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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


黒い巨塔〜草間調査団(2)〜


 200X年、5月某日…夜。
季節はずれの台風が日本列島を直撃して全国的に大雨に見舞われ、
ここ、東京でも暴風と大雨に見舞われて悲惨な状態になっていた。
台風は幸いにも一晩だけで過ぎ去って行き、皆ほっとして朝を迎えたのだが…
 台風一過の東京のビル街のど真ん中。
突如として、黒くぬめり気のある天に向かい聳え立つ『黒い塔』が出現したのだ。
それは無機質なようでいて有機質な物体で…
正体を突き止めようとさまざまな調査団が結成されて調査に向かった。
 こう言う自体が発生した時、真っ先に依頼が入って来るであろう人、
草間武彦の草間興信所もやはり例にもれず調査団を結成して調査に向かう事となった。
 塔の内部は広いフロアとなっていて、各所に様々な仕掛けがしてあった。
はっきり言って、触らなければ発動しなさそうな仕掛けばかりのようだった。
冷静な調査団の面々はそれらには触れる事は無かったのであるが…
しかし、内部では突如、何者かの襲撃を受けていきなりの戦闘となる。
なんとか戦闘を追えて相手を退散させる事が出来た草間調査団だったのだが…
 突如、それは起こった。
部屋の中身がまるでやわらかい綿のようなものに変わったかと思うと、
脈打つようにうねうねと動き始めて調査団たちを分断してしまったのだった。

 得体の知れない『黒い塔』の内部で…
果たして彼らは再び出会い、そして調査を再開出来るのであろうか…?




 得体の知れない塔の中で孤立と言うものは困る。
恐怖感や不安感と言うものよりもなによりもどうすればいいのかわからず困る。
自分の置かれている状況がわからないだけに本当に困る。
「困ったわね…」
 シュラインは腕を組んだまま、眉を寄せて溜息をついた。
突如揺らいだ部屋は、その形を極端なまでに変えてあっと言うまに何も無いフロアを迷路へと変えてしまった。
それは塔の意思でおこしたものなのか、それとも何か他の要因があるのか。
もし塔の意思ならばそれはどうしてなのか。また同じような事はあるのか。
考えれば考えるほどわからない事ばかりで、シュラインはもう一つ息を吐いた。
誰かがいれば相談しながら進む事も出来ただろうが今は一人で進むしかない。
 とりあえず床や壁の突起には触れないように進む事にした。
常に所持しているソーイングセットから糸を取り出し、小銭を結んで高低差を調べながら上へと進む。
はっきりとそちらが正しい道だという確信は無いのだが立ち止まっていても仕方が無い。
 やはり一人で進むという事に多少の心細さは感じるものの、
それでも今までの彼女の経験から、前へ進むと言う気持ちが萎える事は無かった。
「……?足音が聞こえる…話し声も」
 途中で数回、岩が転がってきたり水が流れてきたりする事に出くわしながらも、
なんとかやり過ごして進んだシュラインは、右前方からの気配に足をとめる。
聞き覚えのある声と、姿を見止めると、ほっと息を吐いた。
「翼さん、ルゥリィさん!」
「シュラインさん!!」
 両者は共に駆け寄ると、お互いの無事を確認しあってほっと一息つく。
やはり人に遭遇すると言うのは精神的に安定することが出来る。
「誰にも会わずに進まなきゃいけないのかと思ってたわ」
「わたくしもです…でも翼さんと会えましたから」
「僕もいざとなれば一人ででも調査は続けるつもりでしたが…会えて嬉しいです」
「本当に…!これで心強くなったわ…一休みして先に進みましょう」
 はい、と三人は顔をそろえて休憩を…しようとしたのだが。
「杏里!そいつ離れるように言えよ!」
「やめてよ皐。莱眞さんに失礼じゃない!」
「何も気にすることは無いんだよ?俺は杏里ちゃんが無事ならそれでいいんだから」
 翼たちがやって来たのとはまた違う方向から、三人の姿が見える。
三人はさらにシュライン達の姿を見つけると嬉々として走り寄って来たのだった。




 再会した者、またここで初めて会った者とそれぞれではあるが、
とりあえず「草間調査団」の面々は一団となって上へ上へと進んで行った。
途中で敵に遭遇する事もなく、とりあえずはただ進むだけの道のりである。
「じゃあシュラインさんと翼さんだけなんですね…残ったのは」
「そうなの…一緒に入った他の人たちが心配なんだけれど」
「進んでいるうちに会えれば良いのだがな」
 先頭をシュラインと翼が、その後ろにルゥリィと杏里の二人が、
最後尾は莱眞と皐の男が並んで進む事となった。
男は常に女性の後ろからサポートすると言う莱眞と、
同世代同士で気があった杏里とルゥリィが並んで話をしながら歩いている為にこの並びになったのだ。
「なあ…頼むから無表情で機嫌悪そうにするのやめてくんねえ?」
「………」
「杏里!!俺やっぱり嫌だコイツの隣」
「男同士だからちょうどいいじゃない?」
「よくねえっ!!」
 皐が涙ながらに杏里に言うのには理由がある。
莱眞はそれこそ女性にはとても優しくフレンドリーなのであるが、
男に対してはよっぽど気に入った相手ではないととてつもなくそっけない。
出会いが出会いだけに、特に皐に関しては眼中に入っていないのと同じだった。
 そんなこんなで歩みを進める草間調査団は、やがて階段を上りきり広いフロアに出る。
右の側面はおそらく塔の外周なのだろう。弓なりになっている。
それに対して左側の側面はまっすぐな壁が天井まで達していて、上から見ると半円状の部屋になっているようだった。
足場はいつの間にやら大理石のごとく光沢がありしっかりとした床になっていて、
それ以外は何も無いフロアだった。一番危険な罠らしきものも見えない。
「一応今までとは違う雰囲気の場所に出たみたいね…」
「殺意や攻撃的な者の気配は感じないのだが警戒しておいた方が良いな」
「皐、戦いになった時は頼んだわよ」
「ああ」
「及ばずながらこの俺も力にならせてもらうから安心してくれると嬉しいね」
「頼りにしてますね。西王寺さん」
 莱眞はルゥリィに微笑みを浮かべると、しっかりと頷いて。
「さて。それにしても困ったわね…この部屋には道も階段も無いようだけれど」
 確かにこのフロアには下から上がってくる階段はあっても、ここから先に行く階段が無い。
「この壁の向こうに何かあるのかも知れないな」
 翼が警戒しながらゆっくりと壁に近づく。
そして手を触れるか触れないかの位置にまでその腕を伸ばした時…
爆音のようなものが轟いて、壁が小刻みに振動する。
「なっ…なんなの今のは?!」
 シュラインは驚き、翼の隣に駆け寄る。翼は首を傾げながら目の前の壁を見つめる。
「敵襲か?何かの罠でも働いたのか…それにしては…」
「気をつけることに越した事はありませんね」
「充分注意しながら上への階段を探しましょう!」
 さらに翼の隣にルゥリィと杏里が並んで壁を見つめながら言葉を交わす。
そうして、フロアを調査する為にそこから離れようとした時…
『すみません!誰かそっちにいらっしゃいますか?』
 壁の向こう側から、聞きなれぬ、少年か若い男性らしき声が聞こえて動きを止める。
そして全員でその声が一番大きく聞こえた場所へと移動して耳をすませる。
しかし、聞き間違いだったのか…何も聞こえない。
「気のせい…?でも今、確かに声が…」
『俺達はあやかし調査団!あやかし荘から派遣されて来た精鋭たちだぜ♪』
 訝しがっていたシュラインの声にかぶるように、再び今度は少年の…子供らしき声が聞こえてきた。
あやかし荘という知った名が出てきても、何かの罠かもしれない。
「俺が話をしよう…」
 莱眞は壁に近づく女性達を手で制し、自分が前に出る。そして壁に向かうと…
「いいだろう。そちらに女性はいないかな?女性がいれば少し話をしたいのだが」
 真剣な顔をしてそう告げた。この期に及んで女にこだわるのかー!と皐は内心ツッコミを入れる。
相手はしばらく沈黙した後…男や子供ではない女性の声でコンタクトをして来る。
その声の主に覚えがあった莱眞は、相手があやかし荘の関係者である事を確信した。
「どうやらこのフロアは真ん中をこの壁で仕切られて二部屋になってるらしいね…
壁の向こうのあやかし荘の方々も下からの階段しかなくて上に進めず立ち往生をしているようだよ」
「と言う事はこの階はどちらに出ていても行き止まりなんですね」
「どうする、杏里?」
「そうね…壁を破ってみても先に進めると言う事は無さそうだけど…」
「必要とあるのなら、わたくしが壁を破ってもかまいませんが…」
「僕が切っても良いのだが…」
「壁を壊して合流すると言うのも一つの手かもしれないわね…でも下手に刺激するのも良くないわね」
 しばし壁の前で立ち、どうするかを検討する草間調査団。
慎重派で、冷静な行動をしている彼らの行動は壁の向こうで起こっている出来事とは正反対で。
「とりあえず向こうの人たちと相談してみましょう」
「そうですね…こちらだけで決めてもいけませんし」
「ならば再び俺が間になって話をさせてもらおうかな…」
 どうするかを相談しているうちに、ふと周囲の雰囲気が変わった事に気づく。
室内に漂っていた空気が変わった感じで肌寒さすら感じて全員動きを止めた。
なんとなく、部屋中にもやというか霧状の白いなにかが漂っている事に気づき一箇所に集まった。
「なんだ!?敵か?!」
「落ち着いて状況把握!」
「あ、あそこ見て下さい!誰かいますよ?!」
 杏里が叫ぶと同時に、階段のある場所とは正反対の場所に指を指す。
自然にその指の向く方向に目を向けると、確かにそちらに何かのシルエットが浮かんでいた。
それはちょうど鎮くらいの年齢の女の子で、真っ黒で長い髪を床の上にまで垂らし、
さらに真っ黒なゴスロリ風の服装をしていて…生気の無い無表情な顔でじっとこちらを見つめていた。
”我は帰りたい我の世界へ
 主らは我の旅を助ける者か”
 少女に眼を向けた者全員の心、頭に直接”声”が響いてくる。
驚きに眼を見合わせる面々ではあったが、声は止まずに語りかける。
”我を助ける者ならば我と共に
 我に害を成す者ならば我から出て行け
 我は帰りたい…我の世界へ…”
「これはどういうことだ…この部屋に漂う風も戸惑っている…」
「もしかしたらあれはこの塔の…」
「我は帰りたい…我を助ける…何か私達に助けを求めているみたいね」
「杏里、どうするんだ?」
「罠と言う事も考えられるわ」
「シュラインさん、どうしますか?答える事によってこの先が変わりそうな展開ですが」
「そうね…私は助けてあげたいと思うけれど…みんなの意見を聞きたいわ」
「俺は困っている女性を見捨てる事は出来ない!
儚げな少女が俺を待っている…俺は行くよキミの為に!」
「ち、ちょっと西王寺さんっ!?」
 どうやら莱眞の答えを全員の回答と”塔”は受け取ったらしい。

”我を助ける者…ならば我が後に続くが良い…”




 最上階なのだろうか。
少女に連れられ、エレベーターのようなものに乗って上がった部屋は、
少し狭いフロアで天井はドーム状になっていて、部屋の中には樹木の根のようなものが、
壁に床に天井に這いまわっていて、人間で言う血管のように見える部屋だった。
 その部屋の中央に、少女はこちらを向いて立って待っていた。
”我は帰りたい…我を助けて”
 無表情なまま、少女は淡々と語る。
遠い昔、祖国に大型の台風が起こり、時限の歪みを発生させて移動させられてしまったと。
同じように祖国の者達は何人も(それを人と数えるなら、だが)異次元を彷徨っていると。
そして、それ以来、台風に乗って色々な世界を移動する術を見つけたのだと。
しかし…祖国に帰ることは出来ない。
どんな世界で台風に乗っても、祖国に帰り着く事は出来ない。
この世界でもまた帰り着く事はできずに、こんな東京のど真ん中で、
何かの力によって移動を止められてしまっているうちに、この世界の人々が接触してきたと。
それならば…と、”塔”は思った。
この世界の者達の力を借りて、祖国に戻る事は出来ないだろうかと。
別にこの世界の者を縛るつもりはない。制裁を加えるつもりもない。期待しているわけでもない。
ただ、もう自分ではどうしようもない事だから…
”我を助ける者…我を祖国に帰してくれ”
 それまで無表情だった少女の目から、一筋の涙が零れ落ちる。
それは、故郷に帰ることの出来ない”塔”の思いがあふれた雫だった。




■GO TO NEXT STAGE…



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家・幽霊作家+草間興信所事務員】
【1425/ルゥリィ・ハウゼン/女性/20歳/大学生・『D因子』保有者】
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/男性/25歳/財閥後継者・調理師】
【2863/蒼王・翼(そうおう・つばさ)/女性/16歳/F1レーサー兼闇の狩人】
【2938/佐々木・杏里(ささき・あんり)/女性/18歳/退魔師】
【2948/佐々木・皐(ささき・こう)/男性/19歳/使い魔】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は「黒い巨塔〜草間調査団2〜」に参加いただきありがとうございました。
二度目の皆様、ありがとうございます。初めての皆様、ありがとうございます。
1話とはまた違った顔ぶれの調査団となりましたが楽しんでいただけましたでしょうか?
オープニングにおける現状説明が不十分で少し混乱させてしまった事をお詫び申し上げます。
今回は皆様のプレイングを拝見し、シリアスと言うよりはコメディに近い展開にいたしました。
 今回、はぐれていた状態から調査団に集まるまでの経緯を個別に執筆しております。
翼様→ルゥリィ様&莱眞様→杏里様・皐様→シュライン様の順番になっております。
また、あやかし調査団とのコンタクトと言う形に今回なっておりますので、
宜しければあやかし調査団の様子も覗いてみて下さるとよりいっそう楽しめるかもしれません。(笑)

 最後は次回最終話予定への前置きというような形で終わっております。
また宜しければ次回も参加いただけると幸いです。

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>