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<東京怪談・PCゲームノベル>


【狭間の幻夢】鳳凰堂の章―羽

●再開は辛辣な一言と共に?●
カウンターから居間へと進む途中、嘉神・しえるは急に立ち止まって振り返る。
その視線の先には―――前と同じでどうにも考えを読めない笑みを浮かべる男が一人。
…護羽だ。

「どないしたん?」

立ち止まったしえるを不思議に思ったのか、それともどこか楽しんでいるのか。
にこにこ笑顔を浮かべたままの護羽は、腰を折ってしえるの覗き込む。

―――するとしえるはふわりと笑みを浮かべ、首元に下げていたペンダントを手に取った。
…以前護羽の仕事を手伝ったときに報酬代にと貰った、可愛らしい翼の形に削られた黒界産の石、輝虹石のついたペンダントである。
不思議そうに首を傾げた護羽が何を言うのかとじっとしえるを見ていると…しえるの口が、ゆっくりと開かれた。

「…また会ったわね、エセ関西人」

…その言葉に、護羽はがくっとコケた。
そりゃあ開口一番にそれじゃあコケたくもなるだろう。
しかししえるは気にすることもなく、にこにこと楽しそうに笑いながら、ペンダントを見せ付けるようにチラつかせる。

「…これは、単なる偶然かしら?」

その言葉にきょとんとする護羽。
しかし次の瞬間にはすぐに口を笑みの形に歪め、口元に指先を当てると―――にやりと、イタズラっぽく笑って見せた。


「―――――――さぁな。どないやろ?」


その様子を見て、やっぱり変わっていなかった、としえるは思わず噴出し。
それを見た護羽も一緒に噴出し、二人で少しの間、くすくすと笑い合い出した。

「…さて、僕はどうすればいいんでしょうねぇ…?」

…すっかり疎外状態の、継彌を放置して。

***

一分ほど経ってようやく笑いが治まった二人は、待つように笑顔で前に立つ継彌に思わず苦笑した。
すっかり忘れていた、と言うことはやっぱりオフレコで。

落ちる沈黙に気まずさが混じってくる。
はてさて、どうしたものか。
考えるように目を泳がせる護羽に焦れたのか、護羽が考え終わるよりも前にしえるが口を開いた。

「…まぁ、私としては何でここへ辿り着いたのかはわからないんだけど…」
そう言って苦笑すると、すぐにふっと笑って続きを紡ぐ。

「―――折角お茶のお誘いもあることだし、エセ関西人との再会を祝いましょうか?」

しえるのその柔らかな微笑につられたのか、護羽と継彌も、一緒になってくすりと笑う。
それを見て満足そうに笑ったしえるは歩き出し、二人を追い抜いた。
ある程度二人を引き離したところでふり返ったしえるは、継彌に向き直ると口を開く。

「そんな訳で、お邪魔するわね?
 つぐりん♪」

語尾をあげながらそれはもう楽しそうに言うしえる。
「……『つぐりん』?」
「自分のあだ名や。
 しえるなりのスキンシップやと思えばどうとでもなるで?」
そのしえるの言葉にどこかぽかんとして問いかえす継彌の肩を、護羽は笑いを堪えるように口元を震わせながらぽむ、と叩くのだった。


●過去との邂逅●
時間と所変わって生活スペース。
ここも和風な内装になっているようで、畳に座布団にちゃぶ台と、なんだか古い家の中にいる気分になる。
継彌が台所に入ってお茶を入れているらしく、ふわりとどこかかいだことのある香りが鼻をくすぐった。

「…さぁ、どうぞ」

ことん、と和風なちゃぶ台の上に置かれたのは…この和風な雰囲気にそぐわない、陶器の白いティーカップに注がれた、乳白色の飲み物。
「…これは?」
しえるが不思議そうに問いかけると、正面で同じものを出された護羽がなんの疑いもなくさらっとそれを飲み、口を開いた。
「別に心配せぇへんでも問題あらへん。
 黒界産の紅茶やからミルクみたいな色しとるだけや。
 味はこっちで言うアップルティーと変わらへんで」
そう言ってカップを傾けてにっと笑う護羽に、しえるはへぇ、と感心したようにカップの中で揺れる紅茶を眺めると…そっと、口をつける。
こくりと一口飲むと、確かにアップルティーと同じ味と香りを感じることができた。

「…本当ね。美味しい」
「そうですか?気に入っていただけたようで何よりです」
知らず口を緩ませたしえるに嬉しそうに返すと、継彌は今度は菓子の乗った皿をちゃぶ台の上に置いた。

こちらは簡単に手でつまめるスティック風のチーズケーキだ。
半分に分けて上がレアチーズ、下がパイ生地のようなもので出来ているらしく、軽く噛めばさくりと折れて口の中で溶けて消える。
これはこちらの世界で普通に売っている菓子らしい。
どこで手に入れたのかと聞いたら、以前来たことのあるお客さんがついこの前お礼にとくれたんですよ、と答えられた。
へぇ、と返事をしながらも、今度兄に作って貰おうとしえるがひっそり心の中で決めたのはヒミツだ。

どうやらのんびり彼の話を聞いていると、一度来ればこの力の流れを覚えて自分の力で簡単に見つけ出すことが出来るようになるらしい。
まぁ、看視者は四六時中あちこちを駆け回っていて一ヶ月に一回くればいい方らしいので、会おうと思っても難しいと付け足しもされたが。
その言葉にそれならまた今度『つぐりんに会うために』手土産を持って遊びにこようかしら、としえるが言うと、是非どうぞ、と継彌が笑って答えた。
護羽は隣でチーズケーキを食みながら、『しえるってば冷たいわぁ…』と子供っぽくすねた。

「……それにしても」
ふと視線を横に向けて一人で黙々とチーズケーキを食べていた護羽に思わず溜息をつきながら、しえるは紅茶を口に運んで小さく呟く。
「「?」」
それに同時に不思議そうな顔をした二人を見比べながら、しえるは少々行儀が悪いかとも思ったが、口元にカップを当てながら続きを紡ぐ。

「…私、どうしてここに来れたのかしらね?
 私は欲しい道具も無いし、武器に呼ばれることもないと思うんだけど…。
 それに、私はとっくの昔に売約済みだし」

「「『売約済み』?」」
またもや同時に不思議そうな声をあげた二人に小さく頷きながら、しえるはこくりと一口紅茶を飲んだ。

「そうよ。もう不思議な武器は持ってるもの。
 …ねぇ、蒼凰?」

今は姿は見えないが、自分の声は確実に届いているだろう。
どこか楽しげに呟くしえるにやはり分からないと二人が首を傾げた。
……しかし。

―――――シュンッ。
と、軽く空気を切るような音を伴って、唐突にしえるの隣に剣が現れたのだ。

『……主よ』

そして不意に室内に響いたその声は、明らかにこの中の『人』の誰のものでもなく。
凛とした声の持ち主は、この『剣』であると、不可解なものに馴染み深い護羽と継彌は一瞬で悟った。

十字を模したその形は聖なるものを感じさせ。
銀色の刃はただの刀剣ではないことを知らしめるように鮮烈な輝きを放つ。
剣の根元にはめ込まれた宝石は―――晴天の空の色ような、それでいて海のような、不思議と心惹かれる光を持っていた。

……少なくとも、登場の仕方からして普通の剣ではないのは見て取れる。

「…って、いったいどうしたの?急に出てきて」

ただ問いかけただけのつもりだったしえるは、急な蒼凰の登場に驚く。
そんなしえるの驚きを知ってか知らずか、登場の仕方にも関わらず、蒼凰はまるで酷く戸惑っているような声をあげた。

『主よ…我は、彼の者を知っておるような気がするのだ…』

「え?」
ふわりとしえるの隣を漂う蒼凰の向いているであろう方向にいるのは――――継彌。

「あら、つぐりんって蒼凰と知り合いだったの?」
しえるは意外な事実に驚いて継彌を見るが、彼はにこにこと微笑んだまま。
どうやら今のところ答えるつもりは全くないらしい。
イジワルね、と心の中で小さく毒づきながら、しえるは絶対に話させてやると心に決めたのか、継彌を見たままで口を開く。

「そう言えば私、蒼凰が誰に作られたのか知らないのよね。彼女も覚えてないようだし」
「へぇ、そうなんですか?」
――――あっさり笑顔で流された。

先ほどの蒼凰や継彌のリアクションからして、彼が蒼凰のことを知らないということはおそらくありえないだろう。
絶対知っているのに完全に知らないフリをされるというのは中々に悔しいものだ。
しえるはじとーっと継彌を睨みつけながら、もう一度口を開いた。

「私、昔天界で眠ってた蒼凰に呼ばれて主になったの」
「めっちゃ簡単な説明やんか。
 昔って何年前やねん。んでもって天界ていきなり場所飛んだなぁ」
「エセ関西人は黙ってて」
超簡単な説明に思わずツッコミを入れる護羽だが、しえるにきっぱりと切り捨てられてちょっと凹む。
後ろを向いてへの字を書いているその姿に同情したのか、蒼凰が『あまり気を落とすな…』と慰めている姿がちょっと笑えた。

しかしそんな護羽をさっぱり無視したしえるは、にっこり微笑んで継彌に向かって話しかける。
「最近、昔の記憶が戻ってまた喚べるようになったのよ」
「そうなんですか。それはよかったですね」
にこにこ笑顔の押収。
様子は和やかな筈なのに、空気がなんだかひんやりしているのは何故だろう。

「…そうなのよ」
―――先に折れたのはしえるだ。
    本当に知らないのかもしれないし、これ以上の押収は不毛と言うものだ。
がくりと肩を落としたしえるにくすくすと笑った継彌を一睨みし、しえるはすっかり冷めて温くなった紅茶を一口含む。
そしてお茶らけたように肩を竦めると―――冗談交じりに一言呟いてみた。


「蒼凰って、意外に黒界産だったりしてね♪」


「――――えぇ、その通りですよ?」


冗談で言った言葉に、さらりと返された一言。

「…………え?」

ぽかんと口を開けたしえるが首を向けると、そこには滅茶苦茶爽やかな笑顔を浮かべた継彌。
呆然としているしえるを楽しむように見ながら、継彌はゆっくりと口を開いた。


「蒼凰さんは――――僕がまだ外見的に幼かった頃に父が作った剣なんです」


●蒼凰●
――――――それは、百を軽く越える昔のことです。

僕の父―――黒界で最高の鍛冶師と謳われた男―――は、何よりも自分の作ったものをなによりも大事にしている人でした。
今僕が使っている特殊な武器や道具を作る時の技術――武器や道具自身が選んだ者にしか扱うことはできないという仕組み――も、父が自力で編み出したものです。

父は自分の作ったものを大事にすると同時に――――なによりも、美しく強い武器を作ることが好きな人でもありました。

だからこそ、父は材料集めに余念がなく。
黒界の材料を全て使ってみた後は、度々統治者にかけ合って人間界や狭間を歩き回り、自分が気に入った…または気になった材料を手に入れて持ち帰り、実際に作って出来を試してみるのが日課でした。
子供の僕を構う時も材料集めだったぐらいで、ある意味不器用な人だったのかもしれませんね。

それだけ強いこだわりを持っていた父は、ある日――――人間界で、変わった石を見つけました。

その石はまるで空から削り取ったような澄んだ蒼色。
ガラスのように透明で、けれど空からの光を中で乱反射させて美しく輝く。
柔らかで優しく、純粋な心のような力が伝わってくるその石は、今まで見たことの無い石でした。

それは、少なくとも黒界のものではなく。
また、それから迸る力を見る限り、人間界の石ではないことも明白で。
父は不思議に思うと同時に、その石に酷く興味を惹かれました。


――――――そして父は、その石を持ち帰り…一振りの剣を作り上げたんです。


そう。
…しえるさん、貴方が主となった…蒼凰さんを。

ちなみに父が拾った石は正式な名称がわからなかったため、父が自分で『蒼天石』と名づけました。
それから十年ほどしてから、ようやくその石が天界…つまり貴方の前世の一人である存在が住まっていた場所ですね…のものだということが判明したんです。
…まぁ、この頃は黒界では人間界の他に天界と言う世界があるということはあくまで噂でしかなかったし、天界と交流する方法が発見されないままだったので、石に関しての情報は少ないままでしたけどね。

作り上げたその剣は、高潔で清廉。
優しくも凛々しい蒼い輝き。
冷静で落ち着いた、しっかりと紡がれる声。
製作者である父が本当にかろうじて聞き取れるぐらいというほど、精神的にあわせるのが酷く難しく。
蒼凰さんは誰もが扱えなかった剣であると同時に、コレクター側からすれば酷く魅力的である剣でした。
扱えなくても装飾として欲しい、と言い出す人達が沢山現れてしまうぐらいには。

しかし父は頑なにそれを拒否し、作り上げたその剣に『蒼凰』と名づけました。
そして倉庫に保管し、主になり得る者が現れるのを待っていたのです。


―――――――しかし。


蒼凰さんは…ある日、唐突に姿を消しました。
行方不明とか家出とか、そういう簡単に済ませられる範囲のものではなく。
完全に―――気配やなにもかもが断ち切られた状態。
一種の…消滅とも言えるような状況だったんです。

しえるさんのお話から考えるに、その時蒼凰さんは、おそらく天界へ還ったのでしょうね。
本能的に…自分の故郷を悟ったのかもしれませんし。
己の主たりえる存在は天界にいるのではないか、と考えたのかもしれませんし。
どちらにせよ、彼女は天界の中で主を…貴女が現れることを待って、眠りについたのだと思います。

まぁ…その時の衝撃か何かで蒼凰さんの記憶が一部飛んでしまっているようなので、真実は闇の中、ですけどね。


そういうわけで――――蒼凰さんは、僕の父が作り上げた剣なんですよ。
お分かりいただけましたか?しえるさん。


●現幻●
にこにこ笑顔のまま話を締めくくった継彌を見て、しえるは感心したように微笑した。

「…本当に黒界産だったとはね」
『我は…この者の親の手で作られたものだったのか…』

しえると一緒に忘れていた記憶の話をして貰えて、蒼凰も感心するような言葉の中にどこか嬉しそうな響きを交えて呟く。
それに満足そうに微笑み、継彌はこくりと自分のいれたお茶を飲んだ。
「そういうわけで、僕は父に似ているし、小さい頃に会ったこともあるので、蒼凰さんが『知っている』と言うのも不思議ではないわけなんですよ」
「…キミ、やっぱり知っとって笑顔で黙殺しとったんかいな」
笑顔で言われた言葉に護羽が苦笑して突っ込むと、継彌は『まぁ、そうなりますね』と依然として笑顔のままで返した。
そんな二人の様子を見て小さく苦笑しながら、しえるは肩を竦める。

「…まぁ、面白い話が聞けてよかったわ。
 ここに呼ばれたのも、偶然じゃないってわかったしね」

そう言って竦めていた肩を戻すと、しえるは護羽に視線を向けて口を開く。
「護羽に会うと、本当に驚いてばかり…」
その言葉に護羽はにやりと笑って「そりゃどーもv」と返すが、しえるはでも、と声を上げた。

「―――私、今はちゃんと自力で飛べるわよ?」

…その言葉に、護羽はきょとんとした表情で止まる。
しかしすぐににやりと挑発的に笑うと、しえるに向かってぽいっと何かを放った。
慌ててキャッチしてみれば、それは密閉パックに入った乳白色の草。

「それ、土産な。
 昔話だけじゃ色があらへんからオマケや」
「今僕たちが飲んでいるお茶の葉っぱです」

不思議そうに護羽とパックを見比べるしえるに噴出しつつ、護羽が説明して継彌が補足する。
「え?でも貰っていいの?」
「いいですよ。ストックならまだ沢山ありますし」
「俺らからの貢物、っちゅーことで納得しとき?」
戸惑ったように声をあげるしえるに、にっこり笑顔で言う継彌と軽口を叩いてからかうように言う護羽。
それに小さく微笑んだしえるは、じゃあもらっておくわ、と笑った。
護羽と継彌はつられるように、満足そうに笑う。

「…そろそろ帰った方がええんちゃう?」
「え?」
和やかな空気の中、ぽつりと唐突に紡がれた護羽の言葉に不思議そうに自分腕時計に目を落とすと、着た時から随分と時間が経っていた。
思っていたよりもすっかり話し込んでしまったらしい。

「…ヤバいわ。
 今日は早めに帰るから一緒に夕食でも、って連絡してたのに…」
兄と約束していたことを忘れていたと困ったように呟けば、継彌が大丈夫ですよ、と根拠の無いことを言って笑った。
慌てて立ち上がるしえるにつられるように立ち上がる護羽と継彌。

「それじゃあ、これで失礼するわ」
「僕が送ろうか?」
「大丈夫よ。自分の身は自分で守れるわ。
 それに、蒼凰もいるしね」
「さよか」
申し出を断るしえるに苦笑しつつも、護羽は元気でな、と髪を軽くくしゃりと混ぜる。
継彌は所在なさげに宙を漂う蒼凰を見ると、微笑んでそっと刃の部分を撫でた。
「蒼凰さんも、お元気で。
 何かありましたら、いつでも来てくださいね。無料で修理いたしますから」
『…あぁ、すまぬな』
本当に申し訳なさそうな声にふわりと微笑むと、継彌はいえ、と返す。

「さ、蒼凰。帰るわよ」
『わかっておる』

入り口に向かって小走りで進むしえるに答えると、蒼凰はシュンッ、と一瞬で視界から消え去った。
おそらく彼女も還ったのだろう。
それを横目で一瞥すると、しえるはカツカツとヒールを鳴らして歩を進める。

「じゃあね、つぐりん、護羽。
 縁があったら、また会いましょ♪」

扉に手をかけたところでくるりと振り返って笑うと、護羽と継彌も笑って手を振って返した。
それを目にしたしえるは、扉を引いて開くと同時に飛び出し―――。

「それじゃあ、どうぞ、お元気で」
「また機会があったら会おな?」

――――――二人の声が聞こえると同時に、ぐにゃり、と…世界が歪んだ。

***

「…え?」

驚いて一瞬閉じた目を開いたしえるの視界に入ってきたのは―――雑踏。
人が行きかい、ざわざわと話し声がざわめきを作り上げる。

「ここは…」

驚きに見開かれたその瞳に映るのは、自分が鳳凰堂に訪れる少し前まで通っていた場所に相違ない。
本来ならば、自分が出た場所は開けた場所で、ざわめきなど全く聞こえない、真空のような空間だった筈だ。
振り返ってみれば、そこにあるのは人の波。
あのどこか古ぼけた引き戸どころか、店自体全く見当たらない。

「……幻、だったのかしら?」

蒼凰の過去が気になるあまり、自分が見た幻だったのではないだろうか。
ふと、そんな不安に駆られるしえる。
しかし、彼女の手の中で、かさり…と、小さく乾いた何かが擦れる音がした。
ふと視線を落としてみると、そこには―――あの、乳白色の葉が入った密閉パック。


――――――夢じゃなければ、幻でもない。…現実。


それを見て不安が吹き飛んだしえるは、思わず口元を笑みの形に歪める。
そしてふわりと柔らかな髪を風に靡かせて空を見上げると、小さく微笑んだ。

「本当に、不思議なことばかりだわ。
 ……ねぇ、蒼凰?」

そう言って、しえるは返事を待たずに人の波に乗るように歩き出す。
人々のざわめきの中―――しえるは、確かに耳にした。

『―――全くだな、我が…主よ』

呆れたような――しかし、どこか嬉しそうな…蒼凰の、声を。


今度会った時はどんな風に挨拶しようかしら、なんてちょっとふざけたことを考えながら、しえるは歩く。
長い時をかけて自分の手にやってきた蒼凰の過去を知れたことを、こっそり―――嬉しく思いながら。


<結果>
記憶:残留。
おみやげ(?):黒界産のお茶の葉(乳白色の葉で同じ色が出るお茶。アップルティーと同じような味)


終。

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】

【2617/嘉神・しえる/女/22歳/外国語教室講師/光】

【NPC/護羽/男/?/狭間の看視者/無】
【NPC/わた坊(毛玉)/無性/?/空飛ぶ毛玉/?】
【NPC/継彌/男/?/『鳳凰堂』店主兼鍛冶師/火&水】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第二弾「鳳凰堂の章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は前作に比べて皆様の属性のバリエーションが広がっており、ひそかにほくそ笑みました(をい)
まぁ、残念ながら火・地属性の方にはお会い出来ませんでしたが…次回に期待?(笑)
また、今回は参加者様の性別は男の方のほうが多くなりました(笑)いやぁ、前作と比べると面白いですねぇ(をい)
ちなみに今回は残念ながら鎖々螺・鬼斬と話す方はいらっしゃいませんでした…結構好きなんですけどねぇ、私は(お前の好みは関係ない)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)

・しえる様・
前作に引き続き、ご参加どうも有難う御座いました。
またもや護羽をご指名下さって有難うございます。エセ関西人との縁に乾杯、ですね(笑)
蒼凰さんの製作秘話…と言うよりも蒼凰さんの元(笑)発見〜天界で眠りにつくまでの継彌の一人語りになってしまったのですが…いかがでしょう?
自分的に新しい書き方の試みだったので、ちょっとドキドキしてます(汗)
ちなみに一番最後の題名は「うつつまぼろし」と読んでくださいませ。
全体的に不思議な店的な感じを出したかったので、幻的な終わり方にしてみました。
おみやげは…まぁ、珍しい色のお茶の葉と言っても味は普通のとほとんど同じですから、単に変わった色のお茶として楽しんでやってください(礼)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。