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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


■−懐かしの未来−■

 最近毎夜、いつも夢に悩まされるようになった。まるでそれは、「夢の中の夢」。茫洋とした表現だが、そうとしか言えない。
 幻影学園の中で繰り返される「前世の自分」。確かに学園生活を送っているのに、授業の合間、廊下でひとりぽつんとしている時や、授業中うっかり居眠りをしている時など、その「夢」は現れる。
 それは、幾つかの物語になっているように見えた。
 だが、それに出てくる「どれ」が「前世の自分」なのか分からない。出てくるのは、普通の生徒、月を見上げる鳥篭の小鳥、たくさんの動植物、そして窓から見える───地球と酷似した星。どれも見ると懐かしい。涙が出る。なのに「どれが自分」で「何をしていた」のか思い出せない。
 このままでは、涙に押し潰されてしまう。夢の哀しみに押し潰されるなんて、冗談じゃない。
 あなたは、「本当の自分」は「どれ」なのか、何をしていたのかを探すことにした───。


■Relief party■

「まただ……」
 普段からの寝不足もあるのだろう、授業中居眠りをしてしまっていた神威・飛鳥(かむい・あすか)は、そう呟いて軽く頭を振った。
 また、いつものあの夢。
 この幻影学園に「通い始めて」からというもの、毎日のように夢に見る。
 舌打ちしようとしたと同時に、昼休みを告げるベルが鳴る。ともかく、これだけ夢で体力を浪費しては気力ももたない。購買部に向かうことにした。
 混んでいる───焼きそばパンを買うにはもう遅いだろうか? 人ごみから顔を出し、どのパンが残っているか確かめていると、誰かにぶつかった。
「っと」
「痛っ……ああ、すみません」
 見ると、年上と見て取れる青年、セレスティ・カーニンガムの美しい長髪が飛鳥のボタンに引っかかっている。
「いいよ」
 軽く言って、セレスティが自分でボタンから髪の毛を丁寧に取り外すのを見て取ると、どこかで鳥の鳴き声がした気がして、ハッと振り向こうとし……セレスティも真剣な面持ちで自分と同じものを追っていることに気がついた。
 視線に気付いたセレスティは、苦笑ともとれる微笑みを返す。
「最近、妙な夢を見まして。それに出てくる鳥篭の小鳥の鳴き声にとてもよく似たものが聴こえたような気がしたものですから」
「鳥篭の小鳥……それって、他にも動植物や地球みたいな星とか出てきたりする?」
「ええ。……もしかしてあなたも?」
 こくりと飛鳥が頷くと、セレスティは自己紹介をした。3年A組のセレスティ・カーニンガム、と。神威のほうは、2年B組の神威・飛鳥(かむい・あすか)とそのまま答えた。
 と、そこでまた一騒動が起きた。どうやら、一人の女生徒がこの殺到する生徒らに紛れた痴漢にあい、悲鳴を上げているようだった。
「…………?」
 悲鳴を上げているにしては……随分、喚きすぎな気がする。それに、あの喚き声……どこかで聞いたような。飛鳥はセレスティの傍を離れてそちらへ向かおうとした、その時。すっとその脇を通り越し、長い銀髪を一括りにしタオルで頭を巻いた、見覚えのある男子生徒がその渦中へ入っていった。
「……真癒圭。ほら、大丈夫か?」
 真癒圭と呼ばれてすっかり萎縮してがくがく震えていた女生徒は、彼を見た途端───無論「彼」が彼女に何かをしたのだろうとは飛鳥だけでなくセレスティにも分かったのだが───落ち着きを取り戻し、周囲に騒ぎを起こしたことを平謝りしていた。
 人だかりが散っていくと、ようやく飛鳥の頭にピンときた。
「ああ───同じクラスの十里楠と諏訪か」
 声をかけられて、女生徒は咄嗟に諏訪と呼ばれた男子生徒の後ろに隠れる。
「は、はい……十里楠・真癒圭(とりな・まゆこ)です……」
「俺は諏訪・海月(すわ・かづき)。アンタ……誰だっけ?」
 その答えに幾分ため息をつきつつ、飛鳥は名乗る。次いで、セレスティが名乗り、夢のことをご存知ありませんかと柔らかに尋ねてきた。
 すると、海月と真癒圭はきょとんと顔を見合わせ、自分達もちょうどそのことで話し合いをしようとここに待ち合わせをしていたのだ、と言った。
「わたしは……動植物、特に大きな大きな……天までも届きそうな大樹にとても惹かれて……それは、もしかしたらわたしが『来世生まれ変わるとしたら大樹がいい』って前から思ってたからかもしれないけど」
 男性恐怖症だという彼女のため、なるべく人のいない隅っこのテーブルを陣取り、4人は「共通する夢」について話し込んでいた。紅一点の真癒圭がそう言うと、セレスティと飛鳥もそれぞれ先刻言っていた意見を言う。最後に海月が、
「俺は紫色の長髪の青年がいたような……そいつが懐かしくて仕方がないんだ」
 飛鳥は銀色の狼が気になると答えた時、セレスティが「そういえば」と思い出したように購買部の窓から天を見上げる。
「さっき、その夢に出てくる小鳥と似た鳴き声がしたような気がしたのですが……空耳でしょうか」
 飛鳥がその視線を辿り、苺牛乳と紅茶を其々飲んでいた真癒圭と海月がそれに続く。
 耳を澄ます───このところ続いているこの夢は何なのか。偶然自分達がその夢の欠片を「拾って」しまったとしても、このままでは落ち着けない。全員がそんな気持ちでいた。

       ピィッ──────

「「「「!」」」」
 飛鳥とセレスティ、海月が席を立ってその声に向かって走ろうとしたのはほぼ同時だった。真癒圭が慌てて後に続こうとし、突如───その床が「ガラガラと崩れた」。
「きゃ……」
 落ちていく。
「真癒圭!」
 手を伸ばした海月の手が空を掠めた、が。彼の足元にも床の割れ目は走った。
「十里楠! 諏訪!」
 能力も何もかもが無効化される。何故、と目を見開きながら落ちていく海月を見下ろす飛鳥とセレスティにもそれは及んだ。
「くっ……」
 床を掴もうにも、「何か」が意図的に邪魔しているとしか思えない。水中で手を漕ぐような煩わしさに、セレスティは眉を顰めた。
 飛鳥は、海月の後に次いで落ちていったようだが、自分もその後を追っているのだ、と何故か冷静に彼は考えていた。


■夢の中の夢■

 真っ暗な───購買部の床を突き抜けたにしては深すぎる、「穴」。それに妙な浮遊感。
 夢に悩まされるのは暑さで参っている事も関係あるのか、だがそれでも何度も夢に出てくるのは、何か見て欲しいと夢の中に出て来ているようで、暗示とも警告ともとれるかもしれない、とセレスティは判断していたのだが。
「痛ッ!」
 唐突に重力が元に戻り、どすんと誰かの上に落ちる。見ると、真癒圭の上に海月が、その上に飛鳥、セレスティと乗っかってしまっていてまるでパンケーキのようだった。
「あ、失礼」
「悪い」
「ごめんな、真癒圭」
 慌てて男性恐怖のため硬直する寸前の真癒圭からどく、男子生徒三人。
 そして、その場を見て───真癒圭の代わりとばかりに硬直した。
「な……ここ、どこ?」
 スカートの埃を───そんなものがあるかどうかも疑問だったが、掃うように手ではたいて、真癒圭は辺りを見渡す。
「……見たとおりのトコ」
 一番順応性のありそうな海月が、ぽつりと言う。
 そこには……一面の草原、夜空、そして大樹に集まるたくさんの動植物、鳥篭に入った小鳥がいた。
 夜空を見上げると、確かにそこには地球と酷似した星がある。
「異空間?」
 飛鳥が草原の草は本物かと触れながら誰にともなく尋ねる。
「でしょうね。恐らくは……例の夢の、中でしょう」
 その飛鳥に銀色の狼が歩いていくのを緊張しながら見つめつつ言う、セレスティ。彼の肩には既に、毀れたのか鳥篭から逃れた小鳥が止まっていた。空っぽの鳥篭が風に揺られ、カタンと横倒しになる。
「あ───」
 海月が、今にも駆け出しそうに足をザッと一歩踏み出した。その視線の先には、彼が懐かしいと感じていた紫髪の青年の後姿があった。だが、それは───。
「…………」
 駆け寄る前に気付き、海月はギリッと歯軋りする。何故そうしたのか、彼自身にも分からない。
「無念?」
 飛鳥が銀狼を自分の膝に座らせその背を撫でながら彼に問う。確認とも取れた。
 よく見ればその青年は、凍り付いていた───生きた人形のようにされていた。
 自分は彼に会ってどうしようとしていたのか。話したかった、のかもしれない。意志のひとかけらでも欲しかったのかもしれない。でも、それは叶わぬことと知ったのだ。
 何故こんなに───哀しいのだろう。
「前世の海月さんだとしたら……何故こんな風に?」
 セレスティは小鳥を指で愛でながら呟く。
 前世の風景だとしても、「居るもの」「在るもの」が雑多すぎる。
 まるで───
「前世で関係あるもの、寄せ集めたみたい」
 彼の言いたいことを真癒圭が取り上げ、大樹にそろそろと近づいていく。
 そう、まるでそれは寄せ集めのようだった。
 パズルの一部の切れ端をジャラジャラと山積みにしたかのように。
「……もういい、こんな夢。真癒圭、帰ろう」
 海月が、大樹を今まさに抱き抱えようとしている真癒圭に歩み寄る。どこか悔しげな彼の顔に、彼女は小首を傾げた。
「でも───」
「帰るって、どうやって?」
 自分のカードがちゃんとあると誰にも知れぬよう飛鳥が言いながら確認したのを、だがセレスティは目敏く見てしまっていた。
 知らぬように、小鳥の首をかいてやりながら真癒圭と海月に近寄る。
「こいつには眠れば異空間と交信する能力があるから」
 海月が言うと、なるほど、とセレスティが呟く。
「この世界から見れば私達の住んでいる世界は『異世界』ということになりますからね。誰かにその信号が届けば助けてもらえるかもしれません」
 ただ、この「夢の世界」が何なのかは知りたいですけれど、と彼は付け加えた。
「何でそいつは凍ってるんだ?」
 初めて立ち上がる、飛鳥。
 大樹に触れるあと数センチというところで止めている真癒圭と、彼女の足元に咲いている小さな紫色のすみれをなんとなく見下ろしながらの海月の傍を通り過ぎ、凍った青年の元にいく。
 セレスティは何か危険な予感がして、後を追う。
「こいつは誰だ?」
 青年の冷たい肩に触れてから、一瞬後に飛鳥はしまったと思った。俺らしくもない失態だ。何故かそう、本能が告げていた。
 折りしもそれは、海月が大樹に触れた真癒圭の腕をそっと掴んだのと同時だった。
「「「「!」」」」
 物凄い頭痛と眩暈が、全員を襲う。
 これは───「前世の夢」ではあっても「前世の自分達」ではない。
 否、確かに「前世の自分達」と「同じもの」はあったとしても、それは───

              ダミー。


■懐かしの未来■

 銀狼も。紫色の長髪の青年も。鳥篭の小鳥も。大樹も。
 全部ダミーだ。
 自分達を誘き寄せるための手段に過ぎない。
 夢を見せていたのも。
 では、何故?
 何故、誰がそんなことを?
「……み……いぶ……?」
 ふと、頬に冷たい感触。飛鳥とセレスティ、真癒圭と海月はそれぞれに感じ、ほぼ同時に瞳を開けていた。
 ぼんやりとした───それは、「現実」。元の購買部に、彼らは戻ってきていた。
「君達、大丈夫?」
 再度、同じ声が発せられる。
 見ると、どこかで見たことのある男子生徒が海月の頬を軽く叩いていた。周囲には、人だかりが出来ている。
「ああ、無事だね。よかった。今、保険医を呼ばせたから」
「あ───」
 その男子生徒が人だかりに「何でもないから」というようなことを言うのを聞きながら、飛鳥も真癒圭も気付いていた。学年の違う、セレスティも。
「繭神(まゆがみ)くん……?」
 まだぼんやりと、頭痛のする頭を抑えながら、真癒圭。
 そう、彼らの第一発見者は飛鳥と真癒圭、海月と同じクラスの、どこか不思議な雰囲気を持つ、繭神・陽一郎(まゆがみ・よういちろう)だった。
「どうかした? 大丈夫?」
 再び、彼が真癒圭と海月を見て尋ねる。二人はぽろぽろと、何故か胸苦しさに泣いていたのだ。その胸苦しさは飛鳥にもセレスティにもあったのだが、彼らはぐっと堪えていただけに過ぎない。
「だい、じょうぶ」
 真癒圭が涙を拭いながら言うが、後から後から出てくる。
「ああ……大丈夫だ」
 ぐっと歯を食いしばるように制服の袖で涙を拭った海月は、既に涙を流す気配はない。これが男と女の差なのだろうか、と、こんな時にも真癒圭は考えてしまう。
 彼らが感じた胸苦しさ───それは、たまらない「懐かしさ」と「哀しみ」。
 それは、恐らくは自分達の気持ちに「擬似された誰か他の者の気持ち」。
 違うかも、しれなかったけれど。
 これがなんなのか分かるには、もう少し時間も準備も必要そうだった。
 やがて繭神が誰かに呼ばせた保険医が来ると、彼は「それじゃ」と立ち去っていく。
「結局……何だったのか分かりませんでしたけれど」
 と、かすり傷の手当てを受けながら、セレスティ。
「このままじゃ……哀しいままな気がする」
 ぽつりと飛鳥。
「誰が見せたのか分からなかったけど、俺は───出来れば、『解決』してみたい」
 とは、海月。
「でもどこか……あの『前世の夢』……みんな哀しそうだったけど、懐かしんでた、ね」
 やっと涙が引いてきたらしい、真癒圭。
 もう、彼らは今回のような夢は見ないだろう。けれど。
 『何か』の始まりを引き起こしたことは朧気に感じていた。
 ピィッとどこかでまた、小鳥の声が聞こえた気がした───。



 to be countinued..............






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
2861/神威・飛鳥(かむい・あすか)/男性/2年B組
1883/セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/3年A組
3629/十里楠・真癒圭 (とりな・まゆこ)/女性/2年B組
3604/諏訪・海月 (すわ・かげつ)/男性/2年B組






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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回ですが、幻影学園でのわたしの初のノベルとなりました。色々と事情がありまして続き物のような感じの終わり方になりましたが、いずれ明らかになると思います。
参加なさらなくてもわたしの出来上がってくるノベルを見ていただければ、「あああの時はそれであんな風だったのか」と納得していただければ、幸いです。
そういうことも含めまして、今回は個別ではなく、統一させて頂きました。

■神威・飛鳥(かむい・あすか)様:初めてのご参加、有難うございますv 能力なども多彩なのでもったいないなとは思いましたが、今回のノベルでは初めから能力は出すにしてもほんの少し程度に抑えようと思いましたので、こんな感じになりました。
■セレスティ・カーニンガム様:連続のご参加、有難うございますv プレイングを見て流石だなと唸りましたが、うまく生かすことが出来ず、結局予定通りの結末とさせていただきました; そして何気なくリーダー役にさせて頂いたような気がします。お気に召されませんでしたらごめんなさい;
■十里楠・真癒圭(とりな・まゆこ)様:初のご参加、有難うございますv お仲間が生憎と男性ばかりで申し訳ありません(爆)。そして、大樹にもっと絡ませたかったのですが、それもままならず……力不足で本当にすみません;
■諏訪・海月(すわ・かげつ)様:初のご参加、有難うございますv 今回はセレスティさんと同じくリーダー役というか物語の引っ張り役とさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか。今後もう少しこのお話は明らかになっていく予定ですので、暖かく見守っていてくださるととても嬉しいです。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回はいわばその「伏線」とも言うべき作品となりましたが、皆様は如何でしたでしょうか。わたしは書いている間、自分の前世はどうだったんだろうなとか昔占ってもらったことなど思い出していましたが……続きも是非書こうと思います。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆