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念写でゴー〜nensyaーdeーGO!〜
Opening
夏も本番にさしかかってきた頃。
「あ〜つ〜い〜」
暑さにうだりながら、響カスミが呟いた。
夏の日差しは容赦無く、何時間も日陰の無い場所に立っていれば、汗も止まらない。
「う〜」
ここは、神聖都学園高等部のプールに設置された女子更衣室の前。そこに、まるで狛犬のように扉を守るカスミが居た。
「それにしても、厄介な事件よねぇ……」
カスミがこうやって女子更衣室のガードをしているのには訳がある。
最近、神聖都学園高等部の女子更衣室の盗撮写真が学園内で出回っている、という事件が起こっていた。
写真を売っていた生徒は捕まえたのだが、写真はその生徒が撮ったのではなく、また、最近の情勢もあり、不審者警備には厳重な学園には写真を取れるような場所は無い。というか、どうやったら密室である女子更衣室の写真が撮られているかのか、皆目解らない。
それでも、生徒の不安を解消しようと、カスミが護衛役に買って出たのだった。
「うぅん……」
日の光に負けそうになるが、生徒の為を思うと護衛は止められない。
しかし、カスミの努力も虚しく、昨日、再び写真の流出が発見されていた。カスミが目を皿のようにして見張ったのにも関わらず。
「まさか、ね」
心の中に、生徒達の話していた噂が浮かんでくるが、苦笑と共に打ち消す。
何でも、この神聖都学園には、念写の出来る生徒が居るという。その生徒が、女子更衣室の中を念写しているというのだ。
「あ〜つ〜い〜」
既に何十回も呟いた台詞を吐きつつ、カスミは思う。
念写云々は信じられないけど、私が日干しになるまえに手伝ってもらおう、と
Main
テーブルに置いた肌色の写真を囲む女三人。それを、遠くから見ている残り二人。
「あの〜、先輩方、そろそろ何か分ったんじゃないですか?」
遠くの方の一人、春日・イツルが声をかける。
「あらあら、焦らない焦らない、ですわ」
ほわん、とした笑顔を浮べて返したのは鹿沼・デルファス。
「……何でそんな幸せそうな顔なんですか」
「あら、そうですかしら?」
ほわほわ、と笑顔を浮べたまま、写真に視線を戻すデルファス。
「やはり、わたくしの説が正しいのですわ」
「でも、違うのもありますよ」
デルファスの言葉に異を唱える海原・みあお。
「というか、これは……翼君、ちょっと来て」
「ん、分った」
「えっ?!」
緋玻の呼びかけにすたすたと女三人に近付いていく、遠くの方のもう一人、蒼王・翼。
「いいんですかっ、蒼王先輩は男――え?」
「あたしも最初はそう思ってたんだけどね」
「まあ、こんな格好してるからね」
にこり、とイツルに笑みを向ける男装の麗人。
「って事は……男、俺だけ?」
自分を指指して、きょとんとしているイツルを放っておいて、女四人の会議は続く。
「ほら、わたくしの言った通り、犯人は巨乳の生徒ばかりを狙っていますわ」
「そうとも限らないですよ、ほら、この生徒は巨乳じゃないですし」
お互いに写真を示しつつ、デルファスとみあおの意見が交錯する。
「それなんだけど……二種類、あるんじゃない」
「あぁ、僕もそう思った」
緋玻と翼の言葉に、言葉を止める二人。
「どういう事ですか?」
「つまりね……」
写真を二つの山に分けていく緋玻。
「こっちが、学年関係無く巨乳の生徒ばかり狙った写真」
「で、あっちが、上級生ばかりを狙った写真」
緋玻と翼の説明に、なるほど、と肯く二人。
「つまり、犯人は……二人居る?」
「その可能性は高いわね」
みあおの呟きに、肯く緋玻。
「それを考えると、意外と捕まえやすいかもしれないね」
写真をしまいつつ、翼が呟く。
「それじゃあ、犯人を捕まえたらこの教室に連れて来るって事で、いい?」
緋玻の言葉に皆が肯く。
「それじゃ、俺は資料室行って来ます」
「私は囮になりますね」
それぞれ、自分の予想したポイントへと移動していく五人。
「……ん?」
ふと、翼の感覚に何かが引っかかる。
「……気のせい、かな」
大して気にせず、翼も教室の外へ移動した。
「厄介だな」
教室の外、五人とは死角の方向から少年が現れた。見た所、上級生らしい。
「少し、脅しが必要だな……」
呟くと、歩き出す少年。数歩で、その姿が掻き消えた。
後には、何も残っていない。
キィ……パタン。
「この時間は誰も居ませんね。まあ、それで良いんですけど」
着替えの入ったバックを持って、更衣室に入るみあお。
「"運良く"盗撮してくれると良いんですけどね」
呟きつつ、制服を脱いでいく。白磁の肌が露わになった。
ひらり。
ふと、その場にあるはずもない青い羽が、みあおの足元に落ちる。
「さぁ、いつでもどうぞ」
魅惑的な微笑を浮かべつつ、そう呟くみあおだった。
『だから、今日の盗撮は止めて――』
一年生であろう幼い少年の耳に、別の少年の声が聞こえている。しかし、周囲には少年以外の人間は居ない。
「……あ」
『――おい、どうした?』
少年の顔が紅潮し、そそくさと鞄からポラロイドのフィルムを取り出す。
『おいっ、今は止めろとっ!』
ここには居ない少年の静止の声を無視して、フィルムに手を翳し目を瞑る少年。
『……くそっ』
悪態をついた後、別の少年の声は聞こえなくなった。
「……おお、ビンゴ」
資料室へと向かったイツルの目の前に、少年の姿があった。年代よりも幼く見えるその姿は、男のイツルから見ても綺麗だと思う。しかし、それで罪が軽くなる訳ではない。
「おい」
「ひゃっ?!」
声をかけると、慌てたように顔を上げる美少年。おどおどとした視線がイツルに向けられる。
「それ、見せてもらおうか」
美少年の了承を得る間も無く、少年の手元にあったフィルムを奪うイツル。
「っ……」
見れば、みあおの肌色写真。思わず顔が赤くなる。
「と、とにかく、これは預からせてもらう」
顔を美少年の方に戻すと、もうそこには居ない。
「しまっ――!」
ドササササササッ!
美少年を探そうとするイツルに、周囲の資料が一斉に飛び掛ってきた。あっという間に、資料の中に埋もれてしまう。
「ぼ、僕は悪くないっ!」
サイコキネシスで資料を飛ばした美少年が、震える声で叫ぶ。
「僕はただ、兄ちゃんに言われただけでっ!」
「……それでも、悪は悪だ」
美少年の叫びを打ち消すように、資料の山の中から静かなイツルの声が聞こえて来る。
「ちが……っ!」
バンッ!
美少年の声が途切れ、視線が資料の山があった場所に固定される。
そこに居たのは、資料の山を一撃で跳ね除けた、銀髪銀眼の少年。
美少年が驚いている隙をついて、人間とは思えないスピードで一気に距離を詰める。
ゴッ!
再び資料が襲い掛かってくるのを、身をかわして避ける。
タンッ。
イツルに向けて手を突き出そうとした美少年の目の前で、飛び跳ねるイツル。
まるで翼でも付いているかのように軽々と美少年を飛び越すと、背後に降りた。
「くっ!」
振り返り、サイコキネシスで反撃しようとした美少年の首筋に手刀を振り下ろす。
「……ふぅ」
沈黙した美少年を肩に担ぐイツル。途端に、髪が黒に、片目が黒に戻る。
「覚醒まで使わなきゃいけないとは……向こうは大丈夫かな」
仲間が居るであろう方向を見て、不安げに呟くイツルだった。
「ここは……居ないみたいね」
視聴覚室へ向かった緋玻。しかし、そこには誰も居なかった。
「しょうがない、出直して……?」
出て行こうとした緋玻が首を傾げる。
「鍵がかかってる……?」
出入り口の扉が開かない。鍵を開けようとしても、何かが引っかかっているのか開かない。
「どうして……まさか」
「まさか、何かな?」
「っ!」
振り向いた緋玻の視界に入る、上級生の姿。
「誰?」
「さあ、誰だろうな」
名前を言わない。つまり、名が知られるのを困る相手。
「あなたが……黒幕?」
「さぁ、な」
否定とも肯定ともつかない返事。しかし、緋玻はこれを肯定ととった。
「大人しくしていれば痛い目にはあわせないから」
「それはこちらの台詞だ」
余裕漂う少年の台詞に苛つく緋玻。本性を現し一気に畳み込もうと力を込める。
「遅い」
キィィィィィィィン
「え……っ?!」
緋玻の視界が回る。状況を把握できた時には、既に見えない力で壁に縫い付けられた後だった。
「残念だったな」
「…………」
普通に見れば端整な顔を醜く歪ませて、少年が緋玻に近付く。
「俺達の仕事を邪魔する奴が居ると知ってな、ちょっと脅かしに来たんだが……」
ぐっ、と少年の顔が緋玻の顔に近付く。
「ついでだから、仕事のネタになって貰おうか」
「……俺"達"なのね」
嫌らしい視線を向ける少年に、ぽつりと呟く緋玻。
「ぁあ?」
不審げな表情を浮べる少年に、微笑を浮べる緋玻。
「俺達という事は、仲間が居るのね」
「それがどうした?」
「こっちにも、仲間が居るという事さ」
慌てて振り向く少年の前に現れたのは、少年を上回る美貌を持った少年。
「チッ」
少年の視線が険しくなり、甲高い金属音がその口から漏れる。
「そうはさせないわよ」
それを塞いだのは、首に絡んできた背後からの腕。
「クッ、集中が途切れたか……」
チャッ。
「大人しくして貰おう。僕は強いよ」
いつの間に持ってきていたのか、剣を少年に突きつける翼。その様子には、この少年に負ける気など微塵も感じられない。
「……降参だ」
諦めたように、少年が呟いた。
「あらあら、こんな所では暑いでしょうに」
「っ誰!?」
少女が振り向いた先には、デルファスの姿。
「あなたが、盗撮魔さんですわね?」
「ち、違うよっ」
地面に置いていたフィルムを、慌てて背に隠す少女。その様子を見て、確信の笑みを浮べるデルファス。少女に一歩一歩近付いていく。
「ぼ、ボクは関係無いっ」
こちらを睨む少女の姿を確認して、もう一つも確信する。
「大丈夫、胸の無い方が好きな殿方も居りますわ」
「っそれを言うな!」
少女の顔が朱に染まる。それを見て笑みを浮べるデルファス。
「もっと自分に自身を持ちなさいな」
「っ……アンタなんかに」
優しく語り掛けるデルファスの体の一部を見て、怒りの表情を向ける少女」
「アンタなんかに……ぺったんこの苦しみが分ってたまるかぁぁぁぁぁぁ!」
カァァァァァァ!!
少女の叫びと共に、カラスの鳴き声が四方八方から聞こえて来た。
「あら?」
事情を確認する暇もなく、大量のカラスに襲い掛かられるデルファス。
「これでどうだっ!」
会心の笑みを浮べる少女。しかし、その笑顔が凍りつく。
カラン。
カランカラン。
得体の知れない鉱石と化して、地面に落ちて行くカラス達。
「あぁ、ビックリしましたわ」
最後のカラスが落ちた後に立っていたのは、服を裂かれながらも、体には傷一つないデルファス。
「な、何で……」
呆然としている少女に、蕩けるような笑みを浮べるデルファス。
「じゃ、じゃあ……これならっ!」
スゥ。
少女が息を吸い、目を瞑った。
キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
口を真一文字に結んだ少女から、身も凍るような叫び声が周囲に響く。近くを飛んでいた鳥がパタリと落ちた。
「この"叫び"なら……っ!」
目を開けた少女の瞳に映る、デルファスの顔。
「な、何で」
「乙女には、秘密がつきものですわ」
笑みを浮べると、少女を抱き締めるデルファス。
「ぁ―――」
逃げ出そうとする暇もなく、少女の体が石に変わった。
「さて、洗いざらい話してもらおうか」
拘束された三人の前で、翼が言う。
「ぼ、僕の所為じゃないっ、兄ちゃんがっ」
「言い訳するのは感心しないね」
怒気をはらんだ翼の言葉に、沈黙する美少年。
「……どこから話せばいいんだ」
少年が、翼を睨みつつ言う。
「まず、君達の名前と関係から」
「……俺は、仙堂悟」
美少年に視線を向ける悟。
「こいつは、俺の弟で昇」
次に、少女へと視線を向ける。
「で、こいつは、妹の阿子」
「つまり、兄弟三人で犯行を行っていた、と」
翼の問いに、肯く悟。
「何でそんな事をしたんだ?」
「……ボクが、悪いんだ」
「阿子!」
悟の叫びを無視して、言葉を紡ぐ阿子。
「羨ましかったんだ。ボクみたいにぺったんこじゃない人が。だから、こっそり念写して……」
「そこでは、売る気は無かったと」
翼の言葉に、肯く阿子。
「盗撮写真を売ろうと言ったのは俺だ」
「何で?」
「金になるからな」
ニヤリ、と笑う悟に、侮蔑の視線を向ける翼。
「で、昇にも声をかけて、俺が見張り役になったって訳だ」
全く悪びれた様子もない悟。黙って成り行きを見ていた四人の表情が歪む。
「で、俺達をどうするんだい。警察に引き渡したって、どうしようもならねぇぜ」
ニヤニヤ笑いを崩さない悟に、翼の目が細まる。
「弟達は軽いお仕置きで済まそうと思ったけど、君は許せない」
剣を悟の胸に突きつける翼。
「おいっ!」
イツルが慌てて声をかけるのを、緋玻が制した。
「さぁ、殺れよ」
「あぁ」
ズスッ。
剣が、悟の胸を突き刺し、そして、引き抜かれる。
「っ……?」
流石に目を瞑った悟だったが、不思議そうに目を開ける。
「お前の悪意を浄化した。これからは、名前の通り悟って生きるんだな」
「ぅ……」
何か言いかけた悟が言葉に詰まり、その瞳から涙が流れる。
「さて、残り二人のお仕置きはあたしに任せなさい」
「あらぁ、阿子様は悪い事はしておりませんわ」
「じゃあ、昇はあたしがやるわよ」
その脇で、何やら不穏な会話が緋玻とデルファスの間で交わされていた。
―うわぁぁぁぁぁぁ!
昇の断末魔の悲鳴を聞いて、苦笑を浮べるイツル。
「まあ、自業自得ですよ」
対するみあおは全く動じていない。
「田中先輩も人が悪いよ」
更衣室の中で行われている惨事に、思わず身を震わせるイツル。
「イツル君も、下手するとああなりますよ」
「な、何言ってるんでか、そんな事無いですよ」
何かを隠しているような笑顔で首を振るイツル。
「写真」
「え?」
「仙堂弟の撮った盗撮写真、返って来てませんよ」
「えっと、あれは〜」
呟くイツルの目が泳いでいる。
「ほら」
「う……」
「ほら」
「……はい」
観念したように、写真をみあおに渡すイツル。
「イツル君も男って事ですね」
「いや、みあお先輩の魅力に負けたっていうか」
顔を赤くしたイツルに、笑顔を向けるみあお。
パンッ!
「……あ〜、何か、今回あんまり良い役なかったなぁ」
紅葉の印の付いた頬を撫でつつ、イツルが呟いた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス 】
1415/海原・みあお/女/2−C
2240/田中・緋玻/女/2−B
2863/蒼王・翼/女/2−B
2554/春日・イツル/男/1−B
2181/鹿沼・デルファス/女/2−C
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■ ライター通信 ■
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どうも、渚女です。
今回は超能力ネタを使ってみましたが、如何でしたでしょうか?
ここが良かった、ここをもっと良くして欲しい、などありましたら、お気軽にお手紙くださいませ。
みあお様は、前参加依頼が書き終わらない内に参加していただきまして、驚きつつもありがたく思っております。次回も是非。
緋玻様は二度目の御参加で、どうもありがとう御座います。今回の依頼では少し損な役回りとなってしまいましたが、これで渚女を見捨てる事無い事を願っております。”緋玻”を辞書登録して待っております。
翼様は、初参加ありがとうございます。お楽しみになられたら、幸いです。
イツル様は初参加ありがとうございます。黒一点という事で、最後は酷い目に遭ってしまいましたが、これに懲りずにまた御参加くだされば嬉しいです。
デルファス様は、二度目の御参加ありがとうございます。デルファス様のプレイングで、ストーリーが面白い方向に転がりました。次回も、面白いプレイングお待ちしています。
実は、これを書いている間、自分の腕に自信を無くしていました。
今も自信が回復したとは言い難いですが、皆様に面白いお話を読ませる事が大事、と再確認しております。
それでは、また次の話で会える事を楽しみにしております。
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