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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


力の追及者(後編)



■ プロローグ

「……ボス、あまり出歩かないようにしてください」
「それは何故?」
 ボスと呼ばれた小柄な女性はヤナギの申し出に不機嫌そうに顔をしかめた。
「……気楽街は身を隠す場所としては最適ですが、悪事を働く者も少なくありません」
「あなたが言っても説得力がありませんね」
 女性は嘲笑うようにヤナギを上から見下ろした。ヤナギは女性の前に膝をついている。上下関係は明白である。
「それとは別に問題があるんですよ」
「あら、サワキ。それはどういう意味かしら?」
「滞在期間のせいもあり、敵を作りすぎました。実は先日、何者かからの攻撃を受けたのですよ。魔力で作り上げたゴーレムでしたが、相手はそうとう手馴れな術者でした」
「なるほど……長居は無用というわけね」
 女性が神妙に頷いた。
「……サワキ、箱はどうなんだ?」
「もうすぐ許容量の限界値に達します。そうなれば、どうにでもなるのですが……ボス、どうしましょうか?」
「あなた達に任せます」
「では、もう少し様子を見ましょうか」
 サワキが割れた窓から外を窺う。
「……ふん、なんでもよかろう。邪魔者は排除するだけだ」
 膝をついていたヤナギが立ち上がる。そして、すぅっと暗がりの中に身を投じた。



■ 侵入

 昼でも薄暗い街――気楽街は治安が非常に悪い。逆に言えば強者の集う場所とも言えるわけで、遠目に窺えるアジトにいるであろう敵一味にとっては、これ以上の狩場もないだろう。力という力を吸収する――それが敵の狙いなのは明白である。
「あそこから渡って屋上から侵入するか。入り口からってのは芸がない」
 日向・龍也は建物の影から敵アジトの隣、廃ビルを指差した。
「たしかに、真正面からの侵入は得策とは言えないか……」
 頷き同意を示したのは言葉を操る――ワードマスター、七枷・誠だった。
「ビルごとぶち抜くのは……うーん、やっぱりダメだよね。うん、ボクは……後方で支援させてもらうことにするよ」
 幽貌・渚が物騒な事を呟きながら腕を捲くった。渚は市役所清掃課の人間だ。今回は厄介事ということで依頼が回ってきたのである(文句を言いつつも参加)。
「とにかく相手に気づかれないように侵入しないとな。それに屋内だから、派手に戦うのも無謀だ。ま、その辺はどうにでもなるさ」
 先に龍也が歩み出す。誠と渚も後に続く。闇と一体化するように三人は敵アジトへ大きく迂回しながら近づいていった。
 そうして廃ビルに到着。中に侵入して隣のビルを意識しながら階段を上っていく。
「……幅はたいしたことなさそうだな」
 誠がビルとビルの間、真下を覗き込んだ。五階建て、十メートル前後の高さはあるだろう。しかし、その幅は一メートルほどしかない。三人は軽く飛び越え、敵アジトのビル屋上へと到達を果した。
「ふう……まずは一段落だね」
 渚が小さく溜息をついた。
「ここまでは、ね」
 誠が準備しておいたライダーズグローブを手に装着した。
「さて、行くか」
 龍也が鍵のかかった錆び付いたドアに手をかけた。



■ アジト内部

「……侵入者を阻害すればいいんだな」
「ええ、そういうこと。報酬は今渡した分ね。……逃げるのは、なしよ?」
 流飛・霧葉はこくりと壊れた人形のように頷いた。
「精々、足を引っ張らない事だな」
 ヤナギが皮肉めいたセリフを吐くと霧葉は「……何か言ったか?」と、とぼけて返した。本当に聞こえていなかったのかもしれない。
「……おや、どうやらお客さんが来たようですよ?」
 サワキが後ろ髪を紐で束ねながら言った。
「どこからです?」
 ボスがサワキに訊くと、
「上……でしょうか。気配を消していたようです」
「何か音がしなかったか?」
 霧葉が耳を澄ましながら言った。
「……ふん、小賢しい」
 ヤナギが眉間に皺を寄せながら歩き出す。霧葉とサワキもそれに続いた。残された女性は黙然とした様子で三人を見送った。



■ 対決

 階段を下りて四階に足を踏み入れた三人の前に姿を見せたの黒い男だった。
「くくく、俺たちが相手をしてやろう」
 黒服の男――ヤナギだった。さらに軽薄な笑みを浮かべる白シャツの男――サワキも姿を見せた。
「御託はいい。かかって来いよ?」
 龍也が挑発すると、ヤナギが「言われなくとも」と不敵に言葉を吐きすてながら向かってきた。龍也がそれを迎え撃つ。
 サワキには誠が立ち向かう。サワキは魔力を練り上げ、火球をおこしたが、魔力による干渉を防ぐため、衣服に予め「破魔」を己の血で書き込んでおいたので、ダメージは薄い。
 サワキが後退りしようとするが、
「どこへ行く気?」
 密かに回り込んでおいた渚がサワキの退路を塞いだ。
 誠は言霊で『エントロピーの法則』を用いた。つまり、エネルギーの均一化、拡散を促すものである。小箱には魔力・霊力、それら膨大なエネルギーが蓄えられている。それを解放しようというわけだ。解放すればおそらく、元の場所へ戻るはずで――これで依頼主である山本も力を取り戻す事ができるはずである。
「――小箱が?」
 サワキが驚きの声を上げる。
 辺り一面に光が満ちた。光は小箱から――蓄積されたエネルギーが飛び出しているのだ。
「……ちぃ、余計な真似を。ならば、お前たちのエネルギーを吸収してやろう。おい、サワキ!」
 ヤナギが苛立った声でサワキに呼びかけた。
「ええ、解かっていますよ」
 サワキが先刻まで青白く光っていた、今は輝きを失った小箱を両手で抱える。
「……ふふ、やってみろよ?」
 龍也が余裕を含んだ笑みを浮かべると、ヤナギが攻撃を仕掛けてきた。
 小箱を使用するためには条件が必要らしいが、その条件までは事前に調べる事ができなかった。だが、龍也はそれさえ必要ないと踏んでいた。
「……かかったな」
 ヤナギが龍也から離れる。龍也から魔力が放出され始める。しかし当の龍也は笑っている。
「……きょ、許容量が?」
「もう、遅いぜ」
 龍也は体内に無尽蔵の魔力を秘めている。小箱に無限のエネルギーを蓄積できるはずもなく――サワキの両手付近が爆発した。龍也がその吸収された魔力を間接的に操ったのだ。
「よーし、確保!」
 渚が体勢を崩したサワキに向かっていき――派手に蹴り飛ばした。吹き飛ばされたサワキは老朽化したビルの壁に打ち付けられた。
『思い信じて打撃すれば、エネルギー保存の法則に従い、どんなものでも均等にダメージを受ける』
 誠はそう言霊を唱えるとヤナギに殴りかかった。
「ぐあああ!!」
 同じく壁に打ち付けられたヤナギは身動きをしなくなった。こうして小箱も破壊でき二人を捕縛することができた。

 その後、三人はボスなる女性を探してビル内を徘徊した。
「なにっ!」
 龍也が咄嗟に後方へステップした。誠と渚も相手と距離を取る。三人が階段を降り、二階へ足を踏み入れた瞬間襲ってきたのは、刀を握った無愛想な男性――霧葉だった。さらにその後ろに女性の姿があった。
「相手は……黒服と白シャツの男の二人だって、訊いてたけど……?」
 渚が龍也と誠に問うが、二人とも首を振るだけだった。それも当たり前の話だ。霧葉はボスの護衛として急遽、雇われているのだから。
「仕事だ。悪く思うな」
 霧葉が抑揚なく言葉を発するといきなり斬りかかってきた。
「……くっ」
 誠はギリギリで攻撃を避けた。が、刀の切っ先が衣服を切り裂いた。
「このぉ!」
 渚が霧葉に飛び掛る。運動神経強化・ボディアーマーなど市役所特課装備を最大限に生かしての攻撃だ。
 さすがに霧葉もこれには怯んだ。その隙に龍也が見事に研ぎ澄まされた剣を生み出し、霧葉に攻撃を加える。霧葉は咄嗟に刀でそれを防ごうとしたが、
「――甘いぜ!」
 力押しで龍也は霧葉の刀を弾き飛ばした。刀は真上に飛翔し、黒ずんだ天井に突き刺さった。さらに素手で襲い掛かってきたが
「もう終わりだ――」
 誠の拳が霧葉に突き刺さる。霧葉がその場に倒れこんだ。

「で、キミが噂のボスなの?」
 渚が赤いワンピースに身を包んでいる小柄な女性に問いかけた。
「……まさか、ヤナギたちまで、あなた達が?」
 震えるような口調で女性は言葉を吐き出した。
「そうだ。上で寝ているぜ」
 龍也が顎で頭上を示した。
「そんな……」
 女性は後退りしながら、階段を下りていこうとする。三人はすぐさまそれを阻止せんと捕らえようとする。結局、女性は抵抗しなかった。
「結局、何が目的だったんだ?」
 誠が女性に訊くと、
「……わたしは魔族なのよ。ヤナギとサワキは人間だけど、わたしの忠実な僕。魔界で力を失ったわたしはある時、人間界に足を踏み入れた。力を蓄えるためにね……でも、わたしは追われている身で、早めに回復する必要があったのよ」
「だから……あの小箱を使って、エネルギーをかき集めていたのね?」
 渚の問いかけに女性はコクリと頷いた。
「ちなみに訊くが、必要量のエネルギーが集まっていたらどうなっていたんだ?」
 龍也が毅然とした表情で言うと、
「……もちろん、元の姿に戻れていたでしょうし、あなた達もタダではすまなかったでしょうね」
 女性は一瞬だけ笑って見せたがすぐに表情をなくしてしまった。

 霧葉は三人にのされた後、自力で立ち上がった。
「……今のうちに」
 前金は頂いていたし、もう特に用はない。警察に捕まるのは面倒なので霧葉は戦術的撤退(すでに負けているが)を決め込んだ。
 三人はボスと会話をしているようだ。霧葉は気づかれぬよう窓際に移動し、窓から外へ脱出を果した。二階だったので幸い、下りるのは容易なことだった。これでまた自給自足の暮らしに逆戻りだ。



■ エピローグ

「皆さん、ありがとうございました」
 依頼者の山本が深いお辞儀で感謝を示した。
「市民を守るのは役所の勤めですからー」
 渚があははと笑う。
「あのくらい、何てことはないさ」
 龍也は平然とした様子でコーヒーを口元に運んだ。
「それにしても、まさか親玉が魔族だったとは驚きだな」
 草間が隙間のない灰皿にどうにかしてタバコを潰す。
「小箱を破壊したのは正解でしたね」
 誠が龍也に目配せすると、
「奴らを捕らえても小箱が間接的操作で何らかの現象を引き起こす事だって考えられたからな」
 龍也はそう言ってカップをコゼーに戻した。
「みんな、力が戻ったんですよねー?」
 渚が草間に問いかける。
「ああ、調べたところによると力を奪われた者たちは、七枷の解放によってその力を取り戻したそうだ。皆、一様にな」
 事件は解決し、気楽街に平和が――もとい、もともとあの場所は平和ではないのかもしれないが、とにかく一連の騒動については片がついたのだった。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3448/流飛・霧葉/男/18歳/無職】
【2953/日向・龍也/男/27歳/何でも屋:魔術師】
【3590/七枷・誠/男/17歳/高校二年生/ワードマスター】
【3653/幽貌・渚/女/17歳/陰陽師兼高校生】

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■         ライター通信          ■
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この度は『力の追及者(後編)』にご参加くださいましてありがとうございます。担当ライターの周防ツカサです。
屋内での戦闘ということで派手な演出はできませんでしたが楽しんでいただければ幸いです。
ちょっと小箱に関する情報が少なすぎましたなー、と今更ながら思うのですが、あれに関しては解放→破壊のコンボでもっていきました。

ご意見、ご要望等などありましたら、どんどんお申し付けください。
それでは、またの機会にお会い致しましょう。

Writer name:Tsukasa suo
Personal room:http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=0141