾の姿を認めると、ゆっくり近付いていく。
「何か話ガあるという事でしたガ」
「はい……」
そう言うも、なかなか肝心の一言を言い出せない綾。
「どうしましタ?」
「えっと……」
ポッ
「あ、火が出てる」
みなもの視線の先で、砂場に鬼火のように火が灯っていた。幸いウィリアムに気付かれてはいない。
「どうしましょう。このままだと公園が大火事になっちゃいますよ」
「ああ、何とかしなければ……」
心配そうなみなもとケーナズの隣で、リノックだけが一人微笑を浮べている。
「あの……っ」
ビクッ、っと綾の体が小さく跳ねた。驚くウィリアム目を真っ直ぐ見て、綾は言葉を紡ぐ。
「私は、あなたの事が好きです!」
「言った……」
「言ったね……」
急展開についていけない二人を余所に、リノックは微笑を浮べていた。リノックの異能、剣戒舞には、相手に勇気を与える、という使い方も出来る。あくまで勇気を与えるだけに留めたのは、綾の本意を知りたかったから。勇気があっても、綾にその気が無ければ告白は出来ない。
「……僕ハ、もうすぐ国に帰りまス」
「はい」
「暫くハ、帰って来れなイ……それでも、良いですカ?」
「……はい」
二人だけの空間で、言葉を交わす綾とウィリアム。
そっと、二人の影が寄り添った。
「これ以上は野暮ですよ、帰りましょう」
まだ覗きを続けようとする男二人の耳をひっぱって、そっとその場から立ち去るみなも。
その視線の先で、幾つもの小さな蛍火が揺れていた。


「アリガトウゴザイマシタ」
荷物を持ったウィリアムが頭を下げる。
ここは、空港のロビー。ウィリアムと、ウィリアムが帰国するのを見送りに来た綾、そしてみなも、ケーナズ、リノックの五人が居た。
「今度は、何年後でしょうね」
「サァ……一年後カ、五年後カ、十年後カ……」
だんだんと表情を暗くさせる綾とウィリアム。
「そうだっ、今度は綾さんがウィリアムさんの所に行けばいいんですよっ!」
みなもの声が響く。
「エ?」
「……そう、ですね」
小さく何度も肯く綾。
「ウィリアムさん、今度は私がそっちに行きます。だから、待っていてくださいね」
「……ハイ」
先程の表情から一変して、お互いに優しい微笑を浮べる二人。
「……でハ、そろそろ」
名残惜しそうに、ウィリアムが去って行く。
その姿が消えるまで、見送った綾。
「……行ってしまったね」
肩を軽く叩くケーナズの方を向く綾。その瞳が、僅かに濡れていた。


「という事で、ありがとうございました」
「本当に、ありがとうございました」
綾と母親が笑顔で頭を下げる。
「お役に立てて良かったですよ」
今回は何もしていない草間が笑う。実を言うと、結構な依頼料を貰っている。自然と笑顔の質も良くなろうというもの。
「パイロキネシスもちゃんと消えたようで良かったですよ」
つい安心して、癖で煙草を出した草間。一本口に咥えるが、火が見当たらない。
ポッ
「っ?!」
驚く草間の目の前で、煙草に火がついた。
「消えてなかったり」
悪戯っぽく笑う綾。
「制御は出来ているので大丈夫だろう、らしいです」
苦笑を浮べつつ母親が言う。
「恋の炎は消えましたけど、今度は、愛の炎が付いたんです」
冗談めかして笑う綾に、微妙な笑みを浮べる草間だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1252/海原・みなも/女/13/中学生
 1565/犀刃・リノック/男/18/魔導学生
 1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男/25/製薬会社研究員(諜報員) 
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■         ライター通信          ■
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どうも、渚女です。
恋の炎に異能を絡めてみました今回のお話、どうだったでしょうか?
ここが良かった、ここをもっと良くして欲しい、などありましたら、お気軽にお手紙くださいませ。

海原様、初参加……二度目ですかね?とにかく、御参加ありがとうございます。
犀刃様、前の依頼から間が無いのに関わらず二度目の御参加ありがとうございます。
ケーナズ様、初参加でしたが、どうだったでしょうか?楽しんでいただければ幸いです。

それでは、また次の依頼でお会いしましょう。