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<東京怪談・PCゲームノベル>


★鶴来理沙の剣術道場

●ようこそいらっしゃいました! 〜オープニング〜

 はじめまして。
 当道場は剣神リサイアの巫女、鶴来理沙(つるぎ・りさ)の剣術道場になります。
(――――つまりこの私が道場主です!)
 場所はあやかし荘の大部屋を間借りして開いています。が、とある結界の力を用いて道場内に色んな修行の場を出現させたり、古の武術を伝える師範がいたりと、ふつーの道場ではないのです。
 武の道を極めたい人、必殺技の修行をされたい人、なんとなく和みたい人などは、ぜひ当道場の門をお叩きください。ビンボーですががんばりますので!
 あ、それと補足がひとつ。
 ただいま門下生希望者は、随時熱烈大歓迎です☆

 それでは、本日も楽しい修行をいけいけごーごー!!


●本日の修行、開始です!

「剣術道場かぁ。剣術はある程度心得あるけれど」
 活発そうな少女は道場の看板を眺めると、う〜んと考え込み大きく開かれたその入口を見つめた。
「‥‥うん、覗いてみようかな。剣術っていえば精神修養にも向いてるもんね」
 期待半分不安半分といったかんじで、 神崎 こずえ(かんざき・こずえ) は意を決して部屋内に足を踏み入れる。
 大部屋の中に広がっていたのは厳かな感じがする道場。
 中庭と隣り合った引き戸がいっぱいに開かれ、凛とした雰囲気の中を夏の風が吹いた。
 チリン、と鳴っている心地いい風鈴の音に耳を澄ませていると、道場の一角から道場主、鶴来理沙の声が聞こえてきた。
「こちら、こちらですっ。今ちょっと手が離せなくて」
 道場の一角に不思議な光景が広がっていた。
 あえて言葉にするなら、空間の一部が切り取られてその向こう側に別の空間が広がっているようなそんな奇妙な光景。
 向こう側は山深い大滝と渓流のある場所につながっている。道場には特殊な結界の力が働いていて、道場内にこういった別の空間を修行内容にあわせて出現させられるようになっているのだ。
 涼しそうな渓流に入って理沙が水着で手招きする。
「連日暑い日が続いていますから‥‥あっ、でも猛暑に耐える修行として進んで熱い灼熱の環境をご希望でしたらかまいませんが――」
「そんな人いないって!」
 なんとなくマジ突っ込みのこずえ。道場を抜けて空間の境目を越えると、ひんやりとした一迅の風が吹き抜ける。
 川の流れに冷やされた冷気が夏の暑さに気持ちいい。
「‥‥あなたも、修行を希望される人?」
 黒髪を腰の辺りまで伸ばした女性が静かな口ぶりで訊ねかけた。
 彼女――先客である 風凪蓮媛(かざなぎ・れん) に声をかけられて、こずえは蓮媛の抱きかかえているモノに目が釘付けになった。
「ね、ねえ――それって?」
「驚いてどうしたの? ‥‥私の、師匠よ‥‥」
 しっかりと抱きしめられながら蓮媛の腕の中にいるのは、師範代の一人(?)である子狼のフュリース。
 この子狼フュリースも一応、剣術道場における師範代の一人、なのだ。
「師匠って――」
「‥‥あ、くすぐったい」
 フュリースが体を捻ってその頬をペロペロと舐めると、蓮媛は表情こそ変わらないがどことなく嬉しそうに見えた。
 ほほえましい光景に思わず見惚れてしまうが、もう一つ新たな気配が。
「‥‥‥‥理沙、また入門の‥‥希望者なの、か‥‥?」
 どうやら先客はもう一人いたらしく、声のしたほうに振り向くと――こずえは瞬時に7歩ほどあとずさった。
 ゴーグルをかけて全身ボディスーツ状の水着をつけた怪しげな男性がザバッと川から上がってきたのだ。
 しかもなぜかチワワを抱えて。
 なぜにチワワ!
 もう一度。なぜにチワワ!!
「な、なにこの人!? 変質者なの!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥変質者って僕の、こと‥‥?」
 よく見るとそれは 五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ)だった。川原の隅でいじける時雨。しかしボディースーツでチワワでは仕方がないかもしれない。
 当のチワワもつぶらな瞳で時雨を慰める。
「なんでも近くで拾ってきたそうですっ、このチワワ」
 近くで拾ってきたと言われても‥‥。
 頬に手を当てて首をかしげる蓮媛。
「‥‥それにしても、どう表現すればいいの‥‥」
 厳かな美しい渓流で、水着娘に、チワワ男に、突っ込み退魔師――
「ねえ待って! なんでそこにあたしが入ってるのよ!? ってあたし突っ込み要員なの!?」
 残念ながらそのとおり。
 涙目で抗議するこずえにお構いなしで一人(+フュリース)、蓮媛は遠い瞳で別世界を眺めている。
「‥‥はぁ、この人たちの心は救えるのかな‥‥」
「だからあたしまで入れないでよぉ!」
 修行に入るまでこの漫才は、あと1時間ほど続くのだった。


 ようやく修行に入れた蓮媛は、比較的緩やかな部分を選んで河の中を犬掻きで泳ぐ子狼をジーっと見つめていた。
 が、やがて小さくため息をついた。
「天候異常を引き起こす能力‥‥コントロールできない力‥‥このままだと後々困るかもしれないと思ったから、ここに来たのに」
 少しでも制御できるようになれたら――と思い修行にやってきたの蓮媛だが、いまだ手がかりを掴むことができずにいる。
 天候異常を起こす原因は、蓮媛自身の中で増加されてる負の感情。
 つまり、課題は蓄積されていく負の感情のコントロールという、きわめて繊細な問題なのだ。目指す道程は遠そうだ。
 蓮媛は、世を儚んだような微笑みをフュリースに向けた。
「少しでも‥‥誰かを癒したり助けたりできるようになればいいのに‥‥」
「あたしの悩みと似てるね」
 一瞬フュリースはしゃべったのかと思った蓮媛だが、気配に気がついて背後へ振り返ると、そこにはこずえが立っていた。
「あたしにも自分でどうにもならない力っていうのがあるのよ」
「どうにもならない‥‥力‥‥」
「うん、ちょっとね、暴走を始める力。妖魔があたしに‥‥いえ、なんでもないかな」
 言葉を濁すと、こずえは髪を掻きあげる。
「その力――のね、制御の仕方について色々と悩んでるのよ。きっかけは掴んだつもりだけれど‥‥まだまだ暴走の危険はあるし、もぉ藁にもすがる思いなのよね」
 深刻なはずなのに明るく話してみせるこずえの姿に、蓮媛はハッと気がついた。
 そう、誰かのために使える力――それを目指しているのなら、弱音をいう前に少しでも努力を続けないと。自分が自分を信じ、前向きに自分の内に巣食うこの力としっかりと向き合うことからはじめるべきなのだ、と。
 蓮媛は流れる水で勢いよく顔を洗うと、思い切って渓流の中へ飛び込んだ。夏の暑さからは信じられないくらいに川の水は冷たい。肌を切り裂くような流れに身を任せながらフュリースと並んだ蓮媛は、しばらくすると冷たさが体に馴染み、時間と共に心地よくすら感じられてくる。
 ――水は全ての生命の母、深遠に回帰する揺りかご――
 水の流れとは別に、蓮媛は心に満ちてくる穏やかさを感じていた。こんな自分もいるんだ、と蓮媛は驚く。
「色々なわたしがいる‥‥落ち着いた自分、嬉しい自分、悲しんでいる自分‥‥そして不の感情を感じる自分‥‥それも自分の一部なんだって、そう受け止めることができたら」
「そうよね。前向きでいられるようになったら、負の感情なんかに負けないんじゃないかな」
 川辺から見守っていたこずえに言われて、蓮媛は困ったような表情をした。それは彼女なりの苦笑なのかもしれない。
「‥‥でも、わたし、すぐにシリアスになってしまうから」
「あは、それは大丈夫だって。本当にシリアスな人は自分でシリアスなんて言わないものね」
 こずえの言葉に蓮媛は吹っ切れたようだ。フュリースと並んで気持ち良さそうに泳ぎ始めた。
 まだ始まりに過ぎない小さな一歩かもしれないが、踏み出さなければ何も、始まらない。
「そんじゃこっちもそろそろ始めるか?」
 こずえに声を掛けたのは師範代の一人である二刀流の武芸者、剛陣(ごうじん)だった。
「うん、そうだね。あたしも頑張らなくっちゃ」
「――で、剣の方は出来るのかい。お嬢ちゃん」
「実戦向けといわれてる流派の段を持ってるけど、それでも不足?」
 剛陣はニヤリと無精ヒゲを歪ませて笑うと木刀を放り投げた。
「上等だ。ただし、俺は甘くないぜ」
 木刀を受け取ったこずえは、彼の待つ精神集中を要する足場の悪い渓流の浅瀬に足をつけた。
 そして、二人は激しい打ち込みを始めるのだった。


 時雨は例のボディスーツ水着姿のまま、同じく渓流の浅瀬で剣を構えていた。
 すべり易い石の足場。
 脛から場所によってはヒザ上まである水位の中、流れる水にバランスを崩さないよう気を払いながらの乱取りはかなり実戦向けの修行である。
 時雨に相対しているのは、村雨汐(むらさめ・しお)。
「‥‥ふぅん。わたし一人では物足りないとおっしゃるのですね」
 片目を瞑って挑戦的なまなざしを向けるくの一装束をまとった彼女――汐は、どうやら燗にさわったご様子でジロリと睨みつけてくる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥そういう訳じゃ、ないけど‥‥」
「同じことです」
 キッパリと言い切って、汐は逆手に真剣を構えた。
 圧倒的な力を持つ大技ならいくつも持っている時雨だが、そのため室内戦などでの威力の制御を要求される戦いは不得手なため、それようの技を新たに身に付ける修練をしようとしていたのだが――問題はそこではないらしい。
 修練のために剛陣と汐の二人掛りでの相手を願ったことが、プライドの高い汐には気に入らなかったようなのだ。
「実戦ならばともかく、教わる立場でしたら二人を相手にせずとも、いくらでも修行のやりようはありますから。二人掛かりの乱取りはその次のステップとさせていただきましょう。ただ、このステップを乗り越えられたら、の話ですが」
 ニヤリと意地の悪い笑みを見せる汐へ、時雨は不安そうに問いかける。
「‥‥‥‥‥ど、どうするの?」
「頭にチワワを乗せてください。それとかなりの重さのオモリを体につけていただきます」
 つまり、修行者自身にハンデをつける修行方法だ。
 体に基礎的な動きを覚えさせてから対人の練習へとステップを上げていくと、無駄な動きや妙なクセを身に付けてしまう危険を減らすことができ、基礎を身に付ける方法としては効果的な安全で確実なやり方なのだ。
 悪い足場で重りをつけながらも頭のチワワを落とさないでいられるバランス感覚。
 それこそが狭い空間という室内の戦いにおいて、最小の動きで最大の効果を得る技――時雨曰く『こじんまりとした暗殺剣』――を身につける際に必要とされる基礎中の基礎。
「あのっ、よかったら私もお手伝いしましょうか?」
「‥‥‥‥‥理沙とだと、漫才になるから‥‥」
 がーん!! ショックで理沙はしばらく立ち直れなかった。

                             ☆

 夏の太陽が沈もうとしている。
「今日はもう上がりですね。みなさん、お疲れさまでしたっ!」
 一日中練習で明け暮れて、蓮媛もこずえもクタクタだ。時雨は結構元気そうだけれど。
「気持ち良かったけれど‥‥一日中泳いでいたからもう空っぽよ‥‥」
「あたしも同じ、体が鉛みたいに重たくって動けないよ」
 河原に横たわって、茜色の空を見上げながら二人は笑いあった。
 そのとき、時雨が何か大きなものを抱えてきた理沙に気づく。
「‥‥‥‥‥あ、それって‥‥」
「清流でよっく冷やしてあるので、道場に戻ったら切ってみんないっしょに食べましょうね」
 そういって理沙は大きなスイカを抱えあげてみせた。




【本日の修行、おしまい!】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1564/五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ)/男性/25歳/殺し屋(?)】
【2067/風凪 蓮媛(かざなぎ・れん)/女性/24歳/花売り】
【3206/神崎 こずえ(かんざき・こずえ)/女性/16歳/退魔師】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 ゲームノベル『鶴来理沙の剣術道場』にご参加いただきありがとうございました。
 猛暑が続いている影響か渓流修行が続いてます。修行の合間にお魚なんかを釣って楽しんでいそうな雰囲気ですね。

 さて、剣術道場はゲームノベルとなります。行動結果次第では、シナリオ表示での説明にも変化があるかもしれません。気軽に楽しく参加できるよう今後も工夫していけたらと思いますので、希望する修行やこんなのあったらいいなぁというイベントがあれば、雛川までご意見をお寄せください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。


>こずえさん
「大家さん」というのは、時雨さんが住んでいらっしゃる家の大家さんのことでした。時雨さんは取立てが厳しいので、対抗する技を身につけるために道場をお訪ねになったのです。
それと前半、突っ込ませ役させすぎてすみません〜;;