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<東京怪談・PCゲームノベル>


【狭間の幻夢】鳳凰堂の章―蛇

●お気に入り任命?●
何かに呼ばれたような気がしてやってきた治だったが――――今、とてつもなく気まずい思いをしていた。

「…あぁ、初々しい男の子って見ていて楽しいですわ…vv」

―――どこかうっとりとした表情でじーっとこちらを見ている…巳皇のせいで。

「…あ、あの…」
「16歳という微妙な境目がまた絶妙ですわよね!
 大人と子供の境目をぐらつくその不安定さ!!
 あぁ、たまりませんわ…!!」
生活スペースでお茶を飲み始めた頃。
すっかり自分を気に入ったらしい巳皇が向かいに座り、そのままかれこれこの状態で一時間経とうとしている。

……誰か、助けて。

切実な心の叫びを聞きつけたのかどうかはわからないが、にこにこ笑顔で今までずっと傍観していた継彌が、ようやく口を開いた。
「……巳皇さん?
 そんなに見つめていたら、彼に穴が空いてしまいますよ?」

そんなわけありません。

心の中の切実なツッコミは、彼の口から出てくることはない。
元々頭の中で物を考えるのは得意なので、それが半分クセになっているのもあるのだろう。
そんなズレたツッコミをかます継彌を見た巳皇は、すぐににっこりと微笑んだ。

「…では、見つめていなければよろしいんですのね?」
「「……え?」」

巳皇の質問に二人がぽかんとしている間に、彼女はすっくと立ち上がり…修理に出した筈の鞭を手にとった。

―――嫌な、予感。

反射的に逃げようとした治だったが―――時、既に遅し。
「逃がしませんわっ!!」
「うわぁっ!?!?」
綺麗に弧を描いた鞭は、しゅるりと治に絡みつく。
全身がんじがらめにされた治が床に転がると同時に、巳皇がにっこりと綺麗な笑顔で目の前に仁王立ちをし―――。

「これは―――わたくしからのささやかな愛のシルシですわv」
…ぐにっ。

―――――――踏んだ。

弾力のある自分の身体を、硬質な靴の踵が押す力いっぱい感触。
「いたたたたたっ!!!」
痛みに思わず声をあげる治だったが、ハイヒールでないだけまだましか、と頭のどこかで冷静に観察している自分もいた。

しかしそんな治のリアクションに気をよくしたのか、巳皇はにっこり笑顔のままで更にげしげしと踏みつける。

「大丈夫ですわっ!そのうち蹴られることが快感に変わりますからっ!!!」
「変わらなくて結構ですぅぅぅうううっ!!!!!!」

巳皇の言葉に必死の形相の治の絶叫は――――あっという間に、悲鳴に変わって空気に溶けた。


――――その後。
      またもや笑顔で傍観していた継彌がようやく止めに入ったのは――それから、更に一時間ほど経過した頃だったとか。


●魔法のペン…?●
巳皇から解放され、体中に鞭で縛られた後と踏まれた痣をつけながら瀕死状態の治を無理やり起こすと、今度は道具探しだ。
半ば引きずるように奥へと続く入り口まで連れてこられた治は、既に半泣き状態だった。

「…それじゃあ、頑張って探してくださいね?」

…ガチャリ。ギギ…ィ…。

笑顔でそう言いながら南京錠の鍵を外した後に鉄製の蝶番が軋んで思い扉を動かす音が重苦しく響く。
中から香るどこか熱を孕んだ鉄の匂い。
その空気に思わず眉を顰めた治だったが、次の瞬間には目を大きく見開いた。


…店舗以上に重厚な棚や留め具によって、所狭しと武器と道具が置かれていたからだ。


店舗よりもずっと内装に気を使っていない、無造作且つランダムに置かれた道具や武器達。
しかし、無造作に見えて、その並べられた道具や武器達は『何か』が同じような気がして、その並びが間違っていないと錯覚してしまう。

振り返って目を瞬かせる治に気づいたのか、継彌は小さく微笑むと先に入って二人に続いて入るよう促す。
護羽も早く来いと言いながら中に入る。
それに気づいた二人ははっとして慌てて早足で中に入っていく。

【―――こっち】

「!!!」
一歩足を踏み入れた途端、頭に直接響くような声が聞こえてきた。
自分を呼ぶ、声。
驚いて目を見開く治にたたみかけるように、声は呼び続ける。

【――――こっちだよ】
【早く―――早く、見つけて】

見つけて欲しくてたまらないとでも言いたげな、まるで子供のような声。
驚いて辺りを見回すと、声が聞こえやすい方向とそうでない方向があることに気がついた。

―――間違いなく、自分を呼んだ声はこの中にある。
そしてその『声』は、見つけて欲しがっている。

自然と足が動き出す。
一歩踏み出せば―――すぐに二歩目を踏み出して。
治は、何時の間にか早足で進んでいた。

【――こっちだよ】

歩くごとに、段々と急かす声が大きくなっていく。

【そっちじゃない】

【こっちだよ】

【早く―――早く見つけて】

【ずっと―――――ずっと、待っていたんだよ】

どこですか。
どこにあるんですか。
どこに―――いるんですか?

焦るように足を動かしていくと、声がはっきりと聞こえる場所が少しずつ理解できていく。
ここは左。こっちは奥へ。
入り組んだ棚をまるで迷路を抜けるかのように進んでいくと、銀光が眩い棚へと辿り着いた。


――――――この棚の中だ。


この列を見た瞬間、不思議な確信が湧き上がった。
間違っているかもしれない、と言う思いは微塵も湧かない。
自分を呼ぶ声は、気づけばぴたりと止んでいた。
…後は自分で探せ、と言うことなのだろうか。

暫く悩むように顔を伏せた治だったが…じきに、顔をあげる。
…おそらく、後は己の勘を信じるしかないのだろう。
治は少々の逡巡のあと、覚悟を決めて歩き出す。
靴が硬質な床を叩く音。
少しずつ、少しずつ、棚の中にある商品を見ながら通り過ぎていく。
しかし、視界の端を通り過ぎていく品物達は、どれ一つとして目に留まることはない。

そして――――丁度棚の中間に来たところで、治の動きが止まった。

「――――――これ…」

治の目に留まったのは――ごくごくシンプルな、ペン。
漫画を描くのに使う、普通のペン。
見た目が変わっているわけでもないのに、そこから…なんだか、不思議な力を感じる気がした。

そっと手に取ると―――頭の中に、唐突に映像が浮かんでくる。
それは――――――俗に言う、『ネタ』だ。……平たく言えば、アイディアだ。
次から次へと浮かんでくるそれは、今まで考えたこともない内容で…治は、目を見開いた。


【――――やっと、会えた】


本当に心の底から喜んでいるような、嬉しそうな声。
その響きに思わず驚いてペンを見ると、両サイドからぱちぱちと手を叩く音が聞こえてきた。

「―――無事、見つけることができたようですね」
「ふふ、おめでとうございます、治さん?」

継彌と、巳皇だ。
何時の間に、とか言う前に、治はこのペンが不思議で仕方がなかった。

「これは…?」
その問いかけに、継彌は微笑んだ。

「そのペンは何かを描く速度が飛躍的に上がり、且つ、アイディアが腐るほど出てくるようになるペンです」

――――何と俗物て…もとい、面白いペンだ。
治は驚いたような呆れたような、そんな不思議な感情で手に入れたペンを見つめる。

「――――――あぁ、そうですわ」

じーっとペンを見つめていると、何時の間にか隣に来ていた巳皇が唐突に手を叩く。
びくっと驚いて巳皇を見ると、彼女はにっこりと微笑んで彼の首に手を伸ばす。
また何かされるのではと怖さのあまり硬直していると、首にはなにやら冷たくごわごわした感触。
なす術もなく大人しくしていると―――首の前の方で、カチャリとベルトの金属を止めるような音がした。
そして、ゆっくりと巳皇の腕が離れていく。

「あら、やっぱりお似合いですわvv」
「……はい?」

目の前から一歩下がったところで治を見た巳皇は、嬉しそうに手を叩いて彼を見る。
一体何が起こった…?
嫌な予感がして顔を青くする治を見て、継彌が丁度立てかけてある商品の中にあった鏡を手に取り――彼に、見せた。

そして―――治は、危うく失神しかけることになる。
…なぜなら。
自分の首に――――首輪が、はめられていたからだ。

さーっと血の気が引いていく治を楽しそうに見ていた巳皇は、にっこりと微笑むと―――口を開いてトドメをさした。


「わたくしからのプレゼントですわv
 ――――――もし外しでもしたら、ただじゃおきませんわよ?」


――――――――――治がショックのあまり倒れたのも…無理はないだろう。


●夢現●
―――ペンを手に入れた後、倒れた治が目を覚ましたときには更に一時間ほど経過していた。
    その後は、三人でのんびりとしたお茶会。

黒界の話を少し聞いたり、継彌に鳳凰堂の話を聞いたり、巳皇にからかわれたり、巳皇におちょくられたり、巳皇にペット扱いされたり…。
…ほとんど巳皇に何かされていたということは、秘密だ。

時を忘れて…というより考えていられないほど大変な思いをしている治に向かい、ふいに継彌が壁を見て口を開く。

「―――そろそろ、お帰りになった方がよろしくありませんか?」

「え?」
その呟きに治が継彌の視線を追って壁を見ると、そこには大きな振り子時計が立てかけられていた。
何時の間に、と思ったが、それよりも気になるのは、その時計の針が指している時間。

――――――夜、六時半。

特にといって遅い時間ではなかったが、折角だから一刻も早くここから立ち去りたい。
…っていうか、とっとと巳皇から離れたい。
継彌の言葉はいい口実になる。

「…そうですね。そろそろ、帰ります」

そう言うと、治は疲れた身体に鞭打って腰を上げる。
一緒に巳皇と継彌が立ち上がったところを見ると、一応見送りをするつもりらしい。

すたすたと歩くと、店舗を横切って引き戸に手をかける。
そしてかけた手に力を入れると、扉をゆっくりと引いて開く。
「…それじゃあ、失礼しました」
振り返って一礼すると外から差し込む夕日に目を細めながら、一歩踏み出して―――。

「それじゃあ、どうぞ、お元気で」
「わたくしからのプレゼント、大事にしてくださいね?」

――――――二人の声が聞こえると同時に、ぐにゃり、と…世界が歪んだ。

***

「…え?」

驚いて一瞬閉じた目を開いた治の視界に入ってきたのは―――雑踏。
人が行きかい、ざわざわと話し声がざわめきを作り上げる。

「ここは…」

驚きに見開かれたその瞳に映るのは、自分が鳳凰堂に訪れる少し前まで通っていた場所に相違ない。
本来ならば、自分が出た場所は開けた場所で、ざわめきなど全く聞こえない、真空のような空間だった筈だ。
振り返ってみれば、そこにあるのは人の波。
あのどこか古ぼけた引き戸どころか、店自体全く見当たらない。

「……幻、だったのでしょうか…?」

あの店は、自分が見た幻だったのではないだろうか。
ふと、そんな思いに駆られる治。
…というか、正直そう思い込みたかった。

―――しかし、世の中とは非常なもので。
そっと首に伸ばした手に、皮の…首輪が、触れた。
鏡を見ないでもわかる。
そこには―――きっと、あの店で巳皇からプレゼントされた首輪がついている。


――――――夢じゃなければ、幻でもない。…現実。


そのことを理解して思わず鬱になった治は、がっくりと肩を落とす。
きっと体中の変な痣も消えていないだろう。
あぁ、許嫁に追及されたらなんて言おう。

半分現実逃避気味なことを考えながら、治はゆっくりと歩き出す。
手にしっかりと握られたペンからアイディアが湧くのを感じながら、帰ったらメモしておこうと心に誓いつつ。


……家に帰ったら、丁度遊びに来ていた許嫁に痣と首輪のことを思い切り詰め寄られ、言い訳に四苦八苦する羽目になることは…今の治は、知る由もない。


―――これ以降、治の発本速度が飛躍的に上がったが…。
    ……どこか、内容が過激になっている気がしないでも…ない。


<結果>
記憶:残留。むしろ強制残留。
入手:ペン(普段の何倍もの速度で描け、アイディアが腐るほど出てくるようになるペン)
    首輪(普通の皮製の首輪)


終。

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】

【2977/描舞・治/男/16歳/高校生兼漫画家/光】

【NPC/巳皇/女/?/狭間の看視者/闇】
【NPC/継彌/男/?/『鳳凰堂』店主兼鍛冶師/火&水】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第二弾「鳳凰堂の章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
今回は前作に比べて皆様の属性のバリエーションが広がっており、ひそかにほくそ笑みました(をい)
まぁ、残念ながら火・地属性の方にはお会い出来ませんでしたが…次回に期待?(笑)
また、今回は参加者様の性別は男の方のほうが多くなりました(笑)いやぁ、前作と比べると面白いですねぇ(をい)
ちなみに今回は残念ながら鎖々螺・鬼斬と話す方はいらっしゃいませんでした…結構好きなんですけどねぇ、私は(お前の好みは関係ない)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)

・治様・
ご参加どうも有難う御座いました。また、巳皇をご指名下さって有難うございます。
…哀れですね、とてつもなく(をい)中々話させる機会がなく口数が少なくなってしまい、申し訳ありません…(汗)
巳皇がすっかり変態チックですが、本当はこんなキャラじゃないんですよ?……本当ですよ??(滝汗)
でも書いててすっごく楽しかったです(ぇえ)まるで気分は巳皇でした(笑)
ちなみに一番最後の題名は「ゆめうつつ」と読んでくださいませ。
首輪に関しては渡す相手は話の関係上巳皇に変更させていただきました。また、これはとりあえず何の変哲もないものですので、単なる装飾品として扱って下さい。

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。