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『夏祭りをしよう!』
今年も夏祭りの季節がやってきた。
ここの夏祭りの愉しみはなんといっても花火である。
近くにある神社が主体になって行われるそれは結構な数の花火が打ち上げられる。
あやかし荘から歩いて行ける河岸で行われる祭は花火の種類も豊富で、夜店も出る。
川岸にはます席ができ、交通規制が行われ、橋の上からも花火を見る人でごった返すのである。
だがかなりの人出の為、花火の近くではなかなか見る事ができない。
その為、 あやかし荘の庭で当日バーベキューをしつつ花火を見る計画が出た 。
無論、花火そのものはあやかし荘からでも良く見える。
大家の恵美も、みんなで夏祭りをしようということに依存はない。
「楽しそうじゃのう」
とは嬉璃の声だ。
「他にも一緒にバーベキューする方は、夕方頃庭に集まってくださいね〜」
と恵美が声を掛ける。
「私も御一緒しましょう〜♪」
歌姫も同意の歌を歌った。
祭りに行きたい人はバーベキューを途中で抜けて行くのも良いし。と三下が珍しく意見を言うと、柚葉が飛びつく。
「ボクも行きたい〜」
綾は
「うちが肉を買ってくる係や」
と、言いながらすでにやる気満々である。
さて、今日は祭り当日である。
嬉璃も無礼講なのか姿をあらわしている。
バーベキューが始まった。
「まずいよ〜」
泣きながら三下が皿に取った肉を食べている。
「持って来たチョコレートと肉を一緒に焼いて。チョコ肉焼き〜♪」
と言ってバーベキューの一角の肉を色とりどりのチョコレート色で染めたのは灯籐かぐやである。
まるで闇鍋のようなバーベキューになりそうなところを何とかそれでも隅にとどめておくのは綾が。時価いくらか分らない高級肉を購入してきたのだ。分けの分らない味にされてなるものかとでも思っているのか、それとも被害を最小限にとどめようと言う天の誰かの意志か。
「花火やろうよ〜」
人間花火の案も出した彼女は、三下を打ち上げ花火に使おうとして流石に周りに止められた。
「一寸の虫にも魂はあるんや、命を粗末にしたらあかんで」
と。意味が通じているのか通じていないのか。天王寺綾の言葉がである。
三下はこの時点でほとんど泣きそうである。
とりあえずその案はうやむやのうちの却下になった。
「三下、食べえ」
と、綾がカラフルなチョコレートのべっとりついた肉を彼の皿に盛る。
「うう……甘くてまずいよう」
とうとう半分泣いている。
「え〜美味しいのに〜」
と言いながらかぐやは同じチョコレートのかかった肉を平気な顔をして食べている。
彼女は夜店もしていて、チョコバナナを売っていた。しかも籤つきチョコバナナである。
強制的に引いた籤に書いてある事をしなくてはならないという王様ゲームのようなゲームつきである。
しかも売っている本人は店はどうしたのか他の人に任せて来たのかその辺りは分らないが夜店を抜け出してバーベキューに参加している。どうやらこのあとまた夜店業に戻って借り物競争の続きをやるつもりらしいが。
「はい〜、みなさんにケーキ持って来ました〜焼いて食べてね〜」
と、ケーキも持って来た。
「ケーキも焼くんか」
と言いつつもバーベキューの肉を焼く係も買って出ている天王寺は、鉄板を敷くとケーキを置いた。ベイクドチーズケーキである。焼いて食べられない事もあるまい。
レアチーズケーキにしなくてまだ良かっただろうと言うべきか。
まあ焦げてキャラメリゼしたレアチーズケーキはそれはそれで美味しいかも知れないが。
「食べないの?」
「僕はここで紅茶を飲んでるよ」
そう柚葉に聞かれて織詠無月が答える。
真っ黒い着流しを着た彼はそっと歌姫の方へと回り、声をかけた。
「後で一緒に花火を見に行きませんか」
と。
歌姫は少し躊躇した後小さく頷いた。
彼女が男性が苦手なことは有名だが、花火と夏の開放感からか、それとも織詠の人間離れした風体に親しみでも湧いたのか、彼は人間よりも幽霊の方が近い雰囲気があり、幽玄とでも表現していいのか、その黒い瞳に覗き込まれると『居心地の悪さを感じる』と人は皆言うが。
凪いだ海面のような瞳と言われるその瞳も、今日は少し優し気な空気を持っていた。
だからだろうか。歌姫が承諾したのは。
彼にとって、歌姫は大事な人だった。好き、とは違うし、愛してるとは全く違う……と彼は思う。やっぱり気になる。というのが彼の今の気持ちだった。
彼女に何かを投影しているのかもしれないとも思うのだった。
「じゃあ夜店を回ってから行きましょう、とっておきの場所があるんですよ」
と、織詠は歌姫に向かって言った。
夜店に行ってそのまま花火を見る人たちとバーベキューに残って花火を見る人達ふた手に分かれた。
かぐらは夜店に戻り、三下と柚葉がかぐらの夜店の前でチョコバナナを買ったようだが。
三下は、チョコバナナに入っている王様ゲームの籤に書いてあった事がよほどの事だったらしく、青い顔をして唇まで紫にしてガタガタと震え出しつつ。
「編集長にそんなことできませんよう……」
と再び泣き出している。
織詠は歌姫の手首にハンカチを巻き付けてそれを持って歩いていた。逸れないようにである。
途中の夜店でかき氷を買い、歌姫を花火のとても良く見える場所に連れていった。
そこはあやかし荘のある山の中で、広場のようになっている場所で少しひんやりとしていた。
織詠はそこが霊場で、幽霊がいることを知っていたが、歌姫は気にしていないようで。
花火が上がり出すと二人は並んで花火を見た。
ドーン。
と丸い花火が上がる。
バーベキューに残ったあやかし荘の人々の間から
「玉屋〜」
「鍵屋〜」
とかけ声が上がった。
こうしてそれぞれがそれぞれの夏の祭を楽しんだのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3514 / 織詠・無月(おりうた・なつき) / 男性 / 999歳 / 夢解き屋】
【1536 / 灯藤・かぐや(びとう・かぐや) / 女性 / 18歳 / 魔導学生】
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