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<東京怪談・PCゲームノベル>


黄金褌伝説


*アトラス編集部捜索隊*


「……黄金伝説? それどないやのん?」
 麗香の声を耳にした飯合さねと(めしあい・さねと)は思わずぼそりと呟いた。
 「スティルインラヴ」というロックバンドのキーボード兼ボーカルを担当しているさねとはこの編集部でアルバイトをしているバンドのローディを尋ねてここアトラス編集部に訪れたわけだが、入るなりにそんな台詞を聞けばそう言ってしまうのも無理ないだろう。
「ただの黄金伝説じゃないわよ。黄金“褌”伝説よ」
 やたら褌を強調する麗香にさねとは少し眉をひそめ、手近に居た気の弱そうな男をとっ捕まえる。
「なぁなぁ、あの上司さん、黄金とか褌とかにめっちゃ興味津々なん?人は見かけによらんってこういうこと言うんやなぁ……私にはそういう“えげつない”趣味はようわからんのやけど。ベッピンさんやのに気の毒な」
と、耳打ちした。
 勿論耳打ちされた気の弱そうな男とは、アトラス編集部どころか地球上で5本の指に入るであろう不幸不運を集める男、三下忠雄その人である。
「編集長はそんな変な趣味があるわけじゃないんです!」
と、三下が反論出来れば三下が今の三下であるはずもなく―――さねとの中ではすっかり碇麗香女史はちょっとアレな趣味の持ち主と勘違いしてしまったようだ。
「あんたも苦労するやろうねぇ……」
などと、ネタを持って来たのが三下本人であるにもかかわらず彼にほんの少し同情気味の視線で見られて三下は微妙に居心地の悪い思いを感じる。
「まぁ、気の毒やから私が付き合ってやるさかい、そう気を落とさんとき」
 ぽん……と、さねとが三下の肩を叩く。
「ありがとうございますぅぅぅ」
 微妙な勘違いはあるようだが、道連れが出来たことに三下は感激したようにさねとを仰ぎ見た。


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 勇んで待ち合わせ場所に来たさねとは、その場に並んでいる2人をみて回れ右して帰ろうかと一瞬思った。
 しかし、そう出来なかったのは三下が泣きそうな顔をしながら、
「さねとさぁぁぁん―――!」
と大きく両手を振ったからだ。
 周り中の視線がさねとに突き刺さり、さねとは走って三下の腕を取ってその場を走って去ろうとした。
 だが、さねとがきびすを返そうとした原因のもう1人がそれを止めた。
「おうおう、姉ちゃん、挨拶もなんもなしにその態度はないんじゃないか?」
 その声の主は今時そんなパンチパーマは演歌の大御所か“ヤ”のつく自由業の人か―――というくらい見事なパンチパーマに、どこで買ったのか聞きたくなるようなストライプのスーツに派手な原色のシャツ……あきらかに職業は後者“ヤ”のつく自由業だと物語っている。
 一瞬いろいろな意味で引いたさねとは、
「三下ちゃん、あんた絡まれとったん?」
と尋ねる。
「いや、あの……」
 言葉を濁す三下に代わってさねとが、
「な…なんか用ですか?」
と虚勢を張ってそういったが、さねとののんびりした口調ではいまいち迫力に欠ける。
「ねぇちゃん関西出身か!?同郷のよしみで俺のことをカレー閣下と呼ばせてやろう」
 さねとは生まれも育ちも両親も関西とは全く関係ないのだがバンドのメンバーにキャラ付けのためにしゃべらされたのがきっかけなので思いっきりなんちゃって関西系の言葉なのだが、本場大阪南出身の関西ヤクザのカレー閣下は全く気付いていないらしい。
 わけのわからないことを言うヤクザに目を白黒させる。
「なんなんこの人?」
「えぇと、神宮寺茂吉(じんぐうじ・もきち)さ―――か、カレー閣下さんです」
 カレー閣下の紹介にさねとに名前を言ったところでじろりと睨まれて三下は慌ててカレー閣下と言い直した。
「で、そのカレー閣下さんが何の用なん」
「いえ、カレー閣下も今回の黄金の―――」
「たまたまであった情けなさそうな奴を締め上げたら『黄金の秘宝』とかいうやつを掘りに行くって言うじゃねぇか。黄金の秘宝と言えば、もうアレしかねぇだろ!」
 アレとは閣下の名前の通り、アレである。
 閣下の頭の中ではもう、黄金というとイコールそれしか頭に浮かばないらしい。
 そして、気の弱い三下が本職のヤクザに勘違いだと言えるはずもなく、結果こうしてカレー閣下も黄金のお宝探しに同行することになった。


■■■■■


 オカルト雑誌の編集者とロックバンドのキーボーディストとヤクザという職業から服装まで全く何の共通点も見当たらない3人は三下がホームページの管理人から貰った地図と情報を元に富士山麓青木ヶ原の樹海入り口に立っていた。
「おう、ここか黄金のお宝様が眠ってるって言うのは」
 仁王立ちで入り口に立つカレー閣下の横でさねとは携帯を弄っている。
 相手は同じバンドのドラマーである本谷マキ(もとや・まき)。
 偶然にもマキはマキでネットカフェで偶然ゴーストネットの掲示板を見てお宝探しに乗り出したのだと聞いていたからだ。

『とりあえず一足先に樹海に突入するさかい。目印残しとくから気ぃつけてな さねと』

 カレー閣下を先頭に三下、さねとの順に舗装された道路から樹海の中へ1歩足を踏み入れた。
 

「あ、ほら見てください。見た事のない鳥が居ますよ」
 そう言って指差した三下にさねとは冷たい目を向ける。
「きっとあれだな『黄金の秘宝』っていうからには究極のカレーに関する極秘レピシか、カレー様そのものが噴出す源泉が眠ってるかも知れねぇな」
 閣下の勘違いで胸の高鳴りは傍から見ても判る。
―――どうするん、アレ……
 お宝が見つかったにしろ見つからなかったにしろ、どちらに転んでもこの『カレー閣下』がそれにどんな反応を示すか。
「ま、ええか」
 連れて来たのは三下である。
 勝手に勘違いしたのは閣下本人であり、それを否定しなかったのは三下なのだから、ある意味さねとの知ったことじゃない……と思うことにした。
 全く会話が成立しないままそれでも3人は黙々と奥を目指したのだが―――
「なぁ、ところで、もう結構長い時間歩いてるような気ぃするんやけど」
「そうですねぇ」
 時計を見るともう樹海に入ってからすでに2時間は過ぎているが景色は全く変わらない。
 さねとは何度かマキと連絡を取ろうとしたのだが、携帯電話は圏外になっている為何の役にも立たない。
 唯一さねとが目印にと幹に持って来たチョークでしるしをつけながら来たのだが。
「お、おい!」
 カレー閣下の声に彼が指す先を見るとマキがつけた白いチョークのバツ印。
「なんや、ずっと同じと頃ぐるぐる歩いてきたってことかいな」
 どっと疲れがこみ上げて、さねとはその場にしゃがみこんだ。
「も―――! 疲れたぁっっ!!」
 ライブで鍛えたさねとの声は森中に響き渡る。
「さねと!」
 不意にさねとを呼ぶ声が聞こえて振り向くと、そこにはうっすらと高潮した顔のマキと昔風の甲冑を着た人物―――泰山府君(たいざんふくん・−)が立っていた。
「マキ―――」
 抱き合う2人のテンションに取り残された三下、カレー閣下、泰山府君の3人。
 奇妙なお宝捜索隊は更に奇妙なパーティとなった。


■■■■■


 人数は増えたものの結局は代わり映えもせず歩くこと更に1時間弱、事件は起こった。
「てめぇ! いつになったらお宝さまにたどり着くんだよ!」
 痺れを切らしたカレー閣下が三下の後ろ頭をどついた。
 ただでさえひぃひぃ言いながら歩いていた三下は木の根に足を取られて派手にすっ転んだ。
 また美味い具合に下り坂で転んだのでそのまま昔話のおにぎりのようにごろごろと転がって行く。
「三下さーん」
 どこか暢気な「スティルインラヴ」の2人は転がり落ちる三下を追う。
 ドン!
 三下が鈍い音をさせて木に激突したようだ。
 追いついた2人が見たのは、巨大な木の洞に頭が填まってしまい逆さ状態でもがいている三下の姿だった。
「三下ちゃん、あんた何してるん」
 あまりにも間の抜けた姿はさねとのツボに嵌ってしまったらしくお腹を抱えて大爆笑している。
「笑ってないで助けてくださいよぉ」
 そういって更にじたばたする三下をマキがひっぱる。
「おいおい、そんな小さい姉ちゃんにひっこ抜けるのかぁ」
 小柄なマキが三下の足を引っ張るのを見て笑ったカレー閣下だったが、次の瞬間その笑いは驚きに変わった。
 なりは小さくてもドラマーの腕力を舐めてはいけない。
「うーんしょっ」
 掛け声とともに見事にマキが三下を救い出した。
「ふむ……」
 その騒ぎを見守っていた泰山府君が三下の抜けた穴をじっと見つめている。
「その穴、自然に出来た物ではないな」
「え?」
「ほら、ここを良く見るといい」
 泰山府君がそう指差したのは洞の口を見ると確かにそこは時代がたちそれなりの風合いになって入るが不自然に綺麗な切り口になっている。
「ってことは、ここがお宝の入り口ってことか!?」
 穴を覗いていたさねととマキを押しのけてカレー閣下が三下の嵌っていた穴に腕を突っ込む。
「……」
「………」
 周囲が息を呑んで見守る中カレー閣下は、
「あったぞ!!」
と叫んで洞の奥からなにやら頑丈そうな四角い箱を取り出して両手で持ち上げた。
 立方体に近いその箱は真っ黒でいったい材質が何なのかもよく判らなければどこからあければいいのかもよく判らない。
「ホントに、これ?」
「なぁ、コレどうやって開けるん?」
「てめぇら、ごろごろ転がすんじゃねぇ」
 この期に及んでもまだ、その箱の中には究極のカレー(もしくはレピシ)が入っていると頑なに信じているカレー閣下は箱を持ってひっくり返したり叩いたり振ったりするマキとさねとを止めにかかる。
「仕方あるまい」
 そう言って泰山府君が愛刀の『赤兎馬』を翳すと、カレー閣下が2人から取り上げて頭上に掲げていた箱の上部を切り落とした。
 カラン……という音がして切り落とされた箱の木片が落ちる。
 一同の期待に満ちた目を受けつつカレー閣下が箱の中を覗き込んだ。
「……」
 中身がカレーその物ではなかったのでカレー閣下はなにやらキラキラ光る金色の布の下にレピシがあるに違いないと期待しつつその布を持ち上げる。
 ゆっくりと持ち上げられた黄金の布は紛れもなく―――
「ふっ、褌―――!? レピシはっ、究極のカレー様のレピシはどこだ!?」
 カレー閣下は箱と一緒に褌を放り投げてそう言いながら三下の首を締め上げる。
「くっ、くるしっ―――」
「こんなもん認めるかバカヤロ――――!!」
 究極のカレー様はどこだ、どこにあるんだぁぁぁぁぁ―――と叫びながらカレー閣下は更に樹海の奥地へと走り去ってしまった。
 死にそうになっている三下にもどこかに走り去ってしまったカレー閣下にも目もくれず、マキ、さねと、泰山府君の3人はようやくたどり着いたお宝を広げる。
 見事な金糸の刺繍が施された―――褌。
 ただし、それは虫に食われて所々穴が開いている。
「……」
「ま、まぁ、良かったやん見つかって」
「やっぱりおかしなところだな、人間界と言うところは」
 いまいち盛り上がりと言うか感動というか―――何かに欠けるお宝発見のバック、樹海の森にはカレー閣下のものらしい雄叫びがまだ響き渡っていた。


 ついでだが、その黄金の褌を持ち帰った三下が覇権を取ったと言う話しはついぞ聞かない―――



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1747 / 神宮寺・茂吉 / 男 / 36歳 / カレー閣下(ヤクザ)】

【2868 / 本谷・マキ / 女 / 22歳 / ロックバンド】

【2867 / 飯合・さねと / 女 / 22歳 / ロックバンド】

【3415 / 泰山府君・― / 女 / 999歳 / 退魔宝刀守護神】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。遠野藍子です。
 この度はご参加ありがとうございました。
 奇しくも今回は初めて書かせていただくPCさんばかりで試行錯誤の結果こんな感じに……(汗)
 えぇと、アレです。アレのシリーズです。
 一応、コレが1番初めのシリーズだったのです。
 とりあえず、全開とは全く違う展開違うオチになっているので比較してみるのもまた一興かと。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。