コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


■チムチムチェリーの心理の館■

■序章■

 とある夏の日の昼下がり、編集部に何故か呼ばれて食事を出され、みんなでまったりしている頃。
「皆暇そうね? そうそう、街外れの占いお婆さんが最近何か新しいことを始めたみたいなのよ。暇だったら、悪いけど食事が終わってからでも行ってみてくれない?」

 碇麗香に渡された地図を元に四苦八苦しながら歩いていくと、やがて古びた洋館が見えてきた。館の大きな扉は開かれていて、品の良い赤い絨毯が敷かれているのが見える。中に入ると、ひとりの老婦人が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。お客様かしら? もしかして、碇さんのご紹介でいらっしゃった方々? お友達同士で楽しめるようにね、簡単な心理遊びを始めたのよ」
 頷くと、ではこちらへどうぞ、と奥へ通された。
 そして一匹の黒猫を抱き上げる。
「この子があなた方の案内を勤めますわ。宜しくしてやって下さいね」
「チェリーだよ。よろしく」
 と、驚くべきことに黒猫が喋った。よく見ると、しっぽの先が白くて、額に星型の白い模様がある。
「少々口が悪い子で失礼をするやもしれませんが……」
 と、老婦人は黒猫を床に降ろす。
「それじゃあ、ついてきて」
 と、チェリーはとてとてと歩き出した。老婦人は、
「どうぞ、ごゆっくりね」
 と、にこにこと見送る。
 ───その時、『何か』に違和を感じたのは気のせいだろうか? それとも……。
 そもそも、何故麗香はこのようなことをすすめたのだろう。
 違和を感じたとしたら、一体なにに? この『館』に? 『老婦人』に? 『黒猫』に───……?


■テスト■

 集まった一同───セレスティ・カーニンガム、綾和泉・匡乃(あやいずみ・きょうの)、瀬川・蓮 (せがわ・れん)、刀儀・紅葉 (つるぎ・こうは)ら4人は、それぞれに思惑ありながらも黒猫チェリーについて行った。
 車で館に一足早くついていたセレスティは、何か手土産に持ってきたらしく、老婦人に何かを渡していたが、すぐに追いついた。匡乃は個人的に老婦人のほうを一度何気なく見ただけだ。蓮はチェリーの尻尾が気になるようで好奇心いっぱいの顔をしており、紅葉は特に何もないといった風に見栄えの良い足取りである。

「一つ目の扉だよ」
 言うとチェリーは、前足でトンとそこにある扉を叩いた。キ、と軽い音を立てて扉は開き、4人が入ると自然に閉まった。これといって不気味な感じは誰一人として感じない。だが、洋館より遥かに豪華な光景がそこにあった。
 部屋は一気に洋装を変え、そこは宮殿の一室になっていた。そこに違和を感じるものはなかった、のだが。
 急に流れてきた「音」に、4人は思わず部屋を見渡した。
「キミ達、今流れているのはどんな音楽に聴こえる?」
 チェリーの問いに、全員が「大勢の人の歌声、コーラス」と答えると、黒猫はふうっとため息をついた。
「みんな同じ答えって、ぼくは残念だけど、単なる心理テストだし、いいや。これ本当は他にも聴こえる音楽になってるんだけど、この場合は───『大勢の人の歌声、コーラス』が聞こえてきたキミ達全員は、暖かい家庭、家族の愛情に最も幸福感を感じる人だね。気の合う友人と好きな事をするのがいいと思うよ。いるかどうか分からないけど。……あ、言っておくけど心理テストとかは単なる遊びって考えてくれていいからね。深く考えるとろくなことになりかねないし」
「私も、少し違うとは思いますが占いを嗜んでいますので大丈夫ですよ」
 と、セレスティ。
「僕も楽しめればいいだけですから」
「そーそー、ボクもキミに興味があるくらいだしね?」
 匡乃と、蓮。
「私も心得て来ているので心配はいらない」
 最後に、クールに紅葉。
「そ? それならいいけど。じゃ、次の扉を開けるよ」
 チェリーと紅葉のクールさは種類は違えどレベルは同じくらいだろうか、と思わず思ってしまう他三人。そんな思惑も知らず、チェリーは次の扉へと4人を誘う。
 やはりそこも宮殿の一室で、チェリーは語る。
「この宮殿は昔、ある少女が住んでいたんだけど、事故で亡くなった。彼女の両親も彼女が幼い頃に他界していてね、テストはこれ。その彼女が死ぬまで大事に持っていたものは『母親の持ち物。(指輪などの形見)』、『父親の持ち物。(時計やゴルフ道具など)』、『両親と写した写真』のうち、どれだと思う? あ、当然だけど直感で答えてね。考える必要ないから」
 4人の答えはすぐに返って来た。
「母親の持ち物、です」
「僕も同じです」
「偶然、ボクもだよ」
「両親と写した写真だな」
 セレスティと匡乃、そして蓮は同じだったが、紅葉だけ違っていた。
 チェリーが解説する。
「母親の持ち物、を選んだ人は───勇気と忍耐力のある人。つらい事にも悲しい事にも耐えられ、自立心も旺盛。人との協調性にも富んでいるみたいだよ。人に過度に干渉する事もない半面、人からとやかく言われるのも嫌いだけど。
 それから、両親と写した写真を選んだ人は、自分より相手を思いやる気持ちのある人。どちらかと言うと相手を立てるタイプかな。相手との協調性にも富んでいて、他人に対していやな顔は絶対に見せない面もあるんじゃない?」
 答えなど待たず、次の扉へとさっさと歩いて行くチェリー。慌ててついていく4人。

 次に出たところは、宮殿の外だった。しかもいきなり、木や草が鬱蒼と繁った森の中である。太陽こそまだ高かったものの、この季節、蚊はいないものだろうかと誰かが思案したかもしれない。
「あ」
 ふと振り向いた匡乃が声を上げ、「どうしたの?」と蓮が尋ねる。
「館……消えていますね」
 マズい事態になったのでは、と真剣な面持ちで、セレスティ。チェリーはと見ると、今までどおり、何事もないような顔をしている。
「ともかくこの黒猫殿についていくしかないと思うが」
 紅葉の意見に、反対したくとも出来る状況ではなかった。
 ただの心理テストで終わればいい───穏やかな性格を持ったものならば、そう願ったかもしれない。
「どうかした?」
 ふと振り向いたチェリーに、紅葉は「なんでもありません」とクールに答える。
「そう」
 と気のない返事をし、チェリーは更に心理テストを出した。
「この森だけど……どんな動物がいると思う? 次のうちから選んで」
 そしてチェリーは、ライオン、ウサギ、クマ、小鳥、ネコ、と挙げた。
「私は、小鳥を選びます」
 と、セレスティ。
「僕はネコを」
 草の葉っぱをなんとなくいじりながら、匡乃。
「ボクも同じ、ネコ」
 悪戯っぽくチェリーを見つめながら、蓮。
「私もネコだな」
 ふうん、といった感じでチェリーは一同を細めた目で見つめる。
「どうもぼくと関連してると考えてる人が多いのかな。じゃ、テストの解釈だけど。これは『今欲しい友達のタイプ』。小鳥を選んだ人は、『おしゃべりが好きなタイプ』の友達が欲しいと思ってる。キャーキャーいう金切り声の人とはちょっと違うかもしれないけどね。で、ネコを選んだ人は、『女性の魅力にあふれているタイプ』の友達を求めてる。実際はどうか知らないけど、こう解釈されるんだよ」
 そしてチェリーは、バサバサっと飛び立った鳥をちらりと見上げ、歩いて行く。やがて一本の大樹に辿りついた。枝には、よく見えないが何か鳥のようなものが羽を休めている。
「ここでまたテスト。あの枝に止まっている鳥は次のどれだと思う? カラス、ハト、ワシ、コウモリ」
 よく見えないのは、「何者か」がワザとしているのだろうか?
 ともかく、彼らは思うまま其々に答えた。
 セレスティはと匡乃はハト、蓮と紅葉はカラス、と。
「これは『何故最近、何故うまくいかないのか』が分かるテスト。解釈はこうだよ。ハトに愛着を感じるキミは達、とってもデリケート。ちょっとした事に弱気になってない? 強烈な成功体験が必要なのかも。真っ黒なカラスは、キミ達の中にひそむもう1人の自分。本音と建前の使い分けもほどほどに。裏表のないつきあいができる友人を見付けてね」
 ただの心理テストとはいえ、思わず考え込んでしまうのは人としての性だろうか。
「さ、もう少し歩くよ。森を出たら川だから」
 と、またチェリーは4人を連れて歩き出す。
 幸い体力は皆何故かそんなに落ちてはいない。日頃、依頼等で鍛えられているおかげだろうか。
 やがて少し視界が開けたと思えば、目の前に大きな川が横切っている。
「さ」
 と、涼しい顔で、チェリー。
「川、渡るとしたら、次のどんな方法で渡る? A.橋を探す B.浅いところを探して渡る C.イカダをつくる D.川がかれるまで待つ」
 もっとも、この川がかれるかどうかも分からないけどね、とチェリー。
 これは、蓮だけが「いかだを作って渡る」、他三人は「橋を探す」で一致した。
「皆結構ブナンな人生送ってる? ひょっとして」
 相変わらず小生意気な猫である。「まあねーキミだってそうなんじゃないの?」と、さっきからちょっかいを出したくてたまらなかった蓮が、チェリーの背中を尻尾側から撫で上げる。思わず「みぎゃっ!!」と、初めて猫らしい声を上げたチェリーだった。
「……このテストの解釈はねっ……」
 気を取り直し、口を開くチェリー。セレスティと匡乃の口の端がわずかに歪んでいるのは、微笑ましいと思ったからか微笑を堪えているせいだろう。紅葉は依然として冷たい表情を隠さない。
 その時、蓮はチェリーを撫でた感触から「あれ?」と思ったが、今は言わずにおいた。
「恋人を探す方法。橋のあるところを探すのは、『絶対OKのくれそうな人をさがす』こと。筏を作るを選んだキミは、『部活や習いごとなど、人と知り合う機会をつくって探すタイプ』かな」
 最後のほう、じろっと恨みがましくチェリーは蓮を見たが、蓮はにこにこと小悪魔的笑顔を浮かべている。ふん、といったふうに顔を背けると、チェリーはその空間に向けてフッと息を吐いた。途端に、扉が現れる。
「さ、入って。心理テストはあと三つで終了だから」
「構いませんよ、楽しんでいますから」
 と、扉を一番にくぐりながらセレスティ。
「僕もそれなりに、彼と同意見ですからね」
 その後を続く匡乃。
「心理テストは元々お遊びだしね〜」
 くすくすと笑いながら、蓮。
「そうとも言い切れないとは思うが、特に退屈はしていない」
 最後に、紅葉。
 中に入ると、結構広い部屋だった。目の前には人数分の何も書かれていないキャンパスと筆が並んでいる。そこに地平線を書いてみて、というチェリーに、4人は其々にキャンパスと筆を持った。一本、線を引くだけでいいという。
「大地と空、どれくらいの面積比になった?」
 尻尾をゆらゆらさせ、それぞれのキャンパスを見ていくチェリー。
「セレスティは4:6/地平:空、匡乃も地4:空6……蓮は地6:空4、紅葉は地面2・空8、ね。地面が現実世界、空が非現実世界…これはそのまま、キミ達がどちらにどのくらい比重を置いてるかってことなんだけど」
 空が広いのは、まあ、プラトニックラブ度の高い人とも言えるけどね、とチェリー。
「さ、いくよ」
 どんどん進んでいく。
 更に扉を開けると、5人の女性がテーブルについて何かを食べて口々に「おいしい!」と言っている部屋に出た。彼女達には「こちら」が見えていないらしい。何か楽しそうに、ぺちゃくちゃと喋りながら食事をしている。
「彼女達が食べてるのはそれぞれ、緑色、黄色、茶色、赤色、黒色のカレーなんだけど。皆美味しそうに食べているよね、でもひとつだけ激辛カレーがある。無理して嘘ついて「おいしい」って言わされてる人がひとりだけいる。それは何色のカレーを食べている人? 緑、黄色、茶色、赤、黒」
 4人はそれぞれ目をこらしたりして確認しようとしたが、五感や能力では感知できないようだ。尤も、心理テストは先刻チェリーが言ったように『直感で答えなければ意味がない』のだから、こんなことをしても無駄なのだろうけれど───他の「何か」も分かるかもしれない、と思ったのは否めない。
 結局、セレスティは黒、匡乃は茶色、蓮は緑、紅葉は匡乃と同じで茶色、という結果を出した。
「これは、キミ達の「こころの中に潜む願望」を調べるテスト。
 黒いカレーを選んだセレスティは、『みんなを支配したい!』なんて願望。『人々の上に君臨したい』という欲求を心の奥底に持ってそう。普段はそんなことはないけど、自分が人を指示する立場になると、とたん威張りだしたりね。
 茶色のカレーを選んだ匡乃と紅葉は、いつも心のどこかで『ひたすらラクがしたい』って願望。まあ、心当たりは無くても、自分を試みて気をつけようってことだね。
 緑色のカレーを選んだ蓮は、『身近な人を困らせたい』っていう願望が心の奥底にない?キミは他の人の前ではおとなしくしているのに、親友や家族などにはワガママを連発していないかい?甘えたいのは分かるけど、わがままも度を過ぎると愛想つかされちゃうから気をつけてね……ってのが一般のテスト解釈」
 チェリーが次の扉を開けるとまた同じ様な広い部屋に出て、今度は、人数分の白いパジャマと絵の具と筆が置いてある。
「そのパジャマに林檎を描いてみて。どんな大きさの林檎をいくつ描いたかとか」
 数えれば、これで8つめの心理テストである。もしかして迷宮に入り込んだのではないかと思ってしまうほど長い。
 それでも4人はそれなりに楽しんでいるらしく、根気よくパジャマに林檎を其々思うがままに描いた。
 セレスティは、胸の辺りに手で掴めるくらいの大きさの赤い林檎と青い林檎を一個ずつ。
 匡乃は、襟の後ろに小さな林檎を1個。
 蓮は、左胸に実物大で一つ。
 紅葉は、襟タグにひっそりと、多分一個だろう。
 全員が描き終わるのを見てとると、チェリーは早速解釈を始めた。
「これは至って簡潔。キミ達の秘密を象徴してるんだ。ま、他に特に解釈はないけど、林檎の大きさは秘密の大きさ、林檎の個数は秘密の数……だと思って見てよ」
 どこか可笑しそうにヒゲを震わせる、チェリー。その目が細められ、ついと下を向いた。見るといつの間にか、4種類の枕が置いてある。
 羽毛でふかふかの枕、竹製で涼しげな枕、クマさんの枕、健康に良さそうな磁気枕。
「ここまでつきあってくれたお礼に、そのパジャマと枕をひとつずつあげるよ。好きなのをひとつだけとって」
 というチェリーに、
「いいのですか?」
「お礼というほどのことはしてないけれど……」
 と、セレスティと匡乃。
「じゃ、お言葉に甘えてひとつもらうねっ」
 という蓮の隣で、
「もしやこれも心理テスト?」
 冷静な判断を下す紅葉。
 その時既に、セレスティに匡乃、蓮は『羽毛でふかふかの枕』を、紅葉もまた、そう言いながらも『健康によさそうな磁気枕』を取っていた。
 チェリーの口元が、ニッと笑んだような気がした。
「そう。よく分かったね。その枕には象徴してるものがあるんだ。
 羽毛の枕は、『包容力に溢れ優しく何でも受けとめてくれる人』。それを選んだって事は、そういう人を求めていることを表す。グチを聞いてくれ落ち込んでいたらさり気なく励ましてくれるような、そんな人物にそばにいて欲しかったりしない?
 磁気枕は、今「競い合える人」が欲しいのかな。キミがそばにいて欲しいと考えているのは前向きに競い合う事が出来て、いい意味で刺激になるライバル的な人物じゃない?そういう人がいてこそキミもガンバレて才能が開花するのかもね」
 そして、ついとどこかを見やるチェリー。
 その視線の先には、どこか今までのそれと違う雰囲気の扉があった。
 チェリーが何故か今度は、なかなか開こうとしない。
「この扉で最後、なんだけどね。いや、心理テストは今ので終わり。『チェリーとチムニー』の『休み時間』も、おしまい……」
 チェリーのその言葉に何か重みを感じはしたが、蓮が好奇心いっぱいの瞳で扉を見ているのを見て取ると、初めて苦笑したような顔色を見せて、黒猫は意を決したように『最後の扉』を開けた。
 途端、───


■chimchim cherry■

 全員が雲の真上にいた。そう、そこは空だった。
 足下には瑠璃色の海、その中の街が一望できる。丁度夕日が沈もうとしている所。ゆっくりと太陽が地平線に消えていって、綺麗なグラデーションを描いて空が暗くなってくる。
「……終わったの、チムニー?」
 ゆっくりと雲の向こうから、館の主である『老婦人』が歩いてくるところだった。「チムニー」と呼ばれた黒猫は駆け寄る。その胸に抱かれながら、細く閉じた瞳から涙を流した。
「うん、終わったよ、チェリー」
「……どういうことですか? その、黒猫さんはチェリーというお名前だったのでは?」
 と、セレスティ。碇麗香からの誘いだから、何かはあるだろうとは思ってはいたが。
「つまり、二人は名前を逆にして呼び合ってたってわけですか。でも何故?」
 同じ思いを持ってこの依頼に参加していたらしい匡乃も、尋ねる。
「大体、どういう関係なの?」
 と、蓮。
「……チムチムチェリー、ですか」
 思い当たったように、紅葉。
 こくん、と老婦人───チェリーは淋しげな笑顔で頷く。
「どういうことさ?」
 蓮が聞くと、それで思い出したというように、匡乃。
「チムチムチェリーって唄がありましたね。煙突掃除屋が出てくる歌詞の」
「なるほど……煙突はチムニーという意味でしたね」
 普段書斎で読書をしていただけの甲斐はあった、と思うセレスティ。
 チェリーは事の次第をぽつぽつと短く、話した。

 黒猫チムニーは元は煙突掃除屋の少年、そして老婦人チェリーはその少年に恋焦がれる少女だった。
 だが、空にばかり惹かれていたチムニーはある日、空から降りてくる妖精のひとりを目撃してしまい、怒りを買った。その空の妖精は、一般のそれとは違い、人界の誰の目にも触れてはならない。触れただけで穢れてしまうからだ。目撃されたら即、目撃者を殺さねばならないという掟があった。
 だが、殺されそうになっているチムニーを見つけたチェリーは空の妖精に懇願した。どうか猶予を与えてください、どうか助けてください、と。
 空の妖精も全員が冷たい性格ではない。その空の妖精は、「罰だけを与える」として自分にできる精一杯の、赦されているだけの「情け」を二人にかけた。
 それは、二人の名前をとりかえ、互いの名前を呼ぶことすら禁じ、また、二人の姿をそれぞれ変え、永久にこの世に生き続けるというものだった。
 老婦人となったチェリーはこれまでずっとチムニーと暮らしてきたが、とうとう耐えられなくなり、何かの折りで知り合った碇麗香に頼んだのだ。
「自分達の願いをかなえてほしい」、と。協力をしてほしい、と。

「それはこの、永久に続く『拘束の休み時間』の終わり」
「ぼくたちは安らぎを望んだ。───キミ達には、これが悲劇に写るかもしれないね。でも」
 心なしか、「二人」の輪郭がぼやけてくる。
「今回の誘いを出す前に空の妖精に申告した。もう終わりにする、と。やっと本当の安らぎが得られるんだ、これは浸ってるんでもない、ぼく達は悲劇の役者じゃない」
 本当に、その顔は安堵しているようだった。
 消えていく───このままでいいのか。
 そんなことと知っていれば、どうにかしたのに。
「麗香さんには、ただのお誘い、と……本当にそう頼んでおいたの。でないと、あの方は……本当に余計なお節介をなさりそうだから」
 優しい笑みを浮かべるチェリー。
 最後に、
   ───たのしかったよ───
 と、チムニーの声が聞こえた気がした。


■本当に望むもの■

「多分、心理テスト、という……いわゆる『課題』を自分達に課したのだと思います」
 と、セレスティ。隣では、喫茶店のメニューから未だ目を離さない匡乃がいる。あれから4人はいつの間にか、アトラス編集部の前にいたのだった。
「それで空の妖精に『申請』したわけか」
 そんな紅葉に相槌を打つ、蓮。
「違和感はきっとさ、あの館とか全部からだったんだよ今考えると。だってあのあと行ってみても館すらなかったし、なかったことにもされてたからね」
「つまり……」
 ゆっくりと、匡乃は水を飲む。
「僕達にとっては如何に悲劇で不正解に思える結末でも、それが彼らの本当の望みだったんでしょうね」
 人にとっての、それぞれその望みは違う。
 ただそれだけのことなのだろう、けれど。
 またいつの日にか、空の妖精とやらに会ったらあの二人のことを聞いてみたい、思う4人だった。


 ───こんなすてきなことはない───
          まちいちばんのかほうもの───



《完》



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
☆1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725/財閥総帥・占い師・水霊使い☆
☆1537/綾和泉・匡乃/男性/27/予備校講師☆
☆1790/瀬川・蓮/男性/13/ストリートキッド(デビルサモナー)☆
☆0697/刀儀・紅葉/男性/18/高校生☆





□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回は、「空の妖精」という部分を出さなかったため、ある意味皆様には「騙されて頂いた」形になりました。お気に召されませんでしたら本当にすみません;
この「空の妖精」に関しては、また別に依頼を作ろうかとも考えていますので、もしよろしければその時には、またよろしくお願いします☆
因みに今回は、心理テストの部分が個別といえば個別なのかなという感じもしますが、基本的には皆様全員同じ文章となりました。変に分けて凝るよりも、このほうが分かりやすく進めやすいと思いましたので……同じ理由で、能力なども使いませんでした。皆様には、息抜き、と考えていただければと思います。

■セレスティ様:連続のご参加、有難うございますv 手土産をチェリーに持ってきてくださった部分をもう少し出したかったとも思うのですが、力不足でかなわず; 申し訳ございません;
■匡乃様:ご参加、有難うございますv 心理テストですから皆様平等にせねば……ということで、テスト結果は公開でございます(笑)。
■蓮様:お久し振りのご参加、有難うございますv 書く余裕がなかったのですが、蓮さんが黒猫チムニーを触って妙な感じがしたのは、「煙突の煤」を触った感触、なのでした。今回もお元気そうで、楽しかったです。
■紅葉様:ご参加、有難うございますv 心理テスト結果、意外と違っていたのは紅葉さんでしたね(笑)。もう少し喋りを入れたかったのですが……これも力不足ですみません;

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。それを今回も入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。今回は……少し、力不足な部分も多々あったと思いますが(いえ、今回も、ですね;)、精進致します。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆