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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


アフロンジャー 最終話


「さよならーアフロンジャー、さよならーアフロンジャー」
「どこの一回転するバンドなんねーたん」
 突っ込み、場所はバラエテ異界の中心であるTWO-TEN-KAKUのゴーストTVで、人物はショタ(以上)、
 そして行使相手はというと、GTVの実質的な長、鈴木恵局長その人だった。大道具室で屈みこんで、何やらがさごそもさと「もさッ!?」AD兼下僕のつっこみとそして驚きも無視し、一つの物事に熱中している様子。
「ちょ、ねーたん。僕田中さんとかに局長呼んできてって言われてんねんけど」
 そう言いいながら、そこら中を探し回ってきてくたくたの身体を、もうひと頑張り歩かせて、恵局長に近寄った時、
 刹那振り向く、そして、
 庄二君オンザアフロ。
「……なんの復讐なんやねーたん」
「いやー、人が裁判番組まで用意したっちゅうに、己の正体っちゅうかキャラがたたへん事に対する無言の抗議?」
「おもいっきり行動に出てるやん!? てか外させ、ってめちゃめちゃフィットしてはなれへーん!?」
「ふはははは! 忘れたんかショー吉、バラエテ異界で一度アフロ被ると、なんや正義っぽい事せーへんとそのアフロは外せへんのやぁ!」
 この法則を利用して、今までアフロンジャーは出演者を拉致、もとい募集してきたのである、が、「が、それももう終わりやねんなぁ」
 そう言って視線を遠くするのは、感慨がノルマン海峡よろしく深い為。そう、GTVにおける日曜朝の看板番組であるアフロンジャーは、今回をもって最終回なのであった。理由は勿論視聴率低迷であるが、その原因はマッチョを出しすぎたとか将棋放送すんなよととかてか子供が泣くとか色々あるのだけど、
「やっぱ視聴者のアフロ離れがなぁ」
「せやかて、サラサラ髪とアフロやったら十中八九サラサラ選ぶやん」
 そうなのである。昔はボクシング界やダンス界のブランドであったアフロも、時代の所為かすっかり衰退。その為に、本来はアフロンジャーの敵役である世界の人々に痛みのない強く輝かしい髪を押し売りしようとする恐怖の集団、サラサラ団の方に人気が移ってるのだ。唯のバイトの集まりなのに。
「魅力的な悪役は確かに必要やけど、悪が正義に勝つっちゅう展開は流石に萎えるしなぁ」「いや正義もへったくれも」
「まぁともかく泣いて和食を斬る」「意味めちゃめちゃなってる」
「辛い思いやけどここはアフロンジャーに優秀の美をかざらしたろ、ショー吉、というわけでうちの手作りとみせかけて唯の工場製品のそのアフロ被って、強敵と書いてともと呼ぶマッチョ様と闘って華々しく散ってこい」「せやからマッチョは視聴率とれへぺッ!?」
 おおっと、小姑のようなネチネチとしたツッコミに切れて恵の正しい拳が炸裂したぁっ!
「ええいやかまし雑用の癖にッ! これ以上つっこんだらしじみを鼻の穴につっこむで!」
「わ、わかった、解ったから! せ、せやけど、最後に一つだけ!」
 なんやねんやこの後に及んで? ええとなぁねーたん僕ごっつ気になってんねんけど、
「ねーたんもアフロンジャー出るん?」
 すると局長は、は〜ん? 頼まれても二度とでたるかあんなイロモノ番組ぃ。と大変むかつく顔で答えなさったので、
 せやけど恵ねーたん、アフロなっとるで。と。
「………」
 右手をあげる、頭にかざす、触る、ふかふか、ああまさに母なる海と同じぬくもり、
「ってアフロなっとるー!?」「やっぱ気付いてへんかったん!?」
 美少年と女子高生、二人してアフロになっている図。だが恵のアフロはショー吉のアフロとは違っていた。
「し、しかもこのAP訳すとアフロパワーの感じは、地毛のアフロやないか! キーッ一体どこの誰かドライヤーかけたっちゅうんやぁ!」
「ああ!? 窓の外を見てねーたん!!」
 言われて、二万のAPをこんこんと溢れさせながら窓を見ると、「ええ!? 何時もお空をスクリーンにして浮かび上がってる兄ちゃんの姿っちゅうかさわやか笑顔もあないにアフロに!?」
 ちなみに恵のお兄さんは、この異界の発生原因である霊であるのだが、それはまたレストラン的に別の話。
(HAHAHA☆ それだけじゃないぞ、普段の媚び媚びな少年の容姿とはかけ離れた、青い宇宙人みたいな姿が目撃されてるんだけど、誰もそれについて弄ってくれない少年☆)
「うわ本人の気にしてる事をさらっと言ってる恵ねーたんのにーたんアフロ仕様、それは一体!?」
 大空に浮かぶ大きなナイスガイに、庄二は叫ぶ! すると彼は下を指差す。そこには異界の住人が、

 みなアフロ。

 ――それは勇壮な眺めじゃった。彩り豊かなアフロが異界の全てを満たしておってな、まさにアフロの聖地と言わんばかりじゃわい。ああそういえばカナエさんわしの飯はまだかの?(バラエテ異界在住大野武さん七十七歳の回想より)
「ちょ、ちょ、ちょっと待て、なんやこの異常事態。まるでうちの異界はアフロしかあらへんとでも言うように!」
 実際視聴者からもそういう意見が寄せられてるみたいです。が、
「冗談やないで、これやったらアフロンジャーも有終の美を迎えられへんやないかい」
 拳を固く握り締める。決意するように瞳を開き、そして、意思を解き放つのは口。
「始まりあるものは何時かは終わる、やからこそ全ては美しい。今ここに溢れるアフロは邪道、ショー吉! 集めるんや、アフロの心を持つ連中を。始まりの為に終わりを歌う、熱きアフロの戦士達を!」
 おそらくは、サラサラ団もバイトの癖に動いてるのだろう。この異常状況の原因は、アフロンジャーか、あいつらか、それとも全く別の何かか。けど終わらせる、終わらせる! ばいばいありがとセンキューさよなら――

 アフロンジャー最終話。
 そして、

「新シリーズとして、マスクドアフライダーソードを放映するんやぁッ!」
「まだアフロやる気なんッ!?」
 個人的には終わらせたい。


◇◆◇


 のちにバラエテ異界アフロ事変として語り継がれるどころか完全保存版としてDVDで発売される事になるこの一件。主な登場人物は、異界の十人を除けば五人で、承知されてる通り役柄はアフロンジャーとサラサラ団。だが、比率は2対3で、冠であるアフロンジャー勢の方が数の力を手にしてない。
 よって今から紹介する人物がどちらなのかは、60%でサラサラ団の可能性が高く、そして数学者の目論見どおりそれは事実である。サラサラ団とはバイトの集まり、アフロを被ればアフロンジャーだが、サラサラ団の場合別段髪がサラサラで無くとも参加出来る。前回は天パが入った。それでいて老若男女問わぬ為、夏休みの時期にゃ殺到するバイトなのだ。だが、バイトの参加理由が金以外である者も僅かに、例えば青春の1ページをしたためる為や、青二才の社会勉強。だが、
 青の瞳、薄く髭。中央で分け柳のようにしだらせるのと、後ろで一つくくった黒髪や、上等の服と首周りのアクセでラフに包んだ良い体躯、清潔に整えた、外国の俳優を思わせる身なりのイメージ的に反して、寝床は公園や廃屋なくらい金銭面的にも確かに365日おけらなのもあるのだが、
 シオン・レ・ハイが参加した理由は、弁当がうまそうだったからである。
 けして体質を構成する40パーセントの優しさによる慈善活動では無い、そもそも優しさで出来てる云々は嘘だし。人間が持つ欲望、それも、時と場合によっては、少なくとも三日三晩公園の水のみで過ごしたシオンにとっては、金欲よりも優先される食欲によって。いや、チャーハン大盛りを食べた後でも、街頭テレビにノイズとして紛れ込んだGTVの放送を見て、高給の部分に引かれ参加したろうけど。
 ともかく、だ、「いただきます」
 午前中の活動、駅前でのサラサラ団勧誘のティッシュ配りを終えて、やっとの食事だ。目の前には、ブラウン管に写っていた物。竹の笹を皿にしたおにぎりが五つ、である。味噌汁は付かず沢庵が数切れ。大根の葉をちりめんじゃこと鰹節で、醤油を一回しして炒めたのを混ぜ込んだ物。生姜の薄切りと一緒に甘辛く煮たコンビーフを具、海苔で丸く巻いた物。ベーコンと白胡麻をフライパンで炒り、そこにご飯を投入し具をまぶしたのを握った物。少しばかりの玉葱の微塵切り、それとカレー粉で炒めた飯にサクっと揚げた鳥の唐揚げを具にした物。とどめは明快、白飯に塩、中にはでかい梅干一つな物。
 多種多様のおにぎりの一つ、早速行儀悪く手で掴み、大口を開けてかぶりつく。コメの甘みと具の合わせが口いっぱいに広がって、そこに烏龍茶を流し込めば、暫し時が止まる程のうまさだ。舌の上の幸福だけでなく喉で食らう快感に、思わずシオンはくはぁと呻いた。
 シオン・レ・ハイは美形の類だ。だが四十代の渋みと、内面的な魅力が、一種庶民的な仕草を見せるとなると、同じく昼食をとる者の視線を集めて、それに気付くとシオンは、「ずっとはらぺこだったもので」と答えるのである。声は供にしないが笑顔は広がる。
 和やかに、談笑する。付け合せの沢庵をポリポリ齧る。すっかりシオンがたいらげて、小食の女性から一つ譲り受けたおにぎりの変わりに、愛、バイトの時さえ一緒に居る、リボンを付けた垂れ耳兎をお披露目癒し光線を広がせている。
 こうしてティッシュ配りだけで、ブラボーな額がもらえるバイトを過ごしていたのだが、
 ――その時じゃった、シオン・レ・ハイの目に異常が、何? もう出番はないじゃと? まてカナエさんわしはまだ飯を食っては
 シオン・レ・ハイの青の瞳にとても異常な物が映ったのは。
「……空目でしょうか」
 空耳である、そんな日本語は無い。ともかく余りの異常っぷり、垂れ耳兎も不思議そうに赤の瞳に映して――
 冒頭からの流れに従って、異常はアフロという名前であった。
 不意に現れたモコモコパラダイス略してモコパラ。戸惑うのは見られてる者だけでなく、当人達。途端、昼食をとっていた者達は蛙よろしく大合唱で騒ぎ始めた。辺りを見回せば、バイトに関係ない者達ですら世界に一つだけのアフロを咲かせている。もしや、と思いシオンは己の頭に手をやった。悪い予感だ、そこにアフロの感触があるのは台本通りのような、
 だが、世界的にも珍しく悪い予感は外れた。昨日銭湯でキューティクルしたかいあって、サラサラの侭である。
 とはいえ、異常のが周囲で通常が一人の場合は、自分が異常となる訳だ。「これは一体」
 なんなんでしょうと、同じくアフロ化していない垂れ耳兎に手をやっていると、
「落ち着け、諸君」
 それは、男の、声だった。
 声に振り向けば。「諸君の愛すべき髪は死んだ、何故だ? ……アフロンジャーの所為だからさ」
 まるで最後のセリフを象徴するかのよう、男の衣服は何処かの赤き彗星っぽい軍服であった。一つ奇異なのは、その上から白衣を纏っている所か。本来ならば一番奇異とすべきは、シオンと同じく髪がアフロでなくサラサラである事であろうけど。
 知性的に眼鏡がきらりと光る。
「いいかお前ら! 今この異界中の人間が好きでもないアフロになってしまってる、それを止められるのは俺たちしかいねぇ!」
 身振り手振りを交えながら、人心を掌握していく演説を続ける男。ただし、台本片手である。
「闇ある所に光あり、悪ある所に正義あり、そして、アフロある所にサラサラありだ」
 ――この時点ですでにアフロンジャーが悪役という流れであるがそれに疑問を許させず
「この俺、サラサラZに従え! 今、俺達の手で全人類を」
 、
「サラサラヘアーにしてやるんだ!」
 喧騒が零、静寂に変わる。そうなってから、
 サラサラZと名乗った男と、シオン・レ・ハイの視線は衝突した。異常に囲まれた普通という異常、サラサラZは口を動かす。サラサラの心って奴か? と。二人の間には結構な距離があったから、会話は成立しなかったのだが。
 だが、こんな声がひらひらと、サラサラZに届いた。
 いきなり出てきて何言ってんだあの眼鏡は、とか。
 だいたいこの暑いのに二枚重ねで服着てるなんて、とか。
 全人類サラサラヘアーってアホでバカでマヌケで、とか。んとー、とりあえず、
「Zアイ。お前、給料をそんな事に使うな」「ああなんで誰にも話してない俺のトラウマ、アパートの部屋の中で流し素麺をしようとしてうっかり大洪水お越しちゃって近隣住民と大家にこっぴどく叱られた事を!? いやああぁッ!」
 説明しよう! 今一人の男が己のアフロを壁にべしばし叩きつけているのは、サラサラZの必殺技Zアイによって目を交わすだけで心を覗き込まれ、引き出してはいけない禁断の記憶に触れられたからであるッ! 日本語で叫べば読・心・術!
 人間は誰だって一つや二つ話せない過去を持ってる物だから、一転、総員ハラショーサラサラZウラーサラサラ団と声をあげた。「……いや、俺だって好きでやってる訳じゃねぇよ、だけど団長やるんだったら普通のバイトより金はずむって言われたから、事務所の部屋代の事もあるし、はともかくだ!」
 軍服と白衣を風ではためかせながら、「目標! 悪の巣窟GTV、敵! 憎きアフロンジャー!! 作戦? ――殴る!蹴る!ぶっ殺すだっ!」
 一般的な演説は、背に負う景色を感動的にして、ボディランゲージを多用する。サラサラZ、身振り手振りはしかっと決まっていて、そして背にはバラエテ異界の野球チームライガース優勝の胴上げを、街頭テレビで映していた。あの日俺達は熱かった。
 人心を掌握しやすく持っていったこの趣向は、サラサラZの技か?
「髪は長き友達、エターナルフレンドだってどっかのバンドが歌っただろ。確かにダサい歌だ。だが歌は生まれた! 世界に響き渡った歌だッ! それを絶やしていいのか? よくねぇだろ!何故ならそれは悲しい事だからな! 俺たちは何故生きている? 笑う為だ! 悲しみは何の為にある? 明日、笑う為だ!」
 熱い言葉を叫ぶ姿に、監督の胴上げシーンが重なった。男泣きしだす者、ついていけないがなんとなく、お、おーと反応する者。ともかく、サラサラZは強引に引き付ける。鳴り物入りで団長を務めるには、皆に認めさせるには、激流を作りそれに巻き込むしかない。
 そしてその目論見は、達成されたようだ。
「行くぜお前らッ!」
 最早勢い、それでアフロ髪のサラサラ団は湯沸し沸騰機、やがてサラサラZの名が木霊して、数分後には彼を先頭、怒涛の行進でTWO-TEN-KAKUに向かいだした。
 唯一人、
 誰一人すら、サラサラZのもう一つの目的に、気付けぬ侭。
 知ってるのは本人、にやりと笑ったつもり、が、目が飛び出るほどのバイト料の喜びが知らず知らずの内加算して、随分と満面である。こうして始動する事になるサラサラ団、が、
 唯一人、
 唯一人、その列に加わらなかった者が居た。演説中には手が止まっていて食べきってない、小食シの女性からもらいうけたおにぎりを、今しがた口に放り込んだシオン・レ・ハイだ。何故彼が停止してるのか、それは、
「……何だか、花が生けてみたくなりました」
 という一般人のアフロを見てのセリフから察しようにも察せられないので答えは番組の中盤で。


◇◆◇


 ダンス戦隊アフロンジャー

♪ 鳥だ! 飛行機だ! いや、アフロンジャーだ! HEY!

 アフロンジャー:相原和馬/五代真/鈴木恵
 サラサラ団:サラサラZ/シオン・レ・ハイ/and....

♪ 夢を見てたら おまんまが食えないぜ

 主題歌:アフロンジャーXP
 歌:五代真
 作詞作曲:カナエさん

♪ だけど アフロを見れば ミネラ「ちょっと待たんかい」

 ノリノリの歌を倒れるドミノに指挟む要領で止めたのは、
「なんだよ局長、人が気持ちよく歌ってんのに」
「……おのれには、いやおのれらには二つ程言いたい事がある」
「あれ、俺も入んの?」
 答えた人物の名前を発言の順番にならえば、五代真、鈴木恵、相原和馬、
「まずガタイのええにーちゃん、最終回はオープニングテーマ無し、その分も放送にあてる」「え、マジかよ?」
 答えた人物の容姿を発言の順番にならえば、バンダナを額に締めた良い体躯の青年、女子高生服に白のスタッフジャンバーをマントのように羽織ったの、健康的な小麦色の肌に黒いスーツを重ねる男、
「人が折角イロモノ戦隊の為に歌ってやったのによ」「そのイロモノ番組に皆勤賞なんはどこの誰やねん」「いや、折角だし」
 答えた人物の職業を発言の順番にならえば、便利屋、局長、フリーター、
「いやまぁそれはええわい、んな事よりうちが問題にしたいのはや、なんでまた」
 答えた人物の、
「うちがアフロンジャーに参加しとるんやと」
「え、だって恵ちゃんアフロになってやる気まんまんじゃん」「ちゃうわぁ!」
 アフロを発言の順番にならえば、ブルーでウール100パーセント、ピンクで地毛、イエローで毛糸である。
「しかも最終回だから、1ランク上の毛糸でこさえてきたぜッ」「聞いてへんわんな事! それよりもや、だからなんでうちを参加させるんッ!? おのれらの出番食う事になるのに!」
「まぁあれだ、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら巻き込んどけって」
 アフロンジャーの基本理念とはいえ、物凄いはた迷惑な考えに、ピーギャー騒ぐ局長であるが、それにすら巻き込まれなかった一匹の少年が居た事を記しておく。出番終了。
「ともかくだ恵ちゃん、じゃなかったピンク、それにブルー」
 そう言って顔つきを真面目にするイエロー、ただしアフロだ。
「正直残念なんだけどさ、アフロンジャーが最終回って。一番初めから出てたのもあるし。ま、そりゃいつかは終わりが来る物だけど」
「そういや、俺とあんただけだな。アフロンジャーで残っているの。新しい参加者みんな悪役やってしなぁ」
 正直、俺もそっちの方がいいしと本音を零してアフロを揺らす。
「新しい参加者って言えば、さっき五代君が歌ってる時、このモニター」そう言って、自分達の居る控え室に備え付けられているモニターを指差すイエロー。「サラサラ団の登場人物の中に、サラサラZって名前無かった? あれ本名なの恵ちゃん?」
 そう聞けば、いや本名バレは恐るべきと抜かしたから役名で乗っけてると。前回にもそういう人居たが、この異界に来てる事態で恥は捨てた方が良いと思う。
「ともかくアフロンジャー、色々世話になった部分もあるからさ、見事立派な最終回にして」
 、
「何事も無かったように第二部開始しようぜ!」「いや、今やってるこれの題名アフロンジャー《セカンド》やねんけど」
 そう突っ込んだ時に不意に警報が鳴った。アナウンサーの声がスピーカーから流れて、臨時ニュースがお伝えされた。
 サラサラ団一派、TWO-TEN-KAKUに突入するの巻。


◇◆◇

【 帰ってきたアフロンジャー 最終話 】
 終結×集結×終決! さよならホームランアフロンジャー!

 下界の喧騒等我関せずとばかり。
 TWO-TEN-KAKUの頂上に、それも外の部分に、つまり建物の屋根にあたる部分に、一人の青年が居る。
 高いとこ、昇りたがるは愚か者と言う。しかし、彼は愚か者か?
 否、真の愚か者なら錯乱して高笑いの一つでもしてる所だ。だがその影は黒いマントを大鷲の羽根のようにはためかせながら、開口して、「はぁっはっはっはっはぁ!!!」あ、高笑いした。
 しかし皆様、これだけで彼を愚か者ってかバカと決め付けるのはいかがなものか。真のバカな誰も居ないというのに大声で自己紹介するはずも無く、「うわぁたしはッ!」し始めた。
「うぅ私の正体はぁ、サラサラ団のうぅらのボォスゥ! サラサラあぁッ! 将軍なりぃ!!」
 特殊効果、エコーかかりすぎの声で言い切ると、再び高笑いし始めた。蝉の声すらひるむ程の大音量の主、自称はサラサラ将軍であるが、ぶっちゃけてしまえばバラエテ異界の常連アイン・ダーウンであった。東南アジア出身のサイボーグ、前回のアフロンジャーにも参加して、天然パーマの癖にサラサラ団として参加した。そして、彼の登場シーンを其の侭受け取れば、今回もサラサラ団が陣営らしい。
 謎の男、サラサラZがボスであり、そしてアインは己がその影にある裏のボスと自称した。実際かなりの悪なのだろう、それは、普段はひょうひょうとしてる癖に時折、人さえ殺しかねぬ、実際そうてきたのかもしれない、顔を見せる事からもうかがえる。
 人を知る前に己を知ってこその人生だと誰かは言った、それならば、アイン・ダーウンの選択はその格言を実行しているのか――
 結論から言えばこのボタンマニアの原理がそこまで深くは無く、
「やっぱぁぁ悪役でしたらぁ使い道の解らない鞭は必須でぇぇぇ」
 君も明日からデビルになれる、悪役的小道具を使いたかったらしい。TWO-TEN-KAKUという高層建築物のてっぺんという危険度高めの場所で、鼻歌まじりにグッズを選ぶアイン・ダーウン。その鼻歌さえ特殊効果でエコーがかかって耳が抗議を申し立てる。
 流石に自分でもうっとしくなってきたのか、エリに付けられたピンマイクを外すアイン。それからまた小道具を弄り始めるアイン。しかし、アインという男が進んで悪役を、人から蔑まれる役所を選んだのは、果たしてその為だけだろうか? 爽やかな笑みを浮かべながら類稀なる努力と類稀なる奇跡によって製造された巨大化光線銃を適当に撃ってかKANI-DO-RAKUの看板を倍率ドン更に倍にする為だけに?
 男が悪の道を選ぶには、それ相応の理由が存在する。さながら、水鉄砲のように内幕って、アフロで揺れる異界を更に混乱させているアイン・ダーウンの下に、
 もう一つの目的が、ヘリコプターでやってきて、GTVのロゴが腹にあり――
 アインさーん、ご注文の人達連れてきましたけどー、ってそれはよりどりみどりの綺麗なおねーちゃんで、ええと、
 なんか、綺麗なちゃんねーをはべらせたかったらしい。
「それじゃドンチャンやりましょー」
 ……男が悪の道を敢えて選ぶのは、それなりの対価を求めているのである。こんな目的だと知ったら恩人が七回泣きそうだけど。


◇◆◇


「イエローさんッ! 第7スタジオを占拠されました、料理番組の食材を根こそぎやられています!」
「ブルーさん! GTVの水泳場も占拠っ! 無理やりポロリを要求しています、受け入れましょう!」
 なんで局長を頼らへんでそこのアフロに声かけんねん! という声をGTVスタッフが聞き流すのは、単にこの二人の方が頼りがいがあるからである。てか局長もアフロだし。
 そしてここは異界全体を見渡せる、GTV中枢、モニター室であった。だがブラウン管が映し出すのは今は局内だけだ、灯台の下を暗くしている事態では無い。
 さながら彼等はイナゴの大群か、サラサラ団はやりたい放題、で。暴動の一場面を眺めながら、アフロブルー、煙草を吸う。ラッキーストライク。
 煙、ふかす。「悪役に憧れていたけどよ、気変わるなこんなの見ちゃ」
「人は流石に殺してないけど、ちょっとやりすぎ?」
「アフロンジャーっつうより、便利屋として動くか」
「俺も一応何でも屋だしね、それに、恵ちゃんにはお世話になってるし」
 それに、第二部を待っている子供達の為にも、そうイエローは言った。
 いや、あらゆる意味でお子様向けじゃないって、そうブルーは言った。
 二人の頭にアフロはあった、そして心にアフロはあった。アフロとは、世界が選択した物。世界の欠片、法則は無い。
 ならば決断するのは彼等だと、高峰のアフロ倫というおそらくほとんどの視聴者が覚えていない伏線を適当に消化して、
「最終回だ気合いれろよッ!」
「OK、そして第二部開始だっ! 行くぜ恵ちゃん!」
「いや結局うち巻き込むんかい!? せやから第二部はあらへん、てぇッ!?」
 その時アフロンジャーは落下した、床のある部屋で落下した。
 アフロンジャーの誰かが床を切断したのだ、その技を持つ者は、

 ―――、

 GTV第2スタジオ、コント番組収録場という地の利をいかし、サラサラ団はタライを落とし、パイを投げ、水をかぶる。どちらかというとテレビ局を取材に来て興奮している小学生達の行動だが。
 だが、縦横無尽に対して、
 雷が落ちる。
 否、それは衝撃である。落下物が床を揺らした現象である。
 だがサラサラ団は静止する、それが巨大なタライであれば、撤収的なBGMを誰かが流したであろう。だが落ちてきたのは人であった、三つの影、三人だった。
 つまりそれは、サラサラZが待っていた者達。「来たか」
 白衣を羽織った軍服が、視線を向ければ、彼等、

「夢と希望が消えたとしても」アフロブルーッ!
「アフロの輝き忘れない」アフロイエローッ!
「……今ここに、それを示さん、やったっけ?」アフロピンクッ!
 一人やる気の無い奴居るが、集結したるは最強の戦士ッ! 青のアフロを被る者、
「踊る阿呆に見る阿呆! 同じ阿呆なら踊らなきゃそんそん!!」
 黄のアフロを被る者!
「踊れ、君は美しい!」
 時を隔ててここに終幕、今、全てに決着をつける!
「「ダンス戦隊アフロンジャーっ!」」「……ジャー」
 ドッカアァァァァッァッァウ!

 背後の民家セットが爆発した、屋内で火事が起きたので消火活動が始まった。だが、それに気を止めないのはアフロンジャー、そして、この男、
「お前等の所に乗り込もうとしてたが」
 、
「わざわざ来てくれるとは思わなかったぜ」
「こっちもさ、サラサラ団のリーダーがおでましとは」
 だよな恵ちゃんと、情報を確認するイエロー。本人はとっくにサボリモードに入ってるが。
「ま、最後の決戦だ。細かい事は抜きにしようぜ? ――世界はサラサラヘアーに包まれる、それでハッピーエンド、異議無しだろ?」
「許すかよ」
 アフロブルー、一歩前へ。
「仮にそうするとしてもやり方があんだろ? 人様の家に土足で上がりこんで」
「いや台本にそう、じゃなかった。何時までもアフロの温所を放置してる訳にはいかねぇだろ? アフロブルー、」
「俺の名を知ってるのか? そうか、だが俺もお前の名を知ってる、墓標に名を刻む為にな」
「ならば、言ってみるがいいぜアフロンジャーッ!! この俺の名を、世界を制覇する俺の名をなぁっ!」
 余りにも強い気迫、一瞬の怯み、だが踏みとどまる、口を開ける、ブルーは、戦うっ!
 その相手の名前を、今、叫ぶ、
「門屋将太郎ッ! この俺の怒りが今」「ちょっと待てえぇぇぇッ!?」
 今までの悪役演技モード解除、「いやちょっと待てアフロブルー、つうか、真! 何人の名前をばらしんてんだ!」
「……いや、俺の方がびっくりしてるんだけど将太郎さん。そんなに金困ってんの?」
 このやりとりから察せられる通り、アフロンジャーの皮剥げば、五代真と門屋将太郎を、門屋将太郎は五代真を知っている
 長い事明らかの逆だったけど、サラサラZの役者は門屋将太郎と言う。職業、臨床心理士、ひらたく言えばカウンセラー。個人で事務所を構えているが、悲しいかな、夏なのに、蝉よりも鳴く閑古鳥。おかげで門屋の事務所は家賃滞納の危機に瀕している。
 だから飛びつかなければならなかったのだ、サラサラ団の団長役というべらぼうな額が支給されるバイト。という訳で、
「とりあえず今はアフロンジャーだろ? お前さ、いきなり本名呼ぶなよ。確かに台本アドリブでって指示の部分が多かったけど、最低限のルールは守れって」
「いやぶっちゃけ、台本とか関係無い気がすっけど、ルール無用だろ」
 いや、まー、とーもーかーくー、
「仕掛けさせてもらうぜサラサラZ!」「最初からそう呼べ」
 とりあえず素で突っ込んでから、もう一度、役者モードに入り、「何する気だ!? お前、まさか、それは」
「ご名答」不適に笑うアフロブルー、それは、
 彼の手には武器がある。最強と最強による矛盾すら切断する、究極の剣、
 右腕より招かれた刃、その名!
「「「「「「「「「「アフロソードッ!」」」」」」」」」」
「退魔宝刀《泰山』》って言ってんだろ!? つうか、なんでこの場にいる奴全員で言うんだよ!?」
「いやまぁ、アフロンジャーのお約束みたいなもんやし」
 おそらく子供達もテレビの前で言ってるだろうと、消火を終えた民家のセットでくつろいでるアフロピンクが答えた時、サラサラZは指示をする。作戦、蹴れ、殴れ、「ぶっ殺せッ!」
 一人目はまず、襲い掛かった瞬間にやられた。壁に投げたボールのように跳ね返される。二人目は後ろから、これは振り返るだけで、三人目と四人目は同時、正面に向きなおすついでだった。なお特撮なので血は出ないが火花が出てる。
 肉弾戦はアフロブルーの独壇場であった、折角新調した黄色のアフロも立場を無くし、アフロピンクと供に民家のセットで茶をすすった。片方の陣営はのんびりと闘いを眺め、
 もう片方の陣営、いや、サラサラZはひるむ。ここから先は台本に書かれてない道の領域、勝つか負けるか、それすら決まってない。だが、
 だからこそ、負けられないのだ。今ここで勝利せねばサラサラZのもう一つの目的が、いや、真の目的が頓挫する。
 世界人類をサラサラヘアーにする計画にもう一つの付加、それは。
「全人類に、着流しを。そしてその上から白衣をな」
「いやですよ団長そんな変な格好誰もやりたが」「Zアイ」「ぎゃーかーちゃんごめん! 謝るから、エロ本を机の上におかないでーっ!」
 普段は軍服に白衣じゃなくて、着流しに白衣なので、臨床心理士はたいそう怒ったそうじゃ。


◇◆◇


 その頃サラサラ団の裏のボス、サラサラ将軍であるアイン・ダーウンは、
「もうアーくんったらぁ、お姉さん達の言う事は聞かないといけないぞ?」
「そそ、だからもう一杯、ほらぁ」
「いやぁ、そのぉ、」
 アフロ化してないおねーさん達に可愛がられていた。
 幾度と無く繰り返したが、場所はTWO-TEN-KAKUの頂上付近。展望台らしき部分の上。天気は無風快晴とは言え、文字通り崖っぷちで酒池肉林と洒落込んでるのだ。神経が太いのか、何処か抜けているのか。ともかくアイン・ダーウンは、悪の幹部らしく、大人のお店から出張してもらった、綺麗なねーちゃんはべらしてご満悦、だけど、
「あ、またヘリコ来たー。店からのボトルとフルーツ追加ねぇ」
「うわぁヒロミさん、俺、もう飲めませんって」
「何言ってんの、まだまだ若いんだから。だって肌だってこんなにスベスベだしぃ」「ちょっと、そこはぁ」
 悪の幹部はお姉さん達に囲まれて鼻を伸ばさないと思う今日この頃いかがお過ごしなのか。まぁこの状態でのアインの悪っぽい所と言ったら、
「ねぇね、結構凄い額言っちゃってるわよ? アーくんだから特別に注意するけど、お金あるの?」
「あはは大丈夫ですよー、全部GTVで落ちますからー」
 である。悪である。生まれついての悪である。どす黒い悪っぷりに、回りのお姉様達はキャーと盛り上がり、またヘリコに配達を頼んだ。彼女達のサービスは盛り上がる。こうやってアイン・ダーウン、心酔いしれるまで悪役家業を楽しんでたが、
 ふと、双眼鏡を覗いてるお姉さん。「ちょ、ちょっとアー君見てみて!」
 はてさてなんですかーと、乞われる侭に双眼鏡を受け取り、そして器具に目をあてる動作にして一秒にも満たない間にセリフ、「変な人が向かってきてるわ!」
 それは、変な人というより、光景と言った方が的確だ。
 人物に変異という物は感じられない、なにせ今異界を覆っている総員アフロ化現象にすら犯されていない、真の通常である。なによりあの身なり、寧ろ容姿、残念ながらアインも負ける素晴らしさ。
 だが、それよりも心を奪われたのは光景だった、いや正確には動作である、その男から繰り出される行いである。なにせその男は走りながら、周囲を埋め尽くすアフロの群れを、
 一つずつ、芸術の高みへと誘っているから。
 何処からか調達したのか、男は陸上選手のように疾走しながらも、ダンスのように数々のアフロに近づき、――お花を差した。
 それは一輪の薔薇であり、満開の向日葵であり、季節外れのチューリップだった。どのように携えてるかは気にしてはいけない事だが、生ける花、彩り豊かなアフロのそれぞれに見合った完璧なセレクション。男が作り出したその光景は、春風が枯れた大地に実りを運んできたが如く。
 だいたいそれが500メートルは続いた頃だろうか、双眼鏡の向こうの男は口を大きく開いている。
 アイン・ダーウンが男の傍に居れば、この言葉を聞いたのだ。
「胸に溢れるこの感動ッ! 伝えたい私の中の世界!」
 、
「なんだか芸術に目覚めてきましたっ!」
 口調から解る通りこの男はシオン・レ・ハイ、だが、それは今の経過に関係ない。この世に落とされるのは行動で、それこそが人々が目撃するものだから。彼の、おにぎりのうまさに感動した男の次なる行動は、鋏だった。
 それも一体何処から持ってきたのも気にしてはいけない事、事なんだってば! だが、シオン・レ・ハイは走る走る、すると当然景色は変わり、まだ見ぬアフロにでくわした。
 それはかまくらのように大きなアフロ、乗せた人物も、重さで首が回らぬようで。格好の素材だった。
 シオン・レ・ハイはそのアフロの前まで走り幅跳びよろしく跳躍し、そして、まるで踊りの相手を務めるように、アフロに鋏を、鋏をアフロに、
 十秒もすれば完了する。
 シオン・レ・ハイ作、【アフロ機関車】
 今にも走り出そうな力強さ、無骨な造形だからこそ生まれる親しみ。噴出す煙すら再現して、いざ目指すは銀河鉄道。
 余りの出来の素晴らしさに、回りの観衆アフロは拍手を打ち鳴らす。戸惑うのはアフロが見れぬ当人である。だがシオン・レ・ハイ、その祝辞を受け取る事無く、次のアフロに手をかける、もっとアフロをっ!「プードルにしてみました!」もっとアフロをっ!「手芸の要領で編んでみました!」アフロをぉッ!「現代社会の縮図を表現ですっ!」
 次々とアフロに戦いを挑むシオン・レ・ハイ、やがてその足取りはGTVの玄関、つまりアイン・ダーウンの足元に。今までその業の数々を双眼鏡でかわりばんこに見つめていたおねーちゃん達は、GTVまで侵入して来るのかと予想したが、そこで、思わぬ乱入なのか、予想すべき事態なのか、
「待て待てぃ! この先はサラサラ団の領土、一般人は立ち入り禁止だッ!」
 もともと番組出演に憧れてバイトに参加したサラサラ団の一人。演技に入れ込んでいる。サッカーで言えばフリーキックも叩き落す壁だ、バスケならばゴリラディフェンスだ。左右勿論、下からすり抜ける事もかなわじと。
 ならば上、ヒゲの配管工よろしく栗や亀を踏みつける通り、そのアフロをジャンプ台にしようとシオンは飛ぶ。だが、サラサラ団のバイトはそれを狙っていたのかにやりと笑い、懐からビンを取り出してそれを己の頭にぶちまけた
 刹那。「え? ……ッ!」
 シオンの目前は毛の密林ッ! 馬鹿な、相手も合わせてジャンプしたというのか? それならばその上に行くまでと、茹で卵のようにニュートンをないがしろにして、更に高く。だがアフロは追いついてくる、シオンの目の前に迫る。
 一体これは、答えは第三者であるアインとねーちゃんが知っていた。
「アフロが、」
 、
「積み重なっている」
 ――さながらアイスを重ねるように
 毛生え薬の効果なのか、ぽこぽこと生まれ続けるアフロッ! 問題なのは何故普通に膨らまずに期間限定トリプルよりも感動、つまり、落ちゲーのように積まれていく事だが、文句のある奴はここから出て行けと、イギリスの超人は言うだろう。
 そう、愚痴を言う前にすべきなのは、努力よりも夢を持つ事よりも優先すべきなのは、具体的な行動なのだ。その選択をシオンは、本能に委ねた。アフロアイスで行く手を塞がれているこの状況、どう決断する?
 シオン・レ・ハイ、「格好の、素材です」
 すでに二階分の距離は開いた真下から、疑問の音がしても。
 シオンはけして止まらない。瞬間、
 鋏がアフロを彩り始める、「何ぃぃぃぃぃッ!」
 そう、シオン・レ・ハイは、アフロよりも至高の髪形を追求する事を、けしてやめていなかった。ミケランジェロの魂に匹敵する何かが、彼の身体に駆け巡っていた。芸術が、爆発で。
 筍を凌駕、天貫かんばかりに伸び続けるアフロ、それに掴まりながら、踏み場にしながら、繰り返す跳躍と跳躍の狭間に鋏を振るって、だんだん、駆け上がる、だんだん、
 アイン・ダーウンの場所へと近づいて――
 、
 達した。

 その時には、胴はトーテムポール、中腹に鳥の巣、苦しむ男も埋め込まれた、
 頂点はキリンの頭という、
 異世界のオブジェは完成して、
 増大した重さにより、芸術アフロ、巨人の剣のように倒れる。

 バラエテ異界の有名通りNEW-WORLD、大迷惑。だが上と下では世界が違って、特に上、前を見て生きる者には下とは関われず、
 ゆえにここで対峙するのはキリンの頭を踏み台にしたシオンと、呆然とするねーちゃんの中心で、不適に笑いながら黒いマントをはためかすアイン・ダーウン。二人が遭遇する。点と点は線となるが、再び点に戻ろうと、何故近づくかは鋏が知っていた。鋏はアフロを求めていた、芸術に終わりは無い事を知っていた、だから、再び、永遠の再び、
 刈らせてください、と、無言で伝えながらシオンの手は伸びて、
「俺、」
 アイン、
「アフロじゃなくて天パですよ」
 誤解が解凍され凍結する結実の実現。
 シオン・レ・ハイの鋏は、平和を願うハンドシグナルで固定された。刃先、危ないのでアイン一歩引く。シオン、危ないので鋏を納める。
「ああこれは失礼しました、つい夢中になってしまって」
 あれだけ行動がステレンキョウでも、礼節はきちんと弁えている様で。紳士的な態度に、アインは表の顔の笑みを返す。すると、間も無くだった。
「それじゃたくさん遊んだ事だし、そろそろ行きますか?」
 質問、綺麗なお姉さんが先ですか? そうです。「えーアー君もう終わりぃ? これからどっか繰り出さないの」
「す、すいません、やる事があるので」
「そんな事言わないでぇ、ほら、そこの渋めのお・じ・さ・ま・も」
「わ、私もですか?」
 百戦錬磨の水商売テクニック、しかも客すら極上なのだから、彼女達の手はなかなかにやまず。しかし、なんとか振り切るサラサラ将軍アイン・ダーウン。取り出したるは悪役にとっての魅力的なアイテム、なんか小さな銀色の箱にぴょこりと赤いボタンがついてるの。ボタンマニアもご推薦だ。という訳で、ポチっとな。
 さて、その効果が出る前に、シオンは思った。
「良く考えれば私、ついていく必要があるんでしょうか?」
 ああ世界はなんて無常なんだろう、一人の男の叫びさえ、露のように無視するのだから。という訳で、
 足元がパカっと開いて落下する二人。その過程においてシオンはあんぎゃーと叫ぶのだが、アイン・ダーウン、
 まとっていた黒マント、脱ぎ去っていく。

 所変わってモニター室――
「てかアフロブルーさん何床に穴開けてるんすかねぇADの加藤さん」
「アフロソードでこう丸っと、どこの三世の一味ですかってもんですなぁディレクターの佐藤さん。まぁこうやってベニヤ板で補修して」
 バリッ!
「ゲゲェーーーッ! 突如上から落ちてきた謎の二人組みでまたもや穴が!?」
「というかベニヤ板って強度弱いよ!」
 ――所終わったモニター室

 そして、着地した。
 その時の音は、アイン、猫のように身体を柔らかく使ったおかげか、シオン、運よく民家のセットの藁葺き屋根がクッションになったおかげか、アフロンジャーが降臨した時より小さかった。だから、気付いてる者は少なく、変わらずにアフロブルーとサラサラZ率いる集団の戦闘は継続されて。
 しかし、着地したアインを視覚に入れた者は、転移。一番影響が大きいのはアフロンジャー、「アイン君?」
 まずそう声かけたイエローと、そして、何より、
「な、なんやおのれ、んなキテレツな格好して」
 ピンクが突っ込むとおり、アインのマントの下は奇異であった。だがそれをなんと呼ぶかは解る。占い師だ。中世の魔法使いが着こなすようなローブ、そして怪しげな水晶球。偽物の占い師、つまりは詐欺師、
 だが、アインは至極普通に、こう言ってのける。
「恵さん、」
 、
「貴方が犯人です」
 面食らうピンクのアフロに、屋根から下りたシオンはとりあえずオジギソウを生けた。

 ―――ダンス戦隊アフロンジャー!


◇◆◇


 毛糸も新品アフロイエロー。
「………」
 ずずー。
「……茶、うまいね」
 子供も喜ぶアフロンジャー緑茶。定価1200円。
 今なら購買意欲が達成された満足感がついてくる。


◇◆◇


 さりげに宣伝をこなしてる横で、
「どさくさに紛れて何やっとるんやおのれは!?」
 頭を飾るオジギソウのお礼、スパコーンとハリセンを見舞う恵。16歳に殴られる42歳、ちょっとメランコリー。だがそれは倉庫の隅にでも安置しておくべきで、
「て、てか藪から棒になんやねんサイボーグのにーちゃん! う、うちが犯人って、なんの事」
「ぅわぁたしはぁ! サラサラ団の裏のボスゥゥ、サラサラ将軍なりぃぃぃっ!」
 脈絡も無く突如エコー利かせて叫んだものだから、ブルーとサラサラZ達の戦闘が、一時停止。「う、裏のボス? 聞いてねぇぞ俺は!」「まぁアフロンジャーだからなぁ」
 皆勤賞が初参加者に、的確に答えて。さて、アイン・ダーウン、
「そう言う訳で俺は知っているんですよ、何故バラエテ異界が総アフロ化してるのか」
 いきなりに、確信に触れようとするものだから、一時停止は解除されたが、戦闘は続行されず、喧騒が広がっている。偽者の占い師は、まるでそれを見渡すようにくるりと回って、
「アフロンジャーが犯人と、門屋さんは言ってましたけど」「だからサラサラZだ」
「それは結果的にそうなったと言った方が正しいですね」
 眼鏡を中指であげながら聞く、どういう事だ?
「恵局長はアフロンジャーにならなくても、この計画を実行したはずです。だってしなきゃならない理由があるんですから」
 その言葉に、鈴木恵の顔に汗。詐欺師の言う事が真実だったのか。
 アインはその時、消えた。音速の五倍が発動したのだ。辺りが小鳥のように首を動かしてるのを、きっと何処からかみつめてから、
 詐欺師という偽りを語る者から、
「恵局長、貴方はバラエテ異界をアフロ化しなきゃなりませんでした」
 真実を示す探偵の姿に着替えて、再降臨して、
 今、パイプをくゆらせながら。
「これの為に!」
 右手の写真を、正拳突きのように前へ。
 ……沈黙、硬直、暫し、それから、
「これって」
 イエロー、
「捌ききれなかったアフロンジャーグッズ?」
 イエローには見覚えがあった、誇りを被った品々に。アフロンジャー抱き枕にアフロンジャーシャンプーやアフロンジャー昆布、全て、恵局長オリジナルのアフログッズである。しかし、売れなかった。アフロンジャーの低迷もあって売れなかったというより、根本的に商品として問題があった。
 証拠品を突きつけられて、被告人、鈴木恵。
「……ふふふ、ははは、はあぁぁっはっはっは!」
 その声にはエコーがかかってる、まさに、悪の証ッ!
「バレてしもうたら仕方が無い、その通りやサイボーグっ! うちこそが、今回のアフロ百花繚乱の仕掛け人!! 全てはうちのお小遣いの為!」
「いや、どうやったかは聞いてもわからねぇだろうからいいけど、売れねぇだろ」
 至極まともに突っ込むサラサラZに、局長はやかましぃ! と手をブンブン振った。そんな風に憤る彼女の頭を、ぽんぽんと叩くイエロー。
「なんだ恵ちゃーん、なんだかんだいってアフロンジャーの事考えてるじゃん」
「いや、単にうちは限定百個の等身大サイズマッチョ像が欲しいだけやけど」「百個も作るのかよ」
 今の突っ込みはブルーである、口調がちょっと似てるけど勘違いしてはいけない。
「せやけど、せやけどなぁ! この番組はアフロンジャー、それにおいてサラサラ団は悪! つまり勝者こそが正義やねん、文句あっかッ!!」
 悪い人である、普通に悪い人である。あらゆる機関に訴えられそうである。だがバラエテ異界においては、この流れるノリに逆らうのは賢くないと、サラサラZの門屋も流石に気付いて。
「もういい、ともかくお前らを倒せば、異界のアフロは消えるんだな?」
 ならば大儀は我にありと、今度は目標をブルーだけでなく、アフロンジャー全てに。が、
 ああ大丈夫、あと一時間もせんうちにアフロやなくなるし、と。
 いや一度聞かないと言ったけどそれどういうメカニズムなんだ、って。
「ってバイトのお前ら帰るなって!? いや、帰りたくなるのは当たり前だけどな! 俺のバイト代が」
 どうやら負けると代金帳消しらしいサラサラZは必死で引きとめたが、彼等はさよならメドレーを合唱しながら異界や別の異界や異界の外への帰路へと旅立ち、
「Zアイ」「きゃーカエルがっ!」「きゃーミミズがっ!」「きゃーアメンボがっ!」
 全員、戦闘復帰。
「ははは、サラサラZさんは極悪ですねー」ならなんで笑っているんだあんた。
 戦いに終わりは許されないのか、ひたすら巻き戻し、そして再生される戦闘風景。
「く、これじゃラチがあかねぇ!」
 いくらアフロブルーが番組的に正義であっても、もともとは唯のバイトであるサラサラ団を相手するのは難しい。つまり、手加減が難しいのだ。全力を出せたら滞りないだろうが、とてもお子様には見せられない画になる。だがこうも膠着が続いては、
 突然であるが、アフロブルーの役割は戦闘ではある。
 ならば縁側で茶をすすっていたイエローの役割は?「そろそろかな」
 そう言ってイエローは、一体誰の仕業なのか人類の進化を表した形になったアフロを揺らして、「って青い目のおっさんあんた美容師?」「いえ、唯のびんぼーにんです」
 突然だった。
 余りにも突然過ぎて、ブルーは何も反応出来なかった。それは彼を囲んでいたサラサラ団も。
 突然に、ブルーの首根っこを引っ張ってイエローは走り、
 窓ガラスを割って、飛び降りた。
 何故スタジオに一面張りの窓ガラスがあるのか、しかも高層なのに丈夫に作られてないのかはともかく、餅も喉につまるこの事態、全員が窓に駆け寄っていく。
(だが、しかし)
 。
 それが、屋内に居る者達の瞳に映った。
 それは余りに巨大だった、無条件で平伏すくらい、巨大だった。
 それでいて何かが溢れている、神を信じぬ者でさえ、何か奇跡を待っている。海のように暖かく、海のように勇ましく、海のように、
 ああ我々はここから来たのか、そして、ここへ帰るのか?
 そんな詩がきっと生まれるであろう、その正体は、「超合金」

「アフロロボ」

 アフロロボDXセットで、8000円で販売されている。勿論それは縮小サイズ。だが、これは等身大だ。島の守り神の大樹の役割。
 今ここに、バラエテ異界を守護する為。「行くぜアフロブルーッ! このアフロブルーの活躍で、グッズの在庫も全部処分だ!」
「……ま、それはいいんだけどよ、一つ聞いていいっすか?」
「何、恵ちゃんを乗らせなかった事?」
 いや、ロボを動かす操縦席ってありますよね? 貴方の場合もしっかりと、ごちゃごちゃ色々な計器がついてるけど、ハンドル一つで動かせそうな奴ですが。
「なんで俺の席はマイクとモニターと、ミラーボールしかないんだ?」
「だって、五代君歌うまいじゃん」
 俺に歌えって言うんすか! と突っ込んだが、その声もマイクを握って言ってるのだから、やる気は満タンらしくて。だがアフロロボにサラサラ団の対決は、例えるなら巨象に蟻だ。いくらアフロンジャーが正義とはいえ、これでは弱い者虐めじゃないかと、
 抗議と、解決策が、TWO-TEN-KAKUの彼方から飛来した。
「な、なんやあれ?」「鳥でしょうか」
 取り残されたアフロンジャーとサラサラ団が、特に喧嘩する訳でも無く、二人揃って指差した物が、近づいてくる、造形がはっきりしてきて、まるでそれは人のようだ、だがそれは人では無い、人にしては――
「でかっ!?」すぎる、それは、

 黄金の線を頭部から、白滝のように靡かせる。
 無骨なアフロロボとは対照的な、スタイリッシュなフォルム。もしも、アフロロボをスーパー系と呼ぶのならば、
 それはリアル系? 色が赤いのは搭乗者の所為? 三倍なのも搭乗者の所為?
 全ての答えは今よりに――
 サラサラロボ、ここに推参。

「あいつら、あんな物用意してやがったのかよ」
「ま、最終回だから一騎打ちっていうのもいいじゃん」
『そうそう、イエローさんがそう言ってくれたおかげで』
 突然モニターから声が響いた、アインの声だ。どうやら通信機能がお互いのロボに備わってるらしい。ていうか、「イエローが言ったって、まさか」
『そうですよ、イエローさんが企画段階で、サラサラロボ用意したらおもしろくない? って局長に言ったらしくて。おかげで俺ロボットに乗れて』「イエロォォォッ!?」
 マイクで増幅されるブルーの突っ込み。「何敵に戦力与えてんすかあんた!」
「だってその方が盛り上がるしさ、よし、これでアフログッズも売れるッ!」
 駄目だ、この人すっかりアフロの心だ。まぁ、アフロンジャーの基本理念、同じ阿呆なら踊っとけ、

♪ 銀河一番 カステラ二番

 そしたとりあえず歌っとけと、ブルー、なかばやけっぱちに――

♪ その名は 超合金! アフローロボッ!

 人生! 僕らのアフロロボ!
 作詞作曲:カナエさん♂
 歌:五代真

 BGMが流れ出すと、イエロー、音楽に同調しながら先手をしかける。「アフロパンチ!」
 単純に明快な攻撃が、サラサラロボを撃破しようと。しかし、サラサラロボには機動力、紙一重のタイミングで書くし、零距離で銃を放った。

♪ 午前二時の踏み切りに アフロを仕掛けて怒られた

 衝撃で揺れるコクピット、モニターから通信が流れる。映ったのはアインでなく、サラサラZ、
『素直に降伏しやがれ、アフロロボ。俺のバイト代の為にもな』
「こっちもアフロンジャーの続編がかかってるからさ、そういう訳にはいかないって」
『旧式が』
 モニターがプチリと切れると、サラサラロボの金の長髪が、アフロロボの四肢を縛り付ける! 髪の毛を切り離し距離を置いた。場面変更、サラサラロボコクピット内、
「サラサラ将軍、バスターのエネルギーは?」
「100パーセント充填してます、120パーセントまでいっておきますか?」
「爆発しそうだから早く放て」

♪ だけど僕らはくじけずに アフロとYシャツと私なの

「危なっ!」
 アフロロボが危ないからでなく、GTVが危ないから叫んだ見学者のアフロピンク、なにせサラサラロボから放たれた攻撃は、辺り一帯を焼き尽くさんばかりの光線。アフロロボが避けたら一巻の終わりだ。「当たれー! 避けるなやぁッ!」
 シオンが他のサラサラ団のアフロを、ティッシュ箱が納まるようにこしらえていた時、アフロロボに着弾、しかし、
 伊達じゃない、アフロで跳ね返す。

 語り、「覚えていてくれ、夕日が赤いのは――俺がお前のために戦ったからって」

 合気道よりも強力に、攻撃は自分に返ってくる。回避活動を取る赤い軍服に白衣を纏ったサラサラZ、だがしかし、サラサラの髪が焦げる。
「損傷部分を切り離しますね」
 アインがそう言って、さっきと同じく髪の毛を抜いた。だがこれでストックは切れた、次にサラサラヘアーを攻撃されれば、ハゲだ。別に髪が無くても動くのだが、サラサラロボがロボになってはクリープの無いコーヒーだ。うかつに動けないサラサラロボに、
 容赦なく向かってくるのはアフロロボ、その手には、剣!
「退魔宝刀《泰山》か!」

♪ 「いやこれはアフロソードで良いんだ、あ、歌、あー」アフローッ!

 アフロブルーの熱唱に呼応して、イエローが操るアフロロボの刃、サラサラヘアーを地に落とさんと。だが腐ってもリアル系、文字通りの髪一重にかわす。
 膠着、した。互いの一撃が、幕引きにならない。神は争いを永遠にしたいのか、それとも、
 何かを待っているのか。
 変化を探知したのは、数えて82個のアフロを使って、天地創造を表現しようとしてたシオンであった。アフロに携わっていたから解ったのだ、かといって、それを宿してる程に身近では気付けぬ、そんな類の出来事だった。
 鋏の手を止めてアフロピンクに尋ねる。「ってうちの頭弄ってるんかいッ!?」
 ちょうどノアの大洪水に差し掛かっている時だった。

♪ アフロGO! 親父にぶたれず アフロGO! 酸素欠乏

 手にかけているアフロが、ふるふると揺れて。それは全てのアフロに等しく、地震でも、貧乏ゆすりでも無い事を確かめてから、シオンは言った。
「あの」
 ―――、
「巣立ちそうなのですが」
 意味不明と断ずるのは無知ゆえの所業、知ってしまえばなんて事は無い。刹那、
 全ての人々からアフロはテイクオフ。「ってええぇ!? こんな風に外れるんは」
 おかしい、現象は、外を眺めれば、
 アフロが七回裏のジェット風船のように飛び交って、そして、集結していく。

♪ 超合金アフロロボ OH! アフ、って、え、おいおい!?

 アフロブルーの歌声が止まったのは、アフロロボの動きが、イエローの操縦が止まったからだ。「何攻撃やめてんだってッ! これじゃ狙い撃ち」
 じゃないっすかと聞く前に、サラサラロボも直立している。しかしブルーの声が機械のように途切れたのはそれが訳ではない。
 モニターの映像だ、それには、異界中のアフロが、色、手入れ、シオンプロデュース等関係無く、雷雲を巻き起こしながら集結し、ぶつかり、粒となり、塊となり、
 巨人だった。
 アフロで出来た巨人だった。

 ――ダンス戦隊アフロンジャー!


◇◆◇


 帰って来たアフロンジャーDVDボックス発売決定! これまでのアフロンジャーの雄姿は勿論、特典映像も満載だぞっ! 特に、アフロブルーが熱唱するアフロンジャーソングコレクションのPVはファンならずとも必見だ!
 これで君もアフロの戦士、GTVは、君のふところを待ってるぜ!


◇◆◇


 唐突であるが、サラサラZは頭を抱えていた。彼はそれなりに怪奇現象の類には慣れてきたつもりであったが、まさかアフロが集まって、巨人になるとは思わなかったのだ。サラサラロボ、そしてアフロロボの二倍の背丈だ。
「……いっそ悪い夢でもと思いてぇなぁ」
 などと、カウンセラーとしては消極的な解決方法を呟いたが、
「あれ、それじゃバイト代も夢の中ですか?」
「サラサラ将軍ッ! 巨大アフロマンも殲滅目標だっ!」
 復活、役者モード。悪の首領っぽく高笑いしてみれば、スタッフが気を利かしてエコーをかけた。狭いコクピットでは某興信所のベルよりうるさい。
「しかし、あれどうなってんだ? 上で雷が鳴ってるってことは電気か?」
「あ、きっとあれですよ。アフロって静電気たくわえてるじゃないですか。それでアフロが引っ付いて」
「多分そうだな、いや、普段は絶対そうは思わねぇけど、もう突っ込みつかれたしなぁ」
 バラエテ異界でつっこみ役の人間は、もれなく疲労。これお約束。
「ともかく敵は二体に増えたっ! 辛いが俺のバイト代の為にも」
 ジャキーンと構えて、バスターの砲口を、ひとまずアフロロボに向けて、
「全力で、行くぞッ!」
 砲口に熱が集中すれば、アフロロボもそれに気付いたのか、再び歌が流れ出て、
 巨大アフロマンに邪魔とばかりはたかれた。
 外野で眺めている元桃色アフロの言葉を借りれば、「仲間割れしとるぅぅッ!」である。
 声には出さぬが同じ心境だったサラサラZ、だが、すぐに気を取り直して、
「はぁはっぁはははは! 飼いアフロに手を噛まれるとは、無様だぞアフロンジャーッ! 勝利はこの俺の手だ、全人類はサラサラヘアー、そして着流しに白衣を」
「サラサラZさん、二秒後巨大アフロマンに蹴られるみたいです」
 二秒間では特に出来る事も無いので、サラサラ将軍の言うとおり、巨大アフロマンに邪魔だとばかり蹴られた。こうして二対のロボは再起不能。人々は絶望の叫びをあげる、色々な意味で。
 アフロンジャーの最終話、思わぬ形の終局である。アフロンジャーに台本が無いのは、書いても意味が無いからだ。だがまさか、巨大なアフロマンに異界が飲み込まれるなんて、恵局長。
「よっしゃ! どっかの異界に亡命しよ」
 とくに愛着も無いのか、前向きに逃亡を企てようとした時に、
 救世主が舞い降りる――
 否、それは一人の人間、厳密的には人間とは言えないのだが周りからの評判はただのおっさん。そう、おっさんだ。シオン・レ・ハイという名のおっさんだ。
 これより彼は、バラエテ異界を救う事になる、その為の武器は龍を貫く槍でも無く、悪魔殺しの杖でも無く、
 何処にでも売ってる普通の鋏。携えて、自分の何百倍の質量に駆けて行く、
 彼の心は、後悔だった。
 何故私は忘れていたのか、何よりも愛しきそれを! 自分を責める、だが、それで全てを投げ打ってはいけない、己を苛めるのは、仕事を終えてから、そう、
 救出を終えてから。
 、
 巨大アフロマンの生い茂った手が、シオンの身体を掴もうと、だがシオンは危なっかしく跳躍した、華麗とは言えない身の動き、唯、必死だった。それこそ、奇跡を招く者の資格だった。
 シオンは昇る、アフロマンの身体を。蚊を潰さんとばかりにやってくる手を、泣き言を放ちながらも、恵が見ている高度まで達す、恵と視線をかわす事は無い、
 更なる高みを目指す為に。孫悟空では終われない、私は、私はッ!
 私は、
 ――シオンは、
 アフロマンの頭まで昇ると、鋏を構えて、
 回る回る回転する回転する人間ドリルとしてアフロマンのつむじから貫く掘る進むアフロの身体を、

 そして、アフロマンは、一つの鋏と、
 必死なおっさんによって、
 崩壊した。分解した。アフロが零れた。

 今、大地はアフロであった。人間の外の技を繰り出したシオンは、忘れていたそれを抱えて、絶句した。
 衝撃が胸に走ったのである、なにせあれだけ可愛かったのに、どうして、何故、
 垂れ耳兎――
 身体全体がアフロになって、丸く膨らんで。
「……これはこれで、可愛いかもしれません」
 そう言っておっさんはアフロ兎を抱きしめる、アフロを愛する心、アフロ魂が、シオン・レ・ハイに宿った瞬間である。まるでそれを祝福するかのように、――シオン・レ・ハイもアフロだった。しかも兎耳型アフロだった、その上リボンが付いていた。なんて微笑ましい光景なのだろう、というか、逃げていいですか?
 だが、男達は逃げなかったらしい。
「敗北したようだな、サラサラZ」
 アフロロボから降りたブルーが、再びアフロソード「退魔宝刀《泰山》」を手にする。
「敗北? 何が敗れたんだ、この俺のサラサラが、何処の、何に、負けたというんだ?」
 サラサラロボから降りたサラサラZ、眼鏡をあげながらブルーを睨む。
「そりゃ、あれを見ればわかっだろ?」
 ブルーが指差す先には、兎耳型アフロのおっさんが、アフロ兎とアフロ畑の中心で戯れる様子。「どっかで聞いたぜ、アフロは受けとめれば幸となるが跳ね返せば不幸になるってな。見ろって、サラサラ団のあいつは幸せになってる。だが否定したあんたは幸せになれなかった」
「寝言は寝てから言いやがれってんだ」
 冷たく、硬い声。
「まだ決着はついてねぇ! アフロンジャーとサラサラ団の長き因縁、」十三話しかやってませんが。「まだ終決してねぇっ!」
 そして、これは見苦しさじゃない。けじめだとばかりに、サラサラZは闘いを申し入れる。アフロブルーはそれに応えた。アフロソード「だから、退魔宝刀《泰山》だって」を構えて。
「死ね、アフロブルー。俺の財布の未来の為に」
「生きるぜ、サラサラZ。俺の皆勤賞達成の為に」
 それが男達の交わした、最後の言葉であった。
 アフロソードを、もうつっこむ暇すら惜しんで、持って歩行する、歩行を速める、さすれば走行に移行して、そして間合いが達すれば跳躍して、
 サラサラZはZアイを、相手の心を覗く瞳を!
 そうして。
 吹っ飛んだ。
 吹っ飛んだのは、サラサラZだった。
(サラサラZ、いや、将太郎さん、あんた、)
 心の中で語るブルー、
(弱すぎるだろ)
「俺のバイト代があぁぁぁぁっぁぁっぁ!」
 かなりえらそうな事を言っていたが、実質戦闘力は零の男は、絶叫しながら吹っ飛んでいく、白衣の一部が破れ落ちる。ある程度上昇して、そして下降する過程で、アフロソードの力なのか、周りのアフロの力なのか、
 サラサラZはアフロZに。
 それは見事にふさふさで、バッチリ写真にも撮影されて。
 サラサラZは泣いた、これだけの事をしたというのに、もう報われる事が無い。まさに、完全なる敗北であった。
 敗者の姿を、勝者は振り返らない。目を合わせたら何言われるか解った者じゃないし。本当だったら手加減せずに息の根とめた方が良かったかもしれないが、流石にそれははばかれる。
 こうして、長いアフロンジャーの戦いは、終わった。
「さてと、それじゃ恵ちゃんに第二部の交渉しに行くとするか」
「終わらないのかよ」
 冷たい目でつっこむが、イエローは朗らかな顔である。
「何言ってんの、五代君だってアフロンジャー終わったら寂しいでしょ」
「……今ちょっとだけ寂しいって考えたけどよ、やっぱイロモノ戦隊だしなぁ。悪役ならともかく」
「まぁまぁ、とりあえず局長にたかりにたかって、美味しい物食べてから考えましょう」
「いやアイン、なんでお前普通にこっち馴染んでんだ?」
「あ、ご飯を食べに行くのでしたら私もお供に」
「おっさんは兎耳をさっさと直せよ、心臓に悪いって」
 四人の男達の声が、戦いの終わった荒野に、暖かい風を流したようだ。もう人は争う事はない、アフロの心を知ったから。ありがとう、アフロンジャー、さよなら、アフロンジャー、
 そしてアフロンジャーと、アフロの心に目覚めた者達は、二度とここに戻ってこなかった。とりあえずこの一日だけは打ち上げがあるので。恵局長がやめろーって言っても酒盛りするので。あとでアー君が呼んだおねえちゃんの店の請求書にも怒り狂った訳で。んでシオンに酒が入ると彼はどこか遠い国へ言って現実に居る者達をひっちゃかめっちゃするのでハリセンで叩きまくった訳で。
 だから今、この場所に残っているのは、あらゆる全てのアフロの群れと、
「……バイト代」
 それに埋もれる男である。合掌。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 1335/五代・真/男/20/便利屋・怪異始末屋
 1522/門屋・将太郎/男/28/臨床心理士
 1533/藍原・和馬/男/920/フリーター(何でも屋)
 2525/アイン・ダーウン/男/18/フリーター
 3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん 今日も元気?

◇◆ ライター通信  ◆◇
 ロビン!ロビン! マスク云々の問題もあるけど、結婚したい相手の家に行くんだから服着ようよっ! エイひとです。
 というか今回納品に一週間かかってなくってびっくりした人! はい(挙手)……いやぁ前回というか毎回毎回遅刻やらかしてご迷惑かけてまっけどこれで帳消しに(なりません)ど、どこまで続くかわかりまへんけど、ペースを保ちたいでございます;
 さて、長い事、という割りには実質的には今回含めて三回しかやっとらへんアフロンジャー、その最終回に参加して頂きおおきにでした。イエローさんが第二部希望とありがたい事ゆうてまっけど、ぶっちゃけた話続編は暫くは無い思います。あるとしてもお正月スペシャルとかで半年くらい開く、……てかぶっちゃけそんな頻繁開けてへんから一緒か。(こら待て
 いやでも聞いてください、確かにアフロはすてけやし、これからも先祖代々の伝統にせなあかんのですが、今日もアフロ、明日もアフロ、きっと戦場に咲いた花が摘み取られる時もアフロじゃ、オニーチャンイキテルキガシナインダヨー! です。(訳わからん
 いやええと、ぶっちゃけるならアフロ以外で皆様を楽しませるようにとそうゆう事なのですっ! なんで裁判の依頼がアフロになるんだよってそういう事やのです! ノリノリでしたが。(待ちなさい
 まぁエイひと死すともアフロは死せず、これからもアフロの心を燃やし続けてください。
 五代のPL様、皆勤賞おめでとうございますと供に、こんなイロモノ依頼に参加していただいておおきにでした。アフロソードはこれからも、心の武器となるでせう。(えー)三下と絡ませよう思いましたけど、すでに恵を指定してたんで控えました; すいまへんです。とにもかくにも特撮にゃかかせへん歌に関わっていただきおおきにでした。
 門屋のPL様、口調の方とか掴みにくかったですが、いかがでしたでせうか? 掲示板の方を参考に致しました。んでそこで五代をみつけました。絡まし決定や!(なんでやねん)正直、プレイングに全人類着流しに白衣化やーってボケっぽいプレイングあったけど、性格はツッコミやったので、そこらの折り合いつけられたかが不安ですが、お楽しみ頂けたなら幸いです。
 藍原のPL様、皆勤賞おめでとうございますパート2。いや、ほんまにアフロを愛していただいて何よりです。最終話とありまっけど、なんらかの形でまたアフロンジャーは復活するやもしれまへんので、その度はよろしゅうに。アフロロボVSサラサラロボのプレイングは思いついてへんかったのでとても面白かったです。
 アインのPL様、アフロというかもろもろに参加いただいておおきにですたい。てかちゃんねーをはべらすアインってどんなんやねんって最初戸惑いました。(こら待て)あんな感じになりましたけどよかったでせうか?; それと、きちんとアフロ化現象にオチつけていただいておおきにでした。本人もどうしようかと思ってたんで(考えとけよ
 そしてシオンのPL様、MVPです。(え)個人的におじさまキャラが好きやのです(好みかよ)いやまぁそれもあるんでっけど、プレイングのはちゃめちゃっぷりがもう素敵でした、暴れまくっていただきほんまおおきにでございます。完全に生かしきれたかはちと不安でっけど; あ、ちなみにお弁当のおにぎりは実際作った事あります。(関係ない)
 んでは皆様ご参加おおきにでした、次回は、リーゼントライダーでお会いいたしましょう。(ほんまにやる気か