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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:すすめっ! 海賊船クッサマー号!
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人
------<オープニング>--------------------------------------

 ときは一六世紀。
 大航海時代のまっただなか。
 海賊の黄金時代ともいわれるこの時代は、自由と冒険を求めるものたちの最盛期でもあった。
 ぎらつく太陽。満帆に風を受ける大三角帆。
 白波を蹴立ててすすむ中型の船。
 海賊船クッサマー号。
「ふふふ‥‥霧笛がおれを呼んでいるぜ」
「死ねぇっ!」
 舳先で格好をつけまくっていた船長が、げしっと蹴り飛ばされる。
 響く水音。
 哀れ、自由を謳歌する海賊、草間武彦は海の藻屑となってしまった。
 めでたしめでたし。
「めでたくねぇっ!」
 元気に這い上がってきた草間が、心の底から抗議した。
「ち」
「ちってなんだっ。ちってっ」
 嫌そうな顔をする妹の零。
 ちなみに肩書きは副長である。
「空耳ですよ。義兄さん」
「いーや。たしかに聞こえたっ」
「まあ、そんなことはともかく」
「人を海に蹴り落としておいて、ともかくなのかっ!」
 怒ってる怒ってる。
「麗香船長から手紙ですよ」
 きれいに受け流しておいて、筒状の紙を渡す妹。
 もちろん、郵便配達が届けてくれたわけではなく、副長の肩には海鷹が羽を休めている。
 ちょっと格好いいな、などと考えながら、草間が書簡を開いた。
「麗香のやつ‥‥」
 表情に苦みが走る。
 クッサマー号と、ときどき協同作戦などをする海賊船アトラス号が、大きな仕事をするらしい。
「どうしました?」
「海軍の輸送艦を襲うってよ。南米から金を運んでくる、な」
「で、どうするつもりです?」
 軽く頷いた妹が訊ねた。
 輸送艦といっても軍艦だ。当然、護衛の艦もついているだろう。
 アトラス号だけでどうにかなる相手ではないから、共闘を申し入れてきたのだ。
「やるさ。俺たちは仲間を見捨てたりしない。たとえクソ生意気な麗香の船でもな」
 にやりと口元を歪める草間。
 高々と掲げられた海賊旗‥‥タバコをくわえたドクロの旗が、大きく風を受けて翻った。











※パラレル海洋冒険です。
 わいるどわいるどうぇすとや、えどばとるの流れです。
 海賊、海賊を追う海軍、役柄はなんでもおっけーです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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すすめっ! 海賊船クッサマー号!

 海鳥が鳴く。
 大海のうねり。
 ぎらぎらと輝く太陽が、波に照りかえる。
 白く航跡を残して走る三隻の船。
 輸送艦マンゴスチンと、それを守る護衛艦だ。
 ラビットフット号とアルゴ号という。前者の艦長はシオン・レ・ハイ。後者は梅黒竜という少年が指揮をとっている。
 珍しい少年艦長だ。
 とはいえ、三隻編成の艦隊は珍しくもない。
 この当時、南米からヨーロッパへ大量の金や銀が運ばれていたからだ。
 アルゴやラビットフットが所属しているスペイン帝国には、毎年、五トンの黄金と三〇〇トンの銀が届けられている。
 五〇〇年後の価値でいうと何兆円になるかわからないほどだ。
 普通これだけの大事業であれば、経費だって莫大な額になるのだが、現実にはたいしてかかっていない。
 というのも、金銀採掘のため人件費がゼロに近いのである。
 南米とは、コロンブスがインドだと信じていた場所だが、ここにもともと住んでいたアメリカ先住民族を奴隷というより家畜のように酷使しているのだから、人件費などかからないのだ。
 かかるのは輸送費と安全補償費くらいのものであるが、これだって無敵艦隊と呼ばれる最強の海軍を誇る大スペイン帝国だ。
 こうしてしっかりと護衛艦をつけることができる。
 海賊など、恐れるに足りない。
「いっそ、ちょっと痛い目に遭えばいいのよ‥‥」
 輸送艦の甲板。シュライン・エマがぽつりと呟いた。
 軍艦にのってはいるものの、彼女は軍人ではない。
 言語学者で、現地の生活や風習を研究するため南米に赴いていたのだが、通訳としてむりやり軍に徴発され、船上の人になったのである。
 むろん、おもしろかろうはずがない。
 インディオと勝手にヨーロッパ人たちが呼称するアメリカ先住民族。かれらと親しく接し、いろいろなことを学んでいたのに、軍の都合とやらで引っ張り回される。
 まして、軍がかれらにしたことを思えば、好意的になれるはずがない。
 どれほどの虐待と迫害をしたのか。
 たとえば白人侵入以前、北米には五〇〇万人以上のインディオが暮らしていた。それが一〇〇年足らずの間に二五万人足らずに減ってしまった。
 もちろんどこかに移住したわけではない。
「いつか自分たちのやったことの責任をとらされるのに‥‥」
 ぎりり、と、唇をかみしめるシュライン。
 彼女が生活をともにしていたインディオたちのなかにも、金色の髪をもった子供が幾人もいた。
 黒い髪の種族ではずのインディオに金髪が生まれるのは何故か。そんなもの、わざわざ考えるまでもない。このちになだれ込んだ軍人や探検家どもが無法を働いたからだ。
 先住民族の血と汗と涙の上に金銀を積み重ね、スペインは豊かになっていく。
 ただまあ、豊かになってゆくと、労働者としてのモラルは低下してゆくのは、ローマ帝国などの歴史が証明しているわけで、スペイン人は徐々に働くなる。
 かわって蓄財につとめたのがユダヤ人で、スペインのみならずヨーロッパ経済を動かすようになってゆくわけだ。
 そして、ユダヤ人に対する漫然とした不満がヨーロッパ中にはぐくまれるのである。
 結局、それがユダヤ人に対する虐待につながっていくのだが、さしあたりいまは関係ない。
「本国に帰ったら、休暇だねー」
「ボーナスでるだろうから、たのしもーっ!」
 水鏡千剣破とチェリーナ・ライスフェルドがにこにこと会話を交わす。
 しょせん下級兵士の認識など、こんなものである。
 教えられているのは、大スペイン帝国の正義だけ。
 だから、何のためらいもなくインディオたちを殺すのである。
 罪の意識はともなわない。
 残念ながら。


 一方、海賊たちに理があるのかといえば、それはそれで微妙な問題である。
 海賊と一口にいっても、自由の海の漢たちから単なる犯罪者集団まで存在する。
 だいたい、海上商人と海賊との線引きが、そもそも難しいのだ。
 嵐に備えて船を大きく強くし、自分たちの利益を守るために船員に武装させる。そして、交渉が決裂したときには、力づくで押し通ることもある。
 ようするに武装した商人だ。
 クッサマー号もアトラス号も、じつのところ略奪行為だけで生計を立てているわけではない。
 南米や東洋で品物を仕入れヨーロッパで売る。ヨーロッバで品物を仕入れ、南米や東洋に持ち込んで高値で売りさばく。
 それが本業なのだ。
 運ぶに荷物には人間も含まれる。
 すなわち、奴隷だ。奴隷売買も彼らの立派な収入源なのである。
 ただ、クッサマー号とアトラス号は奴隷運搬はしていない。正義感のためではなく、船のキャパシティーの問題だ。
 人を運ぶということは、そのための食事や生活物資も運ばなくてはいけないということである。大切な商品なのだから航海途中で死なれるのは非常に困るわけだ。
 残念ながら両船とも、どうにか中型船といえる大きさなので人の輸送には向かない。
「それに、へたに奴隷を運んで反乱でも起こされたら洒落にならないしね」
 両手をガーゼで拭き拭き、十里楠真雄が笑う。
 クッサマー号の船医である。
 たかが海賊船に船医がいるとは生意気だが、たいていの船には乗っているのだ。
 航海中は壊血病など怖い病気がたくさんある。
 ビタミンの存在はまだ明らかになっていないから、東洋の「お茶」は、けっこう万病の薬だった時代だ。
「物品を運ぶ方が安全で確実ではありますね」
 くすくすと笑うのは桐崎明日。
 クッサマー号に雇われている傭兵だ。
「今は船倉が空っぽですけどねぇ」
「帰りは金と銀が満載されるのさ」
 言葉を交わす。
 その表情ほど、彼らも余裕があるわけではない。
 なにしろ相手は正規軍の軍艦だ。事前の情報でそれは掴んでいる。
 ラビットフットとアルゴ。
 戦力的にはどちらも海賊船よりずっと強い。
 とはいえ、
「海賊には海賊の戦い方がありますよ」
 くすくすと桐崎が笑った。
 レーダーなどのある時代ではない。
 索敵は常に人間の目だ。
 帆柱の上の見張り台から三六〇度を監視する。じつは一番大切な役割だといっていい。
 船の喫水にもよるが、だいたい水平線というのは四から五キロメートル先である。
 監視を怠ると、思わぬ方向から死角を突かれることになるのだ。
 まして海賊船は、秘かな航行をしている輸送艦を発見しなくてはならないのだ。ある程度の航路情報を入手したからこその襲撃作戦だが、完全にルートを掴んでいるわけではない。
 輸送船団を発見できるかどうか。
 これが、まず最初の難関である。
 正しい作戦は、正しい情報の上にしか成り立たない。
 ただ、クッサマー号には強い味方がいる。
 人間ではない。
 海といえば人魚。
「人魚姫のみなも嬢でーすっ!」
「みなさん盛大な拍手をーっ!」
 十里楠と桐崎が、なんかよくわからない紹介をする。
 恥ずかしそうに頬を染める海原みなも。
 ぴちぴちと尾びれが動き、胸のふくらみを隠す貝殻がみょーにえっちっぽい。
 でろーんと鼻の下を伸ばす桐崎。
「まったくこの発情ウニが‥‥」
「うにっていわないでくださいっ!」
 ごずごす。
 登場の瞬間からいじめられるキャプテン・クッサマーこと草間武彦。
 ちなみに、草間とみなもの出会いは、怪我をしていた人魚を心優しい海賊が助けたのだ。
 童話の世界みたいだが、事実だから仕方がない。
 とりあえず十里楠が治療してやったりしている。
 なんといえか‥‥仲良きことは美しき哉?
「じゃあ、行ってきます」
 甲板から海へと飛び込むみなも。
 これが、クッサマー号の索敵手段である。
 みなもの水中情報網は完璧だ。まさに大海原は彼女の庭なのだ。
 輸送船団がどのような航路をたどろうとも必ず捕捉する。
 因業で不実な軍人どもにばかりい良い目を見せてやる必要はない。彼らが接収し世の中に還元してやろう。
 控えめに表現しても、みなもは軍人が嫌いだった。
 軍人どもが、みなもたち人魚の大切な海をどれほど汚したか。
 戦争と侵略と差別と虐殺。
 それらを持ち込んだのは軍人だ。
 もちろん海賊たちのなかには悪徳商人や軍隊と結託して非道を行うものも多いが、草間や麗華のような人たちもいる。
 インディオ、プロテスタント、ユダヤ人を合計して何千人も虐殺し、その財産を奪ったり身代金を取ったりして巨万の富を築いたバルベルデなどとは違うのだ。
「一緒にされたら迷惑ですよ」
「まったくだね」
 桐崎と十里楠が呟く。
 海風になびく髪。
 彼らは権力など欲さない。
 吹き渡る風のように大海を駆けていたいだけだ。
 自由に羽ばたく海鷹のように。
「無敵艦隊ってのが誇大広告だってこと、わからせてやりますか」
「賛成賛成」
 男たちの顔に笑みが刻まれる。


 やがて、みなもからの情報を得た二隻の海賊船が、大スペインの軍艦に接近した。
 互いの大砲が放たれ、次々と水柱が立つ。
 命中精度が良くないというのもあるが、双方が操船の妙を見せているのだ。
「なかなかやりますね」
 思いきり蛇輪を回すシオン。
 ラビットフット号が急角度で傾きながら、すれすれで砲弾を回避する。
 が、
「く‥‥」
 どがっ、と、衝撃がくる。
 アトラス号に接舷されたのだ。
 海賊の常套手段、乗り移っての白兵戦だ。
 こうなっては操船技術や船の性能など関係ない。
「はぁっ!!」
 マントを翻し、甲板へと飛び降りるシオン。
 両手に掲げた愛刀が陽光を照り返して輝く。
 戦略も政略も無用。ただ白刃のみが正義と悪とを決するだろう。
「勝負ですっ」
 目指すは敵船長。
「望むところっ!!」
 ざん、と、カトラスを抜き放つ麗華。
 その目前で、
「あうちっ」
 ぐきっと足首をひねり、シオンが倒れ込む。
 そりゃもう、つぶれたカエルみたいに。
「‥‥‥‥」
 すごく良いシーンだったのに、
「台無しじゃないっ!!」
 理不尽な怒りに駆られ、怒鳴りつけたり踏みつけたりする女海賊。
「Q〜〜」
 情けない声をだすシオン。
 こうしてうやむやのうちに、ラビットフット号は制圧されてしまった。
 声以上に情けない事態だ。
 ちなみにこのあと、降伏したシオンは麗華の部下になってしまうのだが、それは別の説話である。
 アルゴ号の状況は、ラビットフットに比べればまだマシであった。
「たーっ!」
「やーっ!」
 ターザンみたいにクッサマー号に乗り移っていく千剣破とチェリーナ。
 なかなか息のあったコンビだ。
 迎え撃つのは桐崎と十里楠。
 メスとシミター、刀と剣が火花を散らす。
 好勝負である。
 どちらにも果たすべき正義があり、譲ることはできないのだ。
「軍人がっ!」
「海賊がっ!」
 海に生きるもの同士が認め合うことをできない。
 それは回避できない悲劇だろうか。
「輸送艦を先に行かせてください」
 アルゴの艦上、梅が指示を飛ばす。
 この混戦の中にあって、彼はまだ冷静さを保っている。
 だてに最年少艦長なわけではないのだ。
 海賊の攻撃はこれが本命だろう、と、少年は読んだ。
 もしも、もう一隻海賊船がいれば、防御の薄い輸送艦などは簡単にやられてしまう。
 海賊の戦い方から充分に考えられることではある。だが、故意に見せつけるような動きに、梅は作為を感じたのだ。
 増援はこない。
「時期に我が艦が追いつきます。安心して先を急いでください」
 梅の声は手旗信号に変わり、輸送艦へと伝えられる。
 のろのろと戦線を離脱するマンゴスチン。
 少年の予測は当たっていた。
 クッサマー号とアトラス号には、もう戦力がない。
 アルゴ号がクッサマー号を足止めしている以上、マンゴスチンは逃げ切れる。
 逃げ切れるはずであった。


「はぁ‥‥なんだかなぁ」
 呟くのはシュライン。
 輸送艦で戦いを見守っていたのだが、徐々に戦火も遠ざかりつつある。
 このままいけば、無事に安全圏へと逃げられるだろう。
 だが、
「きゃっ!?」
 がくんと船足が止まる。
「ふふふ☆」
 とは、海中のみなもの台詞である。
 彼女は、マンゴスチン船底にパラシュートのような布をつけたのだ。
「名付けて布アンカー。お味はいかが☆」
 ほくそ笑むみなも。
 もともと足の遅い輸送艦だ。
 こんなものをつけられたら、逃げるどころか動くことすらままならない。
「んあ‥‥?」
 衝撃で、守崎啓斗が目を覚ました。
「ここは‥‥?」
 きょろきょろ。
 物語も終盤になって登場するとは、なかなかの強者だ。
 ちなみに、彼は密航者である。
 アメリカから東洋に渡ろうとしているのだが、この船団が向かう先はヨーロッパだ。はっきりいってちょっとマヌケだ。
 マヌケだけどニンジャボーイだったりする。
「ふわぁ‥‥よくねた‥‥」
 あくびなどをしながら甲板に出る。
 そしてシュラインとばったり顔を合わせたりして。
「こんにちは」
「すご‥‥日本語だ‥‥」
 驚く青眸の美女。
 さすがは言語学者だけあって、東洋の島国の言葉だってわかる。
 マルコポーロとかいう詐欺師だか商人がニッポンという国を紹介したのは、ざっと四〇〇年ほど前の話だ。
「あなたは誰?」
「おおっ! お国の言葉っ!!」
 ひしっ。
 問答無用で抱きつく啓斗。
 Eカップののバストが心地よい。
「なにすんのよっ!!」
 炸裂する怒りの鉄拳。
 そしてコブラツイスト。
「あだだだだだ‥‥」
 じゃれ合っているうちに、戦況は動いている。
 ラビットフットが降伏してしまったために、アルゴは一隻でクッサマー号とアトラス号の二隻を相手にしなくてはならない。
 残念ながら、これはなんとかなるような戦力比ではない。
 艦長の梅は決断を迫られていた。
 状況はきわめて不利で、逆転の可能性はゼロに限りなく近いだろう。
 死か捕虜か、たいしておもしろくもない未来が待ち受けている。
「不名誉な二者択一ですね」
 若々しい顔に苦い笑いが浮かぶ。
 どちらも、彼の好むところではない。
「仕方ありませんね。趣味には合いませんが逃げるとしますか」
 さっと振りあがる右手。
 瞬時に伝令士官が反応し、手旗が翻る。
 十里楠と斬り結んでいたチェリーナ、桐崎と戦っていた千剣破が、見事な手際でアルゴに帰還する。
 おもわず追撃を忘れて見とれるほどだ。
「名将とというものは‥‥」
「どうしました?」
「退くべき時をきちんとわきまえてる者にのみ与えられる称号なんだってさ」
「そんなものですか‥‥」
 十里楠の言葉に、たいして興味もなさそうに頷きながら、去ってゆくアルゴ号へと視線を投げる桐崎。
 輸送艦を守り続けることが不可能な以上、アルゴにはほかの選択肢はない。
 そういう状況に追い込んだのが、アトラス号とクッサマー号である。
 結局、ここでも戦いの法則は正しく作用した、ということだろうか。
「なかなか強い相手だったわね」
 アルゴ号の艦上、チェリーナが僚友に話しかけた。
 敗戦なのだが、その顔は明るい。
 彼女ら一般兵には上層部の判断は判らない。
 それ以上に強敵と出会えたことを喜んでいる。
「そうね。次に会うときが楽しみだわ」
 黒髪を掻き上げる千剣破。
 挑戦的な光が、二人の瞳に踊る。
 もし、ふたたびクッサマー号とやり合うことがあれば、今度こそ死を賭して戦うことになるだろう。
 海風が金と黒の髪をなびかせる。
 沈みゆく夕日が、傲然と胸を張って進む誇り高き敗者の姿を照らしていた。
 赤く赤く。


 輸送艦の制圧は簡単だった。
 というのも、啓斗とシュラインの二人でほとんど説得をしてしまっていたからである。
 無益な戦いをしても仕方がない。
 こういうところは、青眸の美女の感覚はシャープで現実的だ。
 結局、輸送艦に積んでいた荷物はクッサマー号とアトラス号に移され、ラビットフット号の乗組員で降伏を潔しとしない連中が、マンゴスチンに移乗する。
 積み荷を奪った後の輸送艦は解放する、という条件を草間と麗華が呑んだからだ。
 人道というより、これ以上の戦いを避けたかったという側面もある。
「それじゃ、私たちもいくわね。武彦」
 去っていくマンゴスチンを見送った後、麗華が言った。
 その背後には、長身の男が控えている。
 シオンだ。
 夕日に照らされて、なんというか、えらく絵になる光景だ。
 一見、美男美女だから。
 この後、アトラス号とラビットフット号は僚艦として活躍する。
 軍人あがりの異色の海賊であるシオンは、生涯を麗華のために捧げることとなった。
 それが幸福であるかどうかは、シオンのみが知っていることであろう。

 シュラインと啓斗は、マンゴスチンには残らなかった。
 言語学者はこれ以上軍隊に縛られるのを嫌がり、ニンジャボーイの方は船の行き先を知ってしまったので。
 マンゴスチンはスペインに向かう。
 残念ながら日本には向かわないのだ。
「乗る前に行き先を確認しなかったんですかぁ?」
 着替えをすませた人魚姫が、クッサマー号の甲板にあがってくる。ちゃんと足をはやし、服を着込んで。
 ちなみにこの格好は男性乗組員にはすこぶる評判が悪い。
 やはり胸は貝殻で隠すべきなのである。
 男とはオロカなイキモノだ。
 それはともかくとして、
「というわけで、この子を東洋にいく船に乗せてあげたいのよ。どこかの港まで運んでもらえないかしら?」
 草間と交渉しているシュライン。
 音楽的なまでに美しい声に、キャプテンの顔はでろーんと緩みっぱなしだ。
 みなも、十里楠、桐崎が顔を見合わせる。
 共通の予感を抱いて。
「近くの港なんてケチなことはいわないさ。この船でそのニッポンってところまでつれてってやるぜっ!」
 かっこつけるキャプテン・クッサマー。
「ありがとうっ」
 通訳され、喜びのあまり、ひしっと草間に抱きつく啓斗。
 当然のように、ぽいっと捨てられる。
 零が、くすくす笑いながらニンジャボーイを慰めていた。
 やっぱり、と、十里楠、みなも、桐崎の三人は思った。
 この美女、思い切り船長の好みだから。格好つけないわけがないのだ。
 やれやれと肩をすくめつつ、彼らの瞳も輝いている。
 次の冒険は東洋へ。
 そして、マルコポーロが黄金の国だと紹介した日本へ。
 新たな冒険の始まりだ。
「抜錨しろ。最終目的地はニッポンだ! ヨーソロー!!」
 響くキャプテンの声。
『アイアイサー!!!』
 仲間たちの声も唱和する。
 満帆の風を受ける大三角帆。海賊旗が翻る。
 白波を蹴り、クッサマー号の新たな旅が始まった。





















                       おわり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0554/ 守崎・啓斗    /男  / 17 / 輸送艦密航者
  (もりさき・けいと)
3356/ シオン・レ・ハイ /男  / 42 / 軍艦ラビットフット艦長
  (しおん・れ・はい)
0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 言語学者
  (しゅらいん・えま)
3138/ 桐崎・明日    /男  / 17 / クッサマー号の傭兵
  (きりさき・めいにち)
3506/ 梅・黒龍     /男  / 15 / 軍艦アルゴ艦長
  (めい・へいろん)
3628/ 十里楠・真雄   /男  / 17 / クッサマー号の船医
  (とりな・まお)
1252/ 海原・みなも   /女  / 13 / にんぎょひめ
  (うなばら・みなも)
3446/ 水鏡・千剣破   /女  / 17 / 海軍人
  (みかがみ・ちはや)
2903/チェリーナ・ライスフェルド/女/17 / 海軍人
  (ちぇりーな・らいすふぇるど)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「すすめ! 海賊船クッサマー号!」お届けいたします。
大航海時代をモチーフにした、壮大(?)な海洋冒険活劇です。
後日談まで盛り込もうかと思ったんですが、それはさすがにやめました☆
楽しんでいただけたら幸いです。
次のパラレル活劇は、宇宙にいきましょー

それでは、またお会いできることを祈って。





☆お知らせ&コマーシャル☆

8月からの水上雪乃の新作アップは毎週月曜日。夜10時からの受付開始となります。
どうぞよろしくお願いします。

なりきりチャットというものをご存じですか?
キャラクターになりきって遊ぶ、一種のRPGです。
水上雪乃は、そんななりきりチャットを主催しています。
「暁の女神亭」
検索でも出ますので、よろしければ覗きにきてくださいね☆