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<東京怪談・PCゲームノベル>


黄金褌伝説


*ゴーストネット発掘隊*


 ネットカフェにはいかにも営業外回り中のサラリーマンや、私服だがどう見ても中学生か高校生のような若者もいる。
「ちょっと、アナタ学校はどうしたの?」
 その中で、ちょこんと椅子に座ってパソコンの画面を眺めていた本谷マキ(もとや・まき)は不意に中年の女性に腕をつかまれた。
「学校?」
 首をかしげたマキに、その女性は、
「あなた見たところ中学生でしょ。私服を着てたって判るのよ」
と言った。どうやら彼女は補導員らしい。
「ちがいますよ〜」
 こういうことは良くあることなのでマキは大して怒ることも驚くこともなくぶら下げている自動車の免許証を見せる。
 それをまじまじと見た補導員は、
「あ、あら……」
というと、
「ごめんなさいね、貴方ほら、とっても若く見えるから―――」
などと言いながら足早に去っていく。
 まぁ、無理もない、実際マキの体型は小学生の時から変わっていないのだから一概に補導員を責めるのは気の毒かもしれない。
 マキは気を取り直してパソコンに向かう。
 ロックバンド「スティルインラヴ」のドラムス兼ボーカルをしているマキは音楽系のファンサイトを回っていた。
「へぇ、私たちのサイトもあるんだ」
 自分たちのバンドのファンサイトを巡って、そして、最後によく覗いているゴーストネットの掲示板に寄ったのだが、マキがそこで目にしたのは―――
「なんですか?黄金の褌って?」
と、くりっとした目を好奇心でキラキラさせる。
 幸か不幸か……どうやらマキはこのお宝探しに興味を持ってしまったらしい。

■■■■■


 マキがふと横を向くと彼女の隣の席に中華風の服を着た黒髪の凛々しい美形が店員にパソコンの使い方を聞いていた。
 ちらりとその姿を横目でみたマキはまたゴーストネットの『黄金の褌』探しの管理人からの依頼文に目を通していた。
 すると、隣からも、
「黄金の褌!?」
という台詞が聞こえてきた。
 そこで、マキは恐る恐る声を掛ける。
「あのぉ……」
 振り向いたその人の手元を見ればやはりマキ同様ゴーストネットの掲示板を見ていたらしい。
「あの、私、本谷マキって言います」
 ぺこりと頭を下げるマキに、
「我は泰山府君という」
 礼には礼を、泰山府君も名を名乗った。
「泰山府“クン”ですか?」
「泰山府・君ではなく泰山府君だ」
 奇妙なところで名前を切られて泰山府君はしっかりはっきりと訂正する。
「泰山府君さんもそれに興味があるんですか〜?」
「ない、とは言わないが。何故このようなものを秘宝にするのか!阿呆か、この武将は。本当に人間と言うものは面白いな」
 マキは泰山府君の微妙な言い回しに気付く様子もなく、
「私、お宝探しに参加してみようかなぁって思うんですけどご一緒しませんかぁ?」
 小さく首を傾げるマキに、泰山府君は少し黙り込んで、
「阿呆な武将だと思うが、まぁ良い。退屈しのぎに秘宝探しに行くのも良かろう」
と頷く。
「それじゃあ、宜しくお願いします」
 マキは泰山府君の代わりに2人分の参加の書き込みをした。


■■■■■


 マキと泰山府君の2人は電車に乗り継いで富士山麓のふもとへやって来た。
 ゴーストネットの管理人瀬名雫(せな・しずく)の情報によるとこの青木ヶ原の樹海の中にお宝は眠っているらしい。
 地図を確認していた2人の耳に電子音が響いた。
 それはマキの携帯のメールの着信音だった。
「あ、すみません」
 マキはそういうとやたら大きな鞄のポケットから携帯電話を取り出す。
 2つ折の携帯を開く。
 メールの相手はマキと同じバンドでキーボードを担当している飯合さねと(めしあい・さねと)からだった。
 偶然にもさねとは今日、アトラス編集部の三下忠雄とともに同じく黄金の褌探しに出かけているのだ。
 
『とりあえず一足先に樹海に突入するさかい。目印残しとくから気ぃつけてな さねと』

「私の友達のさねとはもうこの中にはいったそうです」
「そうか。なら我々も急がねばな」
 先日着ていたような中国風の衣装の上にいつの間にか甲冑まで纏った泰山府君に促され、マキはその大荷物を背負って先を目指した。
 しばらく歩くと、ある樹の幹に白いチョークらしきもので大きくいびつな×印がつけてある。
「きっと、ここから入ったんですよ」
 さねとの残した印と辿りながら2人は樹海の中に足を踏み入れた。

「それにしてもこれてアレですか? どこかのテレビ番組で埋蔵金が出るとか言って無駄に地面掘り起こして顰蹙買ったアレと似たようなことになったらどうしましょうか〜?」
 延々と樹海を歩きながあるものを片手にそう言い出した。
「『てれび』というのはあれだろう。あの、四角い枠の中で人が動いている」
「そーそー、アレで昔やってたんですよねぇ」
 軽く毒を吐きつつもマキは足を止めない。
 そして、同様に、
「でも、なんですかね。冷静に考えたら凄くばかばかしいですよね。飲まなきゃやってられないですぅ」
と、鞄いっぱいに持って来たカップ酒を飲む手も止めない。
 もちろん、空き瓶はお持ち帰りの為ビニール袋に入れてまた鞄にしまっている。
 そんな酔っ払いじみたマキの戯言を聞きながらも泰山府君は地図やかすかに感じる鉄類の気―――金気を頼りに地道に足を進めていた。
 かれこれ2時間ほど歩いただろうか。
 突然、森中に、
「も―――! 疲れたぁっっ!!」
という女性の声が響き渡った。
「何の声だ?」
「さねとの声です」
 マキはそういうと声の聞こえた方へ走った。
「さねと!」
 しゃがみこんでいるさねとを見つけてマキがそう叫んだ。
 さねとの周りには、こちらも相当疲れた顔をした三下とパンチ、縦縞スーツ、原色シャツ3点セットのヤクザ神宮寺茂吉(じんぐうじ・もきち)ことカレー閣下の姿もある。
「マキ―――」
 抱き合う2人のテンションに取り残された三下、カレー閣下、泰山府君の3人。
 奇妙なお宝捜索隊は更に奇妙なパーティとなった。


■■■■■


 人数は増えたものの結局は代わり映えもせず歩くこと更に1時間弱、事件は起こった。
「てめぇ! いつになったらお宝さまにたどり着くんだよ!」
 痺れを切らしたカレー閣下が三下の後ろ頭をどついた。
 ただでさえひぃひぃ言いながら歩いていた三下は木の根に足を取られて派手にすっ転んだ。
 また美味い具合に下り坂で転んだのでそのまま昔話のおにぎりのようにごろごろと転がって行く。
「三下さーん」
 どこか暢気な「スティルインラヴ」の2人は転がり落ちる三下を追う。
 ドン!
 三下が鈍い音をさせて木に激突したようだ。
 追いついた2人が見たのは、巨大な木の洞に頭が填まってしまい逆さ状態でもがいている三下の姿だった。
「三下ちゃん、あんた何してるん」
 あまりにも間の抜けた姿はさねとのツボに嵌ってしまったらしくお腹を抱えて大爆笑している。
「笑ってないで助けてくださいよぉ」
 そういって更にじたばたする三下をマキがひっぱる。
「おいおい、そんな小さい姉ちゃんにひっこ抜けるのかぁ」
 小柄なマキが三下の足を引っ張るのを見て笑ったカレー閣下だったが、次の瞬間その笑いは驚きに変わった。
 なりは小さくてもドラマーの腕力を舐めてはいけない。
「うーんしょっ」
 掛け声とともに見事にマキが三下を救い出した。
「ふむ……」
 その騒ぎを見守っていた泰山府君が三下の抜けた穴をじっと見つめている。
「その穴、自然に出来た物ではないな」
「え?」
「ほら、ここを良く見るといい」
 泰山府君がそう指差したのは洞の口を見ると確かにそこは時代がたちそれなりの風合いになって入るが不自然に綺麗な切り口になっている。
「ってことは、ここがお宝の入り口ってことか!?」
 穴を覗いていたさねととマキを押しのけてカレー閣下が三下の嵌っていた穴に腕を突っ込む。
「……」
「………」
 周囲が息を呑んで見守る中カレー閣下は、
「あったぞ!!」
と叫んで洞の奥からなにやら頑丈そうな四角い箱を取り出して両手で持ち上げた。
 立方体に近いその箱は真っ黒でいったい材質が何なのかもよく判らなければどこからあければいいのかもよく判らない。
「ホントに、これ?」
「なぁ、コレどうやって開けるん?」
「てめぇら、ごろごろ転がすんじゃねぇ」
 この期に及んでもまだ、その箱の中には究極のカレー(もしくはレピシ)が入っていると頑なに信じているカレー閣下は箱を持ってひっくり返したり叩いたり振ったりするマキとさねとを止めにかかる。
「仕方あるまい」
 そう言って泰山府君が愛刀の『赤兎馬』を翳すと、カレー閣下が2人から取り上げて頭上に掲げていた箱の上部を切り落とした。
 カラン……という音がして切り落とされた箱の木片が落ちる。
 一同の期待に満ちた目を受けつつカレー閣下が箱の中を覗き込んだ。
「……」
 中身がカレーその物ではなかったのでカレー閣下はなにやらキラキラ光る金色の布の下にレピシがあるに違いないと期待しつつその布を持ち上げる。
 ゆっくりと持ち上げられた黄金の布は紛れもなく―――
「ふっ、褌―――!? レピシはっ、究極のカレー様のレピシはどこだ!?」
 カレー閣下は箱と一緒に褌を放り投げてそう言いながら三下の首を締め上げる。
「くっ、くるしっ―――」
「こんなもん認めるかバカヤロ――――!!」
 究極のカレー様はどこだ、どこにあるんだぁぁぁぁぁ―――と叫びながらカレー閣下は更に樹海の奥地へと走り去ってしまった。
 死にそうになっている三下にもどこかに走り去ってしまったカレー閣下にも目もくれず、マキ、さねと、泰山府君の3人はようやくたどり着いたお宝を広げる。
 見事な金糸の刺繍が施された―――褌。
 ただし、それは虫に食われて所々穴が開いている。
「……」
「ま、まぁ、良かったやん見つかって」
「やっぱりおかしなところだな、人間界と言うところは」
 いまいち盛り上がりと言うか感動というか―――何かに欠けるお宝発見のバック、樹海の森にはカレー閣下のものらしい雄叫びがまだ響き渡っていた。


 ついでだが、その黄金の褌を持ち帰った三下が覇権を取ったと言う話しはついぞ聞かない―――


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1747 / 神宮寺・茂吉 / 男 / 36歳 / カレー閣下(ヤクザ)】

【2868 / 本谷・マキ / 女 / 22歳 / ロックバンド】

【2867 / 飯合・さねと / 女 / 22歳 / ロックバンド】

【3415 / 泰山府君・― / 女 / 999歳 / 退魔宝刀守護神】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。遠野藍子です。
 この度はご参加ありがとうございました。
 奇しくも今回は初めて書かせていただくPCさんばかりで試行錯誤の結果こんな感じに……(汗)
 えぇと、アレです。アレのシリーズです。
 一応、コレが1番初めのシリーズだったのです。
 とりあえず、全開とは全く違う展開違うオチになっているので比較してみるのもまた一興かと。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。