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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


トワイライト・パッセンジャー


1 よろず屋Ginner 

 とあるマンションの一室に、突如電話の呼び出し音が鳴り響いた。
 よろず屋Ginner。
 主にインターネットを介して仕事を請け負うこの店に客の訪れは少なく、この日も室内にいたのは店主やスタッフを含め、顔馴染みの友人ばかりだった。
 電話も珍しいなぁ、と呟きながら椅子から立ち上がろうとした店主に「私が」と声をかけて、東雲翔は歓談の輪の中から抜け出した。
「はい、こちらよろず屋G……」
 応答した翔に、電話の向こうから話しかけてきたのは落ち着いた大人の女性の声。
『わたくし、草間興信所のシュライン・エマと申します。恐れ入りますが、綾小路雅さんはそちらにいらっしゃいますでしょうか』
「あら、草間さんの所の……」
 翔がそう口にした途端、笑いさざめいていた室内に静けさが戻る。
「雅さんですね、少々お待ちいただけますか?」
 保留ボタンを押して背後を振り向くと、綾小路雅が自らの顔を指し、「俺っ?」と驚いた表情を見せている。
「そうですよ、雅さん宛てです。草間さんの所のシュライン・エマさんから」
「姐さん、ケータイの番号しってんのに、何でここにかけてくんだ……?」
 胸のポケットから携帯電話を取り出しつつ、雅は小首をかしげる。
「あ」
「あ?」
「やべ。電源切れっぱなしだった」
 携帯のディスプレイを見つめながら呟いた雅に、翔をはじめ、室内にいたメンバーが呆れたように肩をすくめる。
 そんな周囲の反応に眉を顰めながらも、雅は翔から受話器を受け取ると保留ボタンを押し直した。
「はい、電話替わりました、綾小路ですっ。ああ、姐さん、わりぃわりぃ。そう、ケータイ電源落としっぱなしだったんだよ」
 陽気に喋り始めた雅の声に、皆何気なく耳を傾けている。
「姐さんから俺に電話っていったら、また怪奇系の依頼でも入ったんだろ。あ、やっぱり。うん、OKOK。メモるんでちょい待って」
 
 草間の母校、廃校、幽霊騒動 調査
 
 ミミズののたくったような字で大きくそれらの文字を書いて、興味津々といった風情のメンバーへと見せる。
「はい、私、行きたい」
 手を挙げながら電話の向こう側に聞こえないように、小さい声で翔が主張する。
 ぐるりと周囲を見回し、それ以上手が上がらないのを認めると、雅はシュラインとの会話を再開した。
「それでさ、俺の方で何人か連れて行きたいのがいるんだけどさ。2人ばっかり連れて行ってもいい? ほら、俺とよくつるんでる外村灯足と、今電話に出た東雲翔。OK? よかった。おぅ。じゃ、資料待ってるから」
 受話器を元に戻し席に戻ってきた雅に、翔はいたずらっ子のような楽しげな笑みを浮かべて話しかける。
「確か、灯足さんユーレイ苦手でしたよね」
「当日までばらすなよ、シノ」
 雅はにやりと笑い、他のメンバーにも同様に念を押す。苦笑、微苦笑を浮かべつつ、誰一人として雅の言葉に否を唱える者はいなかった。
「せっかく面白そうなものが見られそうなのに、そんなことしません」
 翔の言が他のメンバーの心情の総意のようだ。
「……女心ってわかんねぇのな……」
 思わず呟いた雅に、
「何か云いました? 雅さん」
 にっこりと微笑み返す翔。
「いーや、なーんにも」
 翔から視線を逸らしつつ乾いた笑い声をたてていると、鍵の閉まっていないドアが開き、渦中の人、外村灯足が姿を現した。
「噂をすれば影ってヤツか…」
 ボソボソと小声で雅が囁くと、
「どうしたミヤ」
 灯足はキョトンとした表情を浮かべる。
「いーや、なーんにも」
 

2 調査資料

件名:草間興信所より調査日程のお知らせ及び資料をお送りします
送信者:シュライン・エマ

この度は調査にご協力有難うございます。
調査日程は下記の通りとなりましたので、時間厳守でお集まりください。
実施日:  08 / XX
集合時間: 21:00〜
集合場所: 現地正門前(現地住所、使用交通機関等は添付ファイル1をご覧ください)
持参物 : 見取り図(添付ファイル2) 懐中電灯 携帯電話(充電を忘れずに)

添付ファイルについて
添付内容
・添付ファイル1(現地住所・現地までの交通機関案内・調査対象校沿革)
・添付ファイル2(学校見取り図・怪異について(抜粋))

今回の調査は「調査対象建築物」内にて起こるといわれている「怪異」の真偽・原因を詳らかにすることを目的としています。世間で噂される「調査対象建築物」の「怪異」が、どこまでが実際に起きている事象なのか、あるいは噂にしか過ぎないものなのかを確認するためのものです。除霊・浄霊を目的としたものではないことをご了承ください。

当興信所の調査の結果、40年の歴史を持つこの中学と関係する死亡記事は12件。
但し、いずれも在籍学生の交通事故死によるものであり、今回の怪異と強く結びつけられるような事件・事故は調査対象校ではなかったことを記しておきます。

各調査員の事前調査結果
インターネット、調査員による調査対象近辺の噂の収集などの結果、概ね「怪異」は以下の2通りにカテゴライズされます。
・音(校舎内から複数人の声がする。泣き声、歌声、ピアノの音などがする等)
・人影(教室内に複数人の人影。屋上、校庭、廊下、体育館に人影等)
(「怪異」の噂については添付ファイル2「怪異について」をご覧下さい。怪異目撃場所については見取り図内に印をつけてあります)

質問等ありましたら、事前に草間興信所まで電話・メール等でお問い合わせください。
(担当・草間武彦/シュライン・エマ/天壬ヤマト)
では当日は宜しくお願い致します。

 

3 集合

 はい、定刻どおりにお集まり頂いて有難うございます。
 草間興信所のシュライン・エマです。
 校舎内の調査にかかる前に、グループ分けと注意事項について説明します。
 
 まずはグループ分けについて。今回は3組に分かれて、各担当区域を調査して頂きます。
 
 まず教室棟を回ってもらうのが、草間所長、高台寺孔志さん、海原みあおさん。
 高台寺さん、心なしかがっかりしてるようだけれど? 従妹のお嬢さんから重々監督をお願いしますって言われてるのよ。ね、武彦さん。みあおちゃんも高台寺さんと調査行ったことあるのよね。宜しくお願い。
 
 次に校庭・体育館・裏庭を回ってもらうのが、東雲翔さん、外村灯足さん、綾小路雅さん。
 そこ。どうしたの。ええと外村君だったかしら。具合でも悪いの? 顔色悪いけれど。大丈夫?……ってどうして綾小路君がそこで「大丈夫です」って答えるのかしら。東雲さんは初の調査だけれど、三人とも気心がしれているようだから大丈夫ね?
 
 最後に特別教室棟を回るのが、私、シュライン・エマと天壬ヤマトさん、初瀬日和さん。
 実際の調査になると元気になるわね、天壬。新聞縮刷版に目を通している時はあれほど青色吐息だったのに。日和さんは、手を傷めないように気をつけて。私、あなたのチェロのファンなのよ。何かあったらその天壬を盾にしていいから、ね。
 
 はい、では注意事項です。
 今回、事前調査の時点で実害が出たという話はなかったので大丈夫だとは思うけれど、何か不測の事態が起こった場合は所長や私、もしくは他グループの人に連絡をしてください。各自の携帯電話のメモリに他のグループの人の番号を登録しておいて。
 
 いい? 出来たわね。
 
 はい、あと各グループに一つずつ、テープレコーダーとデジカメを預けておくわ。
 レコーダーはここを出発した時点で録音スイッチを入れてくれて構わないわ。
 緊張する必要もないし、ずっと黙っている必要もありません。普通にしてくれていて結構よ。
 逆に録音してるからって会話に妙な演出をしないこと。
 デジカメの方はそれらしい状況に出くわした時に使用して。
 
 調査時間は最長3時間。それまでにここに必ず戻ってくること。たとえ調査途中であったとしてもよ。
 
 じゃ、解散。宜しくお願いします。



3 調査 

◇校庭の隅
 
「かーえーる」
 翔がレコーダーの録音スイッチを入れようとしたその時、灯足が地を這うような低い声でそう呟いた。
 思わず手を止め、顔を上げると眉を顰めた灯足の顔が目に入った。
「ここまで来て何をいうかな、この馬鹿殿。いい加減に腹くくれって」
 懐中電灯の光を自らの顔に当てながら叱りつける雅は、とても楽しそうだ。
「そうですよ、灯足さん。もうここまで来たら覚悟決めましょうよ、ね」
 翔がそう言葉をかけると恨めしげな眼差しで見つめられる。
 普段こういった種類の表情とは無縁な人だけに、新鮮な感じがして翔の顔にも笑みが浮かぶ。
「お前ら2人して、仕組んだな……」
 2人だけじゃないけど、と心の中で呟きながら翔は笑ったまま、何のことですか?と嘯(うそぶ)いてみせる。
「……ミヤとの調査って考えてみりゃ、毎度毎度ユーレー絡みなんすけど」
「……オメー、気付くのメチャクチャ遅せぇ」
 ブツブツと呟く灯足に雅が呆れ顔で応える。
「ミヤ、お前ってぇ奴はー」
「何だ、馬鹿殿」
「馬鹿殿呼ぶんじゃねぇっ」
 手が出そうな雰囲気に、ハイハイ、と翔が割って入る。
「録音開始しますよー。灯足さん、弱気発言残る上に他の人に聴かれちゃいますから、気をつけてくださいね。灯足さんがユーレー駄目だって噂、さらに広がっちゃいますよ。雅さんも、さすがに草間さんもラップ音と殴り合いの音は聞き間違えてくれないですから喧嘩するつもりならその覚悟で」
「ここはさァー、喧嘩なんてやめてッと可愛らしく止めるところじゃねえの、シノ」
 自ら品を作ってみせる雅に、剣呑な光を双眸に讃えて翔は作った笑みを浮かべる。
「して欲しいんですか、雅さん。そうですか。……高くつきますよ?」
「冗談ですッ。冗談ッ」
 雅の言葉に小さく頷きながら、翔はレコーダーの録音ボタンを押す。
「……じゃあ、このまま体育館行って、裏庭回って、校庭へ戻ってくるってコースで調査を開始しましょ、ね」
 
 
◇体育館(録音テープより)
 

 ボールが床を叩く音が響いている。
 ターン、ターン、ターン、と一定のリズムを保ち、その音は止まることがない。
「東雲です。音、録れてるかな。今、体育館の中にいます。バスケットゴールも緞帳(どんちょう)もカーテンも何もない体育館です。もちろん、ボールだってないんです。それなのに」
 床にボールをつく音がする。今度は小刻みに。まるでバスケのドリブルをしているような音だ。
「あー、俺、綾小路です。他の2人には見えてないみたいなんすけど、バスケの練習してるみてぇ。数人のガキンチョがパスとかドリブルの練習してるのが、俺で微かに見える程度です。殿……灯足にデジカメで何枚か現場とってもらってるけど、写るかどうかは微妙じゃねぇかな」
 カメラのシャッター音がボールの音に紛れて聞こえる。
 ボールの音がいつのまにか増える。
 いくつものリズムが重なり、響く。
「殿、そこ。ゴール下んとこで1、2枚。シュート練習に入ったから」
「なんていうか、俺らっていうか。ギャラリー関係なしっって感じ。楽しそうにしてるぜ? っていうか、こっちに気付いてないんじゃねえの? 話しかけても全然反応ねぇんだ。これユーレーなのかな」
「私は本当にボールの音が聞こえるだけなんですけれど。怖くはないんです。こういう場所って何かとても嫌な感じの空気が漂っているものなんだけれど、そういうのが全然なくって」
「何か皆で喋ってるんだけど、俺の耳でも聞こえねぇ。粘っても無理そうなんで……おい、殿、場所移動するぜ」
 
 
◇裏庭

  
 裏庭は雑草の生い茂る林となっていた。
 人の手が入っていないせいか、草の丈は高く歩きにくいが、さほど広い面積があるわけでもないため、引き返すまでもなく3人は歩き進んでいた。
「中学っていやぁ、暴れてたことしか思い出せねぇんだわ、これが」
「今から思うと、思いっきり良心が痛むんだけど、俺」
 雅と灯足の脳裏に共通の思い出が蘇る。
 昇降口に向って投石をして硝子を割ったり、校舎内で花火をしたり。
「ミヤ、そういえば卒業式の日に他のガッコにお礼参りとか行ってたよな」
「オメーは教室の扉に金ダライ挟んで、担任の殺害を謀ったことがあったよな」
「違うっ。殺人未遂じゃねえって。ほんのイタズラ心で。センセーは笑ってたしっ」
 連鎖するように思い出す過去の悪行に、雅も灯足も生ぬるい笑みをその面に浮かべる。
「若気の至りとはいえ、色んな人に怒られたり、迷惑かけてたよな……。シノはどんな中学時代だったんだ?」
 後ろを歩いているはずの少女に、灯足は声をかける。
「シノが俺たちみてぇに暴れてたら、それはそれでおもしろ……。も、もちろん冗談だぜ?……シノ?」
 返ってくるはずの鋭いツッコミがないことを訝しがって雅は背後を振り返る。
「それを今、ここでやったら張り倒すからね、お兄さんたち」
 そこに立っていたのは、1人の少年……いや、青年だった。高校生くらいだろうか。顔を顰めている。
 雑木林の中に、翔の姿はない。
「オメー、誰だ? シノは?」
 こういった事態に慣れている雅が青年に向って詰問する。
「僕は、まあ、ユーレイみたいなもの、かなあ。人よりはそっちに近いかも。ちょっとこの学校に縁があってさ。たまたまここに遊びに来てたんだけど」
「で、シノは?」
 灯足の低音の問いに青年は肩をすくめる。
「元はといえば、お兄さんたちが穏便でない話をしてるのが悪いんだよ? 今、ここはみんなで同窓会っていうかお別れ会っていうか……そういうことをしてるもんなんだ。それなのに投石とか花火とか物騒な単語が出てくるから」
「から?」
「学校に嫌がられて、彼女だけ別の場所に飛ばされちゃった」
「おいっ。なんでシノだけなんだよっ。普通だった俺らだべ」
 ヒートアップする雅を、灯足がどうどうとなだめる。
「それで、なんでシノだけなんだ」
「本当は一緒に飛ばしたかったみたいなんだけど。お兄さんたち、力が強いから。治癒系の彼女だけちょっと飛ばされちゃったみたいなんだよね」
 すぐ戻せ、今すぐ戻せ、と叫ぶ雅にはいはいと青年は笑う。
「今、僕の相方が連れ戻しにいってるから、待ってなよ。彼女が戻ってきても悪さをしないこと。いいね?」
「やんねぇよ、もうガキじゃねぇしっ」
「ミヤがやろうっていったって俺とシノが止めるから」
「だからやんねぇって」
 2人の言葉にようやく青年が柔らかな笑みを浮かべる。
「このまままっすぐ進んで、裏庭を出た所で待っていて。そんなにかからないと思う」
 青年がすっと前方の方を指差す。
「分かった。……すまなかったな」
 灯足の言葉に青年は小さく笑って首を振った。それから、一つ伝言、と呟く。
「あ?」
「悪いモノはここにはいないから心配しないで大丈夫って、センセイに言ってもらえるかな。しばらく騒がしいかもしれないけれど、そう長くはないからって。みんな惜しんでるだけなんだよ。ここがなくなることが」
  
 
  
「シノ、シノ、大丈夫か?」
 ぼんやりとした翔に声をかけながら、灯足はその細い肩を何度か揺らす。
「あ…れ、ここは?」
「気付いたな。ミヤ、シノ気付いた」
 携帯電話でどこかと連絡をとっていたらしい雅に、灯足が声をかける。
「あ、気付いたんで今から集合場所戻るんで。詳しいことはそっち行ってから。はい」
 そういって携帯の通話を切る。
 どうやらいる場所は裏庭の入り口のようだった。
「大丈夫か、シノ? 遊ばれちまったみてぇで、悪かったな」
 大丈夫と呟きながら、灯足の手を貸り立ち上がる。
「特に怖い思いはしなかったし。きちんと案内してくれる子がいたし。……あれ、あの子は?」
 雅と灯足は翔のその言葉に顔を見合わせる。
「やっぱり、そっちにも出たんだな」
「そっちにもって……。え。あの子、そういう類なんですか」
「気付かなかったのかよ…」
 呆れ顔の雅に翔は顔を顰める。
「だって、触れたし、手温かかったし」
「ユーレーではなかったみてぇなんだな。殿にも見えたみたいだし」
 雅の言葉に、灯足も頷く。
「人というよりはそっちに近いって言ってたけどな。そいつらのことは多分、依頼者に聞けばわかると思う。知り合いのようなこといってたし」
 じゃあ、戻るべ。雅の言葉に2人は頷き、校門に向って歩き出す。
 差し出された灯足の手を握りしめながら、翔は背後を振り向いた。
「お礼、言い忘れちゃったな……」
 ありがとうね、と翔は暗い雑木林に向って小さく呟いた。




4 エピローグ


 老紳士は調査結果報告書から目をあげると、小さく吐息を漏らした。
 彼の前には録音されたテープ、写真などの証拠品もいつくか並べられている。その中には、みあおが提供した中庭を掘り返していた卒業生と調査メンバーの集合写真なども入っている。
「みんなあの学校を好いてくれていたんですねえ。そしてあの学校も私たちを好いていてくれた……」
 噛み締めるように言葉を発する依頼者の双眸は心なし赤い。
「彼は……元気そうでしたか、草間君」
 穏やかな口調の問いに、草間は小さく頷く。やはり依頼人は彼のことを想定して自分に依頼したのだと、確信する。そしてやはり彼のことは校長……草間の中学時代の担任にとっても忘れ得ない出来事だったのだと知る。
「たまに墓参りに来ないとこれからは枕元に出てやると言われました」
 そんなことしやしないのに、と草間は小さく笑う。
「彼らしい言い様ですね……」
「ええ。調査の前に一度いったんですが、また訪ねるつもりです。向日葵の花が好きなんだそうですよ」
 草間の言葉に、きっと喜びますね、と元担任は何度も頷いた。
「あと、こちらの調査員の報告書にある2人なんですが、ご存知ですか?」
 裏庭に現れたという高校生風の2人について尋ねると、紳士は瞑目して頷いた。
「あの学校の卒業生です。そして高校在学中に行方不明になってしまった子たちで。そう……ですか。あちら側に行ってしまっていたのですね……」
 噛み締めるように一言ひと言を発した。
 
「有難う。今回の調査で胸の痞(つか)えが取れたような気がします。あの学校は私が思っていた以上にみんなに愛されていたようだ」
 報告書類の入った鞄を大事そうに抱え、ありがとうと老紳士は深々と頭を下げた。
「先生、やめてください」
 慌てる草間に彼はかぶりを振る。
「感謝してもしきれないですよ」
 そう言って再度頭を下げる。草間はそんな紳士の姿に低く唸る。
「ああそうだ、今度、タイムカプセルを掘り出そうとしていた卒業生たちの呼びかけで、人数を集めて同窓会のようなものをするそうです。先生とも連絡を取りたがっていましたので、そちらの報告書にある連絡先に電話をしていただけませんか。皆さんきっと喜びますから」
 照れを隠した草間の言葉に、元校長は穏やかに笑って頷いた。
「そうですね……私たちも盛大に懐かしみ、別離を惜しむことにしましょうか」
 彼らとともに。
 
 
 有難う、と依頼者は三度頭を深く下げた。
 
 
 END



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2701 / 綾小路 雅 / 男性 / 23歳 / 日本画家
2713 / 外村 灯足 / 男性 / 22歳 / ゲーセン店長
2709 / 東雲 翔 / 女性 / 20歳 / 看護学生
2936 / 高台寺 孔志 / 男性 / 27歳 / 花屋
1415 / 海原 みあお / 女性 / 13歳 / 小学生
3524 / 初瀬 日和 / 女性 / 16歳 / 高校生
0086 / シュライン エマ / 女性 / 26歳 / 草間興信所事務員
1575 / 天壬 ヤマト / 男性 / 20歳 / フリーター

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■         ライター通信          ■
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皆様この度はご参加くださいまして有難うございます。
ライターの津島ちひろです。大変お待たせしてしまって申し訳ありません。
今回のウェブゲームは津島的夏企画で普段とは変わった形式で描かせていただきました。
物語は全体で前後半の2分割になります。
前半は
・シュラインさんグループ(シュラインさん/ヤマトさん/みあおさん)
・草間さんグループ(孔志さん/日和さん/草間さん)
・綾小路さんグループ(雅さん/灯足さん/翔さん)
後半は
・シュラインさんグループ(シュラインさん/ヤマトさん/日和さん)
・草間さんグループ(孔志さん/みあおさん/草間さん)
・綾小路さんグループ(雅さん/灯足さん/翔さん)
です。他のグループの方の話を読まないとわからない部分もありますので、宜しければご覧下さい。
少しでも楽しんでいただけると幸いです。今回は本当に有難うございました。


綾小路雅さま 外村灯足さま 東雲翔さま
いつも有難うございます。お三方の掛け合いを今回も楽しく描かせて頂きました。
一貫してお三方同グループでしたので、ミヤさんと殿さん、翔嬢とで分岐パートを設けました。
宜しければもう一方の方のもご覧いただけると幸いです。
今回も有難うございました。機会がありましたらまたよろしくお願いいたします。