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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


スイマーを捕まえろ〜神聖都学園妖精壇〜

Opening
スイマー、それは眠りを誘う妖精。
退屈な授業を我慢している生徒に近付き、眠気をもたらす。
その存在は、今の所神聖都学園でしか確認されていない。

「……という訳で、それを捕まえて欲しい」
笑顔で言い放つのは、銀縁眼鏡をかけた少年。
神聖都学園高等部二年の烏丸、と名乗る少年が"スイマーを捕まえて欲しい"と依頼したのはつい数刻前だった。
「僕のしょうば……研究に、スイマーが必要なんだ」
今商売って言わなかった?
相手の心の内など知る由も無く、言葉を続ける烏丸。
「スイマーは今言った通り妖精だから、普通の視覚じゃ見えない、だから、これを貸そう」
そう言って取り出したのは、小さなチューブ。
「この中には、塗ると妖精や悪魔の見える軟膏が入っている。これをまぶたに塗れば、一時間だけ妖精が見えるようになる」
普通では信じられないような事をさらりと言う。しかし、烏丸から漂う常人とは違う雰囲気が、それを信じさせていた。
「妖精が見えるようになると、触ったり捕まえたりする事も出来るから、これの中に入れてくれ」
次いで取り出したのは、コルク栓の付いた少し大きめのガラス瓶。
「報酬は金か、軟膏か、僕が収集して具現化した妖精、のどれかをあげよう」
瓶を渡すと、ひらり、と手を振る烏丸。
「では、頑張って」
そして、君は学園へ送り出された。
「……あ、肝心のスイマーの姿を教えるのを忘れてた」
烏丸の呟きは、残念ながら届かなかったらしい。

Main

「困りましたですぅ」
年号だけを教えられる退屈な歴史の授業を受けながら、鈴木・天衣は小声で呟く。
困った、といっても授業が解らないから困っているのではない。
「これ、どうしようなのです」
見遣った手の中には、小さなチューブ。
つい先程、烏丸という少年から貰ったそれが、悩みの種だった。
「こんな物なくても妖精の姿は見えるのです」
妖精を捕まえて欲しい。そう依頼してきた烏丸から渡された軟膏。しかし、天衣にはこれを使う必要が無い。
なぜなら、天衣は半妖精だから。
そして、半妖精だからこそ、天衣は妖精を捕まえていいものか悩んでいる。というか、できれば捕まえたくない。
「何だか危険な匂いがぷんぷんするですよ」
妖精に詳しそうな烏丸も、天衣が半妖精だとは見抜けなかったらしい。もしくは、見破った上で泳がせているのか。
「それにしても、スイマーさんなんて居るのですかね」
妖精知覚を持つ天衣の目には、神聖都学園に住む妖精の姿が良く見える。しかし、スイマーと言う妖精は見た事が無い、と思う。
「スイマーさんって、どういう姿しているのですかねぇ」
睡魔の妖精なのだから、寝間着に枕なのだろうか。それとも、一般的に妖精と呼ばれる姿なのか。
「サンドマンさんかもしれないです」
眠りの妖精、といって始めに思いつく妖精を考えつつ、他の生徒を注視する天衣。
しかし、これといった妖精は見当たらない。
「見つけないとお話もできな……」
天衣の呟きが途切れた。視線は中空に固定されている。
「あれ……なのです……か?」
驚く天衣の視線の先に、それは居た。
それは身長こそ小さかったが、筋骨隆々とした体に競泳水着を装着し、華麗なクロールで中空を泳いでいた。
その姿は、正にスイマー。
「……ど、どうするなのです」
何やら話し掛けるのが躊躇われる姿に、固まってしまう天衣。
「す、スイマーさん?」
恐る恐る話し掛けてみる。声に気付いたのか、スイマーが天衣の方を向いた。
「ウイィィィッス!」
「わひゃ?!」
「おい、どうかしたか?」
スイマーの声に驚いた天衣に、教師が声をかける。
「な、何でもないのです」
誤魔化しの笑顔を浮べる天衣。その周りを、スイマーが泳いでいる。
「スイマーさん……なのですか?」
「ウィッス!」
どうやら、そうだ、と言いたいらしい。外見どおりの熱血妖精らしい。そんな妖精が眠りの妖精なのかは大いに疑問だが。
「ぇと……スイマーさんを捕まえようとしてる人が居るのです、気をつけるのですよ?」
「ウィッス!」
分ったのか分っていないのか疑問だが、とにかく言葉は伝わったらしい。そのまま教室の外へ泳いでいくスイマー。
「……不思議な妖精さんなのです」
不思議と言うか、むしろ暑苦しかった、と内心呟く天衣。
「でも、捕まえられちゃうんですかね」
心配そうに視線を落とした天衣。そんな天衣に関係無く、授業は進んでいた。


「暇潰しには良いかもね」
黒板に書かれた数式を適当にノートに書き込みつつ、水鏡・千剣破が呟く。
千剣破も、烏丸にスイマー捕獲を頼まれた人間の一人である、が。
「胡散臭い、やだ」
たった二言で烏丸の依頼を切って捨てチューブを返し、今は自らの持つ龍眼によって妖精観察をしている途中だった。しかし、スイマーらしき妖精にはまだお目にかかっていない。
「そろそろ現れる筈なんだけど」
数学の授業も佳境に入り、退屈度は更に上がっている。スイマーが現れるのが先か、自分が眠るのが先かは微妙な所である。
「……あれ?」
視線を窓の外に転じた千剣破の視界に、その姿は映った。
筋肉ムキムキの競泳スタイルで、中空を背泳ぎで泳いでいくその姿。
「睡魔っていうか、むしろスイマー……」
苦笑を浮べる千剣破の視線の先で、スイマーは窓から教室に入って来た。
「ふぅん……」
一心不乱に泳ぐスイマーは、授業を受けていた生徒に近付いていく。
「……うえ」
そのまま生徒の耳に突貫し、するりと中に入ってしまうスイマー。
「へぇ」
千剣破の見ている前で、その生徒がぱたりと机に突っ伏し、そのまま動かなくなってしまった。どうやら、眠ってしまった模様。
「なるほどねぇ」
姿形はとても眠りの妖精に見えないが、人を眠らせる能力はあるらしい。
「……あ、沢山来た」
再び視線を窓に転じると、十数匹のスイマーが群れになって泳いで来ているのを発見。
「こう暑いと、寝るのも大変だからねぇ」
呟く千剣破の目の前を、スイマー達が通り過ぎていく。
「がんばれ〜」
次々と生徒の耳の中に潜り込み、眠りを誘っているスイマーに声をかける千剣破。
ふと、一匹のスイマーと目が合った。
次の瞬間、スイマー達の視線が一斉に千剣破に注がれる。
「な、なにっ」
驚く千剣破に向かって、全速力で泳いで来るスイマーの群れ。どうやら、人に見られたのに気付いたらしい。
「やばっ」
自分の耳にスイマーの大群が入ってくるのは遠慮したい。
ここは、逃げるが勝ち。
「ちょっとトイレ行ってきます!」
ガタン、と勢いよく立ち上がって宣言すると、教室の外へ逃走開始。
「おい水鏡!」
教師の制止の声にも止まらず、教室を飛び出した。振り向くと、スイマーの群れが追って来ていた。
「わわわわわっ」
意外とスイマーの足……泳ぎは速い。追いつかれそうになるのを必死に逃げる。
「わっ」
「っとと」
角を回った途端、生徒にぶつかりそうになって足を止める。しまった、と思った時は遅かった。
スポンッ
軽い音と共に、眠気が襲って来る。
「うあぁ……」
そのまま崩れ落ちた千剣破を、スイマー達がつついていた。


「日本人だから英語はいらねぇっつ〜の」
既に宇宙語と化した英語の授業を受けながら、黒澄・龍はぐてっと伸びていた。
「あ〜、うぜ〜」
早い所スイマーを捕まえて授業も放り出したい所なのだが、なかなかスイマーは出て来ない。
「さっさとスイマーでも何でも出て来いっての」
妖精知覚の無い龍は、貰った軟膏を付けていた。つまり、軟膏の効果時間内にスイマーを捕まえなければならない。
「黒澄君、ここ答えて」
「あ〜、ワカリマセン」
普段の素行が素行なので、教師も特に気にしない。授業妨害だけはしないでよ、と視線が語っていた。
「このまま居たら俺の印象も悪くなるし……ん?」
面倒そうな表情で呟いた黒橙の視界の端に、何かが映った。
今度のスイマーは平泳ぎ。すいすいと中空を泳いでいる。
「あれ……だよな」
すい〜、すい〜、と泳いでいるスイマーに呆然とする龍。まさか眠りの妖精があんな姿だとは誰も思わない。
「……ま、いっか、とにかく捕まえりゃいいんだ」
さっさと捕獲しようと席を立った龍。
「黒澄君、まだ授業中よ」
「うるせぇ、黙ってろ」
教師を睨みつけて黙らせると、スイマーを視線の中央に捉える。
「大人しく捕まれっ!」
声と共にスイマーを捕まえようと手を伸ばすが、後少しの所で逃げられる。
「ウォォォ!」
途端、スイマーの泳ぎが平泳ぎからバタフライに変わった。そのまま物凄いスピードで逃げていく。
「待てこらっ!!」
逃げ出したスイマーの背を追って、教室を飛び出した龍。
すぐに追いつけるという龍の思惑を無視して、物凄い速さで泳いでいくスイマー。
「待ちやがれっ!」
叫ぶ姿に周囲の視線が集中するのも構わず、龍はスイマーを追っていく。
「待ちやがれって……言ってんだろがっ!」
声と共に発動するのは、紅豹黒龍(クリムザーエイダ)。想像したものを創り出すというその能力によって生成したのは、柄の長い虫取り網。
「これでどうだっ」
虫取り網を伸ばして、スイマーに向ける。一回、二回と失敗するが、三回目でその姿を捕えた。
「よしっ」
「ウォォォォォ!」
ばたばたと暴れ回るスイマーを足で小突いて大人しくさせる。支給されていた瓶にスイマーを入れれば仕事完了。
「さて、後はこれを持って行くだけだな」
瓶を持って、満足げに肯く龍だった。


「……で、結局捕まったのは一匹かい」
残念そうな表情で烏丸が呟く。
「多分入ってるんだろ」
軟膏の効果が切れた龍には、瓶の中は透明にしか見えない。しかし、烏丸はその中にスイマーを見ているらしい。
「あぁ、捕まっちゃったのですか」
悲しそうな顔の天衣。
「まあ、君には捕まえられないとは思っていたけど」
スゥ、と烏丸の目が細まった。その視線に縮こまる天衣。
「水鏡、君まで断るとは予想外だったよ」
「……ぁあ?」
「いい加減目を覚ませ」
寝惚け眼の千剣破に苦笑を向ける烏丸。
「スイマーの催眠作用は強いんだ。他の妖精よりも眠りに近い」
瓶を覗き込んで、烏丸はニタリと笑う。
「で、どんな悪事を考えてるの?」
「そんなに悪事じゃないよ」
ようやく復活した千剣破の言葉に、溜息と共に答える烏丸。
「不眠症で眠れない人間にスイマーを渡す。不眠症の人間はそれで眠れるし、スイマーは眠りを与えるという役目を果たせる。それで八方丸く収まるだろ?」
「烏丸が言うと胡散臭い」
「あ、そう」
容赦の無い千剣破の言葉に苦笑を浮べ、烏丸は瓶を撫でる。
「おっ」
「これでも妖精のプロだからね」
たったそれだけの動作で妖精を具現化させた烏丸。龍にもその姿が見えるようになった。
「一匹だと、一人にしか売れないじゃないか……」
「増やせないのか?」
「妖精が増える要因はよく分ってない……それを突き止めるのが、僕の目標だ」
一瞬、真顔になる烏丸、しかし、すぐに底の見えない笑顔に戻った。
「烏丸さんは、何で妖精さんが見えるのですか?」
天衣の問いに、自分の瞳を指差す烏丸。三人の視線が特に変わった所の無い黒い瞳に注がれる。
「目が特別制なのさ」
そう言って烏丸は三人に背を向け、何やら手を動かしてから向き直る。
「あ……」
「妖精の瞳、っていってね」
烏丸の右目が緑色に変わっていた。その姿に、千剣破は自分の左右違いの瞳を思い浮かべる。
「まあ、そんな事はいいんだ」
右目を髪で隠しつつ烏丸が言う。
「また次も仕事頼むと思うから、宜しくね……今度は、捕まえてくれよ?」
念を押すように言った烏丸の言葉に、肯きかねる三人だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1535/黒澄・龍/男/14/中学生&シマのリーダー
 2753/鈴木・天衣/女/15/高校生
 3446/水鏡・千剣破/女/17/女子高生(巫女)
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■         ライター通信          ■
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どうも、渚女です。
今回は、渚女の体調不良により納品が遅れました事をお詫びします。
すみませんでした。

ここが良かった、ここをもっと良くして欲しい、などありましたら、お気軽にお手紙下さりませ。

神聖都学園妖精壇の一回目である今回は、睡魔の妖精を捕まえて貰いました。
次回も、個性的な妖精を捕まえる事になりますので、ご期待を。

お三方共に、初めまして。渚女悠歩のノベルはどうだったでしょうか?
次回も御参加くだされば幸いです。