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<東京怪談・PCゲームノベル>


Track 03 featuring 海原みあお〜夢の満干全席。


 そろそろ。
 関係各調査機関で勃発した碧摩蓮による連続『人参果の亜種』バラ撒き事件が終結し、半年と数ヶ月。
 取り敢えず仙人だと言う傍迷惑な謎の老人の手により人界に持ち込まれ、怪しい物品専門(…)アンティークショップの女主人経由でバラ撒かれた――それら効能が謎な上見た目もバラバラな人参果もどきは、更に何だかよくわからんなりゆきにより、殆どすべてが料理されて…始末される事になった。
 主たる功労者――この場合料理を作った方では無く食材が食材なのでむしろ食べた方とも言える――こと殆ど海原みあお嬢によって。
 彼女の方としては…嬉々として食べていた。
 関係各調査機関に持ち込まれたすべてに立ち合い、人界に持ち込まれたと思しき種類(…)は楽々コンプリート。
 満干全席を期待しつつ、率先して周囲の面子に料理する事を勧め、慣れてくると調理用具や箸に涎掛け等まで自分で用意してさえいた。
 ああ、この彼女の行動により、救い上げられた者と奈落へ叩き落された者がいったい何人居ただろう…。


 …そしてその時は。
 最後には姉たちへの土産話もたくさん出来、みあお嬢は人参果料理にそれなりに満足も出来た。
 ただ。
 そんな彼女にもちょっぴり不満はあった。
 何故ならやっぱりこれに尽きる。


 ………………満干全席、食べてないっ。


 それは仕方無かったのかもしれない。
 人界に持ち込まれた材料の人参果もどき、その絶対数が少ない。
 何故か関係各所に料理は得意な人が多かったのでそれなりの御馳走にはありつけたが、折角中華なのに〜、と心密かに思っていてもおかしくは無い。
 それでも、それ程しつこくは駄々を捏ねないのは…みあお嬢が良い子である所以である。


 が。
 機会があるなら――機会が出来たなら何処にでも飛び出すのがこの鳥娘。
 …まぁ、そんな流れで今回の出来事が起こりました。
 とは言え。
 何故『この場』に海原みあお嬢が居るのかとか、何処からどうやって来たのかとか、出て来るあの双子の料理人は何者だとか、そもそも洞とか霊木とかダイレクトに言っているが『この場』はいったい何処なのかとか――そう言った細かい事はなるべく気にしないでやって頂きたい。
 …と言うか、気にされると多分関係者各位が困ります。
 なので、どうぞ気にしないでやって下さい。お願いします。


 ではでは。
 みあお嬢が夢見た人参果(…)の満干全席、開幕です。


■■■


「うーむ…」
 大きな銀瞳をきらきらと輝かせて自分を見上げる少女を前にして。
 悩んでいたのは道服を着た、何処かうらぶれた印象のおっさんひとり。
「つまりこいつらを食いたいと、そう言う訳だな?」
「うん☆」
 少女――海原みあおは思いっきり頷く。
 おっさん――左慈がこいつら、と言いつつ指し示していたのはそろそろ幹も大きくなり根も確り張っただろう怪しい霊木一本。そこには多種多様な実がたわわに成っている…と言うか多種多様な赤ん坊(?)が成っていた。
 人参樹である。
 否、人参樹から挿し木と言う無茶で殖やした別の木である。
 とにかく、そこに付く実は赤ん坊では無く果物である事だけは確か。
 周囲では左慈の弟子らしい複数の童子がわたわたとその実を摘んでいる。
 …この木、何やら物凄いスピードで実が付いたかと思うと見る見る内に熟している様子。
 何はさておき、変な事は確かだ。
「…こっちとしちゃあ、一通りまるごと試食してくれるっつぅんなら願ったりだが…嬢ちゃん、本気か?」
「大丈夫! 絶対満干全席食べるって決めたんだもんっ!!!」
 満面の笑みで元気に訴えるみあお嬢。


 そこに。


「満干全席と言うからには中華料理にしなきゃならないね?」
「…と、なれば私たちの出番になりますか」
 唐突に現れたのは白いコック帽にコック服姿の同じ顔した二人組。
 まだ年若そう――とは言えぱっと見みあお嬢よりは上のようだが、まだぎりぎり小学生で通りそうなくらいの見た目の二人である。
 ちなみに彼らは目の色だけが違い、初めに口を開いた片方は淡い紫で、それに続けた片方は琥珀のように透けている。同じ顔ではあるが、ぱっと見の印象は紫の方と琥珀の方で随分違っていた。前者は明るく元気で、後者は物静かで礼儀正しそうである。
 …なお、何故中華料理と言いつつ彼らは西洋風のコック姿なのかは取り敢えず突っ込まないで頂きたい。


 みあお嬢はそこまで気にしない。と言うかむしろ格好なんぞどうでもいい♪
 そう、美味しいお料理を作ってさえ――満干全席を設けてさえくれるのなら。
 唐突に現れた二人の姿――と言うより科白を聞き、みあお嬢はわーいっ、と喜んだ。


 …そして暫く後の事。
 広々とした洞内に、大きな円卓が幾つか用意されていた。…何だか良くわからんが俺のとこでやるんかいとぼやきつつ場所と厨房を提供した(させられた)のは中心たる食材の供給元、霊木の主である左慈。こんな見た目でこんな口調だが実はこの左慈、それなりに中堅クラスな名の知れた仙人だったりする。即ち、本拠地とする洞も、滅多に人様の目には触れさせないとは言え、それなりの広さや快適な居住性を持っている訳で…。
 そんな都合の良い事実に、提供された食材(人参果もどき)とそれを料理する場所、その利便性等々を考え、いつの間にやらなしくずしで決定。
 みあお嬢と謎の料理人ズの押しに負けたと言う話もある。
 で。
 早々にちょこんと卓に着き、既に涎掛け(持参)までちゃっかり装備している主賓ことみあお嬢は、まだかなまだかなーと、満干全席の料理を、今や遅しと待っていた。


 耳を済ませばとんとんとんとん、とリズム良く何かを刻む音がする。
 じゃっ、と強い火力で中華鍋の中を躍らせている音が聞こえる。
 そして仄かに漂ってくる食欲をそそる匂い。


 ………………うう、待ち遠しい。
 みあお嬢はわくわくと待っている。


 やがて。
 音のしていた方面こと厨房から、ぞろぞろぞろと童子たちが湯気の立っている皿や器を持って出て来た。
 それぞれ、取って付けたような料理名を言いつつ、丁寧に円卓に並べて行く。
 その数は限りない。
 前菜にしろメインにしろ、見た目にもあやな品々がずらりと揃えられている。元々の食材が食材なのでか、あまり元の形を思わせないようになっている料理が多い。…が、離れた卓に堂々と姿焼きのようなものがあったりと、その辺に気を遣っているのかどうかはやっぱりわからない。また、大雑把に分ければ良く見かけるような料理なのだろうものも、特に見た目や色使いにまで気を遣った豪勢な造りになっている。
 みあお嬢、ずらりと卓上に並べられた御馳走の数々に、御満悦。
 やっと、満干全席♪


 そして。
 ぱむ、と両手を合わせて。
「いっただっきまーす☆」
 元気に挨拶するなり、待ってましたとばかりにみあお嬢はちゃきりと箸を装備した。


 …そして。
 暫し――どころでなくかなり経った後。
 みあお嬢は宣言通り満干全席を猛烈な勢いで食べている――が、気のせいか、そろそろペースが落ち始めている模様。
 そうなると、みあお嬢は自覚もあるのか、少し途惑ってから…また再びギアを上げ直してスープを啜り始めたりしている。…どうやらお腹一杯――と言うよりも眠くなってきたらしい。確かに、時間を考えると幼い少女では眠くなるかもしれない時間帯にまでなって来ている。
 そこを見兼ねたか、琥珀の瞳の料理人がふと声を掛けた。
「…残して下さっても構いませんが」
 改めて見渡せば、みあお嬢が初めに着いていた卓上にあった料理は、既に八割近くみあお嬢のお腹の中に消えている。
「こう言った場合、食べ切れないくらいたくさん出すのがおもてなしの意味でもあるので…全部食べ切られてしまうと逆に『足りない』のかとも思えてきますし」
「残すの勿体無いもんっ。それに別に食べられない訳じゃないし…」
 そう言いつつも何処かうつらうつらしている。手が止まった。
 …さすがに眠気には勝てないと言う事か。
「そうですか。でも冷めてしまいますよ?」
「う…。じゃ、あったかい物先に回して頑張るっ」
 ぐっ、と握り拳を作り決意すると、再びみあお嬢は次の器に手を伸ばす。
「…温かいものを先に回すと言っても、冷たいものの方が少ないですよ? …そうですね、冷めてしまったら作り直しますから、ひとまず御休みになって、起きてから明日また続きを、と言うのは」
「いいの!?」
「構いませんよ」
 静かに微笑む琥珀の瞳の料理人を、みあお嬢はきらきらきらと目を輝かせて見上げている。


 で、二日目。
 昨日の残りと次の卓に挑戦!
 が、三つ目の卓に入ったところで再び眠気に負け、次の日に持ち越し。


 三日目。
 三つ目の卓終了!
 …四つ目の卓、やはり途中で…。


 四日目…。
 みあお嬢の食欲は衰える気配を知らず。
 それどころか日を追う毎に少ーしずつではあるがペースが上がって来ている模様。


 そんな調子で五日目、六日目。
 そろそろ日付を数えるのが面倒臭い。
 ………………と、言うか、どーもキリが無くなって来た気がするんですが。


 と、思い始めた頃。
「…そろそろ終わるな。…本当に大丈夫か?」
「うんっ」
 みあお嬢の食べっぷりを見、感心通り越して呆れたような左慈の声に元気一杯頷くみあお嬢。
 後、残りは皿、三枚。
 頷いた通り程無くそれらを平らげ、みあお嬢は、ごちそうさまでしたっ! と、元気に挨拶。
 漸く、完食。


 だが。


 …実は左慈の人参樹の方には未だに、凄まじい勢いで実が成り続けていたりする。
 ふと気付けば、洞の外から、あああまた違うのが成ってますううう、と嘆く童子たちの声がする。


 で。


「………………まだ、続けます?」
 これ幸いとばかりに中華包丁を持った状態でひょこりと主賓の前に双子の料理人が顔を出す。
 主賓――みあお嬢は目を瞬かせる。目の前の皿は数日掛けてすべて空になった。が、作る気ならばもう一席くらい行けそうなだけ食材はある様子。
 無尽蔵とも言える程。
 料理人の冷静極まりない申し出に、みあお嬢は暫し考えた後――嬉しそうにこくんと頷いた。
 左慈は複雑そうな顔で溜息を吐いている。


 ………………………………みあお嬢、本気ですか。


【了】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■1415/海原・みあお
 女/13歳/小学生

■NPC
 ■二人の料理人/鬼・丁香紫(紫)&牙黄(琥珀)
 ■左慈/人参樹を挿し木で殖やした(…)謎な霊木の持ち主らしい仙人

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          ライター通信
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 いつも御世話になっております深海です。
 このたびはこんな実験的な代物にお付き合い下さり有難う御座いました。
 目一杯上乗せした期間まで使っての(汗)漸くのお届けで御座います。
 長らくお待たせ致しました。

 まずは人参果、ここまで引き摺って頂けるとは…!
 満干全席にそこまで拘られますか(笑)
 それを踏まえた上で、メイン食材が際限無くありそうな場所となると左慈を出すこのパターンしか思い付きませんでした。また、料理人に関しては…謎の人と言う事で通してやって下さい。それ以上の注意は前半部分の本文中にと言う事で(笑)

 如何だったでしょうか?
 結果はこんな風になりましたが、少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いで御座います。
 では、また機会がありましたらその時は…。

 ※この「Extra Track」内での人間関係や設定、出来事の類は、当方の他依頼系では引き摺らないでやって下さい。どうぞ宜しくお願いします。
 それと、タイトル内にある数字は、こちらで「Extra Track」に発注頂いた順番で振っているだけの通し番号のようなものですので特にお気になさらず。03とあるからと言って続きものではありません。それぞれ単品は単品です。

 深海残月 拝