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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


さびしがりの樹

------<オープニング>--------------------------------------

………私を見つけて………。

………私はここにいるの………だから……早く…。

……何時まででも待ってるから………。

………………。

…………。

………。


 最近、神聖都学園にて流れている噂がある。
学生寮から半日程歩いた所にある林の杉の古木の下にある沼に幽霊が出る、というものだ。
 普段、人が入る様な場所ではなく、特に確かめようとする人間もいるわけでなく、ただ
の噂だとずっと思われいた。

 そんなとある夏の土曜日に、一人の私服の女性が神聖都学園の校門をくぐる。

 校門をくぐった女性、佐伯隆美(さえき・たかみ)は学園の中を懐かしそうに見渡す。
彼女は去年この学園を卒業し今は近くの大学の文学部に通っている女子大学生だ。
 彼女の容姿は黒い肩までのボブカットの髪に、膝丈のスカートにジャケットを着た、
動きやすそうな服装で、活発そうな雰囲気を持つ女性である。

 「さて、これからどうしようかな?なんとなく来たはいいけど……、どこに行くか考え
てなかったな。」

 たまたま時間が空いたので後輩の顔でも見に行くかと思って来てみただけなので、特に
目的があった訳ではない隆美は入り口の所でそっと立ち尽くす。

「職員室に顔出すのも良いし、懐かしの部室に顔出すのもいいな……。
今どういう風になってるか気になるし、後輩達の顔も見たいしね。」

そして校門から出て行く後輩達の姿を眺めながら、生徒達が話している噂が耳に入って
くる。

 「あの幽霊の噂って本当なのかなぁ?」

 「まさかぁ……、でも本当だったらちょっと面白そうだよね、沼に出てくる幽霊、なん
てさ。」

その噂とはこんな話であった。

 「へぇ、そんな噂が流れているのかぁ、ちょっと見に行くのも面白いかも……。
もう少し情報を集めてみようかな?
だとしたら学生寮に行った方がもっと情報が集まるかもしれないわね。」

 そう言って隆美は噂をもっと聞くために学生寮に向かうのであった。

***

 「この沼ね、なんか思っていたよりも広いのね。」

 隆美は林の中に急に広がったところにある月明かりに照らされた沼を見てそうつぶやく。

そして周囲を歩いているうちに壊れかけた祠があるのに隆美は気がつく。

「あれ?この祠は……?」

そう言って隆美はその祠に近づいていった。


−−−−−<さびしがりの樹 本編>−−−−−−−−−−−−−−

 「ここは……全然変わらないわね。」

 そう言いながら懐かしそうに美術室に隆美は入っていく。
美術室の中には数人の生徒達が丁度休憩をしていたのか話をしていた。
その中に見知った顔を見つけて佐伯隆美(さえき・たかみ)は声をかける。

 「あら?不動じゃない。
あなたがまだ美術部にいるなんて思わなかったわ、とっくにやめていると思ったのに。」

 少しからかうかの様に隆美は不動修羅(ふどう・しゅら)にそう話しかける。

 「あれ? 隆美先輩じゃないですか。
俺がそんな風な根性無しに見えますか?」

 「冗談よ、言ってみただけなんだから深く気にしないで貰えるとうれしいわ。」

 そう微笑みながら隆美は軽く不動に謝る。

 「で、卒業した先輩がわざわざ部室に何の御用ですか?
まさかモデルになりにきた、なんて言いませんよね?」

 少しからかう様に不動は隆美に話す。

 「残念ながらモデルになりに来たわけじゃないわよ。
ちょっと遊びに来たら面白い噂を耳にしたから、ちょっと確かめてみようと思ってね。」

 「面白い噂?」

 「ええ、なんでも学生寮の奥の林に幽霊が出るとかなんとか……。」

 「へぇ、幽霊の噂ですか?俺は知らないけど、そんな話があったのか……。」

 「その様子じゃ不動は知らないみたいね。
知らないんじゃ聞いても無駄みたいね、それじゃ私は他の所に行って聞いてみるわ。
お邪魔したわね。」

 そう言って隆美はゆっくりと立ち上がり、美術室を出て行く。
隆美が立ち去るのを眺めていた不動だったが、そこでいつもの感覚に襲われる。

 『……なんだ?何かの霊が降りたがっている?』

 不動の除霊士としての自分の感覚がそれを告げていた。

 「仕方ないな、どんな奴が降りたがっているんだか……。」

 そう言って不動は意識を霊に集中させる。
そして不動に一人の男性の霊が降りてくる。
その霊は不動はまったく知らない男のものであったが、あまりに霊が必死になっているの
で仕方なく体を少しだけ貸す事にする。

 不動はその男の霊を自らの体に降ろした事で、彼の想いが不動の心の中になだれ込んで
くる。

 先ほど隆美から聞いた噂と降ろした霊の想いはほぼ同じものであった。
男の恋人、楓への想いがどんどん伝わってきて不動の瞳からそっと涙が頬そしてを伝う。

 「なるほどな、こういう事だったわけか……。」

 流れた涙を周りに気が疲れないようにそっとぬぐい、しばらく不動は考え込んでいたが、
何かを決めたように顔を上げる。

 「悪い、今日はこれで帰る。」

 いつもよりも心持ち早い時間であったが不動は帰り支度を手早く済ませ、部室を出て行
った。

***

「まったく、厄介ごとっていうのは自分からやってくるものなんだな。」

 不動は学園を出て、その足で噂になっている沼に向かっていた。

 「確か、この方向であっているんだよな?」

 自らの中にいる霊の記憶を頼りに不動は林の中を進んでいく。
すでに林に入った頃はすでに結構日は傾いていたが、林の中を進んでいく内にかなり暗く
なってしまっていた。

 そして林の中の獣道にも等しい道を草を掻き分けながら歩いていくと急に開けた所に出る。
そこには男の記憶とは少しばかり変わってしまってはいたが、確かに同じ沼が広がってい
た。
沼には上がりかけた月が光を照らし、幻想的な風景をかもし出していた。

 沼に着いた不動は思わずその幻想的な光景に見とれてしまう。
しばらくして男の霊の記憶から、楓と会うはずだった場所へと歩き出した。

 「ここか……。」

 そう不動はつぶやいて、周りを見渡す。
瞳を瞑り、気持ちを落ち着かせて気を集中させる。
そして、その場にいるはずの楓の霊へと呼びかけを始める。

 『この場に縛られし、楓の霊よ……。
俺の声に応えよ……。』

 不動は楓の霊に向かって呼びかけを続ける。
しばらくして、不動の目の前に一人の女性の霊がそっと姿を現す。

 『…私を……私を呼ぶのは…誰……?』

 どこか空ろなそれでいてさびしい、そして生前は美しかったのであろう声が不動の心に
響いてくる。

 「やっと出て来てくれたか…。
キミは楓で間違いはないか?」

 不動はそう言って現れた女性の霊に問いかける。
不動の中にいる男の霊、吾郎の記憶では間違いはないはずだったが、念の為聞いておいた
方がいいと不動は判断した為であった。

 「……楓……、それが私のなま…え……?」

 女性の霊は長い間一人でいた為に自らのことも風化しているかの様に不動に問いかける。

 「まいったな…。」

 不動は女性が自らのことについてまで風化しつつそこに存在している、という事は予想
していなかった。

 『…だが、霊とは何か執着するものがあってこそ、その場に存在できるもの…。
とすれば記憶以外、それか彼女が記憶を取り戻すためにこの場に縛り付けている何かがあ
るはずだ…、それは何だ?』

 不動は吾郎の記憶と、昼間隆美が話してくれた噂話について改めて思い返してみる。

 『…まてよ?いつから彼女がここに現れた?
一ヶ月前、落雷がとか言っていたな、とするとその落雷に何か関係があるのか?』

 不動は辺りを見渡すと、落雷のショックでで倒れたのであろう木が目に映った。

 「あれが落雷の傷跡か……、何かあるのかもしれない、行って見るか。」

 不動は一人そうごちると倒れた木の根元まで歩いて行った。
そして歩いて行った不動が目にした物は壊れかけた祠と隆美の姿であった。

 「隆美先輩。」

 祠の中を覗き込んでいる隆美にそっと後ろから不動は声をかける。

 「ひっ!」

 急に後ろから声をかけられて驚いたのか奇妙な声を上げて隆美は振りかえって不動のこ
とを見る。

 「なんだ、不動か、脅かさないでよ。」

 「先輩こそ何してるんですか?祠の中を覗き込んで。」

 「え? 私はこの祠の奥に何かあるみたいだったから、何かと思ってみていたのよ、髪
飾りの様なんだけど……。」

 「髪飾り?」

 そう言って不動も祠の中を覗き込む。
確かに中には以前は美しい輝きを放っていたであろう何かがあるのが見えた。

 「ひょっとしてあれは……。」

 不動は思わずつぶやきながらそっとその髪飾りに手を伸ばす。
髪飾りに触れた瞬間、吾郎の気持ちが不動の中に入ってきた。
その髪飾りは吾郎が楓の為に買ってあげたものであった。

 「この髪飾りならきっと……。」

 そう不動はつぶやくと髪飾りを握り締め女性の霊のところに走って行った。

 「あ、どうしたのよ?」

 急に走り出した不動に驚いて隆美も慌てて後を追う。
不動は女性の霊の前まで来るとそっと髪飾りを彼女の前に差し出す。

 「これはキミの物だ、キミがつけるのが一番似合うと思う。」

 不動のその言葉で彼女は困惑しながらも、女性の霊はそっと不動も持っている髪飾りに
手を伸ばす。
彼女が髪飾りに触れた途端、周囲を光が包み込む。

 「……私は楓……、今までどうして…。」

 彼女は光が収まった後、今までとは違う、表情でそこにいた。

「やれやれ、やっと戻ったか…。
キミが楓だな?俺は君に話したいことがあってやってきた」

 不動はその後、吾郎が来ようとしてこれなかった事を謝り、そして今でも楓のことを愛
している事を告げ、吾郎の霊を自らの身体から出して二人を対面させる。
そしてそう話す不動の姿を隆美は黙って見守っていた。

 「さてと、俺の身体でもういちゃつくんじゃねえぞ。
こっちの世界で一緒になれなかった分、向こうではずっと二人一緒にいろよ。
……もう二度と離れるんじゃねえぞ。」

 そして吾郎と楓の二人は光に包まれていく。
二人ともどこか安心したような、嬉しいようなそんな表情を浮かべながら。
そして辺りに澄み切った声が響き渡る。

男性と女性の二人の声で『ありがとう』と……。

徐々に消えていく光が収まった頃、そこには何もなかったかのようにただ静寂のみが残っ
ていた。

しばらくして隆美が不動に声をかける。

 「不動がまさか彼女の恋人の霊を連れてきてるとは思わなかったわ。」

 「なんか成り行きでね、隆美先輩が行った後、急に俺に話しかけてきやがってね。」

 どこか照れくさそうに、そう話す不動に黙って微笑む隆美。

 「あの二人、これからは幸せになれるといいわよね。」

 「そうですね……。」

 不動は隆美の言葉にうなずくと、二人のいなくなった湖面を見つめそのままそっと月の
あがった空を見上げる。
そして二人がこれから二度と分かれることがないように手の中に残った髪飾りを握り締め
ながら祈るのであった。


Fin
2004.07.29
Written by Ren Fujimori

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2592  不動・修羅    男   17   神聖都学園高等部2年生 降霊師

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■         ライター通信          ■
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どうもこんにちわ、藤杜錬(ふじもり・れん)です。
この度は「さびしがりの樹」にご参加いただきありがとうございました。
不動修羅さんの事がうまく描写できているのか、プレイングがうまく再現できているのか
心配ではありますけれど、楽しんでいただけたら、と思います。
まだまだ駆け出しの身なので、至らない点が多々あるかと思いますが、これからもよろし
くお願いいたします。
それではまたご縁がある事を祈って。