コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


【狭間の幻夢】鳳凰堂の章―御

●己が意志●
暑気にあてられかけていたセレスティ・カーニンガムは、店内が涼しそうだと思って惹かれるように店内に入ってきたのだという。
その事情を聞いた継彌が苦笑し、御先が面白そうに笑うと言う一幕もあったが、それはそれ。

「…それで、何かおわかりになりましたか?」

少しお茶でも、と生活スペースにつれてこられたセレスティは、継彌と御先に進められるままに茶を飲んでいた。
そして数分経った頃に、のんびりと談笑しているかのような雰囲気で問いかけられ。
一瞬驚いたものの、すぐに微笑んで頷く。

「…えぇ。先ほどから、何かに呼ばれているような気もしますし…。
 ……なんとなくですが、私が求めているものもわかりました」

「じゃあ、セレれんが欲しいのと呼んでるのが、一致してるといいネ☆」
セレスティの言葉に、御先が嬉しそうに笑いながらそう言った。
ここで茶を飲んでいる間に変なあだ名をつけられたのはつい先ほどのことだ。
最初は戸惑ったセレスティだったが、どうやら御先が意見を変える可能性は微塵もないと感じ取り、大人しく諦めたらしい。
そうですね、と微笑んで返すと、立ち上がった継彌・御先に促されるように車椅子を動かした。

「…では、こちらへ」

そう言うと、継彌は奥にある重厚な鋼鉄の扉へ向かい、かけてある南京錠の鍵を外す。

…ガチャリ。ギギ…ィ…。

扉を開けると、鉄製の蝶番が軋んで思い扉を動かす音が重苦しく響く。
中から香るどこか熱を孕んだ鉄の匂い。
あまり馴染みの無いその香にセレスティが思わず眉を寄せる。

――――が。
      次の瞬間、 セレスティは大きく目を見開いていた。


…なぜなら、店舗以上に重厚な棚や留め具によって、所狭しと武器と道具が置かれていたからだ。


店舗よりもずっと内装に気を使っていない、無造作且つランダムに置かれた道具や武器達。
しかし、無造作に見えて、その並べられた道具や武器達は『何か』が同じような気がして、その並びが間違っていないと錯覚してしまう。

不思議なその空間に思わず立ち止まっていると、継彌が面白そうに微笑みながら「どうぞ」、とセレスティを促した。
それにはっとしたセレスティは車椅子を軽く動かし、奥の部屋へと入る。
…瞬間。

【――――こっち】

「!」
ふわり、と通風孔から入り込んだ風に乗って、セレスティの耳に声が届いた。
「…さ、セレれんに見つけて貰うのを待ってるよ?」
そう言ってぽむ、と背中を叩く御先に促されるように、セレスティは更に車椅子を動かして前へ進む。
そうすれば、後は容易かった。
二回、三回、と無意識のうちに車椅子を動かしていく。
自然と急ぎそうになるのを抑えながら、セレスティは冷静に辺りを見回しながら進んでいった。

【――こっちだよ】

カラカラと車輪が回る音が響く毎に、段々と急かす声が大きくなっていく。

【そっちじゃない】

【こっちだよ】

【早く―――早く見つけて】

【ずっと―――――ずっと、待っていたんだよ】

嬉しそうな、弾むような声。
その声を辿ってセレスティが進んでいると―――ふと、一点にほとんど見えない筈の目が留まった。


――――――壁に掛けられた、ペーパーナイフ。


手でなぞってみると、全体はナイフのようなシルエットだが、持ち手の部分は翼の形の彫刻が施され。
チタンに似ているが、どこか違う不思議な金属で作られている。
本来ならば銀色であろうそれは、薄っすらと水色がかった色をしていた。

―――これだ。

何が、と聞かれると答えられないが、それは本能のような確信で。
そっと手を伸ばして手に取れば、金属特有の冷たさではなく、どこか暖かささえ感じさせ。
しっくりと手に馴染むその感触は、気持ちの悪いものではなかった。

「…切れ味も、申し分なさそうですね…」

つ、と指先を軽く刃先に滑らせながら、セレスティはどこか満足そうに微笑む。


【――――やっと、会えた】


そんなセレスティに本当に心の底から喜んでいるような、嬉しそうな声。
その響きに思わず驚いてペーパーナイフを見ると、隣からぱちぱちと手を叩く音が聞こえてきた。

「―――無事、見つけることができたようですね」
「おめでとーセレれん♪」

何時の間にやら近くに来ていたらしい、継彌と御先だ。
にこにこと微笑む二人にずっと見られていたのかと思うとなんだか気恥ずかしくて、セレスティは誤魔化すように微笑んだ。

「えぇ、おかげさまで」

そう言うと、継彌にそれを見せるようにして笑う。
すると、継彌はそっとそれに触れて、優しく微笑んだ。

「…このペーパーナイフは、使う度に、持ち主の意志によって切れ味が変わるものなんです」
「え?」

驚いて継彌を見ると、継彌は御先にじゃれつかれながら続きを話す。

「貴方が硬いものを斬りたいと思えば、研ぎ澄まされた刃のような切れ味を得ます。
 また、貴方が傷つけたくないと思えば、なまくらにも劣るただの玩具同然になるんですよ。
 …貴方が考えたことは、どんなに離れていてもこの子は感じ取りますから、誰かに奪われた時でも効果は持続します」

そんなわけで、この子がどんな子になるかは、貴方次第なんです。
そう言って微笑む継彌を見て、セレスティは手の中にペーパーナイフに目を落とした。
その視線に答えるように、ペーパーナイフは柔らかな感触を強める。

…この子はまだまっさらな、純粋な子供同然。
ならばこの先、悪くもなれば、良くもなる。
それを左右するのは―――自分の、意思。

そこまで考えて、セレスティはそっとペーパーナイフを握り締めた。

「…はい。
 この子は――大事にさせて、いただきます」

そう言ってセレスティが微笑むと、継彌と御先も嬉しそうに微笑んだ。


●鍛冶師の仕事●
――――呼び声の主も見つかってひと段落と言うことで、三人は一旦生活スペースに戻り、お茶にすることにした。

継彌の入れた茶は、黒界産のものらしく、味は普通の緑茶と変わらないのに…色はまるで墨のように真っ黒な変わったもので。
匂いも少々独特なものがあったので最初は戸惑ったセレスティだったが、すぐに慣れてのんびりと味あわせて貰った。
暫くはそんな感じだったのだが…不意に、継彌が立ち上がる。

「お話の途中で申し訳ありませんが、そろそろ御先さんの武器を修理して差し上げなければなりませんので…」

申し訳なさそうに言う継彌を見て、セレスティは思いついたように車椅子を動かした。
「セレれん?」
動き出したセレスティを見上げる御先に微笑み返すと、セレスティは継彌を見る。
そしてふわりと微笑むと、ゆっくりと口を開いた。

「…もし差し支えなければ、武器を修理する様子を拝見させていただきたいのですが」

そう申し込むセレスティの姿に、継彌は一瞬驚く。
…が、すぐに微笑んで、「いいですよ」と答えた。

「えー、セレれんつっちーと行っちゃうのー?」
胡坐をかいて菓子をぱくぱく食べていた御先は不満そうに声をあげる。

「でしたら…キミも一緒に、いかがです?」

そう言って微笑むセレスティだが、御先はぶんぶん首を左右に振った。
「俺はもう何度も見たから、ここで待ってるー」
早く帰ってきてねー、とふざけて言うと、ごろんとうつ伏せに横になる。
「じゃあ…行きましょうか?」
すっかり自分の家で寛ぐような態度に苦笑するセレスティを他所に、完全に慣れている継彌はにこりと微笑んで彼を促した。

***

―――特殊武器・道具を保管してある場所より少し奥に、それはあった。
      …とは言っても、単に開けたスペースと鉄製の机があるだけで、タタラだのハンマーだのという、本格的な火事の道具は全くと言っていいほどないようだ。

これで本当に武器の作成や修理が出来るのだろうか…?
思わず疑いの目を向けてしまうセレスティに苦笑を返すと、継彌は持っていた御先の大きな弓を机の上に置いた。

―――と、ふわり、と弓が宙に浮く。

恐らくこれも特殊な道具の一つなのだろう。
驚くセレスティを他所に、継彌はぶつぶつと何かの呪文のようなものを唱えだす。
セレスティには理解は出来ないが、恐らく黒界の特殊言語か何かなのだろう。

シュウゥ…。

暫くじっと見ていると、継彌の足元から唐突に炎と水が現れた。
それはぐるぐると螺旋を描くように継彌の身体を昇っていくと、頭のところで上昇する動きを止める。
唐突な火と水の出現の気配に驚くセレスティ。
これが彼等の言う術と言うものなのだろうか。
己も水を操るが、相反する炎を操ることはできず、それ故に驚きも大きかった。

「――――行きますよ」

螺旋を描く炎と水に巻かれながら継彌はふわりと手を上げる。
その手の上にあるのは―――弓の原材料である、骨でできた、翼。
先ほど触らせて貰えたが、その感触はただの骨のようで、どこか違ったと感じたのを覚えている。

継彌の手の上に乗っていた骨は、次の瞬間―――炎に飲み込まれた。
ジュゥッ、と大きな音を立てて、骨は一瞬のうちに液体に変化する。
燃え尽きたり焦げたりするわけではなく、液体になる――それは、この炎が普通のものとは違う性質を持っていると感じさせるのは充分だった。

そしてその白みを帯びた液体もまた宙に浮かび、ゆっくりと尾を引いて弓の欠けた箇所へと宙を駆ける。
シュウゥ…。
弓の欠けた部分を包むかのように、液体が弓に張り付いていく。
それは吸収されるわけではなく、まるでその部分だけが出っ張っているかのように、少々不恰好な形で付着した。
ジュワァッ…。
その上を炎が嘗めるように駆けていくと、まるで蝋が固まるかのように…液体は、一瞬で固体へと変化した。

そこまでやったところでふぅ、と一旦息を吐くと、継彌はセレスティの方を向いて微笑んだ。

「あとは…余った部分を切り取るだけです」
「え?もう…終わりなんですか?」

普通の武器ならばもっと打つなりなんなりして鍛える必要があるはず。
こんなに簡単に終わらせてしまっては、相当脆くなるのでは…?
そんなセレスティの疑問が聞こえているかのように、継彌は笑って口を開く。

「僕の炎と水は、術を使用して合わせることによって普通の人が武器を鍛えるのより遥かに高い効果を発揮するんです。
 …まぁ、父から教えて貰った技術ですから、オリジナル、と言うわけではありませんけど」

そう言って笑いながら、継彌は左手を持ち上げた。
瞬間。
ザバァッ!!
継彌の足元から一斉に水柱が上がると、それは一瞬で限りなくゼロに近い薄さへと変化する。
そしてそれは不恰好な塊へと飛んで行き――――シュッ、と軽い音を伴って、弓を掠って通り過ぎると飛沫になって落ちて行った。

――――暫しの、沈黙。

ぴちゃん、と宙を舞っていた最後の一滴が床に落ちて消えると同時に、カラァ…ン、と硬質な塊が床に落ちる音が響く。
セレスティが驚いて感覚を研ぎ澄ませて見ると、それは―――削り取られた、修理を行われた部分の余分なパーツの欠片だった。
あの一瞬であの不恰好な部分を見事な弓の形に切り取ったのか。
その技術とスピードに驚いているセレスティを他所に、継彌は修理が終わった弓を手に取り、そっとなぞると無事に修繕が完了していることを悟って微笑んだ。

「…修理は、これで終わりです。
 ……いかがでしたか?」

それは武器の修理の完成度を聞いているのか、その作業についてを聞いているのか。
どこか楽しそうな継彌を見て、セレスティは微笑んだ。

「えぇ…とても、良い勉強になりました」

継彌の技術は賞賛に値する。
そう考えながら答えると、継彌もふわりと微笑んで返すのだった。


―――――ちなみに。
        落ちた余分な欠片や少々汚れた床は、自分で動き回る箒と雑巾・バケツ(水入り)の手によって、あっという間に綺麗に掃除された。


●要塞●
修繕した武器を受け取って「ありがとーv」と満足そうに微笑む御先と継彌と茶飲み話を再開する。

「そう言えば…看視者と言うものを認識したのも、お会いするのも、どちらも初めてなんですよね」

「あー、そう言えばそだねー」
「普段は一般人のフリをして紛れ込みますし、記憶の改ざんは普通にやってますしね」

ふんわりと微笑みながら言うセレスティに、御先は今気づいたという感じに、継彌は同じように微笑みながら返事を返す。
そんな二人とのんびりとお茶を飲みながら、セレスティは看視者の話を聞いてから気になっていたことを聞くことにした。

「…聞くところによると、看視者のいる付近ではあやかしがいるそうですね」

「あー、うん。大抵はそうだね」
「まぁ、基本的にはそうなりますね」
セレスティの言葉にどこか微妙な返事を返す二人を見ながら、セレスティはこくりと一口茶を飲んで湯飲みを机に置くと、言葉を続けた。

「…もしかしたら、私を呼んだ声はこの子ではなく、あやかしである可能性もあるのでは?」

手に入れたペーパーナイフを触りながらの問いかけに、二人はきょとんとした表情を浮かべる。
そして少々の間のあと―――ぷっ、と唐突に噴出した。

「あははっ!それはないない!!」
「え?どうしてそう言い切れるんですか…?」
笑いながら言われた言葉に訝しげに問い返すと、くすくすと小さく笑いながら、継彌が口を開いた。

「―――この店の周囲半径一キロは、あやかしの声や力を遮断する空間になっているからです」

その言葉に、セレスティは驚いて目を見開く。
リアクションに満足したのか継彌は面白そうに微笑むと、お茶を一口飲むと、優しく話し出す。

「僕の能力の一つなんですよ。
 能力者しかこの店にたどり着けないのと同様に、ほとんどのあやかしの侵入を防ぎ、影響を遮断するシェルターのような役割を果たしているんです」

だから、この店の近くで声が聞こえたならば、それは少なくともあやかしの声ではないんですよ、と継彌は付け足して笑った。
「そうなんですか…」
どうりでこの店に入ってから嫌な感じや空気、雑音が一切聞こえてこないわけだ。
まさかそんな仕組みがあったとは…。
そう思いながら、セレスティは更に口を開く。

「…では、もしも店内にあやかしが侵入してきた場合はどうなさっているのですか?
 それとも、危害を加えないようなものは退治せずに静観なさっているんでしょうか。
 対処の仕方などがありましたら、教えてくださいませ?」

その言葉に反応したのは、今度は御先だ。
何が楽しいのか満面の笑みを浮かべながら、説明できるのが嬉しいといわんばかりの顔で話す。

「つっちーのお店は基本的にはあやかしは侵入できないよ。
 特に強いあやかしが近づいた場合は店の気配を完全に遮断する緊急機能が発生するし、弱い子は近づくことすらできないもん。
 まぁ、たまーに人に取り付いたあやかしが侵入してきたりするけど、そう言うのって大して強くないから、さっさと祓っちゃえるしね」

だからつぐりんのお店は今のところ強固な要塞と同じ感じなのだ、といいながら何故か自分が胸を張る御先に、継彌はくすくすと笑いながら付け足すように口を開く。

「まぁ、害を及ぼさない子達は基本的に放っておいてますよ。
 単に遊びに来た子達も時々いますから。
 対処の仕方、と言われるとあまりきちんとした説明はできませんし…貴方なら、まず襲い掛かるような命知らずはほとんどいませんよ」

例えいたとしても、貴方なら退治もお出来になるでしょう?
そう言って微笑む継彌に、セレスティは思わず苦笑する。

「それも…そうですね」

継彌の作り上げた空間がある意味対処法なのだろう。
ならば、自分で自分の対処法を考えるしかないということだ。
そう結論付けて、セレスティは頷いた。


●現幻●
その後も暫く談笑をしていた三人だったが、ふと御先が外を見て、ぽつりと呟いた。

「…そろそろ帰った方がいいんじゃないかな?」

「え?」
和やかな空気の中、唐突に紡がれた御先の言葉に不思議そうに窓の外に目を向けると、目に感じる光が赤みを帯び、暗くなっているのが感じられる。
…何時の間にか、日が沈みかけていたのだ。
思っていたよりもすっかり話し込んでしまったらしい。

「…確かに、そろそろ帰った方がいいでしょうね」

セレスティは苦笑して、カラリ、と車椅子の車輪を動かす。
その動きを見て御先と継彌も立ち上がり、見送りでもするつもりなのか、入り口に向かって進んでいくセレスティの後ろをついていく。

店舗を突っ切り戸の前にたどり着いた。
セレスティはそこでぴたりと止まると、振り返ってにっこりと微笑んで頭を下げる。

「…それでは、これで失礼致します」
「えぇ、お気をつけて」
「うん、元気でね?」

優しい響きの声に微笑を深くすると、御先と継彌にもう一度深々と頭を下げると、くるりと引き戸に向かい直す。
そして、引き戸を引いて開くと同時に車椅子を動かして敷居を出た瞬間―――。

「それじゃあ、どうぞ、お元気で」
「また機会があったら会おーね!!」

――――――二人の声が聞こえると同時に、ぐにゃり、と…世界が歪んだ。

***

「…え?」

驚いて一瞬閉じた目を開いたセレスティの耳に唐突に入ってきたのは―――雑踏。
人が行きかい、ざわざわと話し声がざわめきを作り上げる。

「ここは…」

驚きに見開かれたその瞳に僅かに映る景色と耳に入るざわめきや感じる建物の並びは、自分が鳳凰堂に訪れる少し前まで通っていた場所に相違ない。
本来ならば、自分が出た場所は開けた場所で、ざわめきなど全く聞こえない、真空のような空間だった筈だ。
振り返ってみれば、そこにあるのは人の波。
あのどこか古ぼけた引き戸どころか、店自体全く見当たらない。

「……幻、だったのでしょうか?」

あの店や看視者は、自分が見た幻だったのではないだろうか。
ふと、そんな不安に駆られるセレスティ。
しかし、彼の手の中で、チャリ…と、小さく金属がぶつかった音がする。
ふと視線を落としてそこに手を置いてみると、そこには―――あの、ペーパーナイフ。


――――――夢じゃなければ、幻でもない。…現実。


それを見て不安が吹き飛んだセレスティは、思わず口元を笑みの形に歪める。
そしてふわりと柔らかな髪を風に靡かせて空を見上げると、小さく微笑んだ。

「…覚えていられてよかった。
 ふと思い出した時に、自分で覚えていないのは…嫌ですからね」

そう呟いて、セレスティはペーパーナイフの表面を優しくなぞる。
もしも以前会ったことがあって記憶を消されているとしたら、また消されてしまうかもしれないと…実は少々心配していたのだ。
しかし、それも杞憂に終わった。
自分は―――このことを、覚えているのだから。

そこで思考を中断し、セレスティは人の波に乗るように車椅子を動かす。

ぼやけた瞳に、柔らかな西日が少しだけ眩しい。
手の中のペーパーナイフが反射して下から自分を照らしているのも、その要因の一つかもしれないが。

「また…会えますかね…」

沈み行く夕日を眺めながら、セレスティはぽつりと呟く。
しかし、勿論それに答える声はない。
予想していたその結果に苦笑を浮かべながら、セレスティは車椅子の動きを早め、人の波に消えて行った。


「――――セレれんがまた会いたいって思ってくれるなら、きっと、また会えるよ」


そんな彼の後姿を見送った空色の髪をした少年がそう呟きながら、すっと身を翻す。
そしてそのまま―――少年は、セレスティとは反対側の人の波に飲まれてあっという間に消えて行く。


――――――赤と紺のグラデーションの中で光る一番星だけが、それを見ていた。


<結果>
記憶:残留。
入手:ペーパーナイフ(意志によって切れ味が変化。場合によっては研ぎ澄まされた刃並に鋭くなったり、なまくらにも劣る切れ味になったりする)


終。

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】

【1833/セレスティ・カーニンガム/男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い/水】

【NPC/御先/男/?/狭間の看視者/光】
【NPC/継彌/男/?/『鳳凰堂』店主兼鍛冶師/火&水】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第二弾「鳳凰堂の章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は前作に比べて皆様の属性のバリエーションが広がっており、ひそかにほくそ笑みました(をい)
まぁ、残念ながら火・地属性の方にはお会い出来ませんでしたが…次回に期待?(笑)
また、今回は参加者様の性別は男の方のほうが多くなりました(笑)いやぁ、前作と比べると面白いですねぇ(をい)
ちなみに今回は残念ながら鎖々螺・鬼斬と話す方はいらっしゃいませんでした…結構好きなんですけどねぇ、私は(お前の好みは関係ない)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)

・セレスティ様・
ご参加、どうも有難う御座いました。また、御先をご指名下さって有難うございます。
色々と描写する場面が多く、楽しく書かせていただきました。
プレイングを私なりに解釈させていただいた結果、ペーパーナイフは不思議な武器、と言うことにさせていただきましたが…大丈夫でしたでしょうか?(汗)
ペーパーナイフ、と言っても色々形があるようで…迷った結果、結局ナイフに近い形のものにさせていただきました(礼)
継彌が武器を修理する場面は特に力を入れさせてもらいました(ぇ)他にその指定をした人がいなかったもので、つい…(つい、じゃねぇよ)
ちなみに一番最後の題名は「うつつまぼろし」と読んでくださいませ。
全体的に不思議な店的な感じを出したかったので、幻的な終わり方にしてみました。

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。