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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


百鬼夜行〜紅〜

◆紅の空 集いし者達◆
 綾和泉・汐耶はTVでその情報を得るよりも早く、己の勤める都立図書館館長からその話を聞いた。
 百鬼夜行――現代ではあまり見られない事件。空市という百鬼夜行の起こる土地で攫われた子供の救出と、百鬼夜行の解明を草間興信所が受けたのだと館長は言った。
 そして汐耶にも、それに参じろという。それは頼む形ではあったが、命令でしかなかった。
 汐耶は溜息をつくと目を落としていた書物を閉じ、静かに図書館を後にした。

 草間興信所に着くと、今や一躍話題の人となった草間・武彦が疲れ切った様子で扉を開けた。テレビの前では零が、真剣な面持ちでテレビ画面を見据えている。
「良く来てくれたな。助かるよ」
草間に促されるまま室内に入り、汐耶は早速口を開いた。
「それで、草間さん。現在の状況、詳しく教えていただけますか?」

「お前らも色々言いたい事はあるだろうが、それは全て終わった後に聞く。今はとにかく、話に集中してくれ」
 草間の前には、七つの顔が並ぶ。有志、依頼、それから面白半分。百鬼夜行を解決しようと集まったその七人は、数々の怪奇を解決して来た、いわば熟練者だ。
 それらに事件の穴だとか、解決までの難関だとかを一気に捲くし立てられ、草間は更に疲れた様子で唸った。
「まず、この事件。わかってる事は極めて少ない。ただ事件性は全く無い。これは真実怪奇、妖怪達の行軍だという」
それもどこまで正しい情報かはわからないらしい。
「百鬼夜行が何時どういった理由で行われるのかは、さっぱりわかっていない。空市で口伝として伝わるのは、とても短い件だけだ。【百鬼夜行す夜に外出するべからず。破りし者、二度と帰らん】――とまあ、市民が一致するのはここだけ。まあ言ってる事はどれもこれも同じで、特筆する様な事は無いが、詳しく調べる必要はあるだろうな」
 草間が汐耶の方に目をやり、小さく頷く。
「マスコミについては、関わりの無い上の方がどうにかしてくれる様だ。気にせず捜査してもらって問題無い」
それは、問いへの答えだった。報道規制を願った、汐耶への。
「頑張って下さいね、皆さん!!」
 草間と零は全国民の矢面に立つ――といった大変な仕事が待っている。
 七人は思い思いに頷くと、興信所を退出し夜闇に消えて行った。


◆伝わる話 鳥居と鐘◆C◆
 空市の上には不穏な雲。太陽を隠すどんよりと重い灰色は、市民の心の色を表すかの様だ。
 不思議な事に警察もマスコミの姿も完全に無い問題の事件現場に七人は立ち、それぞれ慣れた様子で散った。
 まずは情報収集。市民に当たる者、書物から情報を引き出す者、その他。汐耶は一人、攫われた子供達の家へと歩みを進めた。
 チャイムを押すと、目を泣き腫らしたらしい女が出てきた。攫われた子供――その中の一番の年長者である、ショウという少年の母親だった。
「あの子は……百鬼夜行なんて全く信じていなかったの。あの子も年頃だから夜に遊びに出たり、そういう事を好んでいて。だけど私達は鐘が鳴れば、一歩たりとも外に出さなかったから……」
「つまり、反発しての行動だったと……?」
「えぇ。百鬼夜行の事では、何度も主人と喧嘩していたし。あの日も止めた私の手を振り切って外に出て行ってしまって……そして玄関先で悲鳴が上がって、見てみた時には姿が無かったわ」
 女が、思い出したように涙を流す。汐耶は何事か思案した後、母親に礼を言って、それから
「息子さんは私達が必ず連れ帰ります。だから安心して下さい」
泣き続ける母親に、優しくそう告げた。

「やはり、何も出ないですか……」
 失踪した九人の家を訪問した結果は、惨敗だった。子供達には何の共通点も無く、失踪時間・失踪場所等もてんでバラバラ。聞いた情報も、草間から事前に聞いた通りだった。
 汐耶は小さく溜息をつくと、前髪の生え際をクシャリと掴んだ。銀縁の眼鏡の奥で、青い瞳が細められる。
 子供達の間で、何か百鬼夜行に関連する噂話が無いかとも思い、市内の小学校を当たっても見たが、それもまったくの無意味。昔から流れる口伝の一部以外、子供達が知る事は無かった。あまりにも身近にありすぎて、興味の対象にもならないのだ。
 九人の内の六人は、夏の風物詩『肝試し』をしようと外に出ただけだというし……。
「とにかく、一度この目で百鬼夜行を見ない限りは……どうしようもないのでしょうかね」
 あるいは。そう口の中で呟いて、汐耶は視線を上げた。
 坂のずっと上方に、黒い鳥居が立っている。
 空市は斜面の上に造られた街だ。山の半面を伐採しそこに家屋を建てた為、空市には坂が多い。その坂は上った先、全てが一つの場所に行き当たった。四方を鳥居に囲まれた、古い大きな黄金の鐘――そこへと。前後が黒、左右が朱色をした鳥居は、寺院を建てようとした慣れの果てなのか。
 昔、まだ山が生きていた頃から、その鳥居と鐘は存在すると聞く。
 鐘は百鬼夜行を告げる音で、市民に危険を知らせるそうだ。それが最大の不思議でもある。
 もしかしたら、あるいは。その鐘の謎さえ解明できれば、何かの糸口が見つかるのかもしれない。
 そこで汐耶は思考を止め、今度は上空を見上げた。
 雨の匂いが辺りに充満している。おそらく、もうすぐ振り出すに違いない。
 腕の時計に目をやれば、時刻は二時にならんとする辺り。まずは市長の家へと戻り、仲間達と話し合うのが先決だろう。個人行動はなるべく避けた方が良い。
 汐耶は一度鳥居を見つめ、それに背を向け歩き出した。


◆◇幕間〜アトラス編集部〜◆◇A◆◇
 ポツリ、ポツリと空から雨粒が落ちてきた。冷たい感触を頬に受け、草間がつ、と視線を上げる。
「――雨……」
傍らに立つ零も、一呼吸の後空を見上げる。
 次第に強く強く……雨は傘をささぬ二人の体を打ち付けた。
 鞄で頭を庇い、幾人もの人間が側を走り去っていく中、草間はただじっと上空を見つめるばかり。
「何か見落としている気がする」
「え?」
「――大切な何かが欠落してんのさ。あまりにも何も無い所為で忘れがちな何か……」
「何か、ですか……」
曖昧な草間の言葉に、霊は眉間の皺を深める。
「アイツらが、それに気づいてればいいんだがな……」
独り言の様に呟いて、草間は小さく首を振った。
「何も起こらないでくれよ、頼むから……」


◆雨の夜 鐘の音◆
 その重さに耐え切れなかったのか、昼過ぎに曇天から雨が降り始めた。雨は何時間も弱まる事無く、空市を襲う。
 汐耶が無事に市長宅へと帰り着いた後、仲間達もぞくぞくと帰って来た。中には間に合わず、濡れ鼠になった者も居たが。
 市長の家は屋敷と呼んでいい程にでかく、夫婦二人で住んでいる為に六部屋も空室なのだという。市長はその六つの部屋を、事件が解決するまでシュライン達に提供していた。つまり、泊まるも帰るも自由という事だった。
 この日は視界さえ危うい豪雨の所為だろうか。七人は誰一人帰ろうとせず、金蝉の為にあてがわれた客室に集まって各々の入手した情報を伝え合っていた。
 ただ一人、アールレイは蚊帳の外。窓にへばりついて、来るとも知れぬ百鬼夜行を待ち続けていた。

「そやから、あの鳥居と鐘な。あれは明らかに、何かの術が働いとるもんやで。百鬼夜行の出現場所はあそこで間違いない!」
 大曽根・つばさが胸を張って言う。彼女と桜塚・金蝉、水上・操の三人は鐘と鳥居の事を聞いてすぐに調べにいったそうだ。
「そうね。まず百鬼夜行――物の怪で間違いもない様だし。聞いた話では坂を下って来るという事よ」
「なら早速、そこから入り込んで妖怪共見つけようぜ」
「アホか。それが出来たら苦労しないわ」
「かかってる術が俺達とはまた質が違いやがる。すぐに解ければ苦労しねぇだろ」
後を引き取った金蝉が、いいか?と術の説明を始める。どうやら汐耶の思惑通り、簡単にはいきそうに無かった。それ程、金蝉の説明は複雑でいて不可解だ。
「百鬼夜行の頻度は、月に2回か3回でしたよね。では次のその日まで、残された方法は鐘の解明のみですか……」
「今の所は術者さんだけが頼りね」
「――頑張ります」
汐耶とシュラインの言葉に、操が重々しくそう言った。それ以上は会話が続かない。どうやら皆、自分が持っているモノ以上の情報を持ち合わせて居ないらしい。
 汐耶は壁に立て掛けられた時計を見る。そろそろ眠った方がいいだろう。明日も朝が早い。そう考えた汐耶が、席を立とうとした時だった。

 ゴーン ……ゴォーン

 然程大きな音ではない。雨音に掻き消えそうにも思える。それなのに何故か、頭の隅からけして出ていこうとしない、そんな鐘の音だった。
「鐘!?」
 七人はその音が、『百鬼夜行』を告げるモノだと瞬時に悟り、大きな窓に走り寄った。金蝉の部屋に集まったのは、その窓が丁度鳥居に面していたからだ。

……ゴォン

 鐘が鳴り響く。
 七人がじっと鳥居に視線を向けている。
 と、その上空に、黒い点の様なものが生まれた。眇め見ていたそれがやがて大きな大きな黒い穴となる。空間を引き裂いて出来た、何処かとこの世を繋ぐ、穴。その中から、何十もの物の怪が躍り出た。
 額に生えた角。尖った耳。耳まで裂けた大きな口。赤黒い肌。青白い眼光。尻から生えた尾。荒れた体の表面。鱗に覆われた肢体。
 異形の集団が坂を下ってやってくる様子に、ごくり、と誰かの喉が鳴った。
 百の行軍が幾つかに分れて、坂をゆっくりと下りて来る――。


◆百の怪 攫われた子供◆C◆
「……おい、ガキ共がいねえぞ」
「………え?」
 最初にその事実に気づいたのは金蝉だった。不機嫌に、どこか上ずった声に、汐耶は振り向く。――確かに、春華、つばさ、アールレイの姿が室内の何処にも無い。先程まで同じように窓の外を眺めていたはずなのに。
「ま、まさか外に出たなんて事ありませんよね?」
操の不安げな顔に、汐耶も渋面を作った。
「……でもアールレイ君、百鬼夜行楽しみにしてましたよね?」
アールレイという少年は、始終百鬼夜行の訪れを待っていた。汐耶の脳裏に、窓に張り付いていた茶色の頭が過ぎる。
「それを言うなら、春華君やつばさちゃんも、どちらかというと直接的な対処に出る子達よ?」
「………」
「――っあのガキ共!!!」
 しばしの沈黙の後金蝉が低く唸って、四人は室内を飛び出した。
 玄関に三人の靴が無い。これはもう、十中八九間違いない。
 汐耶達は焦りに微かに顔を顰め、雨の降りしきる外界へと走り出した。

雨が降っていた。それは昼過ぎから振り出し、深夜一時を過ぎた今でも雨足を弱めない。やっぱりママの言う通り、塾を休めば良かった。やっぱりユキの言う通り、泊めてもらえば良かった。第一こんな時間に帰ったら、ママに怒られてしまう。
……ふう。
泥が跳ねて服も靴も汚れ、靴に至っては濡れに濡れて、歩く度にビチャビチャと嫌な音を立てている。早く帰って、シャワーでも浴びたい。そう思った時だった。
ゴォン――と聞きなれた音が響いた。あ、今日も鳴ってる。この間もあったばかりなのに珍しい……。最初はそんな風にしか考えられなかった。眠くて、頭が麻痺してたのかもしれない。
それにチャント気づいたのは、五回目の鐘が鳴った頃。
はっとして顔を上げれば、目に映ったのは、坂道の先の黒い鳥居。雨で白む視界の中でもはっきりと見て取れた、闇の中では不気味に映るソレの上空で、黒い大きな穴がぽっかりと口を開けていた。そしてソレの中から姿を現すのは――。
百鬼夜行!!今日は百鬼夜行の日なの!?に、逃げなきゃ!!ホラ、近くの家に――逃げなきゃニゲナキャ。早く早く、アレに見つかる前に早く隠れなきゃ……足が震えてる。でも逃げなきゃ!!
そう思いつつも私の足はがくがくと震え、立っているのがやっとだった。私は一歩も動けない。雨の中、青い光が見え始める。黒い影が沢山沢山近づいてくる。
逃げなきゃ――!!!
私の手から、鞄がするりと抜け落ち、コンクリートを濡らす水の中で音を立てた。百メートル程先で百鬼夜行の歩みが止まって、止まって……。金の目だけが、闇の中で光った。
怖い怖い怖い怖いコワイ怖い怖い恐い恐いコワイ恐い怖い恐い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコ――。

「キャァアッ………!!!!」

 闇夜を切り裂く甲高い悲鳴が、辺りに響き渡った。空からの鐘の音にも負けぬ、恐怖に震えた音は大気を揺らす。
「!!しまった!!他にも!?」
 上がった悲鳴は、アールレイ・春華・つばさのどれとも違う。高く緒を引いたソレは純然たる恐怖に占められていた。
 悲鳴の上がった方向とは逆に走っていた四人は、急ブレーキをかけ方向を転じる。
「春華君たち、無事かしら……」
 返答は無い。ただただ、走る。
 そうして四人が見たものは。
「遅かったんですね……!!」
 巨躯を晒す大きな赤い鬼の掌に、アールレイの姿が見える。
「アールレイ君!!!」
汐耶は悲痛な叫びを上げるが、当の本人は鬼の掌で跳ねているようにも見受けられる。そしてその鬼はまさに、鳥居の上空に出来た大きな穴に戻ろうとしている所だった。
 百鬼の鬼は子供を攫い、己らの世界へ帰ろうとしている所……。
「見て、春華君につばさちゃんよ!!」
 シュラインが指差すのは蜘蛛の糸に全身を覆われ、異形に担がれてゆく二人の姿。
 四人は再び坂の上方を目指して走り出した。その途中で金蝉が、水に濡れた鞄を拾い上げた。
 暗い暗い穴へと続く妖怪達――その背中が一つずつ消え、残るは十と少し――。


◆残された者 多くの謎◆B◆
 消え行くアヤカシに向かって、金蝉が魔銃をぶっ放した。それが一匹の異形の背中に食い込むと、発火。
「ギィエケェ――ッ」
 悲鳴を上げた異形が、一瞬の後炭化する。
 アールレイ達の姿はもう無い。汐耶は彼らを追おうと、邪魔な異形を一体投げ飛ばした。
「グエッ」
 背を打って唸る異形が、瞳に剣呑な光を帯びて振り返る。緑色の腕がどす黒く変色し、その腕が刃へと変わる。そのまま、汐耶に向かって剣を繰り出した。
 汐耶はソレをすんでの所でかわす。耳元で唸る風が、汐耶の黒い髪を掠っていく。
 汐耶は身を捻り異形の腕を外側から内側に押し払う。そして後頭部を向けた異形の頭に、長い足が蹴りを放った。
 倒れ付した異形は動かない。ふぅと小さく吐息を漏らし、汐耶は大きく口を開いた穴を見上げた。金蝉や操が、同じように異形の攻撃を受けながら、穴を目指して進行してくる。だが、このままでは異形を逃す。
 ソレは操にしても、金蝉にしても分ってはいる様だった。しかし異形は汐耶達を邪魔するが如く立ちはだかり、その間にも異形の数が一つずつ減っていく。
 二体目を相手にしながら汐耶も、憎憎しく唸った。
 一瞬の隙を突いて金蝉が飛翔し、穴へ飛び込もうとする所を汐耶は見受けた。がそれもすぐに、拒絶する様に巻き起こった穴からの風に、邪魔をされる。
「くぅ!?」
穴の近くに居た汐耶の体も後方へと吹っ飛び、何とか体勢を整えた時には、穴が収縮し消え行くところ。そしてすぐに全てが消えた。
 気づけば鐘の音が止んでいる。
「金蝉さん、今の……あの風は……?」
汐耶が呆然とした調子で問うと、風を真正面から受けた金蝉は銃を懐にしまいながら沈黙した。わからない、という事らしい。
「聞いた?アイツ私を見て、『子供以外は要らん』て……」
シュラインが身を屈め、金蝉が攻撃を仕掛ける際に投げ捨てた鞄を拾い上げている。鞄の取っ手にはお守りとストラップが引っ掛けられ、ストラップのアルファベット球体が一つの名前を記していた。【ユウナ】――と。
「子供のみを攫うという事ですか……?」
「……俺を拒否しやがったあの風も、俺が『子供』で無いからか……?」
 気づけば雨は弱まり、見上げた空には所々紺色が見える。
 街灯がチカチカと点滅し、やがて何事も無かった様に、その光で空市を照らし始めた。


◆幕間〜アトラス編集部〜◆A◆
「……今の、見ました?」
「――ふえ?」
 空市の坂の中腹で、一人の青年が背後に向けて問いかけた。問いかけられた相手は、民家の玄関先で目を塞いだ状態。その身体は小刻みに震えている。
 彼の持っていたのだと思えるカメラは防水処理はしてあるものの、水溜りに落とされきっと撮影画像は全ておじゃんだ。
「見てないんですね、やっぱり」
三下さんらしいなぁと苦笑する青年の手には、刃渡り80cmもある長刀。炎を纏ったソレが瞬間スッと消えた。
「また子供が攫われたみたいなんですケド、どうやら四人の内三人は草間興信所の面々みたいですよ」
紅蓮の炎を宿した瞳が細められる。
「初っ端から百鬼夜行がお目にかかれるなんて、俺達ついてますよね。それに色んな情報も入りましたし。………写真が駄目になっちゃったのは残念ですケドね」
 三下がビクリと肩を揺らし、今初めて気づいたとでも言いたげに、水溜りのカメラを見下ろした。――投げた覚えがある。鬼に驚いて投げ捨てた覚えが、微かにだがある。その際に飛び出たらしいフィルムが泥に塗れて転がっている。怖い思いまでして写した鬼の姿――これでやっと編集長の怒りを受けぬ日がやってきた。そう思ったのに。
 三下の口から声にならない叫びが上がる。
 青年は小雨になった空を見上げ、肩を竦めた。


◆紅の空 明ける朝◆
 チチチ、チチチチ。
 暁の空に、爽やかな風。鮮やかに染まった青い空を飛ぶ、小さな鳥の群れ。その眼下には、昨晩に取り残された憂鬱の残り香。
 空市の目覚めはまだ来ない。
 金色の光を反射する鐘は、何も変わらない朝の風景を映す。
「つばささん達が攫われるなんて、よっぽど強いのでしょうか。あの妖怪達……」
 操がシュラインの傍らでため息を漏らした。
 残された四人は、アールレイ達が百鬼夜行を追ったとは思っていない。攫われたのだと思っている。
「勝手に外に出たのは問題ですけどね」
「ったく、余計な事を増やしやがって!!」
 それぞれに毒づきながら、何かの解明方法を探そうと躍起になる四人。だがわかった事と言えば、この鳥居の役割と鐘に施された術。
「でも彼らがあっちに居るという事は、多少なりと安心ですけどね。先に攫われた九人はともかく、昨日の少女は一緒にいる事でしょうから」
「そうですね。彼らもただ捕まってるだけじゃないのかもしれないし……」
汐耶と操が再度ため息をついた。
 
「うわ!!!」
「なっ」
「ぅっ」
 ふいに視界が開け、三人の体が宙を落ちる感覚に囚われた。だが高所から落ちたというわけではなく、大した怪我を負ったわけではない。
「なんやの、もう!!」
「――っとに、何が何なんだよ。一体……」
 腰や手足を摩りながら、三人はゆっくりと辺りを見回す。
 見上げれば青空。前後には赤と黒の鳥居。左にも赤い鳥居。右側には――眼前間近の大きな鐘。
「あれ、ここって………」
 見慣れたソレにアールレイが小さく呟いた状態で、固まった。

 大地に転んで自分達を見上げる、三つの顔――。それもまた驚きに見開かれ、再開を果たした七人は、しばし呆然と見つめ合った。



【to be continue…】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1449 / 綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや) / 女性 / 23歳 / 都立図書館司書】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2797 / アールレイ・アドルファス / 男性 / 999歳 / 放浪する仔狼】
【2916 / 桜塚・金蝉(さくらづか・こんぜん) / 男性 / 21歳 / 陰陽師】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1982 / 伍宮・春華(いつみや・はるか) / 男性 / 75歳 / 中学生】
【1411 / 大曽根・つばさ(おおそね) / 女性 / 13歳 / 中学生、退魔師】
【3461 / 水上・操(みなかみ・みさお) / 女性 / 18歳 / 神社の巫女さん兼退魔師】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちわ、ライターのなちと申します。 この度は「百鬼夜行〜紅〜」に発注頂き有難うございます!!三部使用の長いお話になりますが、お付き合い頂けて嬉しいです。
今回はプレイングの内容により行動が一致しておりませんので、大きく変わる部分は◆A◆〜◆C◆と分かれさせていただきました。
至らない所も多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。もし苦情などございましたらぜひお寄せください。

そんなこんなでこの作品、完結しておりません。欲を言えば次回も、また汐耶さんにお会い出来れば嬉しく思います。また別の機会に恵まれましたら、ぜひよろしくお願い致します。