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<東京怪談・PCゲームノベル>


★夢琴香奈天の夢相談

●夢世界へ 〜オープニング〜

 ようこそ、夢琴香奈天の夢相談へ。
 夢についての依頼を中心に、夢見、診断、未来へのアドバイス、精神分析、夢占いなど内面世界についてのよしなしことを様々な視点から、クライアントの求めに応じて相談しております。
 夢とは精神の鏡――心に通じる扉とも、あるいは通じた先の世界そのものとも言われます。
 普段は無意識の底に埋没した魂を汲み上げて意識化する行為であり、自分を認識しているもう一人の自分を客観的に認識することで、自意識と照らし合わせる作業とでも理解していただければよろしいでしょうか。
 ‥‥身近な占いから、深遠なる魂の問題まで、お気軽にお立ち寄りください。


 人は世界の真実とつながるためにより深く、より複雑な心を求めます。
 本当の世界とは、本当の自分とは‥‥答えを求める行為それ自体が答えだとでもいうように人は生き続けます。
 生きている限り人は夢を求めて――夢を食べながら生き、生命を消費しながら夢を創り出す。無限の循環を繰り返して、あなたの心は自分という名の形と向き合います。
 夢を通して、何を得ようとし、何を期待しているのか。
 それを私に教えてください。
 夢の中のあなたは、きっと今のあなたに語りかけてくれることでしょう。

 それはまるで、永遠に連なる合わせ鏡の世界。
 無限の姿を現出させる静謐なる万華鏡。
 ――――あなたはどのような「あなた」を望まれますか。


●夢相談

 その人は、龍の模様が入った銀の杖をついていた。

 足首まである茶髪を一つにまとめ、鼻に丸眼鏡を掛けた知的な印象の青年――黎 迅胤(くろづち・しん)。
 彼が腰掛けた黒革張りのソファのすぐ前には、一人の大人びた少女がスーツ姿で事務机に座っている。
「夢は鏡です。場合によっては出会いたくない自分にも出会うことがありうる‥‥それでも診断をお受けしますか?」
「いきなり重々しい切り口だな。夢とは日頃の言動等を自分なりに整理するために見るというが‥‥」
「それは『夢の一部』です」
 やれやれ、と肩をすくめて見せた。口調こそ穏やかだが、攻撃的ですらある彼女――夢琴 香奈天(ゆめごと・かなで) の言葉に迅胤は違和感を覚えたのだ。
「お気軽にお立ち寄りください、とここの看板には書いてあったはずだけどな」
「ええ。もちろん気軽なお立ち寄りも私は歓迎するつもりよ。ただし、最低限の注意事項は必要ではないでしょうか? これはそういった類のものと同様の、一種の儀式なの」
「あんたにとってはその質問がこの仕事を行う上での保険なわけか」
「保険――言い得て妙ね」
 初めて香奈天は微笑んだ。
「夢は鏡。つまり、夢を知りたいと望むことは、もう一人の自分の一面を知ることに他ならない。その危険性をまずは自覚しておいてほしい、と。いつも初見の方には伝えている言葉なのよ」
「危険性か。成る程な、興味深い見識ではあるよ」
 こういった回りくどい説明自体が、すでに夢診断とやらの作法の一つだろうな、と迅胤は思った。
 気がつけば、彼女の口調も丁寧で事務的なものから、語りかけるように親しい言葉使いのものに変わっている。
「お気軽に、という一文に嘘はないわ。なぜなら、夢に重さを見るのも軽さを見るのも、相談を求める本人が望むものだから。自分では重い相談のつもりだった夢が実は問題の表層に過ぎなかったり、気軽に見てもらうつもりだったことがもう一人の自分からの重要なメッセージを含んでいたり‥‥相談のレベルが自意識以外の部分で決められている。よくある話ですから」
「そうまで言うと、大抵のお客は引いてしまわないか? 仕事としてはやや慎重に過ぎる気がするけどな」
「慎重すぎるくらいでちょうどいいのではないのかしら。この程度の前振りで帰られる方はそれだけの相談だったのでしょうし、知るべくして知るメッセージだとしたら、その人は診断の続行を決められるでしょう。人は“自意識”だけで全てを決めているわけではないのですから」
 脚を組み替えると、囁くように香奈天は言った。

 ――――それでは本題に入りましょうか。


「‥‥こういう場所もあるんだな」
 奇麗に整頓された室内は無駄なものがなく、質素や簡潔という言葉が似合いそうなデザイニング。一通り見回してから迅胤は話し始めた。
「さて、今朝方俺が見た夢だが。一昔前の外国俳優が出てくるんだが、子役の。その当時は偉く人気でね‥‥それが劇団をやっている8年来の親友の姿だと俺は夢の中で知る。それでそいつがもう届かないとこまで行っちまったと思い込んで、現実ではない『母親』が赤ん坊を産むんだ。それで赤ん坊にコーヒーを入れた外国流離乳食をやってた」
 それで終わりだ。
 そう言って愉快そうに迅胤は手を広げてみせた。
「これはどう解釈すればいいのかな?」
「‥‥あなた自身はどう思われたのかしら」
「疲れている、ということは多少俺にもわかるんだがな」
「そのメッセージを紐解くカギは、映画、ね」
 即答だった。
「映画か? 確かに外国俳優が出ているとは言ったが」
「劇でも同じ、つまり、そこが創られた空間であることをあなたが――あなたの“自意識”が自覚的に認知している点よ。夢の語り方に夢との距離感が表れていて――説明で俳優や外国といったキーワードを意識的に使っている点で、あなたは意識的無意識的に関わらず、その夢が“創られた空間”であることを知っている。いわゆる二重舞台の認知、よ」
 自覚的に創られた空間だといわれても、迅胤自身その意識はないし、もしそうだったとしてそれがどうした、という気分だ。
「つまり、どういうことだ」
「二重舞台――夢自体が一種の舞台、わかりやすい言葉でいうと仮想現実が適当かしら。『現実とは、自分の感じている世界である』という定義です。その仮想現実という世界の中で、無意識からのメッセージ装置として、もう一つの仮想現実を見ている。劇中劇。夢見ているという夢を見ている――という二重性が、意識されているのだと、あなたの説明からは感じられたわ。実際に劇や映画というわけではなくて‥‥そうね、いうならば夢の中でもうひとつの箱庭を作ろうとしている、そういう前提の夢だ、ということね」
「感じられた、と言われてもな‥‥」
 香奈天によれば、経験上、夢を直接体験として見ている直接夢と、今回のような夢のありよう自体が複雑性を孕んでいる間接夢を区別して分類しておくことが、分析する際の有効な手段になるのだという。
「あなたの言葉を借りて言うなら、このケースはあなたの『意識や経験を整理している夢だ』と言ったらわかったもらえるかしら。蓄積された情報を整理する手法として、あなたの無意識は劇中劇的な整理方法を今回は採用した。劇中劇を採用していることについても色々な解釈方法があるけれど、今回については“模索”のために採用された劇中劇と見てもいいわね」
 香奈天の口調は、静かだが確実に熱を帯び始めているように感じられる。
「《届かないところに行ってしまった8年来の親友との再会》も、《赤ん坊を生んだ現実ではない『母親』》も、何らかの体験が比喩的に表現された“過去”を意味するものではなく、今直面している問題に立ち向かうための模索として、組み合わせ、思考されている“未来”を志向した意識の流れの一部なのよ」
「過去と未来を分けて考える方法は面白いと思うが、意識の流れの一部とは?」
「わかりやすく言えば、目の前の問題を解こうと計算している最中の式みたいなものかしら。親友も母親も、答えを探している途中に出てきた過程のひとつの数字。間違いではないけれど、答えではない。答えは、夢の先にあるのよ」
「この夢は、これ単体で完成されたものではないんだな」
「完成された夢、面白い表現ね。とりあえずそういうことよ。答えへと向かう方向性を示唆してはいるかもしれないけれど‥‥重要なカギではあるのでしょうね」
 納得したようなしないような、複雑な表情で迅胤は丸眼鏡を擦り上げた。
「随分と抽象的な忠告なんだな」
「直接、夢を覗くこともできるけれど‥‥今回はそのケースではないと思うわ。夢のイメージにではなく、思考中の夢の過程からこぼれ出した”意味”自体にこそ価値があるのでしょうから。あなたが今、何らかの問題について心の深い部分で思索し続けていること、そのことについての意識的な自覚こそが今のあなたには必要だったのよ、きっと」
「そうか。せいぜい心に留めて置くことにしよう」
 静かに立ち上がると、迅胤は一礼した。
 部屋を去ろうと背を向けるが、途中で振り返る。
「しかし、俺の問題とは何だろうな」
「問題がわかる時には、多分あなたの答えはもう出ているはずよ」
 香奈天は軽いウインクと共にそう答えた。



【本日の診断終了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1561/黎 迅胤(くろづち・しん)/男性/31歳/危険便利屋】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 ゲームノベル『夢琴香奈天の夢相談』にご参加いただきありがとうございました。
 無駄に助長になってしまったような気もしますが(汗)、全ての事象には目をつぶることも目を開くこともできます。今回の香奈天はその手助けをするような役割ですね。

 さて、夢相談はゲームノベルとなります。行動結果次第では、シナリオ表示での説明にも変化があるかもしれません。気軽に楽しく参加できるよう今後も工夫していけたらと思いますので、希望する修行やこんなのあったらいいなぁというイベントがあれば、雛川までご意見をお寄せください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。


>迅胤さん
いらっしゃいませ。パンパカパーン、夢相談のお客さま第一号ですね。
今回は抽象的な診断結果となりましたが、直接夢を見る方法はまた別の機会に。ところで夢に出てきた子役はもしやマコーレー・カルキン?