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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


正義の小太刀

  草間興信所のデスクの上に、一つの桐彫刻が置かれている。
 鳳凰の姿をかたどったそれは、実はただの彫刻ではない。とある神社の御神体であった彫刻であり、その彫刻には神様が宿っている。
 その名は桐鳳。
 何時の間にやら草間興信所に居候している桐鳳は、かつて自分の神社に納められていた品の回収をしている。
 時に興信所の調査員に協力を願い、時に自分一人で行動して。
 かつて桐鳳が御神体として納められていた神社は、曰く付きの品の供養・封印を行うことを主な仕事としていた。
 ゆえに。
 盗難に遭い散逸してしまった神社の品々はすべて、あまり一般に放置しておけないような品ばかりなのだ。


 堂々と依頼書を読み耽る桐鳳に、草間武彦は低い声音で言葉を発した。
「……おい」
「なあにー?」
 武彦の機嫌の悪さなどものともしない明るい返事に、武彦は重い溜息をつく。
「読むなとは言わない。だがせめて、俺の邪魔はしないでくれ」
「ええ? 別に邪魔なんかしてないよ〜」
 けらけらと無邪気に笑う桐鳳の現在地、机の上。
 書類整理をするにも、考え事をするにも、思いっきり目障りで邪魔な位置取りであった。
「そこからどけと言ってるんだ、俺は」
「でもさあ、僕、背が低いから。乗らないと見えないんだよ」
「おまえ、空飛べるだろう」
「飛びっぱなしも疲れるんだよ」
 なんとも進展のない言葉の応酬に苦笑しつつ、零がお茶を出してきてくれる。
「どうもありがとう。零さん」
「どういたしまして。兄さんもどうぞ」
「ああ」
 ふと。依頼が少ないわりにごちゃっとしている机の上から、桐鳳は気になる文章を読み取った。
「どうした?」
「この新聞の記事」
 桐鳳が指差したのは、最近巷を騒がせている辻斬り事件――しかも小太刀を使っての犯行ということで少々話題になっていた。
 当初は無差別かとも思われたが、その後の警察の調査で被害者に共通点があることが判明した。被害者は皆、斬られる直前に煙草を吸っていたのだと言うのだ。
「ね、武彦さん。僕、この事件の調査がしたいなあ。人手、貸して?」
「調査員への仕事料はどうするんだ」
「僕がお金持ってるわけないじゃん」
 ――まあ、どうしてもって言うなら、無難そうな物をあげてもいいんだけど。
 そんなことを思いつつ、桐鳳はチラと興信所の一室、桐鳳の専用倉庫となっている部屋に視線を向けた。



 草間武彦の連絡を聞いてやって来てみれば、ソファには和装の少年が一人座っていた。
「初めまして、こんにちわ。僕、桐鳳って言います」
 いかにも良い子っぽく、礼儀正しくお辞儀をした少年が今回の依頼人なのだろうか?
 チラと武彦に目をやると、武彦は何やら疲れた様子で溜息をついた。
「えーっとですね。この辻斬り事件の犯人を捕まえるのを手伝って欲しいんです。正確には、犯人が使っている小太刀を回収して欲しいんですけどね」
「……ここに依頼に来るということは、警察の手には追えないものなんだな」
「はい」
 にっこにっこと。物騒な話に似合わぬ笑顔で桐鳳は頷く。
「現金の持ち合わせがなくて申し訳ないんですけど、依頼料は僕の私物ってことにしといてもらえないでしょうか」
「ま、別に報酬はなんでもいいぞ。誰かと違い、金に困ってないしな」
 ニヤリと笑って武彦の様子を見ると、やはり金の話題は堪えるらしい。しかし武彦も負けてはいない――いや、口だけ達者と言うべきか。
「だそうだ。この男を貸してやる」
「……誰が男だ」
 べしりと、パンチが1発。
「それに『貸してやる』とはなんだ。私はお前の物じゃないぞ」
 続けて数発。武彦はぐらりと椅子ごと床に、ダイブした。



 辻斬り事件調査のために集ったのは、シュライン・エマ、黒冥月、海原みなも、向坂嵐、榊船亜真知の五人。
「協力どうもありがとう。それでえっと、事件のことなんだけど」
 被害者多発、重傷者も出ている事件を扱うという割には妙に軽い雰囲気で、桐鳳がこの周辺の地図を出してきた。
「出現時間と地域を調べてみたの」
 しかしそう説明を加えたのは桐鳳ではなくシュラインだ。時間帯については特に規則性が見られなかったが、出現地域はそう広範囲ではない。
 地図を確認して頷きながら、亜真知はこくりと頷いた。関わる事件がわかっていたため、亜真知も独自で情報を集めておいたのだ。
「警察の方では、目撃情報が見つからずに捜査が難航しているみたいです」
 シュラインたちから出なかった――警察関係の情報ネットワークから引っ張ってきた情報を告げる。
「場所がわかってて、他から情報が得られないなら囮作戦が一番じゃねえの?」
 告げた嵐は、俺が囮をやってもいいし、と付け足して言った。
「ふむ。確かに有効な手段だが……」
 ちらと、冥月の視線はデスクで他人事を決め込む武彦に向いた。喫煙者はあそこにもいるのだ。
「うーん……。できたら危険な方法は避けたいですけど……。桐鳳さんはその小太刀について詳しいことは知らないんですか?」
 みなもの問いに、桐鳳はあっさりにっこり笑って頷いた。
「僕のところに来た時にはもう封印されてたからねー。使ったことないし。ただ気配は覚えてるから、近づけば多分わかるよ」
 相変わらずどこかいい加減な神様に、呆れ半分の溜息をつく者が数名。そんな場の空気を一切気にせず、冥月が提案を告げた。
「警察の聞き込みでもわからないものをこれ以上調べるのは難しいし、手っ取り早く囮作戦で行かないか?」
「そうですね……一応念の為に周辺の聞き込みくらいはやってもいいと思いますけど」
「最終的にはそれが一番良いかしらね」
 みなもとシュラインがまず頷き、残る面子も同意して。一行は作戦を立てて、その日は解散した。



 囮組になったのは、喫煙者である嵐と察知能力を持つ冥月だ。同じ察知能力ならば桐鳳も察知できるが、幼い子供に囮をさせるのは気が進まないという意見が出、桐鳳も反対しなかったのでこうなった。
 公園のベンチに2人で座り、周囲を警戒する。一日目で出ると思うのは都合が良すぎるが、通り魔の出現がほぼ毎日なのも事実。
 延々待ち続けること数時間。
「マナーの悪いやつも多いから、憤る気持ちもわからないでもないけどなあ」
 嵐は携帯灰皿で吸い終わった煙草の火を消して、新たな煙草に火をつける。
 半暇つぶしの話題だったが、まったく無関係の話題でもなかったので、冥月も話にのって頷いた。
「そうだな」
 と、そこでふと思う。
「……マナーの悪い者が狙われていたのではないか?」
「へ?」
 2人は頭の中に地図を描きながら確認してみた――襲われているのは道ばかり。つまり、道を歩きながら煙草を吸っていたところを襲われた可能性が高い。
「ルール違反は気が進まねえけど、仕方がないか」
 言って嵐は、ひょいとベンチから腰を上げた。



 公園の散歩道を歩いてくる中年の男が一人――。小太刀は、持っていないように見える。
 だが。
 長年暗殺者として動いてきた勘が、冥月を動かした。
「来るぞ」
 小声で隣の嵐に告げると、嵐はすでに気付いていたようで、表情が厳しくなっていた。
 一瞬前まで手ぶらであったはずなのに、男の手に突如小太刀が現れた。
 どうりで……。
 目撃証言が少ない理由の一つが判明したが、今更どうでも良いことだ。
 男が小太刀を振り下ろしてくる。その動きはまるっきり素人のもの。
 その時――2人と男の間に水の壁が立ちはだかった。
「大丈夫ですか?」
 割り込んできたのは待機組の4人であった。
「ああ。……あの男は操られてるだけのようだ」
 冥月の言葉を聞いて、一行の視線が小太刀と男の間を彷徨う。
「説得はできないかしら」
「そのためにはまずあいつの動きを止めないとな」
 襲っている対象からか、悪いものという印象を感じられなかったシュラインの発言に、嵐がそう答えを返した。
「それなら、私がどうにかしよう」
 冥月の言葉と共に、一瞬にして影が実体化する。
 素人であるらしい男が、これを避けられるわけがなかった。
 拘束された男を前に、一行はとりあえずほっと一息ついた。
「……どうしてこんなことをしたんですか?」
 みなもの問いかけに、男が答える様子はなかった。
「とりあえず、これは返してもらうよ」
 いつの間に回り込んでいたのか、桐鳳が男の手から刀を取り上げる。
 途端、男の身体ががくりと崩れ、意識を失った。
「やっぱり、人に憑くタイプの物だったのね」
「こいつはどうする?」
 小太刀ではなく男の方を指して冥月が言う。
 しばしの沈黙ののち。
「この方も被害者のようですし、元凶がなくなれば大丈夫ではないでしょうか」
 亜真知の意見は他の者も感じていたことであり……反対意見は出なかった。



 その後、桐鳳の調べにより、小太刀は憑りついた人間の感情に反応するものらしいということが判明した。そうやって人を襲い、人の血を啜る――という妖刀だそうだ。
「今回の場合は、偶然小太刀を手にしたあの人が歩き煙草を極端に嫌ってたから、喫煙者ばっかり襲われてたんだと思うよ」
 物騒な話にもかかわらず、やっぱり桐鳳はにこにこと笑顔でそう告げた。
「あ、そうだ。お礼の話だけど……何が欲しい?」
「特に欲しいものはないが……。貰えるものは貰っておこう」
 冥月の答えに、桐鳳はぷくっと頬を膨らませた。
「なんでも良いが一番面倒なんだよ。それじゃ、本当に適当に選ぶからね」
 告げた桐鳳が持って来たのは、土鍋。
「これで鍋をやるとね、お肉とかお魚とかの食べ時を教えてくれるの」
「…………」
 なんの役にも立たなそうなそれをとりあえず受け取って。冥月は、草間興信所をあとにした。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1252|海原みなも|女|13|中学生

0086|シュライン・エマ|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2380|向坂嵐|19|バイク便ライダー

2778|黒冥月|20|元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

1593|榊船亜真知|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?

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         ライター通信          
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こんにちわ、日向 葵です。
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
少しなりと楽しんでいただければ幸いです。

今回ちょっと時間がギリギリで、個別メッセージを書く時間が取れませんでした。
楽しみにしてる方いらっしゃいましたらごめんなさい(TT)