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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


魔呼びの手紙〜summon mail〜

Opening

『これは悪魔召喚メールです
 777通目に悪魔が召喚されます
 これを受け取った人は、7日以内にメールを送らないと悪魔の怒りに触れて殺されます
 メールを削除しても、悪魔は怒っちゃうので気をつけて☆
 ちなみに、今776通目です←送るときはここを増やしてね』

「……これが、来た、と」
「はい」
少女の差し出した携帯の画面を見る草間・武彦の顔が曇る。
「なぜ、777通目を出さないんですか?」
「だって、本当に悪魔が召喚されちゃったら嫌じゃないですか」
身を震わせながら少女が言う。人の良い性格なのだろう、適当なアドレスに送れば自分には被害が来ないのを、わざわざ自分で止めている。
「零、どうだ?」
「悪魔というか……悪意を感じます」
携帯を受け取った草間・零が慎重に言葉を紡ぐ。
人の悪意程怖いものはない。最初は何でもないチェーンメールだったのが、775人の悪意を受けて、本当に悪魔を呼び出してしまうのかもしれない。
「777ってのは皮肉か」
苦笑を浮かべる草間。中世の聖なる数3や、獣の数字666など、因縁のある数ではなくラッキーナンバーの7を選んだのは、その方が送られやすいからだろうか。
「私にはどうしようもなくて……探偵さん、何とかなりますか?」
「そうですね……この携帯、預かってもいいですか」
「あ、はい」
草間の人脈は広い、こういうものを相手に出来る人間も居ないことはない。
人員が揃うなら戦闘能力のある異能者を集め、わざと悪魔を召喚し倒すという手もある。
「あの……大丈夫でしょうか」
「大丈夫ですよ、任せてください」
心配そうな少女に、外面だけは力強く頷いてみる草間だった。

Main
「どうだ?」
「……いや、駄目だな」
岡田・将幸の返答に、難しい顔で肯く草間。
ここは、草間興信所。依頼を受けてから数日、警官である青島・萩の下調べを待ってから行われた作戦会議の場である。
「俺の探知プログラムでも引っかからないとは……多分、悪魔が意識的か無意識的かに“召喚主”を守っているんだろう」
携帯電話と自前のノートパソコンを繋いで、発信元を特定しようとした将幸だったが、自慢のプログラムが効果を表さず、少々不満顔。
「ちなみに、こっちも駄目だった。あまりにも対象が曖昧すぎてどうにも絞りきれない」
少し苛立ち混じりの萩の台詞。これで、最初の差出人を探す手は消えたという事になる。
「やっぱり、実際に悪魔を呼び出して倒したほうが良いんとちゃう?」
「俺もそう思う」
友峨谷・涼香の主張に不動・尊が賛成する。尊としては、悪魔を倒すのではなく利用したいのだが、この場でそれを言う訳には行かないだろう。
「その件なんだけど……複数のあて先に同時にメールを送るのはどうかしら。運が良ければ悪魔の力が分散されると思うんだけど」
田中・緋玻が、携帯を指差しつつ言う。
「弱い悪魔だったら、“持ち主”に送り返せるかもしれないからね〜」
「送り返す?」
聞き返す草間に、笑顔を向ける海原・みあお。
「それじゃあ、人数的に2,2,3か」
「ん?俺は連絡係だが」
将幸の言葉に、しれっと返答する草間。一斉に視線が集まるが、全く意に介しない。
「じゃあ……俺と岡田君で組もう」
尊が挙手する。
「んじゃ、うちと田中で組もうか。女同士仲良うな」
「ん、分ったわ」
涼香に返答しつつも、内心苦笑を浮べる緋玻。退魔師である涼香に自分の本性を見せるのはいささか危険かもしれない。
「残りは、俺とみあおちゃんかな」
「よろしく〜」
ひらり、と手を振るみあお。
「じゃあ、これで決まり、と……呼び出す場所は、各自考えておくという事で」
草間が締めくくり、皆が席を立とうとする……が。
「あ、そうだ、アイスキャンディー持って来たんだけど、食べない?」
みあおの提案に再び席につく面々だった。

「そろそろ来る頃ね」
「どんな悪魔なんやろうかねぇ」
廃工場の中で、緋玻と涼香が話している。視線の先には、地面に置かれた携帯電話。悪魔が召喚された直後に襲って来る事を考えて、離れた所に置いてあった。
悪魔召喚メールは、指定された時間に草間が一斉に送る事になっている。そしてそろそろ、その時刻になろうかとしていた。
ヴー、ヴー、ヴー。
振動音がメールの着信を知らせ。そして、それの登場を知らせた。
「……っ」
「ありゃぁ、凄い悪魔やねぇ」
二人の前に現れた悪魔、それは、六翼を持つ悪魔の姿。しかし、その顔には腕と目鼻が無く、その代りに、巨大な口がだらしなく開けられていた。
「まあえぇわ、とにかく倒せばええんやからな」
符を取り出して、涼香が身構える。
「……翼を狙って」
「ん?」
呟くような緋玻の言葉を聞き返す涼香。
「飛ばれたら厄介だわ、動きを封じたら、後は何とかなるから」
「分った……行くでっ!」
掛け声と共に符を放つ。何かに引っ張られるように飛んだ符は、呼び出されたばかりで周囲を把握出来ていない悪魔の一翼に張り付く。
バンッ!
ゴォォォォ!
爆音と閃光、そして悪魔の叫び声が響いた。
「その調子」
「よっしゃっ、まだまだ行くでっ」
両手に三枚ずつ持った符を一気に放つ涼香。一枚は悪魔の翼で叩き落とされたが、残りの五枚がそれぞれの翼に張り付く。
「破っ!」
気合一閃、符が一斉に電光を放ち翼と共に爆散した。
「これでどうやっ!」
歓声を上げる涼香の背後で、緋玻の気配が変わる。
「……じゃア……後ハ……マカセテ」
「ん?……っ」
振り返った涼香が息を飲む。そこに居たのは、緋玻の服装をした、しかし、角を生やした異形。
「お、鬼?」
呟く涼香の傍を通り過ぎて、悪魔に近付く鬼。腕代わりであったのであろう翼を破壊され、右往左往している悪魔に掴みかかった。
ゴォォォォゥゥゥゥン
苦しげな悪魔の声。その様子を見た涼香が眉を顰める。
異形の鬼、その口が、しっかりと悪魔に喰らい付いていた。
ゴクン。
悪魔の体を次々と喰らい、飲み込んでいく鬼。やがて、悪魔は跡形も無く消え去った。
「田中……アンタ……」
「アタシヲ……ツイデに……倒すかしら?」
元の姿に戻った緋玻が、振り返って涼香に問う。
「……今回は、見逃しとくわ」
返答を聞くと、携帯を拾い上げて退治終了のメールを送る緋玻だった。

「何か、どっかの妖怪アニメにこんなのが居た気がする」
「悪魔っていうか化け物だね〜」
苦笑を浮べる萩と、いつでものほほんとしているみあおの前で、それは腕を振り上げる。
「名前は……百腕?」
みあおのネーミングセンスは置いておくとして、確かに、その悪魔の姿は百腕だった。一つ目の付いた円い肉隗に、無数の腕が付いている。足のように地面に付いている腕もあるが、その先には紅葉型の手があった。
「もしかして、分散して召喚したから、体のパーツが分散したのか?」
考察に入った萩目掛けて、悪魔の腕が振り下ろされた。
ブンッ。
「当たらないさ、ちょっと疲れるけどな」
瞬間移動で腕をかわした萩が呟く。
「しかし、こう攻め手が無いと辛いなぁ」
「んじゃ、もうちょっと引き付けといてよ」
「おう、わかった」
みあおの言葉に肯くと、悪魔に拳銃を向けて引き金を引く萩。
パスパスパス。
腕を何本か使用不能にしたが、行動不能までには至らない。しかし、陽動には充分だった。
ブンッ!
突進と共に繰り出される攻撃を横っ飛びにかわす。敏捷度に難があるのか攻撃をかわすのは楽だが、勢い余った腕が地面を割るのを見ると当たりたくはない。
「みあおちゃん、まだかっ?」
視線を向けた先に少女の姿は無く、代わりに、純白の翼を広げた女の姿があった。
「準備完了」
神秘的な笑みを浮べる女。その姿は、正に天使。
「萩、ちょっと退いてて」
「お、おう」
天使の威厳のようなものに圧倒され、悪魔から離れる萩。
「元の主の所へ還りなさい……なんてねっ」
冗談めかした天使の声と共に、悪魔の姿が一つ目を中心にねじれるように歪んだ。
「時空が歪んでる……?」
萩の呟きに呼応するように歪みは更に酷くなり、更には、まるで小さなブラックホールに吸い込まれるようにその姿が縮んでいく。
ものの数分で、悪魔はその場から姿を消した。
「……天使の奇跡、か」
呟く萩の視線の先で、もとの少女の姿に戻ったみあおが倒れる。
「おい、大丈夫か?!」
慌てて駆け寄り、みあおを抱き起こす萩。
「あはあ、アレ、ちょっと疲れるんだよね」
ふぅ、と一息つくみあお。
「……ま、とにかく、連絡しとくか」
携帯を取り出し、萩は草間のアドレスを呼び出した。

「何か、戦闘能力無さそうな悪魔だな」
「仲間に引き入れるか、それともさっさと殺っちまうか」
うって変わって、緊張感の無い尊と将幸。
二人の前には、卵型の体に無数の顔がくっ付いた形の悪魔が鎮座していた。
「悪魔召喚プログラムの調子はどうだ?」
「んぁ?まぁまぁって所だな」
尊の問いに、片手に持った小型のノートパソコンの画面を見ながら、将幸が応える。
『やっほ〜、元気〜?』
「……やっぱ閉じるか」
『ちょっとぉ、そりゃないでしょ〜』
自前の悪魔と会話している将幸を尻目に、一枚のCDを片手に持つ尊。
「0010001000100100101010011010110101……」
呪文のようにも聞こえる無機質な数字の羅列を口走る尊。それに合わせて、尊の体が変化し始めた。服が鎧へと変わり、CDが十字剣へと変異する。
「01001010101……インストール、完了」
その言葉と共に、聖騎士へと変化した尊が悪魔に近付き十字剣を振り上げる。
“ウザイ”
「ぐっ?!」
顔の一つから放たれた言葉に打たれたように固まる尊。
「気をつけろ、言霊を使った精神攻撃だっ!」
将幸の叫びにはっと気を取り直し、剣を振り下ろす尊。
ザッ!
真芯を狙った攻撃だったが、回避行動を取った悪魔の右三分の一を削るだけに留まる。
“キモイ”
「ガッ!」
至近距離で魔言を喰らった尊が仰け反る。
「このままだとあいつが危ないっ……おい、何か無いのか」
『う〜ん、何があるかなぁ〜』
「早くしろっ!」
将幸とパソコンの中の悪魔が話している間にも、尊は悪魔に攻撃を続けている。しかし、どうにも決定打が出ない。
“シネ”
「ぐぅっ!」
深い怨念のこもった言葉に、思わず膝を付く尊。
「おいっ!」
『あ、これなんかどう?』
「何でもいい、早くっ!」
『んじゃ、行くよ……“サイレンス”』
悪魔の言葉と共に、ノートパソコンが光を発し、それに合わせるように、周囲の音が遠のいていく。
“―――”
悪魔の言葉も掻き消された無音の空間。
「―――!」
尊が、必殺の一撃を放つ。
「音さえ消してしまえば言霊は効かない、か……勉強になるな」
戻って来た音の中で、将幸が呟いた。

「次はやっぱり666かなぁ」
神聖都学園の屋上の端で、一人の少女が携帯をいじっていた。
どうやらメールを書いているらしい。
「よし、出来た」
送信しようとしているメールの件名は『★悪魔召喚メール☆』
「後は、送るだけ……?」
送信ボタンを押そうとした少女の動きが止まる。少女の背後に、何かの気配があった。
「何よ、誰……え?」
振り向いた少女の瞳に映るのは、黒き異形。
「なに……嘘……」
携帯を取り落とした少女は、それから逃れようと後ずさる。
「あ……」
少女の背がフェンスにぶつかった。これ以上逃げ場は、無い。
「ちょ、こ、来ないでよ!」
少女の叫びを無視して、近付いて来る異形。
「きゃっ」
その細い体を無数の腕で掴み上げ、フェンスの上に高々と上げる。
「そ、そんな、嫌―」
ドサッ。
小さな衝突音、そして、悲鳴が上がった。
その様子を確認した異形は腕を天に振り上げる。
ザッ。
瞬時に、その体が霧散した。
後に残されたのは携帯電話だけ。その画面には、一行のメッセージが表示されていた。
『送信完了』

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1570/青島・萩/男/29/刑事(主に怪奇・霊・不思議事件担当)
 1415/海原・みあお/女/13/小学生
 2068/岡田・将幸/男/16/高校生(天才プログラマー)
 2240/田中・緋玻/女/900/翻訳家
 2445/不動・尊/男/17/高校生
 3014/友峨谷・涼香/女/27/居酒屋の看板娘兼退魔師
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■         ライター通信          ■
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どうも、渚女です。
携帯で電話しながら歩く人を見て、ふと浮かんだ今回の話、楽しんで頂けたでしょうか?
ここが良かった、ここをもっと良くして欲しい、などありましたら、お気軽にお手紙くださいませ。

実は、6人募集で6人枠が埋まったのは今回が初めてでした。
だんだんとリピーターの方も増えてくださって、嬉しい限りです。

萩様はキャラクターとしては初めまして、プレイヤーとしては毎度有難う御座います。今回も楽しんで頂けたでしょうか?
みあお様も毎回有難う御座います。今回は少し強めに設定してみましたが、如何だったでしょうか?
将幸様は初めまして。ちなみに、渚女は某悪魔召喚プログラムの出てくるゲームはした事がありません。なので、想像で書かせて頂きました。
緋玻様も初めまして。鬼喰らいの鬼という設定に惹かれたので、今回は食させてしまいましたが、どうだったでしょうか?
尊様は、プレイヤーとしては二回目の参加ですかね?プログラム憑依の設定がとても気に入りました。
涼香様は初めまして。九州をあまり出たことの無いので、関西弁は結構不安なのですが、ちゃんと訛ってました出ようか?

それでは、また次のお話でお会いしましょう。