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雨の降る静かな夜
雨の降る深夜。
自宅の長いすに腰掛け本を読んでいる桜塚金蝉(さくらづか・こんぜん)の元に急な来訪者を迎えることになる。
それは返り血を身体に浴びた蒼王翼(そうおう・つばさ)であった。
扉を開けて入ってきた翼を見て金蝉は「こんな時間に何考えてんだ、テメェは!」と思わず怒鳴りつけそうになるが、翼のその姿を見てなんとか思いとどまる。
翼が吸血鬼であることを知っているのは数少ないごく親しい友人達のみで、普段から必死に吸血鬼であることを隠している翼がこのような姿で外を出歩くのはかなり異常な事態であった。
金蝉はため息をひとつつくと煎れてあったコーヒーをカップに注ぎ、それを何も言わずに翼に渡す。
そしてそのまま何も言わずに椅子に座りなおし、翼の好きにさせておく。
しばらくその場に座り込んでいた翼であったが、ぽつりぽつりと話し始める。
それは自分がいつも得たいと思いつつも得られないものを守りたかった事をゆっくりと話し始める。
それは少し前に吸血鬼から「人」になる事ができた少女がいた事。
しかしその少女はその仲間達から「同族殺し」としてつけ狙われることになり、大怪我をしてしまった。
そして自らが傷ついたことにより能力と共に封印されていたはずの本能にある吸血衝動が復活し、湧き上がってきたこと。
そしてその少女は大事な友人の血を…。
少女を襲った吸血鬼は翼へのあてつけのように状況を語った。
そして翼はその三人に増えた吸血鬼を倒すことになった……。
そして翼は多分これからずっと忘れられないだろう、その吸血鬼の言った言葉を。
「吸血鬼は所詮どこまで言っても吸血鬼、運命からは逃れることはできない。
それはお前も同じさ『吸血鬼を狩るもの』よ……。」
翼は人となったその少女に少しだけ自分の姿を重ねていた。
自分がどれだけ望んでも手に入らない、そしてこころのそこから渇望しているものを手に入れた少女。
だからこそその少女には幸せになって欲しかった。
しかし現実とはうまくいかないものであった。
「僕は……、彼女に幸せになって欲しかった…。」
自らの身体をぎゅっと抱きしめる翼を金蝉はじっと見つめる。
「なのに……僕には絶対に手に入れられないものだから…。」
何かを吐き出すかのように、それでいて堪えきれないやるせなさを吐き出すように翼は一人涙を流す。
語り終えた翼の様子をその姿をじっと見つめていた金蝉であったが、そっと近寄り、片ひざをつきそっと抱きしめるように翼の頭をなでる金蝉であった。
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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■ 蒼王・翼
整理番号:2863 性別:女 年齢:16
職業:F1レーサー兼闇の狩人
■ 桜塚・金蝉
整理番号:2916 性別:男 年齢:21
職業:陰陽師
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■ ライター通信 ■
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どうもこんにちわ、藤杜錬(ふじもり・れん)です。
今回はシチュエーションノベルをご依頼いただきありがとうございます。
無事表現できているのか判らないのですが、このようになりました。
またご縁があればよろしくお願いします。
2004.08.15
Written by Ren Fujimori
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