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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


真夏の夜の


■オープニング■


「暑いっ――――」
 開け放った事務所の窓から叫び声を上げるのは草間武彦。三十路もとっくに過ぎたいい年をした成人男子、職業自分以外は皆が認める怪奇探偵である。
 東京の気温が連日熱帯夜を記録し続けたある日、致命的なことが起きた。
 草間興信所のエアコンが故障したのである。
「暑い暑い暑い暑い!!」
 何とかの一つ覚えのように苛々とそう言い続ける草間に、
「兄さん、無駄に暴れると余計に暑くなるだけですよ」
と零は至極冷静にそう言った。
「それに、あれは兄さんが張ったんでしょう?」
 零の指差す先には、『怪奇ノ類 禁止!!』という張り紙の横に『火気厳禁!』という張り紙が付け足してあった。
 容赦なく零は草間の加えていた煙草を取り上げてしまう。
 草間は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、暑さにそんな表情も長くは続かない。
 ぐったりとして草間は机の上に突っ伏した。
 多分このまま放置すれば3日後には立派な腐乱死体になれること請け合いである。
 無駄にカロリーを消費すれば余計暑くなることを悟ったのか、それとも暑さに完全に白旗を揚げたのかすっかり静かになったその時だった。
 ブ―――――と、古めいた呼び鈴が鳴る。
「はぁい」
 ぱたぱたと駆けていった零が入り口を開けた。
 するとそこには中年の男が額の汗を拭いながら立っている。
 暑さに耐えかねてか、さすがにスーツの上着は腕に抱えていたが、ネクタイはしっかりと締めたままだ。
「私こういうものです」
 そういって、依頼人は1枚の名刺を差し出した。
 名前の横の肩書きは「MIKADOホテル・ジャパン 総務部長」という仰々しい肩書きである。
「どういったご用件でしょうか?」
 そう言った零に、その依頼人は、
「実は―――幽霊をどうにかして頂きたいんです」
と言った。
 幽霊と聞いてピクリと草間の肩が揺れる。
「いや、私どもの業界もほとほと困り果てているんです、あのビアガーデン荒らしには」
 『ビアガーデン』と聞いて、草間は突如生き返った。
「お話お伺いしましょう」
 依頼人を促し、草間は依頼人のあとに続いて応接間へ入った。
 数分後―――
「間違いなく、この依頼受けさせていただきます」
とにこやかな笑顔で草間は依頼人を見送った。

「さぁ、零。人を集めてくれよ。ビアガーデン荒らしの霊退治だ」
 鼻歌でも歌いそうなほど浮かれて、草間は火気厳禁の紙の隣にマジックで書き込みをしながら零にそう言う。
 零が見ると、『火気厳禁』の隣には、しっかりと、『煙草を除く』と付け加えてあった―――


■■■■■


「なぜか毎年暑いと壊れるのよね……うちの事務所のエアコン」
 草間興信所の事務員―――というよりむしろ財務省のシュライン・エマ(しゅらいん・えま)は馴染みの電気屋に掛けていた昔懐かしい黒電話の受話器を置く。
 ふぅっとシュラインはため息をついた。
 とりあえず、これから件の依頼人のビアガーデンに行くのだがそろっている面子と言えば……
「夏ね。夏ったら夏ったら夏ね。暑いわね。ってかもうここまで来ると“熱い”わよね。だからその話乗ったわ!」
 そう叫んだ女子大生村上涼(むらかみ・りょう)。面接帰りらしく相変わらずリクルートスーツなのだが、暑さに耐えかねたのか肩まで捲り上げたシャツにボタンも際どい位置まで外し極めつけに上着を肩に掛けてどうみても仕事帰りのサラリーマンのような出で立ちである。
「やっぱりビアガーデンにはアロハシャツだろう!」
 昨日買ったばっかりのプレミアもんなんだぜ―――と派手なハイビスカス柄に包まれた胸を張る高台寺孔志(こうだいじ・たかし
)はどう見てもチンピラにしか見えないがこう見えて花屋なのである。
 一体どんな嗅覚を持っているのか、ふらりと現れた2人は、
「何なの何なの何なのよ、この灼熱地獄は!」
「おい、この部屋40度マークしてるぜ。草間はいいとして、せっかく俺が持ってきてやった観葉植物が可愛そうだ。こんなことなら今度持って来るなららフレシアだな」
と、好き勝手をいいながら登場したわりにビアガーデンで飲み放題食べ放題と聞いたとたんにこの有様である。
「わたくしはミスリルゴーレムなので飲食はできませんけれど、少しでもお役に立てればと」
と鹿沼デルフェス(かぬま・でるふぇす)が言ってくれたのは正直ありがたかった。
 そんなデルフェスが二宮エリカ(にのみや・えりか)を誘ったのはまだわかる。エリカ本人としてはありがたくは無いだろうが、彼女は霊的なものが見えると言うから。
 ただ問題は―――
「酒! 肉! 酒! 肉!」
と、持参の箸を片手ずつ握り締めて机をどんどんと叩いている鬼頭郡司(きとう・ぐんじ)だった。
―――どうなのかしら、これって……
 果たして本当に荒らしを撃退するつもりがあるのかないのか……シュラインは不安を隠しきれない面持ちで再びため息をつく。
「武彦さん、こんなに人を呼んで大丈夫なの? しかも―――」
 シュラインは言葉尻を濁しながらちらりと数名を見る。
 ウワバミ女子大生1名、見た目チンピラじみた花屋が1名、そしてブラックホールに繋がった4次元胃袋所持者が1名。
「ま、まぁいいだろう。なんせ向こうさんは飲食代一切合財を依頼料の一部として持ってくれるって言ってるんだし」
 ビアガーデン荒らしの幽霊退治などという怪奇依頼であるにもかかわらず草間が二つ返事で依頼を受けて裏には結局はこういう理由があったのである。
「武彦さん。それにそこの3人もよーく聞きなさい! これはお仕事なのよ、お・し・ご・と。くれぐれもそれだけは忘れないように。判ったわね」
 まるで引率の先生よろしくそう言ったシュラインに、指名された3人+怪奇探偵は首をすくめて、
「はい」
と、返事をした。
 だが、誰がどう見てもお利巧だったのは返事だけで、心はすっかりビアガーデンだったのは言うまでもないだろう。


■■■■■


 MIKADOホテル・ジャパンのビアガーデンは半分屋根に囲われた屋上だった。
「なんだ、完全に野外じゃないんだな」
と草間が言うと、
「最近は屋上で屋根なしっていう所の方が少ないらしいわよ。屋根がないところだとやっぱり客足が天気に影響されちゃうでしょう?」
と、シュラインは昨今のビアガーデン事情を説明する。
 7月から真夏日続きだけあってビアガーデンは盛況のようだ。
「あの依頼人、荒らしを退治してくれなんて言うけどお客さんだらけじゃない?」
 荒らしによる被害がどんなものかはわからないが、一見して営業上の支障はあまりないような気がして首を傾げる。
「まぁまぁ、いいじゃないの。とりあえずは場所陣取るわよ!」
 率先して涼が会場を縦断していく。
 8人はシュライン、零、草間、涼、孔志、郡司、エリカ、デルフェス、の順にビアガーデンの会場を見渡せる1番端の円卓に並んで座った。
「つまみは適当でいいな?」
 そう言って草間はそこら辺を歩いているウェイターを呼び止める。
「勿論よ。あ、でもオッサン枝豆はずしたらしばくわよ。お兄さん、ナマちょうだいナマ! ジョッキでね!」
「ジョッキなんてなまっちょろいこと言うな、ピッチャーで持ってこいピッチャーで!」
「肉!肉肉肉肉肉!!」
 事前注意を受けた4名は飲む前からすでにハイテンションだ。どれが誰の台詞かはこの際省略するが。
 そんな素で酔っ払いの隣でエリカは、自分が何故ここにいるのか疑問に思っていた。ここに来るまでの間もそう思っていたのだが、乗り気になっているデルフェスと郡司にその疑問をぶる蹴ることもできずに現在に至っているのだが……すっかりパワーに圧倒されて微妙に萎縮してしまっている。。
 そんなエリカの複雑な心境を表情で察したのかシュラインは、
「まぁ、こういう場所は楽しんだモノ勝ちだから、ね?」
「……そ、そうですよね」
 その言葉にエリカは頷く。
 そこにタイミングよく人数分のビールが届く。
「わたくし飲食は―――」
 自分の目の前に置かれたジョッキにデルフェスは困ったような顔をする。
「硬いこと言うなよ。要は飲まなきゃいいんだから、最初の乾杯くらいは付き合っても問題ないだろう?」
 そう言って草間がデルフェスにもジョッキを持たせる。それぞれにジョッキが行き渡ったのを確認して、草間が声も高々と乾杯の音頭をとった。

「「「カンパーイ!」」」

 周囲のざわめきにも負けない歓声を上げて高々とジョッキを持ち上げる。が―――孔志のジョッキと乾杯の音頭で合わせた郡司のジョッキが勢い余って真っ二つに割れた。
「うぁぁ……俺の酒―――!」
「あっぶねぇ、郡司! 俺の大事なアロハに酒がかかるところだったろーが」
 初っ端からコレでは前途多難なようだ。


■■■■■


「それにしても、荒らしにあうという割には人が大勢いらっしゃいますわね」
 客の入り具合を眺めてデルフェスは感心する。
「もしかして、その幽霊さんっていうのは女性の方なのかしら? まだ若いOLで二股をかけられた挙句に振られてそのショックでビアガーデンで自棄飲みをしに行こうとした所で運悪く交通事故に遭われて、その若さと相俟って未練たらたらで男性客に絡むとかでしょうか」
「でも、そんな若い女なら例え幽霊でもいいから絡まれたいって人はいるんじゃないのー?」
 口元についていたビールの泡を空いている手の甲で拭いながらそう言う涼の前にはすでに2つの空いたジョッキ。
 なかなかのハイペースだ。
 しかし、それよりもつわものは居るわけで……郡司の前にはジョッキだけでなくすっかり平らげた皿も積みあがっている。
 そんな様子をエリカは半ば呆れたような顔で見ていた。
 エリカの視線に気付いて、
「なんだよ、俺の食い物はやらねぇからな」
と、郡司は自分の皿を囲い込む。
「それはこっちの台詞です」
 以前に郡司と飲み会で鉢合わせたことのあるエリカは、ちゃんと学習して自分の分の食べ物はしっかりキープしてあった。
 しかし、郡司だけではなく、草間もここぞとばかりに食いだめしているようで、ものすごいペースでビールもつまみも消費されていく。
 それが上手く切り盛り出来ているのは偏にデルフェスが食器の片付けや追加注文といった仕切りに徹しているからだろう。
 しかし郡司は全く飲食しないデルフェスに、
「お前食わねぇの? でっかくなれねぇぞ? チチ成長してっか?」
と直球ストレートなセクハラ発言をする。
 デルフェスと海に行く話をしていてその郡司の発言を耳にしたエリカは、
「信じられないほどデリカシーないのね」
と聞きようによっては呆れた様子でそういったのだが、
「でりかしー? それってなんだ。どんな食べ物だ?」
 どれどれどれ?ときょろきょろしだす始末である。
 更に、エリカが止める暇もなくテーブル中の皿のあちこちに手を出し涼の前の皿に手を出したところ箸でびしっと撃退される。
「いってぇ!」
 手の甲にばっちりと赤い痕。
 まるで悪戯をしようとして叱られた子供の様な郡司に小さく笑ったその時だった、エリカは郡司の後ろに居るモノを見て固まった。
「エリカさんどうかしました?」
 なんだかんだ言いつつ楽しんでいたエリカはすっかり忘れていたのだ―――まぁ、忘れていたのはエリカだけではないだろうが―――今日ここに来たのはビアガーデンを荒らしまわる幽霊を退治しに来ているという事を。
 ということはつまり、退治しなければいけない幽霊が居るはずなわけで……エリカが郡司の背後に見たモノは確かに半透明な人だった。


■■■■■


「……」
 少し青ざめた顔をしているエリカに気付いたのは郡司だった。
「どうした?」
 なんだかんだ言いつつも自分自身楽しんでいるこの雰囲気を壊すのも嫌でエリカは、
「な、なんでも……」
と言って目を逸らした。
 それでも納得しかねるのか郡司はくるりと振り向いた。
 そして、自分の真後ろに立っている中年の男に気付いて、席を立ち上がり―――肩をつかんだ。それもしっかりと。
 人外も異形も普通に見えるし触れる郡司にとってはエリカには半透明の明らかに幽霊に見えるソレも普通のおっさんにしか見えないらしい。
「おっさん一緒に飲むか?」
と気軽に誘ってそこら辺の空いている椅子を持ってきて座らせてしまった。
「おう、兄ちゃん悪いなぁ」
「気にすんなよ、酒は大勢で飲んだほうが楽しいしな!」
 そうい言って郡司はジョッキを渡した。
 そのビールを幽霊オヤジはぐいぐいっと一気に飲み干す。
「お! おっさんいける口だな♪」
 孔志が負けじと自分もジョッキに残っているビールを一気にあおる。
「ぐ、郡司さん」
 エリカはちょいちょいと郡司の服の裾を引っ張り、
「その人……幽霊ですよ?」
と耳打ちをする。
「あぁ! おっちゃんかぁ、話題の幽霊は!」
 口止めするまもなく郡司は堂々と幽霊オヤジの顔を指差す。
 それぞれご機嫌に飲んでいた面々の視線が幽霊オヤジの顔に集中する。
「いやぁ、俺も有名になったもんだなぁ。そんなに見んなよ、照れちまうぜ」
悪びれもせず頭を掻く幽霊オヤジの顔は真っ赤だ。とはいっても顔が赤いのは照れているわけではなく明らかに酒が回って赤いようだが。
「なんだ、ビアガーデン荒らしの悪霊だって聞いたから俺がアルコール消毒で退治してやろうと思ってたのになぁ」
「どんな風によ?」
 そう涼に聞かれて、
「こうやってだよ」
と、孔志はにやりと笑いビールを口に含み幽霊に口移しをした。
 しつこいようだが、幽霊は中年のオヤジである。
 草間、涼、郡司はその孔志と幽霊の濃厚アルコール消毒に大爆笑している。
 一方それを見ても大して動じもせずに、
「あらあら」
と言うデルフェス。
「……」
無言のエリカ。
 そして、
「……ダメね、もう完全に単なる酔っ払い集団だわ」
と、シュラインは諦めたように呟いた。


■■■■■


 一部冷静派―――素面派ともいうが―――のため息を他所に幽霊オヤジを含めた酔っ払い達の所業はどんどんエスカレートしていった。
「ビール足りないわよ!」
 陽気に涼がそういったかと思えば、
「ほら、じゃんじゃん飲めって! とにかく吐くまで飲め、食え、踊れ!」
と言い出した郡司がおもむろに服を脱ぎ捨てる。
 勿論、その下は毎度の事ながら褌一丁だ。
 その褌姿の郡司とアロハ姿の孔志が2人でタンゴを踊る様はいろいろな意味で圧巻だった。
 幽霊オヤジをも巻き込んで踊り狂う3人から、シュラインとエリカ、デルフェス、零の4人は徐々に遠巻きになったかと思うと赤の他人の不利をすることに決め込んだのか隣のテーブルに移ってしまう。
 当然そんなことに気付いてない酔っ払いは、
「なぁーんか盛り上がりにかけるな」
と言ったかと思うと、
「よぉし、俺様が特別花火をお見舞いしてやるぜ」
 お見舞いってのはどうなのだと突っ込む暇もなく郡司は稲妻を空に走らせた。
 一般客の悲鳴もなんのその、いくつもの稲光が光る様は確かに派手派手しかったが、
「あ、手が滑った」
 郡司がそう呟いたとたんそのうちの1つがまだ踊っていた幽霊オヤジと孔志に見事直撃した。
 オヤジは幽霊だけに外相もまったく見当たらなかったが、孔志の方はといえば、ご自慢のプレミアアロハシャツが見事に一瞬にしてボロボロになった。
 寧ろ落雷にあたってその程度だと言うことの方が奇跡に近いのだが、酔っ払いにそんな理屈が通用するはずもない。
「郡司ぃ〜〜〜自営業はなぁボーナス無いから懐寒いんだぞ! それなのにこの大枚叩いたアロハを……アロハを返せっっ!」
 一瞬涙目になっていた孔志はそこらへんのテーブルにあったジョッキを郡司に投げつけた。
 しかし、それを見事受け止めた郡司は孔志に投げ返す。
 ジョッキだったり、お皿だったり、挙句椅子まで飛び交い始めた。
 そしてついに、その被害が出た。
 けらけらと笑いながら高みの見物を決め込んでいた涼のテーブルがひっくり返りビールもおつまみも見事テーブル同様地面に叩き付けられた。
 挙句、どさくさに紛れて大事な(?)枝豆は踏みつけられるわの大惨事となる。
「キミ達―――」
 地の底を這うような声に郡司、孔志、オヤジの3人が振り向くと、いったい何処から召還されたのかそれとも精製されたのか毎度おなじみの釘バットが涼の手にしっかりと握り締められている。
「お百姓さんに変わってこの涼さんが直々に―――」
 あまりの迫力に3人はじりじりと後ずさるが悲しいかな、そこは会場の1番端のテーブル。
 追い詰められるのはあっという間だった。
 3人の背中にフェンスのような感触がしたのと、
「天誅!!」
と涼がバットを振りかぶるのがほぼ同時だったとか涼の素振りの方が早かったとか―――
 気が付くと幽霊人間問わず涼の前に揃って正座をさせられて説教となった。
「だいたいねぇ、キミ達お百姓さんに対する感謝の気持ちってのが足りないのよ!それにそこのオヤジ!」
 涼に指差されて幽霊はあからさまにびくっとする。
「暑さ寒さが関係なくなった幽霊風情が、人間様が暑さを払う為の場所に今更来て邪魔しようなんて」
「ぇーとですね……いや、別に邪魔してるわけではなくこうして一緒に楽しく飲ませていただければそれで―――」
 弁明も涼のひと睨みで黙らされる。
「遅いわ、遅すぎるわ、生き返って出直してくるべきよ。だから帰れ。お盆も近いしもしかしたら白状で無い家族が迎えに来てくれるかもしれない墓へとっとと帰れ!」
 ブン! 
 ガン!!
 一息でそう言った涼は幽霊の頭上ぎりぎりを釘バットで一振りした。
 ちなみにガンと言う音はそのバットがフェンスの柱に直撃した音だ。
 恐る恐るその柱を見た幽霊はその見事なまでの金柱の曲がり具合にふらっとよろめいたかと思うとそのまま気を失うかのような仕草で消えうせる。

「……成仏した、の?」
 一部始終を見守っていた素面派4人の前では、引き続き涼による郡司と孔志への説教が続いていた。


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「た、太陽が黄色い……」
 相変わらずクーラーの故障した草間興信所で扇風機の風を受けながらうめいているのは草間、涼、郡司、孔志の4人だった。
「全く、タダだからって飲みすぎるからでしょ!」
 そう言ってシュラインはそれぞれに持参していた薬を渡す。
「ぅぅ……」
 錠剤や粉薬など甘いものではなくシュラインが渡したのはもちろん液状タイプのものだ。
 せめてもの手助けとデルフェスとエリカは絞ったタオルを屍のように転がっている4人の額に置いてやる。
 どうやら迫力負けして幽霊オヤジは消えてしまったようだがその後、騒ぎを聞きつけて現れた依頼主はその場の状況に唖然として腰を抜かしそうになっていた。
 飲食代に関しては依頼料の中に含めると言っていたものの、その中から予定外の会場の修繕費等々を引かれた結果―――
「おかげで結局貰えた依頼料はこれだけなのよね」
とシュラインが諭吉3枚を草間の目の前でヒラヒラと振る。
 これじゃあ、クーラー買い替えどころか新しいクーラーも買えやしない。
 ぐぉぉぉと音だけはすごいあのクーラーの修理費くらいにはなるだろうかと、ため息をついた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【2181 / 鹿沼・デルフェス / 女 / 463歳 / アンティークショップ・レンの店員】

【0381 / 村上・涼 / 女 / 22歳 / 学生】

【1838 / 鬼頭・郡司 / 男 / 15歳 / 高校生・雷鬼】

【2857 / 二宮・エリカ / 女 / 17歳 / 女子高生】

【2936 / 高台寺・孔志 / 男 / 27歳 / 花屋】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。遠野藍子です。
 この度は、ご参加ありがとうございました&遅くなって申し訳ありませんでした。<(_ _)>
 と言うわけで、季節ネタということでビアガーデン依頼はこんな感じに仕上がりました。
 外見でよく酒に強そうだと言われる遠野ですが、甘いカクテル2〜3杯が限度なのでビールはあまり嗜みません。よってビアガーデンに行ったことは今までの人生で片手未満なのですが……。
 そんな遠野でも冷たいビールが飲みたい!!と思ってしまうくらいに今年は猛暑でしたね。
 転職して車通勤になったので今年は良かった……。去年までは駅から職場までの徒歩10分で貧血を起こして職場につく頃には目の前真っ暗になって午前中しばらくは使いものになってませんでした。
 最近ようやく夜は少し涼しく感じられるようになりましたが、皆様くれぐれもお体にはお気をつけ下さい。
 では、また機会がありましたら宜しくお願いいたします。