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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


激闘! 流しそうめん部!

1.
夏の定番と言えば、流しそうめん・・・。
その流しそうめんに命をかける若者がいた。
ここは『流しそうめん部』。夏にのみ活動する部活である。

「年に一度のインターハイで〜ス! みなサ〜ン! 全国優勝目指すデ〜ス!」

女子用のジャケットの下に男子用のズボン、その上にはピンクの羽根付きストールを羽織っている・・・。
夏の格好とは到底言いがたく、見る者を暑くさせる格好のその若者はさらに言う。

「でも、部員はアタクシ1人のみデ〜ス・・・ん? そこのアナタ!! 流しそうめん部に入り、全国大会目指すデ〜ス!!」


2.
『えー。ただ今マイクのテスト中〜・・。よし』
少女がなにやらマイクを数度叩き、ゴホンと咳払いをした。
『ただ今から、ここ・神聖都学園体育館にて流しそうめん全国大会開会! まずは選手入場〜!』
まばらな拍手の渦の中、ファンファーレと共に選手入場が開始された。

『まず、神聖都学園流しそうめん部所属。3年生、シオン・レ・ハイ選手〜!』
黒髪に青い目が印象的なシオンは言った。
「そうめんがタダで食べられるんです。頑張ります」

『2年生、海原(うなばら)みあお選手〜、シュライン・エマ選手〜!』
銀髪のみあおと黒髪のエマ、どちらとも長い髪ゆえに好対照と言える容姿の美少女2人。
「いまだによく理解してないのだけど・・ルールや違反項目、聞いた覚えある?」
「そういえばまだ聞いてないですね。それよりも素麺がおいしいのを使っているか気になります。水の中を流すからコシは必須だし、茹で時間も大切だし・・」
「私、すくうより茹でる方が自信があるのよね」
しかし、会話内容は少々色気がないような・・・?

『1年生、鈴森鎮(すずもりしず)選手〜!』
「素麺! タダ! 食べ放題! 俺はやるぜ!!」
ガッツポーズでやり気満々、緑の瞳は熱い闘志に燃えている!

『そして、部長の3年生、マドモアゼル・都井(とーい)選手・・・は本日裏方で素麺茹で係〜!』
「ノーーッ!! ジャンケンに負けたデ〜ス!!」
流しそうめん部に命をかけてきた若者、マドモアゼル・都井はがっくり膝を折った。
だが、そんな悲嘆にくれるマドモアゼルを無視し、他校の選手入場が無慈悲にも続いていくのであった・・・。

『最後になりましたが本日の司会及び実況として、暇なところをスカウトされたボク・月神詠子(つきがみえいこ)と同じく拉致られてきた草間武彦(くさまたけひこ)でお送りするよ! ヨロシク!!』
「何で俺がここで実況なんか・・・」
ブツブツと呟く草間を構いもせず、月神は高らかに叫んだ。

『さぁ! 全国を制覇するのはいったいどこの高校なのか!?』


3.
『基本ルールを説明する。箸、つけ汁、薬味、箸など全て思いのままに持ち込み可。
 暴力などの妨害は不可・即失格となるが精神的妨害は可。
 流しそうめんの竹を挟んで両校が一列に並ぶ。なお、同校内でのローテーションはいつでも可。
 素麺1すくい毎に1ポイント。 なお、色付き素麺をすくうと2ポイント入る。
 ・・ちっ。なんで俺がこんなことを・・』

ルール説明をしながらぼやく草間に野次の声が飛ぶ。
「こら、チョコ! 受けた以上はちゃんと仕事しなさい!」
「チョコって呼ぶな、シュライン!」
さすが草間。どんなに離れていても声だけでエマだと分かるとは。
「なんでチョコなの?」
「いつもシガレットチョコ食ってるからって、シュライン先輩が命名したんですよ」
みあおのきょとんとした問いに鈴森がニヤニヤと答えた。

「なるほど。それでだったんですかぁ〜。前から気にはなってたんですけどね〜・・」

「・・って、今更知ったんですか!? シオン先輩!」
みあおと鈴森の会話を聞いていたシオンが1人納得したのを鈴森は逃さず突っ込んだ。
『そこ! 別のことで盛り上がらない! 神聖都学園の対戦校は魔怪邑学園!!』
「マカイムラ? ゲーム?」
「それ、元ネタ分からない人いるかもしれないからダメよ」
シオンの呟きにエマはポンッと肩を叩くとそう言った。
「かっこいい人とかいるかなぁ? 流れてくる素麺をとろうとして、男の子の箸と触れてしまう。頬を染めあう2人。い〜な〜♪♪」
なにやらみあおは1人学園恋愛モードに入って、身悶えている。
が・・・。

現れた魔怪邑学園の面々は、筋肉ムキムキな・・まさしく怪物的な顔の男子生徒たちだった。

『コレは強そうだ! 魔怪邑学園!!』
「っていうか、流しそうめんに筋力は必要ないのでは?」
月神の実況に思わず鈴森は突っ込みを入れる。
『・・キミ鋭いね。あ、後ろの彼女、固まってるよ』
ハッとして鈴森が後ろを向くと、先ほどまで学園恋愛モードに入っていたみあおが1人化石となっていた。
「あぁ!? しっかり、海原先輩!」
「夏草や、つわものどもが、夢の跡・・・」
「綺麗にまとめなくていいし、それ意味違うから」
ハラハラと涙を流しみあおに同情の句を贈るシオンに、エマは冷たく呟いたのだった。


4.
上流から3番目の位置に着いた。

・・にしても、ここだと食べられる量が少なそうです・・。
後でローテーションしてもらえないかなぁ・・。

と、いった少し弱気な本音は見せず、シオンは静かに懐からマイ箸を取り出した。
「私に箸でつかめぬものはありません」
いつの間にかスポットライトを浴び、シオンは決めポーズを取っていた。

「伝説の箸職人が何千本という失敗を繰り返して完成させた奇跡の一品・・・それがマイお箸の誰にも知られざる正体であった」

『シオンくーん、口に出して言ったから全員に知られちゃったよ〜?』
月神の痛恨の一撃!
シオンは自らのマイ箸の秘密を自らばらした!
「・・うぅ。どうかここだけの秘密に・・」
シオンは少しだけ凹んだ。

『位置についてー! 用意スタート!!』
素麺が次々に流れ出した。
上流から次々に白い素麺が流れてくる。
どうやらシオンが予想していた流れるスピードが早いとか、1本から大量とランダムに流されるようなことはないようだ。

1本も見逃さない! 沢山食べるのです!

シオンの顔は怖い位の気迫に満ちていた。
そう、目の前にいる魔怪邑学園選手Cがブルブルとその筋肉を抱えて震えるほどに。
水の流れに目を閉じ、精神を素麺が流れてくる気配にのみ集中させる。
そして、その気配を感じ取ったシオンはカッ!と目を見開いた。

「スクリュー・デ・ハウ・ドゥー・ユー・ドゥー!?」

箸を高速回転させ素麺をまるでスパゲティのようにからめとる!
その勢いで麺つゆまで高速移動、そして高速食い!
『すごい! シオン選手、さすがは外国人! 日本人ではまるで思いつかない技を披露だ!』
『っていうか、すっげぇ効率悪いんじゃ・・・ぐはぁ!』
月神の実況に突っ込みを入れていた草間が、どこからともなく飛んできたチューブわさびにクリーンヒットして撃沈!
その間もシオンは『スクリュー・デ・ハウ・ドゥー・ユー・ドゥー!?』を駆使しつつ、素麺をすくい取っていく。
そして、彼は叫んだ!!

「麺つゆ、つゆだくでおかわりです!!」


5.
『白糸の舞!・ピンクの素麺、いただきま〜す!!・裏方さん、美味しく頂きます・・・などなど、各選手すばらしい技を次々と披露! そして試合終了! 判定はいかに!?』
ゴンゴンゴンゴン!! と派手にゴングが打ち鳴らされた。
選手Aを途中から圧倒したみあお。
選手Bに惚れられてしまったエマ。
驚異的集中力で次々と素麺をすくい上げていったシオン。
そして、一躍パフォーマーとして脚光を浴びた鈴森。
これで勝てなきゃ嘘である。

『判定が出たよ・・・勝者、神聖都学園!!』

その声に会場は沸きあがった。
勝利の喜びを分かち合う選手たち。ここに青春の絆が誕生したのだ!
『優勝トロフィーの授与を始めるぞ。神聖都学園代表前へ』
ようやく解放される喜びに、草間の声も心なしか明るい。

「アタクシが参りマ〜ス!」

一歩進み出て、とっととトロフィーを受け取った人物に一同目を丸くした。
「全てアタクシの指導の賜物デ〜ス!」
そこには、ジャンケンで負けて裏方になっていたはずの流しそうめん部部長・マドモアゼルが!?

『アンタ何もやってないでしょうが!!』

会場一丸となってのツッコミがマドモアゼルへとクリティカルヒット!
だが 「裏で素麺を茹でて、流してましたで〜すヨ〜?」 と一言。
厚顔無恥か、はたまた天然なのか? 悪びれた様子は微塵もなくダメージにならなかった。
「これで流しそうめん部は全国一になりましたから、次は秋限定の『芋ほり部』に情熱かけるデ〜ス!」

「なんだか頭痛がしてきたので早退するわ・・」と、険しい顔でシュラインが去る。

「ご馳走様でした〜。夏のよい思い出ができました」と微笑み、みあおが去る。

「美味しかったです。久しぶりにお腹いっぱいになりました・・」と、満足げにシオンが去る。

「俺、なんか食い足りない・・・ラーメンでも食いにいこっかな・・」と、少々不満げに鈴森が去る。

『じゃあ、大会も終わったことだし、俺も消えるわ』
『照明さん、ライト消していいよ〜。 あ〜面白かった!』と草間と月神も去る。

次々に消えていく会場の照明。
そして、観客も他校生も先生も立ち去り・・・残ったのはタダ1人。
「・・オゥ!? 部員1人もいないデ〜ス! 誰か『芋ほり部』に入りまセ〜ンかぁ!?」

そんなマドモアゼルの呼び声も空しく、最後の照明が今、消された・・・。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■
【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

1415 / 海原・みあお / 女 / 2年C組

0086 / シュライン・エマ / 女 / 2年A組

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 3年C組

2320 / 鈴森・鎮 / 男 / 1年A組


NPC / 月神・詠子 / 女 / ?
NPC / 草間・武彦 / 男 / 2年A組
NPC / マドモアゼル・都井 / ? / 3年B組


■□     ライター通信      □■

シオン・レ・ハイ様

この度は幻影学園奇譚『激闘!流しそうめん部』へのご参加ありがとうございました。
今回は第4章が完全個別となっております。
他の方々が何をしていたか、第5章で少し触れておりますがお時間が許すようであればお読みいただければと思います。
色々と試行錯誤していただく姿を非常楽しく書かせていただきました。
三年生という最上級生にありながら微妙な腰の低さ・親しみやすさがボケ担当になりやすいのでしょうね。(褒めてます)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。とーいでした。