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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


はじめてのおつかい

------<オープニング>--------------------------------------

  それは何気ない一言だった。

 「今日、ちょっと予定があるんだけど、隣町の図書館まで今日中に返してこなきゃいけないんだよね。
でも今日はどうしても外せない約束があって、紗霧に返してきて欲しいんだけど…。」

 そう言って自宅のアパートで佐伯隆美(さえき・たかみ)はベッドの上で一生懸命、本を読んでいる佐伯紗霧(さえき・さぎり)に声をかける。
紗霧は本を読む手をとめて、隆美のほうを見る。

 「え?私が?」

 そうきょとんと紗霧は聞き返す。

 「うん、紗霧も街に慣れるいいチャンスだと思うし…、頼まれてよ、ね?」

 そう隆美は手を合わせて紗霧に頼み込む。

 「…仕方ないなぁ。
そこまで言われたら、いくしかないよね、お姉ちゃんにはお世話になってるんだし。」

 多少あきらめも入った様子で紗霧は答える。

 「でも確かに私は今を知らないからいいチャンスかも…。
がんばって初めてのお使い、行って来ます。」

 そう微笑んで返す紗霧であった。

 しばらくして、紗霧に行き先と行き方などを教えて地図と困った時のメモを手渡し、紗霧が出て行くのを確認した隆美もそっと部屋を出て行った。

 「紗霧の為とは言っても、やっぱり今の世の中は怖いからね。
やっぱりなんかしないと…。」

 そう言った隆美が向かった先は草間興信所であった。

 「あのう……、今日はお願いがあってきたんですけど、どなたかお手伝い頼めないでしょうか?」

 隆美はそっと興信所に入ってきてその場にいる人たちにお願いをしに来た、紗霧を影からの手助けをすることを。

 隆美たちの住んでいるアパートから程近い駅に一人の矢絣袴の銀髪の少女が手にメモを握り締めてゆっくり歩いてきた。

 「ここが駅……だよね。まずは何をするんだっけ?」

 そう言って矢絣袴の少女は手に持ったメモを覗き込む。

 「駅で切符を買って…、電車に乗って隣の駅までいく、と」

 そう言って銀髪の少女、紗霧はあたりを見渡す、その視線の先には紗霧の来ている袴とは違う現代の服装、洋服を着ている同じくらいの少女の姿が何人も目に入る。

 「今はああいう服が普通なのかな…、やっぱり100年近くたつと全然代わるんだ…。
私も今度からああいう服装にしようかな?お姉ちゃんに頼んで一緒に見てもらおうかな?」

 ふとそういう風に思ってしまう。

 「って今は服の事じゃなくて…汽車への乗り方…。」

 そう言って駅の切符売り場に歩き出す紗霧であったが、自動券売機を目の前ににして手が止まってしまう。

 「……これは何?切符ってどうやって買うの?」

 そう券売機を前にして途方にくれてしまう紗霧であった。

------<はじめてのおつかい>--------------------------------------

 「あれ?この感じはどこかで知ってるような…。
ああ、そうか…あいつの封印の力か…。」

 駅前を通りかかった綾和泉匡乃(あやいずみ・きょうの)は自分の良く知っている力を感じふと足を止める。

 「あいつはいったい何を封印したんだ?」

 ふと興味をもったのかその気の感じる方向に向かって匡乃は歩き出す。
そして今日の歩いて行った先には一人の小柄な少女が駅の券売機の前で困っていた。

 「あの……どうしたのかな?何か困っているようだけど?」

 その銀髪の少女に匡乃は声をかける。

 「あ……、その…電車に乗る為の切符という物の買うための方法がわからなくて…。」

 その声をかけられた矢絣袴を着た銀髪の少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)はそう答える。

 「切符の買い方が判らない?…それはね…。」

 匡乃が少女に対してそう答えようとした瞬間、横から声がかかる。

 「おや?今どき切符の買い方を知らないとは珍しい娘だな…。
それはこうやって買うのだ。」

 横から声をかけて買い方を説明したのは長い青い髪をなびかせた金色の瞳の美女、空弧・焔樹(くうこ・えんじゅ)であった。

 「あ、あの……ありがとうございます。」

 そう少女はお礼をいうと今教えてもらった手順で切符を買うと改札口に向かうがそこでも困ったように止まってしまう。
そして二人のことを振り向く。

 「あの……、これってどうやって入るんでしょう?
この中に汽車が待っているんですよね?」

 どうすればいいと言った様子に二人に話しかける紗霧を見て、二人は少し苦笑しながら自分達の分の切符を買い改札の入り方を教えてあげる。

 「きゃっ!吸い込まれる。」

 匡乃の真似をして自動改札に切符を通した紗霧であったが、吸い込まれた切符に思わず驚き手を引っ込めてしまう。

 その様子を見て思わず笑みのこぼれていた焔樹は紗霧を安心させるように声をかける。

 「大丈夫、それはそういうものだから安心して良いぞ。」

 そして匡乃は心配になったのか、紗霧に一緒に行こうと提案する。

 「仕方ないな、電車の乗り方とか教えてあげるよ。
丁度暇していたところだったし、行き先をさっき見せてもらったけど、遠くへ行くわけではないみたいだからね。」

 「ほ、本当ですか?
あの……わからない事だらけなのですごく助かります。
あ、私は佐伯紗霧と申します。」

 そうお辞儀をして匡乃に頼む紗霧を見て、何かを思い出したように匡乃は頷く。

「なるほどあなたが紗霧ちゃんか、妹がら話は聞いてるぼくは綾和泉匡乃、よろしく。」

 そう匡乃は自己紹介すると紗霧も思い出す。

 「あ、あの人には大変お世話になりました…。
ありがとうございます。」

 改めて紗霧は匡乃に御礼をする。

 「それじゃまずは電車の乗り方から教えようか。」

 そう言って匡乃は紗霧に自動改札の通り方を教えてあげる。
その様子を眺めていた焔樹であったが、ふと何かを思いついたように二人に話しかける。

 「私も普段は電車などは使わないので、せっかくなので私も教えてもらうとするかな?
乗り方などは一応知識としては知っているが、実際には乗ったことがないのでな。
丁度いい機会だ。ああ、私は空弧焔樹という、二人ともよろしくな。」

そう言って二人についていくように改札を通っていく焔樹であった。

***

 駅のホームで電車を待つ間、匡乃は自動販売機での飲み物買い方などを丁寧に紗霧に教えてあげる。

 「へぇ、これがお店なんですか…。
中にどなたか入ってるんですか?」

 ジュースの出てきた自動販売機をしげしげと見つめる紗霧を匡乃は微笑ましく見つめていた。

 「それじゃあなたも買ってみますか?」

 そう言って匡乃は紗霧に小銭を手渡す。

 「え?
いいんですか?」

 少し驚きながらも、やってみたいという興味のほうが強いのだろう、紗霧はコインを受け取ると恐る恐るコインの投入口にお金を一枚一枚入れていく。
チャリンチャリンという小気味の良い音を数えるように確認していた紗霧の様子を、焔樹は微笑ましい様子で見守っていた。

 コインを入れ終わった紗霧はボタンに明かりのついた自動販売機を見てどれにしようか真剣に悩む紗霧であったが、後ろを通っていく中年がそっと紗霧のお尻を触ろうとしたのに気がついて匡乃はそっと紗霧から離すように、その中年との間に入る。
その間にようやく紗霧は買うものを決めたのかボタンを押して嬉しそうに出てきたジュースを嬉しそうに手にとっていた。

 「匡乃といったか、なかなかやるな。」

 焔樹は匡乃がさりげなく痴漢から紗霧のことを護っていたのをしっかり見ていたらしい。

 「初めての電車で嫌な感想は持って欲しくないですからね。」

 そうどこか苦笑しながら話す匡乃であった。

 「何の話をしてるんですか?」

 二人が話してるのを見て、紗霧は先ほど買ったジュースの缶を嬉しそうに手に持って歩いてくる。

 「あ、いや、たいした事じゃないよ、っと電車が来たみたいだね。」

 丁度話していると電車が駅のホームに入ってきた。

 「へぇ、これが今の時代の汽車なんですね。
私が知っている時のとは全然違うんですね、煙もはいてないし…。」

 「私も遠くからはよく見ていたが、実際に近くで見るのは初めてだ、こういう感じだったのか。」

 「ほら、早く乗らないと、逝ってしまうよ。」

 しげしげと電車を眺めている紗霧と焔樹を見て匡乃は、二人を促す。
匡乃に促された紗霧と焔樹は近くにあった扉から電車に乗る。

 「へぇ、汽車の中ってこうなってるんですね…。
あ、これは何ですか?」

 電車の中に入ると紗霧はしげしげと物珍しそうに中の様子を見ている。

 「あ、電車の中では騒いじゃいけないよ。
周りの迷惑になるからね、あとつり革にぶら下がったりとかも駄目だからね。」

 こうやって電車の中でのマナーを時には実践しつつ紗霧に一つ一つ教えていく匡乃であったが、焔樹も黙って一緒にそのことを覚えようとしているところまでは気がつかなかった。

 『やれやれ、ついて来て良かったな。
一人できてたらどうなっていたことか。』

 内心ため息をつきつつも微笑ましく見ている匡乃であった。

 『ふむ、これはああやって使うものなのか。
てっきりぶら下がるものだと思っていたが…。』

 そして焔樹も電車の中でのマナーをひとつずつ覚えることができていた。

 そしてとなり駅までの旅などすぐに終着してしまう物で気がつくと目的の駅についてしまっていた。

 「ああ、この駅だったよね。それじゃ降りようか?」

 匡乃は紗霧と焔樹を促して近くの扉から駅のホームに下りていく。
さすがに一回やったことは紗霧も覚えていた様子ですんなり改札を出ると、そこには紗霧にとってまったく知らない街が目の前に広がっていた。

 「なんだか本当にあっという間に違う街に来ちゃうんですね。」

 驚きながら周りの様子を伺う紗霧を二人は微笑ましく見つめていた。

 「そういえば紗霧ちゃんは本を返してきたら、どうするの?」

 駅のすぐ前にある図書館に向かって歩きながら匡乃はこれからの予定を紗霧に聞く。

 「えっと全然考えてなかったです…。
特にどこかに行かなきゃいけない予定もないし全然この時代のことも知らないから、帰ろうかな?と思っていたんですけど…。」

 「だったらこれから僕がこの時代のこと色々教えてあげようか?
焔樹さんも一緒にどうですか?」

 「ふむ、おぬし達がいくなら一緒に行くぞ。
なにやら楽しそうだしな。」

 「それじゃこれから三人で社会見学、としましょうか。
まずはその紗霧ちゃんの持っている本を返しに行かないとね。」

 そう言いつつ図書館に入っていく三人であった。

 「ふう、なんだか良い人たちに助けてもらったみたいでよかったわ。」

 こっそりと後をつけていた隆美は物陰から三人が図書館に入っていくのを確認すると踵を返す。

 「あの様子だったら心配はないわね。」

 そう言って帰りの電車に乗ろうと切符を買おうとしたところで、図書館から出てきた三人と鉢合わせてしまう隆美であった。

 「あ、お姉ちゃん、なんでこんなところに?」

 怪訝そうにしている紗霧を見て匡乃と焔樹は事情をなんとなく察し、思わず笑みがこぼれる。

 「隆美さん、ですよね?先ほど紗霧さんから話は聞きましたよ。
良かったらこれから一緒に社会見学とかどうです?心配性な隆美さん。」

 その言葉で全てを判られてると感じた隆美は参りました、というように笑みを浮かべる。

 「そうね、折角だから、便乗させてもらおうかしら。」

 「それじゃ決まりだの。
皆で街へ繰り出すとしようか。」

 その焔樹の言葉をきっかけとして、その後4人は日が暮れるまで、社会見学と称し、色々遊びまわる事になった。


Fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 空弧・焔樹
整理番号:3484 性別:女 年齢:999
職業:空狐

■ 綾和泉・匡乃
整理番号:1537 性別:男 年齢:27
職業:予備校教師


≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋


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■         ライター通信          ■
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どうも初めまして、新人ライターの藤杜錬と申します。
この度は『はじめてのおつかい』にご参加いただきありがとうございます。
皆さんのおかげで、紗霧は嫌な思いもせず楽しい思い出一杯ではじめてのおつかいをこなせたようです。
今回は随分と楽しく皆さんのプレイングのおかげで、書き上げることが出来ました、ありがとうございます。
皆さんのキャラクターを書ききれたか?と思うと少し不安でもありますけれど。
もしよければこれからもお付き合いいただけたらと思います。

2004.08.05
Written by Ren Fujimori