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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


納涼・化かし合い大会2004

*オープニング*

 毎年恒例、龍殻寺の境内肝試し大会。普段は寂れて訪れる者も殆ど居ないような潰れ掛け寸前の寺だが、この時ばかりは賑わうと言う。…尤も、その賑わいの半分ぐらいは、既にこの世の者ではなかったりするのだが。
 実は、龍殻寺の肝試し大会には隠された目的があった。龍殻寺の境内には大きな霊道が通過しており、普段は狭いそれが、ある一定期間だけ広く開かれるのだそうだ。それ故、現世を彷徨う浮かばれない魂を普段より速やかに多く成仏させる事が出来、なるべく沢山の魂を安らかに眠らせる為、こうしたイベントを開いて浮遊霊を集めるのだと言う。

 例年通り、募集掲示板に載った肝試し大会参加者募集の書き込み。が、一部の人間には、直接参加のオファーがあったらしい。
 ………あったのだが。

 龍殻寺住職の天鞘は、何を考えたのだろう、ボランティアの一部をおのが能力を用いて霊体に変えてしまったのだ。本人曰く、霊の立場になって…と言う事なのだが果たして……。


*Side:A 海原・みあおの場合*

 「うわぁ、すごいっ。本当に幽霊になっちゃった!」
 楽しげなその語調と内容が全然そぐわないのだが、みあおは至ってお気楽に鏡の前でくるりと一回転してみせた。今、みあおの身体は半透明になり、足元は薄ぼんやりと消え掛かっている。自分の手で足の爪先を触ってみようとしたが、触る事は出来なかったので感心して何度も触ろうとチャレンジしてみた。
 取り敢えず、と言う事で自室で記念撮影に臨む。セルフタイマーにしたカメラの前で神妙な顔をして立っていると、そのうちカシャッとシャッターが下りる音がした。端から見れば、誰も居ない部屋の中でひとりでにシャッターが下りたように見えただろう。
 デジタルカメラの液晶画面をチェックすると、四角い枠の中で半透明の自分がにっこりと愛らしい笑みを浮かべている。なかなかの出来だねっ、と自画自賛をしてみあおは満足げに頷いた。
 「これなら、万が一間違えて成仏させられちゃっても、遺影だけは完璧だねっ」
 成仏させられたら、なんてそんな悠長に言ってられる事柄でもないとは思うのだが、そこはみあおたる所以か。みあおはカメラのストラップを首に掛けて身体の前に提げると、本来の目的である龍殻寺へと向かった。

 霊体って便利だねぇ、とみあおは頷く。いつもなら歩いて数十分掛かる距離も、今は高低差や距離など、人間にとっては障害になるものも、霊体のみあおには何も関係ないので、真っ直ぐ直線距離でやって来れたからだ。
 夕刻過ぎの龍殻寺は、一般の肝試し参加者達で賑わっている。寺の敷地内に一歩足を踏み入れた段階で、みあおの姿も他の参加者達と同じように視覚で捉えられるようになった。尤もそれは生きている人間から見れば、と言う話であって、霊体であるみあおには、生者と死者の区別は容易だった。さて、と受付を待つ列の脇を通り過ぎてみあおは境内へと歩いて行く。周囲を見渡し、目的の相手を探し始めた。
 「説得でも導く事が出来るって言ってたけど、みあおはそれは難しいと思うんだよね。自分がまだ生きていると思い込んでいる霊ならともかく、ちゃんと自覚もしてて彷徨っているって事は、何か目的とか執着とか、或いはいっそ本能とかで動いているようなもんだろうしね…取り敢えず、自覚のない霊は誰かに任せて、みあおはそうじゃない霊を捜そっと」
 そう言って歩き出そうとしたみあおだったが、その足が突然ピタリと止まる。身体の動きを止めたままで、みあおは前方を凝視していたのだが、そこには一人の女性の姿があったのだ。
 その女性は、見た目は全く普通の二十代前半ぐらいの女性であった。少々時代遅れの古臭いワンピースを着ている以外は、何ら不審な点はない。ただ、近くに寄ってみれば分かるのだが、何故かその女性は、雨も降っていないのに全身ずぶ濡れであったのだ。一般の人が見れば、ちょっとおかしな人だなぁで済む話であったが、みあおの目には彼女は自分と同類…つまりは、この世の者ではないと映ったのだ。
 「ね、ね、何してんの?」
 不意に背後から声を掛けられ、女はびくっと驚いて身体を竦ませ、後ろを振り返る。屈託のない笑顔でみあおは女を見上げ、もう一度何してんの?と尋ねた。
 「何って…この辺りが賑やかだったから、つい……」
 「つい…って感じには思えないけどなぁ。だってお姉さん、なんか思いつめたような顔してたもん」
 「………」
 みあおの言葉に、女は返す言葉もなく、何かに耐えるようにただ血の気の無い下唇を噛んでいる。その様子から、確かに彼女は自分が霊体である事をちゃんと自覚していて、それを踏まえたうえで、この龍殻寺にやって来たと思えるのだ。俯き、躊躇う風な女の隣に立ち、みあおがその手を軽く握る。驚く女に、にっこりと人懐っこい笑顔を向け、みあおは繋いだ手を軽く前後に揺らした。
 「お姉さん、みあおと一緒に行こ?今夜は肝試し大会があるんだよ。きっと楽しいよ!」


*Side:B 四宮・灯火の場合*

 一般参加者で賑わう龍殻寺境内では、同時にこの世の者ではない者達も同じように集っていた。尤も、そう言った者達が仲間内で屯う事はなかったので、端から見れば、単独で肝試し大会に参加した者のように見えた。
 受付を済ませた者から順に、境内から寺の敷地内のどこかへと参加者は姿を消していく。驚かせる側としてどこかの物陰に潜んで獲物を待ち構えようとする者、或いは、驚かされる側として寺が作った順路に従って敷地内を回る者。勿論、そんな順路などお構いなしで好き勝手動き回る者も居れば、恋人同士でやってきていきなり人気のないところに消えていく者など、その行動は千差万別であったが。
 そんな中、寺の本堂の屋根の上で、何か少しだけ次元が歪んだ。瓦屋根の上の風景が瞬間的にぶれたようになったと思った直後、そこにひとりの日本人形が姿を現した。
 「……いろいろな方が…いらっしゃいますね……」
 灯火は、龍殻寺内に点在する人々の姿を一望してそう呟く。不安定な瓦屋根の天辺で、ふら付く事もなく真っ直ぐに立ち、長い黒髪を夏の風に揺らしていた。
 ふと、灯火の視線がゆっくりとした移動を止める。その先にはひとりの幼い少女が居た。就学前ぐらいの年頃らしいその少女は、防災頭巾にモンペ姿で、どうやら戦時中にその幼い命を散らした浮遊霊らしい。自分が何故ここに居るのかも分からない様子で、戦火に紛れてはぐれた母親を必死な様子で探している。それを見た灯火の無表情な青い瞳が、ふっと細められた。
 「…あの方は…ご自分が既に死している事もご存じないのですね……同じような方々が他にもいらっしゃるご様子…このままでは…ここに導かれた意味が余り無いような気もしますが…」
 それでも、そう言った自覚の無い霊に対しては灯火は何も行動する気は無いようだ。自分が死んでいる事を分かっていない霊の場合、その事実を認めさせてやりさえすれば、素直に成仏する可能性が高い。だが、それを分かっていて彷徨っている霊は、この世に何かしらの未練や感情を残している事が多い。灯火には人間には無い特別な力があるから、後者のような霊達を慰める方が適任なのだと自分で思ったのだ。
 さっきまで灯火が立っていたところの空間が再びぶれ、灯火の姿が消える。次の瞬間、灯火は寺の鐘の傍に現われていた。こちらの方から何かの気配を感じたのだ。一歩踏み出すと、灯火の草履が玉砂利を踏み締め、ざりっとした音がする。その直後、鐘楼の向こう側で何か蠢くものがあった。
 「…どなたか…おみえになるのですか……?」
 灯火が静かな声で話し掛けると、暫しの沈黙があった後、ひとりの男が姿を現した。平凡な髪型と流行り廃りの無いシャツとズボン姿で、いつの時代を生きた者かは見た目だけでは分かり辛い。尤も灯火自身、社会の流行に聡い訳ではないので、ファッションを見ただけでは分からなかったかもしれないが。
 「…あの、私の姿が見えるのでしょうか…?」
 男は、自信なさげな細い声でそう尋ねる。灯火は、こくりとひとつ頷いた。
 「…はい…今夜は特別な夜ですから…このお寺に居る人達全てが…この世の方ではない方の姿も…見る事ができます……尤もわたくしは…普段からいろいろなものを目にする事ができますが…」
 「ああ、そうなのですか。…さっきから時々普通に声を掛けられるので、不思議に思っていたのです」
 男は、ほっとしたように表情を緩めて笑う。もう一度頷いて、灯火が男の方へと歩み寄った。
 「あなた様は…死して尚この世を彷徨っていらっしゃる方とお見受けしますが…その訳をお聞きしても…構いませんか…?」
 「別に構いませんとも。内密にしなければならないような、重大な秘密ではありませんから」
 そう言って小さく笑った男の表情は、どこか諦めにも似ていた。


*望みは叶う*

 みあおと女の霊は手を繋いだまま境内をのんびりと歩く。勿論みあおは、肝試し大会に誘う事自体が目的だった訳ではない。何かしら思い詰めた風なこの女と一緒に居る事で、彼女の気持ちを解し彼女が何を求めているかを知ろうと思ったのだ。
 「自覚のない幽霊だったらまずはその事実を納得させる事からだけど、今回はそうじゃないからねー」
 「みあおちゃん、何か言った?」
 物珍しげに周囲と見渡していた女が、みあおの独り言に聞き返す。なんでもない、とみあおは首を横に振ってにっこりと笑う。その笑顔に釣られたように、女も小さく口元で笑み返した。最初の時に比べ、女の気分もかなり解れてきているようだった。
 「みあおちゃんは、どうしてひとり彷徨ってるのかしら?」
 「えーと、それはその…えへ。みあお、良く覚えてないんだー」
 あはは、と誤魔化すようにみあおが笑う。だが女は、そうなの、と言ってそれ以上何も聞こうとしなかったから、そう言った事はこの世界では少なくないのかもしれない。
 「それよりも、お姉さんは何で彷徨ってんの?お姉さんぐらい綺麗なヒトなら、何も迷う事なんか無さそうなのに」
 「まぁ、みあおちゃんったら」
 容姿の良し悪しは未練や迷いとは関係ないのだろうが、それでも褒められれば誰しも嬉しいもの。女は、半透明の白い頬をほんのりと紅く染めて照れ臭そうにした。が、次の瞬間、女の表情が凍りつき、歩みもぴたりと止まった。
 「?お姉さん、どうしたの?」
 「……、さん…」
 乾いた声で女が呟く。誰かの名前を呟いたようだが、みあおにははっきりとは聞き取れなかった。女の視線の先には古びた鐘楼がある。その石造りの階段に腰掛ける二人の人の姿が見えた。ひとりは男で、こっちは霊体である事がすぐに分かる。もうひとりは小柄な少女のように見える。が、霊体ではない事は分かるが、ただの人間でもないようにみあおには思えるのだ。
 女の凍りついた表情が次第に悲しそうになり、その大きな瞳には大粒の涙が滲んだ。ああ、きっとあの男の人はこの女の人の想い人なんだ、この女の人はきっと恋人に逢いたくて彷徨っていたに違いない、とみあおは思った。

 みあお達がそうして立ち尽くしているまさにその時、灯火達もみあお達の存在に気付いてそちらへと視線を向けた。灯火の目にも男の目にも、二人とも霊体であると映る。が、灯火には、小学生ぐらいの少女の方は、何か少し違うような気がした。
 みあおは、女の手を両手で引っ張り、灯火達の方へと近付いてくる。その様子を、灯火と男は階段に腰を下ろしたままで眺めていた。今にも泣き出しそうな女とは裏腹に、男は至って冷静に二人の霊を見詰めている。この男性と女性は縁者ではないのでしょうか、と灯火は心の中で首を傾げた。
 「こんばんはっ!」
 屈託の無いみあおの声が響く。元気よさげなその様子に、男は思わず笑い、同じように挨拶をする。女はと言えば、感極まった様子で男の方を見詰めているが、男は、その視線の意味が分からないと言った様子で、女に対し会釈をするのみである。
 「ええと、…まずはっ、海原・みあおですっ。よろしくね!…早速だけど、お兄さん、このお姉さんの恋人でしょっ?」
 みあおがそう言うと、男は驚いたように目を丸くする。首を左右に振って、否定の意を示した。
 「残念だけど違うよ」
 「ええっ、違うの!?」
 みあおの驚きの声と同時、女も驚いたように目を見開き、口元を手の平で覆う。まるで、恋人の裏切りを目の前で見てしまったかのような表情だ。そんな二人の様子を見比べていた灯火が、静かな声で言った。
 「お見受けしたところ…お二方がご存命の時代には…少し隔たりがあるようです……」
 「え、って事は……」
 「恐らく…この男性は…その女性の想い人に…良く似ていらっしゃるのでしょう…それで勘違いされたのだと…」
 「なぁんだ。本人じゃなかったんだねー」
 残念、とみあおが唇を尖らせる。それを聞いて女の方も、一応は納得したようだ。ショックと涙を収め、ゴメンナサイと小声で謝罪した。男は、片手を軽く振り、小さく笑う。
 「謝らなくてもいいですよ。好きな人に逢えないのはとても辛いですからね…」
 「そう言うお兄さんも、もしかして好きな人を捜しているの?」
 男の表情が、同情と言うには余りに寂しげだったので、みあおはそう尋ねる。男は言葉や態度では肯定しなかったが、俯くその表情が真実を物語っていた。
 「…いつの時代も…どなたかを思う気持ちは…何よりも強いものなのですね……」
 「そりゃそうだよっ、誰かを好きになったり嫌いになったり、それで力や勇気が湧いたり行動力が増したりするんだもんっ」
 ねっ?とみあおがそう言って女の顔を見上げると、そうね、と女も釣られて笑みを浮かべた。
 「あーあ、でもお兄さんが別人ってのは残念だなぁ…運良く逢いたかった人に逢えて、これでお姉さんが安らかになれると思ったんだけどなぁ」
 運の良さはみあおのお陰だけどねっ、とこれは心の中だけで付け足す。ごめんね、と今度は男の方が苦笑混じりに謝罪をした。
 「謝らなくてもいいよっ、だって、もし本人同士なら、お兄さんも本望を遂げられたんだもんね?」
 「…そうですね…お二方が本当の恋人同士なら…お二方ともこの世に思い残す事は何もないのですよね…」
 灯火が、そう呟くと難しい顔をして考え込む。どうしたの?とみあおがその顔を覗き込んだ。
 「いえ…確かにお二方は本当の恋人同士ではありません…ですが…実際にはそのお相手が同じように彷徨っているとは限りません…もしかして既に成仏されている方…若しくは未だご存命ならば…これ以上捜しても…巡り逢う事は困難なのでは…」
 「確かにそうだよねぇ。でもだったら、二人ともこのままずっと彷徨っていなくちゃならないのかなぁ?それって、ちょっとと言わずかなり哀しいよね…」
 みあおが、少し沈んだ声で言う。灯火もそれに同意をして頷くが、
 「…ですので…わたくしの能力で…お互いをご自分のお逢いしたかった方なのだと…見せて差し上げようと思います…何も無くても望むものがあれば…それをお見せする事は可能ですが…例え別人でも実際に目の前にいらっしゃれば…」
 「錯覚もし易いもんね?」
 確かにその通りなのだが、そう言ってしまうと身も蓋もない。灯火は苦笑い気味に頷くと、そっと静かに目を閉じる。何か祈るようにも見えるそんな灯火を残りの三人が黙って見詰めていると、やがて男と女の周りだけ、ぼうっと蛍のように淡い光に包まれ始めた。
 不思議に思って二人が、自分の身体を取り巻く光を見ていると、それは次第に幅を狭め、やがては二人の身体にそれぞれ吸い込まれていく。次の瞬間、女の目の前には愛しい恋人の姿が、そして男の目の前にも愛する恋人の姿が現われたのだ。勿論、それはさっきまでの二人の姿そのままなのだが、灯火の能力に寄って、二人の記憶が違うもののにすり替えられたような状態になっているのだ。嘘や錯覚だと言えばそうかもしれない、だが当て所のない希望なら、そんな嘘も優しさの一つなのではないだろうか。
 「…強制的に…成仏させるのは……良くないと思いますので……できれば…どのような形でも…その方の意思を尊重して差し上げたいと…」
 「…そうだね。それに、成仏すれば本当の恋人にも出逢えるかもしんないしね?」
 みあおがそう言ってにこりと笑う。そんなみあおに、既に半分以上、身体が薄れ掛けて成仏し掛けている女が慌てて声を掛けた。
 「みあおちゃん、みあおちゃんだけ残して私だけあちらに逝く訳には…」
 「だ、大丈夫!みあおもすぐに後を追っ掛けてくから、お姉さんは先に逝ってて!」
 両手を身体の前で振りながら、みあおは慌ててそう言い、大丈夫だからと繰り返す。女は暫くはそれでも心配そうにしていたが、やがては男と手を取り合って空に昇り、二人の魂は安らかな眠りについたのであった。


*肝試し大会・終了*

 「…あー、危なかったぁ……」
 二人を見送った後、安堵の溜息と共にそう呟くみあおに、灯火の唇が笑みの形になる。
 「お優しい方…でしたね……ご自分の事だけでなく…今逢ったばかりの方の事まで…心配してくださるなんて…」
 「ま、まぁね。あのお姉さん、最初に見た時からイイヒトっぽかったから、みあおも助けてあげたいと思ったんだよね」
 「…良かったですね…みあお様の願いも叶えられましたし…間違って…一緒に連れていかれる事もありませんでしたし……」
 「うん?やっぱり気付いてたの?みあおが、灯火と同じボランティアのひとりだって」
 灯火がこくりと頷くと、みあおは、やっぱりーともう一度繰り返して笑った。

 そうするうちに夜は明け、龍殻寺夏の恒例、肝試し大会は終了の時を迎えた。みあおと灯火は、本堂の屋根の上で二人並んで腰掛け、帰路に着く人々の姿を遠くから眺めて見送る。
 「今夜だけでどれぐらいの霊が成仏できたんだろうねぇ」
 「…どうでしょうか…ボランティアの方は…結構多いようでしたので…かなりの数の魂が…癒されたのではないでしょうか…」
 「そうだといいね。いつまでも先に進めないのなんて、哀しいもんねっ」
 みあおはそう言うと、さて、と徐に首に提げていたデジタルカメラを手に取る。何事かと視線を向ける灯火に向かって、にっこりと笑い掛けた。
 「さてっと、無事に今年も終わったし、記念撮影しよっか?」
 「…わたくしも……ですか…?」
 意外そうに灯火がそう言うと、モチロン!とみあおが笑って頷く。
 「当たり前だよ、記念撮影なんだよ?灯火が映らなくてどうすんの」
 「…いえ…わたくし…その…あまり経験が無く……」
 戸惑う灯火には構わず、みあおは不安定な屋根の上で三脚を組み立てセルフタイマーをセットすると、急いで灯火の元へと戻る。灯火の隣に並び、肩を組んでピースサインをし、灯火にもするようにと誘った。
 「…わ…わたくしも…?」
 「そうだよっ、楽しい事は何でも一緒にやらなきゃ!人生は一度きりなんだもん、楽しまなきゃ損だよっ?」
 チーズ!灯火がぎこちなくピースサインをした瞬間、カメラのシャッターは切れた。但し、同時に三脚がバランスを失って横に倒れていったので、二人の姿がちゃんと収まっているかどうかは疑問だが……。


おわり。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 1415 / 海原・みあお / 女 / 13歳 / 小学生 】
【 3041 / 四宮・灯火 / 女 / 1歳 / 人形 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせ致しました、『納涼・化かし合い大会2004』をお届けします。この度はご参加誠にありがとうございます。へっぽこライター碧川桜でございます。
 さて、海原・みあお様、いつもありがとうございます!お久し振りです、またお会いできて嬉しいです。
 『納涼・化かし合い大会』も数を数える事三回目…それだけ長くライターをさせて頂いていると言う事なんですが、その割には進歩が余り無いような気がするのは気のせいでしょうか(多分気のせいじゃない)
 今年の夏はまた以上に暑い日々が続いていますので、少しでも涼を…と思っての依頼でしたが、恐くもなんとも無い辺り、別に夏の企画じゃなくてもいいのかもとか思ったり…(汗) このノベルはへっぽこでも、皆様は夏バテなどなさらないよう、お気をつけ下さいね。
 ではでは、今回はこの辺で…またお会いできる事を心からお祈りしております。