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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


百鬼夜行〜紅〜

◆紅の空 集いし者達◆
 ジリリリリ リリリリ……
 室内に電話の音が五月蝿くがなる。今調度、とある事件をTVにて見ていた金蝉は、その電話の相手を察知する。
「――もしもし」
 不機嫌に電話を取ると、電話口から聞きなれた男の苦笑が聞こえてきた。
『相変わらずだな、金蝉。少しは愛嬌を持て』
 余計なお世話だ、と思う。
『テレビ、見たか?その依頼なんだが……』
「……見た。また考えも無しに、引き受けてやがるな」
『ほっとけ。いいんだ、これは俺が探偵として有名になる布石だ』
「ああ、そうかい」
 金蝉は適当に相槌を打ちながら、口に銜えた煙草に火をつけた。
 今回の依頼は空市で起こる百鬼夜行の解明。攫われた子供の保護といった所だろう。その手を専売特許とする陰陽師である金蝉に、攫われた子供の両親からも依頼があった。
 未だに意味不明な事を呟き続ける草間に、金蝉は面倒臭く思いながらも依頼を受けた。

「お前らも色々言いたい事はあるだろうが、それは全て終わった後に聞く。今はとにかく、話に集中してくれ」
 草間の前には、七つの顔が並ぶ。有志、依頼、それから面白半分。百鬼夜行を解決しようと集まったその七人は、数々の怪奇を解決して来た、いわば熟練者だ。
 それらに事件の穴だとか、解決までの難関だとかを一気に捲くし立てられ、草間は更に疲れた様子で唸った。
「まず、この事件。わかってる事は極めて少ない。ただ事件性は全く無い。これは真実怪奇、妖怪達の行軍だという」
それもどこまで正しい情報かはわからないらしい。
「百鬼夜行が何時どういった理由で行われるのかは、さっぱりわかっていない。空市で口伝として伝わるのは、とても短い件だけだ。【百鬼夜行す夜に外出するべからず。破りし者、二度と帰らん】――とまあ、市民が一致するのはここだけ。まあ言ってる事はどれもこれも同じで、特筆する様な事は無いが、詳しく調べる必要はあるだろうな」
 詳しく説明しろと言ったにも関わらず、草間の返答はこれ。自身では何も調べていない所が草間らしくて憎らしい。
「マスコミについては、関わりの無い上の方がどうにかしてくれる様だ。気にせず捜査してもらって問題無い」
「頑張って下さいね、皆さん!!」
 草間と零は全国民の矢面に立つ――といった大変な仕事が待っている。
 七人は思い思いに頷くと、興信所を退出し夜闇に消えて行った。


◆伝わる話 鳥居と鐘◆B◆
 空市の上には不穏な雲。太陽を隠すどんよりと重い灰色は、市民の心の色を表すかの様だ。
 不思議な事に警察もマスコミの姿も完全に無い問題の事件現場に七人は立ち、それぞれ慣れた様子で散った。
 まずは情報収集。市民に当たる者、書物から情報を引き出す者、その他。金蝉は水上・操、大曽根・つばさと連れ立って、坂を上り始めた。
「ウチ、今一わからんのですけど、とにかく百鬼夜行が起こって、子供が攫われたって事でええんですか?」
「ええ、間違い無いと思いますよ。草間さん自身、情報があまりに少ないと唸っていらっしゃったし」
 穏やかな物腰で答える操とは対象的に、金蝉は眉間の皺を緩めない。
「とにかく、口伝や情報を集めるぞ。武彦の奴は、相変わらず仕事しやがらねぇからな」
 草間武彦は怪奇の類に乗り気ではない為、分からない情報を自分で調べはしない。
「ほんま、草間さんてわからんわ。とにかく、さっさか行きましょか」
 そうして三人は手近な家のチャイムを押した。

「ええと、百鬼夜行の出現法則だっけ?」
「それと口伝な」
 顎に無精髭を生やした男が、眠そうに目をこすりながら言った。彼は売れない小説家らしいが、その頭には膨大な知識があると、先に訪れた家の主人が教えてくれた。
「とりあえず、この百鬼夜行に法則はない。出現時間も出現日も――いわゆる百鬼夜行日や丑三つ時など、そういった定説とはまったく異なる。月に平均2、3回の割合で起こるんだが、まぁ、決まった事と言えばそんなもんかね。時間も、夜と言える、太陽の沈んだ後から昇る前。とにかく辺りが暗くなれば何時出てもおかしくねぇな」
「それで、口伝の方は……?」
「ん?――あぁ、口伝な。それなんだけどさ、この市の図書館にも古いモンが残ってなくて、何があって誰が伝えたのかもわからんよ。【闇の刻、夜行す百鬼は子供を攫う。四肢は裂かれて食われてしまうよ。御魂は天上に昇る事叶わん。子供は聖上に隠してしまえ。百鬼の目も刃も届かぬ聖上に、子供は静かに隠してしまえ】とまぁ、そんな歌が昔詠われてみたいだ」
 男は、欠伸を一つ吐く。
「聖上てのは何やの?」
「聖なる上さ。あんた達のいう所の結界というのかねぇ。昔どっかのお偉い術師さんが、空市の至る所に結界を張ったというよ。その中――つまり家々に居れば、見つからないという事みたいだけど?」
「――術て、何か感じます?お二人さん……」
 つばさの問いに、金蝉と操の二人は首を振る。退魔や陰陽に通ずる三人にも感じ取れない術など、果たしてあるだろうか。
「ただの言い伝えじゃねえのか」
金蝉にとっては否。
「だと思うよ、うん。何度も色んな術者呼んで調べてもらってるけど、何もないし。そういや百鬼の出現場所だと言われるトコも、まったく何の術も無いとかって話だし、謎ばかりだよまったく」
「!!出現場所!!?」
「分かってるんですか??」
「お、おう……。ほら、あの鳥居……」
男はびくつきながらも高台の方を指差した。空市には坂が多い。道は全て上った先、その鳥居へと続くという。
 三人はそれを目視すると、礼もそこそこに、坂の上方へと走り出した。

「――で、何か感じるか?」
 倣岸な口調で金蝉が問うと、つばさは小首を傾げながらもその鳥居と鐘に対しての感想を漏らした。
「わからんけど、何やここは、空市のどことも別格やわ……」
 高台へと通じる道は全部で四本。それが下る程枝分かれし何本にもなる。
 空市は丁度山の斜面に造られた待ちだった。その山頂には男の指し示した鳥居。四本の道それぞれに鳥居がある。その鳥居に四方を守られるように――古い黄金色の鐘が堂々と立っていた。鳥居の二本は朱、残りの二本は漆黒で、それぞれが向かい合うように。
 鐘の円周は人間四人が両手を広げた程もある。
「聞きそびれたけど、この鐘何の役目するんやろ……?」
「出現場所といっても、一体何処から、どの様に?ここに何らかの術が働いているのは微かにわかるのですが、私の知るモノとは大分性質が違う様です」
「陰陽にも通じる様だが多少異なる、独特の術だ。それが百鬼夜行の出現時に発生する術なら、これをどうにか出来ない限り、こちらから入るのは難しいな」
 金蝉は小さく舌打ちすると、ぐるりと辺りを見回した。
「……とにかく、どうにか見つけましょか」

 上空では太陽を遮る灰色が、更に濃さを増していた……。


◆◇幕間〜草間興信所〜◆◇A◆◇
 ポツリ、ポツリと空から雨粒が落ちてきた。冷たい感触を頬に受け、草間がつ、と視線を上げる。
「――雨……」
傍らに立つ零も、一呼吸の後空を見上げる。
 次第に強く強く……雨は傘をささぬ二人の体を打ち付けた。
 鞄で頭を庇い、幾人もの人間が側を走り去っていく中、草間はただじっと上空を見つめるばかり。
「何か見落としている気がする」
「え?」
「――大切な何かが欠落してんのさ。あまりにも何も無い所為で忘れがちな何か……」
「何か、ですか……」
曖昧な草間の言葉に、霊は眉間の皺を深める。
「アイツらが、それに気づいてればいいんだがな……」
独り言の様に呟いて、草間は小さく首を振った。
「何も起こらないでくれよ、頼むから……」


◆雨の夜 鐘の音◆
 その重さに耐え切れなかったのか、昼過ぎに曇天から雨が降り始めた。雨は何時間も弱まる事無く、空市を襲う。
 間一髪で風雨を避けた三人は、市長に促されるままに室内へと入った。
 市長の家は屋敷と呼んでいい程にでかく、夫婦二人で住んでいる為に六部屋も空室なのだという。市長はその六つの部屋を、事件が解決するまで春華達に提供していた。つまり、泊まるも帰るも自由という事だった。
 この日は視界さえ危うい豪雨の所為だろうか。七人は誰一人帰ろうとせず、金蝉の為にあてがわれた客室に集まって各々の入手した情報を伝え合っていた。
 ただ一人、アールレイは蚊帳の外。窓にへばりついて、来るとも知れぬ百鬼夜行を待ち続けていた。

「そやから、あの鳥居と鐘な。あれは明らかに、何かの術が働いとるもんやで。百鬼夜行の出現場所はあそこで間違いない!」
「そうね。まず百鬼夜行――物の怪で間違いもない様だし。聞いた話では坂を下って来るという事よ」
「なら早速、そこから入り込んで妖怪共見つけようぜ」
 シュライン・エマと伍宮・春華も調査の過程で鐘と鳥居の事を聞いていたようである。だがつばさの言葉にそう反応した春華は、事の難しさを知らない。
「アホか。それが出来たら苦労しないわ」
「かかってる術が俺達とはまた質が違いやがる。すぐに解ければ苦労しねぇだろ」
 とにかく分かった事と言えば、百鬼夜行の出現場所。それから子供達が事件の日に外に出た理由。度胸試しと夜遊びという理由だ。
 それから百鬼夜行の起こる夜の事。その出現を知らせるように、高台の鳥居が鳴るのだという。
「攫われた子供の年齢は、1歳から17歳まで。無事で居る事を祈るばかりですね」
 綾和泉・汐耶が眼鏡の奥の双眸を細めて、手を祈る形で握っている。確かに、食われていれば元も子もない。
 金蝉もまた秀麗な目元を細める。百鬼夜行――願わくば、今すぐにでも現れぬものか。そう、思った時だった。

 ゴーン ……ゴォーン

 然程大きな音ではない。雨音に掻き消えそうにも思える。それなのに何故か、頭の隅からけして出ていこうとしない、そんな鐘の音だった。
「鐘!?」
 七人はその音が、『百鬼夜行』を告げるモノだと瞬時に悟り、大きな窓に走り寄った。まさに、噂をすれば何とやらだ。

……ゴォン

 鐘が鳴り響く。
 七人がじっと鳥居に視線を向けている。
 と、その上空に、黒い点の様なものが生まれた。眇め見ていたそれがやがて大きな大きな黒い穴となる。空間を引き裂いて出来た、何処かとこの世を繋ぐ、穴。その中から、何十もの物の怪が躍り出た。
 額に生えた角。尖った耳。耳まで裂けた大きな口。赤黒い肌。青白い眼光。尻から生えた尾。荒れた体の表面。鱗に覆われた肢体。
 異形の集団が坂を下ってやってくる様子に、ごくり、と誰かの喉が鳴った。
 百の行軍が幾つかに分れて、坂をゆっくりと下りて来る――。


◆百の怪 攫われた子供◆C◆
「……おい、ガキ共がいねえぞ」
「………え?」
 金蝉の言葉に、残った三人が振り向いた。――確かに、春華、つばさ、アールレイの姿が室内の何処にも無い。先程まで同じように窓の外を眺めていたはずなのに。
「ま、まさか外に出たなんて事ありませんよね?」
「……でもアールレイ君、百鬼夜行楽しみにしてましたよね?」
「それを言うなら、春華君やつばさちゃんも、どちらかというと直接的な対処に出る子達よ?」
「………」
「――っあのガキ共!!!」
 しばしの沈黙の後金蝉が低く唸って、四人は室内を飛び出した。
 玄関に三人の靴が無い。これはもう、十中八九間違いない。
 金蝉達は怒りに眉間を震わせながら、雨の降りしきる外界へと走り出した。

雨が降っていた。それは昼過ぎから振り出し、深夜一時を過ぎた今でも雨足を弱めない。やっぱりママの言う通り、塾を休めば良かった。やっぱりユキの言う通り、泊めてもらえば良かった。第一こんな時間に帰ったら、ママに怒られてしまう。
……ふう。
泥が跳ねて服も靴も汚れ、靴に至っては濡れに濡れて、歩く度にビチャビチャと嫌な音を立てている。早く帰って、シャワーでも浴びたい。そう思った時だった。
ゴォン――と聞きなれた音が響いた。あ、今日も鳴ってる。この間もあったばかりなのに珍しい……。最初はそんな風にしか考えられなかった。眠くて、頭が麻痺してたのかもしれない。
それにチャント気づいたのは、五回目の鐘が鳴った頃。
はっとして顔を上げれば、目に映ったのは、坂道の先の黒い鳥居。雨で白む視界の中でもはっきりと見て取れた、闇の中では不気味に映るソレの上空で、黒い大きな穴がぽっかりと口を開けていた。そしてソレの中から姿を現すのは――。
百鬼夜行!!今日は百鬼夜行の日なの!?に、逃げなきゃ!!ホラ、近くの家に――逃げなきゃニゲナキャ。早く早く、アレに見つかる前に早く隠れなきゃ……足が震えてる。でも逃げなきゃ!!
そう思いつつも私の足はがくがくと震え、立っているのがやっとだった。私は一歩も動けない。雨の中、青い光が見え始める。黒い影が沢山沢山近づいてくる。
逃げなきゃ――!!!
私の手から、鞄がするりと抜け落ち、コンクリートを濡らす水の中で音を立てた。百メートル程先で百鬼夜行の歩みが止まって、止まって……。金の目だけが、闇の中で光った。
怖い怖い怖い怖いコワイ怖い怖い恐い恐いコワイ恐い怖い恐い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコ――。

「キャァアッ………!!!!」

 闇夜を切り裂く甲高い悲鳴が、辺りに響き渡った。空からの鐘の音にも負けぬ、恐怖に震えた音は大気を揺らす。
「……他にも外に出やがった奴が居るのか……」
 金蝉の眉間の皺は、緩まる事を知らない。何故おとなしくしていられないのかとか、子供特有の好奇心故なのかとか、もうそんな事はどうでもイイ。ただ問題を増やしてくれる天上の神々に毒づく。
 悲鳴の上がった方向とは逆に走っていた四人は、急ブレーキをかけ方向を転じる。
「春華君たち、無事かしら……」
傍らを走るシュラインが心配げに尋ねてくるが、金蝉は答えず、ただただ醒めぬ怒りに身を震わせていた。
 そうして四人が見たものは。
「遅かったんですね……!!」
 巨躯を晒す大きな赤い鬼の掌に、アールレイの姿が見える。
「アールレイ君!!!」
汐耶が悲痛な叫びを上げるが、当の本人は鬼の掌で跳ねているようにも見受けられる。そしてその鬼はまさに、鳥居の上空に出来た大きな穴に戻ろうとしている所だった。
 百鬼の鬼は子供を攫い、己らの世界へ帰ろうとしている所……。
「見て、春華君につばさちゃんよ!!」
 シュラインが指差すのは蜘蛛の糸に全身を覆われ、異形に担がれてゆく二人の姿。
 四人は再び坂の上方を目指して走り出した。その途中で金蝉は、水に濡れた鞄を拾い上げる。
 暗い暗い穴へと続く妖怪達――その背中が一つずつ消え、残るは十と少し――。


◆残された者 多くの謎◆B◆
 消え行くアヤカシに向かって、金蝉が魔銃を構えた。その中には自身のマテリアライズ能力によって作り出された弾丸が込められている。それを素早く、瘤を持った異形の背中にぶち込む。
「ギィエケェ――ッ」
 着弾。そして発火。異形の体が瞬時に燃え上がり、一瞬の後炭化した。
 金蝉は躊躇わず、二発目・三発目を放つ。紫と赤の弾丸が宙を裂き異形の額部を貫く――かと思われたが、その攻撃を長い爪が弾き、暗い穴の中へと吸い込まれて行った。
 金蝉は、繰り出された異形の鋭い爪を銃身で受け止め力任せに押し払うと、異形の腹に蹴りをお見舞いし、更に穴へ入り込まんとする異形へと撃った。
 腕を掠っただけの傷だったが、それが突然に凍りつき異形は堪らず地面へと落ちる。
 そうしてから腹を押さえる異形の死角をつき、凍りついた異形の体を踏み台に、穴の淵に向かってその身を飛翔させた。
 だが瞬間、穴の中から、金蝉の身体を押し戻すかの様な突風が巻き起こった。金色の髪が風に踊る。
「っく……!!」
 着物の袖をはためかせながら金蝉が空中で体勢を整え、穴に消え行く最後の一匹に弾丸を放つ。だが寸前でソレは交わされ、大きな穴が縮小し全ては静かに消えていった。
「金蝉さん!!?」
「大丈夫だ」
 走り寄った操を手で制して、金蝉はゆっくりと銃をしまい込んだ。その背後に汐耶の声がかかる。
「金蝉さん、今の……あの風は……?」
「聞いた?アイツ私を見て、『子供以外は要らん』て……」
更にシュラインが現れ、金蝉が攻撃を仕掛ける際に投げ捨てた鞄を拾い上げる。鞄の取っ手にはお守りとストラップが引っ掛けられ、ストラップのアルファベット球体が一つの名前を記していた。【ユウナ】――と。
「子供のみを攫うという事ですか……?」
「……俺を拒否しやがったあの風も、俺が『子供』で無いからか……?」
 気づけば雨は弱まり、見上げた空には所々紺色が見える。
 街灯がチカチカと点滅し、やがて何事も無かった様に、その光で空市を照らし始めた。


◆幕間〜アトラス編集部〜◆A◆
「……今の、見ました?」
「――ふえ?」
 空市の坂の中腹で、一人の青年が背後に向けて問いかけた。問いかけられた相手は、民家の玄関先で目を塞いだ状態。その身体は小刻みに震えている。
 彼の持っていたのだと思えるカメラは防水処理はしてあるものの、水溜りに落とされきっと撮影画像は全ておじゃんだ。
「見てないんですね、やっぱり」
三下さんらしいなぁと苦笑する青年の手には、刃渡り80cmもある長刀。炎を纏ったソレが瞬間スッと消えた。
「また子供が攫われたみたいなんですケド、どうやら四人の内三人は草間興信所の面々みたいですよ」
紅蓮の炎を宿した瞳が細められる。
「初っ端から百鬼夜行がお目にかかれるなんて、俺達ついてますよね。それに色んな情報も入りましたし。………写真が駄目になっちゃったのは残念ですケドね」
 三下がビクリと肩を揺らし、今初めて気づいたとでも言いたげに、水溜りのカメラを見下ろした。――投げた覚えがある。鬼に驚いて投げ捨てた覚えが、微かにだがある。その際に飛び出たらしいフィルムが泥に塗れて転がっている。怖い思いまでして写した鬼の姿――これでやっと編集長の怒りを受けぬ日がやってきた。そう思ったのに。
 三下の口から声にならない叫びが上がる。
 青年は小雨になった空を見上げ、肩を竦めた。


◆紅の空 明ける朝◆
 チチチ、チチチチ。
 暁の空に、爽やかな風。鮮やかに染まった青い空を飛ぶ、小さな鳥の群れ。その眼下には、昨晩に取り残された憂鬱の残り香。
 空市の目覚めはまだ来ない。
 金色の光を反射する鐘は、何も変わらない朝の風景を映す。
「つばささん達が攫われるなんて、よっぽど強いのでしょうか。あの妖怪達……」
 操がシュラインの傍らでため息を漏らした。
 残された四人は、アールレイ達が百鬼夜行を追ったとは思っていない。攫われたのだと思っている。
「勝手に外に出たのは問題ですけどね」
「ったく、余計な事を増やしやがって!!」
 それぞれに毒づきながら、何かの解明方法を探そうと躍起になる四人。だがわかった事と言えば、この鳥居の役割と鐘に施された術。
「でも彼らがあっちに居るという事は、多少なりと安心ですけどね。先に攫われた九人はともかく、昨日の少女は一緒にいる事でしょうから」
「そうですね。彼らもただ捕まってるだけじゃないのかもしれないし……」
汐耶と操が再度ため息をついた。
 
「うわ!!!」
「なっ」
「ぅっ」
 ふいに視界が開け、三人の体が宙を落ちる感覚に囚われた。だが高所から落ちたというわけではなく、大した怪我を負ったわけではない。
「なんやの、もう!!」
「――っとに、何が何なんだよ。一体……」
 腰や手足を摩りながら、三人はゆっくりと辺りを見回す。
 見上げれば青空。前後には赤と黒の鳥居。左にも赤い鳥居。右側には――眼前間近の大きな鐘。
「あれ、ここって………」
 見慣れたソレにアールレイが小さく呟いた状態で、固まった。

 大地に転んで自分達を見上げる、三つの顔――。それもまた驚きに見開かれ、再開を果たした七人は、しばし呆然と見つめ合った。



【to be continue…】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2916 / 桜塚・金蝉(さくらづか・こんぜん) / 男性 / 21歳 / 陰陽師】
【2797 / アールレイ・アドルファス / 男性 / 999歳 / 放浪する仔狼】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1982 / 伍宮・春華(いつみや・はるか) / 男性 / 75歳 / 中学生】
【1411 / 大曽根・つばさ(おおそね) / 女性 / 13歳 / 中学生、退魔師】
【1449 / 綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや) / 女性 / 23歳 / 都立図書館司書】
【3461 / 水上・操(みなかみ・みさお) / 女性 / 18歳 / 神社の巫女さん兼退魔師】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして、こんにちわ。ライターのなちと申します。 この度は「百鬼夜行〜紅〜」に発注頂き有難うございます!!三部使用の長いお話になりますが、お付き合い頂けて嬉しいです。
今回はプレイングの内容により行動が一致しておりませんので、大きく変わる部分は◆A◆〜◆C◆と分かれさせていただきました。
至らない所も多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。もし苦情などございましたらぜひお寄せください。

そんなこんなでこの作品、完結しておりません。欲を言えば次回も、また金蝉さんにお会い出来れば嬉しく思います。また別の機会に恵まれましたら、ぜひよろしくお願い致します。