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<東京怪談・PCゲームノベル>


【狭間の幻夢】鳳凰堂の章―蛇

●同姿異魂●
何かに呼ばれた気がしてやってきた日向・龍也は―――他人の迷惑を全く意に介さず、ずかずかと奥へ進んでいた。

「あの、龍也さん?できれば勝手に奥に行くのはやめていただけませんか?」

一旦扉の前で止まって貰えるとはいえ、流石に自分の棲家を堂々と荒らされるのは困るらしい。
そんな戸惑ったような継彌の声もさっくり無視し、龍也は歩く。
生活スペースの真ん中辺りに差し掛かった時。

「―――龍也さん。そこで一旦お止まりくださいな?」

―――彼の片腕にするりと柔らかな腕が巻きつけられ、動きを止められた。

黒くふわりとした素材で作られた衣服に漆黒の膝まであるストレートヘアーに漆黒の瞳。
ふふ、と淡い唇を笑みの形に歪めた少女。

「…巳皇、か」
「えぇ―――流石に、継彌さんが可哀想ですから」
「一応この店の店主なんだから無視しないでおいてやれよ」

看視者―――巳皇である。
その後ろからは、少々呆れたような表情の鎖々螺が歩いてついてきた。
足を止めた龍也に満足したのかそっと手を離した巳皇は、彼の前に回り込み、にこりと微笑む。

「止まって下さって有難うございます。
 奥へ進むのなら―――せめて僕が鍵を開けてからにして下さいね?」

壊そうとされては困りますから、と困ったように笑った継彌が後ろから現れて通り過ぎるのを面倒くさそうに見送った龍也は、継彌が重厚な鋼鉄の扉を開錠するのを待つ。
南京錠を外す音が響き、中へと続く重い扉がぎぎぎ…と動く。
完全に開いたところで熱気を孕んだ鉄くさい空気が一気に流れ込んできて、龍也は思わず眉を寄せた。

「さぁ―――どうぞ。
 貴方を呼んでいる子を、見つけ出してあげて下さい」

開いた扉の前で手を差し出すようにしてそう言う継彌に頷くと、龍也はゆっくりと歩き出すのだった。

***

【こっちだ…】

「…」
中に入ると所狭しと立てられた棚や武器・道具が目に入る。
その中のどこかから声が聞こえるが、龍也は焦ることなく内部をゆっくりと観察しながら歩く。

「…なんだか、探す気があるように見えないのはなんででしょうね…」
「わたくしに聞かれても困りますわ」
「俺だって知るかよ」

そんな龍也の様子を見ながら後ろで困ったような継彌の声と呆れたような巳皇・鎖々螺の声が聞こえるが、さらっと無視。
スタスタと歩いていると…ふと、ある武器が目に留まった。
青竜刀のような刀身の形だが刃の先がノコギリの刃のようになっていて、全体が水のような青みがかった変わった剣だ。
それを手に取り、龍也は継彌を振り返る。

「…どうかしましたか?」
不思議そうに立ち止まって龍也を見る巳皇と問いかける継彌に、龍也は手に取った刀を見せて口を開いた。

「これは一体どんな性能なんだ?」

…間。
唐突な質問に一瞬驚いた継彌だったが、すぐに苦笑して口を開く。

「どんな性能か、ですか…?
 それは水の属性が付与してあって、火の属性を持つ敵に有効な武器です」

まぁ、水の属性でしたら意味はないんですけどね、と笑う継彌を見てふぅん、と手元の剣を見る。
…ふと、悪戯心が湧いてきた。

「それじゃあ…これでいいのか?」
「え?」
シュンッ。
龍也は言うが早いか、何も持っていなかった右手に左手に持ったものと同じ武器を作り出した。

―――龍也の持つ能力、『剣皇』である。

外見や感じる気もオリジナルと全く同じ。
能力も同じはずだ。

唐突に現れた自分の作ったものと同じ武器を見て目を見開く継彌に、龍也は面白そうに口の端を持ち上げながらその剣を手渡す。
「この剣と全く同じ剣を作った。
 俺の能力でな」
「おや…これが、貴方の能力ですか…」
渡された剣を受け取ってまじまじと見る継彌。
「ふぅん…随分と変わった能力なんだな」
「本当に…以前も思いましたけれど、龍也さんは凄い能力を沢山お持ちなんですのね…」
「まぁな。
 お望みとあらばこれを更に強化したものだって作ってやれるさ」
感心したように龍也を見る鎖々螺と巳皇に返事をしながら、龍也は品定めをするように自分の作った武器を触る継彌に『どうだ』と問いかけた。

…と、継彌はふっと微笑みながらその剣を龍也に返す。
一体何故笑う必要があるのかと思った龍也が眉を寄せるとすいません、と謝って、継彌は口を開いた。

「いえ―――確かにこの剣はとても凄いです。
 ただ―――――――『完全に同じと言うわけではありません』が」
「……なんだと?」

継彌のその発言に龍也は思わず顔を顰める。
自分の作った剣が違うということはありえない。
負け惜しみか、と結論付けて継彌を睨むと、継彌は困ったように笑う。

「そんなに睨まないでください。
 能力が違うとか、武器の完成度が違うとか…そういう事ではありませんから」
「じゃあ、何が違うんだ?」

益々引っかかる言い方だとイライラしながら先を促すと、継彌は柔らかに微笑んで口を開いた。

「―――違う部分は、この剣に宿る『魂』です」
「…魂、だと?」

また随分と奇妙な話題を持ち上げるものだ。
そう思って顔を顰める龍也を見て、継彌は苦笑しながら話を続ける。

「魂は一つとして同じものはありません。
 どんなに近い輝きや本質を持つものでも、どこか微妙に違う部分を持っています。
 たとえば、武器だって作る人によって微妙な違いが生まれるのと同じ。
 それが魂の宿る武器となれば、その違いは更に明白になります。
 例えどんなに同じ姿で同じ能力を持っていたとしても…魂だけは、必ずどこか違うものが宿るんです」

ですから、貴方の作った子と僕の作った子は、同じようで違う武器なんですよ。
そう言って微笑む継彌を見て、龍也はふぅん、と気のない返事を返す。
理屈は分かったが、なんとなく納得がいかないような…。

そんな龍也の心情を悟ったのかどうかはわからないが、継彌は苦笑交じりに微笑むと、口を開いた。

「―――貴方の素晴らしい能力に嫉妬した、馬鹿な鍛冶師の戯言だと思ってくださって結構ですよ」

…これ以上追求するのも面倒だったので、龍也はそう思うことにした。


●古刀●
少々の間をおいてから、探索の再開。
そして暫く奥に進んでいくと―――気づけば、最奥にまで辿り着いていた。
目の前には恐らく裏口であろう、重厚な鋼鉄の扉が目に入る。

「おや?確か貴方は此処の何かに呼ばれた筈では…」
不思議そうな継彌の言葉をさらっと無視して首を回して辺りを見回すと、ふと、一つの物体が目に入った。

――――古ぼけてあちこちがぼろぼろになった汚い布に巻かれた、大き目の棒状の『何か』。

「…あれは?」
龍也がそれを指差して聞いてみると、継彌も不思議そうに首を傾げる。
そして暫く考え込むと、困ったように顔を歪めて首を左右に振った。

「えっと…ごめんなさい。
 正直、全く覚えがないんです」
あんなのあったかなぁ、などと言いながら首を傾げる継彌を見て、龍也は呆れたように溜息を吐く。

「…あぁ、もしかしたら父が作ったものかもしれませんね。
 父の遺作は沢山ありますが、きちんと全て把握できているわけではありませんので」

そういう継彌を見てなるほどな、と納得する達也。
己の作品でないのなら、身に覚えがないものがあっても仕方がないだろう。
そう結論つけたところで―――不意に、声が耳に届いた。

【―――待っていたぞ】

…低い、低い、中年男性のような声と、妙な威厳のある話し方。
少なくとも…聞き覚えはない。
「…今、お前ら何か話したか?」
「え?…いいえ、話してませんけど」
「えぇ、わたくしも先ほどから一言も発してませんわ」
「俺はさっきから無言で後ついて来てたからその質問を受ける謂れはねぇぞ」
龍也の問いかけに不思議そうに言葉を返す三人を見て、龍也は眉を寄せた。
しかし、その声は無遠慮に声をかけてくる。

【無駄だ。私の声はお前にしか聞こえない】

「俺にしか…?」
「「??」」
声に問いかけると、それを聞いていた継彌と巳皇が首を傾げた。
しかしそれに気づいていない龍也は、声に精神を集中させている。

――――と、またもや唐突に、目の前が陽炎のように揺らいだ。

「!!」
無意識に目を細めた龍也がしっかりと目を開くと、そこには一人の男が立っていた。
襟がぼろぼろになったシャツのような内着、その内着を少しだけはみ出させながらも体全体を覆う、内着と同じように裾がぼろぼろになった黒いローブ。
ウェーブがかかったぼさぼさの髪、ヒゲの生えたいかつい顔。
強い意志を持った瞳を覆うのは―――ゴーグルのような、サングラス。
――――いったい、何者だ。

【…警戒するな。
 私は敵ではない】

反射的に身構えた龍也を見、男は言う。
それに少しだけ力を抜いた龍也だったが、ふと横を見てみれば龍也に訝しげな視線を向ける巳皇と継彌の姿が。
…どうやらこの男、自分以外には見えないらしい。

【―――龍也、お前を呼んだのは、私だ】
「お前が…?」
【そうだ。
 …ずっと…待っていた】

龍也を見て目を細める男。
その言葉を聴きながら、龍也はどこか納得したような顔をする。
要するに――コイツは、自分の元に来たがっているのだと。

【私を―――お前の元に置いてくれ】

「……別にいいけど?」


――――――あまりにもあっさりと、龍也は了承した。


それに一瞬驚いて目を見開いた男だったが、すぐにふっと目を細める。

【…ならば、これからよろしく頼む】

どこ嬉しそうな声音でそういった男は、出てきたとき同様、陽炎のように揺らいで消えて行った。
そして後に残った布に巻かれた武器を手に取り、龍也は布を取る。
――――巨大な包丁のような、刀。
刀と呼んでいいのかすら分からない代物だが、力はそれなりにあるのだろう。
軽く握って振ってみると、思いの外しっくりと手に馴染む感覚がした。

「…それが、貴方を呼んだ剣なのですね?」

その様子を見ていた継彌がそう問いかけると、龍也が頷く。
―――しかし、まだ小さな小さな声が複数聞こえる。
これはまだ自分を呼んでいるものなのでは?
そう思って口を開きかけた龍也を遮るように手を挙げ、継彌は微笑んだ。

「…もしも他にも小さな声が聞こえていようとも、貴方が一番最初に見つけたそれが――本当に、貴方を呼んだ剣です。
 他の声は単に少しだけ波長が合っているだけのもの。
 本当に持ち主になりえるのは―――他の人です」

ですから、貴方にお渡しできるのはそれだけです。
そう言ってにっこりと笑う継彌に、龍也は手の中の刀を見ながら、ふぅん、と生返事を返すのだった。


●夢現●
―――刀を手に入れた後は、四人でのんびりとしたお茶会を行った。

前に聞き損ねた黒界の話を少し聞いたり、継彌に鳳凰堂の話を聞いたり。
…恋人の話をした時には、継彌と巳皇と鎖々螺、三人揃って呆れた顔をされてしまったものだが。

時を忘れて話しに興じていた龍也だったが、ふと巳皇が壁を見て口を開く。

「―――そろそろ、お帰りになった方がよろしくありませんか?」

「何?」
「あぁ、確かにそろそろ帰らねぇとヤバいんじゃねぇの?」
巳皇と同じように壁を見た鎖々螺の呟きに龍也が二人の視線を追って壁を見ると、そこには大きな振り子時計が立てかけられていた。
何時の間に、と思ったが、それよりも気になるのは、その時計の針が指している時間。

――――――夜、六時半。

龍也にとっては遅い時間ではなかったが、今日は大事な妻である女性と一緒に外食でもしようと話をしていた。
お互いに予定があるからと言うことで、待ち合わせは夜七時。
…つまり、いい加減此処を出ないと、遅刻してしまう可能性があるということ。

「…そうだな。そろそろ帰ったほうがよさそうだ」

そう言うと、龍也は手に入れた刀を持って腰を上げる。
一緒に巳皇・鎖々螺と継彌が立ち上がったところを見ると、一応見送りをするつもりらしい。

すたすたと歩くと、店舗を横切って引き戸に手をかける。
そしてかけた手に力を入れると、扉をゆっくりと引いて開く。
「…じゃあな」
外から差し込む夕日に目を細めながら、一歩踏み出して―――。

「それじゃあ、どうぞ、お元気で」
「大事な人と仲良くして下さいませね?」
「それと、できるだけ惚気は控えるように」

――――――三人…約一名若干からかい混じりだが…の見送り声が聞こえると同時に、ぐにゃり、と…世界が歪んだ。

***

「…?」

立ち眩みかと思って一瞬閉じた目を開いた龍也の視界に入ってきたのは―――雑踏。
人が行きかい、ざわざわと話し声がざわめきを作り上げる。

「ここは…」

驚きに見開かれたその瞳に映るのは、自分が妻と待ち合わせしていた場所に相違ない。
本来ならば、自分が出た場所は開けた場所で、ざわめきなど全く聞こえない、真空のような空間だった筈だ。
振り返ってみれば、そこにあるのは人の波。
あのどこか古ぼけた引き戸どころか、店自体全く見当たらない。

「……また、変なことをするものだな…」

恐らくこれは継彌か巳皇…鎖々螺は可能性が低すぎるから除外として、恐らくどちらかのサービスか何かなのだろう。
刀は何時の間にか手元から消えている。
状況から考えたら、自分の家の中にでも持っていってくれたのかもしれない。
ちらりと腕にはめていた時計を見てみれば、あと数分で丁度待ち合わせの時間だった。

折角だからこのまま待ち合わせてしまおうと寄りかかると同時に、横から声がする。

「――――――龍也!!」

自分が愛おしいと思っている、女性。
慌てたように走ってくるその姿を見て、龍也は微笑んで彼女の方を向き、その名を呼んだ。


「―――――――――圭織」


―――さて、食事の間に、今日の話でもしてみようか。
     彼女のリアクションが、楽しみだ。


<結果>
記憶:残留。
入手:古刀(無銘で無名。持ち主のみに見える実体化能力。
        また、持ち主の能力の強さを跳ね上げるブースターのような能力所持)


終。

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】

【2953/日向・龍也/男/27歳/何でも屋:魔術師/闇】

【NPC/巳皇/女/?/狭間の看視者/闇】
【NPC/鎖々螺/女/?/狭間の看視者/火】
【NPC/継彌/男/?/『鳳凰堂』店主兼鍛冶師/火&水】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第二弾「鳳凰堂の章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は前作に比べて皆様の属性のバリエーションが広がっており、ひそかにほくそ笑みました(をい)
まぁ、残念ながら火・地属性の方にはお会い出来ませんでしたが…次回に期待?(笑)
また、今回は参加者様の性別は男の方のほうが多くなりました(笑)いやぁ、前作と比べると面白いですねぇ(をい)
ちなみに今回は残念ながら鬼斬と話す方はいらっしゃいませんでした…結構好きなんですけどねぇ、私は(お前の好みは関係ない)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)

・龍也様・
ご参加どうも有難う御座いました。また、巳皇・鎖々螺をご指名下さって有難うございます。
えー…微妙にプレイングを読み間違えてしまいまして、大変申し訳ございませんでした…!(土下座)修正にして蛇組二人登場話に変更させていただきました。
刀のところはちょっと意趣返し風な感じで。継彌もやられっぱなしは性に合わないと思いますので(をい)
入手武器は古刀のみです。理由は文中で語られているのであえて書きませんので(何)
ちなみに一番最初の題名は「どうしいこん」、一番最後の題名は「ゆめうつつ」と読んでくださいませ。
最後は勝手に待ち合わせの予定云々を入れさせていただきました。ご夫婦と言うことで文中ではそういう風な呼び方にしましたが、大丈夫でしたでしょうか…?(汗)
刀がちょっと不憫な気がしますが、世話してやって下さいね(笑)名前も付けてあげて下さいませ。

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。