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<東京怪談・PCゲームノベル>


Track 07 featuring シュライン・エマ


 妙に目に付く――突っ掛かって来る相手が居て。
 少し意地になってしまったようなところもあるかもしれない。
 実際、走る気で来ていて――場所が少し郊外、車の数もある程度少ない場所だったのも理由のひとつになるだろうか。他に、ツーリングに来ている奴も少なからず居るかもしれない環境が、今居るこの道。


 …シュラインはあまり人前ではバイクに乗らない。
 別に隠している訳でも無いがあんまり乗らない。
 大型自動二輪の免許を持っている事もあまり知られていないと思う。
 が。
 時々は思いっきり走ってみたい時もある訳で。
 時々走りに来る事がある。
 そんな時だったから。
 誘って来た相手に答えるように速度を上げる。相手も即座に呼応した。排気量はほぼ互角のよう。相乗効果で両方のスピードが上がって行く。コーナーカーブ。確りと当てて再び道なりに。
 どちらも劣らず、抜きつ抜かれつでお互い付いて行く。
 誘いを掛けて来たライダーはGパンに革ジャンを身に纏っている。この大きさの単車を転がすには少し小柄かもと思える人物だが、自分から誘うだけあってそれなりではあるよう。


 ………………さて、どうしようかしら?


■■■


 暫し後。
 少し広めな道の脇。引き込み線の中。
 引き離して先に来ていたシュラインは停車する。ヘルメットを脱ぐと、ぶん、と一度頭を振り髪を靡かせた。
 程無く、先程のバイクも到着する。
「…ここまで綺麗なおねえさんだとァ思わなかったな」
 開口一番そんな調子。勝負を吹っ掛けて来たそのバイク。そこに跨っていた人物はヘルメットを脱ぐ。
 ヘルメットの下のその顔を見てシュラインは驚いた。
「み、三下くん!? …の訳無いわよね」
 三下くん。
 つまり三下忠雄。
 あの顔がヘルメットの下にあった。
 が、即座に思い至る。
 …あの三下忠雄がこんな事をこんな場所でしている訳が無い。
 と言うかそもそも、三下忠雄であるなら大型自動二輪どころか原付の免許すら持っているかどうか、いやその前提とも言える自転車にさえまともに乗れるかどうか怪しい気がする。
 ついでに言えば何やら雰囲気もかなり違う。
 分厚い眼鏡も掛けてない。
 よって、すぐに別人だと言う答えには至った。
「…御明察。三下忠雄とは別人ですよ。ってあんた三下の知り合いか。…あの野郎、余程有名人と見える」
「でも本当にそっくり…って三下くん知ってる人にそう言っちゃ失礼か…」
 ふとごちるシュラインに、彼――三下忠雄のそっくりさんの方は軽く噴き出した。
 見れば、我慢出来ないとでも言いたげに声を殺して笑っている。
 …三下当人を知っている人に対して、似ていると言う事自体が失礼、と言う発言がぽろりと出て来るとは…。
「ま、俺があの野郎と似てるってのァ事実ですからねえ」
 あっさり返しつつ、その三下忠雄のそっくりさんは、にや、と唇を歪める。
「それよりおねえさんなかなかやりますね?」
「そっちこそ。ちょっと本気になっちゃったわよ」
「最近乗ってくれるような奴が居なくてねぇ。久々に楽しかったっすよ」
「私も久々に飛ばした気がするわ。何かすっきりしちゃった」
「そりゃ上々でした。誘った甲斐があるってもんです」
 言いながら三下忠雄のそっくりさんは再びフルフェイスのヘルメットを被る。
 そしてあっさり。
「んじゃ、御縁があればまた?」
 …次は勝たせてもらいますからね?
 と、悪戯っぽく一声掛けて、それだけで地を蹴りエンジンを吹かして行く。


 シュラインはその後ろ姿を暫く見送り。
 その後になって気付いた。
 …そう言えば今の人、三下くんのそっくりさんってだけで、相手の名前も聞いてない。
「ま、いっか」
 ぽつりと呟きながらシュラインは自分のヘルメットを手の上でくるりと回す。
 結局、あまり深く考えずシュラインは興信所に「帰る」事にした。
 そろそろお昼ご飯の時間である。


■■■


 今日のお昼は何にしようか。自炊した方が経済的だし健康にも良い物が作れるし。外食はあまり考えない。
 興信所に辿り付いてからシュラインは零と相談を始めた。いつもの事。何を作ろうか。零と共に冷蔵庫の中身や台所に置いてある食材で考える。
 少し多めに作っても良い。
 何故なら昼時になるとたかりに…もとい、食べに来る『所長と同じ病』――つまり金欠――の人も居たりするので。
 まぁ元々、使う食材の方も買い出しのみでは無く、人様からの頂き物もそれなりに多かったりするので…ある程度までは――あくまである程度までは――構わない事なのだが。
「…今日のお昼は頂き物のお蕎麦茹でよっか」
「そうですね、悪くならない内に。いい薬味もありますし」
 お互いそう同意すると、シュラインと零はそれぞれ分担して動き出す。お湯を沸かしたり葱や紫蘇を刻んだりとさすがに手際良い。
 が。
 そこで。
 薬味を刻んでいたシュラインの視界の隅を、『台所の敵』――『黒い流星』が横切った。
 シュライン、一時停止。
 …再生不能。
 包丁を持ったままぴたりと凍っている。
 零は程無くシュラインが固まっている事に気が付いた。
「シュラインさん?」
「――」
「どうしました?」
 きょとんとした顔で零はシュラインの顔を見返す。
「あのー、シュラインさーん??」
 暫くぶんぶんとシュラインの目前で手を振り、声を掛けてみるが動かない。
 そんな零の声に気付き、何事かと所長の武彦も台所にひょっこり顔を出す。
「…零?」
「兄さん、シュラインさんが突然動かなくなっちゃいました」
「…?」
「………………今――『アレ』、が」
 零と武彦の両方に無言で促され、シュラインはやっとの思いで口を開く。
 が。
 零のその科白への反応は。
「ああ、よく台所で見かけるあの『黒い虫』が居たんですね」
 漸く合点が行ったように零は、ぱむ、と両手を合わせる。そして固まっているシュラインの横できょろきょろと台所内を見渡した。さりげない動きであるが他ならぬ零の目である。すぐにシュラインを脅かしただろう『標的』は見付かる。見付けるなり零は素早い動きで平然と『黒い虫』を確保。殆ど手間も掛けず退治し、蘇生不能な状態にしてあっさりと生ゴミ用ゴミ箱に封印している。
 …その間、十秒も経っていない。
 気が付けば零は『奴』が歩き回っていたと思しきところを消毒までし、更には自分の手ものほほんと洗っている。
「…大丈夫ですか、シュラインさん?」
「…あ、ありがと」


 …忘れていた。
 この零ちゃんが、大日本帝国最終兵器である霊鬼兵であった事をこんな場所で思い知らされてしまうなんて!


「………………シュライン」
「…な、なに?」
「…良かったな、零が居て」
「…」
 一連の状況を見、しみじみと言う武彦の言葉にシュラインは何も返せない。


 ………………これが先程、三下忠雄のそっくりさんな何処ぞの馬の骨に二輪の勝負を挑まれ、良い勝負をしつつ最後には勝ったらしい者と同一人物だったりする。
 えー、人には強いところと弱いところがある、と言う事で。


【了】


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

■PC
 ■0086/シュライン・エマ
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

■NPC
 ■千明・貴宣/二輪で突っ掛かって来た相手
 □草間・零/探偵助手で妹
 □草間・武彦/探偵

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          ライター通信
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 いつも御世話になっております深海です。
 このたびはこんな実験的な代物にお付き合い下さり有難う御座いました。
 目一杯上乗せした期間まで使っての(汗)漸くのお届けで御座います。
 長らくお待たせ致しました。

 ちなみに、思いっきり後出しですが(笑)、自分、バイクに関してはド素人である事を告白しておきます。
 よって、前半部分は本職(?)のバイク野郎な皆さんからはお叱りを受けそうな書き方をしているかもしれません(汗)。どうぞ御容赦下さい(ってだったら何故書こうとするのか自分…)
 後半は…シュライン様と零ちゃんのふたりではこの突発的事態への対処が絶対に逆だ、と、ぱっと思いつきまして(笑)
 両方揃えてあんな感じになってます。
 料理の件は…含まれたのか含まれてないのか微妙なところですが(汗)

 如何だったでしょうか?
 結果はこんな風になりましたが、少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いで御座います。
 では、また機会がありましたらその時は…。
 …件の野望の方も、このシナリオの窓が開いてましたら是非どうぞ。

 ※この「Extra Track」内での人間関係や設定、出来事の類は、当方の他依頼系では引き摺らないでやって下さい。どうぞ宜しくお願いします。
 それと、タイトル内にある数字は、こちらで「Extra Track」に発注頂いた順番で振っているだけの通し番号のようなものですので特にお気になさらず。07とあるからと言って続きものではありません。それぞれ単品は単品です。

 深海残月 拝