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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


力の追及者(前編)


■ プロローグ

「ククク――話にならん、死ね」
 黒服の男が這う這う逃げ出そうとする男性を派手に蹴り飛ばした。
「うああぁぁぁ!!」
 そのままビルの壁にぶち当たり身動きしなくなる。壁に染み込んだ鮮血はまるでどこかの芸術家が描いた抽象画のようだった。
「ヤナギ君、お遊戯はすんだのかい?」
 後ろで束ねた長髪を揺らしながら近づいてきた白シャツの男は、黒服の男をヤナギと呼んだ。
「……ふん、こいつじゃ何の糧にもならん」
 ヤナギは転がる男から視線を外すと、懐からタバコを取り出し口にくわえた。ジッポライターの赤い火が薄暗い通りをいくらか明るくする。
「おい、サワキ……ボスはどうしてる?」
「……アジトにはいませんでしたが、ボスは気まぐれですからねぇ」
「まったくだ……少しはまもとに仕事をしてもらわないと生活の折り目がつかん」
「では、もうひと稼ぎしましょうか?」
「ああ……」
 ヤナギは頷きコツコツと地面を鳴らしながら歩き出した。

 草間興信所を訪れた男性はいかにも生気の抜け切った顔をしていた。
「力を奪われた?」
「……はい。私はこれでも少しは名の知れた霊能力者だったのですが、その男たちに為す術もなくやられ……気づいたら霊力を失っていたんです」
「霊力ねぇ……」
「もしかして、最近、噂になっている二人組みの男性では? 確か……一人は目つきの悪い黒服の男性で、もう一人は髪を後ろで束ねた白いシャツの男性――」
 お茶をお盆にのせて運んできた零がそう言うと、
「そいつらです……間違いありません」
 男は俯いたまま弱々しく呟いた。
「兄さん、被害が拡大する前に手を打った方がいいのでは?」
「……それはそうだが、今回は骨を折りそうだな。ま、手始めに――」
 草間は自分の考えを語り出した。



■ 草間興信所にて

 草間興信所に駆け込んだ男性は名を山本と名乗った。力を奪われた山本は本業を追いやられ、現在休職中とのこと。別の仕事を探すためハローワーク通いであるという。
「それで、襲われた具体的な場所はどこなんだ?」
 ソファーに悠然と腰掛けていた日向・龍也がまず山本に問いかけた。
「ええ、都心からやや離れた街なんですが……気楽街と呼ばれている物騒な街です」
「どうしてそんな危険な場所に赴いたのかしら?」
 山本の向かいに座る草間興信所事務員のシュライン・エマはすかさず気づいたことを質問した。
「もちろん普段は近寄りもしませんが、私も霊能力者ですから仕事のためには、そういった街へ行くこともあります」
「で、力を奪われてしまったというわけだな……」
 草間がそう言うと、山本は覇気のない顔つきでわずかに頷いた。
「私の場合、背後からの不意打ちでしたので……何がなにやらといった感じですよ」
「なるほど……。ところで武彦さん、他の被害者とコンタクトを取ることは可能かしら? できれば、直接話を聞きたいのだけれど?」
 シュラインが隣に座る草間に尋ねる。
「ああ、その気楽街で被害にあった人間が他にもいるらしい。山本の知り合いに直接、相手と対峙した人間がいるそうだ。現場近くで話を聞けるようにアポはとっておいた」
「じゃあ、現場だな……」
 龍也が勢いよく立ち上がった。それにシュライン、草間、山本の三人が続き、四人で興信所を後にした。
「行ってらっしゃい、頑張ってくださいね」
 零が後押しするかのように歩き出した四つの背中に呼びかけた。



■ 現場にて

 午後五時――享楽街の一角。
 まだ日は落ちていないが辺りは薄暗い。夜になるとさらに闇が深まるのではないだろうか。この薄暗さを演出しているのは幾重にも建ち並ぶ薄汚れたビルだった。非合法という名の犯罪が蔓延る街が、この享楽街の正体だ。
「えっと、ここですね」
 山本が案内した場所は幅の狭い路地――行き止まりだった。なんでも、入り組んだこの路地に迷い込んだところを襲われたらしい。時間的にも真夜中だったので今以上に視界が悪かったようだ。
「……血が残っているな」
 龍也が地面にこびりついた血の塊を指でなぞった。
「もしかして、それでなにか解かるの?」
 シュラインが冷ややかなビルに背中を預け、腕を組む。
「別に血じゃなくても付近になにか媒体があれば残留思念ぐらい読めるぜ。そこから情報を明確化して……こいつを使う」
 龍也が左手に力を込めた。ソレは、半径数キロ以内ならば敵味方の姿形や属性まで判別することが可能な『魔術レーダー』であった。
「俺はこれを作動させて属性の重なる人間を探ってみよう。夜になれば、奴らも姿を現すかもしれないからな」
「それじゃあ、私は他の被害者からの聞き込み調査を……そこから相手の能力について何かしらのヒントが掴めるかも知れないわ」
「こちらも何か解かれば連絡を入れる。ただ、尾行については俺一人でやらせてもらうぜ。俄仕込みのコンビネーションだと相手に気づかれる恐れがあるからな。相手は二人組み――連携は手馴れているだろう」
「では、私が途中まで同行しましょう。なにか手伝えることがあるかもしれませんから」
 そういうわけで、龍也が山本と、シュラインが草間と行動を共にすることとなった。



■ 聞き込み×尾行

 午後七時半――。
 やって来たのはカウンターのみの小さな喫茶店。先に店内へ足を踏み入れたシュラインに視線が集まる。視線の元には二人の男女――山本の仕事仲間で例の二人組みから力を奪われた者たちであった。
「あ、初めまして。私は伊藤、こいつは山岡といいます」
 細身の男性がたどたどしく自己紹介を行なう。山岡と呼ばれた隣に立つ女性は対照的に冷静で、ただシュラインと草間に向かって一礼するのみであった。
 シュラインと草間はカウンターにつき店主にブレンドを注文した。草間がタバコを吸おうとすると、
「お客さん、うちの店は禁煙なんですよ」
 髭面の店主に注意を受けた草間は咳払いをして、なんとか場を誤魔化した。
「さっそく、例の件についてお伺いしたいのですが?」
 気を取り直してシュラインが二人に話しかけた。
「あ、はい……えっと、まずは何からお話をすればいいのでしょうか……」
 どうやら伊藤のおどおどした態度は生来のものらしい。それになんだか弱腰だ。見かねた隣の山岡が溜息を吐きながら口を開いた――。

 その頃、龍也と山本は気楽街を彷徨っていた。辺りはすっかり闇夜が広がっている。
 魔術レーダーに従い、二人組みの男の行方を追っているのだが、もうかれこれ二時間になる。
 そんな時、龍也がピタリと足を止めた。
「……近いな」
「え? 奴らがいるんですか?」
 山本が肩をすくめて後退りをする。
「尾行となれば、俺一人でやる。あんたは、その旨を二人に伝えてくれ。まあ、いろいろと準備はしているから心配するな」
「……解かりました。ですが、くれぐれも無茶はしないでくださいね」
「問題はないさ……っと、次の角を左に折れた先のようだな」
「……では、私は先に戻っています」
 山本が踵を返し、夜闇に消える。龍也は前に向かって歩み出した。
「……三体ぐらいでいいか」
 龍也は魔力を両手に集中させ人間と見紛うほどに精巧なゴーレムを三体生み出した。
 そのゴーレムを引き連れて慎重に角の方へと歩く。
 様子を窺う。黒服の男に、白シャツの男――どうやら、話に聞いた二人組みに間違いないようだ。
 そして、龍也はゴーレムを男たちに差し向けた。

「わたしたちも山本さんと同様に霊力を奪われました。もちろん、抵抗はしました。ですが、絶対的な力の差があって……結局、逃げることも叶いませんでした」
 山岡はそこまで喋り終えるとレモンティーの入ったカップを握った。
「力は具体的にどうやって奪われたの?」
 続けてシュラインが質問を投げかける。
「最初から奪われたわけではありません。二人してなにか話しているなあと思ったら、急に襲い掛かってきました。黒服の男はヤナギと呼ばれていました。そのヤナギは物理的な接触が多く、とにかく力ずくといった感じでしたね。もう一人の白シャツの男――聞き間違えでなければサワキと呼ばれていました。サワキの方は魔力による干渉が比較的多かったように思います。わたしも、彼も二人に打ちのめされて、その後……トドメを刺されるとばかり思っていたのですが……えっと」
 山岡が口ごもる。それに気づいた伊藤がフォローする。
「彼女はそこで気絶してしまったんですよ。私は彼等が去っていくところまで記憶しています。彼等はこちらに近づいてきて、青白い小箱のようなものを取り出しました。確か、ヤナギの方が持っていました。その直後、自身の霊力がどんどん箱に吸い込まれていって――サワキが私たちの体に何らかの操作を行なったのではないかと……そう思うんですが」
「それは、単純にエネルギーを吸い取られたというわけなのかしら? それとも能力を奪われたということなの?」
 シュラインが伊藤に尋ねると、その質問には山岡の方が答えた。
「霊能力者と魔術師、どちらにも言えることですが能力使役のためには霊力や魔力が必ず必要になります。能力だけを奪われたのであれば霊力が根こそぎ失われるというのは説明がつかないように思えるんです」
「うーん、なるほどな。それは確かに一理ある」
 草間が何度か頷きながら乾いた口をアイスコーヒーで潤した。
「本人たちが力を吸収してより強大になっているというわけではないのね。その、話に出てきた青白い小箱……だったわよね? そこに力が蓄えられていると考えたほうが妥当ね……」
 シュラインが私見を織り交ぜながら話をまとめた。

「五分か……予想以上にできるらしいな」
 龍也は破壊されたゴーレムからわずか十数メートルの場所にいた。まだ、男たちはその場から動こうとする気配はない。
 敵の戦い方はそつがなかったが、役割はしっかりと分かれていた。黒服が前に出て、白シャツが後方支援をするというスタイルである。お互いの弱点を相補するような戦い方であると龍也は結論した。
「……少しは足しになるか?」
 黒服の男は破壊したゴーレムを踏んづけながら白シャツに向かって質問した。やや聞き取りづらいが龍也はだいたいの内容を把握することができた。
「それなりの魔力が込められていましたからね。今日はこれぐらいでいいでしょう。それにしても、一体何者の仕業でしょうかね?」
 白シャツは両手に小箱を抱えていた。その小箱が薄暗い通りを青白く染め上げていた。会話から推測するに、どうやらあの小箱に力が蓄えられているらしい。
「……さあな、心当たりが多すぎて見当がつかん」
 黒服の男がこちらに向かって歩き出す。龍也はすかさず二人と距離を取る。魔術レーダーがあれば、離れていても場所は特定できるが、なるべくレーダーギリギリの距離で尾行をしたかった。
 龍也は可変可能な鳥――蘭を最小の四ミリメートルに変化させ男たちにはりつけておいた。これで、尾行後に蘭を回収して得られる情報があるはずだ。敵の行き先も蘭に気づかれない限り特定できるだろう。さらに龍也は自身をステルス化してカモフラージュを施しておいた。
 男たちは言葉を交わしながら歩いていく。会話の中で何度か出てきたボスという人物のことが龍也は気になったが、あまりよけいな思考に神経を集中すると最悪、尾行に感づかれてしまうおそれがある。しかし、ボスとは間違いなく黒幕のことを言っているのだろう。
「……ん? 建物の中に?」
 男たちが背の高い黒ずんだビルの中に入っていった。しばらく待ってみるが出てくる様子はない。レーダーにも動きは見られない。どうやら、そこが男たちのアジトのようだった。確信したのは呼び戻した蘭から得た男たちの会話の内容だった。黒服と白シャツ、そしてもう一人――女性の声が含まれていたのだ。



■ 調査後

 龍也は尾行を切り上げ、シュラインたちと合流するために山本から聞いておいた喫茶店へ向かった。到着したのは午後十時を過ぎたところだった。
「じゃあ、黒幕がいるってことなのね?」
「ああ、どうやら女らしいが……奴らはボスと呼んでいるようだった」
 シュラインの問いかけに龍也が答えた。
「解かったことをまとめると……敵は三人。そのうち二人は戦闘に秀でている。戦闘後は魔力、霊力などエネルギーの源を小箱に吸収している……これくらいか?」
 草間が情報を整理しながら、もう何倍目かも解からないコーヒーを口にした。
「これは私の推測なんだけど、小箱を使用するためには条件が必要なんじゃないかしら――」
「条件……ですか?」
 すっかり口を閉ざしてしまっていた伊藤が首をかしげながら聞き返した。
「そうだな――霊力や魔力を無条件に吸収することができるのなら、わざわざ戦う必要性はないからな」
 龍也がシュラインの意見に賛同を示した。
「でも、その条件が何であろうと直接戦いを臨むしか方法はないのかもしれないわ。それでも、これだけ情報が揃えば勝算はあるわね。相手はこちらのことを知っているわけではないし、有利なのはこちらの方よ」
「その通りだ。アジトも確定したし、山本たちの力……ちゃんと取り戻さないといけないな」
 草間が薄っすら笑みを浮かべてタバコを口にした。
 すると、店主に渋い顔をされ――草間はハッとして苦笑い。その時、狭い店内に午前を知らせる鐘の音が鳴り響いた。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2953/日向・龍也/男/27歳/何でも屋:魔術師】
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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この度は『力の追及者(前編)』にご参加くださいましてありがとうございます。担当ライターの周防ツカサです。
今回の前編はひたすら情報収集となり、やや起伏にかける展開だったかもしれません(地味ですみません)。後半では前半とは打って変わって派手な演出を心がけようと思っています。
また、後編の方も近日中にオープニングを公開する予定です。

>シュライン・エマ様
お久しぶりです。今回、シュライン様には聞き込みの方を担当していただきました。ちょっと、前情報の提示が不足してたかもしれないなと反省しております。なにはともあれ、お疲れ様です。

ご意見、ご要望等などありましたら、どんどんお申し付けください。
それでは、またの機会にお会い致しましょう。

Writer name:Tsukasa suo
Personal room:http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=0141