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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


古書 その一 〜ウサミミパニック〜

------<オープニング>--------------------------------------

 古本屋 文月堂。
 少し込み入った通りにあるこの古い古本屋にはさまざまな古書などがおいてある、知る人ぞ知る古本屋である。
 普段はこの古本屋の2階にあるアパートの管理人でもある年老いたおばあさん、文月みつが店番をしているが、今日はアパートの住人である佐伯隆美(さえき・たかみ)が店番をしていた。

 「えーと、この本は……と。」
 山済みになったまだ未整理の本を一冊一冊手にとってはため息をつく。
 「おばあちゃんこの山の整理をしてって言っていたけど、この量じゃ全然終わらないよ…。」

 そしてふとその中の一冊の本を隆美は手に取る。
その本のタイトルは『人中魔妖』と書いてあった。
 「なんだろう?この本は?変なタイトル…。」
 たまたま手に取ったその本が気になって、隆美はその本の表紙をめくる。
その本の表紙を開くとただの白紙であった。そして隆美が次のページも開くとまた白紙であった。
 「あれ?おかしいな……?
この本何も書いてない本なのかな?」

 疑問に思った隆美はその本を明るい所にもっていく。
明るい所にもっていかれたその本は、何か文字を消した様な跡が白紙と思われたページにはあった。
そしてそれは全てのページにわたってその跡があった。
 「なんだろう?何が書いてあったのかな?」
 疑問に思った隆美はそっと本に意識を集中させる。

 隆美の中に本の中に書かれていた封印されていた「モノ」が流れ込んでくる。

 しばらくして隆美はうっすらと目をあける。

 「あ、あれ?どうしたのかな?
何かさっき自分の中に兎が入り込んできた気がしたけど……。
まさかそんあ事、ある訳ないよね。」

 そう言って隆美は笑いながら手が頭をかこうとする。
するとそこにはなにやら妙な感触が手に残る。
怪訝に思った隆美はおそるおそるその両手で頭に手を伸ばす。

………
…………
……………むにゅ

 なにやらやわらかくどこか暖かいものが手に当たる。
はっとした隆美はもう一度その手に当たった暖かいものをそっとなぞって見る。

………
…………
……………
 隆美はそのまま黙って鏡の所まで走っていく。

「な、なによこれ〜!!」

 鏡の中に写っていたのは白い綺麗なうさぎの耳を頭に生やした隆美の姿であった。

 「そういえばさっき身体の中にうさぎが入ってきたような感じはあったけど……。」
 「お姉ちゃんどうしたの?何かすごい声が……。ってきゃあ!!」

 隆美の声を聞いて驚いてあわてて降りてきた、佐伯紗霧(さえき・さぎり)であったがやはり階段の途中で悲鳴を上げる。
そして隆美のところにやってきた紗霧の頭にも隆美と同じように、しかし色は違う黒い兎の耳が生えていた……。

 「「紗霧」「お姉ちゃん」その頭どうしたの??」

 思わず二人の声が重なる。
そしてあとには捨て置かれている本が一冊とそして途方にくれた、ウサミミが頭から生えてしまった少女が二人残された。

------<古書 その一 〜ウサミミパニック〜>--------------------------------------

 夏のある暑い日、モーリス・ラジアルは木々の写真などを撮りながら大通りから少しはいった少し日陰になっている道を歩いていた。
すると中から悲鳴のような声が聞こえてくる。
 慌てて中にモーリスが飛び込むとそこには、先日知り合った少女、佐伯隆美(さえき・たかみ)と彼女の義理の妹になった佐伯紗霧(さえき・さぎり)の二人の少女が、お互いを見詰め合って硬直しあっていた。
そして二人の少女の頭にはなぜかウサギの耳らしきものがはえていた。

『おやおや、なんだか可愛いものが生えてますね。
治そうと思えば治せますが、可愛いのでしばらくそのままにしておきますか。』
 モーリスは内心そんなことを思いながら二人の様子を眺めていた。
しばらく隆美たちが狼狽している所へお店の方から物音が聞こえてきた。
「あの〜すみませんどなたかいらっしゃいますか?とある"本"を探しに来たのですが……。」
 そう言って文月堂に入ってきたのは、海原みなも(うなばら・−)であった。
いくら姿が変わっているとはいえ店番をしている以上、出ない訳にも行かなかった隆美は店先に姿を現す。
 その現れた隆美の姿を見てみなもは思わず言葉を失う。
「あ、みなもさん、いらっしゃい、何かお探しですか?」
「……このお店って隆美さんのお店だったんですか?」
「あ、うん、私のって訳じゃないけど、親戚のお店でアパート貸してもらってるからたまにお手伝いを、ね。」
 どこか照れくさそうに隆美に話しかけられて、我に返ったみなもは目の前によく見知った顔がいて驚いた様に話していると、みなもの後ろから声がかかる。
「ウサミミ、可愛いね〜。」

 慌てて、みなもと隆美が声のした方を見ると、そこには白い蛇を肩に乗せた、赤と灰色の瞳を持つ長い髪をした少年がたっていた。
「あ、そうですよね、隆美さんのウサミミ可愛いですよねっ。」
みなもはどこか楽しそうにその話かけてきた赤と灰色の瞳を持つ少年、巳森靜(みもり・しずか)に答える。
「え?みなもちゃんもウサミミ可愛いよっ。」
「え?わ、私にも?」
 慌てたようにみなもは自分の頭を触るとそこには隆美と同じような白いウサミミがしっかりと生えていた。
「ええっ、な、なんで?私にも?」
「大丈夫みなももかわい〜よ、ってなんでおへびさま靜のこと見てるの?
……そういえばなんか頭がおもいよーな?」
 隆美とみなもは靜の頭を見る、ふにふにと頭を触っている靜の頭には、やわらかそうな灰色のねこみみがしっかりと生えていた。

「むに…むにむに。靜にもウサミミ!?ってゆーか、おへびさま、なんで獲物を見る目になってるの!?」
 慌てたようにウサミミを触るのをやめて靜は冷汗をかきつつ肩に乗っているように見える蛇を見る。

 隆美達が店先で騒いでいる間に部屋の中ではモーリスが、紗霧に話しかけていた。
「ウサミミのついた紗霧さんもかわいいですよ。あ、そうだ、丁度今日は紗霧さんにあげようと思って持ってきた服があるんですよ。その耳ときっとよく似合うでしょうからぜひ受け取ってくださいな。」
「え?か、可愛いですか?変じゃないですか?」
 モーリスの勢いに押されつつも答え、モーリスの差し出した紙袋を気がつくと持っている紗霧であった。
「ええ、きっとよく似合いますよ、よければ着て見せてもらえませんか?
私はお店の方が何やら騒がしいので見てきますので、その間に着替えると良いですよ。」
 やんわり微笑むモーリスに紗霧は服の入った紙袋を握り締めてただただ頷くしかできなかった。

 そして店先では靜のおへびさまが三人のウサミミの生えた少女を見ていた。
「……うんうん。元が大蛇だからウサギが好物?おいしいから好き?」
靜がおへびさまの思っていることを独り言のように通訳した後、靜は自分の置かれている状況を把握する。
「みなもちゃん、隆美ちゃん助けてーっ!!」
靜はそう叫びながらおへびさまから逃げようとするが自分に憑いているモノな為に逃げられず壮絶な鬼ごっこを始めてしまう、自分に憑いているおへびさまと自分との鬼ごっこと言う決して決着のつく事のない鬼ごっこを。

 モーリスは靜の悲鳴が聞こえたところに丁度やってくる。
「どうしたんですか?何やらすごい声がしましたが…。」

 店と部屋部分をつなぐ暖簾から顔を出したモーリスは、ウサミミを生やした少女と少年が増えてる事に気がつき内心喜んでいた。
「みなもさんこんにちわ、今日は素敵なものをつけていますね、よく似合いますよ。」
微笑んで、モーリスはみなもに挨拶をする。
「モーリスさん、これどうしたら良いんでしょう?」
 普段の気丈さはどこへやら、おろおろして隆美はモーリスをすがる様に見つめる。
「私の能力なら、すぐに治すことができるんですが、こういう隆美さんも可愛いですね、しばらく黙っていますか…。』
心の中でそう結論ずけるとモーリスは隆美に何かこうなった原因らしいことがあったのではないかと問いかけると、隆美は先ほどの顛末をモーリスの話して聞かせる。
「と、するとその本が怪しいですね……。」
言いつつ顎に手を当てて考え込む振りをするモーリスであった。

 丁度そこへ着替えの終わった紗霧と、終わらない追いかけっこに疲れて戻ってきた靜が戻ってきた。
「あの、着替えてみたんですけど、似合う…でしょうか?」
「はぁはぁ、もう駄目…これ以上走れないよ…。」

 走り疲れてその場にへたり込んだ息もたえだえな靜と、どこか恥ずかしそうに夏物の空色のワンピースを着た紗霧が奥から出て来た紗霧もその場に一緒になる。

「あ、紗霧さん可愛いですよ、よく似合いますよ。」

 出てきた紗霧をほめながらモーリスは持ってきていたカメラを取り出す

「折角ですし、皆さん記念撮影といきません?
丁度カメラは私が持っていますし、珍しい記念って事で。」
「ええっ嫌だよ、こんな姿の写真なんて。」

カメラを見た靜は嫌がるが、それを見たモーリスは少し意地悪そうな笑みを浮かべる。

「良いんですか?そのウサミミが直らなくても。」
「ええっ、そ、そんな……うみー。」

 完全にモーリスのペースに飲み込まれた靜に残された選択肢はただ首を縦に振ることだけであった。

………
…………
……………カシャ!

 そして文月堂の前にて4人のウサミミ少女と少年が仲良くカメラのファインダーの中に納まった。

「それじゃ問題の本を見てみようよ。」
 みなもも写真を撮ってもらった事が嬉しかったのか、どこか機嫌よさそうに隆美を促す。
促された隆美は廊下に落としてしまっていた『人中魔妖』を拾って持ってくる。
そして本を見ても誰がどこを見ても文字らしいものは書いておらず、どうやら何かの呪によって何かが封印されていることはわかった。

「これって、無理やり中身が判らないままどうにかするのって危険ですよね。」

 みなもが不安そうにしていると靜は癇癪を起こしたかの様に騒ぎ始める。

「ああっ、もう靜はこういうのは得意じゃないんだよ!!
もう誰でも良いからなウサミミを解除っしてって!いうか命令なの!しなさーい!」

皆の様子をしばらく眺めていたモーリスだったが、ようやく重い口を開ける。

「ああそれなら、私が解く事できますけど、ときましょうか?」

………
…………
……………「「「「え?」」」」

 一瞬の空白のあと4人の声が見事に唱和する。
その様子をモーリスは済ました顔で見ていた。

「私の得意なのは『調律』ですからね、なんで私の頭に生えてなかったんだと思いますか?
何かの力が働いてると感じたから抑えていたんですよ」

 涼しげな表情で話すモーリスの頭には確かに特に何の変化もなく、他の人間とは違い頭はいつものままだった。

「そういえば、そうでしたね、なんでもっと早くに言ってくれなかったんですか?」

隆美は拗ねた様にモーリスにつめよる。
「ま、まぁまぁ、私達もモーリスさんの事は知っていながら今まで気がつかなかった訳だし、許してあげましょうよ。
でも今度からは早めに言って欲しいですけどね。」

 やんわり笑いながらも、少しだけ険のこもった声でモーリスに話すみなもであった。

 しばらくして、モーリスの力によって皆の姿は元に戻ったが、依然として本の力は残ったままであった。
どうやら文字を消す事によって封印をされていた様々な呪いが、隆美の力によって封印の上から無理に呼び出され、変な形で安定してしまい、再封印もよほどの腕がないと難しいと言うことだった。

「あ、そうだ、靜、今日はおつかいで本を受け取りに来たんだけど、この本も借りて帰るぅ、借りる代金はつけにしておいて、こうなったら私をこんな目に合わせたあいつも巻き添えにしてらないと気がすまないからっ」

 瞳になにやら闘志を燃やして靜は隆美からとりに来た本と『人中魔妖』を半ば強引に受け取ると、そのまま走り去っていった。

「靜さん台風みたいだったね……。」
 その一部始終を呆然とみなもと紗霧は見送っていた。
結局中身の事は殆ど何もわからずに『人中魔妖』は持ち去られてしまった。
「結局何もわからなかったね…、あ、そういえば二人とも折角きたんですから中でお茶でもどうですか?」
仕方ないといった様子で、ため息をひとつついた後、隆美はモーリスとみなもを中でお茶に誘う。
 二人はそれを快く受ける事にした。

***

 そして、その後どうなったかというと、『人中魔妖』は靜の手によってウサミミになった人間が増えた後、文月堂に戻ってきてたがそのときには一応、力の暴走は収まっていて、書物庫の奥に危険書物としてしまいこまれる事となった。

 そしてその場にいた全員に、後日モーリスからその時の写真がしっかり飾れるようにされて送られてきたのもまた別の話であった。


Fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ モーリス・ラジアル
整理番号:2318 性別:男 年齢:527
職業:ガードナー・医師・調和者

■ 海原・みなも
整理番号:1252 性別:女 年齢:13
職業:中学生

■ 巳杜・靜
整理番号:2283 性別:男 年齢:458
職業:中学2年生/便利屋さんのお手伝いを兼業?


≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋


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■         ライター通信          ■
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どうもこん○○わ、ライターの藤杜錬です。
この度は『古書 その一 〜ウサミミパニック〜』にご参加頂きありがとうございます。
今までとは少し方向を変えてコメディ系統のシナリオになりましたけれど如何だったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
『古書』はこれからも異界の方で続けていけたらな、と思っています。
今回の本も奥にしまわれただけですしね?
もしよければこれからもお付き合いいただけたらと思います。
それではありがとうございました。

2004.08.11
Written by Ren Fujimori