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<東京怪談・PCゲームノベル>


■あの懐かしき音匣(おとはこ)■

「ああっ、約束通り来てくれたんですねっ、草間さんっ」
 自分を呼び出した月刊アトラスで働いている、碇麗香を通じてちょっとした知り合いになっていた三下の声がして、暗闇の中を草間武彦は当人を探した。ぼうっと、包帯でぐるぐる巻きのまるでミイラ男になったような格好の三下が泣き顔で木陰から出て来る。
「草間さんの後ろにいるのが協力者さんですね、僕ほんっとうに感謝しますっ」
「分かった。分かったから鼻水を俺の服につけるなしがみつくな。で、何があったんだ一体?」
 草間の問いかけに、三下はしゃがみこみ、とある下調べをして、出来れば解決してこい、と碇麗香に言われたのだが失敗したのだ、という。
「で……その尻拭いを俺にしろと?」
「分かっている情報は全て伝えますっ、お礼も一生かかってもローンで払って───」
 ふぅ、と草間は煙草を取り出す。
「情報、聞かせろ。知ってること全部だぜ」
 そして三下が草間に伝えた情報は、次のようなものだった。

 まず、「この件」はどうやら謎解きやからくりがあるらしい。
 鎌倉の奥地に洞窟がある。洞窟に入ってまもなくすると、正方形で、入り口から見て正面と左右に扉のある部屋に突き当たる。扉の上にはプレートがあり、
左:高い
正面:赤い
右:低い
 と書いてある。
 ここで三下は低い、赤い、高い、の順に開けて入ったらしいが、するとその順番どおりに次の文字が壁に現れたという。
『低い 丘の 上の犬は 関係が ないことを 心に刻んで 旅立ってくれ』
『赤い 魔女は とりあえず 関係の 無いことを 心に刻んで 旅立ってくれ』
『高い 山の 奥に 白い 露に 濡れて咲く 花』
 そして三下は現れた階段の通りに降り、そこに雪の塊を隅っこに、重い鉄の扉を正面に見つけた。
「それがもうめちゃくちゃに寒かったんですよ草間さぁぁん」
 それもそのはず、力いっぱい扉を開けると、一面の銀世界。だが雪はやわらかそうだったが進めなくもなかったので進んだという。
「そうしたら何故か雪崩は起きるは番狼は現れるは……」
 めそめそと泣く三下の肩をぽんぽん叩いてやりながら、草間は続きを促す。
 どうにか番狼に「やられながら」その後ろにある扉を開き階段下りて次の部屋に行くと、明かりがついていて部屋の中央が一段高くなっており、その上に3メートル四方の透明な立方体があった。
 よく見るとその立方体は完全に透き通った氷で、その中央にオルゴールのような箱が口を開けて浮かんでいた。
「氷の真下にはプレートがまたあって、」
egdcgfeeefgag
 と書かれていたという。
「なんだそりゃ?」
 草間が眉をひそめると、三下は、
「どうやら音名に関係あるらしいんですけど、そこでとある歌名を言わなくてはならなくて」
 と言い、またしくしくと泣き出す。
「……間違って、洞窟から放り出されでもしたか?」
 草間が煙草の煙を吐くと、三下は号泣しながら包帯を上半身だけ取ってみせた。
 そこには、「egdcgfeeefgag」の文字が延々と肌の隙間もないほど埋め尽くしていた。
「放り出されたどころか、僕まで呪いがかかっちゃったんですっ!」
「僕、『まで』?」
 草間は三下の顎をつい、と上向かせる。
「聞きたいな。碇は何のためにこの調査をお前に命じた?」
「う、」
 三下は観念したように事情を言った。
 麗香の知り合いのある一人の女性に何者かの霊が取り憑いてしまっていて、簡単に除霊することが出来なくなっている。 どうやら、女性の精神と波長がピッタリと合ってしまっているらしく、無理に除霊(ターン・アンデッド)などを行うと、女性の精神ごと破壊しかねないらしい。
 そこできちんと筋のある占い師や霊媒師の下した結論というのが、
『歌』がキーワードなのだと。
 世界中のどんな歌、曲でもリクエストをすれば演奏してくれるアイテムがその鎌倉奥地の洞窟にあり、それが唯一その女性を救い出せるものなのだということだった。
「で、どんな歌かは分からず、女性がそんな状態だとすると……もしかして時間制限もあるんじゃないのか?」
「はい、あと3日以内に女の人にそのアイテムを持って帰らないと、その女の人の精神が、……」
 崩壊する───。
 麗香は、その女性についていてやっているのだという。
 草間は三下に背を向け、『協力者』を促す。ちらりと肩越しに振り返った。
「交通費と諸経費は出してもらうからな」
 夜闇の中、「ありがとうございます草間さん、一生離れませんっ!」と三下の声が響き渡った。


■Relief party■

 草間に見送られ、無事(?)鎌倉の例の洞窟とやらに入ることが出来たのは、シュライン・エマ、シオン・レ・ハイ、蒼王・翼(そうおう・つばさ)の三人だった。
 皆が各々の意見を出し合った後、三人は其々に「道」を進むことにした。
 洞窟に入ってまもなくすると、正方形で、入り口から見て正面と左右に扉のある部屋に突き当たったからである。
 草間に言われて渡された懐中電灯で照らして見ると、三下の情報通り、其々の扉の上にプレートがあり、

左:高い
正面:赤い
右:低い

 と、彫られていた。
 シュラインとシオンは「高い」の扉を、翼は「赤い」の扉を開けた───。


■シュラインの進む道■

「本当に、核心と思われる皆の推測は一致したわね」
 と、扉を開けるシオンを見ながら、シュライン。翼は既に、正面の扉を自分で開けてさっさと入ってしまっている。
 皆の推測で一致していた唯一のもの───それは、今回鍵となっているのは有名な「エーデルワイス」の唄なのでは、ということ。
「ですね、私と翼さんは三下さんの身体に書かれたという妙な『egdcgfeeefgag』の文字がドイツ音名ということも推測していますし───開きましたよ」
「有難う」
 言って、シオンの手により開いた扉に入る、シュライン。後からシオンが入ると、自然に扉は閉まってしまった。
「───お約束ね。ここは……?」
 何の変哲もない、入る前と同じような造りの正方形の部屋。左側にだけ扉と、プレートがある。シュラインはプレートに近づいた。
「───何も書かれていないわね」
 あ、という声にそして彼女は振り向いた。ちょうど、扉が壁に変化したのに驚いたシオンが、思わず飛び退ったところだった。
 飛び退った場所がマズかったのか。シオンの足はよく目を凝らしてみなければ分からないほどの床の仕掛けボタンらしきものを踏んでしまい、あっという間に口を開けた地面に悲鳴と共に吸い込まれていった。
「シオンさん!?」
 表情を険しくする、シュライン。だが覗き込む間もなく、何もなかったかのように地面の穴は閉じ、ボタンすら消滅してしまった。
「───洞窟に、主でもいるのかしら。それともただのからくり?」
 軽く眉をひそめながら、シュラインはそれでも落ち着いた様子でプレートに再度歩み寄る。と、それに呼応したようにプレートに文字が現れた。

 低い 丘の 上の犬は 関係が ないことを 心に刻んで 旅立ってくれ

 これも情報通りの文章だ。
しかし───この文章は確か、「低い」を開けた時に現れた文字、ということではなかったか。
 シュラインは暫し考え込み、思い切ったように左側の扉を開けた。
 ところが。
「……戻った……?」
 そこは洞窟の入り口付近。他二人と別れた場所そのものにシュラインは立ち尽くしていた。
「全部の扉を開けなければいけない、ということではないわよね」
 確かに最初は、全部の扉を開いてみようとは思ったのだが。時間が切迫している以上、人手を分けた。それがまずかったとは思えないのである。
 そう言った途端、空間が歪んだ。
「!」
 一瞬吐き気すら覚え、シュラインは目を閉じた。ひどい眩暈を起こすほどの歪みによる揺れ───何かに掴まろうとしたシュラインの手は、キンとするほど冷たいものに触れた。
「……なに……?」
 三下の言うような鉄の扉も何もなく、いきなりシュラインは雪面、銀世界に出ていたのだ。
 雪は確かにやわらかい。これで歩けるのかと思ってしまうほどである。
 けれど、それよりも驚いたのは。
「空……?」
 見上げたシュラインは、そう呟いた。
 その銀世界はまるで外のそれそのもの。太陽こそないけれど、青い空のようなものが頭上に燦然と在る。見ると、向こう30メートルほど先に扉が見えた。
 体勢を立て直し、シュラインは扉へ向かう。そこで不穏な音を聞き、思わず身を伏せたが遅かった。
「なんてこと───」
 雪崩である。身体に危険はないが、心臓が飛び跳ねるには充分な脅威を見せてくれた。
「慎重に騒がず進んでいたのに、何故?」
 雪崩がやむのを冷静に待ち、やはりこの雪自体に魔女でもいるのかと疑っていると、右方から人影がやってきた。先程別れさせられてしまった、シオンである。手には何故か、小さな雪だるまを持って。
 色々と聞きたいこともあったが、シオンが先手を取って指差した。
「シュラインさん、ほらあそこ。扉のほうにはもう、人影がいます。あれ、翼さんじゃありませんか?」
 見ると、確かに他と間違いようのない姿の翼が扉の前付近に立ち、こちらに小さく手を振っているようだった。
「聞きたいことは後で。行きましょう───絶対に騒がずに」
「そうですね」
 シオンは何故か少しバツの悪そうな顔をしたが、シュラインの後をすぐに追った。

■合流、そして番をする冬狼達■

 扉の前で合流した三人は、そこにいる筈の番狼がいないのを不審に思った。
「どうも、三下さんからの情報と少しずつ食い違いがあるような気がしてならないわ」
 シュラインの、尤もな意見。
「大体この洞窟は誰が造ったものなのでしょう? もしかしたらその主がいるとも思ったんですが」
 と、シオン。続けて、翼が言った。
「その主が鍵なのかもしれないね」
 しかし、事態は何度も言うようだが切迫している。慎重さは必要だが、ゆっくり考えている余裕もないのだ。
「この大きな扉、どうやったら開くのかしら?」
 こつん、と氷柱のぶら下がった巨大な「黒い氷の扉」を指でノックするようにした、シュライン。それを合図にしたように、翼の神経に緊張が走った。
「───出たよ」
 振り返って確かめるまでもないが、人間の反射的行動としてそうせざるを得ないシュラインとシオン。
 グルルルル………
 今にも襲い掛かりそうな勢いで牙を向いている、白い狼が一匹。普通の狼より三倍の大きさはあろうか。
「そっちがその気なら、僕もその気にならざるを得ないんだけれどね?」
 と、翼。彼らにも使命というものがあり、だから訳を話して戦闘は避けるつもりだったのだが。
「……戦闘は避けられないのかしら」
 と言いつつ身構える、シュライン。彼女の予想とは大きく外れていたため、ここは臨機応変でいくしかなかった。もし当たっていたら……高い丘にいる狼は距離もありこちらに来れないだろう、と踏んでいたのだが───と、その時。
「冬狼ですか……ウィンターウルフ……餌を持ってきて正解でしたね」
 ふっと目を優しげにして、ひとり無防備に近づいていく、シオン。シュラインがハッとしたが、翼は「様子をみよう」といったふうに手で制した。
「そんなに気を張ってばかりでは、せっかくの使命も果たせませんよ?」
 にこにこと、まるで友人にでも接するかのように冬狼の前に屈みこみ、持ってきた餌を手の上に乗せる。噛み付かれる程度のことは覚悟していた、が。
「ついでに───ねえ、僕達は別に君達が大事に護っているものを奪おうとしているわけじゃない。少しの間でいい、必ず返すから貸してはもらえないだろうか?」
 翼のその言葉に、冬狼の耳がぴくりと動く。ぺろり、とシオンの手の上の餌を飲み込むと、じっと三人それぞれを見つめ───何を思ったか、遠吠えを始めた。
「通じなかったのかしら。仲間を呼んでいるのでは?」
 それでも冷静な、シュライン。
「いや」
 翼が再び振り向き───シオンも立ち上がる。
「どうやら、この遠吠えがこの扉の『正式な鍵』だったようですね」
 シュラインの背後で、凍てついていた氷の扉が今しも開かれるところだった。


■オルゴール■

 扉の中に入ると、多少涼しいだけで寒くはなかった。そういえばさっきも寒さを感じなかったな、とシオンは思う。そこにあった階段を三人で降りていくと、いきなり開けて部屋が現れた。
 部屋の中央が一段高くなっており、その上に3メートル四方の透明な立方体がある。良く見るとその立方体は完全に透き通った氷で、その中央にオルゴールのような箱が口を開けて浮かんでいた。その氷の真下に、プレート、そして文字。

 egdcgfeeefgag

「ここは三下くんの情報通りね。確かこれで『正解の歌の名』を言えばよかったのよね?」
 シュラインの確認に、静かに頷くシオンと翼。
「エーデルワイス、ですね」
 シオンがそう言っただけで、『それ』は来た。
「なんだ……この寒さは」
 何の予兆もなく一同を取り巻いた、それこそ凍傷になってしまうほどの寒気。部屋の中が見る間に氷柱でいっぱいになっていく。出口も断たれてしまった。
「もしかして……歌名だけじゃなく、歌わなくてはいけないのではないですか?」
 シオンの言葉に、「なるほど」、と翼。
「歌名だけじゃ中途半端ってことか。ねえ……悠長にしてると僕達もああいう風になるのかな」
 ああいう風、とは決して三下のことではない。彼はまだ幸運なほうだったのだ、あの奇妙な呪いだけで。
 翼の視線の先を見やり、シオンとシュラインは唾を呑み込んだ。
 不気味に青く光り始めた部屋の壁、その中にたくさんの人間・生物が氷漬けにされていた。恐らくこの洞窟の主、オルゴールの主が「怒って」そうしたのだろう。
「歌なら、どうせなら上手なシュラインさんに頼みたいです、私としては。私が歌っても」
 怒りを増やしてしまう気がする、とぽつりとどこか淋しげなシオンに、こんな事態だというのに余裕を持って苦笑しながら、翼も「それがいいね」と同意した。
 シュラインは「エーデルワイス」の唄を唄った。歌詞を忘れていなくてよかった。

「高い 山の 奥に 白い 露に 濡れて咲く 花……」

 唄い終わると同時に、寒気は嘘のように過ぎ去り、元の冷涼な空気だけが取り残された。
「ああ、良かった」
 と、心底から安堵しようとしたシオンは、いやいや、と気を取り直す。
「まだ安心しちゃ駄目ですね。問題の女性のところにこれを持っていくまでは」
「同意」
 些か気障っぽい笑みを見せ、シュラインの唄の終わりのほうからオルゴールのような物が共鳴をし、氷の中で伴奏をかなで始めていた。細かな振動が発生し、一瞬氷がぶれたかと思うと、次の瞬間、氷がすべて砂粒ほどに砕け、台座の上にはオルゴールのような物だけが残され……それでもまだ、伴奏は続いている。
「……このまま持ってっちゃっていいんでしょうか?」
「それだとかなり注目を浴びることになるよ、僕はどうせ浴びるなら清潔で暖かなシャワーがいい」
「オルゴールのようなもの、だから……この開いている蓋を閉じれば多分」
 言いながら蓋を閉めると、シュラインの手の中で、その「不思議なオルゴール」はぴたりと演奏をやめた。
 そして三人は急いで洞窟を出───帰りは全く一本道の洞窟で、苦にはならなかった───碇麗香が見舞っている筈の彼女の知人という女性の入院先に向かったのだった。


■アノ ナツカシキ ……■

 その病室では、碇麗香が今か今かとばかりにそわそわと、また、知人女性を心配そうに見つめていた。三人が到着したのを見ると、途端に丸椅子から立ち上がる。
「どうだった?」
 シュラインが麗香にオルゴールのようなもの───蓋には、「音匣」と描かれてあった───を渡し、シオンと翼は同時に今回の被害者である「女性」を見舞いがてら覗き込んだ。
 女性は、横になってはいなかった。ただ上半身を起こし、じっと外を見て、何をしても何の反応も示さない。年の頃はまだ若い部類だろう、セミロングの髪なのだが、色はすべて抜け落ちて真っ白になっていた。
「これが例の、か?」
 窓際から離れて麗香の傍から覗き込んだ草間が、「音匣」を覗き込む。麗香は急いたように蓋を開けた。途端、静かに曲が流れ出す。どうやら、あの洞窟でもこの「音匣」が奏でた「エーデルワイス」のようだ。
 ふいに女性は、視線こそ変えなかったものの───瞳に生気を表したと共に涙を流し始めた。
「よかった───涼子(すずこ)、やっと反応を示してくれたのね」
 心底ホッとしたように、麗香。聞くとただの知人ではなく、どの筋かは分からないが結構前からの友人だったらしい。
「霊的なものは、抜けたようだね」
 『感じ取り』、翼が呟く。
「よかったわ。私達も悪霊になんてならないよう、ちゃんと自分なりの人生を歩まなくっちゃね」
 と、シュライン。
「そうですね。ところで……本当に、何故悪霊なんかがとりついたのでしょう? この女性絡みの霊だったんでしょうか」
 シオンが言うと、涼子は顔を覆っていた手をどけ、また虚空を見つめた。思い出をその宙に探そうとでもするかのように。


 涼子は貧乏なピアニストだったが、ようやくハーモニカ吹きの旦那と貯金したお金で小さなロッジをたて、昔からの夢だった「花畑に埋もれるほどのピアノ演奏の流れる小さな暖かいペンション」を実現することが出来た。
 旦那は「涼子にぴったりだ」とエーデルワイスの花を一番に花畑にし、毎日のように愛の言葉のかわり、と悪戯っぽく微笑んでエーデルワイスの曲をハーモニカの音色に載せて涼子に贈っていた。
 だが。
 涼子が買い出しにいっていたある日、その当時その辺りで噂されていた放火魔にロッジを焼かれ、ちょうど病床に臥していた旦那を救出することもかなわず───放火魔に焼き殺されていた霊のうち一体の悪霊となってしまったそれが、哀しみと絶望に暮れていた涼子にとりついたのだという。


 雪郎(ゆきお)さん、と涼子はつぶやいて、泣き疲れたのか───今までの疲労もどっと押し寄せたのだろう、そのまま倒れこみ、ベッドに横たわって眠ってしまった。
「エーデルワイス───色々な物語を生んでいる花ね」
 なんとなく、麗香はしんみりとした様子でそう言った。


 三人はそれから喫茶店でそれぞれ注文したものを飲んだり食べたりしていた。
「そうそう、あのオルゴール……『音匣』、ちゃんと返しにいかなくちゃいけないわね」
「結局洞窟の主云々については分からずじまいでしたが、今回の主体である依頼は無事果たせましたし、心配していた女性……涼子さんも回復に向かうとの医者の診断結果が出ましたし、一段落ですね」
「無事に終わってよかったけど……涼子さんの心の傷もいつか少しずつ治っていけるといい」
 シュラインにシオン、翼は其々に物思いに耽る。
 シュラインは洞窟に氷漬けにされていた人々を思う。
 シオンの手には、何故か未だ溶けない小さな雪だるま。
 翼は、あの冬狼や洞窟の主のことを少しだけ。
 そして、

 誰の頭にも今、「エーデルワイス」の曲が、どこか郷愁を伴って優しく流れていた。


 ───涼子、エーデルワイスの花言葉、知ってるかい?
 ───ええ、雪郎さん。いろいろあるけれど、あなたが好きなのはどれ?
 ───「甘い想い出」、だよ。涼子にたくさんの想い出をあげる。一生賭けて。

 ───ぼくは幸せだったよ、涼子。きみには、
           ───ぼくがいつも傍にいる。想い出を胸に秘めて、忘れないで、束縛されないで……生きていってごらん
 ───ほら、涼子。ごらん、エーデルワイス(甘い想い出)が夢の中にまで、あんなに満開だ───




《完》



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
☆0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員☆
☆3356/シオン・レ・ハイ/男性/42/びんぼーにん 今日も元気?☆
☆2863/蒼王・翼/女性/16/F1レーサー兼闇の狩人☆






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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回ですが、正直こんなに話が思い通りに進み、また、進まなかった部分も悔しいながらも(笑)あったのは初めてでした。何かというと───絶対に冬狼との戦闘はあったと想定して作っていたのですが、見事に「いつもの自分の作品」を表すがごとく、予想外の展開となってしまいました(笑)。
洞窟については、また、異界のほうででも書こうかなとも思っております。その時もしかしたら依頼をまた出すかもしれません。
因みに今回は、最初の辺りだけ個別となっていますので、他の参加者様のものも併せてご覧になると楽しいかもしれません。

■シュライン様:シュラインさん、連続のご参加、有難うございますv 今回もやはり、「音・唄」が関係しているからか、シュラインさんの歌声を使用させて頂きました。また、役柄としてはまたまた半リーダー的&まとめ役(進行係(?))とさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか(笑)。
■シオン様:今回で二度目のご参加、有難うございます。雪、というのに関してシオンさんがご参加された時点で冬狼云々の計画はパーになってしまってわけなのですが(笑)、また新しい展開が見られたので、わたしとしてはとても勉強になりました。シオンさんの設定とは別に、餌、というのは考え付きませんでした───(笑)。
■翼様:初のご参加、有難うございます。翼さんの設定や能力を見て、これはどんな「敵」も勝ち目はないな、と一瞬思ってしまいましたが、それを克服(?)していってこその物書きというものです(笑)。……今回は、能力が殆ど出せませんでしたが、リーダーではないにしろブレーンとして動いて頂きました。竜巻で無事だったのは、翼さんの能力のひとつ───「五感〜」を使わせてもらったと考えてください。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。それを今回も入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。「音匣」についてはシリーズ化もできるな、とか思い始めたのですが、皆様は今回の依頼で何かを感じ取って頂けましたでしょうか?
実のところ、「エーデルワイス」は某映画のモデルとなった女性=今回の被害者の女性のモデルでしたので、その唄を選曲させて頂いたのですが───既にお分かりかと思われます(笑)。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆