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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


幻影学園奇譚:学園カツアゲ騒動
イベント項目:学園生活
執筆ライター:水上雪乃
募集予定人数:1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 めそめそ。
 いじめられっ子の三下忠雄が泣いている。
 夕闇のせまる校舎。
 白亜の壁も真っ赤に染まるときたもんだ。
 カツアゲされたあげくに殴る蹴るの暴行を受けた三下が、泣きながら体育館裏でしゃがみ込んでいた。
 ありがちな光景である。
 そこを通りかかる人影。
 イマドキ珍しい長ラン。口にくわえたタバコ‥‥ではなくてシガレットチョコ。
 タバコは二〇歳になってから。
 明後日の方向に決めポーズを作る男。
「ううう‥‥」
「サンシタじゃないか。どうしたんだ?」
「うう‥‥ミノシタですよぅ‥‥」
「んなこたぁどうでもいい。なんだってこんなところでめそめそしてるんだ?」
「武彦く〜ん〜〜〜‥‥」
 なんか泣きついてくる。
 ちなみにこの男、草間武彦という。
 神聖都学園の二年生で、ちょっと不良っぽいが、なかなか良いやつなのだ。
「どうしたんだよ。泣いてちゃわからねぇぜ」
 ぽむぽむと肩を叩いてやったり。
 夕日が二人を照らす。
 やがて、明らかになったのは、不良グループに三下がカツアゲされ、バイト代を丸ごと奪われてしまったという事情だ。
 貧乏な三下が一生懸命はたらいた成果を奪うとは、
「許しちゃおけねぇな」
 ぎりっと奥歯を噛みしめる草間。
 どうしたことか、本当に良いやつだ。
 無意味に張り切っているのかもしれない。
 暮れなずむ空。
 一番星が、きらりと輝いた。





※草間と組んで、カツアゲグループをやっつけるも良し。
 カツアゲグループの一員でも良し。
 はたまた、通りすがりの人でも良し。
 どんなスタイルでの参加も自由です。
 コメディーです。


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学園カツアゲ騒動

「さあっ! あの夕日に向かってダッシュだっ!!」
「はぃぃっ!!」
 肩を組んだ男と男。
 暑苦しいというか、ウザい光景である。
 べつに紹介しなくても良いのだが、このふたり、草間武彦と三下忠雄という。
「あにやってんのよ‥‥」
 背後からかかる声。
 げっそりと疲れているように聞こえなければ、耳鼻科なり精神科なりに行った方がよい。 月がとっても蒼いから、色盲検査を受けました。
 みたいなノリだ。
「つーかどういうナレーションよ。それは」
 あさっての方向にびしっとつっこんでくれる少女。
 モデル並みに背が高く、月じゃないけど蒼い瞳と黒い髪が印象的だ。
 シュライン・エマといって、なんと草間武彦の同級生である。
「チョコ。あんたまた三下くんをいじめたんでしょ」
 決めつけるシュライン。
「なんでいじめるんだよっ つーかチョコ呼ぶなっ」
 狼狽する草間。
 とても愛らしいニックネームのチョコくんだ。
 理由は、いつもシガレットチョコをくわえているから、という安直きわまりないものだ。
 まあ、しょせん草間なので、チョコでもガムでもタケヒゴでも、好きなように呼んでかまわないだろう。
「‥‥おれっていっつもそんな扱いだよな‥‥」
「それは仕方ないでぇすね」
 ぽふ。
 声とともに、黒板消しが草間の頭に乗る。
 もうもうたる白煙。
 昔のコントみたいだ。
「‥‥先輩?」
「なんでぇすか?」
「ふたつばっかり聞いていいっすか?」
「ダメでぇす」
「‥‥そうっすか‥‥」
 高校生活は縦社会である。上級生に逆らうなど決して許されないのだ。
 たとえ、なんで不条理妖精のくせに一五八センチもありやがるんだっ!! と思ったとしても口に出してはいけない。
 たとえ、なんでおまえが俺より学年が上なんだっ!! と思ったとしてもぐっと我慢の子だ。
 がんばれ草間タケヒゴ。
 未来は君のためにあるのである。
「‥‥すばる。みょーなナレーション入れない」
 腕を伸ばしたシュラインが、その辺の茂みの中から少女を引っ張り出した。
 ちなみに前者を露木八重、後者を亜矢坂9すばるという。
「べつに紹介しなくて良いよ。そんなやつら」
 隅っこでぶつぶつ言ってる草間。
 もちろん、一顧だにされない。
「なんかぞろぞろ集まってきましたねぇ」
「おまえもなー」
「ははは。楽しそうだったもので」
「暇人」
 シュラインに白眼を向けられた桐崎明日が、へらへら笑って見せた。
 騒ぎがあると見物したくなるのが人のサガ。
「ロマン寝具なのである」
「ソレ違ウ」
 無表情でツッコミをいれるシュライン。どこから指摘して良いものやら、ボケがうじゃうじゃいると、ツッコミは大変だ。
「一号でぇす」
「二号である」
「あ、じゃ俺三号でいいですよ」
「僕は四号で‥‥」
 八重、すばる、桐崎、三下の順で言う。
 バカばっかりだ。
「ひとりたりないぜっ!」
 唐突に降りかかる声。
 一斉に上を見る草間武彦と愉快な仲間たち。
「あ、こっちこっち」
 反対方向。物置の上に立った人影が、申し訳なさそうに申し出る。
『おおっ!?』
 振り返る一同。
 びしっとポーズを決めた少年。
「この俺が、五人目だっ!!」
 のたまっている。
 まあたしかに、五人いないとダメという規則が、世界のどこかにはあるのかもしれない。ないと決めつけることもないだろう。
 こころは広く。
「あぶないから降りていらっしゃい。鎮くん」
「あ、はーい」
 シュラインのいうことは良く聞く鈴森鎮。
 通称、
「こんにちは、ちん」
「ちんっていうなーっ! うに!」
「うにはやめてくださいよ」
 にらみ合う桐崎と鈴森。
 うにとちんの対決だ。
 背景に炎など浮かべて、ハブとマングースの戦いのようだ。
 男とは、譲れないものを持つのである。
 傷のない男は、生きる資格すら持たぬのである。
「すばるはもういいから。それより、これ全員なの?」
 また勝手に話を進めようとするすばるを受け流しておいて、シュラインが周囲を眺めやる。
「あれー? 皆さんおそろいでどうしたんですか?」
「やっぱりきたわね‥‥」
 内心で呟く美女。
 現れたのは、シオン・レ・ハイという三年生だ。
 ちなみに八重とはクラスが違う。
 まあ、この二人を同じクラスにするほど、神聖都学園も経営を投げ出してはいない、ということだろう。
「とりあえず八人ね」
「なにがですかー?」
 ぼーっと間の抜けた口調で問い返すシオン。だれも事情を教えてくれないのだから仕方ないが、最上級生としての威厳など、一ミリグラムもなかったりする。
「ブレーメンの音楽隊みたいでぇすね」
 何の根拠もないことを八重が言う。
「数がぜんぜん合ってねぇっすよ。先輩」
「うるさいでぇすね。雰囲気です雰囲気」
 持っていた傘で、草間の足だの背中だのを突きまくる三年生。いじめみたいだった。
「いってーっ! 傘はダメージでかいって! 傘はっ!!」
 響き渡る草間の悲鳴。
 取り残されたかたちの、シオンと三下が互いの肩をぽむぽむと叩き合っていた。
 麗しき友情に乾杯。
 とりあえず、ボケ担当だらけのパーティーが結成された。


「仕方ないでぇすね。あたしがツッコミにまわるのでぇす」
 力強く告げる八重。
 しかし、この娘の場合は存在そのものがボケ側なのである。
 いまさらツッコミに転向したところで、
「プリンセステンコーもびっくりなのである」
「だからっ! 勝手なナレーションで話をすすめんなっ!!」
 がなる草間。
 ほかの仲間といえば、いまさらすばるの行動にいちいち腹を立てたりしない。
「まあまあチョコ。キャンディーあげるから」
「わーぃ☆ って、俺は子供かっ!!」
 ノリツッコミだ。
 草間の分際でなかなかやる。
 ち‥‥、と、桐崎と鈴森がこっそり舌打ちした。
 ボケられる場面はそんなに多くないのに、草間ごときにその一つを取られるとは。
「しかしっ」
「まだ負けたわけではありませんよ」
 意味不明の決意。
 拳を握る二人の少年。
 とどろき渡る鬨の声。
 そこまでいうとさすがに嘘だ。
「暴力はいけません。暴力は」
 憤慨しているシオンが、さらに続ける。
「三下さんのお金を取られたことはともかくとして、暴力は何も生み出せませんっ!」
 力説だ。
「ともかくとしないでくださいよぅ‥‥」
 めそめそちきん。
「そういう正論が通じる相手でもないと思うけどね」
 鈴森が肩をすくめる。
「どういう事? 鎮くん」
「つまりこういうことです。シュライン先輩」
 説明を始める。
 カツアゲをおこなった不良グループは、べつに三下のみを狙ったわけではない。この手の連中にしてみれば、暴力に屈する相手なら誰でも良いわけだ。
 なにかを生み出そうとしているわけでもない。ただ遊ぶ金がほしいだけ。
「だったら働けばいいんですけどねぇ」
「自分でバイトする人間なら、そもそも他人様のものに手を出さないでぇすね」
 桐崎の言葉に、珍しく正論で応えて肩をすくめる八重。
 一応は最年長者なので。
 ともあれ、理屈などまったくない相手ではあるが、復讐心とかはたっぷり持っている。処置を間違えば三下がより以上のいじめを受ける結果になる。
「そのあたりが微妙なところよね」
 シュラインが、かるく下顎に右手を当てた。
 美しい。
 ほえほえーと見つめる草間。
 お医者さまでも草津の湯でも、というやつなのである。
 君に胸きゅんなのである。
「はいはい。すばる先輩はいいですから」
「もがもがー」
 押さえつけた鈴森が、やや引きつった笑顔で軌道を修正する。
 まったく、放っておいたら何を口走るか知れたものではない。
「いっそ殺っちまいますかぁ?」
 桐崎が言う。
 むろん、すばるを殺すのではない。そうしたい気持ちは山々だが、さすがにそれはまずいだろう。
 この場合の殺すとは、カツアゲをした不良グループである。
「それでも充分にまずいですって」
 たしなめるシオンだったが、
「ところで、カツアゲというのはなんですか?」
 などと聞いていたりする。
 日本人ではないから、やむを得ないといえばやむを得ない。
 むしろ、ぺらぺらのシュラインが特別なのだ。
 しかもいわゆるヤンキー語である。
 外国人が、「ふかしこいてんじゃねーよ」とか、「がんくれてんじゃねーぞ」とかいっていたら、それはそれで変だ。
「トンカツみたいなものなのでぇす」
「おおっ それはおいしそうですねっ」
「それを求めて、ちきんさんしたくんは襲われたのでぇす」
 八重が教える。
 ものすごい勢いで嘘だが、貧乏なシオンの心の琴線に触れる言葉だ。
 羽ばたいてゆく想像の翼。
 無限に広がる四畳半。
 瞳がきらきらと輝いていたりする。
 まあ彼には、いつまでも無限の園を彷徨っていてもらおう。誰の迷惑になることでもないから。
「ま、半殺しくらいですね」
 どこまでも不穏当なうにだ。
「呪いの狸作戦ってのもいいかも」
「どんなのでぇすか?」
「中国の故事にそんなのがあるんですよ。八重先輩」
 すっかり無視して話を進めるシュラインと八重。
「かまってくださいよぅ」
 めそめそする桐崎。
 なかなか複雑なうにである。
「人間は考えるウニである」
 あさっての方向へすばるが解説する。
 三下の全財産の明日はどっちだ。


 不良グループがアジトにしているのは、小さなビルの地下にある喫茶店である。
 狭い階段を下りたところにある薄暗く、しかも胡散臭い店だ。
 どういうものか、不良というものは穴蔵的な店が好きである。
 あとは廃屋とか。
 なんというか「自分たちは悪いことをしている」という認識に酔いたい人たちだから。
 世の中には、悪事という自覚もなく悪事をはたらく者もいる。たとえば一部の政治家とか一部の官僚とか、そういう人々だ。
 彼らは公職にありながら、自分の行為が法的にどういうものなのか知らないのだろう。
 そういう悪徳官僚どもに比べれば、不良やヤクザなど、
「子悪魔みたいなものなのである」
「それをいうなら小悪党だぁっ!!」
 間髪を入れずに放たれた鈴森のコークスクリューアッパーがすばるにヒットし、哀れ少女は星になったのでした。
「死んでない死んでない」
 ぱたぱたと手を振るシュライン。
「しかも子悪魔って、ちょっと響きが可愛いですよねぇ」
 苦笑する桐崎。
「可愛いからといって見逃すわけにもいかないのでぇす」
 言って、八重が喫茶店の扉に手をかけた。
 なにがおかしいって、この娘の言動がまともなのが、一番おかしい。
 まさに不条理だ。
 後ろの方で草間くんがぶつぶついっているが、もちろん誰も相手をしてくれなかった。
「なんじゃおまえらぁっ!」
 入ってきた不審者たちを、目をむいて威嚇する不良。
 残念ながら、それにを恐れたのは、
「こわいですー」
 とかいって、にこにこと草間の後ろに隠れたシオンくらいのものである。
 バカにしきった口調と表情なので、当然のように不良たちはいきり立った。
「ま、この程度の挑発に乗る連中になら、この程度の挑発をしておけば充分ってことですよ」
 くすくすと笑う桐崎。
「アンタたちが他人様から奪った金品、返してもらうぜ」
 鈴森が唇をゆがめる。
 誰から、とは言わない。
 三下のために動いていると知られれば、彼が復讐の対象になってしまうからだ。
 それに、不良どもの全財産を没収すれば差額が報酬になる。
「盗人たけだけしいとはこのことである」
 味方の行動にまで一言いわないと気が済まないすばるだった。
「まあ、それがレゾンデートルのようなものでぇすからね」
「れぞんでーとるっ!?」
 ちなみにレゾンデートルとは、日本語で言うと存在意義ということである。そこにある理由、というやつだ。
 なにがおかしいって、八重がそんな難しい言葉を知っていたことが一番おかしい。
 すばるの存在意義は横に奥としても。
 草間くん悶絶ですよ。
「漫才師軍団?」
 首をかしげる不良たち。
 気持ちはわからなくもない。
「問われて名乗るもおこがましいがっ!」
 大見得を切る草間。
 この集団の中にあっては、このくらいのことをしないと目立てないのである。
「誰も名前なんか訊いてないわよ? チョコ」
「うう‥‥しくしく‥‥」
 ぽむぽむと、同級生の肩を叩いてやるシュライン。
 麗しき友情は、そのうち愛情に発展する、かもしれない。
「やっぱり漫才?」
「いや‥‥ちょっとおかしい奴らかも‥‥」
 ひそひそと小声で会話を交わす不良。
 あながち間違っていないような気もする。
「うるせぇっ!」
「さっさと有り金をすべてだしなさい」
 うにとちんが迫る。
 どっちが悪人だか、わかったものではない。
 そして始まる乱闘。
 すばるが、八重が、珍獣コンビが、瞬く間に制圧してゆく。
『珍獣いうな〜〜〜!!』
 悲痛な叫び。
 もちろん、うにとちんの。


  エピローグ

 戦いすんで日が暮れて。
 祝勝会の会場であるカラオケボックス。
「かんぱーいっ!!」
 元気な声が唱和する。
 誰も心配していなかったことだが、不良の制圧は簡単に済んだ。
 一〇人ほどはいた不良グループは仲良く入院することになったのである。まあ、たかが骨折なので三ヶ月もあれば完治するだろう。
 出席日数が足りなくなって留年するとしても、それは自業自得というものだ。きっと。
「いやぁ 大漁でしたねぇ」
 不良の財布などたいして厚くはなかったが、まあ、それでも多少の金銭にはなった。貧乏なシオンとしては、それで充分である。
「いいのかなぁ」
「良いのである」
「ま、いいじゃないでぇすか」
 やや不安げなシュラインを、すばると八重がフォローする。
 大して効果もなかったが。
 その横で、少年二人が競うように食い物を漁っている。
 なんというか、仲の良いことだ。
 肩をすくめたシュラインが立ち上がった。
 彼女の歌の順番がきたからである。
 やがて、誰もが聞き惚れる歌声が、さして広くもないボックスを満たしていった。
 夢幻のように。











                     おわり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 学年 / クラス】

0086/ シュライン・エマ /女  / 2年 / A組
  (しゅらいん・えま)
3356/ シオン・レ・ハイ /男  / 3年 / C組
  (しおん・れ・はい)
1009/ 露樹・八重    /女  / 3年 / A組
  (つゆき・やえ)
2748/ 亜矢坂9・すばる /女  / 2年 / A組
  (あやさかないん・すぱる)
3138/ 桐崎・明日    /男  / 2年 / C組
  (きりさき・めいにち)
2329/鈴森・鎮      /男  / 1年 / A組
  (すずもり・しず)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「学園カツアゲ騒動」お届けいたします。
普段とは違うキャラクターたちの姿、楽しんでいただけましたか?
じつはすこし忙しくて、シチュエーションノベルとか開けられません。
もうしばらくの間、お待ちくださいね。

それでは、またお会いできることを祈って。





☆お知らせ☆

受付開始時間が再度変更になります。

毎週月曜 午後10時から
 ↓     ↓
毎週月曜 午後9時30分から

です。
ご迷惑をおかけして、もうしわけありません。