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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


聖家族



オープニング




小さな掌が、大事にくるんでいたたくさんの小銭達を机の上にそっと置いて、不安げに揺れる目で見上げられながら「足りませんか?」と聞かれた瞬間、零は耐えきれず目頭をハンカチで抑えた。
「おこづかいと、お年玉の残りと、あと、お手伝いした時にもらったお駄賃も一緒に持って来たんです」
武彦は小さな依頼人に、いつもの少し憮然とした顔つきで「足りないね」とにべもなく答える。
「大体、ウチは興信所であって、医者ではない。 無理だね」
冷たい言葉。
その言葉に、武彦の前に座る、坊主頭の子供の目からポタポタと涙が零れ落ちた。
「お…お、お願いします。 ば……ばぁちゃん…ずっと、俺の事、一人で育ててくれたから……、俺…どうしたら……いいか…」
そのまま、グシグシと泣き崩れる姿に、零は手を伸ばし、その小さな頭を胸に抱え込む。
「そうよね。 お婆ちゃんいなくなったら、独りぼっちになっちゃうものね……」
依頼に来たこの子の名前は、健司。
まだ、小学生だという。
両親が早くに死に別れ、祖母の手によって育てられたそうだ。
だが、その祖母も、かなりの高齢でこの夏、とうとう倒れてしまったらしい。
その間、健司は一人で家の中の事を切り盛りし、祖母の世話をし、学校にも通った。
だが、そんな健司の懸命な看病にも関わらず、医者の話では、祖母はこの夏一杯の命と考えた方が良いらしい。
「お、お婆ちゃんの事助けて下さい…。 何でもします。 お、俺、何でも…何でもします…」
彼は、この興信所が、不思議な事件ばかりを解決してきているという噂を聞き、藁をも掴む思いで尋ねてきた。
「お婆ちゃんの命…助けて下さい」
しかし、武彦は首を振り、諭すような調子で言う。
「決められた命の長さを、人の手では左右できない。 例え出来てもしてはならない。 お前の婆ちゃんは、立派に生きて、やっとお役ご免の時がきたんだ。 お前は、今、婆ちゃんが生きてる内に、もう一人で立派に生きてけるって見せて、安心してあの世へ行かせてやらなきゃ駄目だ。 有りもしない、命を永らえる方法を探すより、そっちの方がずっと大事なんだ」
武彦の言葉に、健司は首をブンブンと振る。
「ひ……一人で、なんて、無理です。 だって、だって、俺、ずっと婆ちゃんと一緒に……一緒に……」
そんな健司を見て、零は、沈痛な面もちで口を開く。
「一人でなんて、無理よね。 一人は、寂しいものね。 でもね、兄さんの言う通り、無理なの。 お婆ちゃんを助ける事はね、どうしても無理なの」
その言葉に、零と武彦、交互に視線を送った健司は、「う……うぅ…」と嗚咽を漏らしながら立ち上がり「分かったよ! もう、頼まないよ!」と叫ぶと興信所から走り出ていった。
零は、その背中に「あ!」と声を掛けて手を伸ばす。
そして項垂れると、「…どうしよう」と呟いた。
そんな零に、見透かすような視線を送りながら武彦は口を開く。
「あーあー、困ったなぁ」
「え?」
驚いたように顔を上げる零。
「あいつ、金置いてっちゃったな」
そう言いながら、ヒラヒラと一枚の紙を見せる。
「これ、健司が書いてくれた連絡先と住所。 んで、忘れ物の金」
「……え?」
「届けてくれるか?」
そう首を傾げられて、零は勢い良く頷く。
すると武彦は、少し笑って、「ホイ」と紙を渡してきた。
健司の家は、下町にある、古く、今にも倒れそうな姿をしていた。
零が、そっと中を覗き込めば、開け放した畳の部屋は、荒れ放題の様相を呈している。
どれ程頑張ろうとも、小学生一人では手入れが怠ってしまうに違いない。
祖母の世話だって、大変な筈だ。
ご飯はどうしているのだろう?
そう考え出すと、もう、駄目だった。
零は、トントンとドアをノックしながら決意する。
「お節介だって言われようと、私、この一夏、この家の家事を手伝ってあげよう」と。




本編




「…うん。 そう。 じゃ、こっちの問題は出来るかな? さっきの(3)と同じように、解くんですよ?」
水命は、健司の「夏休みの友」を指差しながら、そう優しく言う。
健司は、鉛筆を握り締めながら「えーっと…」と言い、頭をガシガシと掻いた。
「水命? 水命…ちょっと良いかい?」
健司の祖母の、志之が呼んでいる。
「じゃ、このページ、やってね? 出来たら、見直しするからね?」
そう言い置いて、パタパタと志之の寝所へ向かう水命。
「はーい」
そう言いながら、行けば志之が床擦れを起こしていたのだろう。
何とか、寝返りを打とうとして、四苦八苦している所だった。
「っ! 駄目です! お手伝いしますから!」
そう言いながら、何とか身を起こしてあげようとするのだが、如何せん非力が祟って、二人一緒に崩れ落ちそうになる。
たまたま、通りがかったシオンに「だ、大丈夫ですか?」と言われながら、手を貸して貰えて、何とか志之に寝返りを打たせる事に成功した。
「ふぅぅー。 もう、志之さんったら、どうしようもなくなる前に呼んで下さい」
そう口を尖らせて言えば、シオンも「そうですよ」と言い、「じゃ、屋根の修繕行ってきます。 志之さんは、無理しない事」と言って部屋を出ていく。
「だって、出来ると思ったんだもの」
拗ねたようにそう言う志之の声音が何だか可愛くて、水命は思わず笑ってしまった。


水命が、この家に泊まり込むようになって、一週間。
最初の頃は、遠慮や警戒心が健司や志之にあったものの、彼女の人柄のせいだろう。
今じゃ、すっかり打ち解けて、二人と仲良くなっている。
家の中の事も、自分の家のように全て理解して、今じゃ家族の一員のように振る舞っていた。


再び健司の宿題を見に戻れば、今度はエマと志之が何か言い合う声が聞こえてくる。
興信所のボランティア事務員兼草間の公然の恋人シュライン・エマも今回、手伝いに来ていて、色んな部分を仕切ってくれていた。


健司が一通り、今日のノルマを済ませた所で鵺が、襖を開けて顔を覗かせる。
鬼丸鵺は、都内にある、鬼丸精神病院の院長の養女だそうで、小柄な体に銀色の髪、そして真っ赤な眼が印象的な美少女だった。
まだ、中学一年生だとかで、ヒラヒラと健司を手招きしながら、子供らしい無邪気な声で「健ちゃん! おつかい一緒に行かない?」
と誘う。
健司が、ニカッと笑って「行っても良い?」と聞いてくるので、自分が鵺に頼んだ事でもあるし「鵺さんも、健司君も、外は日差しがキツイから、帽子、被ってきなさいね?」と行って、送り出した。


さて、そんなこんなで、掃除などの雑事に追われ、お昼近くになった頃である。
鵺と、健司は、「途中で、麒麟亭のカレーピラフ食べてくるね」と言っていたので、まぁ、良いとして、問題は自分達の昼ご飯である。
「素麺でも茹でようかな?」
と考えつつ、台所に行けば、そこには黒髪に銀メッシュの入った、背の高い見知らぬ男性が立っていて、持ち込んだらしい大きな中華鍋を振るっていた。
振るった鍋の中で踊っているのは、炒飯だろう。
自分は力が無いのでああいう料理は到底無理だと、感じ、思わず感嘆の眼差しで眺めてしまう。
ごま油の良い香りに目を細めつつ、「あの…どちらさまでしょうか?」と問い掛ければ、男性は右目に眼帯をしたモデル張りの端正な顔を此方に向けた。
そして、少し微笑むと、ぺこりと軽く会釈する。
「初めまして。 えーと、暁水命さん…ですよね?」
そう言われて、慌てて頷く水命。
「俺は、鵺お嬢さんの家庭教師兼(フフフと嬉しげに笑う)婚約者の魏幇禍と言います」
そして、「鵺お嬢さんが、お世話になってます」と言われて、慌てて「いえいえ、そんな」と言葉を返す。
「この度は、この家の窮状を聞き、何かお手伝い出来る事はないかと、参上したのですが、諸事情御座いまして、影に徹して、鵺お嬢さんを見守らねばならなくなりましたので、今もこうやって、鵺お嬢さんに会わないように、行動しております」
そこまで言って「よっ!」の掛け声と共に鍋の中身をひっくり返す幇禍。
そしてちぎったレタスを入れ、サッと炒めた後に、机の上に用意してある大皿にあける。
滅茶苦茶手際が良い。
「志之さんには、卵スープと中華粥の方ご用意する予定ですので。 もう少々お待ち下さい」
そう言われて「有り難う御座います」御礼を言い掛け、ハタと気付いた。
「あ……あの、幇禍さん…」
「はい」
「どう…して、お昼作って下さっているのですか…?」
そう問えば、幇禍は、卵スープをかき混ぜつつ、「鵺お嬢さんが、お世話になってますし、皆さんお忙しい中、昼食のご用意まで大変そうだと思いましたから…」と言い、そして楽しみそうに微笑む。
「それに、お嬢さんにも、食べて頂きたいですしね」
そう言われて水命、思わず居たたまれなくて顔を伏せた。
どうしよう。
言えない。
彼女は健司と今日、美味しいカレーピラフが有名な麒麟亭で昼食を済ませてくるなんて、こんな全開の笑顔の幇禍には言えない。
しかし、黙っていても、いずれはバレると気付き、おずおずと「すいません。 何か、今日、鵺さんはお外で昼食を済まされるみたいで…」と告げた。
瞬間、硬直する幇禍。
「へ?」
そう短く問い返されて、自分が悪いことをしたような気分になりもう一度「すいません」と詫びる。
「…食べないんですか? お嬢さん。 お昼」
そう言うので、コクンと頷けば「は…はは、は…」と、小さな笑い声をあげ、がっくりと項垂れた。
思わず水命「じゃ、お昼、一緒に食べましょう? ね? ね?」と、誘い、明るい声で「わぁ! 炒飯美味しそうv それに、この野菜炒めも、いい匂いですね!」と無理矢理はしゃいだ。


結局、幇禍は「油断大敵ですんで…」とか意味の分からない事を言いつつ、昼食には参加しなかったが、あの口振りだとこの家の周りに潜んで、鵺を見守っているらしい。
この暑い最中、頑張るものである。
そう感じながら、自分も完璧な迄に見事な中華料理に舌鼓を打ちつつ、諏訪海月に身を起こして貰い、志之の口元に粥を運ぶ。
海月は、頭にタオルを巻き、長い銀髪を一括りにした青年で、今時っぽい外見にも関わらず、無愛想ながらも、庭仕事などのキツイ仕事を黙々と行ってくれていた。
細身にも関わらず力があり、貴重な男手として大活躍している。
志之の体を起こすのを手伝って貰う人は、まちまちだが、この志之の口にご飯を運ぶのは水命の仕事と決まっていて、今では、どの位の量が、志之の一口かも分かっていた。
ふーっと、冷まして、志之の唇に粥を流す。
「美味しいですか?」
そう問えば、「ああ。 あんた達は、みんな料理上手だねぇ」と誉めた。
「そう言って頂けると、作って下さった人も、喜びます」
嬉しげに水命は言い、再び粥を食べさせる。
海月は黙ったまま、それでも志之が苦しくないよう細心の注意を払って、支えているらしく、志之は心底安心したように、また口を開いた。


「食欲、戻ってきてくれてて嬉しいです」
志之の食べ終わった後の食器を片付けながらそう言う水命に、運ぶのを手伝ってくれた海月が「そうなのか?」と、問うてくる。
「はい。 志之さん、来た当初は、殆ど何も召し上がらなくって、食べないと良くならないのに…って、不安だったんです」
そう言いながら、カチャカチャと皿を洗う水命。
海月に「あ、どうぞ、御自分のお皿も置いていって下さい。 片付けますので」と、声を掛ければ、「どうも…」と頷き、再び庭へと向かう。
アイスを持って手伝いに来てくれた、プロチェリストの卵、初瀬日和が皿を運んできてくれた。
二人並んで、皿を洗いつつ、今晩の食事の相談を始める。
エマが、得意の里芋の煮っ転がしを作ってくれると言っており、既にメニューの材料は鵺に頼んでおいてある。
初瀬も、家事能力には長けているらしく、水命は志之に聞いた、大好物でもあり、健司の母が大得意だった茶碗蒸しとキュウリの酢の物。 それに、蛸飯を作ろうと二人で決めていた。
皿洗いの後は、洗濯物を取り入れて畳まねばならない。
夏だし、泊まり込みをしている人間の分のシャツなどもあって、庭の物干し竿に干してある洗濯物の量はかなりの物があった。
初瀬と二人、黙々と畳み続ける。
時折、お互いの話などしつつ、蝉の声を聞きながら、作業をしていると、とても心が落ち着く。
暫く経って、あらかた洗濯物が畳み終わる頃、「たっだいまぁ!」という、明るい声が、玄関から響いてきた。
鵺の声だ。
「健司君達帰ってきたみたいですね。 じゃ、そろそろアイスで休憩でもしましょうか?」
そう微笑んで立ち上がる初瀬。
水命も頷き「外、暑そうですしね。 シオンさんや、海月さん達もお呼びしましょう」と、答えた。


古い家なので、台所と畳の居間が襖と段差だけで区切られており、開け放って風を通しがてら皆で集まれるようにする。
家自体は広く、部屋数も二人で住むには充分すぎる程ある家なので、泊まり込みで来てくれている人達も銘々の部屋があてがわれていた。
と、いっても、水命は心配なので志之の隣で布団を敷いて寝ているし、時々泊まり込みで手伝いに来てくれている、小学生ながらも驚くべき程大人びている飛鷹いずみや鵺等は泊まりにきた時は健司と一緒に並んで寝ていて、それぞれの部屋などあってなきが如しだった。
初瀬が、ここに来がてら差し入れとして買ってきてくれたアイスを振る舞ってくれる。
水命は、少し悩んだ後ソーダバーのアイスを選んだ。
「どれにします?」
そう言いながらアイス達が入ったビニール袋を広げて見せる初瀬に「ありがと」と、エマが御礼を言いつつ「じゃ、私はこの、苺アイス貰うね。 それから、こっちのバニラアイスいいかな?」と首を傾げた。
(二個も食べるのかな?)と、内心水命が驚けば、初瀬も「いいですけど、二個も食べるとお腹壊しますよ?」と、心配げに言い、エマは苦笑を浮かべる。
「や。 志之さんにもね、暑いから、こういうの美味しいんじゃないかなと思って。 バニラだったら、食べやすいだろうし」
その言葉に、自分の勘違いを恥ずかしく思うと共に、給仕ならば自分の仕事だと思い「志之さんにアイスお給仕するんでしたら、私もお手伝いします」と言いながら立ち上がった。
初瀬もニコリと笑って「そうですね。 冷たいもの少しでも召し上がりになれば、少しは涼しくなれますから」と言うと、ゴソゴソとバニラのカップアイスをエマに差し出す。
エマと水命は台所からスプーンを借りると、志之のいる部屋へと向かった。


ひんやりとした空気漂う廊下を並んで歩いた。


「水命ちゃんは、泊まり込んでくれてるのよね? 学校とか、ご家族の方とか大丈夫なの?」
エマが問うてくるので、水命は見てる者が幸せな気分になるような笑みを浮かべて頷く。
「全然平気です。 親元を離れて下宿してる身ですし、その下宿先の方々にも伝えてあるので…」
「どうして、そこまで健司君達の為に頑張るの?」
その問いに、(エマさんだって、まるで自分の事みたいに頑張ってるのに)と感じ、水命は笑顔のまま問い返した。
「じゃあ、エマさんは、何で、健司君達の為に毎日のように、ここに来ているんですか?」
エマは、少し驚いたように、目を見張り、それから、フッと微笑む。
「ま、いいやね。 そんな事は」
そう言われれば、水命も頷いて「そうですよ。 いいんです。 そんな事は」と答えた。


 
「歯が浮くから良いつったのに…」
エマがそう文句を言う志之を「ハイハイ」と言いながら肩を支え、身を起こすのを手伝う。
「でもね、冷たくて美味しいんですよ?」
そう言いながら、スプーンでアイスを掬い、志之の口元に水命が近づければ、渋々と言った感じで口を開いた。
銀色のスプーンから、真っ白なバニラアイスを一口ツルリと呑み込むと、志之は目を細めて「ああ。 スゥっとする。 美味しいねぇ、確かに」と呟く。
その様子に、良かったと思えども、志之の食は進まない。
お昼ちゃんと食べたからかな?と思えども、水命や、海月に「美味しいから、あんたも食べな」なんて、頻りに勧めてくれて、かなりの量が二人のお腹に収まっていたし(おかげで、炒飯はそれ程食べられなかった)食欲はかなり回復したとはいえ、やはり志之の食は細い。
エマは、主に志之の身の回りの世話を重点的に行っており、水命も志之の話し相手になっていたのだが、病床にいる筈の志之は二人が驚く程にかくしゃくとしていた。
動かないのは身体だけと言って、口と手を大いに動かし、家の中の事や世間の事、健司の事を話し続ける。
水命は、そんな志之の事を密かに尊敬し、自分の祖母に対するように志之に懐き、世話をしていた。


先のことは何も考えたくなかった。
志之に、間もなく死に逝く人である事など、想像もしたくなかった。

エマが一瞬、体勢を崩し掛けたので、慌てて志之を支える。


軽い。

骨と、皮だけの感触、軽さ。



ツキンと、針で刺されるような痛みが水命の胸を押そう。


この人の軽さが、こんなに心に重い。






結局、志之は、アイスを三口ばかり食べただけで、あとは全て残した。
水命が、アイスを片付けながら俯く。
「…何か…」
「ん?」
「切ないですね」
「そうね」
エマは、静かに答えた。
「老いるって事は、そういう事よ」





休憩後、水命は初瀬と並んで野菜の皮を剥いていた。
今夜の茶碗蒸しの具材と、それから酢の物にするキュウリ。
蛸も、鵺に頼んで、行きつけの魚屋でのとびきり新鮮なものを買ってきて貰った。
水を張ったタライにつけてある姿はグロテスクだが、とても良い味である事は確信している。
いつの間にかエマも隣りに立って、夕食に出す予定の煮っ転がしに使う里芋の皮を剥き始めた。
「健司君、嫌いな物ないですよね」
そう言いながら、水命が奇麗な手付きで皮を剥いているのを感嘆したようにで眺め、エマも負けず劣らずの手付きで、里芋の面を取る。
「嫌いでも、食べさせなきゃ。 大きくなってから、たくさん偏食のある人ってみっともないわよ? それに、栄養のあるものは、今の時期なんでも食べた方がいいの」
エマの言葉に、水命が頷いた。
「そうですね。 とにかく、お野菜だけは、ちゃんと食べなきゃ。 健司君に聞いたけど、志之さんが倒れてから酷い食生活を送ってたみたいだし、うんと、栄養があるものを食べて貰いたいんです」
初瀬も、二人の言葉に同意する。
「過剰な同情というのは、軽蔑にしかならないとは悟っているんだけど、初めてここに来た日、外で鵺さんやいずみちゃん達と水着で水浴びして遊んでいる時にね、健司君が凄く痩せてる事に気付いたら、なんだか、こう…凄く悲しい気分になっちゃって。 その後、家に帰ってチェロのレッスンをしていても、気になって気になって仕方ないんです。 で、結局、こうやって暇を見付けては通っちゃってるんですけど……」
ペロリと舌を出して、そう言う初瀬に、水命は「でも、初瀬さんが来て下さって本当に助かってます。 零さんも、私も……」と言えば、エマも「私もね」と言って、笑った。
そんな三人の後ろに、ハタキを持った零がパタパタと現れ、期待に満ちた声で尋ねてきた。
「わ! 今日の夕食はなんですか?」
零の問いに、水命が「今日は、エマさんの絶品煮っ転がしに、私と初瀬さん合作の蛸飯と、茶碗蒸し。 それからキュウリの酢の物です。 お婆さんには、蛸飯の代わりに茶粥を持っていこうかと考えてるんですけど…」答えれば、「きゃぁv」と嬉しげな歓声があがる。
振り向けば、見知らぬ日本美人が、「今日和!」と言いながら、紙袋を掲げて立っていた。
「あら? 凪砂ちゃん?」
知り合いなのか、驚いたようにエマが、女性の名らしきものを呼び、里芋を一旦流しの中へと置くと、凪砂という女性の側に寄る。
「どうしたの? 武彦さんから、ここの事聞いたの?」
エマの問いに、凪砂は頷いた。
「私にとっても他人事じゃないって感じのお話だし、少しでもお手伝い出来ればと思って……、あ、それで、玄関で、零ちゃんに会って…」
その言葉を次いで、零が口を開く。
「で、お土産をお持ちだという事で、とりあえず此方へご案内したんです」
「この時期だし、冷蔵庫入れた方が良いかな?って、思いますしね」
そう言いながら、差し出した紙袋の中には、東京銘菓の「ひよこ」と「鳩サブレー」が入っていた。
(わ。 ひよこだv)
と、思わず喜んでしまう水命。
実は、水命。 あの、ふわふわの生地の中の、カスタードクリームが大好きだったりするのだ。
凪砂が、嬉しげにその紙袋を机の上に置いた。
「沖縄土産ですv」
凪砂の言葉に、「うあ」と呻くエマ。
純粋に驚く水命。
「わぁ! 私、コレ、東京駅でも見掛けた事ありますよー? 凄い! 『ひよこ』や『鳩サブレー』って、沖縄のお菓子だったんですね!」
そう言う水命に、初瀬も何度も頷いて、「私、東京タワーで見ました。 へー、沖縄の銘菓だったなんて知らなかった」と、びっくりしている。
零がとどめとばかりに頬を染めながら「恥ずかしい…。 私も、東京のお菓子だと思ってました。 ずっと、こちらでの暮らし、長いのに…」と呟いた。
(駄目だ。 この人達)と言わんばかりに、がくりと項垂れ、「や、まごう事なき東京銘菓だし…」エマは突っ込んだ後、「何故に、沖縄で、ひよこ? そして、鳩サブレー?」と問い掛ける。
(やっぱり、東京のお菓子だったんだ)
と、安堵する水命だが、問題は多分、ソコじゃない。
「えー? 美味しいですよ? ひよこ」
凪砂の言葉に、コクコクと微かに同意を示す水命。
「あー、うん、美味しいわ。 それは知ってる。 結構美味しい、ひよこは」
エマが、頷けばポンと手を合わせて「だったらいいじゃないですかー」と、凪砂は明るく結論を付けた。
水命も、「良かったぁ。 やっぱり、東京のお菓子でしたね。 ひよこと、鳩サブレー」と喜べば、初瀬が「うん。 何か、記憶違いだったのかな? って、不安になってたけど合ってたねぇ」と、嬉しげに言う。
零も、ホッと胸を撫で下ろしており、その時点で何か言う事を諦めたらしいエマは、冷蔵庫を指差し、「悪くならないように、ソコ入れといて。 あと、健司君は、庭、健司君のお婆ちゃんの志之さんは、寝室にいるから…」とそこまで言って、手を台所で洗い、「えーと、志之さんとこから最初、挨拶行こう。 この家、広いし、案内するから私も、一緒に行っていい?」と言った。
凪砂は、頷いて「私もエマさんも加えて、お婆さんにお聞きしたい事あったので、どうぞお願いします」と答える。
「あ、じゃあ、里芋、こっちで剥いておきますね?」
そう初瀬に言われて「頼むわ」と手を合わせると、エマは凪砂と連れだって、家の奥、志之の寝室へと向かっていった。
思わず、水命はエマの先程のテキパキとした指示ぶりに観劇し、憧れの視線でその背中を見送ってしまう。
「格好良いですよね。 大人って感じで…」
うっとりとした口調でそう言えば、コクコクと頷きながら初瀬も「どうしたら、ああいう大人になれるんでしょう…」呟き、二人顔を見合わせ「「ねー?」」と同意を求め合った。
二人で、そんな穏やかな会話をしている時である。
「あの、スイマセンが…」
そう幼い少女の声が聞こえ、後ろを振り返れば、飛鷹いずみが立っていた。
大きな目を瞬かせ「あの、…花瓶を探してるんですけど、どこら辺にあるかご存知ありませんか?」と、問い掛けてくる。
「花瓶?」
と、首を傾げれば、健司と海月も現れた。
健司の手には赤い奇麗な花が握られている。
あの花を活けたいのか。
「…うわぁあ…。 奇麗な花…。 それ、志之さんに?」
初瀬が問えば、健司が頷く。
「野生の花なんだけど、奇麗だから…。 良いですよね?」
健司の言葉に「きっと、志之さん喜びます」と水命は笑顔で告げ、確か、物置を整理していた時に、古ぼけた壺を見掛けたような?と、思い出しつつ「ちょっと待って下さいね?」と声を掛けて、パタパタと二階へ走る。
案の定、整理した箱の中に、丁度良い壺があり、パッパッと埃を払うと、水命はその壺を抱えて下へと降りた。
「これじゃ、駄目ですか?」
そう言えば、健司がブンブンと首を振り、「ありがとうございます」と礼を言う。
水命が、重そうに壺を抱えているのを、海月が見留め、ヒョイと取り上げると「雑巾、貸してくれないか?」と言ってきた。
「あ、拭くのでしたら、私が…」
水命がそう言うのを、海月は静かな声で「いや。 いい」と留めてくるので、それ以上は言えず、素直に雑巾を渡す。
海月は丁寧な手付きで、奇麗に壺の埃を拭うと、その雑巾を健司に渡した。
「……汚れたから、洗ってくれないか?」
そう言われて、健司は張り切ったように頷くと、食べ物を扱う台所の洗い場ではいけないと思ったのだろう。
パタパタと洗面所へ走っていく。
海月が、壺を抱えたまま、「男手は使えよ? 俺も、健司もな…」と言われ、水命は素直に頷くと、「あの、今から志之さんの所へ行かれるのでしたら、ご一緒しても宜しいですか?」と問い掛けた。
「エマさんと、凪砂さんがお話に行かれてるので、志之さんもそろそろ、喉が渇く頃だし、麦茶お持ちしようと思って」
水命の言葉に、頷く海月。
初瀬に「じゃ、スイマセン。 ちょっと、出ます」と伝えて、麦茶をグラスに注ぎながら健司が戻ってくるのを待ち、いずみも含めて寝所へ向かう。
そして、話の邪魔をせぬよう、足音を立てないよう、寝所へと足を踏み入れた。


寝所では、凪砂が志之に「では、健司君の御両親についてお聞きしたいのですが…」
問い掛けている所だった。
どう考えても大切な話真っ最中である。
いずみと、顔を思わず見合わせ、それから、水命は早めに、麦茶だけ出して立ち去ろうと考える。
一方、いずみはぺこりと初対面らしい凪砂に頭を下げた。
つられたように健司も慌てて頭を下げる。
その態度に、焦ったように凪砂も頭を下げ返すと、自己紹介の為に口を開いた。
「雨柳凪砂です。 えーと…」
と、そこまで言って何故か言葉に詰まる凪砂。
自分の職業を巧く説明できなかったのであろう。
目を泳がせたまま、凪砂は「じ……自由人です」と、格好良いんだか、目を逸らした方が良い人なんだか良く分かんない事を言う。
水命は、思わず(自由人って…凄い、何か格好良い!)と感じたのだが、いずみはギョッとしたような表情を見せ「…自由人?」と首を傾げつつも、淡々とした声で「初めまして。 飛鷹いずみです」と挨拶した。
健司も「立花健司です。 あの…、興信所の方ですか?」と自己紹介しつつも、不思議そうに凪砂に問い掛けていて、彼女はブンブンと頷いている。
しかし徹頭徹尾無表情の海月は、無言のまま壺を殺風景な床の間に置き、部屋の雰囲気に合うかどうか確かめるように、眺めていた。
水命は、自分が凪砂に自己紹介をまだ行っていなかった事に気付き、「私、自己紹介まだでしたよね? スイマセンッ! あの、暁水命です」と笑顔で告げ、それから心配になって「大事なお話の邪魔したんじゃないですか?」と問い掛ける。
いずみも「お邪魔してすいません」と言い、「ほら。 早く、活けちゃおう」と健司の腕を引いた。
凪砂は、少し笑って「そのお花どうしたの? キレイね」と健司に聞く。
コクンと頷く健司。
「あの、か…海月さんが、お庭の掃除している時に、見付けてくれて、で、変な虫もついてないし、このまま雑草と同じ扱いにするのは勿体ないから、お婆ちゃんの部屋に活けようと思って…」
健司がそこまで言った所で、海月がポンと健司の肩を叩き、「花…、早く、水に入れてやれ…」と言う。
健司が頷いて壺の中に、花を淹れるのを眺めていれば、「あんた、健司の両親について話聞きたいんだろ?」と凪砂に問い掛けていた。
「あ、はい。 お願いします」
そう答え、凪砂は、再び志之へと向き直る。
すると志之は、健司に声を掛けた。
「健司。 いい機会だ。 あんたも、話聞いときなさい。 それに、いずみや海月さん、あと水命も…、良かったら聞いてって」
志之の言葉に、水命は(そんな大切な話聞かせて貰っても良いのかな?)と思いつつもコクリと首を縦に振る。
志之は、少し、目を閉じてそれから、少し言葉を選ぶように、話し始めた。
「……健司の両親…、聡と恵子はね、どちらも凄く優しい子だった。 健司、あんたは、誇りに思って良い。 誰にでも好かれる、優しい、優しい、お父さんとお母さんだったんだよ…」



志之によれば、聡と恵子という人は本当に優しい人だったらしい。
誰にでも分け隔てなく接し、人への親切を惜しまず、どちらも大変働き者だったそうだ。
志之と同居しながらも、嫁の恵子とはとても仲良くできており、この古い家で、それでも慎ましく、絵に描いたように幸福な家庭を築いていたらしい。
しかし、健司が3歳になったばかりの、二人の婚約記念日。
共働きの二人の休日が、丁度重なったものだから、志之は自分が健司の面倒を見るから、羽根を伸ばしておいでと、無理矢理のように遊びに送り出した。
若くに結婚し、家の事や、仕事に励み、遊びらしい、遊びをしていない聡と恵子を不憫に思った志之からのささやかな贈り物だった。
恵子は何度も恐縮し、聡も健司の事を気にしながらも、やはり志之の申し出は嬉しかったのだろう。
二人は連れだって出掛けた。


そして、夕方頃、志之の家に連絡が入る。


母親が目を離した隙に道路に飛び出した、聡の運転する車の前を横切った子供を避ける為、聡は慌ててにハンドルをきって、道路脇の建物に激突し、助手席に座っていた恵子もろとも二人は死亡した。


「あの子達が死んだのはね、あたしのせいなんだよ」
目を閉じて、囁くように志之が言う。
健司が、即座にその言葉を否定した。
「そんな事ない。 絶対ない。 婆ちゃんは、俺に何遍だって、そうやって言う」
健司は強い視線で、志之を睨んだ。
志之は弱々しく首を振る。
「…違うよ。 あんたの、お父ちゃんとお母ちゃん、死なせちゃったのは、婆ちゃんなんだよ。 ごめんね。 ごめんねぇ、健司」
「っ! 何で謝るんだよ!」
健司が、パッと仁王立ちになった。
「何で! いっつも、俺に…。 分かんないよ…。 俺、よく分かんないけど、でも、婆ちゃんは悪くないって、言ってんじゃん! 謝るなよ! 俺、婆ちゃんが謝ってる姿なんか、見たくないよ!」
クルリと踵を返して走り去る健司。
いずみが慌てて立ち上がり「失礼します」と頭を下げて後を追う。
一瞬の沈黙の後、水命は耐えきれずに言った。
「私も、悪くないと思います。 志之さんが、悪いだなんて、世界中の誰も言えないと思います」
心からそう言い、また黙り込む。
再びの沈黙。
蝉の声が、五月蠅く響き渡る。
そんな中で、唐突に海月が口を開いた。
「罪悪感を……」
その突然の発言に、ぎょっとしたように、三人から送られる視線も気にせず、淡々と海月が言う。
「罪悪感を、感じなければ、乗り切れないような悲しみはある。 あなたも、きっと、自分のせいだと思う事で、今まで、生きてこれたのだろう。 ならばいい。 そんなあなたには、『あなたのせいではない』という言葉は苦痛でしかないのだろうから。 誰の、言葉も届かないのだろうから…。 しかし、健司は、あなたの事が好きだ」
普段無口な海月が訥々と語る言葉には、妙な説得力があり、皆、何も言わずに聞き入る。
「とても、尊敬している。 感謝している」
志之は、じっと海月の顔を見つめている。
海月も志之から目を逸らさない。
「そういう人は、詫びてはならない。 悔いる姿を見せてはならない。 せめて健司の前では誇り高く、胸を張って、最期まで生き続けて…下さい。 あいつが、これから先、貴方を誇りとして生きられるように…。 お願いします。 どうかお願いします」
それだけ言って、海月はまた、口を噤む。
再び、蝉の声が部屋に満ちた。
志之はじっと考えるように、目を閉じ、そして囁いた。
「悪いけど、ちょっと疲れちまったよ。 少し、眠らせてくれないかい?」
志之の言葉に、まず海月が、そして凪砂と水命も立ち上がり、寝室を辞す。
水命は「さ、お料理の続き、戻らなきゃ…」と呟いて、台所へと向かって歩き始めた。
しかし、その足は、途中で止まり、水命は俯く。


分からなかった。


あの時、志之に言った「志之さんは悪くない」という言葉。


あの言葉以外に、何を志之に言えば良かったのか。


海月の言葉が、殊の外滲み、まるで、自分が途方もなく子供になったような気がした。




そんな、水命の背後で、「あの…!」と、凪砂が海月を呼び止める声が聞こえた。
慌てて振り返る、水命。
凪砂と、海月が向かい合っている。
海月は、凪砂だけでなく、その後方に立つ水命にも視線を送ってきた。
「……あの……、あ…りがとう、ございました」
凪砂が、水命は、廊下に立ち尽くしている事に気付いてないらしい。
後方に、話を聞いている人がいるなどとは、微塵も思い付かない様子で、海月に礼を言っている。
少し首を傾げる海月に、凪砂は言葉を重ねた。
「私は…、何を言えばいいのか分からなかった。 それは、志之さんに対してだけじゃなく、自分に対しても言葉を持たなかった…だから…」
ぺこんと、凪砂は頭を下げる。
「有り難う御座いました」
海月が、チラリと水命を見ながら、困ったというように頬を指先で掻き、それから微かに笑みを浮かべた。
そして「別に……、俺も、大した事は言えなかった…」とだけ言うと、踵を返す。


水命は、二人のやり取りを見て、何だか自分の抱えていたもやもやが、それすらも子供じみた感情だと思い知らされたような気がして、パンと頬を叩いて気合いを入れ直す。
「よし!」
そう小さく一言呟くと、今度こそ、台所へと向かった。



さて、それから数日後。




その日は早朝から健司や、初瀬の恋人の男子高生、日和が来れない日に来てくれている羽角悠宇と海月、それに健司といずみは、釣りへと出掛ける予定になっていた。
何度か手伝いに来てくれている、F1レーサーであり、最速の貴公子の異名を持つ男装の麗人蒼王翼が、その話を聞きつけて、忙しい日々を過ごして入るであろうに、弁当作りの手伝いに来てくれる。
卵サンドイッチを作りながら、眠たげに頭を揺らしつつ、唐揚げを作る水命に不安げな視線を送る翼。
「水命さん。 大丈夫ですか? 連日、こちらでお手伝いに励まれているようですし、眠たいようでしたら、僕、全てやっておきますけど…」
確かに、毎日、夜は遅くまで、この家の事に掛かり切りで、少し寝不足気味ではあったが、そう言われて、ブンブンと水命は首を振る。
「そ、…そんな、お一人だけに…任せられません。 大丈夫です。 作り終えたら…、ちょっと休みますから…」
そう言いながら、料理に励んでいると、パタパタと微かな足音を立てて、零とそれから、海月が現れた。
「あの、お手伝いします」
そう言う零と、「何をしたら良い?」と問い掛けてくる、海月。
正直、その申し出は有り難く、「あの、じゃあ、零さんは私が片栗粉をつけ終えた唐揚げを揚げて貰えますか? 海月さんは、リンゴを八つに切って、皮を剥いて塩水につけてって下さい」と頼む。
零は言わずが、海月も、奇麗な手付きでリンゴをお弁当の定番。
兎リンゴの形に切り始め、瞬く間にかなり豪華なお弁当が出来上がった。
「弁当…、健司達も楽しみにしている。 余計な手間を掛けて済まなかった」
そう詫びる海月に首を振り、「大物釣ってきて下さいね?」と笑顔で告げる水命。
健司や、いずみ達が準備を済ませた格好で階段を降りてくるのを見て海月が手招きして二人を呼び「翼さんと、水命さん、それに零さんが弁当を作ってくれた。 御礼、言っとけ?」と言う。
二人は、海月の言葉に頭を下げると、「「ありがとうございます」」と声を揃えて言った。
その余りの可愛い姿に目を細める水命。
零も、ニコニコと笑って「どういたしまして」と答えている。
そんななか、ペタペタと軽い足音を立てて、この季節に暑くないの?と思えるような恐竜の着ぐるみパジャマを着た鵺が現れた。
「ん…んー? あっれ? 健ちゃんも、いずみももう、準備済ませちゃってんの? ヤッバーイ。 起こしてよ、一緒の部屋に寝てるんだからぁ」
そう、志之を気遣っての小声で喚く鵺に、呆れたような視線を送りながら「君ね、小学生の二人に、起こして貰うだなんて情けないと思わないのかい?」と言う翼。
「むぅ。 そのいやぁみ且つ気障ったらしい声…」
そう言いながら翼に視線を送り、顔をしかめて「やっぱり、翼かぁ…」と鵺が呻く。
この二人が犬猿の仲である事は、翼と鵺がこの家で鉢合わせする度に思い知らされてきたが、まぁ、その喧嘩も、仲が良い程喧嘩するの類のやり取りで、正直見ていて微笑ましい。
「大体、この家に泊まり込んでおきながら、中学生にもなって、海月さんのように、自分達の昼食であるお弁当作りの手伝いに来ないってどういう事だい?」
そう言えば、頬を膨らませた鵺が「うっさいなぁ。 鵺、あんまりお料理が得意じゃないもん」と言い、水命は慌てて「いえ、鵺さんも色々お手伝い頑張ってくれてますもの。 気にしないでいいのよ?」とフォローに入った。
そんな水命を、翼は愛おしげに見つめ「水命さん。 貴方は、なんて心優しい人なんだ」と、水命の手を握って囁いてくる。
「初めて見た時から感じていたけれども、貴方は天使です。 天使そのものです」
美少年めいたその美貌に間近で囁かれ、水命は思わず頬を赤らめてしまった。
鵺が呆れたように「まーた、やってるよ…」と言っているが全く耳に入らない。
二人の間に点描が飛ぶような、思わず何劇場だよと、突っ込みたくなる時を経て、漸くコンコンと控えめに玄関をノックする音で、水命の意識は現実に戻った。
慌てて扉を開けに行けば、扉の向こうには釣り道具を背負った悠宇が立っていた。
「オハヨ…」
眠たげな声で悠宇が言い「用意は出来てんのか?」と、問うてくるので「えーと、まだ、鵺さんが…」と水命は言いかける。
だが、鵺がパタパタと駆けてくると、強情な決意を秘めた表情で「ごめん! 鵺、行けない!」と言った。
目を丸くする、二人。
「は? 行かねぇの? 鵺」
悠宇の言葉に頷き、鵺は「今日のご飯作りの手伝いがあるから行けない!」と宣言する。
「え? でも、料理苦手って…」
そう言いかける水命に「苦手だけど、頑張るもん。 っていうか、翼に言われっぱなしって、メッチャ嫌なんだよね!」と答える鵺。
水命が玄関に、悠宇を迎え出た僅かの間に、また、益体もない言い合いをしたのだろう。
鵺の言葉に、「ま、本人が、そういうやる気を出したのなら、良いのでは?」といずみが言ったのを切欠に、名残惜しげに鵺を振り返る健司を含む、四人は釣りへと出掛けた。
「と、いう訳で、水命さんは、今日は台所仕事お休みっ! さ、寝て寝て」
鵺にそう言われて「でも、朝ご飯だけは作っちゃわないと…」と答えつつ台所に向かえば、既に翼が、朝食の準備を始めている。
「あれ? 水命さん、約束したよね? お弁当作りが終わったら、休むって。 頼りないけど、助手も出来た事だし、朝食が出来れば呼びますので、どうぞお休み下さい」
そう翼にとろけるような笑みで言われ、抵抗できないまま水命は頷くと、殆ど使ってないあてがわれた自室へと、半強制的に向かわされた。




疲れは、よっぽど溜まっていたらしい。
昏々と眠り続け、翼にそっと起こされた時には、もう日は高く昇っていた。
「あ…ね、寝過ごしてしまいました! せ、洗濯物…」
そう言いながら起きようとする水命に、翼が笑顔で「大丈夫です。 僕と鵺で済ませて起きました」告げる。
フシュウと、安堵の余り、水命は全身の力が抜ける。
「…水命さん。 ねぇ、肩の力抜いて、どんどん他人頼って下さい。 ね?」
翼に言われ、そう言えば海月にも同じ様な事を言われたのを思いだし、コクリと頷く。
そして「私、そんなに、張り切ってますか?」言えば、「そんな貴方が素敵なんですけどね?」と微笑まれた。
「僕、水命さんに呼ばれたら、何処にいたって駆けつけますから…だから、頼って下さい…」
耳元で囁かれ、顔を真っ赤にしながら、「…はい」と水命は夢見る瞳で答える。
そして、そのまま、顔を伏せて「あの、寝顔、変じゃなかったですか?」と乙女のように問えば「眠り姫みたいでしたよ?」と、また、何劇場の、何台詞だよ?という言葉を返され二人の間に再び点描を飛ばした。



さて、そんなこんなで、遅い朝昼食を取り、その後、シオンが何処から持ってきたのか、一台の車椅子を持って現れた。
「ずっと寝てばかりも何ですし、お散歩行きません?」
そうシオンが志之を誘い、水命もその提案に賛同する。
「今日は顔色も良いですし、天気も良いですし、行きませんか?」
そう言えば志之も、「そうだねぇ。 ちょっと、久しぶりに外出ようかね…」と、答えてくれて、ひとまず零と翼と鵺に家の中の事は任せて、三人で散歩に出てみた。


明るい日差しの中、日傘を志之に差し掛けてやりながら歩く。
シオンがゆっくりと車椅子の背中を押し、静かな午後の街をのんびり歩いた。
「暑いねぇ…」
そう言いながらも、湿度は低く、カラッとしており、時折吹き渡る風も爽やかで、志之が気持ちよさそうにしているのを、水命は何より嬉しく思う。
「健司君。 魚、一杯釣ってきますかね」
シオンがそう言えば、「昨日ね、あたしに釣った魚食わせてやるって息巻いてたからね…、父親に似て、やるっつったらやる子だよ? きっと、大漁さ」と、自慢げに答える。
シオンと、水命は志之の孫自慢な台詞に顔を見合わせ微笑み合うと、「そうですね。 屹度、大漁ですね」と答えた。
そのまま、街の真ん中にある公園の中に足を踏み入れる。
公園の中の噴水脇に「あいすくりん」と書かれたのぼりを掲げた自転車が止めてあるのを認め、志之が「懐かしいね。 アイスクリーム売りだ」と声をあげた。
シオンが「本当だ」と嬉しげに言い、「ね? 折角だし、買いましょう?」と二人に提案する。
志之が「あたし、丸々一個も食べられないよ…」と言えば、水命が「じゃ、半分個しましょう」とはしゃいだ声で言い、シオンが子供のようにワクワクとした足取りで、アイスクーリム売りに近寄っていった。
程なく、二本アイスを持って戻ってくる。
一本は自分、一本は志之に渡すと「バナナ味だそうです。 美味しそうですよ?」とシオンは薦める。
そして、自分も一口囓ると「ん! 冷たいっ!」と、声をあげた。
志之も、アイスを囓り、にっこり笑う。
そしてまた、三人はのんびり歩み始めた。



家に戻った水命は、志之を団扇を仰ぎつつ、健司の両親の思い出話を聞く。
「…でね、そん時、恵子が作ってくれたのが鯖の味噌煮でね……」
そう語る志之の表情は穏やかで、自然水命の気持ちも穏やかになる。
「それで…、どうでした? お味は…」と、問うた時、スススと、ゆっくりと襖が開けられ、大きなスイカを抱えてエマが現れた。
水命は、驚きながらも会釈し、続いて志之もエマを振り返ると、彼女の抱えているスイカに目を丸くする。
「なんだい? それは…」
志之の問いに、スイカを落とさないように気を付けながら、畳に正座で座り、エマは苦笑を浮かべた。
「あのね、シオンさんにねだられたのよ。 スイカがみんなで食べたいって。 でね、今日来る途中の八百屋さんで、これ目に入っちゃって、この大きさならみんなで食べられるかなと考えたんだけど、冷蔵庫に収まりきらない事に、今気付いたのよね。 ね、志之さん。 夜までに冷やす良い方法ないかな?」
エマにそう聞かれると、志之は呆れたような顔をして「この暑い中、それ抱えてきたのかい?」と言い、「ふう」と溜息をついて、それから家の裏手を指差した。
「裏庭の、隅に古い井戸があんだよ。 かなり深いトコから掘ってる水でね、厚生省やらなんやらに言われて、もう飲料水としては使えないけど、スイカ冷やすには丁度良いと思うよ。 水汲んだ桶に突っ込んで、井戸ん中つけときゃあ、夜になったら冷えきっているだろう」
井戸なんていう、滅多にお目に掛からないようなものが、この家にあると聞いて、目を見張る水命。
「井戸があるなんて、凄い」
と、手を叩く。
「健司がね、友達と水遊びに使ってるみたいだけど、かなり冷たい水なのに、子供は元気だネェ」
何でもない事のような口調で言う志之に「いずみちゃんと、鵺ちゃんかな?」と首を傾げれば「それに、あの、シオンって子と悠宇って子もだね」と、あっさり言葉を次ぐ。
16歳の悠宇はともかく、シオンはとうとう、健司の友達扱いまでされていて、いいように思えば「そこまで無邪気なのか」と思えないでもないが、正直「駄目な大人だなぁ」と感じ、ちょっとばかし切なくなってしまう。
「シオンさんは、もう40過ぎてんだけど…」
エマの言葉に、志之はカカカと笑って「あたしから、見りゃあ、子供さぁ。 午前中も、シオンと水命とでね、散歩連れてってくれたんだよ。 途中で、アイスクリームなんか買ってね…」と、そこまで言った志之の言葉を次いで、水命が口を開いた。
「バナナ味のアイスなんです。 自転車の後ろに冷却装置付けた、凄く懐かしい感じの…」
水命の言葉に、エマが懐かしげに呟いた。
「へぇ。 そんな、アイスクリーム売り、まだいるんだ」
「ええ。 志之さんもね? 私と、アイス半分こしたんですよねー」
志微笑みながらそう言う水命を、目を細めて見つめ、コクリと頷く志之。
「あんた達が来て、色々やってくれてるからか、この頃調子が良いんだ。 作ってくれるご飯も、文句なく美味しいしね」
そんな志之の嬉しい言葉に水命は、心の奥から、暖かい波がうち寄せてくるのを感じた。


このまま、志之さん、元気になってくれれば良いのに。
水命は、心から願う。
神様。
どうか、志之さんを、このまま元気にして下さい、と。
その為なら、私何でもしますと。


「婆ちゃん! ただいま!」
パタパタと足音をさせて、健司が部屋に飛び込んできた。
健司に続いて、いずみが「うるさくしちゃ駄目よ」と、大人びた声で言いながら室内に足を踏み入れ「失礼します」と頭を下げる。
「あのね、魚! たくさん魚釣ったんだ!」
はしゃいだ声で言う健司の隣で、いずみがクールに「マスと、あまごでしょ? 諏訪さんに教えて貰ったのに、もう忘れたの?」と言い、健司に「いずみなんか、一匹も釣れてねぇじゃん!」と言い返されていた。
「へぇ。 じゃぁ、健司は何匹釣ったんだい?」
ニコニコ笑う志之に問い掛けられて、健司は胸を張ると指を三本立てて突き出し「三匹! その内の一匹は、ニジマスだぜ?」と答える。
エマが、パチパチと手を叩き「凄いわ。 健司君」とにっこり笑えば、健司が照れたように、頭を掻いた。
しかし、釣りたての川魚の相伴に預かれるだなんて、なんてラッキーだろう。
料理人も、信用できる腕前の持ち主だし、とても楽しみだ。
なんて、考えていた時だった。
「おっかえり! 健ちゃん。 君、三匹釣ったんだって?」
明るい声をさせながら鵺が部屋に入り、健司に飛びついた。
「いいなー! 鵺も、行けば良かったぁ」
健司を後ろから羽交い締めするように、抱きつきながら口を尖らせる鵺。
何だか、庭の方から「んなっ!」と、怒り混じりの幇禍の声が聞こえてきた気がするが、志之やはしゃいでいる健司には聞こえなかったらしいし、何故だろう、その瞬間前述の二人以外の部屋全てが、スッと静かな目をした後、何も聞かなかった事にしている。

(ていうか、影から見守るって、ホントに言葉通りの意味だったんだ…)
 
水命は、内心呆然とし、ちょっと怖くなりつつも、正直深く追い求めたくなかったので、それ以上の思考を止めた。
エマも、何事も聞かなかったかのような声音で「そういえば、鵺ちゃんは、どうして行かなかったの?」と、聞く。
鵺は、13歳にしては、途方もなく大人な視線を畳に向けていたが、パッと顔をあげて、ニコリと笑うと「だってさぁ、翼が、なんか、『ふふん。 君みたいな人は、多分お料理なんて繊細の事ぁ、出来やしないだろうね。 ボンジュール。 ま、お今晩は、ミーが腕によりをかけてデリシャスディナァを振る舞うので、子供達に川遊びに出掛けるが良いさ、モナムール』って言ってきたもんだから、悔しくて…」と、そこまで言った瞬間、「それは、誰の話なのかなぁ?」と絶対零度の声が、背後から聞こえてきた。
後方には、憤怒の表情で仁王立ちになっている翼と、その後ろから怖々部屋の中を覗くシオンに、何が起こってるのか全く理解して無さそうな、無表情の海月がいる。
「だぁーれぇーがぁー、そんなアホっぽいっていうか、アホそのもの?な、事を言ったって?」
翼が地を這うような声で言えば、鵺は背後を振り返り、ニコリと笑って「翼ってば、こんな風にいっっっっつも、気障っぽい、喋り方してるじゃない?」と、答える。
「してない! ていうか、そんな喋り方の人間はいない!」
翼は、そう一刀両断すると、既に骨抜きにされている水命は心から憤りを感じ大きく頷いた。
「そうですよ! 翼さんは、そんな変な喋り方しません! もっと、こう、気品溢れる感じで、御伽の国の王子様みたいで、浮世離れしてて…」
水命の微妙にフォローになってない、フォローに、翼が極上の笑みを浮かべ「ありがとう。 水命さん。 君のような人に、そんな風に言って貰えると、凄く嬉しいよ」と囁き、二人の間に少女漫画で言う所の点描のようなものが飛ぶって、ほんとにしつこいな、この表現。
鵺が小声で「してんじゃん。 気障喋り…」と呟き、その呟きを耳にした翼が再び、鵺を睨み据え険悪な雰囲気が漂い始める。
しかし、これまでのやり取りを全て無視し、海月がヒョイとスイカを抱え上げた。
「コレ…、冷やさねぇと、美味くねぇぞ?」
そうボソリと、海月が呟けば、パァッと目を輝かせたシオンが「うわ! スイカだ! スイカだ!」と嬉しげに言い、ペシペシと海月の抱えるスイカに手を伸ばして叩く。
身の詰まった事を知らせる鈍い音を響かせながら、シオンは見惚れてしまいそうな程、素敵な笑みを浮かべ、エマに「ありがとうございます」と御礼を言った。
エマは、すました顔で「いえいえ。 どういたしまして」と返事し、次いで「海月さんは、知ってる? このお家ね、裏手の庭に井戸があるんですって。 で、そこで、スイカ冷やそうかなって考えてたんだけど…」と、話の転換を計る。
すると、鵺がヒョイと立ち上がり、「案内してあげる! 凄いんだよ。 井戸!」と言いながらスイカを抱えたままの海月の腕を引き、それからエマに「冷やしてくるね」と言って、そのまま、トトトと、部屋を二人で出ていった。
鵺がいなくなり、一気に表情が和む翼。
水命の隣りにいつの間にか移動し、柔らかく微笑みながら健司に喋りかける。
「たくさん釣ってきてくれて、ありがとうね。 今晩は、塩焼きと甘露煮にして、夕飯に出すよ」
そう翼が言えば、健司は、途端にモジモジとした調子で、まず志之の顔を見上げ、次にいずみの顔を見、そして、漸く翼の顔を見上げると、小声で呟いた。
「あの…」
「ん?」
「あの…、えと…」
「うん」
何かを言いかけては止まる健司の様子に、苛立ったように志之が口を開く。
「何なんだい? 早く言いなよ」
いずみも、クールな眼差しのまま「ほら、ちゃんと頼まないと」と、脇腹をつついて促し、健司は漸く決心をつけたように、「あの、お、俺の釣った三匹の魚のうち、一匹は婆ちゃんに、で、もう一匹は、ぬ、鵺に食べさせてやって下さい」と、言った。
するとエマが手を口に当てて「アラアラアラ」と言い、水命も心の中で(え? そうなの?)と驚き声をあげた。。
微笑ましくて、唇の両端が上がるのを抑えられない。
「ち、ち、違うんです! あの、鵺と、約束してて、俺が釣った魚食わせてやるって…」
顔を真っ赤にして言い訳しているが、健司の鵺への感情は一目瞭然である。
(そっか、そっかぁ。 鵺さんの事が…へぇ…)
海月も、「だから、自分の釣った魚と、俺達の釣った魚を別にして持って来たのか…」と言えば、シオンが「喜びますよ。 鵺ちゃん。 それに、志之さんも…ね?」と志之に視線を向けた。
志之は、ニッと笑って、健司の頭に手を伸ばす。
「ま、あたしは、鵺のおまけだろうけどね、有り難くご相伴に預かろうかねぇ」
そういってグリグリと撫でてくるのを「おまけじゃないよ。 婆ちゃんに、食って欲しいんだ」と答えつつも、照れたように目を伏せた健司を見て翼が明るく笑うと「了解。 じゃ、台所に一緒に来てくれるかな? どれが、君の釣った魚か教えて欲しいからね?」と言い、いずみも「私、お手伝いさせて下さい」と言いながら立ち上がる。
三人が連れ立って出ていくのを眺め、エマが「かーーーわいい」と呟くので、水命も「青春!って感じですね。 鵺ちゃん、奇麗だし、健司君とは前からお友達だったみたいだから……、そっか、そうかぁ…」と、どこかうっとりした口調で言った。
この件の前から。駄菓子屋でよく会っていたらしい二人だが、鵺はまさか、健司が自分にそんな感情を抱いているとは知るまい。
シオンが「じゃ、応援してあげないと…」と笑顔で提案した瞬間だった。
「その応援は命懸けで…と、いう事にりますよ?」と、全く気配無く、微塵も空気を揺らさないまま背後に現れていた幇禍が、シオンの耳元で囁いた。
その底冷えのするような声音に、思わず硬直する一同。
志之だけが動じた様子無く「あれ。 来てたのかい? いらっしゃい」と声を掛け、その言葉に「お邪魔します」と幇禍が頭を下げるのを呆然と眺める。
(わ…忘れてた)
水命は震えながらそう思い、エマが「幇禍さん。 幇禍さーん?」と、慌てて幇禍の名を呼ぶのを、呆然と眺める。
幇禍は何処かイちゃった目で「そうか、あの懐き方は、恋心だったのか。 まぁ、お嬢さんは素敵だからしょうがないけど……あははは、 ライバル出現だなぁ。 どうしてくれようか…」と、ブツブツと呟き続けた。
その背後の気配に怯え「で、でで、でも、ほら、健司君くらいの年の子って、年上の奇麗なお姉さんに憧れるもんですし…」と、シオンがとりなせば、志之があっさり「いやいや、あたしも、健司位の時が初恋だったよ。 それが、後のあたしのじいさん。 ま、大概マセガキだとは思うけど、そうかい。 健司もかい…。 血だねぇ。 健司の、父親も、随分早くに、幼なじみだった子と結婚したしねぇ…」と、告げる。
尚一層暗くなる幇禍の空気に、(志之さーん! 志之サンったら、自分の孫、命の瀬戸際に追い込んじゃってるよ!)と、皆が一斉に内心で叫びつつ、エマが、「まま、ままぁ、ね! ね? 幇禍君、子供相手なんだから、そんな気にしないで…」と取りなそうとして、そのまま幇禍の背後に目を向け、少し驚いたように目を見開いた。
(誰かいたのかしら?)
不思議に思う水命。
案の定、「あら? えーと、どなた様…」と、エマがそこまで言いかけて、少し小太り気味の柔和な印象を受ける男がすっと室内に足を踏み入れ、志之にぺこりと頭を下げた。
「ご無沙汰してます」
志之は、男を見つめたまま、わなわなと震え、それから「………新庄さん」と呟いたっきり、俯いた。
年の頃は40台後半といった所だろうか?
何故か、髪の毛に絡むように葉っぱがついている。
この人の良さそうフェイスから、察するに、庭に幇禍が潜んでいる間、付き合わされていたに違いない。
少し禿始めた風貌は、愛嬌があって、硬い表情で志之の前に座ろうとも、どこか心を温かくさせる空気に満ちていた。
「…どうして、ご連絡下さらなかったのです」
押し殺したような声で言われ、志之は弱ったように目を伏せる。
「俺、言いましたよね。 何かあったら、絶対連絡下さいって。 俺…、俺……、幇禍さんに志之さんが倒れたって聞かされて、どれだけ……っ!」
新庄という名らしい男は、堪えるようにクッと唇を噛み、それから志之の側に膝をつくとそっと手を伸ばして、その手を握り締める。
肉厚の、暖かそうな手の中に、志之のしなびた小さな手が優しく収まった。
「……話、全部聞きました。 お願いです。 俺に、健司君の事、任せて下さい。 絶対、不幸にはさせません。 立派に育ててみせます。 だから、お願いしますっ…。 お願いします」
志之は、呆然としたような表情を見せ、微かに首を振る。
「…どうして? どうして…そんな風に…。 もう、あたしは……」
「違います。 そういう意味で言ってるんじゃない。 俺が、健司君の事を育てたいと思ってるんです。 俺の意志なんです。 親友の子供だって事だけじゃない。 志之さんの孫だからでもない。 そういうのだけじゃなくて……」
そこで言葉に詰まるように、声を途切らせる新庄。
「………家族になりたいんです。 健司君の……そして、貴方の…」
新庄の言葉に、志之は泣き崩れた。 



水命達は、一旦新庄と志之を二人きりにすべく部屋を辞し、それから誰も使っていない一室に集まって、彼を連れてきた幇禍から話を聞く。
幇禍は、「この話はね、結局はロマンスなんですよ。 それも、泣ける位純粋なね…」という言葉で口火を切った。
「まず、始まりは、凪砂さんが草間に対し、健司君の親族関係や、里親になってくれそうな人の調査・捜索依頼を行った事からでした。 健司君が、志之さんの死後誰に引き取られるかというのは、重大な問題に思われましたし、放ってはおけなかったので、俺もその調査に協力しようと考え、草間の手伝いで、志之さんの死後、健司君の里親となってくれる人を探す事にしました。 幸い、有力なネットワークの持ち主と知り合いにおりましたので、そういうツテも行使しつつ、探したのですが、やはり、健司君には親戚と呼べる人はおらず、志之さん自体、複雑な事情があって、完全に身寄りのない身の上の方でした。 さて、どうしようかと悩み始めた時に、俺の知り合いからある情報を入手したんです。 どうも、健司君や、志之さんの事を、知ってる人がいるらしいと。 その情報先は、ある出版社で、その出版社にお勤めになっていらっしゃる方が、自分の担当先の作家が、もしかすると、その志之さんや、健司君達を知っているのではないかと、俺の知り合いに教えてくれたんです。 俺は、慌てて、その作家さんのお家、つまり新庄さんのお家を訪ねました。 そこで、全ての事情を説明し、里親になる人を捜している事をお伝えしたところ、それならば、是非自分がという事で、本日お越し願えたという訳なのです」
その言葉に水命が、おずおずと幇禍に尋ねる。
「あの…それで、一体、新庄さんと、志之さんはどういうお知り合いなんですか?」
幇禍は、一旦唇を舌で湿らせ、再び口を開いた。
「あの新庄さんって方は、健司君の学生時代のお父さんの親友だったそうです。 健司君のお父さんは、随分と親切な好漢だったそうで、新庄さんは昔、大学に通う為に下宿していた家が火事に合ってしまい、殆ど身の回りの物も持ち出せずに焼け出された時に、同じゼミだった健司君のお父さんに助けられ、このお家で卒業までの間、お世話になったと言っていました。 その時、既に志之さんのご主人は他界されていたらしいのですが、志之さんは、男手が増えると新庄さんの事を歓迎し、殆ど家族同然として、三人でこの家で、二年ほどの年月を過ごしたそうです。 新庄さんは、余り家庭的に恵まれてない環境で育ったそうで、余計に、その二年は、大事な思い出となったのでしょう。 だけど、新庄さんは、その二年間で、思い出以上の大事なものを見付けました」
水命は、両手を握り合わせ、大事な言葉を口にするように、そっと囁く。
「それが、志之さんなのですね…」
幇禍は、コクンと頷く。
エマが水命と同じように、ギュッと膝に置いた両手を握り合わせた。
「30歳近く年が離れていますから、始め新庄さんが、志之さんに想いの丈を告げても、取り合っては貰えなかったそうです。 在学中に、公募の文学賞で受賞し、卒業時には、何とか食べていける位まで新庄さんが、作家として独り立ちしても、志之さんは、新庄さんの結婚して欲しいという申し出に、首を縦に振りませんでした。 でも……、どうなんでしょうね…。 本当に嫌な相手ならば、想いを告げられた時点で、この家を出ていかせるでしょう。 志之さんが、新庄さんの事をどう想っていたかなんて、今となっては分かりませんが、それでも、新城君の事を悪しくは考えていなかったんじゃないでしょうか?」
幇禍は、一旦そこで言葉を止め、懐から一枚の写真を取り出す。
そこには、この家の前で並んで立つ、若い頃の志之と、それから健司は父親似なのだなと感じさせる、快活そうな男性、そして今よりも、随分痩せている新城の姿が写っていた。
エマが、如何にもしっかりしてそうな、ひまわりのように力強い笑顔を見せる志之の顔を指先でそっと撫でる。
「これ、新庄さんの大事な写真を焼き増しして貰ったんです。 皆さん、御覧になりたいかと思って…」
幇禍が、そう言って笑う。
「いい写真ですよね……。 新庄さんが、大学を卒業して一旦地元に帰る前に、撮った写真だそうです。 新庄さんが、地元に戻る前の日、再度、志之さんに自分の気持ちを新庄さんは伝えましたが、結局その想いを受け入れず、自分の事は、一時の気の迷いだから、忘れなさい。 もう、私に連絡を寄越してもいけない、と言って聞かせました。 新庄さんは、志之さんのその強い言葉を受け入れながら、それでも、何か困った事があったら、助けが欲しい事があれば、必ず自分を呼ぶようにと伝えて、地元に戻ったそうです」
写真の中の、新城の表情は、笑っていてもどこか憮然としていて、なのに悲しそうで、色々複雑な感情の入り混じっているように見える。


どんな気持ちだったのだろう。
親友の、母親に恋をして、恥も外聞もなく、学生の身で求婚し、その全てを気の迷いと言われて、実家に帰る身というのは、どんな気持ちになるのだろう。
淋しいのだろうか、悲しいのだろうか、憎いのだろうか……。
それでもまだ、愛おしいのだろうか。


「結果を言えば、新庄さんの想いは、一時の気の迷いなどではありませんでした。 志之さんの事が忘れられず、他に女性と付き合っても、どうしようもなかったそうです。 それから、20年近く、結婚する事無く、ずっと、ずっと、ずっと……。 志之さんの事を、想い続けていたのです。 …純愛ですね」
幇禍の言葉に、シオンが、静かに答えた。
「羨ましい位の、純愛ですね」
水命は、新庄の気持ちを思うと切なくてポロポロと泣く。
エマが手を伸ばし、その頭をそっと撫でた。
「どうしたの?」
そう問われたので、嗚咽混じりの声で、水命は答える。
「だって……、そんなに、愛した人が、死んでしまうだなんて……。 新庄さん、可哀想……です」
エマが、ぎゅっと水命の肩を抱いて答えた。
「違うわ。 可哀想じゃないわよ。 もう一度会えたんですもの。 会えないまま、お別れするより、ずっと、ずっと、幸せよ」
志之を見た時の、新庄の表情を思い出す。
そして、新庄を見た時の、志之の表情も。
片や、年老い、片や体形が変わっていようとも、確かに、あの時二人の間に流れたものは何物にも代え難いほど美しくて、水命は涙が止められなかった。



夕食のテーブルに、皆でちゃぶ台を囲む。
幇禍は「お嬢さんに会うと、叱られるんで!」と短く答えて、シュタッと消え去ってはいたが、今食卓には、10人近い人間がついている。
いつのまにか、凪砂や、先程は見掛けなかった釣りに一緒に行ってきていた悠宇も席に座っていて賑やかな食卓風景になっていた。
凪砂は依頼者である事だし、、既に幇禍か、武彦から報告は聞いているのだろう。
新庄と、健司の間を巧く取り持つような会話をしている。
健司には新庄の事を、亡くなった父の友人とだけしか伝えてないらしい。
幇禍曰わく、「一応、一緒に、暮らしてみては?って思うんです。 生活を共にした方が、健司君も新庄さんの事受け入れやすいだろうし、色々、見極めもできますからね」という事で、健司は、新庄さんも水命や、シオンのような、この家を手伝いに来てくれている人と、捉えているのだろう。
健司は、新庄の穏やかな人柄にすっかり、打ち解け、今は、お父さんの思い出話をしているみたいだった。
時折、いずみが、何事か口を挟み、二人で可愛らしい言い合いをしている。
大家族みたいだ。
微笑ましくそう思いながら、翼の力作(鵺、ちょっと手伝い)を机の上に並べていく。
全ての事情を知っているらしい凪砂が、そんな水命に声を掛けてきた。
「あの、今日の、志之さんの食事のお世話、健司君や新庄さんにもお手伝いして頂いたらどうでしょうか?」
水命は、凪砂の言葉に「あ! それ、いいですよね」と、コクンと頷き、健司と新庄、それから健司は自分の釣った魚は鵺に目の前で食べて欲しいだろうと考えて鵺の肩を叩く。
「あの、一緒に、志之さんのお食事のお世話、お手伝い頂けませんでしょうか?」
水命の言葉に、声を掛けられたメンバーは「勿論」と答えて立ち上がり、台所から引っぱり出して用意したお盆に、銘々の夕餉を乗せると、部屋の奥、志之のいる部屋へと向かった。
新庄は、水命が持っていくというのを、「お願いだから任せて下さい」と言って、自分のだけでなく、卵粥の乗ったお盆も抱えて行く。
正直、自分のお盆も持って運びきれる自信がなかったので、新庄の申し出は嬉しかった。
はしゃいだように先を歩く健司と鵺の後ろ姿を見ながら「良いですね。 こういうの…」と新庄が言う。
水命も、深く頷いて「なんだか、あったかくなりますね。 気持ちが」と答えた。


志之の寝所では、支える係を新庄、食べさせる係を健司にして貰う。
水命は健司に「そう。 うん、その位の量が、丁度良い…ですよね? 志之さん」と声を掛け、志之に確認を取りつつ、食事を口元に運んで貰った。
そんな中、鵺がパクリとあまごの塩焼きを食べて、目を見開いた。
「おいしぃぃぃい! マジで! 超美味しいんだけど!」
そう嬉しげに言うのを、鵺以上に嬉しげに見た健司。
「だろ? 凄いだろ? 鵺が食べてる魚は、俺が釣ったんだぜ?」
と、得意げに告げる。
その顔が、あんまりにも可愛くって、水命は思わず小さく笑い声をあげてしまった。
志之も「じゃ、一口貰おうかね」と、告げ、健司が差し出したあまごの身を口の中に含んだ。
翼は志之のあまごだけ、全て骨を抜き、塩ではなく昆布出汁で味をつけているらしく、良い香りがプンと志之の鼻先に漂っている。
「…へぇ。 美味しいねぇ。 ここんとこ、毎日美味しい物ばっかり食べさせて貰ってて、良いのかね。 こんな贅沢してて」
そう言う志之に、水命は「良いじゃないですか。 みんな志之さんに美味しいって言って欲しくて頑張ってるんですから」と言いつつ自分もあまごを口にする。
あまごの柔らかで、でも、弾力のある身がプリプリと舌の上で弾け、ほのかな塩味と共に淡泊で深い味わいが口の中に広がるのを、「くぅ」と小さな喜びの声をあげて楽しみ、次いで、肉じゃがを、つまんだ。
翼の腕前なのだろう。
あまごは、全く形崩れしておらず、肉じゃがも、中まで味が染みていて、幸せな気分になる。
隣りに座っていた鵺が「悔しいけど、おいしいなぁ」と、言うのを、水命はニコリと微笑んで「鵺さんがお手伝いしたのも、きっとこの美味しい料理を作るには必要不可欠だったと思いますよ」と告げ、明らかに鵺が切ったと思われる不格好なじゃがいもをパクリと口に入れる。
健司も「面白ぇ形!」と言いつつ、ゴツゴツとした人参を口の中に放り込み「でも、美味しい」と照れたように鵺に言った。
鵺は、「嬉しい事言ってくれんじゃぁーん?」と言いつつ、健司の首っ玉にかじり付く。
再び「ぬぁぁ?!」という声が庭から聞こえてきたが「うふふ。 また、潜んでるんですね?」位の感想しか最早、水命は抱かず鵺も至って、気にしていないっていうか、気に止めない素振りで「健ちゃんの釣った魚も、すっごい美味しいよ?」と言った。
新庄が、「志之さんが素直に誉めてるって事は、よっぽど美味しいんですね?」と言って、空いている手でマスの甘露煮を器用に口に運ぶ。
「うん。 美味しい。 志之さん、マスも美味しいですよ?」
と、言いながら志之に笑いかけた。
「本当かい? じゃあ、頂こうかね」と、笑い返した志之の顔を見て「女の人の顔だな」と感じる水命。
少し甘えるようなとした、自分達には見せない、女の顔。
(奇麗だな)
心からそう思い、水命は自分も甘露煮を一口、口にする
開け放した窓から入ってくる涼しい風を頬に感じ、


いいなぁ。 こういうの…。


と、再び一抹の郷愁と共に、そう胸で呟いた。



夕食後、エマがスイカと同じくシオンに強請られて買ってきたという花火を皆で楽しんだ。



ヒュルヒュルッと音を立てて、空で咲く、小さめの打ち上げ花火に零や、鵺が歓声をあげている。
家の奥にあったのを外に引っぱり出した、古い木の机に、切り分けられた西瓜が並んでいる。
と、言っても、物凄い勢いで売れたので、残りはあと僅かだ。
先程帰った筈の幇禍が、何故か鵺と一緒に、花火を振り回してはしゃいでいた。
また、何処かに潜んでいた所を見つかったのだろう。
自分よりも年上の筈なのに、まるで子供のように見える。
悠宇が呼んだらしい日和が涼しげな浴衣姿を披露しながら、二人並んで、花火をしていた。
いずみと、健司は何事か言い合いながら、海月が打ち上げる花火を、目を煌めかせて見上げている。
キラキラキラと、頭上に咲く火の花に、シオンが運んで縁側に寝かせた志之の側に腰掛け、水命は目を細め、感嘆の溜息を吐く。
シャクリと口にした、西瓜は井戸のおかげで歯に染みるほど冷たく、そして滴り落ちる程の甘い果汁を秘めた一品で、エマは「私の目に狂いはなかったわ」と、勝利の笑みを漏らした。
翼が、その言葉にクスリと笑って「確かに、これは見事な西瓜です」と言い、自分も、小さくかぶりつく。
志之も新庄が、スプーンで果肉を掬って差し出せば、一瞬照れた様子で躊躇しながらも一口、口にして頷く。
「これは、美味しい西瓜だねぇ」
健司が、大きく手を振って、新庄の事を呼ぶ。
新庄は、頷くと、スプーンを翼に託し、健司の元へと走り寄っていった。
蚊取り線香は匂いがキツイだろうとシオンが、用意した蚊連草(蚊を寄せ付けなくするらしい)を置き、横たわって花火を眺めている志之をそっと団扇で仰ぐ。
「…キレイですね」
シオンが、うっとりとした表情で呟いた。
「エマさん、感謝します。 西瓜も、花火も…」
シオンの感謝の言葉にエマが、「いえ。 こっちこそ、ありがとう。 シオンさんに言われなきゃ、こんな事思い付かなかった。 良かった。 健司君も、みんなも喜んでるんだもの。 本当に良かった」と済ましたように言った。
至る所で、咲いている小さな火の花達。
その火の花が照らし出す表情は、皆笑顔で、心が満たされていくのを感じる。
凪砂が、縁側から降り、線香花火に火をつけて、パチパチと弾けさせながら、何気ない調子で志之に問い掛けた。
「…志之さんは…、新庄さんの事、どう思ってたんですか?」
いきなりの質問に、息を止める一同。
なんて直球勝負!と、水命も思いつつ、自分も正直とても気になっていた事なので、好奇心を抑えきれずに耳を澄ませる。
「どうって…どういう意味だい?」
飄々と問い返す志之。
凪砂も、淡々とした調子で問いを重ねる。
「新庄さんの事、好きじゃなかったんですか?」
すると志之は、「好きだったよ。 ウチの息子の、大事な友達だったからね」と答えた。
凪砂は、じっと線香花火を見下ろしたまま、首を振る。
「そういうのじゃなくて…」
「そういうのだよ。 そういうのだけさ。 何、聞いたかしんないけどね、あの子とあたしには、20以上も年の開きがあって、あの子は、ここに住んでる時は、ほんの子供で、そういう子供に対してどうこうってぇのは、ないんだよ。 それにあたしは、死んだ旦那一筋なのさ」
「……ほんと、ですか?」
「本当だよ」
凪砂はチリチリと散る花火を見ながら、優しい声で囁く。
「………新庄さん、ずっと、志之さんの事、想ってたそうです。 ずっと、ずっと、志之さんの事好きだったそうです。 いえ、今も想ってます」
凪砂は、ポトリと落ちた線香花火の芯を淋しげに見下ろして言った。
「…純愛ですね」
志之は、微かに笑った。
淋しい、憐憫に満ちた笑みだった。
「嗚呼。 あの子に、あたしは引導を渡してあげたかったのにねぇ…」
翼が、怪訝な声で「引導?」と問う。
志之は、頷いた。
「若いあんたらには、ピンと来んだろうけどね、あたしは、旦那に先に死なれてから、ずっと、死っつうのを、見据えて生きてきた。 あたしは、あの子より先に死ぬ。 どう生きようとも、あたしに先にお迎えが来るのは確かだ。 あの子に、結婚しようと言われた時から、ずっと分かりきっていた。 好きになった人にね、先に死なれるっつうのは、淋しいよ。 堪らないもんだよ。 そんな思いはね、出来るだけ誰にもさせたくなかったんだ」
志之は、そっと目を閉じる。
「20年間、あの子に辛い思いをさせてたんだね。 嗚呼、あの時、もっとちゃんと引導を渡してあげれば良かった」
花火の火が、また一瞬、志之の横顔を照らした。


深い皺。
浮いた染み。
目立つ頬骨。


だけど、美しいと水命は感じた。
嫉妬するほどに、その瞬間の志之の横顔は美しかった。






さて、花火後、全員集合の状態になっている現状を見て「銭湯行かない?」と明るい声で提案してきた。
花火の高揚も残っているのだろう。
何だか、このまま解散するのも淋しくて、ここで大人同士なら飲みに行く?となるが、未成年の多い状況で、銭湯という提案は至極素晴らしいものに思える。
「いいな、それ」
そう無口な海月が、賛同の意を表したのも効いて、志之の世話の為に残るというエマと翼を置いて、一路銭湯へ向かう事になった。
と、言っても泊まり予定の無い凪砂含むメンバー達は、皆、着替えに女性は志之の、男性は亡くなられた志之の旦那さんの浴衣を借り、タオルや石鹸なども、出して貰う。
水命も、泊まり込みの身でありながら、みんなで浴衣を着たくなって、志之さんに貸して貰った。
「洗濯物、大変じゃないですか?」
と、問えば、海月と水命が同時に首を振り、「大丈夫」と言ってくれた。
「銭湯、銭湯〜v 初体験!」
楽しげに跳ねる鵺に、「お嬢さん、ちゃんと、前見て歩かなきゃ、転びます」と心配げに、幇禍が注意を促している。
凪砂は、銭湯は初めてらしく、「どんなんでしょうね?」と笑顔で海月に問い掛けて「…そんな、大の大人にワクワクする程の所ではない」と無表情に一刀両断されていた。
しかし、そう言う海月の後ろでは、スキップしそうな勢いで「みんなで、お風呂なんて、楽しみですね!」と健司と一緒になってはしゃぐシオン(しつこいけど、42歳)がおり、何ら説得力がない。
健司も、「銭湯、こんな大人数で行くなんて、すごい!」と満面の笑みで、いずみに「こどもね」と冷たく笑われていた。
ま、しかし、そのいずみも、どこか足取りは軽く、水命は、「いいなぁ。 こういうの」と再び感じる。
初瀬や悠宇も嬉しげで、水命も跳ねるような足取りで歩いた。。


「ここが、私のよく行く銭湯です」
そうシオンが告げたのは、古ぼけたコンクーリート作りの、いかにも銭湯っていう感じの建物で、「ゆ」と書かれたピンクと、紺色ののれんが二つの入り口にそれぞれ掛かっていた。
「じゃ、あとでね?」
鵺がそう言って、女性用のピンクののれんをくぐり掛け、「ん?」と足を止める。
そして身を屈めると「ねぇ、健ちゃんって、今小学校何年生だっけ?」と問い掛けた。
健司が、何でそんな事と首を傾げながら「えーと、三年生だけど…」と答える。
すると鵺が「じゃ、キミ女湯へGOね!」といきなり、その腕をひっ掴んだ。
「へ?」
と目を丸くする健司。
しかし、凪砂も「そうよ…ね。 小学生だし良いのよね、 ヨシ、おいで、健司君!」と言い、水命が「頑張ってるんだもん。 背中流してあげますよ」と言えば、初瀬も「じゃ。私は髪洗ってあげます。 だって、考えてみれば一番の功労者だもの」と言う。
突然の展開に目を白黒させる健司を置いて、悠宇が初瀬に「おい! なんで、健司そっち行く事なってんだよ! 馬鹿っ!」と怒鳴り、幇禍が鵺に縋り付くようにして「止めて下さい〜。 小学生とはいえ、もう、男なんですっていうか、駄目です! お嬢さんの玉のお肌をそんな、異性に晒すわけにはいきません!」と喚いていた。
そして、幇禍はいずみに視線を向け「やですよね? 同い年の男の子と、お風呂なんて」と言えば、いずみは「別に、健司は、同い年じゃなくて、年下だもの。 子供よ。 それにね、お兄さん達がそうやって小学生相手に取り乱してるのって、格好良くないよ」と一刀両断し、その言葉が決定打となって、健司の意志関係なく、彼は女湯へと引きずられていった。



銭湯は、程良く空いていて、女性陣+健司は気兼ねなく、湯船に浸かる事が出来そうだった。
「泡風呂がある!」
そう叫んで走り出そうとする健司を抱き締めるようにして捕まえ、凪砂が「まず、掛け湯。 それから、もう、水命さんと初瀬さんに洗って貰いなさい」と言っている。
水命と、初瀬は四つ並びで空いている洗面所の前を確保すると、健司の手を引いて腰掛けの前に連れていく。
幇禍や、悠宇はあんな事を言っていたが、やはり健司は子供そのもので、いずみと一緒に物珍しげに銭湯の内装を見回し歩いている様は無邪気そのものだった。
ただ、想い人である鵺の裸だけは、直視できないようで、耳を少し赤くして、視線を逸らしている。
だが、鵺がそんな事に気付く筈もなく、「健司! 健司、凄いよ! 向こう、なんか色の違うお風呂もあるよ!」と、腕を引っ張りながら声を掛けていた。
まず、健司を腰掛けさせ、初瀬がシャンプーを手に馴染ませると、いがぐり頭に爪を立てないようにシャカシャカと洗い始める。
「良いなぁ。 気持ちよさそう」
と羨ましそうに凪砂が言い、「痒いとこないですかー?」と、初瀬が笑いながら聞くのを「無いけど、初瀬姉ちゃんの髪の毛があたってる背中が痒い」と健司が訴える。
そんな健司の背中を凪砂がヒョイと手を伸ばして掻いてやっていた。
水命も、タオルを泡立てて、優しく健司の背中を擦り始め、鵺が湯船に浸かりながら「…はぁ、何か、圧巻だよねぇ」と、言う。
言葉の意味が分からないのだろう「へ?」と問い返す凪砂。
水命は「圧巻って…、健司君をよってたかって苛めてるように見えるのかしら?」と不安になる。
すると鵺が、「健ちゃん〜? こぉーんな、上玉さん達に、体洗って貰うなんて、幾らつんでも出来ない経験よ? しっかり、心に刻んでおきなね!」と言った。
いずみが鵺の隣りに浸かりながら「…確かに」と頷く。
三人、何言ってんだか…なんて、笑い合って、「ほら、水流しますよ? 目を瞑って?」と、水命は優しく健司に声を掛けた。


みんなで並んで湯に浸かる。
「ふぃ〜」なんて言いながら手足を伸ばせば、程良い温度の湯が体の芯まで染み渡り、額から流れる汗を手拭いで拭いつつも凪砂が「いいですね。 夏の風呂」と呟いた。
頷き、同意を示す水命。
疲れが、すぅっと抜けていくようだ。
鵺は健司と並んで泳ぐように、湯船を移動しながら「ほーんと! 最高っ」と答える。
そして、凪砂の側まで近付くと、しげしげと胸元を眺め、溜息混じりに呟いた。
「…いいな。 凪砂さん、胸大きくて」
その言葉に、へ?と呟き、自分の胸を見下ろす、凪砂。
「そ…うかなぁ?」
そう言えば、力一杯頷かれ、鵺を自分の胸を見下ろした。
「私、まな板みたいじゃん? なぁんか、ヤなんだよね」と言いつつ、「ね? 健ちゃんだって、胸大きい方がいいよね?」と鵺が問うた。
健司は途端に顔を真っ赤にして「知るか! そんなのっ!」と答える。
水命は俯きながら「やっぱ、大きい人がいいですかね?」と、呟いた。
自分も余り大きい方ではないので、何だか恥ずかしくなってくる。
「鵺ちゃんは、まだ大きくなる可能性あるけど、私は、もう、多分無理ですよね」なんてえば、鵺に「でも、水命さんは、形奇麗だから良いよ!」と言われた。
初瀬も「でも、鵺ちゃんのすらっとした、スレンダーな体形も、凄く格好良いと思いますよ」と、話に参加してきて、一頻り胸談義に花が咲く。
そんな初瀬も、程良い大きさの奇麗な胸で、「いいなぁ…」と羨ましく思った。
そんな三人を眺め凪砂がいずみと健司、交互に顔を見合わせると「分かんないよね? こんな話」と言った。
健司はコクンと頷けど、いずみがいつものこまっしゃくれた感じで「でも、凪砂さんは恵まれてますから良いけど、女性にとっては深刻な問題ですよ? まあ、ただ、胸が大きいからといって、それで寄ってくる男性は、頭が悪い連中ばかりでしょうし、そういう意味では、無意味な論議と言えるかもしれませんね」と冷静に答え、水命達を一瞬にして凍り付かせた。


さて、風呂上がり、ガラス張りの小さな冷蔵庫から、皆銘々に、珈琲牛乳やら、フルーツ牛乳を取り出して、番頭のお婆ちゃんに金を払い、皆で並んで飲む。
乾いた喉に冷たいフルーツ牛乳が流れ込み、水命は夢中になって飲み干した。
「「「「「プハー!」」」」」
皆が一斉に、そう息を吐き出し、顔を見合わせて笑い合う。
「外、男性陣待ってるかも知れないから、急ぎましょうか?」
そう初瀬が提案し、皆は、志之に貸して貰った浴衣を身に纏い始めた。
悪戦苦闘している、鵺を初瀬が手伝い、同時に、どうも巧く帯が結べない凪砂を水命が手伝う。
柄は少し古い物の、落ち着いた色合いの浴衣を着て、少し心が浮き立つような気分になる。
いずみは、サイズがないのと、丁度お泊まりに来ていた事もあって、自分の着替えのTシャツなどを着ていたが、浴衣が羨ましいのだろう。
頻りに、水命や、初瀬、凪砂の来ている浴衣に触れてくる。
初瀬が微笑んで、しゃがみこむといずみに「今度は、いずみちゃんも浴衣着ようね? お姉ちゃんが手伝ってあげるから」と囁いた。
「そんな、別に、良いです。 羨ましいわけでは、ありませんし」と言いつつも、少し嬉しげな表情を見せたいずみ。
鵺も、「うん。 今度は、いずみも、浴衣ね?」と勝手に決めて、その上、勝手に番頭に皆の銭湯料金を払う。
「え? いいです。 自分達で…」
そう言えども「鵺、今回、遊んでばっかで、全然手伝えてないもん。 大丈夫、パパから銭湯代をお泊り代として出しなさいねって言われて預かってるお金だもん。 気にしないで」と告げて、一足先に出ていった。
慌てて、後を追い掛ける一同。
凪砂が「んもう。 年下に奢られるなんて、不覚!」と言うので、クスリと水命は笑って「同じくです」と答える。
健司がいずみに「気持ち良かったな」と言い、いずみが「まぁね」と答えるのを聞いて「来て良かったな」と水命は思いながら、外に出て案の定待っていた男性陣に「お待たせ致しました」と告げた。





それからも、水命は、志之や健司の世話に勤しんだ。
色んな話を健司や、志之とし、本当に家族の一員となったように働いた。
そういう日々が楽しかった。
得難かった。


志之が大事だった。
健司も大事だった。
二人のために出来る事なら、なんだってしたかった。


毎日、志之の隣で眠る。


志之が寝物語にしてくれる、古い時代の話を、水命は殊の外楽しみにしていた。
志之の静かな落ち着いた声を聞きながら眠ると、深い、深い、心地よい眠りにつくことが出来た。



そして、夏も終わりかけた、されど残暑厳しい日に、志之は死んだ。



水命が朝起きた時、志之の容態がおかしかった。
既に意識がない状態で、動転したまま、病院に電話を掛け、医師に急いできて貰う。
その後、意識は戻るも非常に危険な状態で、新庄と健司を枕元に呼び、手伝いに来てくれた人達に、武彦に頼んで連絡を入れて貰った。
その時には、水命は震えて、混乱しきった事しか言えず、武彦に電話口で「しっかりしろ」と」励まされた
皆が集まった、寝所に、溢れる涙を抑えきれないまま、呆然と佇む。


静かだった。
圧倒的な迄に静かだった。



死の音とは、無音なのだと水命は悟った。
健司が、志之の右手を握り、新庄が志之の左手を握っている。




聖家族。



聖母子と聖ヨハネを指す言葉が、何故か、頭に浮かんだ。
それ位神々しく、近寄りがたい風景だった。
志之の唇が微かに動く。
新庄が、志之の唇近くまで耳を寄せ、そしてコクリと頷くと、水命を手招きした。
水命は、這うようにして、志之の側へ行く。
新庄が、囁くように行った。
「…志之さん。 何か貴女に、仰りたい事があるそうです。 どうぞ、聞いてやって下さい」
そう言われ、震えながら、耳を志之の唇の側まで近づける。



「…な…にから、何まで、ありがとう…ね」
そう告げられ、涙の溜まった目を瞬かせながら、首を振る。
「いえ…。 いえ…いえ…そんな…、そんな…」
そう言いながら泣き伏せ、水命は小さな声で囁いた。


「志之さん……。 志之さん…死なないで下さい。 ほ、本当のお婆ちゃんみたいに……思ってました。 お、願いします…。 死なないで…」


そして唇を噛み「うっぅぅう…うっ…」と嗚咽を漏らす。
そんな水命に「一杯世話になったのにねぇ…。 そのお願い叶えてやれそうになくて…ごめんね」と志之は言い、震える手で水命の頭を撫でた。


いやだ。
いやだよぉ。
やだよ、やだよ…。
死なないで。
死なないでよ、志之さん。



志之が、新庄に「…健司の事、頼みます」と告げ、健司には「…幸せに…なりな」と言うのが聞こえてきた。
水命は、動揺を隠せないまま、それでも、見つめなければ。
最期まで、ちゃんとみつめなければと、顔をあげ、志之の顔を見つめる。
志之の瞼がゆっくりとおり、それから、呼吸が、深く、緩やかになり始めた。
健司は、何も言わず、涙も見せず、ぐっと耐えるように志之の手を握り締め続けている。
新庄が、目を真っ赤にしながら、最期の瞬間、志之に囁いた。




「愛してます」




志之が、微かに笑って、頷いたように見えた。







水命は、皆が帰る中、一人志之の眠る寝所で泣き続けた。
悲しかった。
こんな悲しい事は他にないと思えるくらい悲しかった。
健司が、そんな水命に涙を堪えたままの声で言った。
「婆ちゃん、水命さんのおかげで、本当に助かったって、水命さんの事、本当のお姉ちゃんだと思って、感謝しろって、俺に言ってました。 有り難う御座いました。 本当に有り難う御座いました」
水命は、そんな健司を耐えきれず胸に抱き締め「…エライね、健司君。 健司君、えらいよ。 水命、大人なのに、泣き虫でごめんね…」と言いつつ、また涙を流す。



健司の正式な里親となった新庄は、志之の思い出が残るこの家を健司から取り上げるのは不憫だと言って、この家に移り住んでくれるらしい。


水命は、この家が残るという事に途方もない安堵を覚えて、泣きながら胸の中で志之に語りかける。
「また、来ます」と、「たくさんお話ししに、また来ます」と。

志之が、どこかで「待ってるよ」と返事したような気がした。




  終





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■         登場人物            ■
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 ※受注順に掲載させて頂きました。

【0086/ シュライン・エマ  / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1847/ 雨柳・凪砂 / 女性 / 24歳 / 好事家】
【1572/ 暁・水命  / 女性 / 16歳 / 高校生兼家事手伝い】
【3604/ 諏訪・海月 / 男性 / 20歳 / ハッカーと万屋】
【3524/ 初瀬・日和 / 女性 / 16歳 / 高校生】
【3525/ 羽角・悠宇 / 男性 / 16歳 / 高校生】
【2414/ 鬼丸・鵺  / 女性 / 13歳 / 中学生】
【3342/ 魏・幇禍  / 男性 / 27歳 / 家庭教師・殺し屋】
【3356/ シオン・レ・ハイ  / 男性 / 42歳 / びんぼーにん 今日も元気?】
【2863/ 蒼王・翼  / 女性 / 16歳 / F1レーサー兼闇の狩人】
【1271/ 飛鷹・いずみ  / 女性 / 10歳 / 小学生】

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■         ライター通信          ■
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遅くなりまして、遅くなりまして、遅くなりまして、真に申し訳御座いません!
へたれ人間失格人間ライターmomiziで御座います。(切腹)
初めましての方も、そうでない方も、この遅れっぷりには、最早怒りを越えて、呆れられているのではと、怯えるばかりなのですが、全て私が悪いので、どうぞ、三発位殴ってやって下さい。
さて、えーと、毎回、毎回、ウェブゲームのお話に、是非、個別通信をやりたいと考えているのですが、毎回毎回、時間の都合により掲載できません。
ほんま、スイマセン。
なので、ご参加下さった全ての方々に「本当に有り難う御座いました。 再びお目に掛かれましたら、僥倖に思います」というお言葉を贈らさせて下さい。
あと、非人道的な位、長くなってしまった事もお詫び申し上げます。

momiziは、ウェブゲームの小説は、全て、個別視点の作品となっております。
なので、また、別PC様のお話を御覧頂ければ、違った真実が見えるように書きました。
また、お暇な時にでも、お目通し頂ければ、ライター冥利に尽きます。

ではでは、これにて。

momiziでした。