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調査コードネーム:アコガレのハワイ航路
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :神聖都学園
募集予定人数 :1人〜4人
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「ちゃんとパスポートもった?」
鈴木愛が確認する。
「大丈夫っ」
「おっけー」
芳川絵梨佳と佐伯飛鳥が元気に応えた。
新東京国際空港。
ここからジャンボジェットで、彼女らは合宿に向かう。
行き先はハワイ!
学生サークルの合宿にしては、えらくはりこんだものである。
「えっへっへ。黒いお金が動いているのさ」
「そちも悪よのぅ」
「ひょっひょっひょっ」
馬鹿な会話を繰り広げる絵梨佳と飛鳥。
やれやれ、と、愛が肩をすくめた。
黒いお金はともかくとして、この合宿にはちゃんとスポンサーがいる。
神聖都学園の理事長さまだ。
ちなみに宿泊するのは、理事長がハワイ島に所有するコンドミニアム。そこに四泊もする。
「学校経営って儲かるんだねー」
どこぞのしみったれ探偵のようなことを言う飛鳥。
「はいはい。さっさと手続きを済ませちゃいましょ」
愛の声と、搭乗手続きをうながすアナウンスが重なった。
憧れの楽園へと導くように。
※探偵クラブの合宿です。
旅行です。
プライベートビーチもあります。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
受付開始は午後10時からです。
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アコガレのハワイ航路
南国。
照りつける太陽。
ハイビスカスの花の香り。
そして、
「遅かったのである」
探偵クラブ一行を出迎える、亜矢坂9すばる。
唖然とする一同。コケている人までいる。
いきなり非常識な登場だ。
思い起こせば一三時間ほど前、成田で見送ってくれたのがすばるだった。
そしてハワイで出迎えてくれたのも、すばるだ。
あまり意味不明さに冠城琉人などは立ちくらみを起こしたほどである。
「それは熱中症」
びしっとつっこむシュライン・エマ。
まあ、このくそ暑いのに黒帽子に黒コートなど着込んでいれば、熱中症にでもなんにでもなってしまう。
「まあ、すばるだからな」
「そーそー すばるだし」
なんだか達観しきっているのは守崎啓斗と北斗のツインズ。
すぱるや、この旅行には参加してない大男の行動にいちいち驚いていては、探偵クラブでは生き残れない。
そこはまさに戦場なのだ。
男はみんな傷を負った戦士なのだ。
「何の話ですか‥‥」
げっそりとするのは桐崎明日。
うに坊というニックネームのプータローである。
「どうしてそういう適当なモノローグで話を進めますかっ あなたはっ」
「おおぅ」
ぐりぐり。
桐崎がすばるの頭をシェイクする。
勝手なモノローグでストーリーを進める、という禁断の必殺技。ちなみにこれを使えるのはすばるだけだ。
「到着そうそう元気だなぁ。おまえら」
中島文彦が苦笑を浮かべた。
腕に芳川絵梨佳をしがみつかせて、ちょっとした新婚旅行気分である。
ちなみに中島というのは本名ではなく、彼は日本人ですらないのだが、そこはそれ蛇の道は蛇というやつで、ちゃんと中島文彦名義のパスポートももっている。
「立派な犯罪者だな」
苦笑してささやいたのは、引率役の草間武彦だ。
教師ではないのだが、探偵クラブの顧問という肩書きを持っている。そのほかに町内俳句同好会副会長という肩書きもあるが、こちらはこの際どうでも良い。
顧問である以上、こういう行事には参加しなくてはいけない。もっとも、基本的な世話焼きは美人の奥さんがやってくれるのだが、それでも責任を取る人間は必要なのである。
「つまりこのなかの誰かが死んだら、草間の責任なのである」
「縁起でもないこと言わないの」
こつん、と、鈴木愛がすぱるの頭を小突いた。
「ひぃひぃ‥‥」
その後ろからよたよた歩いてくるシオン・レ・ハイ。
両手いっぱいの荷物を抱えている。
その中で、彼のもちものは一割ほどだろうか。残りはすべて女性陣のものだ。
押しつけられたわけではない。
ここは女性たちからの評価をあげるため、男シオン、見せ所なのだ。
「シオンおじさん。がんばれっ!」
佐伯飛鳥がエールを送る。
「はいぃ がんばりますぅ」
よたよた。
貧乏イフリートの明日はどっちだっ。
さて、探偵クラブの合宿場所は、神聖都学園理事長の別荘である。
ハワイに別荘を持つなど、
「絶対なにか悪いことしてるよな」
とは、雑食忍者北斗の言い分である。
ほとんどの者が同感だったので、反論は出なかった。
まあ、理事長が悪いことをしてくれたからハワイで合宿ができる、という側面もある。
盗人の上前をはねるわけだ。
「ひょひょひょ」
「そちも悪よのう」
「悪は退治するのである」
馬鹿な会話を繰り広げる絵梨佳と飛鳥とすばる。
のどかな光景である。
「つーかものすごく心配なんだよなぁ。なにも起きないと良いけど」
ぼそぼそと啓斗が呟いた。
冷凍野菜ボーイだが、恋愛以外のことに関してはそう鈍くない。
「ま、なんか起きるでしょうね」
さらっと流してしまうシュライン。
蒼い瞳には、なんだかあきらめの色が浮かんでいる。
「そういえばシュラインさんと草間さんって、これが新婚旅行みたいなものですよね」
「そう思う?」
ぴく、と蒼眸の美女の右眉があがった。
急速に下がる気温。
精神的に。
この状況で、草間夫婦が二人きりの時間など持てるはずがない。
すばる、北斗、絵梨佳、飛鳥、シオン。
なにかやらかしそうなやつが五人もいる。
ちなみに名簿順は危険度の順番である。とくに前から三人にはマンマークで付く必要があるだろう。
絵梨佳には中島が、北斗には啓斗が付くから良いとして、
「決定ですかっ!?」
頭を抱える冷凍野菜。
他の国まできて恥をさらしたくなければ、頑張るしかないのである。
問題はすばるだ。
これには、草間とシュラインのふたりがマークにいかないと危険だ。
どのくらい危険なのかというと、ジダンをゴール前でフリーにしてしまう以上にあぶない。
マルセイユルーレット炸裂である。
「‥‥というより、どこでそんな知識を仕入れてくるのよ。アンタは‥‥」
また勝手なモノローグで話を進めているすばるの頭に、ぽふっとあごを乗せるシュライン。
この調子だから目が離せないのだ。
シオンと飛鳥については、まあ放っておいても致命傷になるようなことはしないだろう。過大な期待は禁物だが、ふたりセットにしておくと、意外と名コンビだったりする。
名コンビといえば、桐崎と愛なども最近ちょっとあやしい。
「メール交換とかしてるらしいのである」
「なんですばるは、そんなことを知ってるかなぁ」
北斗が、驚くというより呆れる。
愛が頬を染めたりして。
「ひゅーひゅー やるねぇうに助」
ここぞとばかりにからかう中島。
普段からかわれている仕返しだ。それはいいとして、どんどん愛称が意味不明になっていく。
「‥‥べつに良いですけどねぇ‥‥」
ちょっとだけ拗ねる桐崎。
キリちゃんとかうにとか、ろくな呼ばれ方をしない。
「みなさん仲良しですねぇ」
お茶の準備をしながら冠城が口をはさんだ
さすがにコンドミニアムの中は空調が効いているし、電化製品もだいたいは使い方が判る。
冷蔵庫の中には梅干しまで入っていたりする。
「至れり尽くせりね」
苦笑するシュライン。
日本人はどこへ行っても日本人だ。ソウルフードがほしくなるのだ。
「魂の剣〜〜」
「ソレ違ウ」
絵梨佳のぼけと中島のツッコミ。
これもまた、見慣れた光景だ。
シオンや冠城がごくわずかに寂しそうなのは、若い連中とやや温度差を感じるからかもしれない。
誰の言葉だったか、若さとは何かを得ようとすることで、老いとは何かを失うまいとすることだ、というものがある。
つまり考え方が防御的になってゆくわけだ。
まもるものができれば、それは当然のことだろう。
そうなってほしくない、と、じつはシュラインは自分の夫に対して思っている。
いつまでも悪ガキで、夢を追ってほしい。
必ずついてゆくから。
たまに振り向いてくれたら、必ずそこにいるから。
「なるほど。だから夫婦別姓にしたのですか」
訳知り顔で頷くシオン。
夫の精神的な負担にならぬため、というわけだ。
「そこまで考えてたわけじゃないけど‥‥」
言いかけて、はっと口をつぐむ蒼眸の美女。
仲間たちのにやにや笑いに直面する。
「愛してるぜ。シュライン」
「私もよ。武彦さん」
抱きしめあうふたり。
ちなみに本人たちではなく絵梨佳と中島だ。よせばいいのに。
「あ・ん・た・ら・は〜〜〜!!」
ごすごす。
景気のいい音がふたつ。
むろん、必殺の踵落としである。
床にのびるオロカモノがふたり。
「愚かな‥‥雉も鳴かずば撃たれまいに‥‥」
啓斗が呟く。
「まあ、お墓にはクチナシの花を供えてあげますよ。口は災いのもとっていう教訓にはなるでしょう」
くすくすと笑って桐崎。
さっき言われた仕返しだろう。
「なむなむなむなむ」
合掌するすばる。
「やめてくださいよぅ。死者が出たら私たちの責任になるんですからぁ」
情けない声で、冠城が言った。
顧問は草間だが、この冠城という男は理事長がつけてよこした監視役というか、
「犬だ〜 マッポの犬だ〜〜」
「北斗くんは黙ってなさい」
「きゃいんきゃいん」
愛につっこまれた北斗が、しっぽを巻いて逃げていった。
まあ、一応はお目付役なのだ。冠城は。
「気持ちはわからなくもないですよ。理事長の」
「まあねぇ」
苦笑を交わすシオンとシュライン。
自分の別荘を探偵クラブのメンバーに使わせる。
その勇気は、未来を知っていてなおタイタニックにのるような、蛮勇といっても良いほどの冒険だ。
「冒険理事長という称号が文部科学省から送られたのである」
平然と嘘を付くすばる。
もちろん、だれもそんなことは信じなかった。
「あれ?」
「どうした? シオン」
「中島さんと絵梨佳さんの姿が‥‥?」
「あ‥‥っ!?」
言われてきょろきょろと周囲を見回す啓斗。
どうやら、倒れていると見せかけて逃亡したらしい。
「やられた‥‥」
無念の臍をシュラインが噛んだ。
いきなり波乱の幕開けをする合宿である。
さて、合宿である以上、共同生活を営むのが大前提だ。
当然のように、食事も自分たちで作ることになる。
料理上手なシュラインや啓斗、冠城などはともかくとして、すばるや絵梨佳の作ったものも食べなくてはならないということだ。
「めざめよっ! 冒険心っ!!」
ちなみに、威勢の良いかけ声とともに絵梨佳カレーに挑んだ北斗は、あうなく討ち死した。
世の中には雑食少年にも食べられないものがある、という証左である。
「なにやってんだか‥‥」
苦笑したシュラインが代わりの食べ物を出す。
転ばぬ先の杖。
絵梨佳の作業と平行して、ちゃんと食事を用意していたのだ。
さすがは怪奇探偵の奥さんである。どこまでもそつがない。
メニューの話をすれば、中島チームが担当したステーキが最も豪快だった。
なんと、一人あたま三キロ。
なかなか強烈な攻撃ではあるが、完食した上に他人の分までもらって食べたものがいる。
名を記すまでもないと思うが、雑食とうにと貧乏である。
前者ふたりは成長期だ。食べ盛りなのだ。
「それとこれとは、事象も次元も驚くほどかけ離れていると思う‥‥」
胃のあたりをさすりつつ言う啓斗。
我が弟ながら、みているだけで胸焼けを起こしそうだ。
「だいじょおぶ? くるしくない? しおにぃ」
などといいつつ、シオンの背中を飛鳥がさする。
「大丈夫ですよ」
変なコンビである。
「さてっ! 花火やるかっ!!」
中島が巨大なバッグを引きずり出す。
現地で仕入れた花火セット。ざっと二〇キロ分ほどある。
「派手ですねぇ」
やや呆れたような、冠城のコメントだ。
気持ちはわからなくもないが、
「こういうのは派手にやった方が思い出に残るんだよ」
という中島の意見で正しいのだろう。
彼にとって、過ぎる季節を数えるということは、別離までのカウントダウンのようなものである。
絵梨佳と、中島と名乗る青年。
はなれているのは年齢だけではない。
一方は暗黒街の住人、他方は小なりといえども財閥の令嬢。
釣り合うはずがないのだ。
いつか別れるときがくる。
それまでに、ひとつでも多くの思い出を残してやる。
「どしたの? 文っち?」
ふと気がつくと、絵梨佳が男の横顔を見上げていた。
「‥‥何でもないさ」
言葉の前におかれた一瞬の沈黙が、青年の言葉が嘘だと告げる。
「‥‥ならいいけど☆」
少女は納得したようにはみえなかったが、それでも恋人の腕にからみつく。
過ぎゆく夏と、過ぎゆく時間を惜しむように。
花火の華やかな輝きが、二人の顔を染める。
あるいは、絵梨佳と中島は先達の道を歩いているのかもしれない。
なんとなく、冠城はそう思った。
彼の視線の先には、桐崎と愛、シオンと飛鳥という二組のカップルがいる。後者は恋人同士と呼ぶには無理があるものの、前者はなかなかに似合いだ。
だが、やはりこれらが恋に発展し、成就するには障害が多いだろう。
愛も飛鳥も、いわゆる名家の令嬢だからだ。
だからこそ間違いを起こさないように、彼が同行したのである。
連発する打ち上げ花火が、高く低く花を咲かせる。
「兄貴。なにぼさっとしてんだよ」
とん、と背後から弟が啓斗の肩を叩く。
「ん‥‥いや」
「いってみろって。俺にだけ」
「べつにたいしたことじゃないさ」
「ふふーん。あの娘を誘えば良かったとか思ってたんだろ?」
「‥‥こないだ誘ったばかりだから。それに、向こうにも都合があるだろうし」
「かーっ! つまんねーっ!!」
「なんだよ?」
「絶対零度凍結野菜っ!」
ずいぶんな言われようである。
むっつりと横を向く兄。
色とりどりの光が、白皙に反射する。
「大人なのか子供なのか、よく判らないのである」
少し離れたところに立った三人、草間、シュライン、すばる。
最も背の低いものが言った。
「からかいにいかないのね。めずらしく」
「人の恋路を邪魔するやつは、コモドドラゴンに蹴られて死ぬのである」
「ここはガラパゴスじゃないわよ」
くすくすとシュラインが笑う。
まったく不器用な話ではあるが、この少女はこれでも気を遣っているらしい。
「けど、おまえがあっちに行ってくれないと、俺たちがいちゃいちゃできないぞ」
草間が肩をすくめてみせる。
「それは良かったのである」
「確信犯かよ」
漫才をはじめる夫と少女。
まあ、こういうのも悪くはない。二人きりでロマンチックというのも良いが、いつものペースが、やはり心地良い。
東京とは違った星空が広がる。
南十字星が、異境からの訪問者たちの頭上で輝いていた。
もうすぐ、旅が終わる。
エピローグ
ホノルル空港の税関で係員に怒られたものがいる。
マカダミアナッツ二〇キロなら、きっと彼らも見逃してくれただろうが、生牛肉とか怪しげな秘薬とか、怪しげな武器とか、えっちな本とかDVDとか。
誰が何をニッポンに持って帰ろうとしたのかは、あえて記すこともあるまい。
「やれやれ‥‥なに考えてるんだか‥‥」
怒られなかったものの一人、愛が肩をすくめた。
「いゃぁ、まったくその通りですねぇ」
桐崎が頷く。
ちなみに、彼は怒られた側である。
「アンタが言うなっ!」
何人かのツッコミが、一斉に決まった。
一行が故国にたどり着くのは、もうちょっと先になりそうだった。
「海外まできて恥をさらしていれば、世話はないのである」
ものすごい真顔で、誰かが言った。
探偵クラブの面々は、今日も元気だ。
おわり
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0568/ 守崎・北斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・ほくと)
0554/ 守崎・啓斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・けいと)
3356/ シオン・レ・ハイ /男 / 42 / 貧乏人
(しおん・れ・はい)
0086/ シュライン・エマ /女 / 26 / 翻訳家 興信所事務員
(しゅらいん・えま)
0213/ 張・暁文 /男 / 24 / 上海流氓
(ちゃん・しゃおうぇん)
2748/ 亜矢坂9・すばる /女 / 1 / 特務機関特命生徒
(あやさかないん・すぱる)
2209/冠城・琉人 /男 / 84 / 神父
(かぶらぎ・りょうと)
3138/ 桐崎・明日 /男 / 17 / フリーター
(きりさき・めいにち)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「アコガレのハワイ航路」お届けいたします。
あいも変わらずドタバタ旅行です。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。
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