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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


無間の恐怖〜Endless Fear〜

Opening

「これはどういう事?」
碇・麗香の凄みの効いた声に、震え上がる三下・忠雄。
「彼岸凍(ひがん こおる)の締め切りはとっくに過ぎてるわ、これ以上待ったらアトラスの発行にも響くわよ」
「そ、そう言われましても……」
「担当編集者でしょ、しっかりしなさい!」
麗香の激に今度は縮こまる三下。
優良作家だから三下でも大丈夫、と任された、怪奇小説家、彼岸凍の担当だったが、いつもの如く問題が起こっているらしい。
「いや、それがですね……」
その時の事を思い出しながら、三下は話し始めた―

「書いた小説が現実になる、ですか?」
「えぇ、そうよ」
目の前に座る、虚ろな目をした女性―彼岸凍を見て、内心ビクつく三下。
最初に会った時は、本当に怪奇小説家なのかと疑いたくなる程明るかった凍が、今はとても怪しく見える。これが本来の凍の姿かもしれないが、それにしては変化が急だった。
「私の書いた小説の通りに、怪奇事件が起きるの」
それに、その言葉。先程から凍は、自らの身に起きた怪奇現象を夢見心地な口調で語っていた。
「その、咎野さん、ですか?その人に原稿を渡すと、本当に起きる、と」
三下の問いに頷く凍。
話は、数日前に遡る。家で原稿を書いていた凍の元に、咎野と名乗る男が現れたのだった。
咎野は、自分に原稿を渡してくれれば、それと全く同じな事件が実際に起こる、という。疑う凍が試しに原稿を渡すと、次の日、原稿の通りの事件が起こったという。
「偶然でしょう?」
「偶然が三度も続けて起こる?」
そう言われれば返す言葉も無い。
「という事だから、アトラスの記事、書けないの」
「ええっ?!」
「もう、寝る時間も惜しくて。あぁ、早く来ないかしら」
どこか狂の混じった笑みを浮かべる凍を見て、三下の額に冷や汗が浮かんだ。

「……という事なんですよ」
「このままだと彼岸は死ぬわね」
三下の説明を聞いて即答した麗香。
「怪異に仕事を頼まれた人間の末路は悲惨だわ……さんしたくん、彼岸を助けなさい」
「えぇ、僕がですか?」
「拒否権があると思う?」
にこやかに、しかし、殺気の篭った笑顔で言われ、首を勢い良く左右に振る三下。
「そう、それでいいの」
満足げに頷く麗香を見ながら、やっぱ就職場所間違えたかも、と内心号泣する三下だった。

Main

「わたしくで良ければ、お手伝いいたしましょうか?」
横合いから放たれた声に、すがるような視線を向ける三下。そこには、紙袋を持った女性が佇んでいた。
「鹿沼さん、いいの?」
「はい、凍様を助けたいと思いますし。それに」
「それに?」
碇編集長の声に、視線を三下に向ける鹿沼・デルフェス。おろおろとしている三下に笑みを浮べて、碇編集長に視線を戻す。
「心配ですから」
「心配する事無いわ、危なくなったら遠慮無く盾に使って」
「な、何の話してるんですか?」
不安がる三下に、怖い笑みを向ける碇編集長。さぁぁ、と三下の顔が青くなった。
「面白そう、みあおも行ってみたいな」
応接間のソファから、びしっ、っと手が上がる。
「みあおちゃん、大丈夫?」
「だいじょうぶだよ〜」
ひょこひょこ、と三人に近付いて来る小学生。にぱっ、と笑顔を浮べて三下を見上げる。
「書いた事が現実になるなら、色々やってほしい事があるしね」
「いや、そういう話じゃないんだけど……」
海原・みあおの笑顔を見て、苦笑を浮べる三下。面々を見回して、少し不安げな顔になる。
「後一人くらい、手伝ってくれるといいかなぁ」
「何の……話ですか?」
背後からの声に、びくっと身を震わせる三下。声の方もそれに驚いて小さく悲鳴を上げた。
「は、羽雄東さんですか」
「は、はぃ……」
振り向いた三下の視線の先で、原稿が入っているのであろう茶封筒を胸に抱えた羽雄東・彩芽が、不安げに視線を震わせる。
「短く言えば、とある小説家が命の危機にあってるのよ」
「小説家…………私も手伝って……いいですか?」
「助かるわ。さんしたくんだけじゃどうにも、ね」
じとっとした視線を三下に向ける碇編集長。反論出来ない三下が床にのの字を書く。
「それでは、羽雄東様に詳しい話もしなくてはならないですし、一度作戦会議と参りましょうか」
デルフェスの言葉に従い、応接間へ向かう女性陣。
「……あ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜」
気が付けば独りになっていた三下が、慌てて後を追った。

「とは言っても、凍様の状況が解りませんと、対処が出来ませんわ」
溜息と共にデルフェスが呟く。
「その、咎野って人とは会ったの?」
みあおの問いに、首を横に振る三下。
「何か手がかりがあればいいのですけどね」
「ぁの……ぇっと……」
何か話したそうな彩芽。皆の視線が一気に集中する。
「ぁ、その、ぇっと……」
元々人の視線は好きなほうではない、必要以上に萎縮してしまう。
「ぇと……その……占ってみましょうか?」
「へぇ、彩芽って占い出来るんだ〜」
囁いているかの如き小さな声だったが、みあおの耳にはしっかり届いていた。
「ぁ……はぃ」
「確かに、怪異が起こっているのなら、占いで何か解るかもしれませんわ」
デルフェスの助け舟に気を取り直して、タロットデッキを取り出す彩芽。
「大アルカナで、大まかに占ってみます」
呟くように言うと、手際よくカードを繰る彩芽。
程無くして、三枚のカードがテーブルの中央に置かれた。
一枚目のカードは、“隠者”の逆位置。
二枚目のカードは、“悪魔”の正位置。
三枚目のカードは、“塔”の正位置。
「過去、現在、未来のカードです」
「……それで、これから何が解りますの?」
デルフェスの問いに、指を伸ばして“隠者”のカードを指差す彩芽。
「“隠者”は、世から離れ、深淵の知識を持つ賢者を現しています、しかし、それが逆になれば、それは世間への嫌気、孤独感へと繋がります」
「つまりどういう事?」
「世間への不満、自分が認められない怒り……そういう、負の思いが凍さんの中にあると思われます」
彩芽の説明に、肯くみあお。
「じゃあ、現在と未来は?」
「“悪魔”は欲望、そして枷を現します。つまり、凍さんは欲望の虜となっている。そして、“塔”は、全ての崩壊を表します」
カードの上に指を滑らせながら説明する彩芽。
「つまり、このままでは、凍様は……」
「恐らく……」
「死んじゃうんだね〜」
デルフェスと彩芽が言いよどんだ言葉をさらりと言うみあお。
「じゃ、じゃあ、早く助けに行かないと」
焦りを含んだ三下の台詞。
「そうですわね、急ぎましょう」
各自厳しい表情で出発の準備をする中、みあおだけが楽観的な笑みを浮べていた。

「今忙しいの、用件があるなら早く言って」
四人の方を見もせずに、凍が言う。
「ねぇねぇ、どんな原稿書いてるの?」
ひょい、と凍の肩越しに原稿を覗き込もうとするみあお。しかし、さっと隠されてしまう。
「けち〜」
「原稿は誰にも見せないように言われてるの」
振り返りみあおを見て、刺々しい口調で言い放つ凍。血走った目が痛々しい。
「でもほら、アトラスの原稿も書いた方がいいんじゃないかな?気分転換にもなるし」
「嫌よ」
一言で切り捨てられる。そのまま、原稿に顔を戻す凍。
「……しょうがありませんわね」
溜息と共に、凍に近付くデルフェス。凍の腕を掴み、筆を止める。
「三下様」
「……え、あ、はい」
彩芽の後ろで小さくなっていた三下が、ひょこひょこと凍に近付き、原稿を取り上げようとする。抵抗する凍だったが、両の手を掴まれて身動きが取れない。
「うわ」
原稿を読んだ三下が表情を歪める。
「これ、本当に現実に起こすつもりだったんだですか?」
「そうよ、それが私の力だから」
ぎりっ。
歯軋りの音が、やけに大きく聞こえる。
「……離しなさいよ」
「あ、はい」
戒めを解かれた凍が、腕を摩りつつ恨みがましい視線を四人に送る。
「何で、邪魔するのよ」
「みあおは邪魔するつもり、無かったんだけどね」
ぱたぱた、と彩芽の元へ走りつつ、みあおが呟く。
「怪異に染まった方の末路は悲しいものですわ。凍様も、早く目を覚まされてください」
「これは私が手に入れたチャンスなの、誰にも邪魔なんかさせないわ……」
デルフェスの説得も耳に貸さない凍。
『そこで三下は気付く、自らの足を掴むその腕を』
「え……」
妙に歪んで聞こえる凍の台詞を聞いて、足元を見る三下。
「う……うわ――」
叫ぼうとしたその瞬間、三下の体を何本もの痩せ細った腕が掴んだ。
「三下さんっ!」
傍に居た彩芽が助けようとする直前に、三下の体が“沈み”、そのまま消えていく。
『そして、隣の女にも、地の底からの腕は―』
「それ以上は言わせませんわ」
ピシッ。
小さな音と共に、凍の台詞が止まった。彩芽を掴もうとした腕も動きを止めている。
「暫く、黙って貰いますわ」
凍に触れていた手を離すデルフェス。彼女の“換石の術”で石像と化した凍は何も言わない。
「で、これからどうするの?」
三下が消えた床をつついていたみあおが、デルフェスに問う。
「後は、怪異の元凶を断つだけですけども……」
「元凶、という訳では無いのですけどね」
デルフェスの言葉に応えるように、その人物は現れた。

「それで、咎野のおじちゃんが原因なの?」
「いえいえ、そういう訳では無いのです。それに、おじちゃんと言わないでくださいよ、結構気にしているんですから」
見た目は普通の中年男である咎野が、みあおに苦笑を浮かべる。
「でもさぁ、咎野の所為でこうなったんでしょ?」
「まあ、半分はそうですけどね」
「半分?」
問い返すみあお。ちなみに、デルフェスは凍を、彩芽はみあおを守れる位置に立ち、咎野の動きに目を光らせている。
「私はただの伝令です。怪異を発生させているのは彼岸女史の言葉でして」
「う〜ん、ちょっと訳わかんない」
首を傾げるみあお。少し考えてから、咎野は言葉を紡ぐ。
「つまりですね、形を持たない、怪異の“素”のようなものがありまして、彼岸女史の言葉は、それに形を与えている、という訳です」
「じゃあ、凍が死にそうになってるのは何故?」
「それは、彼岸女史が、言葉が現実になるという現象に魅了されているからでしょう。別に、こちらが何かを取っている訳ではありません」
言ってから、どこか悲しそうな視線を凍に向ける咎野。
「じゃあ、どうすれば凍は助かるの?」
「そうですね……私の事も含めて、怪異の事を全て忘れさせれば良いです」
みあお達に背を向けながら言う咎野。
「咎野はそれでいいの?」
「私は怪異に形を与えられる者を見つけるだけの伝令です。人殺しでは無いですからね」
それだけ言い放つと、外へ出て行く咎野。
「……で、どうやって凍様の記憶を取りましょうか」
「それなら……黒琴呪臨で何とかなるかもしれません」
少し大きめのタロットデッキを取り出す彩芽。
「でも、何が出るかは運次第ですが……」
呟きつつ、タロットをカットする。その身に、青い羽が舞い降りた。
「……これです」
羽に気付かない彩芽が引いたカードは“月”。
「池から水を汲む絵柄は、記憶を汲み取る、という力になる……」
そっと凍に近付き、“月”のタロットを額に当てる。途端に、タロットが光を発した。
「ぅわぁぁぁぁぁぁ……あれ?」
声に振り向いた三人の前に、腰を抜かした三下の姿が映る。
「どうやら、記憶と共に怪異も消えたみたいですわね」
安心した声で呟くと、凍に触れるデルフェス。凍の体が、元の色に戻った。


「いやぁ、ごめんなさいね、熱出して寝込んじゃうなんて作家失格だわ」
書きあがった原稿を三下に渡しつつ、凍が笑う。
消えた分の記憶は整合されて、“高熱で記憶が飛んだ”という事になっていた。
「いえいえ、原稿が出来たんですからいいですよ。で、どんな話なんですか?」
「ん〜とね、売れない小説家の元に、書いた物を現実に起こしてやるって言う男が現れるの。小説家はその魅力に取り付かれて、最後は自分の原稿に取り殺されちゃうって話」
凍の言う粗筋を聞いて、冷汗を浮べる三下。
「そ、それ、いつ考えたんです?」
「いや、不思議と頭の中に浮かんできたのよね、天啓ってやつかしら」
でも、と小さく呟く凍。
「そんな事がホントに起こったら良いわよねぇ。ま、そんな事起こりっこないんだけど」
「そうですよ、絶対に無いです、そんな事」
「そうよねぇ」
笑う凍に向かって、何度も首を縦に振る三下だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1415/海原・みあお/女/13/小学生
 2181/鹿沼・デルフェス/女/463/アンティークショップ・レンの店員
 1560/羽雄東・彩芽/女/29/売れない小説家兼モグリの占い師
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■         ライター通信          ■
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どうも、渚女です。
今書いているこの文章が現実に起こったら、どうなるだろう。そんな事を考えながら書いた今回の依頼、楽しんでくだされば光栄です。
ここが良かった、ここをもっと良くして欲しい、などありましたら、お気軽にお手紙くださいませ。

みあお様はある意味初めて、実は三回目でしょうか?今回も参加ありがとうございます。
デルフェス様は初めまして、渚女の文章、どうでしたでしょうか?
彩芽様も初めまして。私もタロットカード好きで、自前のライダータロットデッキ片手に文章を考えました、楽しんでくだされば幸いです。
それでは、また次の怪異で会えることを願っております。